【S4】不遇の勇者の誕生祭④
「……それで、私に何の用があったんですか?」
時たま、ちらちらと後ろを盗み見ながら歩いていると、ユキミヤさんが切り出してきた。
ちなみに僕は、こんな姿の彼女を行き交う人々に見せるわけにも行かないので。
防具屋で買った大きめのマントで、彼女を庇うようにしながら歩いていた。
「ああ、あれ? あれはねえ……ごめん。その場しのぎの嘘なんだ」
「へえ、そうだったんですか」
「でも、君の学校の中に、用があって探している人がいるのは本当なんだ」
「なんて名前の人ですか?」
「名前? 名前……あ……」
――なんて事だ、人を探すのに名前を聴くのを忘れるなんて。
バカか僕は、いやバカだ僕は。
ついでに、お爺さんもバカだ。地図だけ渡してどうすんねんアホ。
「……分かんない」
「……あなた、さっきといい、意外と抜けてるんですね」
反論の仕様もございません(泣)。でも、抜けてる部分で言ったなら。
「あのお爺さんも大概だと思うんだけどなあ……」
恨めしげに呟くと、なぜかユキミヤさんの耳がピクリと反応した。
「もしかしてそのお爺さんって、顎が長くて白い髭が特徴的でやけに世話焼きだったりします?」
「そうそう、それでいて人探しさせるのに名前を教えないおっちょこちょい……って、え?」
何で知ってるのと問いただす前に、ユキミヤさんは深いため息をついた。
「ならその探し人は、きっと私ですね。伯父が、迷惑をおかけいたしました」
……君かあ。
◇
「おお愛しの孫よ! よくぞ帰った!」
しかもこのお爺さん、随分と孫を溺愛しているようである。
僕一人の時とテンションがえらい違いだ。
「ただいま」
「どっ、どうしたんじゃその服装は! 男の目の前ではしたない!」
「……自分から濡れに行ったんじゃないもん」
そこで僕は、僕が見た限りの一部始終を、お爺さんに話した。
語り終えると、僕は日本でもされたことがないほど、頭を下げて感謝された。
「あ、頭を上げてくださいお爺さん。僕だって拾ってくれた恩義があるんですから」
「それとは関係なく、本当に感謝しているんじゃ。孫を庇ってくれて、ありがとう」
感謝されて嫌になる人間はいない。
素直に嬉しかった僕は、少しだけ不用心になっていたのかもしれない。
「……どうしてユキミヤさんは、そんな仕打ちを?」
人の核心に踏み込むのは得意じゃないが、気にならなわけがない。
ユキミヤさんはクライスくんから『術士としては低級』と言われていた。
それは果たして成績的な問題なのか、或るいは……。
あと、彼女の名前。
ユキミヤ――雪宮は、日本人の名前だ。
「――あなたみたいな人に助けられたのは、これで二度目……」
わずかな沈黙の後、彼女はそれに答えてくれた。
「……かもしれない」
……なぜ自分で言いかけて不完全なんだ。
「記憶が曖昧なの。私には、四歳から下の記憶がない」
そう言って、彼女は髪をかき分けた。
そこには菊一文字に刻まれた、紫色の傷の痕が。
「儂は純血のエルフだが、この子は違う。
ハーフエルフじゃ。エルフは本来、高い知識と魔術回廊を身に着けている。
ユキミヤ程の歳の妖精種にとって、幼少の記憶はまだ目に新しいと言える」
「でも幼少の頃の私は、とある事故にあった……らしいの。そこで記憶が飛んでしまった」
ユキミヤさんはそっと目を伏せて、小さく呟いた。
「……変な名前をした、貴族の男性」
その続きを、お爺さんが引き継ぐ。
「ユキミヤ・リョウヘイ――事故から孫を守り、
一度名を失った孫の名付け親、その男の名じゃ」
男の子を語り部にすると理屈っぽくなるから苦手です……(^_^;)
総合PVが1000を超えました。ありがとうございますm(_ _)m




