【11】キズル村へ
キズル村への道のりはスムーズだった。
野を超え山を超え谷を超え……と出発前は覚悟して思っていた私だったが、予想外のゆるさにびっくりしてしまったほどだ。
戦力は歩兵が二百ほど。残りの五百は引き続き城の警備に当たってもらっている。
村の人に警戒をさせないためにも、数は極力減らすという戦法をとった。
――道中、冒険者などと遭遇したものの、ジヲォンの殺気とブラッドフォードの剣幕で見事、剣を抜かずに撃退することに成功。
「「「おお……」」」
ブラッドフォードの放った剣幕に、ゴブリンの一同さえ恐れをなしていた。
大方、彼が敵に回らなくてよかったと安堵したのだろう。
「やっぱりあのイケメンを引き入れたのは正解だったねえー」
『油断は禁物ですよ、皇女殿下』
頬を緩ませていると、思念電波で前衛のレイから連絡が直接脳に届いた。
あ、言い忘れてたけど、その間王の私はと言うとですね。
一番安全な後方で、金ピカのカゴに乗って運ばれていました。
あ、これね! 私がリクエストしたの!
やっぱり歴史の重鎮たるもの、カゴに乗らなきゃ始まらないよ(謎理論)。
そしたら即興でイルガスが作ってくれました。
まあ、苦笑してため息つきながらだったけど……手先が器用なのよあの子。
『移動中は、くれぐれもお顔を出さないでください。
多くの村人にとって、皇女殿下の素顔はまだ割れていません。
もし素顔が判明するようなことがあれば、冒険者ギルドに討伐クエストが申請されてしまう恐れが浮上してきます。キズル村に到着しても、イルガスの作った面は被っていることを、どうぞお忘れなく』
私の顔が描かれた張り紙が貼られて、懸賞金がかけられちゃうってことね……。
それはそれでどれくらいの値になるのか気になる所だったけど、ここは素直にレイから送られてきた思念の言うとおりにしておこうと思った。
朝日を浴びながら出発して、お腹がすく頃には。
もう町まで着いていた。
◇――辺境貧民街 キズル村――◇
「……なるほど」
「これは、酷い有様ね……」
村に到着して、レイとイルガスの第一声はそれだった。
一見すると荒廃した山村だが、家々は所狭しとならび、路上には顔を俯かせて座り込む子供たちが居る。
まだ多くの人がこの村に定住しているのだ。
「家畜すらも少ないではないか……」
ジヲォンのつぶやき通り、放牧されている牛や豚などは数えるほどしか草を食んでいなく。
ニワトリはいても産卵の時期ではないのか、全く卵は転がっていない。
「お主らが狩場を横取りする前から、この村はだいたいこんな感じだ。
下手に思い悩むな、これからはお主らがオレ達を養ってくれるのだろう――イズミ殿?」
他力本願とも取れるブラッドフォードの問いかけに対する、私の返答はと言うと。
「……うん。そう、だね……」
どこかぎこちなかった。
――果たしてこのままでいんだろうかという、本心が勝ってしまった。
私たちは今からこの村を侵略して、奪ってしまった資源をこつこつと返し。
その恩恵として、私たちゴブリンと敵対しないことを強制させる。
私たちの支援があれば、人々は出稼ぎする必要がなくなり。
やがて家に入り浸るようになり、戦闘意欲なんて沸かないようになる。
オマケに村の資源は潤沢になり、豚のこっこや牛なども増えるだろう。
食糧問題は解決し、そこから徐々に村の資金も安定していく……。
それで解決……で、本当にいいのだろうか。
根本的な解決に至っていると、(ありもしない)胸を張ってそう言えるだろうか。
それは例えるなら。
壁の中に閉じ込めた人間に、無責任に餌を与えて肥太らせるのと同じなのではないだろうか。
平和な日本で引きこもっていた私だからこそ、それはよく分かる。
閉塞された充足感は、後々怠惰な自分の体を蝕んでいくって。
24時間家の中にいるのに、わざわざ毎朝ベランダに出て肺に新鮮な空気を送っていたのも。
一日ごとに腐っていくような自意識の賞味期限を、一日でも先伸ばしにしたかったからだ。
腐りかけのみかんの箱に防腐剤を蒔いたって、もう遅い。
この村はもう、終わることがすでに決定してしまっているのだ。
「ひとまず、オレの家に案内しよう。このまま行列を作ったままだと、視線が痛いのでな」
思案にくれていた私が顔をあげると、村の人々が、奇異の視線でこちらを見つめていた――。
なんだか暗い終わり方になってしまった……。
お許しを(^_^;)




