【13】私のしたいこと
「――貴様ら!」
イルガスが抜剣して、衛兵と共に村人たちと相対する。
「かの者は魔王軍が一角、ゴブリンロード・イズミ様だと知っての狼藉か!」
「見ろ、やっぱり魔王軍の一派だ!」
「私たちを皆殺しにして、村をさら地にするつもりなのね!」
「ちくしょう、ここに盗るモンなんか何も残ってねえのによ!」
「――双方落ち着け、武具を降ろせ!」
一触即発な空気が漂い、対立が深まるゴブリンと村人の溝に。
割って入ったのはブラッドフォードだった。
「ブラッドフォード、貴様! 我らの同士となると志願した上で、その者たちの肩を持つのか!?」
「アンタ、ここに住んでた奴だな! 何で魔物たちの味方をしている、そこをどけ! でないと、アンタもそこの仮面の女みたいに撃ち殺すぞ!」
「落ち着けと言っている! それに、彼女は無事だ。――だろう、イズミ殿」
「うん。何とか……」
私が起き上がると、全員の視線がこっちに向いた。
ゴブリンたちは安堵と敬意、村人たちは畏怖と焦燥を孕んでいる視線だ。
――よく考えれば、私のレベルは上限の99までカンストしている。
せいぜいレベル20程度の射撃で、私が死ぬはずもなかった。
肩に刺さった矢を、ささくれを治すように引き抜く。そこに痛みは感じない。
射撃された時も、びっくりして転んだだけだ。何の問題もありゃせんわい!
「……悪魔!」
村人の子供が、私を見たとたん震え上がって親の影に隠れた。
……それにしても悪魔とはご挨拶だなぁ。
ああ、もしかしてこれかな?
顔が割れないために変な仮面を付けてるからかな?
……いんや、違うか。
今の私は、この村を蹂躙する的な意味での侵略者だと思われているからだ。
『……ごめんジヲォン。その男、絶対に表に出さないで。
ややこしくなるったらありゃしないから!』
だから先に、釘は打っておく。
私たちは無害だと言うことを証明するためにも、あのオヤジを家から出すわけにはいかない。
私が部下に指示を飛ばしている間にも、ブラッドフォードの村人への説得は続いていた。
「――だから、あの方たちはオレたちにとって決して被害を及ぼす脅威ではない! 村の資金も供給しない無能な王に代わって、この村を侵……統治してくださるお方だ!」
「統治だと!? 王も信じられない、法も信じられないとあらば、ついには魔物を頼るのか!? 俺たちはそこまで落ちぶれちゃいない! それに、最近の資源不足だって、そいつらが原因なんじゃねえのか!? 全部分かってんだぞ、生きるのに必死な俺たちはよぉ!」
懸命に説得するブラッドフォードを、村人たちは決して受け入れようとしなかった。
その拒絶するような姿勢はまるで。
自分たちの置かれている状況への苛立ちを、全て彼に八つ当たりしているように、
私には思えた。
――加えて。
「村に利益をもたらさない、飲んだくれの弟め……!」
「ッ……! ッ――――!」
ブラッドフォードは……ブラッドは。
奥歯を噛み締めて、胸の甲を服の上から握りしめ。
襲いかかる虚無感と必死に戦っていた。
それを眺めているだけだった私にも、痛感するものがあって驚いた。
村人が彼に放った心無い一言が、誰でもない。
自分に重く深く突き刺さった気がしたから。
――ブラッドは一体、今日までどれほど兄に苦しめられて来たのだろう。
常に自分は誇れる武芸を持っていても、どれだけ知性を兼ね備えていても。
社会に適さない兄がいるというだけで、どれほどの苦渋を飲まされて来たことだろう。
その存在が身内にいるだけで、たとえ自分に何の欠点がなくても、既に欠点を背負ってしまっているのだ。
そのせいで、こんな場面の時のしわ寄せが全て彼自身に降りかかる。
――そして私は、転生されるまでの期間、どれだけ親にそんな思いをさせて来たのだろう。
今みたいに、一家の恥。社会不適合者と罵られてもおかしくはないのに。
毎日学校にも行かず、電脳空間に引きこもってゲームしてばかりで。
家の事なんて――身内に寄せられる評価なんて、考えもしなかった。
お父さんやお母さんや弟は、こんな私を自由にさせてくれていた。
「……優しすぎるんだよなあ、田所家は」
自由……自由か。
言葉にしてみようとすると、それは曖昧で形がつかめない雲のような存在。
じゃあ私は、異世界に来て、何をしようと思ったんだっけ。
「責任」を取りたいと思った。
皆の王になってその「責任」を、今まで背負ってこなかった……いや、逃げていた重圧から、目を背けていた責任感から、今度こそ逃げずに立ち向かおうと思った。
多分、いや絶対私は、今まで多大な迷惑を身内たちにかけてきたから。
(教育面、生活面、食費、雑費、光熱費(多分これが一番被害が大きい)etc……)
だから今度は、その責任を取りたい。
私は、異世界で自分を変えたいんだ。
なら今、私が望んでいることはなんだ?
知りもしない人間との『共存』だとか。
口先だけの『依存』だとか。
そんな小難しい言葉で本心を取り繕って、独裁者気取りをしたかったのか?
――ちがう。
私は、皆の王になりたいんだ。
ヒ ロ イ ン 覚 醒 ∠(`・ω・´)




