へびのかみさまのいうとおり
○「プロローグ、ねぐら」
むかしむかし、あるところに、さかさにじの森とよばれるところがありました。
そこでは、どうぶつたちが、みんななかよくくらしていました。
しかし、その中にいっぴきだけ、あばれんぼうとよばれているどうぶつがいました。
「けっ。よってたかって、毛ぎらいしやがって。おれが、なにをしたっていうんだ、バカやろうめ!」
おやおや。きょうもアライグマは、ごきげんななめのようです。
そこへ、ひとすじの光がさしこみ、天から声が聞こえてきました。空中には、しろいヘビが、はんぶんとうめいなホログラムのようにうつっています。
――アライグマよ。そなたは、らんぼうなことばとたいどで、いつも森のどうぶつたちから、ごかいをまねいておるな?
「うわ、まぶしっ! ――そうだよ。なんかもんくあんのか?」
――このままでは、そなたはひとりぼっちになってしまうぞ? ほんとうは、みなとなかよくしたいのではないか?
「へんっ! きらわれてるやつらに、むりにすかれたくもねぇやい」
――まぁ、そうやすやすとあきらめるでないぞ。このわしが、そなたにやさしいこころをとりもどしてしんぜよう。わしの声にしたがい、こまってるどうぶつたちをたすけるのじゃ。まず手はじめに、ねっこひろばにむかうがいい。
「大きなおせわだい、って、あれ? どこへいきやがった!」
――わしの声は、そなたにしか聞こえておらん。いいから、ゆくがよい。
ふっつりと光とすがたがきえたあと、アライグマは首をかしげながらも、ひろばにむかいました。
*
一「キツネ、ひろば」
アライグマは、ねっこひろばにつきました。
このひろばには、そのなまえのとおり、たくさんの木のねっこがとびだしています。
と、そこに、いっぴきのキツネが、後ろ足をかかえてうずくまっています。
「ヨイショ、コラショ、イタタタタ」
どうやら、ねっこのすきまに足がはさまって、みうごきがとれなくなってしまったようです。
アライグマは「どんくさいやつだ」とおもいつつ、そのよこをすどおりしようとします。
すると、またしても天から声が聞こえてきました。
――ぬけ出せずにこまっているキツネを、引っぱり上げなさい。
「ちょいとしつれいするぜ、お人よしのおじょうさん」
「あっ、アライグマさん。――キャッ!」
「うごくんじゃねぇ。いま、たすけてやるからよ。それ、一、二の、三っ!」
気がかわったアライグマがキツネのわきをかかえて引っぱり上げると、キツネはねっこからぶじにぬけ出すことができました。
「ありがとう、アライグマさん」
「れいをいわれるほどじゃねぇやい。せいぜい、きをつけやがれ」
キツネがペコリとおじぎをしてかんしゃすると、アライグマは、それを見むきもせずに立ちさりました。
*
二「ネコ、はし」
アライグマは、こんどはオンボロばしのたもとへとやってきました。
このはしは、森をはんぶんにわける大きな川にかかったつりばしで、そのなまえのとおり、いまにもおちそうなくらいボロボロです。
「ミィ! ミィ~!」
おや? はしのまん中あたりで、子ネコがないています。そして、母ネコと小さなきょうだいネコたちが、アライグマとははんたいのたもとで、アワアワとしんぱいそうにしています。
アライグマは「ないてないで、とっととわたれ」とどくづきつつ、そのままとおりすぎようとします。
すると、またまた天から声が聞こえてきました。
――かわいそうな子ネコを、むこうぎしまでつれていきなさい。
「しょうがねぇなぁ」
アライグマは、いたをふみぬいたりしないよう、しんちょうにはしをわたり、中ほどで、ないてる子ネコをせおい、なんとか母ネコたちのもとへととどけることができました。
「どうもすみません、アライグマさん」
「ついてきてるか、ちゃんとたしかめやがれ」
「ありがとう、アライグマさん」
「アライグマさん、かっこいい」
「ミィ!」
「はいはい、そりゃあどうも」
ネコたちが口ぐちにおれいをいうのを聞きながし、アライグマは足ばやに走っていきました。
三「コマドリ、しばい」
*
アライグマがトコトコと走っていったさきでは、うたがじょうずなコマドリが、きりかぶぶたいの上で、おしばいのれんしゅうをしていました。
すずをならすようなキレイなうた声をひびかせながら、右へ左へとおどっていますが、どこか、ようすがへんです。
「月が、しずみ、日が、のぼる。ヒック! フクロウは、夜にねむり、ニワトリは、朝におきる。ヒック! ヒック!」
どうやら、シャックリがとまらなくなったようです。
アライグマは「とんでもない、やくしゃバカだな」とかんがえつつ、そのまま見て見ぬフリをしようとします。
すると、さきほどとおなじように、天から声が聞こえてきました。
――気づかれないようにおどろかせて、コマドリのシャックリをとめなさい。
アライグマは、このはやえだをふまないよう、ぬき足さし足でゆっくりとコマドリにちかづきます。
「ワッ!」
「ピィ! ……なんだ。アライグマさんか。おどかさないでくれよ」
「わるかったな、イヤなおもいをさせて。それより、シャックリはとまったか?」
「シャックリ? ……あっ、とまってる。ひょっとして、そのためにビックリさせてくれたのかい? 助かったよ」
「フンッ! このおれが、そんなマネするわけねぇだろうが。じゃあな」
クスクスとゆかいにわらうコマドリをむしして、アライグマはクルリとシッポをむけ、そのままガサガサと音を立てながら歩いていきました。
*
四「リス、いけ」
アライグマがむかったさきには、よくすんだキレイないけがありました。
ここは、ドングリいけとよばれていて、ドングリをなげこんでおねがいごとをすると、それがかなうというウワサがあります。
と、いけのほとりをよく見れば、いっぴきのリスが前足に木のえだをもち、それをいけの中に入れ、かきまわすようなうごきをしています。
(なにをやってんだろう? あたらしいイタズラでもおもいついたか?)
アライグマは、リスをとおまきにながめていましたが、そこへ、ふたたび天から声が聞こえてきました。
――あのリスは、すこしばかりふかいところに、スリングショットをおとしたらしい。ひろってやりたまえ。
(すりんぐしょっと? なんだ、それは?)
――アルファベットのワイのようなかたちをしたえだに、ゴムをわたしたものだ。
(パチンコっていえよ。そういえば、いつももち歩いてたな)
アライグマは、ザブンといけにもぐると、リスがえだをうごかしてる下にいき、スリングショットを手にしてきしへとうき上がり、それをリスにわたしました。
すると、リスはおもいがけないとうじょうにおどろき、もっていたえだをなげすて、こしをぬかしてワナワナとふるえながらも、アライグマの前足からスリングショットをうけとりました。
「あ、ありがとう。アライグマさん」
「れいにはおよばねぇよ。これにこりて、へんなイタズラをしねぇこったな」
アライグマは、ブルンブルンとからだをさゆうにふって水をきると、ペタペタと足あとをのこしながら、いけからのびる川ぞいを歩いていきました。
*
五「スカンク、けだに」
「あぁ~、カイカイ。おぉ~、カユイ」
そのままアライグマが川ぞいを歩いていると、スカンクが前足を上げたり、後ろ足をまげたりしながら、かゆみをとろうとしています。
アライグマは「よくあることだ」とおもい、しらんぷりをきめこもうとすると、れいによって天から声が聞こえてきました。
――その水あびぎらいのスカンクを、川であらいきよめてやるがよい。
「へいへい。そんじゃあ、まぁ、おゆるしも出たところで、ちょいと手あらなマネをさせてもらうぜ。――それ!」
「ギャッ!」
アライグマは、これさいわいとばかりにたいあたりすると、スカンクを川のあさせへとつきおとし、ゴシゴシと丸あらいをはじめました。
スカンクは、シッポを立ててガスこうげきをしかけるひまもなく、アライグマのねんいりなせんたくによって、シロとクロがハッキリするまでキレイになりました。
「どうもありがとう、アライグマさん」
「ケッ! ただでさえクセェのに、けだににやられるまで水あびをサボるんじゃねぇ、バカやろう」
アライグマは、リスのときとおなじようにからだをふるわせると、大きなクシャミをひとつして、またペタペタと歩いていきました。
*
六「クマ、にじ」
しばらく歩いていくと、アライグマは、カエデの木が立ちならんでいる林にたどりつきました。
すると、いっとうのクマが、じゅえきがしたたるカエデの木のそばで、前かがみになってウンウンとうめいています。
アライグマは「また、たすけてやれっていわれるにちがいない」とおもい、こんどはおのずから声をかけました。
「やい、クマこぞう。そんなところにうずくまって、なにしてやがる?」
ことばづかいはあらっぽいままですが、しんぱいそうなかおをしているアライグマを見て、クマはおずおずと前足をさし出しながらいいます。
「木のかわが、ゆびにささっちゃったんだ。とりたいけど、ちを見たくなくて」
「デッケェずうたいしといて、気のチイセェやろうだな。ぬいてやるから、じっとしてろよ」
アライグマは、きず口から目をそらしてるクマにあきれつつ、じゅえきでベタベタになっている前足をしらべ、にくきゅうにささっているトゲをぬきました。
「ホラよ。ちは出てねぇから、あんしんしろ」
「わぁ。たすかったよ、アライグマさん。ありがとう」
「……どういたしまして」
クマがトゲがぬけた前足であくしゅをもとめてきたので、アライグマはてれながらも前足をかるくにぎりかえしました。
そのときです。
アライグマに向かって、ひとすじの光がさしこみ、天から声が聞こえてきました。白いヘビのホログラムもあります。
――ホッホッホ。ようやく、やさしいこころをとりもどしたようじゃのぅ。
「だれかさんのせいで、とんだ一日だったぜ」
「だれとはなしてるの、アライグマさん?」
――オッホン。口ではイヤがりつつも、まんざらではないかおをしておるではないか。どれどれ。ほうびに、さかさにじを見せてやろう。それっ!
「わぁ、キレイなにじだ」
「あぁ、そうだな。くやしいくらい、あざやかじゃねぇか」
このあと、森にかかったにじをよく見ようと、クマのいる林に、スカンク、リス、コマドリ、ネコ、キツネがやってきて、アライグマをかこみ、なかよくあそびましたとさ。めでたし、めでたし。
*
●「エピローグ、だそく」
童話『へびのかみさまのいうとおり』いかがだったでしょうか。
頭尾を除いた一から六までは、アライグマが出あう動物たちと、関連する場所や出来事をタイトルにしています。
が、それだけではありません。
実は、動物名と関連物事名が、それぞれ、しりとりになっています。
キツネ→ネコ→コマドリ→リス→スカンク→クマ
ひろば→はし→しばい→いけ→けだに→にじ
ねっ? ただ闇雲に書き連ねたのではないということが、これでお分かりいただけたことでしょう。
さぁ、このゲーム性をふまえた上で、もう一度、読み直してみませんか? きっと、新たな発見があると思いますよ。