【94】魔族の覇者ども
昨日のまえがきに書き忘れたのですが、
語り部は依然イルガスで通しています。
――それは、廃れた肌に褐色のマダラ模様を浮かべる、
おびただしい数の龍……いや、ドラゴンたちであった。
「ドラゴンゾンビ、ですね」
と、ショウコ殿は解析する。
「やつらも恐らく、『東の魔女』の術によって
使役された魔物たちです。すでに腐敗した肉を
蘇生し使役する――私が封印した術式をこうも
完璧な形で実現させるなんて――さすがは、
東の魔女と言ったところでしょうかね……」
苦い顔で語るショウコ殿の横顔は、
やるせない悔しさが滲んでいた。
――彼女は過去に、『蘇生』の禁忌を犯そうと
画策したゴーディを初めとする科学者や
権力者を糾弾し、それを永久に封印した。
きっと、こんな形で対面するとは思わなかったのだろう。
己が否定した技術に。
封印したはずの力に。
「ギィアァァァァァ」
ドラゴンゾンビたちは咆哮する。
大空を覆い尽くすほどの数が滑空し、
青かったはずの空を腐った色で覆い尽くす。
それは決して、われわれ魔族が見ても
気持ちのいい光景とは言えなかった。
「……ひっ」「くっ……」
恐怖し、身震いする後続の兵士たち。
とつぜん空中に放り込まれるように転移し、
さらに遭遇したのはおぞましい亡龍たちだ。
それも当然の反応と言えるだろう。
…………人間なら、な?
「殿下」
「……こぉれは、久しぶりのボスモンスターだね」
ぺろりと、舌なめずりする音が淫靡に響いた。
声はどこか恍惚としていて、亡龍との
遭遇に喜びすら感じているような声音。
見たか人間。これが、我らの女王だ。
その姿。
その姿勢。
よもや、彼女を人間と呼ぶものは誰もいない。
紛れもない、魔族の長たるに、相応しい器だ!
「こんな大きい魔物と戦うのなんて、キズル村以来かな」
「……あれと、戦ってくれるのですか? イズミさん」
少し驚いた、という表情でショウコ殿。
どうやら彼女は、まだ人間味というものを
完全に失ってはいなかったらしい。
その表情にわずかな恐怖が見える。
しかし。
「任せてよ、南の賢者。魔王の軍勢のちから、見せてあげる……!」
殿下のお体から、闘気がほとばしる。
それが仲間たちに伝播して、
何にも代えがたい『畏怖』
という力を我々に与える。
「――レイ。後続に伝えて。
ドラゴンゾンビは私たちが
倒す。ってね」
「御意に」
「イルガスはレイの護衛を」
「……仰せのままに」
本当は、あなたの隣で戦いたかった。
そう言ったら、困らせてしまうだろうか。
だから僕は、ひとりの臣下として彼女の
命令に従う。
――ただの、ただひとりの、家臣として。
「さあ、自分たちがすることは分かってるね?
ゲイブ。ブラッド。ジヲォン。はい、返事ッ」
「ったりめーだ」
「もちろんだ。イズミ殿」
「ふふっ。老骨になった事は否めませんが、
脳まで腐っているとは思っておりますまい」
殿下から伝播した熱意が、力が、闘気が。
家臣である僕たちに、彼らに、流れ込む。
「要するに、アレだろ?」
「我々だけの力で――」
「あの化け物どもを、屠ればよいのでしょう?」
――跳躍。
ここが空の上のような空間である事から、
それはさながら射出されたような速さだ。
いや、これは決して比喩ではない。
彼らの跳躍は、弾丸と同等の速さだった。
魔族最強の強者たちが、龍にその牙を突きつける。
「――見せつけてやりなさい、私の家臣たちよ。
ゴブリンこそが、魔族歴戦の覇者どもであると」
やっぱり、あれですね。
本当にいろんな作品をかけ持ちして書いていますけど、
何も考えなくてもセリフが溢れてくる、そんなキャラ
たちが居る作品というものは心の拠り所になりますね。
ゴブリンロードを書き始めて、よかったです(^^)




