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【10】アイデンティティって……

今回はゴブリン幹部の方々の紹介のような回です。


「……まったく。ブラッドフォードの件といい、皇女殿下には困ったものだ」


幹部たちは出征のための装備を整えながら、イズミへの愚痴を呟いていた。


「というか、基本的に困らされてるわよね。あたし達」


イルガスがため息と共に吐いた言葉に、レイが返す。


「ははは! イズミ様は、異世界から来たと仰っていたなあ。

どんな世界か想像は付くか? 参謀諸君」


ジヲォンは慣れているからか、すぐに武装を整えて椅子にふんぞり返っている。


「……分かるわけないでしょ、そんなの」


「本来なら虚実を疑うところだが……。

皇女殿下のお考えは、そうそうこの世界で身につくものではないからな」


幹部たちが彼女にあそこまでの忠誠を置くことになったのも理由がある。

資源の争奪戦による人間との『抗争』ではなく、『共存』を提唱したイズミの思想。


それは本来、資本主義のこの大陸では考えもしないあり方であった。


皆、自分の利益を優先し、他者の考えなど知ったことではない。


自分の覇道を突き進むことだけが正義だと、特にゴブリンなどの、知性を持つモンスターは傲慢な人間に相対するため幼少期からそう教え込まれている節がある。


しかしイズミはまるで、これまでのゴブリンの生き方そのモノを否定するかのような立ち振る舞いをしている。


そこから彼女が、異世界から来たという「嘘だ」と疑うのが当然な真実を受け止めることができた。



「我々ゴブリンも弱小モンスターの烙印を押されてからというもの、メルジェーノフ様のお力を持ってしても、魔王軍の一角としての格は落ちぶれてしまった……」



「今やメルジェーノフ様以外の同士が下界に降りれば、冒険者のいい的だものね。

その王さえ、今はいないのに……」



「それで今回の一連の騒動――イズミ皇女殿下の急な即位、城内全員への人間化の秘薬服用――で、一気に人間界への進出が容易になり、この資源騒動が起こった」



何も知らされないままにイズミが即位し、まだ一週間しか経っていない。

しかし、城を動かす彼らにとってその一週間は、まさに波乱の日々だったことは否めない。


現役最年長のジヲォンが、過去を眺めるように目を細めて苦笑した。


「しかし資源がなければ、どのみち我々は衰退の一途を辿っていた。

だから今回の騒動は、我々ゴブリンにとっては行幸だったが……」


「まさか、メルジェーノフ様が幹部にしかお与えにならなかった秘薬を城内の者全員に飲ませるとは。

……流石の僕も驚いたよ」


「あたしたち幹部の威厳とか、アイデンティティってもう……」


「失くなった、よな」「我もそう思う」


「「「……………」」」


一同がうつむいて押し黙り、そして――


「「「はははははっ!」」」


以外なことに、最初に吹き出したのはクールな美青年であるイルガスだった。


「まったく、イズミ様はつくづく凄いお方だ!」


「そんなメチャクチャなやり方で、我々に瀕している危機を救おうとなさっているのだからな!」


災い転じて福となす。


寧ろその騒動があったことで、敵対していた人間との「和解案」が提案されたのだから。


「我ら異世界の怪物たちを、何も恐れずに挑んできたのだからなあ!」


レベルカンストなどという恩恵は、今のイズミにとってはなんら関係ない。


今、彼女がこの臣下たちを従えているのは、ひとえに信頼だ。



――現実でうまく行かなかった女子高生は。

異世界で初めて「責任」と出会い、その職務を全うしていた。



「本当にその力になってくれるのなら、ブラッドフォードを信じるのも吝かではないな!」


果たしてイズミの登場が、そしてブラッドフォードの二人の人間の介入が。


本当に、ゴブリンである彼らの危機を救うことになるのだろうか――。


「それは運命のみぞ知る……ね」


「急にどうした、レイ」


「いえ、別に。それよりも早く、キズル村を侵略して温泉にでも入りたいわ」


続いて準備を完了させたレイが、大きく伸びをしながら苦笑した。


「やっぱりあれなのか。女子おなごは胸が大きいとその分肩が凝ったりするものなのか?」


「セクハラで訴えるわよジヲォン」


「お前は武術より、もう少し学と品性というものを学べ……」


冷たい視線を浴びせる二人に、思わずジヲォンはたじろいだ。


「おお、怖い怖い。――さすがは『最年少青年幹部』イルガスと、『時空超越の歌姫』と謳われたレイだ。武芸だけが取り柄の我には、一生かかってもお前たちの技量には追いつけぬよ」


静まり給えと土下座するジヲォンに、二人の視線も生暖かいものへ変わっていった。


「……そこまでしろとは言ってないじゃない」


「もういいだろ、レイ。僕も準備が整った。――思念電波の準備だ」


「了解。……んんっ」


レイは軽く喉を湿らせて、そして。


「城内の全ての者たちへ伝達。これより、キズル村への侵攻を開始する。

各小隊は、私の指示に従って城外へ――」


キズル村の侵略作戦――『異世界人類ニート化計画』が始まった。




少しずつアクセス数が伸びて来ています。ありがとうございますm(_ _)m

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