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【S3】不遇の勇者の誕生祭③

※あやまり

『不遇の勇者の誕生祭』ですが、㊤㊥㊦では収まりきらなかったため、

①〜という形に編集させてもらいました。


――転生した直後から分かっていた。


僕に転生者用のチートスキルなんか……ユニークスキルなんか無いという事を。


生まれも何もかも平凡な僕が、異世界に来たところで、人間の根本的な能力は変化しない。


言い換えるなら、『変化するほどの振り幅もない』、という事だ。


何の魅力も個性も持たない人間に、一体どんな特殊能力が身につくだろう?

身についたところで、ストーリー性がなければ意味がないのだ。

だから僕には、きっと何の能力も、力も覚醒していない。

例えるなら、転生の神に見放された不遇の勇者だ。


「――止めてあげなよ、怖がってるじゃないか」


だから、きっと僕には何もできないなんて……。

そんな自己満足で目の前の少女を見殺しにできるほど、落ちぶれちゃいないさ!





勇気を出した僕に、男子生徒はこれ以上ない怪訝な表情を向ける。


「……あんた、教員じゃないな。誰だよ」


睨まれちゃった。わあ、最近の子って怖い……。


「えっと、ただの通りすがりの人です」

「不法侵入で通報しますよ」

「ええ!? うーん、それは困るなあ……ええと、そう! そこの人に用があるんです!」

「ユキミヤに?」


どうやら水をかけられた女子生徒の名前は、ユキミヤと言うらしい。


人形みたいに華奢な肩に、白銀色の髪が水に濡れて制服にペタリとくっついている。

驚くほどまぶしい脚の白い素肌が、透明の雫を浴びてあられもなく光っていた。



うわあ……。見ちゃいけないのは分かってるけど、どうしても視線が泳いでしまう。



「で、ユキミヤに何の用が? そいつ、俺の女なんで」


確定事項のように言い切る男子生徒に、僕は「それは違うんじゃないの」と切り出した。


「さっき、君が彼女に水を浴びせかけて関係を迫ろうと脅迫しているのを見た。もちろん、人を好きになるのは個人の勝手だ。でも、払うべき代価を――ちゃんとした告白をせずに、所有欲を丸出しにするのは、餌を目前に興奮しているだけの家畜と同じだよ」


そこは大人として、ガツンと言ってやらねばいけない所だ。

人間には払わなくてはいけない、『責任』という代価があるということを。


しかし、男子生徒は理路整然と正論を口にする。


「それを言うなら貴方もでしょう? 不法侵入者さん。正規の手続きを取ってから学校を出入りしてもらわないと、生徒会としても、色々と困るんだよ。それとも何か? 招かれざる客の言葉を真に受けなくてはならないほど、俺の言っていることは間違っているか?」


「ぐっ……!」


負の肩書を強調して反論されては、たしかに不法侵入をしている僕には立つ背がない。

社会人としての不得もいいところである。


「……ですから、そこを退いてください。俺は今、ユキミヤと話をしているんです」


自分の勝利を確信すると、男子生徒は急に熱が冷めたように冷静になった。


「……わかった」

「へっ!? ちょ、助けてくれないの!?」


あっさりと引いた僕に一番驚いたのは、男子生徒でなく、ユキミヤさんの方だった。

確かに今の状況なら、さっそうと現れた謎の男性に助けられるシュチュエーションだろう。


でも、僕はそんなイケメンな行動はしない。


なぜなら僕は、この世界の主人公なんかじゃないから。


モブキャラはモブキャラなりに、できることをするまでだ。





「――さて、邪魔者は消えたな」


クライスはさっきの男の人が消えたことを確認すると、私に振り返った。


「もう一度言うぞ、ユキミヤ。俺の女になれ」

「……嫌よ。あなたみたいに乱暴で、成績だけが全部だと思ってるような奴なんて」


言いたいことはたくさんあったけど、一呼吸置いて、これだけハッキリと言ってやった。


「大っ嫌い」


私がそのままうつむいて、反論の意を唱えていると。


「――人と話をする時は目を見て受け答えをしろ。それさえ分からないのか、お前は」


強引にあごを引かれ、視線を強制的に合わせられた。

クライスの目は、本気だった。本気で――怒っている目だった。


恐怖を感じた。

男の人から迫られたり、例え指導でも怒鳴られたりすると、とても怖くて身が竦む。

その恐怖の権化が、今、目の前で私への怒りを燻らせながら睨みを利かせている。

それだけで足がガタガタと震えて、忘れていた寒さが急速に体を冷やしていく。


今首筋を伝っているのが、かけられた水か、自らが分泌する冷や汗なのかも分からない。

とにかく、ただ寒くて、怖かった。


このまま乱暴に迫られて、接吻の一つや二つでも強制されるんじゃないか。


想像しただけで怖気が走って、逃げる気力さえも寒さが奪っていく。

それだけに留まればいいが、もしも、もしもクライスに犯されでもしたら……。



「――助けて……誰かっ……!」



すると、その叫が届いたのか。



「――乱暴で気性が荒いやつは、どうしても手元に自分の本性が出てしまう、かあ………。やれやれ……。お爺さんが言ったことは、本当だったんだなあ」


涙目で後ろに振り向く。

そこにはさっきの男の人が、魔術講師を数人後ろに携えて立っていた。


「強引に視線を合わせようとするなんて、随分乱暴なことするね。クライシスくん」


「……クライスだ、この卑怯者……ッ!」


『うるせえ、卑怯もクソもあったもんかよ』


男の人は圧倒的戦力(講師陣)を後ろに構え、舌を出して不敵に微笑んだ。





その後、クライスは無事教師たちに連行され、一週間の停学処分になったそうだ。

ざまあ(大人気なし)。

聞けば彼は生徒会に所属していて、成績も学年でダントツ。

その他にも様々な実績を立てていて、これくらいの処分で収まったそうだ。


彼みたいな人が世に憚るのは、日本も異世界も変わらないんだなあ。


「……ありがとう、ございました」


感慨にひたっていると、横から声がかかった。

ユキミヤさんだ。


「うん? ああ、大丈夫だよ。気にしないで。それより君、その……」

「???」

「早く、着替えたら……?」


場が弛緩すると、どうしても彼女の服装の色気に目を奪われてしまう。

濡れた制服はぴったりと肌に吸いつき、心なしか石鹸の匂いが香ってくる。


「へくちっ」


「ほら、くしゃみまでしてるじゃん。だから、ねっ?」


早く着替えてくれよじゃないと僕の第二人格が目覚めちゃいそうだから!


「でも、着替えは家にしかないし……」

「じゃあ家まで送るから。風邪をこじらせる前に、早く行こう」


第二人格リトルが目覚める、その前に――。


※補足

前話で名前だけ登場した如月という人物は、穂刈の彼女です。

(昨日の文章では伝わらなかったかなあ……と思いまして)

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