第二話 「初めての戦闘」
2038年6月13日 9時30分
「やっと来たようだね」
「ごめん、レン!待ちきれないよな!」
『ワールド・アクション』リリースから9時間30分が経ち、もうすでに街中ではゲームをプレイしている様がさも当たり前かのように見られた。モンスターのポップ頻度はそんなに高くはないはずで、かなりの確率でバラバラに配置されているはずなので、横から獲物を奪い取る、いわゆる漁夫の利と言うのが行われてもおかしくない頻度である。
「ああ、早く起動したくてたまらないよ。・・・あれ?『ライフ・タッチ』は?」
「走ってくるのに邪魔だったから外してきた!今から付けるよ」
「そう。走ってきたなら準備運動はやらなくて大丈夫だね。」
『ライフ・タッチ』は首につけて人体にアクセスする。チョーカーっぽいデザインだと思ってくれたら想像しやすい。本当は運動するときに、心拍数やペースを確認をしたりするのが普通となっているのだが、違和感を覚える人もリクヤみたいにいるらしい。
リクヤは肩掛けバッグから取り出した『ライフ・タッチ』を首に取り付けた。
電源をつけると数秒後、目の前にホロウィンドウが出てきた。
<五感情報接続テスト中・・・>
次に音声が頭の中に響いてくるように聞こえた。
<接続完了。Welcome to Life:touch。あなたの生活により良いものを>
「よーし、準備完了!いつでもいいぜ」
「よし、じゃあかっこよくボイスコマンドで起動しよう」
「そういうところ、お前可愛く見えるぞ」
「ぅえ!?やめろよ恥ずかしい!あと気持ち悪い!」
ボイスコマンドとは、その名のとおりアプリ関連を起動するときに「~~~起動」など、起動する旨を言うとアプリ起動ができるものだ。電話のコールもできる。
「じゃあ3カウントするから。リクヤ、しっかり合わせてね」
リクヤは首を縦に振り、その時を待った。
「3、2、1」
「「ワールド・アクション、スタートアップ!!」」
瞬間、世界が姿を変えるように、景色が変わった。
視界がブラックアウト、表示していたUIは消え、次にポリゴンのようにブラックアウトした世界が再構築された。そして目の前から風が吹き抜ける感覚と共に、見慣れた街並みが映し出された。
「お、うおおお!?なんだなんだ!?」
<Welcome to Would:action。アカウント情報を登録します・・・>
聞こえてきたボイスアナウンス。現代では普通となった滑らかな合成音声が聞こえてきた。
<ライフ・タッチアカウントとの連携完了。ようこそリクヤさん、Would:actionの世界へ。>
すると視界の左上に緑色のゲージが出現し、右上にマップという簡単なUIに変わった。
「迫力が、すごすぎるだろ・・・」
<ワールド・アクションのチュートリアルを始めます>
そのようなアナウンスが聞こえ、ささっとチュートリアルを終わらせた。
<それでは、仲間と共にこのセカイを攻略し、ゲームクリアを目指してください。健闘を祈ります>
「うううううおおおおおおっしゃああああああああああ!!!」
「遂に、だね」
「これだよこれこれ!!はやく動きたくて仕方がないぞ!」
さて、モンスターが居そうな場所はどこかな~と探すと、人の外見に違和感があった。
「あれ、服装がなんかゲームっぽい人がめっちゃいるぞ」
「ああ、あれは『ワルアク』をプレイしている人たちだよ。ゲームを起動している人たちの外見は、今その人が装備している防具、武器が表示されている状態になるんだ。しかも、このゲームは起動しながらも今までどおり『ライフ・タッチ』を使えるし、敵を見つけたらワルアクができる。さながら、ゲームをプレイしながら生活している感じだね」
レンが『ワルアク』と略したのは『ワールド・アクション』の略称である。略称で呼んでいるのが普通みたいだ。
リクヤがもっと眺めると、日曜日だからか、ほとんどの人が防具と武器を装備しているようであった。
「俺たちが見るからにみすぼらしい、完全に初期装備なのはまだモンスターとかを倒してないからか」
「そうだね。装備の入手は、モンスタードロップと、宝箱、稼いだゲーム内マネーを毎日ランダムで置かれるゲームショップで買えるみたいだ。その中でも、めっちゃレアな装備を販売してるショップが1つだけあるらしい・・・」
「マジか!?それは探すしかないな!ゲーマーの血が滾るぜぇ!」
『ワールド・アクション』は、ほぼどんなことは現実世界を探索してプレイする。モンスターもマップから探して行く訳ではなく、自分で探し、目に見える範囲内に出たらマップに表示されるというかなりハードな探索型のシステムとなっている。
「さて、早速武器を装備してみようか。ストレージを開いてみよう」
「ふむ、初期装備はチュートリアルでやった戦闘練習でもプレイを解析されて、自動的に自分に合った武器を貰えるんだよな」
従来のゲームではマウスでのアクションでメニューを開く、コントローラーを振ってメニューを開く行為はなかった。だがこのゲームのメニューの開き方は、ゲーム性としてアクションを重視しているせいか、アイコンタップではなく、武器を装備していない手のひらを前に向け、スライドするように振るとメニューが開くようになっている。装備欄のアクセスもここから行う。
「お、俺は片手剣直剣だ。名前は・・・カッパーブレードか」
「僕は長剣だね。」
早速装備しようと武器をタップする。ポップアップが表示され、装備するか、詳細を確認するかなどのアイコンがみれた。そして迷いもなく装備するアイコンを押す。すると、シュインという音とともに『ライフ・ノーツ』を持っていた手に重さが生じた。
「おおお重た!?ってそこまでか・・・びっくりしたぁ」
「すごいな、武器詳細に書いてあるとおりの重さを再現している。本当にリアリティを追求しているな」
武器詳細の通り2kgの重さを手に感じ、このゲームの凄さを再確認する。同時に、この重さの武器を扱うことができるのかと困惑してしまう。だが、周りのプレイヤーは自分たちと同じ武器らしいが、なかなか様になっている扱いをしている者もチラホラ見受ける。
だが、その者たちは見るからに筋肉質だったりしてアドバンテージがあるようなのだが。
「まず、僕たちは剣に慣れなきゃいけないね。授業で取った剣道とは違うわけだし・・・」
「見よう見真似でやるか?自動アシストとか付いていないのか?」
上手く扱えているであろうプレイヤーは各々で型が違う。だが、他のプレイヤーが剣に振り回されている、という形で剣を使っていた。
「多分、アシストはあるんだろうけど、その機能に体が追いついていないのだろう。」
どうする?と目でレンが訪ねてきた。
「いや、使わないほうがいいだろ。このゲームは実力でのし上がってこそ!製作者も本当はシステムなんかに頼って欲しくないに決まってるって」
「ならどうする?適当に振ってても当たるとは思うが・・・やっぱり様になっていないと、カッコ悪いだろう?」
「そうだな・・・ここは勘だな!俺たちが長年やってきた3Dゲームの主人公を思い出しながらやろう!」
実力と技術がものを言うこのゲームでこんなことを言うなんて、製作者が聞いたらあきれて物も言えないだろう。もっとも、そこはプレイヤーの自由なのでスタイルについては誰も何も言う権利などないのだが。
そして、リクヤとレンはフレンド機能を使い、その効果を知った。フレンド機能といっても他のゲームと大差変わりのないが。
「お互いがフレンドだと、このゲームを通じてメッセージが送れる他、現在地がどことか、加入ギルド、レベルの表示、オンライン状態がわかるのか。まあ普通のゲームと変わらないね」
「もっとこう・・・テレポートとかあったらよかったのにな!」
「いやこれVRじゃないし・・・MRだからね?」
次に、レンからの招待でパーティを組むことになった。1パーティ最大人数は4人、連結して最大人数が24人と説明をポップウィンドウで受けた。
視界の左上にレンのHPゲージが表示された。パーティを組んだらこのようにゲージが出てくるらしい。だがレンのゲージを囲む色が自分は白に対して異なる色だった。どうやらパーティのリーダーは薄い赤に囲まれ目立つようなっていた。
「さて、下準備も終わったことだし、早速エネミーの反応が有る所に行ってみる?」
「待ってました!早く行こうぜ!」
リクヤは腰に装備した鞘に剣を入れ、レンは背中に装備してある鞘に剣を入れて、新宿の街を駆け出した。
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視界に表示させておいたマップに反応があった。2つの濃く赤い点がだんだん近づいてくる。これはもしやと二人は走るのをやめ、警戒した。
「「ヴゥゥゥ・・・」」
お出ましのようだ。四つん這いで藍色の毛、獰猛な目付きにはみ出る牙。これはまるで・・・
「狼、ってところか。」
リクヤが言葉を発した瞬間、狼がこちらを向き、視認してきた。すると、モンスターの頭上にアイコンと文字が表示された。
<レッサーウルフ Lv.1>
「レッサーウルフって名前か。レベル1とは、初見にしては楽なレベルだな。しかも2体とはやりやすいな」
「そうだね、Lv3か4が出てくると思ったけど比較的レベルは対応しやすいのに調整されているのかもね。だけど、油断はしちゃダメだよ。」
「ここでやられたら示しがつかねえ。一人1体だ!さくっと終わらせるぞ!」
「ああ!」
レンが答えると同時に駆け出した。リクヤは目の前の目標に剣を抜きながら突進する。
「さあ、戦闘開始だ」
レッサーウルフはこちらに気づき、突進してくるリクヤを迎え撃とうと構える。そして、剣のリーチ範囲まで近づいたところで、剣を下段から振り上げる。
「うらぁっ!!」
剣先はレッサーウルフの顎を斬らんとするが―――
―――スカッ。
「ええ!?避けられた!?」
狼のごとし速さで後ろへ飛ぶレッサーウルフ。見え見えの攻撃をしてしまったと、内心悔しがる。そして、敵が動いた。噛み付く気らしい。一瞬、その獲物を狩る目に動揺する。リクヤは先ほどの攻撃が当たらなかったショックから立ち直り、剣での防御に脳を移行させる。一瞬、その獲物を狩る目に動揺する。
早い、流石犬だな。どこを狙ってくる。慎重になれ。狼が狙ってくるセオリーな場所。それは―――
「腕かッ!?」
体を左に逸らし、右腕があった場所をレッサーウルフの牙が噛む。間一髪、自分の勘を頼りに、無傷で済んだ。脇を通り過ぎるレッサーウルフを見ながら、リクヤはチャンスと悟る。
――――このまま左に逸れた勢いを使い剣を背中に叩き込んでやる!
更に体を捻り、丁度地面に着地したレッサーウルフにカッパーブレードを遠心力で叩き込む。
ザクッ。
手応えを感じ、建の当たった場所を振り返って見る。すると、レッサーウルフは断末魔のように叫び、体が突然爆散した。黄緑色っぽい黄色のポリゴンを撒き散らし、上空へ消えていった。
どうやらクリーンヒットらしい。一撃で倒せるとは・・・やっぱり俺TUEEEE!!!
「うおっしゃああああ!!初戦闘で初勝利!良いスタートだ!!」
そして、先ほど聞いた断末魔が近くで聞こえた。どうやらレンも倒したようだった。
「ふぅ、お疲れ。以外に迫力というか凄みというか・・・なかなかVRでも体験できないシロモノだね」
「ガチで気圧されたぜ・・・本当に命取られるかと思ったぞ、こっちは。でもこんなにリアリティー追求してるなんて、期待して良かったな」
「そうだね。極めたい、今の戦いで十分に感じられたよ。僕たちが求めていたものそのものだ。」
そして二人は頷き合う。
「俺たちは」
「僕たちは」
「「ここで最強になる」」
二人のゲーマーは、拳を合わせ、その目に闘志を映した。
遅くなりました。彩羽燐です。
1ヶ月くらい空いてしまって申し訳ない・・・忘れてたわけじゃないです!全く!ええ!
次からは頑張って週1くらいで投稿したいです。