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大和からの提案、都心部への遠出

 A・Aからの申請受理を受けて、しばらくは混乱も見られたタクティクス・バレットメンバー達だったが、


「ふふん、逆に良かったじゃない! 相手の方から干渉してくれるなら話が手っ取り早いわ! どうせやらなきゃならない相手なら勢いのある今の内に勝負かけていった方が良いわよ!」


 サラの強気な発言のおかげで、全体の気持ちが切り替わる。


「そうだな、サラ君の言う通りかも知れないな。ここまで来たら覚悟を決めて挑んでいこう。今日の練習は自主トレにしておくから、女帝及びA・A対策に自分ならどうするかを考えて行動して欲しい。全体的な練習は小波君の情報が集まり次第、順次組み立ていこう。それと、 明々後日(しあさって)の創立記念日は休みに設定しておいたので、ゆっくり体を休めてくれ。では、これで解散としよう」


 意気込みを事務連絡と含めて述べた後、玉守はミーティングを終える。


「小波はまた情報を集めてきますので、しばらく抜けますね!」

「なるたけ有用な情報頼むぜ!」

「任せてくださいな、先走り先輩!」

「誰が1人(飛鳥)先走る男かぁぁ!!」


 と、小波が情報収集に向かってからは各自が行動に移り、いつものように騒がしいタクティクス・バレットの部室内。


「さて、ワタシは走り込んでくるわ! 風鈴、アンタも来なさい! その体、絞ってあげるから!」

「ふええっ!? サラ、走るの速すぎるから、一緒は厳しいよ~……」

「ケイゴンまた的役よろしくだにょ! 女帝対策の女装で!」

「何か俺、毎回当たり役っすね……いやいやだから女装とかいらないっすよね!?」

「イメージは大事だにょ~! 女帝はスラッとしてるって聞くから、同性でもカオルンはあてにならないにょ~! 体型的に!」

「もうっ! ギラちゃん毎回失礼過ぎるってば!」


 メンバーが次々と部室を出ていく中、大和は何か考え事をしていてまだ部室に残っていた。


「あれ、大和、行かないのか?」

「えっ? あ、ああ、もちろん行くよ。だけどその前に……」


 浩介が気付いて声を掛けると、大和は同じように残る3年メンバーへと歩み寄る。


「玉守部長、それから忍足先輩、姫野宮先輩。明々後日の創立記念日なんですが、何か用事はありますか?」

「何だよ大和、藪から棒によ?」

「もし良ければ、メンバー全員で買い物も含めて都会方向への遠出を検討してもらえたらと思いまして」

「遠出って、私達みんなで?」

「1番の目的は、千瞳さんの装備を整えてあげたいからなんですが、他にも目的を持ってどこか別のフィールドにも行ってみて、違う環境でやれたら良い経験にもなるんじゃないかと考えました。全員で行ければ千瞳さんも喜ぶでしょうし」

「ふむ。チームを思ってきちんと提案してくれるのは素晴らしいね。だが、風鈴君の装備を整えるというのはどういう事かな? 風鈴君は今の状態でも悪くはないと思うんだが……」


 顎に指を軽く添えて考えながら問う玉守に、大和は首を左右に振る。


「今、千瞳さんが使っているL96は俺が千瞳さんに貸しているものなんです。貸したままでも構わないんですが、どうせなら自分用の銃を持ってもらいたくて」

「そういや大和が千瞳にサブウェポン貸してたんだったな。つうか千瞳のやつまだ自分用の持ってなかったのか? スペリオルコマンダーなのにマイウェポンすら持ってねぇとかあり得ねぇよな、角華?」

「……今まで風鈴ちゃんが何で自分用の買い物も出来なかったかって、どっかの誰かさんが勝手に休みの日にも試合組んだり、風鈴ちゃんを鍛えるとかで遅くまでトレーニングさせて、風鈴ちゃんの時間作ってあげてないからでしょうが!」

「うっ……」


 角華に睨まれ、飛鳥は何も言えなくなる。

 大和としてもフォローしづらいため、苦笑で流しつつ話を進める。


「エアガンの出力制限がある以上、銃の種別をまるごと変えない限りは性能にそこまで変化は無いと思いますが、自分用の銃か借り物かで気持ち的に変わる気がします。EXSは精神的な要素も絡んでくると聞きますし、自分の感性に合ったエアガンが見つかれば、上手くいけば千瞳さんの能力も引き上がる可能性もあるかもしれません」

「ほほ~ぅ、可能性が追えるならそいつは結構な事じゃねぇか! よし、じゃあ明々後日は急遽全員で買い物に……」

「ち、ちょっと飛鳥!」


 またも勝手に予定を決めようとした飛鳥を角華が慌てて止める。


「明々後日の予定はもう決めてるでしょ!? 忘れたとは言わせないわよ!」

「わぁってるよ! 乗ってみただけじゃねぇかよ!」

「既に予定が組まれていたんですか?」

「すまないな、大和君。実は前々から予定していたんだが、金蔵に会いに行こうと思っていたんだ」

「金蔵さんに?」

「ああ」


 大和は久しぶりに聞いたその名前から、相手の顔を思い出す。

 金蔵とは、大和が転校して最初に公式戦を行ったブラッドレインという茶川高校のチームのリーダーであり、飛鳥や角華の幼馴染でもある金蔵権二の事。

 当時まだEXSを認識していなかった風鈴の活躍によって完全試合で敗北を喫した上に、不正をしたとしてWSGCへの出場資格をも失ってしまった男である。


「その金蔵なんだが、最近見かけなくなってしまったので、前の公式戦を見に来ていた茶川の生徒からそれとなく現状を聞いてみたところ、不正という不名誉な事態によって学校だけでなく、チーム内でもギクシャクしてしまったために浮いてしまっているようでな」

「不正は悪い事だけど、さすがに不憫に感じちゃって……私達が行ってもどうにもならないかもしれないけど、話し相手位にはなってあげられるかって思って今日行く予定組んでたのね。それに、金蔵君に連絡繋がらないって飛鳥が心配してたから」

「ばっ!! べ、別に俺はあんな不正野郎の事なんざ心配してねぇよ! 連絡送ったのは単にからかってやろうとしただけでだな……!」


 飛鳥は照れ隠しに顔を背け、それを見た角華はクスッと微笑む。


「ま、まあ、そういう訳で、その日は俺達は残念ながら行けねぇから、後輩だけで行って来いよ。何か新しい発見でもありゃ教えてくれ」

「分かりました」


 それから一言二言挨拶を交わした後、大和は浩介と共に部室を出る。


「いや~不正してきた相手を気にするとか、先輩達も人が良いというか何というか。忍足先輩の性格からしたら絶交とか口も聞きたくないって考えていてもおかしくないと思ってたけど……」


 部室から出てしばらくし、浩介が口を開く。


「本来は仲が良い幼馴染みという話だから、無視は出来なかったんだと思うよ。忍足先輩も厳しいだけの先輩ではないから」

「そっか、優しいよな。それにしても、幼馴染みか~……」

「浩介にも幼馴染みとかいたのか?」

「ん~まあね。中学の時には別々になったんだけど……」


 浩介はその時の事を思い出し、話してはいたが気まずそうに声がだんだん小さくなっていく。

 それを見た大和、何かを察したようだった。

 困ったように軽く笑う浩介の顔が、これ以上問いかけるのを躊躇わせる。


「嫌な事でも思い出させたか? 言いたくなければ無理に聞かないよ」

「アハハ……いつか話せればとは思うけど、今はちょっとね……」

「分かった。話せる時に聞かせて欲しい」

「そうするよ。今はみんなと頑張りたいと思ってるからさ」

「了解。じゃあ、引き続き他のみんなに声を掛けよう」


 頷き合って歩き出す大和と浩介。

 部室を出て次に向かったのはメンバーがトレーニングに活用する校庭の一角。

 サバイバルゲームのトレーニングをするなら本来は〔DEAD OR ALIVE〕で行えれば良いのだが、場所が多少距離があるのでメンバー全員がいる状態での全体練習が一般的。

 到着したその場所には、部室に残っていた3年と、風鈴とサラ以外のメンバーがいた。


「桂吾、千瞳さんとサラはいないのか?」

「あの2人なら走りに行ってるっすよ。何か用でもあったんすか?」

「2人というより全員になんだけれど、先に今いる皆には話しておこうかな」


 風鈴とサラ以外の現場にいるメンバーに買い物の件を話す大和。


「……という事なんだけど、皆で一緒に行かないか?」

「良いっすね! 都心部のフィールドとか雰囲気が違うところに行くのはワクワクするっすよ!」

「都心に皆で買い物とかも凄く楽しそう!」

「僕も色々と見てみたいです!」

「じゃあ皆行くという事で……」


 香子、桂吾、歩は乗り気だったので大和もそれで決定するつもりだった。

 ところが、


「「ちょ~っと待つにょ~!!」」


 いつもならこの3人以上に乗り気になるはずの双子が、逆に止めてきた。


「キ、キルギラちゃん? 何、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないにょ! 今のキルちゃん達に買い物を楽しむ余裕なんてないにょ!」

「そうだにょ~! 今度の相手はあの女帝だにょ~? 買い物が必要なのはカザリンであって、ギラちゃん達は試合に向けた自主トレに打ち込まないといけない立場にょ~!」

「え……な、何で2人がそんな真面目な事言ってるんすか?」

「2人がそう言うのは何というか違和感があるわね……」

「俺も凄く怪しいような気が……」


 普段と異なる態度の双子に、桂吾と香子、浩介が不審な目を向ける。

 しかし、双子は逆に同じような不審な目を返してくる。


「女王&兵隊戦でサラランのEXSにボッチ先輩共々、不覚を取ったのはどこの2人だったかにょ?」

「「うっ……」」

「どっかの誰かさんなんて、サラランに背後を取られて反撃する間もなくやられてたにょ~?」

「そ、それは、その……」


 サラとの対決で為す術も無く退場させられた事実を思い出させられ、3人は言葉に詰まる。

 双子はいつになく真面目な面持ちで全体を見据える。


「真正面から挑んだキルちゃん達は元より、より優位な状況で狙い撃ったはずの他の皆が返り討ちにされた以上、スペリオルコマンダーというのがのんびり楽しんで攻略出来る相手じゃないのは理解してるにょ!」

「ギラちゃん達も、後ろから狙ったヒメスミ先輩が倒されたのを目の当たりにしてショックだったにょ~……だから、1日でも多く練習するのが大切だと学んだにょ~!」

「まあ、確かにそうっすね……」

「サラさんのあの回避には度肝抜かされたからな……」

「うん、風鈴ちゃんと赤木君がいなかったら私達だけじゃどうにもならなかったもんね……」

「次に対戦する、女帝って言われてる鶴馬千歳さんの能力も分かってないよね……」


 言われてしまえば納得せざるを得ない理屈で、4人は不安になってしまう。


「そういう事なら、俺も皆と一緒に練習した方が……」


 ほとんどのメンバーが買い物に行けなくなりそうだったので、大和も遠慮しかけるが、双子は見事なシンクロで首を振る。


「ダイワンはカザリンと一緒にサラランを撃破出来た唯一の存在だから、休日を楽しむ資格があるにょ!」

「カザリンはサバゲーグッズも何を選べば良いか分からない初心者だにょ~? ダイワンがちゃ~んとエスコートするにょ~!」

「いや、だけど……」

「「さあ~4人は一緒に練習だにょ~!」」


 大和の話を遮るようにして、双子は大和以外のメンバーを強引に引っ張って連れていってしまう。

 どことなく不自然さが否めない雰囲気ではあったが、


(……チームを思っての配慮、という事で良いのだろうか?)


 大和もそれ以上の追及はせず、その足で風鈴とサラが走り込んでいる長距離走用のトラックに向かう。

 その場所に到着してまず目に付いたのは、金色のウェーブショートを靡かせながら軽快に走り続けるサラの姿。

 一定の速度で走っていたかと思えば、急に加速をつけて駆け出してみたり、再び速度を戻して一定のペースで走るという事を繰り返す。

 それが、近接戦闘に特化したサラの生命線とも言える機動力の鍛練方法であり、加速のための瞬発力とそれを試合が終わるまで維持させるだけのスタミナが身に付く。

 EXS性能の凄味と派手さが目を引くサラだが、その神業染みた性能を支えているのも、才能を活かす努力を怠らないこうした地道な努力の賜物だった。

 そして、そのサラと一緒に走る風鈴もまた努力家であった。

 運動するにはやや不適切に思える体型でありながら、その足を止める事はしない。

 サラに比べれば機動力は劣るものの、きちんと走りきるためのスタミナが身に付いてきていた。

 本来、先の見えない壁に囲まれるサバイバルゲームのフィールドでは、急に相手と鉢合わせる状況も珍しくはなく、緊張感から来る精神的なスタミナ消費も激しい。

 それに比べれば風鈴は相手が見える以上、常人よりも疲弊は少ないものの、経験が浅かった風鈴に試合特有の緊張感は拭えない。

 安定したパフォーマンスを発揮するには、普段から体を動かしておく必要がある。

 最初の頃こそ飛鳥に半ば強制されるような形で練習していたが、最近では自主的に練習に打ち込むようになってきた。

 運動能力の自信が余裕を持ったEXSを行使する土台を作り出す。

 汗を流しながら向上を目指す2人の女子の姿が、大和には素直に美しく見えた。

 しばらく大和が2人を眺めていると、サラが速度を落として流しながら走り始める。

 自分で設定した課題を終えたようで、クールダウンというところだろう。

 その後は同じ速度で走る風鈴に声を掛けつつ、ようやく走りを止めてからその場でストレッチ各種を開始。

 それを見計らったようにして、大和が後ろから近付いていく。

 一定の距離まで大和が接近すると、サラが急にビクッとして後ろを振り返る。


「や、大和!? き、来てたの!?」

「あ、ああ。驚かせてしまったかな?」

「えっと、あの、そのっ……! 誰か来たのは分かったけどまさか大和とは思わなくて!」


 後ろも見ずに誰かを理解出来て焦ったように反応してくるサラ。

 彼女のEXS「絶対領域」によるもので、サラだけが知覚可能なゾーンに物体が入り込む事でその存在を認識出来る。

 その能力は人智を超えた知覚能力であり、試合ではそれに加えて超人的な回避が可能。

 本来なら脅威と思える能力だが、サラの慌てた反応はそのギャップも相まって何とも可愛らしく映ってしまい、大和を微笑ませる。

 一方、サラは自分の体を何度も何度も見直している。


「サラ、何か体に異変でもあるのかな?」

「ま、まさか大和が見に来るなんて思わなかったからその異変が無いかって心配だから確認してるというか! へ、変なところが無いかって思って! あっ! あ、汗かいてて匂いとか凄いかもだからあまり近寄らない方が良いわよ大和!!」

「……匂いなんて、そこまで気にならないけど」

「ワタシが気にしちゃうの!! べ、別に近くに来てくれるのが嫌な訳でも無くて普段なら全然良いんだけど! い、今は色々と酷い状況だから……や、大和に不快に思いをさせちゃいそうで……」

「努力してる人に不快も何も無いよ。ただ、サラが嫌なら時間をおいてからにしても良いけど」

「あ、あううっ……!」


 サラは耳まで真っ赤にしながら、目を潤ませて大和を見返していたが、やがてそっと顔を背け、


「……や、大和が……良いなら……良い、よ?」


 ポソッと、溢す。


「うん、ありがとう」

「……こ、こちらこそ、なんて……」

「ん? 何か言ったかな?」

「な、何でもないわよ! そ、それよりわざわざ来るなんて何か用でもあったの!?」

「ああ、そうだった。実は……」


 サラから促され、大和は要件を述べる。

 先にサラに語った後、走り終えた風鈴が来た時に同じ内容を伝えた。



 ※  ※  ※  ※



 大和が買い物を予定していた休日、創立記念日。

 朝の早い時間、新河越高校の最寄り駅の改札口、その柱に1人の少女が背中を預けて立っていた。

 綺麗なウェーブショートの金髪にクリスタルブルーの瞳と、目立つだけでなく誰もが一目で見惚れてしまう美しさがその少女にあった。

 しかも、


「ふんふんふふ~ん♪ ふっふふ~ん♪」


 今の彼女はとても上機嫌で、鼻歌交じらせるその笑顔は普段以上に彼女を魅力的に見せていた。

 タクティクス・バレット2大戦力の1人にして、絶対的な回避能力を持つ近接戦闘の名手、サラ・ランダルタイラー。

 サバイバルゲーム内において相当な実力を持つサラだが、今の彼女はそんな雰囲気を微塵も感じさせない1人の美少女。

 学校内での制服や、いつもの部活で見られるような迷彩色のタンクトップやミニスカートとは違う、明るめな色合いでまとめられた私服姿。

 ミニスカートだけは本人の拘りとの事で変わらないが、コーディネートとしてはむしろ合っており、サラの魅力を更に引き立てる。

 さて、そんなサラがここまで上機嫌なのは、


「う~ん♪ まだかなまだかな~?♪ 大和はまだかな~?♪」


 大和を待っている、という隠しもしない独り言からも分かる通りの理由である。

 毎度お馴染みと言えばそれまでだが、何故ここまでテンションが上がっているのかと言うと、


「ふふふっ♪ まさか大和からデートに誘われるなんて♪ 遅刻しないように待ち合わせ時間の1時間も前に着いちゃったけど、気付けばあと10分! 楽しみだと時間が経つのも早いな~♪」


 との事。

 生徒手帳を取り出して時間を確認しながら、笑顔が溢れるサラ。

 待ち合わせ時間の余裕が大きくて、浮かれすぎてる気がしないでもない。


(大和ったら、ワタシと休日に買い物に行きたいだなんて言ってくれちゃって! しかも場所が近場じゃなくて都心への遠出だなんて、買い物なんて名ばかりのデートそのものじゃない♪ こっちからは結構アピールしてるのに大和の反応がいまいちだったから押しが足りないかもって思ってたけど、それもいらぬ心配だったわね♪ 今日のデート、どうなるのか楽しみ~♪)


 サラは期待に胸を膨らませ……もちろん膨らむのは物理的にではなく精神的にという意味だが、その時間が来るのを待ち続けていると、改札口に向かって歩いてくる大和を発見する。


「あっ! 大和~! こっちこっち!」


 満面の笑みでサラが呼び寄せると、大和も気付いたように手を振って近付いていく。


「サラ、おはよう」

「うん、おはよう大和! ちゃんと時間に余裕持たせてくるなんてさすがね!」

「いや、サラの方が先にいたじゃないか。結構待たせた感じかな?」

「ううん、ワタシは全~然待ってる感じじゃないよ♪」


 1時間も待っていた自分を棚上げして大和を褒めるサラに、大和は苦笑する。

 ちなみに大和の服装については、シンプルの一言。

 色合いは派手ではなく、装飾等がほぼ無いのと相まって落ち着いた雰囲気になっている。


(ふむふむ、地味と言えば地味だけど、落ち着いた感じは嫌いじゃないし、何より大和らしいし! それに、あまり格好良くなりすぎて他の女子の目に留まるのも考えものだしね♪)


 サラにかかれば、大和のあれこれはプラス思考で大概がありになってくる。


「さあ~それじゃ早速行こっか、大和!」


 逸る気持ちが抑えられないように、サラが大和を急かしてくるが、大和はまだ立ち止まったまま。


「いや、まだ待っていないと……」

「え~なんで? もしかして時間ぴったりに行動したいとか? もう、そこまできっちりしてなくても良いんじゃない? まあ、それも大和の良いところなんだけど♪」

「あ、別に時間は気にしてない……いや、気にするところは気にするけど、それ以前にまだ……」

「まだ?」


 何やら引っ掛かっている事がある様子の大和をサラが不思議そうに眺めていると、大和が来た方向とは反対の方向から、


「大和さ~ん! サラ~!」


 2人に声が掛けられた。


「いっ!? この声は!?」


 聞き覚えのある声の方を振り向くと、風鈴が笑顔で足早に寄ってきた。


「な、何で風鈴がここに!? アンタもどこかに行く予定なの!?」

「えっ? どこかって、大和さんにお買い物に誘われたから来たんだけど……」

「ええええっ!!? や、大和どういう事!!?」


 サラは焦りながら、訴えるように大和に視線を向けるが、当の大和はキョトンとしている。


「どういう事も何も、千瞳さんの言う通りで買い物に誘ったんだ。そしてサラも一緒に行こうって誘ったんじゃないか」

「う、嘘っ!? ワ、ワタシ聞いてないわよ!?」

「きちんと話したはずだよ。そもそも、予定としてはタクティクス・バレットのメンバー全員で行く予定だったんだけどね」

「うっ……!?」

「サラ! 私、今までお友達とどこかに行くなんて事が無かったから凄く楽しみにしてたの! 今日はよろしくね!」

「えっと……ご、ごめん、ちょっと待って……」


 目をキラキラと輝かせる風鈴から少し離れるようにして背を向けるサラ、


(あっれ~!? な、何だか話に食い違いがあるような……でも、大和が嘘をつくわけないし、風鈴も嘘をついてるように見えない……という事はワタシの勘違い!?)


 必死に思考を巡らせる。

 大和はきちんと内容を伝えたはずであり、どうしてこのような思考になったかは後に回す事として……そんな3人の様子を、別の柱の影から眺める者の存在があった。


「(ムフフッ♪ ターゲット確認、キルちゃん達の予想通りに最初から面白そうな展開になりそうだにょ♪)」

「(サラランがダイワンにほの字な上でカザリンが一緒という、ギラちゃん達が大好物な何かが起こりそうな組み合わせだにょ~♪)」


 金瑠と銀羅だった。

 大和達3人のやり取りをニヤニヤしながら見守っている。

 その2人以外にも、後ろで待機する者が数名。


「(キルギラちゃんったら、風鈴ちゃん達を隠れて追跡するだなんて悪い事考えるわね!)」

「(とか言って姉さんも凄く楽しそうにしてるよね?)」

「(まあ、大和君が千瞳さんとサラさんの事をどう思っているのか、言われてみたら確かに気にはなる状況っすよね?)」


 大和から買い物を提案された日に金瑠と銀羅に連れていかれた桂吾、香子、歩、浩介の4人だ。


「(3年の先輩達がいないとなれば、こんな楽しみな状況を見逃すキルちゃん達じゃないにょ!)」

「(録画準備は万全、何が起きても3人の勇姿は保存され続けるにょ~!)」


 生徒手帳を片手に良い笑顔の双子。


(……何でほっといてあげないかね、この2人は……物好きというか意地悪というか……)


 そんな双子に、呆れ顔を浮かべる浩介。

 ついでに、


(……そして、これも毎回だけど、何故金瑠は女子の格好なんだろう?)


 今の金瑠の格好は当然私服なのだが、やはり女子らしさ溢れる可愛らしい感じになっていた。

 銀羅と並んで普通に見れば、女子な双子と間違えてもおかしくない出来だ。

 金瑠の事を微妙な視線で捉えてしまう浩介。

 すると、その視線に金瑠がハッと気付く。


「(今、ハヌマンがキルちゃんの事を舐め回すように見てたにょ!? やぁん、照れるにょ♪)」


 顔を赤らめ、クネクネと身悶えする金瑠を見た浩介、


(……はぁ~……何か、既に疲れる……何で付いてきちゃったかな、俺……)


 疲労感を吐息で吐き出しながら、げんなりと肩を落とす。

 こうして、何らかの波乱が起きてしまいそうな大和達の両手に花状態な買い物デート、そしてそれをバッチリ撮影保存したい双子&その他付き添いによる尾行劇が始まるのだった。

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