【S1】不遇の勇者の誕生祭①
――なぜ僕は、こんな事をしているんだろう。
「三日三晩潜り続けて、結果がこれか……」
デスクトップの前では、暗がりの中で自分のアバターが戦果の確認をしている。
ボックスの中には、宝石がひぃーふぅーみぃー……え、これだけ?
魔石は? 黄金の剣は? 賢者の本とか薬草は?
レアドロップアイテム? 何それおいしいの?
……ってな感じである。
ゲーム内での労働基準法も設定すべきだ。
「有給を棒に振ってしまった感が半端ないな……」
僕の名前は穂刈誠太。二十三歳童貞ネトゲヲタ会社員である。
三日三晩に渡る大クエストを終えた僕は、まるで葬儀を終えたような気分だった。
最初はクエスト限定のレアアイテムを是が非でも手に入れるために取った有給だったのに、結果は惨敗。
収穫はほぼないも同じだ。普段のクエストだって、頑張れば仕入れられるくらいのドロップアイテムして出なかった。
物欲センサーさんだってもう少し手加減してくれると思うんだけどなあ……。
運営に文句の一つでも言ってやりたい。
そうなると、もう時間を無駄にした感が半端ないのだ。
「はあ……izumiさんはいいなあ……。お宝ザックザクじゃないか」
やっぱり、24時間潜ってるようなガチ勢は違うなあ。
失礼だけど、多分この人引きこもりだと思う。
izumiさんのアバターは魔道士クラス。ゲーム内ではかなりの上級職だ。
それに比べて、僕の役職はソードマン……パーティに一人は居る、ただの剣士。
何事に対しても、これといった魅力がない。
ガチ勢になりきれない弱さに甘えたオタク、半端な人間……それが僕なのだ。
親の七光りがあるわけじゃない、自分にこれといった才能があるわけでもない。
だから人並みに努力して、中堅の会社に入社して、なんやかんやで一年が経った。
基本的に、コミュ障……ってわけでもないけれど。
飲み会とか行って、幹事とか任せられるとものすごい重圧に耐えきれなくなるし。
友達の開く合コンとか、緊張して真正面に座った女子と視線を合わせることもできない。
高校の時は、彼女も一応いるにはいたんだが、卒業を機に遠距離恋愛になることが決まって致し方なく別れてから、これといって音沙汰もなく……。
今の僕が縋れるのは、目の前に広がるゲームの世界だけだった。
「……そもそも」
何で僕、ネトゲヲタなんかになり始めたんだっけ。
自分で言うのもなんだが、僕は時間に寛容な奴じゃない。
スキマ時間があれば、それを積極的に有効活用することができる人間だ。
通勤(昔は通学)のバスの中、風呂の中、植物に水をやる最中。スキマ時間は日常の至るところに潜んでいる。
この就職氷河期に、このスキルを持ってたから乗り越えられた節もある。
そんな僕が、何で無駄やムラの多いネトゲなんかに嵌ったんだっけ……。
「……まあいいか。寝よ」
ベッドに潜ると、数秒と待たず意識は深い眠りに吸い込まれた。
◇
……なんだかやけに寝心地が悪い。
いつものぐちゃぐちゃの毛布と布団が絡み合ったベッドとは違う。
しっかりとシーツが敷かれ、寝返りを打つたびに平静なものを崩していく不快感が襲う。
枕も特注ビーズではなく、そばがらのような肌心地だ。修学旅行の時の旅館の枕みたい。
それになんだか夢見も悪い。耐えられず瞼を開けると、
「おっ。目が覚めたか」
知らないお爺さんが、僕の目の前でりんごを剃っていた。
「あんた、そこの牧場で倒れてたんだよ。あと少しで家畜の餌になるところだったな」
牧場? 家畜?
何を言っているんだ、ここは知性と発展の都市たる東京都心だぞ。
そんなのいるわけがない。飛び起きて、備え付けの窓に顔をよせてみる。
ほど近い柵の中に、牛がいる、豚がいる、ニワトリがいる。
なんか見たことのない生き物もたくさんいる。
……少なくとも、日本でないことは理解した。
「おいおい、急に立ち上がって大丈夫なのか?」
心配そうにかけより肩を持ってくれるお爺さん。
ノームのように長い顎に立派な白ひげを付けた彼に、僕はたまらず問いかけた。
「ここは、どこですか」
「ケイト市場街。王都に向かう商業人が行き交う街、その片隅にある一軒家さ」
お爺さんが話すその世界観は、まるで。
「僕、ひょっとして……」
転生したのかもしれない。
そう、思わずにはいられなかった。
一応、登場人物それぞれの名前には意味を持たせているつもりです。
この『穂刈』という名字も、また然りです。




