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対A・A公式戦事前準備

 大和達と小波からもたらされた情報を元に、想定される状況に対応出来るようにトレーニングを積んだ大和達。

 もちろん鶴馬千歳率いる「A・A」が想定出来る範囲を超えてくる場合もあるのは否めないが、それでもやれるだけの事はやったという手応えをメンバーも感じていた。

 そして、迎えた公式戦当日。

 メンバー達が今いるのは、今日の対戦相手「A・A」メンバーの通う聖翼女学院内で、校内フィールドに向かう前に施設案内のために廊下を歩いていた。


「次に、ここから右手奥が売店になります。一通りの品揃えはありますが、無い場合はお取り寄せも可能です。ただ、本日中には届かないのでご了承ください。それと、男性用の御手洗いについては指定された場所でお願いします」


 案内役の女子生徒から説明を受けながら、校内を進んでいくメンバー達は興味津々で周囲を色々と観察している。

 しかし、飛鳥はテンションが1人だけ低い。


「もう、いい加減に気持ちを切り替えなさいよ、飛鳥」

「るせぇよ、ほっとけ……」


 テンションが低いという以前に、機嫌が悪いように見える。


「あの、玉守部長。忍足先輩、どうかしたんですか? 来てから様子がおかしいですけど……」


 その疑問を浩介が先頭を歩く玉守に尋ねると、玉守は困ったように飛鳥を見ながら答える。


「……この聖翼女学院、雰囲気からも分かると思うが、育ちの良い女子生徒が通う学校だろう?」

「まあ、言うなればお嬢様学校ですよね?」

「飛鳥はな、お嬢様学校というか、お嬢様そのものが苦手らしいな」

「お嬢様が苦手!? な、なんでですか?」

「飛鳥曰く、『理解出来ない生き物』だそうだ。サバゲーの戦場で一番似つかわしくない存在という認識みたいだが……」


 玉守によると、飛鳥はセレブや金持ちなど元から恵まれた裕福な類いの人種が好みではなかったという。

 どちらかというと、粗野な男達とお互いに罵り合うような形が常であり、サバイバルゲームでも同様。

 飛鳥の幼馴染み、金蔵は半分がそういう類いであり、飛鳥が昔からしょっちゅう突っかかっていたというのは角華の談。

 まあ金蔵に関しては知り合いということもあり、ギリギリで許容してはいたが、見下されているような妬みの感覚は否めず、それが他人なら尚更。

 その中でもお嬢様は女子ということで、飛鳥としても男と同じように食って掛かるという訳にもいかず、扱いが極めて難しい存在だった。


「でも事前にお嬢様学校だって分かってた訳じゃないんですか?」

「俺達は人数が足りていなかった関係でメンバーを偵察させたり出来ず、情報を集める時間すら練習に費やしていたものでな。まだ俺や角華君は多少の前段階で情報を確認してはいたが、飛鳥の場合は詳しい情報は現地で直前に確認するのが染み付いてしまったのさ。小波君が情報を持ってきてくれるようになる前からの悪習、と言うべきかな?」

「だとしても、学校の特色くらいは知るようにしても良いような気がするんですけど……」

「その通りだと俺達も思うよ。飛鳥はサバゲーの実力でものを考えるやつだからな。まあ悪い男ではないんだが、判断基準が極端なんだよ」

「本当に偏り過ぎですね……」


 廊下を他の女子生徒がすれ違う際に、「ごきげんよう」と声を掛けられただけでビクッと反応する飛鳥を、珍しいものでも見るように眺める浩介だった。

 必要と思われる施設の説明を受けながら広い校内を歩き続ける一行。


「こちらが食堂になっています。そのまま利用も出来ますが、持ち帰り用のも作れます。時間になると観客の皆さんもご利用に来られて混雑が予想されますので、持ち帰り用の食事をフィールドの控え室に持ち込む方が良いかもしれませんね。これで、フィールド以外のご案内は終了となります」


 一通りの案内を終えた女子生徒は、丁寧にお辞儀をして締めくくる。

 メンバーを代表して、玉守が対応する。


「案内助かりました、ありがとうございます」

「いえ。何か他に分からないことがありましたら、お答え出来る範囲でお答えしますが……」

「ん~……、今のところは特に思い当たらないですね。フィールドまで行けたら、あとはこちらで確認させてもらいます」

「分かりました。でしたら私はこれで……」

「聞きたいことならあるぜ!」


 何事もなく終わるかと思われたが、ここに来て飛鳥が口を出してきた。


「はい、なんでしょうか?」

「女帝のことだよ! そっちの鶴馬千歳ってやつのことを聞きたいんだがな!」

「つ、鶴馬様、のことですか?」


 案内役の女子生徒が、飛鳥の言葉に戸惑い固まる。

 その場も一瞬、同じように固まる。


「……鶴馬様の、何をお聞きしたいのでしょうか……?」

「鶴馬千歳ってのはそっちのリーダー格だろうが! 客人扱いしろとまでは言わねぇが、せめて最初に一言挨拶するなりしても良いだろ! 将希なんか率先してフィールドの中まで詳しく案内するくらいだぞ! せっかくの公式戦なのに姿も見せねぇとかどういう神経してやがるんだよ!」

「飛鳥、あまり深く突っ込み過ぎるなよ? 俺が案内するのは俺が好きでやってることだからな。相手にまで同じことを求める必要はないだろう。先方の都合だってあるだろうしな」

「そうよ飛鳥! 変に騒ぎ立てるようなことしないでよ!?」

「ふん! 別に変でもねぇだろ! このままだと、勿体ぶって出て来ないようにしか感じねぇんだよ!」


 飛鳥も言うように、タクティクス・バレットメンバーが到着してから今に至るまで、千歳の存在は確認出来ていない。


「そ、それは……、私にも鶴馬様が普段どのように行動されているかは把握しておりません。なにぶん、お忙しい方でして……、唯一把握されているとすれば、前島様くらいではないかと思われます」

「じゃあその前島とやらはどうしてるんだ!?」

「ま、前島様も、同じようにお忙しい方なので、把握してはおりません。申し訳ございません……」


 その顔を青ざめさせながら、深々と頭を下げる案内役の女子生徒。

 それがとても不憫に思えたメンバーの上級生組が、飛鳥を窘めるように割り込む。


「飛鳥、もう良いだろう。相手が忙しいと言ってるんだ、無理を言って困らせることもないだろう」

「それにアンタはただでさえ顔と声に威圧感があるんだから怖がらせちゃうだけよ!」

「やかましゃあ!! 顔とか声とかは生まれつきだからどうこう言うな! 対決する相手なら顔合わせくらいは普通するだろうって言いたいだけだよ! ったく、これだからお嬢様ってやつは……」

「あら、賑やかで楽しそうにしてるわね?」


 その場の空気が、澄んだようなその言葉1つで凍えたようだった。

 今まで飛鳥の声がここでの意識の中心だったはずなのに、それほど大きくは聞こえないようなその声が全体を支配する。

 声のする方を全員が振り向くと、そこには女子生徒が2人。

 1人は色白な肌と艶のある長い黒髪、右目下の泣きボクロと柔らかい表情が印象的で、もう1人は浅黒い肌に色素が抜けたような短めの髪、表情は乏しそうなのに意思が強そうにも見える。

 対照的ではあるが、どちらもただならぬ雰囲気を纏っている。

 目にしたメンバー全員が、この2人が何者か理解出来た。

 色白の女子生徒がゆったりと飛鳥に歩み寄る。


「……お前が、鶴馬千歳だな?」

「ええ、来るのが遅れてごめんなさいね。途中から聞いていただけだから全部の内容は把握していないのだけれど、察するにわたくしがいなかったのが不満、というところかしら?」

「まあな。随分と重役出勤してくれるじゃねぇかよ」


 皮肉を込めて言った飛鳥に、千歳はクスッと笑みを見せる。

 それが飛鳥を苛立たせる。


「何がおかしい!?」

「いえ、ごめんなさいね。多分、分かって言った訳ではないと思うけれど、重役出勤というのは的を射ているわ」

「何?」

「わたくし、お父様の会社で一部の商品開発に関わっているのよ。昨日も夜遅くまで企画に着手していたものだから、今日起きるのが遅れてしまったのね」

「し、商品開発だと!?」

「つ、鶴馬さん、あなたもう働いているの!?」

「働くだなんて大層なものでもないわ。ちょっと閃いたものを提案してあげるだけ。空いた時間にやる程度だから、学業に影響も出していないわ。まあ、その学業もカリキュラムのほとんどは前倒しで終えているから、この学校に来る意味も本当はあまり無いのだけれどね」


 千歳の淀み無い説明に、飛鳥や角華、そして他のほとんどのメンバーが驚かされた。


「でも遅刻は遅刻、そんなのは言い訳に過ぎないわよね。だから、そのお詫びということでフィールドまでわたくしが案内してあげるわ」

「お前が、直接俺達を案内する、だと?」

「ええ。それなら文句はないでしょう?」

「ふん、まあな」

「じゃあ、早速行きましょうか、忍足飛鳥君」

「俺を知ってるのか!?」

「対戦相手だもの、詳細な情報はきちんと把握しておくのは当然よ。それに他の子達のことも、もちろん知っているわ。調べてくれたのは闘子ちゃんだけれどね」


 千歳が後ろに控える闘子に目を配ると、闘子は表情も乏しく無言で頷くのみ。

 顔を戻した千歳、今度は玉守達を順番に見ていく。


「3年で部長の玉守将希君と、同級生の姫野宮角華さん、2年の駒木金瑠君と銀羅ちゃん、明石桂吾君、そして水城香子ちゃんに弟で1年の歩君。ここまでが去年から今年のメインメンバーとして活動しているのよね。そして、今年から新しく入部してきた浜沼浩介君」


 次々に名前と顔を一致させていく千歳。

 若干存在感が薄めな浩介まで知っていたり、この聖翼女学院にも女子の制服で普通に来ている金瑠を男だと認識して君付けで呼んでいる辺り、調査に抜かりが無いと見て取れる。


「更に、同じく新しく入部した千瞳風鈴ちゃんと転校して編入してきたサラ・ランダルタイラーちゃん。あなた達はわたくしと同じスペリオルコマンダーだったわね。そして最後に……、あら?」


 風鈴、サラと流れるように見ていった千歳だったが、大和を見た千歳の表情がキョトンとしたものに変わる。

 千歳と顔馴染みの大和、その目は真っ黒な大きめのサングラスで遮られて、どういう視線を送っているか定かではない。


「大和君ったらどうしたの? 今日はそこまで日射しが強くはないと思うけれど……、それ以前にそんなサングラスなんて、今までかけてたことあったかしら?」

「ああ、いや……、何というか、これは……」

「オシャレだから! 何か文句ある!?」


 答えに窮する大和に代わり、サラが前に立ちはだかって答える。

 答え方が苛立ち気味なのは、大和に対する千歳の親しげな接し方から来ているようにも取れる。


「ああ、そういうことね。文句なんて無いわ。ただ、サングラスが無い方が素敵な顔が見られると思っただけ。さあ、こっちよ」


 察した千歳は深く問わず、闘子を従えて奥の通路を先導するように進み始める。

 タクティクス・バレットメンバーも後に続く。


「それにしても、まさか君のような大物に直接案内してもらえるとは思わなかったよ」

「今日は単純に遅れてしまった訳だけれど、普段だって別にわたくしが案内したって良いとは思っているのよ? でも、わたくしのことをそうして大物扱いというか、 偶像(アイドル)扱いする人も多いから、敢えてそうしないでいるだけよ、大和君」


 知り合いという間柄の大和が千歳と何気ない会話をしながら、通路を並んで歩いていくのを、後ろからジッと睨み付けるサラ。

 その近くに、角華と飛鳥がそっと近付く。


「(どうだ、サラ公。女帝に怪しいところは見られるか?)」

「(そんなすぐに見つかる訳ないでしょ。手の内を隠してる感じじゃない?)」

「(そうよね……。みんなはどう?)」


 角華が振り返ると、メンバーは全員が首を横に振る。

 ここまで特に触れないでいたが、いつもは騒がしいはずのメンバーがずっと静かにしているのには理由があり、何人かは大和と同じようにサングラスをしていたり、イヤホンを着けていたりする。

 千歳のEXSが幻を発生させるという事実を受け、真っ先に疑ったのが視覚及び聴覚から何らかの干渉を受ける可能性。

 それを防ぐために事前に考えたのが、目や耳を遮ってしまおうというものだった。

 それでどこまで防げるか確証はなく、やらないよりはマシだという程度の判断。

 どこで仕掛けてこられるか分からないが、メンバー全員の反応から今のところは不審な点は見当たらない様子。


「さあ、もうすぐフィールドに着くわ。自慢じゃないけれど、結構良い造りになってるから、大和君や他の皆さんもきっと気に入ると思うわ」

「そうなのか。良い造り、というのは?」

「見てからのお楽しみよ♪ 元からこの女学院にあったフィールド、わたくしが出資をして新しく生まれ変わらせたの」

「凄いな、流石は鶴馬といったところだな」

「千歳、って名前で呼んでくれても良いのよ?」

「いや……、遠慮しておくよ」

「あら、残念。ふふっ♪」


 背中からサラの無言の視線を感じたような大和は千歳との会話をそこで切り上げる。

 しばらく歩いた先に、目的地らしきところが見えてきた。

 華やかな女学院らしい内装の雰囲気から一転して、無機質なコンクリート壁が横に長く続いている学内フィールドの外観はどこか冷たい印象を与えていた。

 重々しい扉の前に到着し、千歳は横にある開閉スイッチに手をかける。


「ここが、今回使用するフィールドよ」


 一言前置きした後、スイッチを押すと扉がゆっくりと左右に開かれる。


(小栗ちゃんの情報通りなら、ここのフィールドは確か……)


 小波が語っていた聖翼女学院のフィールド情報を、大和は思い出す。

 公式フィールドというのは内部構造やシステムをきちんと国が管理する関係で一般に公開されることが原則で、別に秘匿されている訳ではない。

 調べれば情報を知ることも可能なのだが、基礎トレーニング漬けの日々を送っている大和達は詳しく調べる時間も取れず、小波が代わりに現地調査を行っていた。

 しかし、小波は正規の部員ではないために公式戦当日は付き添えず、今は観客席の場所取りをしている。

 扉が開ききった先にあるフィールドのスタート地点が、大和達の目に晒される。

 一言で言えば、お洒落そのものといった風情で西洋の古城を思わせるような壁が通路となっていて、それが奥に続いて迷路のようになっているアウトドアフィールド。

 夜間でも使用可能とする照明の数々も、クラシカルに凝ったものが備え付けられていて、趣味の良い雰囲気となっているのだが、サバイバルゲームのフィールドとしては戦争するイメージの湧かない出来であるのは否めなかった。


「これは……」

「サバゲーとしては場違いかもしれないけれど、ファンタジーな雰囲気の中に近代兵器を持ち込んだらどうなるか? というコンセプトで考えてみれば、逆に面白い趣向だとわたくしは思っているわ」

「前に鶴馬と出会ったところのフィールドも、どこか似た雰囲気だったような……」

「『Noble Eden -貴族達の楽園- 』でしょう? あのフィールドのコンセプトとデザインも、わたくしが考えたのよ」


 大和が思い出したのは千歳と久しぶりに再会したアウトドアフィールドであり、確かに雰囲気を考えたら納得ではあったが、


(おかしい……、小栗ちゃんから聞いていたのと、雰囲気が大分違うような……)


 大和は首を傾げる。

 それは他のメンバーも同様で、不思議そうに中を見渡しては目を細めてみたり、大和と同じく首を傾げていた。


「鶴馬、ここは本当に今回使うフィールドなのか? 聞いていたのと違うような気がするけど……」

「わたくしが出資をして生まれ変わらせたと言ったでしょう? 大丈夫よ、通路の位置とか構造までは弄っていないから違反になるほどではないわ」

「そ、そういうものなのか? だが、それなら案内の方にもコンセプト変更の旨を載せておいても良かったんじゃないのか?」


 大和と千歳が話している間に、サラがフィールドに入っていく。

 壁に近付いていくと、サラは何かに気付いて表情を変える。


「みんな、違うわ! これは……、この女の幻よ!!」

「「「何っ!?」」」


 サラが千歳に指を突き付けて叫び、メンバーを驚かせる。


「あら、少しは騙せるかと思ったのだけれど、あっさりバレちゃったわね」


 当の本人は軽やかに微笑み、指をパチンと弾き鳴らす。

 途端にフィールドの古城風の壁一面に亀裂が走る。

 あたかもプロジェクションマッピングで空間そのものが崩れる映像でも見ているかのような、異質な光景が広がっていく。


「うっ……!!」

「あなたたち、このフィールドを直接見に来てないということだったから、ちょっとしたイタズラしちゃったのよ、ごめんなさいね。さあ、これがこのフィールドの本当の姿よ」


 フィールドだったものが全て剥がれ落ち、そこから新たなフィールドの姿が現れる。

 先ほどまでの西洋ファンタジーな雰囲気など跡形も無くなり、外側のと同じ無機質なコンクリート壁を通路として、現代にも通じる構造に差し替えられる。

 大和が聞いていたフィールドの元々の名称が「囚人達の楽園」と呼ばれ、その名前からも連想出来るように囚人を捕らえておく監獄というイメージで作られたという。

 監獄などという、女学院にあるとは到底イメージ出来ないフィールドが作られた背景には、華やかに見える物事の裏には暗く恐ろしい事実も存在しうるという考えでもって、女学院が世の中に誇れる強い女性を輩出していくにあたり、理想と現実をテーマに製作を依頼された経緯があるからとのこと。

 今の姿こそ、小波からの情報通りの外観であった。


「わたくしは雰囲気とか結構気に入っているのだけれど、あなたたちはどうかしら? もしかして、こういうのは苦手だったりする?」

「いや……、どちらかというとこちらのイメージを聞かされてはいた。だから、むしろ先ほどの方が驚かされたよ。しかし、これは……」

「やってくれるわね、鶴馬千歳! このタイミングでの能力披露、ワタシがアンタのEXSを見破ってるって分かっててやったわね!?」

「そうよ、サラちゃん。大和君と会って話していたあの時、サラちゃんったら盗み聞きしていたのよね? 大和君達がサングラスをかけている時点で、わたくしのEXS対策用だとすぐに分かったわ。それで、効果はあったのかしら?」

「くっ……!」


 サラが苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

 実際、フィールドが崩れていく光景を目の当たりにしたということは、メンバーが装着していたサングラスもイヤホンも全く効果が無かったと証明されたということ。

 見破ったサラ本人ですら、自身のEXS「絶対領域」のゾーンに入り込ませなければ確認が出来ず、その範囲外にあたる部分は視覚での幻覚の影響を受けてしまう。


「さあ、フィールドの案内はこれで終了よ。時間いっぱいまでじっくり確認していってね。それではわたくしはこれで失礼するわ。公式戦、楽しみにしているわね♪」


 タクティクス・バレットメンバーを一通り眺め、最後に大和にウィンクを送った後、長い黒髪を優雅に靡かせながら元来た道を戻っていく。

 その後ろを闘子も付き従っていたが、しばらく進んでから唐突に振り返る。


「千歳様のEXSの性質を理解した上で、今日に至るまでの間に対策を立てて臨もうとした事は評価する。例えそれが無駄に終わる対策だとしても。だが仮に万が一にも千歳様のEXSを封じたとして、それだけで勝てるなどと思い上がらないでもらおう。EXSも千歳様の崇高なるお力の一端に過ぎない。本気を出せばお前達程度、素の実力だけでも千歳様お一人で十分。加えて、この私や精鋭である隊員達もいる。お前達が今日どう立ち回るのか、千歳様ではないが私も楽しみにさせてもらう」


 楽しみという割には楽しげに見えない無表情なまま一方的に告げた後、こちらもタクティクス・バレットメンバーを一通り眺め、最後に一瞬だけ大和を睨んでから前に向き直り、再び千歳を追っていく。

 残された大和達はその後ろ姿が曲がり角で見えなくなるまで、しばらく見送っていた。


「くそっ……! フィールドの見た目まで変えられるとか、何でもありかよ!?」


 飛鳥は悔しげに自身のサングラスを剥ぎ取るように外す。


「結局、サングラスとかは意味が無かったわね」

「俺達の相手がいかに強大かを思い知らされるパフォーマンスとなったな」

「関心してる場合じゃねぇぞ、角華、将希! 今日の公式戦、こいつを何とかしなきゃならないんだぞ! 大和、EXSについて何か対策立てられそうか?」

「いえ、今のだけですぐに対策を立てるには情報が少な過ぎます。フィールドの内部も確認したいですし、時間もありません」

「ちっ、仕方ねぇ! フィールド見ながら考えていくしかねぇか! いくぞお前ら!」


 飛鳥の号令で、メンバーはフィールド内を走り回って地形や障害物等を確認していく。


(ワタシの『絶対領域』でなら何とか出来るって思っていたけど、考えが甘かったわ……! さすが女帝といったところね、少しでも突破口を見つけられるようにしないと……! 温存だなんて言っていられないわね。いざとなったらあの奥の手を……)


 サラもまた、メンバーと共にフィールドへと駆け出していこうとしていた。


「待って、サラ!」


 それを止めたのは、風鈴だった。


「何、どうしたのよ風鈴?」

「私、どうしよう、このままでいた方が良いのかな?」

「このままって、そんなの……、ってそういえば風鈴だけは指示がちょっと違ったわね。それでどうだったの?」

「うん、それがね……」


 風鈴は何事かをサラに伝える。


「へえ~! それはみんなにとっても朗報ね、やるじゃない!」

「そ、そうかな?」

「じゃあ、今すぐみんなに知らせなさい! ワタシはフィールドを確認してくるから!」

「うん!」


 サラがフィールドへと駆け出すのを見送った風鈴、


「皆さん、聞いて下さい! 皆さんの見立て通り、私には女帝さんの幻が聞きませんでした!」


 トランシーバーを起動し、全体に連絡する。

 風鈴の報告はメンバーの希望となって伝播していき、その後の作戦へと繋がっていくことになる。

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