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男と女、剛と柔……、テーマは「二極」

 時刻にして、夕陽が落ち込み周囲が夜の闇に染まる頃。

 いよいよタクティクス・バレット対A・Aの公式戦まであと少しで開始という時間に差し掛かる。

 連戦連勝で登り調子な埼玉の新鋭と女帝・鶴馬千歳率いる千葉の三強の一角という対戦カードは、今までにない程の見応えを期待されて異様な盛り上がりを見せていた。

 観客席は既に超満員、席に座れない者も別の場所からモニター観戦をし、賭けの対象として金銭の流れが成立するまでに大きなものとなっていた。

 ナノマシン吹き付け装置の〔S・S・S〕を終え、迷彩服に着替えたタクティクス・バレットメンバーは現在、指定された広場にて横に一列に並んで整列している。


「あ~~~だりぃ! 相変わらずこの時間が一番だりぃな!」


 声からも言葉からも、そして顔からも本音駄々漏れの飛鳥、もはや隠すつもりが全く無いと良く分かる。


「飛鳥、少しは我慢しなさいよ。どのみち、開始時間までには終わるんだから、それまでの辛抱よ」

「くっ……! どこの誰だよ、こんな無駄なの考えやがったのはよ……!」

「仕方ないだろう、飛鳥。その辺はこういう時代だと諦めるしかない。まがりなりにも需要もある訳だからな」


 角華や玉守に諭されはするが、飛鳥は納得していない模様。


「ね、ねえ、香子ちゃん。忍足先輩の機嫌が悪いみたいだけど、何かあったの?」


 風鈴が飛鳥の雰囲気がよろしくないのを見て香子に理由を確認すると、香子は香子で苦笑いを浮かべて飛鳥を見ていた。


「あはは……、まあ、相手チームがアレを申請してきた時はいつも機嫌悪くなるのよね、忍足先輩……」

「アレって、何? 今から何か始まるの?」

「風鈴ちゃんはアレを見たことなかったっけ? 最近は結構やってる出し物なんだけど……」


 ポカンと呆ける風鈴に、香子が説明を始める。


 スポーツとしての感覚がサバイバルゲームでも根付いてきており、対戦する者同士の顔合わせはきちんと行われているのだが、本来は単純に楽しむ者同士の礼儀という意味合いだけだった。

 それ自体は飛鳥もそれほど毛嫌いしてはいなかったのだが、最近になってこの顔合わせ時に何らかの出し物をやるチームが増えてきた。

 WEE協約以降、サバイバルゲームでの実力を示せればWSGCへの参加が可能となるだけでなく、芸能関係の人間の目に止まることもある。

 顔が売れれば人によっては芸能人のような存在にまで成り上がれるとあって、それを見越してショーを見せるように派手な演出を事前にすることで目立とうとするチームが出てきた。

 観客からの受けも良く、もはや恒例行事にまでなっているのだが、これをやるかどうかは任意。

 タクティクス・バレットでは芸能関連に全く興味がない飛鳥がこれを無駄だと否定して組み込んでいないため、ショーを見せられる観客と同じような状態だった。


「そういえば、俺や浩介や千瞳さんが来てからは出し物やるチームを見てない気がする……」

「それについては飛鳥先輩が、そういうのをやるチームより実力重視の相手ばっかり選んでいたからみたいっすよ」

「姉さんはパフォーマンスとか目立つのは好きじゃないから、そういう意味ではうちのチームは良かったんじゃない?」

「う~……、そうだけど、ほとんどトレーニングと試合ばっかり組む日々はさすがにちょっと……。こないだみたいにみんなで遊びに行く楽しい休日があっても良いような……」

「おい、水城……、そんな偉そうなこと言う前に、まずはその無駄な体を絞ってから言えや……!」

「飛鳥! 毎回女の子になんてこと言うのよ!? アンタはまずデリカシーっていうものをね……」

「みんな、そろそろ切り上げようか。どうやら始まるようだ」


 会場が静かになり、部員の騒がしさも玉守の呼び掛けで静まっていく。

 玉守達が並んでいる広場の奥、校舎と繋がっている出入口から姿を現したのはこの女学院の生徒達。

 片方がドレス、片方がタキシードという出で立ちのペアが複数組登場し、その中には千歳と闘子の姿もあった。

 千歳は純白のドレスがとても良く似合い、闘子は顔付きと相まった男装仕立てが凛々しい雰囲気。

 音楽が聞こえると、それぞれが手を取って踊り始める。

 出し物は社交ダンスのようで、優雅なワルツを披露して会場全体の目を釘付けにしていく。

 普通の観客だけでなく、タクティクス・バレットのメンバーもほとんどがその内容に魅了されていた。

 やがて音楽が止まり、演技者達が周りに礼をしていくと会場から拍手が贈られる。

 頃合いを見計らってマイクを渡しに来た女子生徒から、千歳はマイクを受け取る。


『ありがとうございます。今回、社交ダンスを演目に選んだ理由としては、男女をテーマに取り上げようと思ったからです。男性の力強さと女性の優美さを表現するために生徒一同、練習に励んで参りました。皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか?』


 会場のスピーカーから千歳の澄んだ声が響き渡ると、一際大きな拍手が巻き起こる。


『ご満足頂けたようで何よりです。ですが、それも表向きの理由の一つでしかないのです、うふふ♪』


 続いて千歳の軽やかな笑い声が聞こえると、会場に戸惑うようなざわめきが拡がっていく。

 徐々にその表情にも、声の優雅さと打って変わった自信のような微笑みを浮かべてくるのをタクティクス・バレットメンバーも目撃する。

 そこから、千歳の演説が始まる。


『皆様、サバイバルゲームとは戦争を模したものであるというのはご存知の方も多いことと思います。闘争を続ける先に自国の防衛と発展があると信じ、力のある男性が兵となって戦地に向かい、女性は自国で徴兵された恋人や旦那様の無事を信じて帰りを待つ、というのが歴史の1ページであるとわたくし達は学びました。命の奪い合いという悲しい過去ではありますが、それがあればこそ命の尊さや人と国を護る意味をわたくし達に教えてくれたとも思えば、短絡的に否定するつもりもありません。しかし、皮肉にも豊かさと平和が浸透してきた頃から、別の闘争が顔を覗かせます。それが男尊女卑からなる男女差別……、そう、男性と女性の闘争というものです』


 千歳は演説をしながらも演技者の女子生徒達の方に移動し、その一組の男装女子を示す。


『人の中には与えられた性別らしさを当てはめ、男性は男性らしく、女性は女性らしくだけで語る方も多く見受けられます。その結果、家や自国で待つ女性はただ待つだけしか出来ないか弱い存在、その一方で戦果を上げるために出向く男性のが尊いものとして認識されていると思われます。でなければ、何故女性が今に至るまで社会的に冷遇される事態になるというのでしょうか?』


 話が進むにつれ、男装女子は目を閉じて俯く。

 その女子生徒が何かしたでは無いが、これも周囲の男性に向けた演出かもしれない。

 観客の多く、特に女性が共感するように頷いて聞いていた。


『男女は確かに身体的な役割を割り振られました。狩猟生活を基にする古来から現代まで、その役割に沿って人は生きてきました。都合や効率で語るなら、その方が良いのでしょう。しかし、それはお互いの役割を分担し合い、お互いに尊重して公平、平等を目指していってこそ……、女性は男性をただ待っていたわけではなく、男性が安心出来る場所を守っていたのです。不遜な評価の偏りを正すため、そして女性の強さを証明するために、わたくし達は戦い続けるのです』


 言葉の終わりに千歳は指をパチンと鳴らすと、演技者達は道を開けるように左右に分かれる。

 その奥から、迷彩服を着込み、エアガンを持つ者達が現れて、タクティクス・バレットの前に整列する。

 試合ではないため、まだゴーグルを付けていないが、その素顔がメンバー全員女子であると認識させる。

 女学院である以上は当然なのだが、周囲の女子生徒とは比べ物にならないくらいの強い雰囲気を放っていた。

 社交ダンスからの落差が激しく、今までの華やかなものと全くの異質の気配は、まさしく戦う者のそれだった。

 鶴馬千歳率いるA・Aの登場に、しかしその雰囲気が観客にすら拍手を躊躇わさせる。

 その内の一人は先ほど道案内をしていた女子生徒で、その時は飛鳥に怯えたような感じだったのだが、今はその雰囲気が微塵も感じられない。


「み、見て飛鳥……! あの子はさっきの……!」

「ほう、良い顔してんじゃねぇか! さっきのが演技だったのか、はたまたこういう場では気持ちが切り替わるのか……、いずれにしろ、相手にとって不足は無さそうだな!」

「う、うわぁ……、す、凄い迫力っすね……」

「「お、同じ女の子と思えないにょ……」」

「き、金瑠ちゃんは違うでしょ……でも、本当に、凄い……」


 タクティクス・バレットのメンバーも、何人かが気圧され気味になる。

 チームの整列を確認した千歳、優雅な装いのまま歩み出る。


「タクティクス・バレットの皆さん、改めましてようこそ。チームの戦力は揃ったわ。お互いに良い試合をしましょうね」


 その挨拶に、チームを代表して玉守が応じる。


「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。しかし、良い演出だな。こちらは見せられるようなものが無くて申し訳ない気がするよ」

「うふふ♪ 気にしないで結構よ、こちらが招いた側だもの。それにお客様を楽しませることも大切だから、取り組んだまでのことよ」

「そうか。なら、こちらは演出度外視で鍛練に明け暮れた日々の成果を見せることで、応えるしかないな」

「ええ、楽しみにしているわ。それではもう間もなく試合開始よ。最後に何か聞きたいことはないかしら? 試合が始まれば、その間は敵同士。確認不足で負けてしまうなんて言い訳にならないでしょう? 答えられる範囲でならわたくし自ら答えてあげるわ」

「それはありがたいな。だが、急には……」


 玉守が考え込むように黙ると、入れ替わるように飛鳥が玉守の前に出てくる。


「俺達はもう自分で確認すべきことはもう確認したからな、今さら細かい情報まで聞くつもりはねぇよ。後は試合が始まってから考えるさ。だが、そこまで言うなら敢えて聞かせてもらう……、お前ら、その格好のままでやるつもりじゃないだろうな?」


 飛鳥の言うその格好というのは、千歳と闘子の衣服のこと。

 先ほどの社交ダンスに、千歳と闘子も加わっていた。

 つまり、千歳はドレス、闘子はタキシードのままだった。


「ええ、その通りよ。わたくしと闘子ちゃんはこのままお相手させてもらうわ」

「マジか!? そんなんで相手するだと!?」

「わたくしに、迷彩服はあまり似合わないとあなた達も思わない? だから自分に似合う格好をしているの。でも問題ないわ。何せ、わたくし達のこの衣服も『クレイン&ホース』製。〔S・S・S〕に対応した仕様になっているわ。もしわたくしを狙い撃つことが出来たなら、このドレス全体が見た目鮮やかに赤くなって、これもまた華やかな姿に……」

「そういうこと聞いてんじゃねぇよ! そんなに目立つ上に動きにくい格好で俺達の相手をするのかってこったよ!」

「ああ、そういうことね、うふふ♪」


 飛鳥の苛立つ声にも、千歳は余裕の微笑み。

 千歳が答える代わりに、今度は闘子が進み出る。


「それについても問題はない。服装程度の不利で千歳様やこの私がお前達に遅れを取ることなどあり得ない。お前達は他人の心配より自分の心配をしていれば良いだろう。だが、何か言いたいことがあるというのなら、こちらもそちらに聞きたいことがある。そこの……、千瞳風鈴だったな?」


 飛鳥への対応もそこそこに、闘子は風鈴に目を向ける。


「ふえっ!? わ、私ですか?」

「お前は普段からそうなのか? 相手に対して、失礼だとは思わないのか?」

「え、えっと……」


 表情こそ変わらないが、幾分かの苛立ちを声に乗せた闘子から問われた風鈴は、帽子を目深に被ったままずっと下を向いていた。

 その質問に風鈴は答えを出さなかったが、風鈴の姿を遮るように飛鳥が立ちはだかる。


「おっと、コイツに関しては悪く思うなよ? 俺達の指示でこうさせてるんでな」

「お前達の指示?」

「おうよ」


 闘子は出て来た飛鳥と未だに下を向いたままの風鈴とを交互に見比べた後、静かにふんと鼻を鳴らして踵を返し、自分のチームの元に戻っていく。

 千歳はというと、相変わらずの微笑みを浮かべてこのやり取りを眺めていた。


「うふふ♪ それじゃあ、良い試合を期待しているわね」


 闘子が戻るのに合わせるようにそれだけ言ってから、千歳も戻っていく。

 声が聞こえなくなるであろう距離まで離れてから、タクティクス・バレットメンバーは二人の圧力から解放されたように深々と息を吐き尽くす。


「くそっ、舐め腐りやがって……! 今に見てろよ……!」


 飛鳥は戻る二人の背中を睨み付けてから、風鈴に向き直る。


「千瞳、大丈夫か?」

「あ、はい。でも……、気を悪くさせてしまいましたね」

「俺達の指示だと言ったろ、お前も気にするな。それより、あいつらのことは普通には見てないな?」

「はい、大丈夫です! 普通には見てないですけど、ちゃんと見えてます!」


 飛鳥の確認に、風鈴は帽子で顔を隠したまま、何やら変な答えを返す。

 実はこの聖翼女学院に来てから、風鈴はほとんど下を向いたまま誰とも目を合わせないまま過ごしていた。

 これこそ、タクティクス・バレット側が千歳の幻を見せるというEXS対策の一つだった。

 幻を見せられてしまうのであれば、相手を見ないようにすれば良いという、考え方としてはシンプルな手段。

 有効には違いないものの、そう上手くいくものでもない。

 サバイバルゲームに限らず、何かしら行動をするなら当然ながら物を見なければ始まらない。

 普段の動きに支障が出るのはもちろん、いざ試合になれば相手を狙うために見なければならないが、見てしまえば能力の影響をいつ受けてしまうか分からない。

 本来、常人にはほぼ不可能な方法だが、風鈴は風を受けて肌の知覚から外界を視覚化させるEXS、「千里眼」がある。

 その特性の一つ、上空からドローンで見るような視覚を可能とする「 俯瞰図(スカイビューマップ)」は、基本的に目を閉じて確認するために幻の影響を受けず、その視点を自分の近くにすることで普段と変わらない視界を確保出来る。

 最近の風鈴はいざとなれば、目を閉じたまま生活することが出来るだけの力を身に付けつつあったのだが、この状況を他人目線で見ると人と目を合わせない失礼な見た目に映ることだろう。


「よし、ギリギリで思い付いた策だったが上手くいったみたいだな。とりあえずこれで最悪、千瞳だけは状況の正しい確認が出来る訳だ」

「ちょっと忍足! ワタシだって『絶対領域』に入れてれば確認出来るって忘れないでよ!」

「分かってるさ! どっちにしても範囲の広さで千瞳にサポートさせつつ、サラ公に突っ込んでもらうってパターンは変わらねぇからな。情けねぇ話だが、お前ら二人が生命線だ、頼むぜ!」

「はい!」

「任せといて!」


 風鈴とサラの頼もしい返事に、飛鳥も満足げに頷き返す。

 そんな中、大和は再度振り返り、フィールドのスタート地点に向かう千歳と闘子の背中をもう一度見直す。


(思い付く限りの対策は講じた……、後は試合が始まってからの一発勝負……! まだ前島さんのEXSも確認出来てないのが気掛かりではあるけど、何より……)


 闘子から千歳に視線を移した大和、タイミング良く振り返ってきた千歳と目が合ってしまう。

 自身に巡る様々な思考をその妖しい眼差しに覗かれたように感じ、大和の背筋が波打ち慌てて正面に顔を戻す。


(……っ! 何より、鶴馬が何を考えているのか読めない……。この先、一体どうなるか分からない……、けど、とにかく自分の出来る最善を尽くすだけだ……)


 顔を振って気持ちを切り替え、大和はメンバーと共に自分達のスタート地点に向かっていく。



 ※  ※  ※  ※



 試合開始まであと数分となったA・Aのスタート地点では、闘子がメンバーに言葉を投げかけていた。


「今回の戦いについては事前に確認したように、こちらでも初めてとなるスペリオルコマンダーが相手チームに少なくとも二人は存在している。能力の詳細は無く、今まで以上の苦戦が予想される。だが、我々がやることはいつもと変わらない。臆せず進み、敵を撃つ。作戦に変更も無い。以上だ」


 その雰囲気は並の男よりも威厳溢れる風格を醸し出し、メンバー達を鼓舞していく。

 その後ろでは千歳が優雅に椅子に腰掛け、何も言わずにただその様子を見つめているだけだった。

 やがて、全員のゴーグルに備わるモニターが開始のカウントダウンを刻んでいく。


『……3……2……1…… 作戦開始(ミッションスタート)


 開戦と同時にスタートの扉が開く。

 暗闇広がる夜空の中、フィールドの通路に付けられた照明が道を照らしている。

 A・Aメンバーが人数を分けてフィールドに入っていく。

 闘子と千歳はまだ動かない。


「千歳様。そろそろ準備をお願いします」


 二人きりになったところで闘子は千歳を促す。

 だが千歳は座ったままだった。


「千歳様?」

「まあ慌てないで、闘子ちゃん。わたくし達の方針上、すぐに動かなくても問題ないのだから、少しお話でもしましょうか」

「今からですか? しかし、あまり長く話すという訳にもいきません」

「分かっているわ。一つだけ聞かせて欲しいだけよ」

「何でしょうか?」

「風鈴ちゃんに言ったことについてよ。わたくしの能力については多少向こうに知られていると分かってもいるわ。だから、あの対策は想定内。わたくし自身はそこまで失礼だと思ってはいないのだけれど、闘子ちゃんにとってはどうなのかと思ったのよ」

「そのことですか。あちらの対策については私も理解していますが、態度に対して失礼と言ったのではありません。私が失礼と言ったのは、千瞳風鈴のあの体型に対してです」

「体型?」


 闘子の解答が予想外だったのか、千歳は珍しく目を丸くして闘子を見返す。

 乏しい表情ながらも、闘子の顔にはどことなく不機嫌な雰囲気が漂っていた。


「あのようなだらしない体型など、戦いに挑む者として恥ずべきものです。特に女は生まれながらに筋力で男に劣ってしまう以上、戦に負けぬためには男以上の努力をしなければなりません。相手として来ているならば負ける要因にもなろうがこちらから言えることなどありませんが、我々と同じく力を有する者として無様な姿を晒すことがないようにしてもらいたいものです」

「あ、ああ……、そういえば闘子ちゃんは肉体至上主義だったわね。でも、それを言ったらわたくしも同じようなものよ? この体、女性として男性を虜に出来ると自負しているけれど、これもだらしない体型になるのではないかしら?」


 闘子の堅苦しい持論に一瞬困ったような引き気味の顔を見せつつ、千歳は自分の体を見せつける仕草をする。

 女子高生らしからぬ女性らしい曲線美のドレス姿が艶かしく、本人の自信も誰もが納得するものだが、闘子以外には誰も反応が無い状況。


「千歳様は既に結果を出しています。高い水準を持つならば、女性らしい武器を持つこともプラスとなり得ます。女性というだけで身体の鍛練を怠る者達とは違うと、この私が保証致します」


 当の闘子も魅了以前に従者としての反応を見せるため、千歳としては若干食傷気味な表情になる。


「……まあ、とにかく作戦を守っていけるなら、闘子ちゃんの判断で好きに動いてくれても構わないわ。じゃあ、そろそろ行きましょうか。こちらもこちらで動くから、よろしくね♪」

「かしこまりました。それでは改めて、作戦開始します」


 椅子から立ち上がり、伸びをする千歳に礼をしてから、闘子はフィールドに意識を集中させる。

 同じく闘子と並んでフィールドを見つめる千歳の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。


(大和君、久しぶりのあなたの実力を見させてもらうわ。わたくしの裁量の範囲内でね♪)


 一瞬体を傾けた後、千歳はフィールドの通路を駆け出し始める。

 その後ろ姿が通路の先に消えたのを確認し、闘子も千歳の後を追うように駆け出すための前傾姿勢を取る。


「EXS、起動」


 その言葉を紡ぐと同時に、闘子も力強くはフィールドに跳び出していく。

 これにより、開戦初手からタクティクス・バレットメンバーは苦戦を強いられることとなる……。

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