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A・A対策の最中で知らされる、もう1つの脅威

 大和が千歳と再会した日の翌日。

 小波以外のタクティクス・バレットメンバーの揃った部室内では、緊張感が漂っていた。


「さて、それではこれからミーティングを始める訳だが……今回はやはり大和君達の話から聞くべきだろうな」


 玉守からすぐに発言権を託された大和が頷き、


「内容については昨日の連絡の通り、自分は女帝と呼ばれる鶴馬千歳と遭遇し、話をしました。その中で発覚した状況から、公式戦での対策を考えていきたいと思っています」


 今回の議題を発表する。


「赤木君から連絡をもらった時は本当に驚いたわ。赤木君がまさかあの鶴馬千歳さんと知り合いだったなんて……」

「それな! ったく、なんで前回名前が挙がった時にそれを言わなかったんだよ!?」


 角華も困惑した感じで他のメンバーも似たようなものだったが、飛鳥はそれ以上に少し責めるような雰囲気を飛ばしてきていた。


「すいません、それについては謝罪します。後でまとめて語りますが、まずは皆さんに聞いて欲しいものがあります」


 大和は頭を下げつつ、サラに目で合図を送る。

 サラは自分の生徒手帳の画面を、前回大和に聞かせた内容にセットし、音量を最大にして部室の真ん中にある机の上に置く。


「ここには、大和と鶴馬千歳が昨日会話してた様子を録音してあるの。みんなも確認してみて」

「つまり、あの女帝の生の声が聞けるってことっすか!? おお~緊張するっすよ!」

「有名過ぎて忙しそうだったり、私達と別世界で近寄り難い感じの人だから、近くで聞けるなんて滅多にないわよね!」


 桂吾や香子の言葉に共感して頷くメンバー。

 だが、


「水を差すようで悪いけど、そういう次元の話じゃないわ」

「えっ?」

「聞けば分かるわ。じゃあ、再生するわよ?」


 幾分険しい表情のサラに、訳が分からない様子のメンバーだったが、サラは構わず動画を再生する。

 まず聞こえてきたのは、大和の声。

 途中からの録音だったようで、最初から全部の内容が入ってはいなかった。


『どういう意味かな?』

『……………………』

『それはつまり、君がそう仕向けたという事なのか?』

『……………………』

『いくつか気になることはあるけど、まずどうやってここで会う形に出来たんだ?』

『……………………』


 この後もこんな調子で続いていくのだが、最後まで聞かない内にメンバーも違和感に気が付く。


「ん? おい、肝心の女帝の声が入ってねぇじゃねぇかよ?」

「うん。赤木君の声は、はっきり聞こえてくるけど……」

「ダイワンが独りで喋ってるようにしか聞こえないにょ」

「まるで普段のボッチ先輩みたいだにょ~?」

「それはつまり、独り言ならぬ飛鳥言ってことっすね?」

「おいコラてめぇら……よほど今日の練習で地獄見てぇらしいな……!」

「飛鳥、今はこっちの話をきちんと聞きなさいよ。赤木君達がせっかくこうして真面目に話してくれてるんだから」


 コソコソと密談してるはずが、飛鳥にバッチリ聞かれて殺気が籠る視線を浴びる双子と桂吾の3人。

 すかさず角華が割って入る。


「ちっ! てめぇら後で覚えておけよ? それで大和、こいつは本当に女帝との会話内容の録音で間違いないんだな?」

「はい。自分は確かに鶴馬と話していました。どんな内容の話であるかも覚えています」

「まあ、お前や千瞳やサラ公がふざけた悪戯でこんなものを作るはずねぇのは疑っちゃいねぇが、こいつは……」

「自分もこの内容を確認して驚きました。音声の記録が残っていないとは思いませんでしたから。ですが、この現象についてはサラのおかげで解明されました」


 言いながら大和はサラに顔を向け、他のメンバーもそれに続く。


「みんな、良く聞いて。まずは結論から先に言わせてもらうわ」


 視線を一身に受け、サラも全体を見返して間を置く。


「……これはね、鶴馬千歳のEXSによるものよ」

「何だと!! 女帝のEXSだぁ!? そいつは本当なのか!?」

「本当よ、忍足。ワタシにははっきり確認出来たのよ」

「どうしてこれがEXSなの、サラちゃん!?」

「落ち着いて姫野宮、順に説明するから。まず、ワタシと風鈴は大和の指示で、カフェに入ってから鶴馬千歳のすぐ後ろに着席したのよ」


 その時の状況を、サラは語り出す。

 なお、大和の指示としたのは大和自らの提案。

 メンバーから余計な詮索をされないようにとの配慮だ。


「録音を始めるのと同時に、ワタシと風鈴も会話に耳を傾けていたわ。だけど、ワタシも風鈴も鶴馬千歳の声は聞こえてなかった……」

「そうなんです! 私も大和さんの声だけしか聞こえてなくて……本当に大和さんの1人芝居みたいに感じちゃいました」

「『絶対領域』で確認した鶴馬千歳は普通に席に深く座ったままで、一言も発してなかったの。きっと他のお客がもし2人の様子を見たとしても、大和だけしか話してないように見たはずよ。でも、ワタシは……ううん、ワタシの『絶対領域』は見逃さなかった。その決定的瞬間を……!」


 サラは再び一瞬の間を置き、もう一度全体を見渡してから、核心へと進む。


「鶴馬千歳は……自分の体から、自分の姿の幻を出していたのよ」

「…………は? 幻だと??」

「ち、ちょっと待ってサラちゃん……! 色々と突拍子が無さすぎて理解しきれないわ……つまり、赤木君と話していたのはその……鶴馬さんの、幻?」

「そうよ。幻を見せる能力、それがあの女帝と言われてる女のEXSみたいね」


 状況を聞かされた飛鳥や角華だが、内容があまりにも想定外だったために困惑した様子。

 他のメンバーも、頭上に「?」や「!」が浮かんでいる状態だったが、サラは気にせず淡々と状況説明を語っていく。

 サラによると、幻の方の鶴馬千歳は『絶対領域』の中では体が半透明だったようで、声までは聞き取れなかったが口の動きはタイミング的に大和と会話してるのと重なってたとの事。


「悪い冗談聞いてるみてぇだな……! いきなり幻とか言われても頭が追いつかねぇ……! 大体から大和、お前は気付かなかったのか? 正面でその女帝と話していたんだろ?」

「そうですね、不覚にも気付けませんでした。サラと違い、自分には普通の鶴馬と変わらない姿でしたから。まさか幻と話していたなどと思えませんし……」

「まあな」


 飛鳥も状況を想像して、渋い顔をしながらも理解する。


「ん~……でもあれっすね? ちょっと拍子抜けというかなんというか……」


 飛鳥に比べて、桂吾はそこまで驚いた様子はない。


「確かに幻を見せるだなんてやろうと思っても出来るものじゃないっすけど、それだったら千瞳さんとかサラさんとかの方がよっぽど凄い能力みたいな気がするんすよね」

「女帝って異名の割には、地味な気もするよね? 姉さん」

「そうよね。風鈴ちゃんがフィールド全体見れるとか、サラちゃんが弾を避けられるっていうのと比べるとね」

「キルちゃんは目立つ能力が良いにょ!」

「ギラちゃんも派手な能力が良いにょ~!」


 強いイメージが湧かないためか、桂吾に限らず下級生メンバーのほとんどが千歳のEXSに対してそこまで危機感を持っていない。


「揃いも揃ってアホかお前ら!」


 飛鳥が相変わらずの強口調でメンバーを一喝する。


「EXSだなんて普通にあるだけでも厄介だろうが! 同じEXS使える千瞳やサラ公が言うならともかく何の強みも対抗策もないのに派手だの地味だの余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!」

「「「うっ……!」」」

「ついでに言っとくとな、その女帝だけが厄介ってんじゃねぇよな。頭張ってんのが個人最強の『東邦三帝』の1人って時点でも脅威だがな、『A・A』は国内でサバゲーが最も強い千葉の中でも屈指の実力を誇るチーム、『千葉の3強』の1つだぞ? チームの練度だってシャレになってねぇのを忘れんな!」


 飛鳥の正論に言葉を失う後輩達。

 一方で、玉守と角華は感心している。


「ほう、『鉄砲持ちなのに無鉄砲』だなんて言われてた男がな。飛鳥、お前も少し成長してきたかな?」

「単騎で敵陣に乗り込むために突っ込んだ特攻のし過ぎで『飛鳥ノリツッコミ』って言われてたりもした飛鳥先輩が凄いっすね!?」

「誰だよ俺をそんな風に考えてたやつは!? ってかどういうこったよ将希!? そして桂吾!! 『飛鳥ノリツッコミ』とは良い度胸だなてめぇ!!」

「お、俺が言ったんじゃないっすよ!」

「なんで不満そうなのよ。飛鳥はいつも自分勝手に突っ込んでいくタイプじゃない? 勢いばっかり先行してるアンタがちゃんと冷静に考えているって、玉守君は褒めてるんじゃない」

「別に今までだって何も考えてなかったわけじゃねぇよ! ただ、大和達が来る前は俺達が一番上だっただろ? 最前線突っ走っていくのに誰かしら勢いつけなきゃなんねぇじゃねぇか。将希も角華も慎重派だから俺が適役だと思ってやってたんだよ!」

「え? 今まで突っ込んでいってたのって、考えてやってたことだったの?」

「ったりめぇだろ!」


 意外そうな角華の顔を見ては苛立ちを募らせる飛鳥だったが、一呼吸おくとそれも落ち着かせる。


「……とにかく! まだ詳細な運用が分かってねぇ内から油断してんじゃねぇ! 女帝の実力なんていくら下駄を履かせた想定しても足りねぇだろ!」

「その通りです。鶴馬は女帝と言われる前から既に次元の違う実力を持っていました。幸い鶴馬の能力の性質だけは明らかになった分、何も無いよりは僅かだけでも優位とも思いますが、挑むなら今まで以上にシミュレーションを繰り返していくべきですね」

「ちなみに大和君、君も女帝の能力は大したことはないと思うかい?」

「いえ、そうは思いません」


 玉守が大和に問うと、大和は即座に否定する。


「言われなければ幻だと分からない存在というのは非常に厄介です。自分が狙った相手が幻だったとしたら、狙い撃っても当たらないことになりますから。それに姿や声を届ける相手を限定させられる指向性の高さを考えると、敵に気配を悟られることなく味方に正確な指示を出せるとも言えます」

「ふむ。サポート能力は高いと言えそうだな」

「しかも、その能力の性質については判明しましたが、その詳しい性能まで特定出来た訳ではないです。幻は何人発生させられるか? 鶴馬本人以外の幻も発生出来るのか? 有効範囲や距離はどの程度なのか? など、重要な情報はまだまだ謎のままです」

「という大和の見立て、お前らはどう考えてるんだかな~?」

「……反論ありません」


 飛鳥から嫌味ったらしく振られて項垂れるメンバー。


「……何はともあれ、大和君達のおかげで女帝のEXSの情報だけでも多少は仕入れることが出来たんだ。ここから考えられるだけの対策は考えていこう。皆も、何か思うところがあれば聞かせてくれ。鍵になるのは、やはり同じスペリオルコマンダーの風鈴君とサラ君になるとは思うんだが……」

「もちろんよ! 女帝のことはワタシに任せなさい!」

「私も、精一杯頑張ります!」


 玉守から挙げられた2人の頼もしい言葉に、メンバーのほとんどがテンションを上げていく。

 そんな中、大和はまだ顔を険しくしたままだった。


(確かにこれで謎は解けた。声を録音出来ない幻だからこそ、証拠に残らないと分かっているから、鶴馬はあれほどはっきりと自身の悪事をバラせたんだ。だが、同時に別の疑問が出来た……仮に幻を発生させる能力だとしたら、どうしてサラの『絶対領域』で幻を知覚出来たんだ?)


 大和の疑問とは、何故サラの知覚のゾーンが千歳の幻を捉えることが「出来てしまった」のか、ということ。


(幻、というなら視覚に関わるものだ……俺は目の前にいたから仕方ない。でも、サラは店に入ってから一度も鶴馬を見ていないはずなんだ。触れられもしない幻を知覚出来るはずは……いや、それで考え直してみれば、声は聴覚に関わる領域……幻から鶴馬の声が聞こえること自体もおかしくないか? 俺の考え過ぎなんだろうか?)


 考え過ぎても前に進めないから最終的な決断こそするが、普段から心配性な大和、今回は特に疑問が尽きない。

 一方他のメンバーは、聞き取った情報から自分なりの方針を決めようとしていた。


「まあ幻だけ出場させるなんてしねぇだろ! 幻は幻だ、弾が当たらねぇのは向こうも変わらねぇ。それじゃゲームが成り立たない以上本体も中にいるんだろうからな、油断は出来ねぇが狙えない相手でもねぇ! 各自でどうするか対策出しつつ、女帝撃破目指すぞお前ら!」

「ちょっと! 女帝はワタシ達に任せなさいって言ったじゃない!」

「メインはお前らで良いんだよ! だが、お前ら2人だけに任せっぱじゃ俺達はただの怠け者じゃねぇか!」

「お互いの戦略とフィールドの動き次第では、サラ君達に最初に女帝が当たるとも限らないからな」

「ま、まあ、それはそうだけど……」


 女帝を軽くは見ていないにしても、こうして前向きに考えられるメンバーを見て、頼もしさを感じる大和だった。


「しっかしアレだな、こういう情報仕入れる本来の担当は何やってんだかな? まさかサボりやがってるんじゃないだろうな?」

「そんなわけ……!! ハァ……ハァ……!! ないじゃ、ないですか……!! ハァ……ハァ……!!」


 飛鳥がぼやくちょうどのタイミングで、小波が肩を上下させて息を切らせながら部室に入ってくる。


「おっ! やっと来やがったか!」

「ハァ~……! 最近は新聞部でも色々と忙しくて、こちらに来る時間が削られ気味なんですよ~……」

「そうよね、小波ちゃんの本業は新聞部なんだから仕方ないわ。急がせちゃってごめんね?」

「あ、大丈夫ですよ、姫野宮先輩! 新聞作るのとか色々な作業は部長さんに全部押し付けてます! 小波が時間取られているのは単純にネタを報告してるだけですから!」

「熱心にこちらに来てくれているのはありがたいが、新聞部はそれで大丈夫なのか?」

「問題ありません! 部長さんは事務作業が得意な代わりにネタ探しとか調べ物とかが苦手なんで、これも立派な役割分担というものですよ! 新聞部についてはまあ置いといて……それより大変なんですよ!!」


 自身の本来の所属に対してずいぶん冷たく扱う小波だが、メンバーもその辺はノリで理解してきており、小波の次の言葉に耳を傾ける。


「皆さんが次に戦う『A・A』で分かったことがあったので、その報告です! もう驚いて腰を抜かしちゃうかもですよ!!」

「ほう! それはもしかして、女帝のEXSが分かったとかそういうんじゃないだろうな?」

「へっ? い、いえ、それはまだですけど……」

「何だよ、まだまだだな! それについては大和やサラ公や千瞳が発見してきたぜ!」

「ええっ!? そ、そうなんですか!? 赤木先輩、サラ先輩、千瞳先輩、凄いです!」

「サラが見つけてくれただけで、俺は凄くはないかな」

「私もです……サラが凄いの!」

「ふふん、まあね!」


 称賛されてサラはご満悦。

 小波も一瞬、逆に驚いたように目を見開いてサラを見つめていたが、すぐに我に返る。


「た、確かにそれはビッグな情報ですね! ですが、こちらはこちらでとんでもない情報を仕入れてしまったわけですよ!」

「それは興味深いな。女帝以外にも『A・A』には脅威があるということかな?」

「その通りです! というより、小波の情報もあってようやく対策が立てられるのではないでしょうか!」

「情報に自信ありか、上等っ! なら早速聞かせてもらおうか!」


 千歳のEXSを聞かされて、テンションが若干高いままの飛鳥。

 少しやけくそ気味なのもあるかもしれない。


「では、小波が収集した情報を発表します! 実は数日前、『A・A』の模擬戦がありまして……」

「なにっ!? 『A・A』の模擬戦だと!? そうか、そこで戦力の分析が出来たってことだな?」

「いえいえ、行くには行きましたがその模擬戦では大した情報は得られなかったんですけどね!」

「得られてねぇのかよ!?」

「仕方ないじゃないですか! 主力が全然いない調整みたいなものだったんですから!」


 飛鳥と小波のテンションのぶつかり合いが最近では漫才染みたお馴染みの光景になりつつあり、飛鳥に苦手意識を持っていた風鈴もようやく普通に見れるようになっていた。


「ですが、収穫はありました! 試合そのものではないですが、その試合の観客の中に、やけに熱心に試合観戦をしている人がいまして……ちょっとお話を聞いてみたところ、何と『A・A』と公式戦経験のある方でした! こちらの素性を明かした上で、ダメ元で『A・A』の情報を教えてもらえないか尋ねてみたら、サラ先輩のサインを条件に教えてもらえました!」

「へっ!? ワタシ!?」

「はい! 何でも『女王&兵隊』の頃からサラ先輩の大ファンだったそうです!」


 小波が取材したその人物は、サラが「女王&兵隊」にいた当時から追っかけをしつつ、公式戦も挑んでみたいと思って申請を送っていたようだったが、サラが設定した条件に合わないために弾かれ続けており、サラが「タクティクス・バレット」に移籍した後も熱心に申請し続けていたのだが、それより先に「A・A」の申請が通って公式戦を行ったとのこと。


「ワタシの大ファンだとか言っておきながら女帝のところにも申請出してたってわけ?」

「『A・A』に申請を出してたのは別のメンバーの方だったみたいです。そちらの方は逆に鶴馬千歳さんの大ファンだったそうでして……」

「あ、そういうことね。それにしても、何でワタシがサインするなんて話になってるわけ?」

「そ、それは……経験者から話を聞けるなんて無いと思いましてつい……ここはどうか、よろしくお願いしますサラ先輩!」


 深々と頭を垂れながらサイン色紙を差し出す小波に、どこか納得いかないような不満げな顔で渋々とサインをするサラ。


「……はい、これで良い?」

「ありがとうございます! 事後承諾になってしまいましてすみません……」

「それ自体は構わないけど、連絡の1つでもくれれば良いじゃない。勝手に話進めちゃってもう……それはそれとして、そのファンだとかいうのは何で試合終わっても、また『A・A』の試合を観戦に来てたの?」

「それはですね……もう一度だけでも、きちんと試合を外から見たかったからだそうです」


 小波は情報を公開し続けながら、受け取ったサイン色紙を大事そうに鞄に入れる。


「どういうこと?」

「あまりにも呆気なく速攻で『A・A』に負けてしまって、自分達も何が原因だったのかその場では分からなかったから、模擬戦でも良いから確認出来れば……と言ってました」

「そりゃあ、女帝はワタシ達と同じスペリオルコマンダーなわけだし、呆気なく負けるのも仕方ないというか……」

「いえ、違うんですよ、サラ先輩。その当時の公式戦では鶴馬千歳さんは多忙のために来てなかったそうです」

「じゃあ女帝抜きで、チームの練度だけで負けたってこと?」

「それとも少し違うみたいです。鶴馬千歳さんの代理で来たリーダー格の方、たった一人に圧倒されてしまったそうです。名前は前島闘子さん。確認したところ、鶴馬千歳さん直属の側近の方だそうで、リザルトはパーフェクトゲーム……しかもその時の試合時間、たったの20秒ほどだったとか……」

「「「「「20秒でパーフェクトゲーム!!?」」」」」


 ここに至り、更なる衝撃の内容にメンバーが口を揃えて反応。

 それもそうだろう、開始直前にどれだけ速攻で敵陣に駆け出していったとしても、通路の壁で囲まれるサバイバルゲームのフィールド内においてそれだけの短時間で、しかもパーフェクトゲームを決めるのは物理的に不可能だろう。


「結局、その模擬戦には前島闘子さん自体もいなかったそうなので真相は分からずでしたが……パーフェクトゲームは元より、そんな秒殺が可能だとしたら、その前島闘子さんもまたスペリオルコマンダーということで間違いないでしょう。公式戦の相手のオーダー次第ですが、最大戦力で挑んでこられるとしたら、私達はスペリオルコマンダー2人を擁する『A・A』と対決することになります。今までの中で間違いなく最強クラスの相手というのは疑いないですね」


 小波の情報を聞き、驚愕の騒がしさから一転して広がる沈黙。

 その後しばらくは相手の強さや凄さについての考察が続くが、メンバーなりに最終的な結論を出し、それに対する攻略のために公式戦までの残りの時間を鍛練に費やしていくことになる。



 ※  ※  ※  ※



 大和達が小波から情報を聞いているのと時を同じくして、話題の中心である前島闘子は主である鶴馬千歳と共にとある場所に赴いていた。

 その場所にある建物には工事用の覆いがしてあって外からは見えないようになっている。

 建物の外にて1人、闘子は直立不動のまま瞑想でもするかのように目を閉じていた。

 しばらくそのまま時が経過した後、建物の中から出て来る人の気配を察し、闘子は目を開けて振り返る。


「いかがでしょうか? 千歳様」

「ふふっ、これなら上出来よ。あとは時が来るのを待つだけね。それじゃ今日のところは帰りましょうか、闘子ちゃん。少し汗をかいてしまったからシャワーを浴びたいところね」

「かしこまりました」


 問いかける闘子に、千歳は運動でもしたように顔を上気させながらも、大人びた美貌を妖しく微笑ませる。

 闘子から差し出されたタオルで汗を拭き取りながら、建物の外に待たせた車に乗り込む千歳。

 反対側から闘子も乗り込み、車は発進する。


「千歳様、お疲れのところ申し訳ありませんが、ご報告があります」


 車を走らせてからしばらくして、闘子が口を開く。


「何かしら?」

「先日、我らがチームと公式戦を行っていた相手チームの中の1人が、その後に行わせた模擬戦を観戦中にタクティクス・バレットチーム側の情報収集者と接触した件についてです。その者の素性を調べた結果、サラ・ランダルタイラーのファンの者だったと明らかになりました」

「あのチームにはサラちゃんのファンも何人かいたというのは調べがついてたわ。公式戦の時に、条件については話しておいたのよね?」

「はい。『敗北において、タクティクス・バレットと公式戦を行わないことと、その条件に関する情報漏洩の禁止』という内容で徹底はさせましたが、試合内容に関する情報については特に定めてはいません」

「だったらサラちゃんファンらしいギブアンドテイクで、試合内容が漏れている可能性が高いわね。今ごろは闘子ちゃんがスペリオルコマンダーだということに気付いたかしら?」

「今のところ、千歳様の思惑通りに事が運んでいると見て間違いないでしょう」

「だと良いわね、うふふ♪」


 車のシートに深く体を預け、進行方向を眺めているようでどこか別の何かを見つめるように目を細める千歳。

 情報が漏れているという想定をした上で、それを気にも留めていない。


「だけど闘子ちゃん、わたくしの目的のために付き合わせてごめんなさいね? 闘子ちゃんのことだから、相手に実力の全てを把握させるような愚を犯すとは思えないけれど、大和君ならある程度の情報から戦力を読み取るくらいはやると思うわ。味方を不利に追い込むなんて、やり方としては褒められたものではないと反省してはいるのよ。闘子ちゃんの戦績にも響いてくるかもしれないわね」

「お気になさらず。戦力が多少割れたとて、更なる力で相手をねじ伏せるのが流儀。それに私は千歳様に忠義を誓う者。千歳様の計画を遂行するためならば、喜んで死地にも向かいましょう。私の戦績なぞ、千歳様の計画以上に優先させるものではありません」

「いつもながら、お堅いわね。もう少し柔らかくなっても良いと思うのだけれどね?」

「申し訳ありません、性分でして」


 褐色な肌で表情が乏しい顔の闘子が頭を垂れて謝罪し、色白な肌で表情が優雅な顔の千歳が少し困ったように眉を傾ける。

 対照的な2人だが、バランスの取れた雰囲気でもあった。


「それにしましても、千歳様のターゲットとされる赤木大和とはどういった男なのですか?」


 ふと、闘子はそんな質問を千歳に投げ掛ける。


「あら、闘子ちゃんも異性に興味出てきちゃったかしら?」

「異性に大した興味などありません。千歳様が御執心の男というのがどのような存在なのか。側近として、理解しておきたいと思った次第です」

「そう。残念ね、闘子ちゃんとはいつか女子トークの1つでもしたいと思っていたのだけれど」

「私の判断基準は実力のみです。求める分野において高い能力を発揮するならば、敬意の是非は老若男女を問いません」

「ふふっ。それなら、大和君の事は闘子ちゃんもきっと気に入ると思うわ」

「それは興味深いですね。理由をお聞かせ頂いてよろしいでしょうか?」

「簡単なことよ」


 表情こそ乏しいが、僅かに聞き取る姿勢を見せた闘子に、妖艶な微笑みと共に千歳は答えを返す。


「大和君はね、わたくしに勝ったことがある唯一無二の男なのよ、うふふっ♪」


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