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女帝、鶴馬千歳からの交渉

「鶴馬……まさか、君とこんな形で会えるとは思わなかったよ」

「もう、わたくしの事は千歳って、名前で呼んでくれても良いのに」


 千歳は薄く微笑みながら、大和を見つめてくる。

 対して、大和の顔には幾分かの緊張感が浮かんでいたが、そうと見せないように努める。


「昔から名前で呼んだ試しはなかったと思うけどね?」

「変に堅苦しいところは相変わらずね。だけど、今度からもう少し気を配っておいた方が良いと思うわよ? 声で分かってもらえると思ったのに、大和君ったらなかなか気付かないんだもの。忘れられたかと思って、少しだけ傷付いたわ」

「すまない。さっきも言ったけど、こんなところで君と出会えると思っていなかったから油断していたんだ。しかし、凄い偶然があるものだな」

「わたくしと大和君の運命が出会いに導いてくれたのね。神様に感謝しないといけないわ♪」


 少し芝居がかった口調で自身の両手を重ね合わせて、天に祈りを捧げるポーズを取る千歳。

 見る人が見ればわざとらしくも映るが、それも様になってるように見えるのは千歳の美貌によるものだろうか。

 良いタイミングで店員が注文を取りに来たので、2人はそのまま注文を済ませる。


「……なんてね。わたくし、基本的に運だけを頼りにするつもりなんてないのよ」


 店員が離れたのを見計らい、会話を再開する千歳。


「どういう意味かな?」

「わたくしがここにいるというのが、単なる偶然だと思う?」

「それはつまり、君がそう仕向けたという事なのか?」

「ええ。わたくしはずっと大和君を探していたのよ」

「いくつか気になることはあるけど、まずどうやってここで会う形に出来たんだ?」

「大和君、ここに来る前に『クレイン&ホース』に寄ったでしょう? そのブランドはわたくしが手掛けたものなのよ」


 そう言われ、大和は少し思考を巡らせる。


「……そうか、『 (クレイン)(ホース)』か。俺とした事が見落としていたよ。確かに、鶴馬の家は相当に裕福と聞いてはいたが……」

「それなりにはね。そう言えるほどにお父様の会社が盛り上がってきたのは、わたくしが新規事業開拓としてサバゲーでのブランド立ち上げを提案してからよ。そして、今日販売した顧客情報に大和君の名前を確認したから、ここに来ると予想してわたくしもやって来たという訳よ」

「顧客情報を利用するとは……一体何が君をそこまで駆り立てるんだ?」

「言ったでしょう、大和君を探していたって。会って話がしたかったのよ。大和君のことだからどこかしらのチームにいるだろうと想定して探していたけど、同じ千葉の強豪ならまだしも、タクティクス・バレットだなんてそこまで有名じゃない埼玉のチームに移っていたとは思わなかったわ」

「話? そのためだけにわざわざ?」

「もちろんそれだけじゃないわ。あなたとわたくしとで、個人的に内密の取引を持ちかけたかったの」

「取引? それは……」

「お待たせしました。ご注文のアイスティーとアイスコーヒーです」


 何か、と大和が問うタイミングで店員が2人の注文した飲み物を持ってきたため、一時中断。

 店員が離れ、落ち着かせるようにその飲み物を一口啜る大和。


「……それで、取引というのは一体?」

「大和君、今度わたくし達のチームと公式戦をするでしょう? わたくし達が勝ったら、あなたにはわたくしのチームに移ってもらいたいわ」

「A・Aに? そこは女性だけしか入れないと聞いたけれど……」

「ええ、そうよ。公式戦に出場するメンバーは全て女性だけと決めているわ。でも、配属するだけなら男性も可能よ。正式にはマネージャーという形でメンバーのサポートに回ってもらうようになるわ」

「君の学校のチームだったはずだけど女子校じゃないのか? 仮にマネージャーとして入るにしても難しい気がするし、君の他のメンバーが良く思わないのではないかな?」

「そんなのはわたくしがどうとでもしてあげる。それに、大和君にとっても悪くない条件だと思うわ。前から大和君はWSGCに参加したいって言っていたわよね。わたくしは最高ランクのXX、『女帝』の名を持つ鶴馬千歳よ。わたくしのチームにいれば、いくらでも推薦してあげられるもの」

「何故そんなことをしようと思ったんだ?」

「それはね、大和君がわたくしのお気に入りだからよ」


 千歳はここで身を乗り出すようにして、まるでそのまま口付けでもしてしまうのではないかと思えるほどに、大和の顔に自分の顔を近付ける。

 大和の顔が更なる緊張で強ばる。


「手元に置いておきたい独占欲というものは誰しもあるものじゃないかしら? わたくしにとっての大和君がそういう特別な存在ということなのよ」

「それは光栄なことだけど、君ほどの人が何故俺なんかを特別視するんだ?」

「あら、その理由が思い付かないかしら? わたくしといた思い出も何もかも忘れてしまったの?」

「中学の頃だからね、忘れるはずはないさ。だからこそ思い付かないんだよ。俺は君と何度も模擬戦を繰り返したけど、その戦績を考えれば君が俺を気にかける理由は見つからないと思う」

「大和君はそういう認識なのね。大和君らしくて良いけれど、自己評価を過小に見積り過ぎるのも考えものよ? まあ、自覚がないならそれはそれで構わないわ。わたくしが気に入っているということだけで今は十分だもの」


 千歳はそこまでで区切り、腰を落ち着けて届いたアイスティーで口を潤す。

 その間、大和は千歳と関わった記憶を掘り起こすようにして確認していくが、少なくとも大和自身には身に覚えがない。


「それでどうかしら? 他の人なら、きっと勝利条件とすら思えるような破格の待遇を約束してあげる」


 グラスから口を離した千歳が改めて大和に取引を求めるが、大和は少し考えこんだ後、首を横に振る。


「……評価してくれてるのは嬉しいよ。けど、特別な事情も無いのにチームを移る気もないよ。第一、移籍に関しては玉守部長や他のメンバーとも相談しないことには認められることも無いだろうね。それに、俺はただのサポート要員として参加したいんじゃなくて、自分の実力でチームのメンバーとしてWSGCに出場したいんだ。どちらにしても取引には応じられないよ」

「そう。それは残念だわ」

「言うほど残念そうに感じないのは気のせいかな?」

「残念なのは本当よ。でも、そう言われそうな気もしたの。受けてくれれば儲けものな程度かしらね」


 少し困ったように眉を傾けはしたが、千歳の微笑みが崩れることもなかった。


「だけど、今日のところは満足だわ。久しぶりに大和君と話すことが出来たから。次に会うときは公式戦で敵同士。お手柔らかにお願いね」

「良く言うよ。君の実力を考えれば、俺は全力を出さざるを得ない。もっとも、どんな相手だろうと俺は全力でやるよ。それが相手に対する礼儀だからね」

「ふふっ、さすが大和君ね。楽しみにしているわ」


 千歳はそのままアイスティーを静かに飲み干し、席を立つ。


「今日のお会計はわたくしが払ってあげる。ここに来させてしまったお詫びみたいなものよ」

「いや、それは別に気にしなくていいよ。自分の分は自分で払う。それよりもあと1つだけ聞かせて欲しい。こうして俺に取引を持ちかけたのと同じように、他のチームにも取引を持ちかけたりしたのか?」


 大和は立ち去ろうとする千歳に、気になっていた疑問を投げかける。

 それは今まで大和達のチーム、タクティクス・バレットがランク上げや経験のために対戦を呼び掛けていたにも関わらず、それほど集まらなかったことの元凶が千歳の仕業ではないかという疑いによるもの。

 仏田の懸念や小波の調査の裏を取る意味があったが、そう簡単に認めるとも思っていない大和としては否定や黙秘の想定もしていた。


「ええ、持ちかけたわ。タクティクス・バレットが有名になって大和君の名前を見た時に、先に手を回しておいたの。大和君に提示したように破格の条件をエサにして、負けたらタクティクス・バレットとは公式戦を受けないようにってね」


 意外にも千歳はあっさりと認めた。


「やっぱり、そうなのか?」

「色々と事情もあったのよ。ちなみにどんな条件を提示したか、興味ある?」

「いや、それは聞かないでも良いよ。その事情という方のが気になるな」

「いずれは話してあげても良いのだけれど、今は言えないわ」

「そうか。でも、君ともあろう者がうかつだったんじゃないのか? その認めたという言質を俺が録音していたら、どうするつもりなんだ? それを証拠として提出したら、悪質と判断されればいかに君でも罰則を免れられない場合もあるよ」


 基本的に公式戦の受理というのは自由であり、互いのチームが認め合えば成立するのだが、強要を始めとして外部から何らかの干渉が行われ、不当に公式戦の受理を阻害された場合、それが発覚すれば干渉元の存在には厳しく罰せられる可能性が高い。

 それを知らない千歳ではないだろうが、ここに至っても千歳が慌てる様子はない。


「残念ね、大和君。仮にそうなったとしても、それは徒労に終わるわ」

「何だって?」

「詳しいことは、わたくしの席の後ろにいる2人に聞くと良いわ。それじゃあ大和君、またね」


 千歳はウィンクを1つし、結局伝票を持ってそのままレジへと向かっていってしまう。

 残された大和はその後ろ姿を見送った後、注文してそのままだったアイスコーヒーにようやく口を付けた。


(ふう……情けないな。緊張しないように意識していたつもりだったのに、飲み物にも手を付ける余裕もなかったのはそれだけ無意識に緊張があったと見るべきだろう……)


 どんな状況においても絶えることのない千歳の微笑みが、絶対の自信から来ることを物語っていた。

 喉の渇きと気持ちの蠢きを苦味で落ち着かせた大和は、ふと千歳の言葉を思い出す。


「後ろの席の、2人?」


 大和は今まで千歳が座っていた席の後ろ、背中合わせにあるテーブル席に回ってみる。


「サラと、千瞳さん?」

「「あっ……!」」


 そこには、別行動で離れたはずのサラと風鈴がいた。


「なんだ、2人も来ていたのか」

「え、えっと、そのぉ~……」


 風鈴の方は何とも話しづらい表情をしていたが、サラは真っ直ぐに大和を見ていた。


「大和と話していたあの女が気になってね、離れたふりをして後を追いかけていったのよ」

「そうなのか。どうしてそんな真似を? それに、気になったというのは……」

「あの女がただ者じゃないのは分かってたから。正体を知ったのは大和がこの席で話してるのを聞いたからなんだけどね。あの女、女帝って言われてる鶴馬千歳なんでしょ? まさか大和と知り合いとは思わなかったわ」

「大和さん、もしかしてこの前女帝さんの名前が出た時に元気が無さそうだったのって、それが関係してるんですか?」

「実はそうなんだ。鶴馬とは知り合いで、本当ならあの時点でそれを明かすことも考えてはいたんだ。でも……」


 大和が言い淀むのを見て、サラは首を横に振って止める。


「今は、何も聞かないでおくわ。大和が言わなかったというなら、それは大和が何かしらの判断をしたからだろうし、話しづらいなら無理には聞かない。でも、メンバーのみんなにはきちんと話した方が良いと思うわよ? 今後の対策のこともあるだろうし。聞くならその時に聞くわ」

「ありがとう、サラ」


 気遣ったようなサラの優しい笑顔が、今の大和には心地良かったがその後、風鈴とサラは神妙な面持ちで互いに顔を見合せる。


「2人とも、どうかしたのか?」

「言いたいことがあるんだけど、ここじゃあまり大きな声で話せないから外に出よっか、大和」

「あ、ああ」


 よく分からないまま、大和は2人に店の外に連れ出される。

 歩きながら、風鈴とサラは周囲を警戒している。


「本当にさっきからどうしたんだ?」

「大和さん、女帝さんに何かされたりしてないですか?」

「いや、特に何もされてないよ。どうしてそんなことを聞くのかな?」

「あのね、大和。ちょっとこれを確認して欲しいんだけど良いかな?」


 サラから差し出されたのは、サラの生徒手帳。

 それを受け取り、画面を開いた大和が見たのは何故か大和自身の画像だった。


「これは……俺?」

「えっ!?」


 これには大和よりも渡したサラの方が驚き、慌ててひったくるように生徒手帳を回収。


「や、やだっ!! こ、これ待ち受け……! 操作間違えて戻しちゃってる!! ワタシのバカぁ!!」

(一体、いつ撮られたのだろう?)


 身に覚えがない画像を目撃し、どう返したものか分からず困惑する大和。

 顔を真っ赤にさせてイソイソと操作をしたサラは、改めて生徒手帳を差し出す。


「こ、今度こそ、これで合ってるから! そ、それと…………が、画像は……消しておく、から……」

「あ、いや、まあ、言ってくれれば映るのは構わないよ」

「う、うん、ごめん……」


 恥ずかしそうなサラに大和も気まずい様子で受け取り、落ち着かせるように一呼吸おいてから画面を見る。

 今度は何らかの動画が収録されているようで、その起動前の状態にしてある。


「これは、何の動画かな?」

「動画とはちょっと違うわ。録音したかったけど、ちょうど良いのがなかったから」

「録音?」

「うん。さっき、大和があの鶴馬千歳と話している内容を記録してあるの」

「記録って……とどのつまりは盗み聞き、ということかな?」

「ハッ!? ち、違うの! ぬ、盗み聞きだなんて認識は全然なくて! あの女がとんでもない存在だって分かった上で大和に何か脅しをかけたりしたら大変だからその証拠を掴んでおかなきゃって思ってつい……!」


 あたふたと言い訳を続けるサラだが、行動自体は結局内密での記録なので下手したら犯罪ものであり、あまりよろしいとは言い難い。

 若干頭痛がしてこめかみを押さえる大和だが、


「な、内緒でやっちゃったのは謝るわ、ごめんなさい! でも、そこにとんでもない事実が収められてもいるの。だから、聞いて欲しいの! お願い!」


 一転して真剣に懇願するサラに、大和も気持ちを戻す。


「内容はさっきの鶴馬との会話なんじゃないのか?」

「そうよ。でも、聞けば大和も驚くと思う」


 そうまで言われれば、大和も気になってくる。

 きちんと内容を聞き取れるよう、イヤホンを取り出して生徒手帳に接続して耳に装着し、動画を再生する。


「……っ!! そ、そんなバカな!?」


 しばらく聞いた大和、その内容の違和感を知って目を見開く。


「サラ、これは一体……!?」

「ワタシなら、この状況を説明出来るわ。公式戦まで時間も無い今、この情報を持ち帰って早速対策を打てるようにするべきよ!」

「そ、そうか! じゃあ、明日にでもミーティングで発表しよう! さすがだよサラ!」

「そ、そんな大したことじゃないわ! 大和のためなら、何でも頑張れるというか……えへへっ♪」


 ついさっきまで気まずい雰囲気だったことも忘れたかのように、気持ちが上向きになる大和とサラ。

 風鈴は途中から静かな空気状態。


(ううぅ~……私、今回何にも大和さんの役に立ててない……公式戦ではしっかりしなきゃ!)


 落ち込みかけて言葉を無くしているようだが、すぐに立ち直っていける辺り、風鈴は物静かな見た目に反して意外と強い性格をしている。

 そんなこんなでサバゲーフィールドを利用することなくそのまま帰宅、色々とあった大和達の休日は終了となった。



 ※  ※  ※  ※



 一方で、大和達を追いかけていた物好きタクティクス・バレットメンバーはどうしているだろう。

 もしきちんと追跡していたなら大和と鶴馬千歳の邂逅という、本来なら驚愕の事態を目撃していたはずなのだが……


「……っ! あっ、やった! 取れたよ姉さん!」

「きゃ~!! UFOキャッチャーも上手いだなんて、さっすが歩君、天才だわ!!」

「アユムン、カオルン! あっちにはプリクラ機がいっぱいあるにょ!」

「せっかくアキバ来た記念にみんなで撮影するにょ~!」


 という内容からも分かるように、大和達の追跡そっちのけで秋葉原を満喫していた。


「はぁ~……大和達を追ってたはずなのに、これじゃ俺達普通に遊びに来てるだけだよな……」


 浩介だけは素直に楽しめる感じでもなく、遊び回っているメンバーを見ては呆れたようにため息をつく。


「ハヌマン、キルちゃん達みたいな田舎者がこ~んなに広い都会に来ている以上、見失うリスクはつきものだにょ? 時には諦める決断も大事だにょ!」

「あのな……尾行し始めたのは君達2人だろ? 大和達が洋服の店に入ったところまでは追えてたのに、途中で見かけたコスプレメイドの人を撮影しまくった挙げ句、その洋服の店でも服を試着しまくってたせいで完全に見失ったんじゃないか……」

「アキバに来ていながら、コスプレメイドさんを無視するなんてギラちゃん達には出来ないにょ~! しかも自分達までコスプレを堪能出来るというなら、やらない訳にはいかないにょ~!」

「全然反省してないな、こりゃ……」

「ま、まあまあ、浜沼先輩」


 どんよりジト目で金銀双子を睨む浩介に、歩が遠慮がちながら割って入る。

 隣には歩にUFOキャッチャーで景品を取ってもらってご機嫌な香子もいる。


「確かに当初の目的は赤木先輩達を追いかけることでしたけど、こうして皆さんで都会に遊びに来ることって滅多になくて僕達も楽しんでいますから、キルギラ先輩達だけが悪い訳でもないですよ」

「うんうん、歩君の言う通り! そもそも忍足先輩が厳しい練習メニューを組んじゃうせいでいっつも遊びに行けてなかったんだから! 今日くらいは楽しい思い出を作りに来たって思えば良いじゃない!」

「ん~……まあ、俺は初めから内緒で大和達を追跡なんてしたかった訳じゃないし、強制でもないからな。別にいいか」


 完全に納得したのでもないが、こんな都会でターゲットの大和達を見失ってしまっては、もう一度探し出すのが困難なのも事実。

 探索に意欲的でもない浩介、大和の尾行を切り上げることにした。


「じゃあ、次はどこ行こっか?」

「その先にサバゲーの最新アーケードゲームがあったにょ~!」

「サバゲー自体も一応ゲームのカテゴリーなのに、そのアーケードゲーム版ってどういうのなんですか?」

「やってみたら分かるにょ! ハヌマンも一緒に行くにょ?」

「あ、俺レトロゲーム派だから、ちょっと別のところ回ってくるよ」


 浩介はそう言って後で集まる時間と場所を決め、4人と別行動を取る。

 だが、レトロゲームのエリアには向かわず、メンバーに見つからないように店の外に出て、少し離れたホビーショップに入っていく。

 その店の奥にあるレジに行き、


「すいません、このくじをやりたいんですけど……」


 と、レジ横にあるくじ引きの箱を指差し、レジの店員にお金を渡す。


「こちらの『護国戦隊メイサイG』のくじですね。かしこまりました。では、どうぞ」


 店員に見守られ、浩介は一度呼吸を整えてからくじを引く。

 結果は、


「は~い、G賞『テキシューダーBB弾』です、どうぞ!」


 店員から、袋いっぱいに入ったBB弾を渡された。


「……は……ははは……」


 その場ではとりあえず笑いを絞り出す浩介だが、店から出てガックリと肩を落とす。


「うわ~……いらないのが当たったな~……まあ、一番欲しい特賞なんて滅多に出ないから仕方ないんだけど……せっかくこんな都会に来たからってやってみたのに変わらないか……」


 浩介がくじとして引いたのは「護国戦隊メイサイG」という過去の戦隊シリーズの1つなのだが、リーダーである (ガーディアン)オリーブドラブのカラーがその名の通りに地味な緑色であるのを始め、メンバー全員が迷彩服にちなんだ地味な色をしていて派手な原色カラーが1人もおらず、ターゲットの子供よりもコアな大人の方がハマっていたというある意味で異彩を放つ作品だった。

 ちなみに今回出たのはメイサイG達の敵側で出て来る、テキシューダーと呼ばれる雑魚戦闘員の顔がBB弾の1つ1つに掘り込まれたもの。


「仕方ない、運がなかったってことでこのくじは今日のところはこれで諦めておこう。次はエアガンエリアにいってみるか。限定版とかあるかな~?」


 運試しもそこそこに、気持ちを切り替えて別の場所に向かう浩介。

 心なしか足取りも軽く、表情も明るい。

 金瑠や銀羅に何だかんだと言いながら、ちゃっかり都会を満喫していたのだった。

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