【02】カチコミじゃ
目覚めたらゴブリンでした。
えっ、ちょ……本気で言ってる?
本気で、私に第二の人生をゴブリンとして全うしろと?
冗談じゃねえ!
「お……落ち着こう。とりあえず落ち着くんだ私……!」
ひとまず自分が置かれた状況……というか、自分の全体像を把握することから始めよう。
持ち物はこん棒。よくよく見たら手元に落ちてた。
容姿はぶくぶく太り、不健康な緑黄色をしたザラザラの肌。
それに藁で作られた雑な腰巻きが巻かれているだけだ。
ものすごい猫背で大きな顔が正面に突き出され、頭に至っては禿げている。
さらしを巻いていないことから、胸もない。……まあ、それはもともとなかったけど。
それにしても、酷い。
私の死んだ魚のような目が、寂しげに水面を見つめていた。
――嫌だ! こんな姿で転生なんて、死んでも嫌だ!
絶望に沈みそうになっている時、そこに二人組の冒険者が通りかかった。
「なあ、ゴブリンロードって知ってるか?」
「知ってるよ、あそこのゴブリンが住んでる城塞の主だろ。超弩級モンスターの」
さっき見えた禍々しい塔を眺めて、冒険者がそう返す。
「噂によるとゴブリンロードは人間になれる秘薬を持っていて、時たま人間界に降りては悪逆の限りを尽くしているんだと」
「へえ、そりゃ怖いな。俺らみたいな駆け出しの冒険者には、関係ないだろうけど」
――今の私には、少なくとも無関係ではない会話だった。
「じゃあ、その人に薬を分けてもらえれば……」
私は人間に戻れる!?
思考がまとまってからの私の行動は早かった。
こうしちゃいられない! 早くあの塔を目指して出発……。
「あ、ゴブリンだ」
見つかっちまったze。
ゴブリンが雑魚モンスターであることは熟知している。
駆け出しの冒険者たちにとってもいい獲物だろう。
「おっ、ちょうどいいじゃん。あいつの首とってギルドに報告……って、うわ!」
冒険者の一人が私に剣を向けたと思うと、即座に青い顔をして飛び退いていった。
「おい、どうした」
「こいつのレベル見てみろよ! 尋常じゃねえぞ!?」
「はあ? そんなわけ……って、うわ! 99!?」
どうやら冒険者には、相手のレベルが分かる特殊スキルがあるらしい。
で、私のゴブリン(モンスター)としてのレベルは99だそうだ。
…………強いな!
え、なんで!?
「こいつ、ゴブリンロードよりも強いぞ!」
「化物だ、逃げろ! 俺らの敵う相手じゃねえ!」
スタコラサッサと逃げていく冒険者たちの背中を眺めて、私は「ニタァ」といかにもゴブリンっぽく笑った。
「ゴブリンロードよりも強い……ねえ」
いいこと聴いちゃった♡
◇
どうやら私は容姿がゴブリンな分、ステータスはめちゃくちゃ高いらしい。
あれだ、転生直後のチート補正ってやつだろう。
どんな魔窟に潜っても、その最下層にいるボスモンスターのレベルはせいぜい60がいいところだそうだ。
つまり、私の方が余裕で強い。
つーわけで。
「こんちゃっす」
ゴブリンロードがいる城にカチコミに行きました。
正面から友人の家にお邪魔するかのように堂々と入城する。
レベル高いオーラでも出ているのだろう、私を見ただけで門番の衛兵が逃げていくのなんのって。
きーもちい!
まあ、その門番とかも全員ゴブリンだったんだけどね。
主がゴブリンロード……ゴブリンの王様なら、それが当たり前か。
そして、特に攻撃されることもなく。
ゴブリンロードがいる塔の最上階まで上り詰めてしまった。
「よくぞ来た勇者よ!」
「いえ、ただのゴブリンですが」
なんかノリのいいゴブリンロードだった……。