付喪神の昼ドラ青春物語
それは、キサナと共にお宝倉庫と化している倉の中を漁ってトレジャーハントしている真っ最中の時だった。
「シロ君〜! いる〜?」
ボロ屋敷の方から萌え萌え猫又こと、猫さんの呼ぶ声が聞こえてきた。俺は即座に倉漁りを取り止めて、猫さんの声がした玄関の方へと移動した。
「いらっしゃい猫さん。今日もそのキュートな顔を見せに来ちゃって、もしかして俺とキサナのことを誘ってたりするのかな?」
「無論、性的な意味での」
「はいはい、そういう話は貴方達だけでじっくり話してにゃさい。そんにゃことより、シロ君にお客さんが来てるんだけど」
「お客さん? 俺に?」
まさかサトリが前に言っていた通りに説教でもしに来たと? そんな不安を抱えたが、それは杞憂に終わった。
「お初にお目に掛かります人間の主様。某、瀬戸大将の左籠手を担当しているシルバーと申します」
戦国時代に使われていたような左籠手に足と目が付いていて、言葉を話すことができる鎧の一部。またこれはシュールな客人がやって来たものだ。
瀬戸大将と言うと、長年使われていた物に魂が宿って妖怪化する付喪神の一種で、何らかの瀬戸物が寄り集まって合体した付喪神……という認識だったはず。
でもこれは世にも珍しい瀬戸大将だ。というのも、本来瀬戸大将とはいくつかの瀬戸物が合体して、そこでようやく意思を持つようになる付喪神だ。なのにこのシルバーという瀬戸大将は、白色の左籠手しかない状態でありながら意思を持っている。要は、瀬戸大将として明らかに矛盾しているわけだ。
「色々聞きたいことあるんだけど……瀬戸大将なのになんで一人なの君?」
「それは……とある事情がありまして、今日は主様にご相談があって単身で来た次第なのであります」
「単身ってことは、他の部位達とは別行動してるってこと?」
「はい。私達はそれぞれ部位ごとに意思を持ち、六体揃って瀬戸大将なのであります」
まるで戦隊モノのロボットみたいなイメージだ。男心にグッとくるものがある。
「猫又殿とは時折会話をする友人なのでありますが、某が相談相手を求めていることを先程伝えると、猫又殿は主様を紹介してあげると助け船を出してくれたのであります。なんでも猫又殿の話によれば、主様は人間の身でありながら某ら妖怪を平等の立場で接してくれる心優しいお方と聞いております。なので是非相談相手になって頂けたらなと今日ここへ赴いた次第であります」
「そっかそっか。俺は別に構わないけど……でも一つ疑問なのが、なんで相談相手を俺じゃなくて猫さんにしなかったの?」
「……猫又殿はまだ子供故、真面目な相談を聞けるほどの器が無いものと判断していたのであります」
「悪かったわね子供で!」とふくれっ面になる猫さん。萌え的な反応を目にして胸の辺りがきゅっとなった。
確かに猫さんが相談役になるイメージを想像すると、子供が大人のフリして偉そうなことをあれこれ語るような光景しか思い浮かばない。それ言ったら絶対怒られるから口には出さないけど。
とにかく、相談したいと名指しで指名されては仕方無い。聞く役には慣れてるし、できるだけ助力になれるよう尽力してみよう。
「まぁ取り敢えず上がってよ。話は俺の部屋でゆっくり聞くから」
「ありがとうございます主様。失礼致します」
左籠手が傾いて……いや、頭を下げて中へと上がり、四人で俺の部屋に集まる。
いつもの流れで湯のみとお茶を用意し、籠手にはお茶代わりに錆対策用のオイルを鍋に入れて差し出した。そして他の二人にお茶を差し出して座布団に座り、話を聞く態勢を作った。
「わざわざこんなものまで用意してもらって申し訳有りません。最近甲の部分が錆びてきてて困っていたのでありますよ」
「……いつ何処で調達したのよこんにゃ物」
「はははっ、倉の中で発見した物だよ。使える時が来ることを信じて事前にとっておいたんだよね」
まさかこんなに早く使う時が来るとは思わなんだ。やはり物は大事に取っておくべきだと改めて感じた。
左籠手がオイルの鍋湯に浸かり、俺達はその異様な光景を目にしながらお茶を啜る。
「では早速だけど、その相談内容を聞かせてもらえるかな?」
「分かりました。実は某達瀬戸大将は、子供妖怪に人気の現役特撮ヒーローなのであります。その昔、某達六人の付喪神は固い絆で結ばれ、以後は基本的に共に日常を送っている関係なのであります」
妖怪にも特撮ヒーローとかいたんだ……残酷なことを言えば、絶対人気はないんだろうと思えた。巨大ロボットならまだしも、恐らく瀬戸大将の正体は人型サイズの甲胄武者だろうから。
「長い付き合いのできる隣人とは羨ましいの。まぁ、我にもこの二人がいるから嫉妬はせぬがの」
「そうですね、長年共にできる友というのは一生の宝物であります。しかし……そこで芽生えるものは決して友情だけではないのであります」
「……何とにゃくだけど、相談内容分かったかも私」
これは奇遇。俺も彼が何を持ち掛けて来たのか察しがついた。
「某達は男女比率三対三の特撮ヒーロー。その関係が長く続けば、必然的にその友情が愛情に変わることになる。しかしそれは某達の間でこじれ合いが起こる可能性がある故、リーダーの某が自ら恋愛禁止法令を定めたのであります。だが某は……己でルールを作っておきながら、その法を自ら破ってしまったのであります!」
ガンッと鍋に手……頭……身体の一部分をぶつける。熱いこと語ってるけど絵面がシュール過ぎるため、思わず笑ってしまいそうになる。
相手は真面目なんだから我慢だ我慢。ここで吹き出したら自称相談屋の名折れだ。
「長い月日を共にするに連れて……某は胴体ピンクに恋心を抱いてしまいました。あの光沢のあるフォルム。某達というパーツを付けるための付け根。そしてキラキラと光り輝いて見える桃色の胴体。更に物腰柔らかい優しい性格故に、恋に落ちるのはそう遅くはありませんでしたのであります……」
キサナが背を向けて口に手を当て、ぷるぷると肩を震わせる。ズルい、俺だって必死に笑いを堪えているのに、背を向けて隠すのは反則だろう。
にしても流石は猫さんだ。笑うどころか白けた眼差しを左籠手に送っている。なんで甲胄パーツが恋をするのよ、みたいな発言を凄くしたそうな顔をしてる。
「そして某は皆の目を盗んで胴体ピンクをこっそり呼び出し、己の想いを打ち明けた。そしたら何ということか、胴体ピンクも某に恋心を抱いていたのであります! まさかの相思相愛だったのであります! そしてその恋心を持つようになったキッカケは某と同じ……『他のメンバーと違って色の名称が同じカタカナだったから』であります……」
畳を何度も叩いて腹を抱えるキサナ。俺もついにポーカーフェイスを保てなくなり、みかん箱に額を付けて顔を隠すように体勢を変えた。
「某は……某は他のメンバーを裏切り、胴体ピンクと恋仲になってしまった! 胴体ピンクと二人で過ごす時間は幸せに感じていましまが、同時に皆に対する罪悪感も膨れ上がっていくばかり……某は一体どうすれば良いのでありましょうか主様!? 愛情と友情のどちらを優先すれば報われるのでしょうか!?」
「……だってシロ君。ちゃんと聞いてた?」
「う、うん……聞いてる聞いてる……」
愛と絆のジレンマ。一方を選べば、もう一方に亀裂が生じることは逃れられない定め。どちらを選べばこの左籠手シルバーは救われるのか。その答えは――
「それはねシルバー。他人に聞……聞いて決めることじゃな……ないよ」
「主様? 気のせいか笑っているように見えるのでありますが……」
「笑ってない笑ってないよ。俺は至って真剣だよ。見てこの曇りなき眼を」
ニヤけている口を手で隠して瞳だけを見せ付ける。この目だけは何の疑いようもないくらいに純粋そのものだから、どうにか誤魔化すことができた。
「確かに君は自らの法度を破ってしまったという罪がある。でも俺はそれも仕方無いことだと思ったよ。とある犬猿の仲の男性女性が長年同居生活を共にするに内に、恋に落ちて意識するようになるという話を聞いたことがあるからね。それが元々仲の良い異性同士だって言うんだから尚更だよね」
甲胄パーツに性別があることに疑問を持つけど、構わず話を続ける。
「人生だろうと妖生だろうと、時にはどちらか一方を選ばなければならない選択肢に出会すことになる。そうなったら間違いなく迷うだろうけど、でも最後には必ず選ばなくちゃいけない。他でもない、その迷ってる人自身がね。他人の意見に左右されるんじゃなくて、自分一人で悩んで悩んで悩み切った後で出た答えを尊重するべき……と俺は思うよ」
「なるほど……確かに主様の言う通りであります……結局のところ、後悔しない答えを出せるのは自分自身ということでありますな」
「……シロ君」
みなまで言うなと猫さんの口に手を当てる。決して俺は、面倒臭い悩みだから丸投げしたかったとか思っていたわけじゃない。俺はあくまで正論を投げ掛けただけで、逃げに走ったわけじゃない。うん、俺は何も間違ってない……よね?
「ありがとうございました主様。でもまだ少し物思いに耽りたいところがございますので、宜しければ屋敷内の空き部屋を一つ貸して頂けないでしょうか? 答えが出ればすぐに帰りますので」
「う、うん。なら使われてない好きな部屋で休むといいよ。俺達はここでのんびりしてるから、用があったらまた声掛けてね」
「ありがとうございます主様。では、少し失礼します」
そうして左籠手シルバーは魔法のようにオイルを全て吸収し、ぴょんぴょん飛び跳ねながら部屋を出て行った。
……よし、行ったかな。
「にゃはははははっ!!」
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」
俺とキサナの笑いの沸点が越えて、溜まりに溜まっていた笑いが噴水の如く吹き出た。笑い過ぎて涙まで出てくる始末で、お腹の中がよじれそうになる。
「酷いわね貴方達……特にシロ君。向こうは至って真剣だったのに、笑いを堪えた挙句の果てに相談放り投げるって……」
「だ、だって! 言動に突っ込みどころ満載で面白いんだもの! 特に恋に落ちた理由が……や、ヤバい、笑い死にそう……」
「ぷっ……そ、それは私も変とは思ったけども」
そこは猫さんにとっても笑い所だったらしく、微かに笑いを吹き出していた。
「ふぅ……にしても、これは中々面白いことになっとるの。もしかすれば、この後に他のメンバーも相談しに来るやも知れんの」
「はははっ、それフラグだよキサナ。その流れだと後数秒もしない内にそこの襖が開いて――」
「失礼するぜ!」
ついさっきシルバーが出て行ったばかりの襖が再び開けられた。そして俺の騒動通り、次の相談者が導かれるようにしてやって来た。
真っ白だった左籠手シルバーと違い、血の色で真っ赤に染まった右籠手。間違いなくポジションは“赤”と見た。
「アンタがここの主様って奴だな? 俺は瀬戸大将の右籠手、赤城ってもんだ。突然で悪いが、ちょいと俺の相談相手になっちゃくれねぇか? 噂通りのお人好しのアンタなら聞き入れてくれるはずだ」
噂話の俺は良人として広まっているんだろうか? そういう意識はしてないし、最近は変態妖怪に稲妻を落とすような仕打ちをするという鬼畜の所業を犯していたのに、罪悪感を覚える評判ですこと。
「どうぞどうぞ座ってください。キサナ、オイルの追加を」
「ほいほい、どぷどぷどぷ〜っとの」
「それ恒例にゃのね……」
右籠手の赤城がオイル鍋に浸かり、本日二度目の相談話が開始される。今度はさっきのように流すような真似はしないぞ。いや別にさっきの流したつもりはないけどね! 正論言っただけだもんね!
「実はな……俺達瀬戸大将は六つの部分で分かれていて、ずっと昔から固い絆で結ばれていたんだ。メンバー内で恋愛はご法度っつー条例の元でな。だが……そのメンバーのとある一人に聞いたんだが、なんでも俺達の中にこっそり逢い引きしてる奴らがいるっつーことを聞いちまったんだ」
間違いなくさっきのシルバーのことだ。本人達は隠せているつもりが、どうやらメンバーの誰かに見透かされていたようだ。基本団体行動してる中でその関係性を隠すのは至難の技だろうし、バレても何ら不思議なことじゃない。
「俺達の絆を引き裂くような真似をするたぁ、俺は絶対に許せねぇ。副リーダーの身としては見過ごせねぇ話だ。だから俺はメンバー全員の動向を最近観察していたんだが……その結果、目星がついた奴らを特定できた。それは他でもない、法令を定めた張本人のシルバーの野郎だ」
本気で許せないのか、カタカタと震えてオイルの風呂に波を発生させる。畳に溢れたら面倒だから止めて欲しい。
「あの野郎は……俺が密かに恋い焦がれていた胴体ピンクを垂らし込んでやがるかもしれねぇんだ! 俺は絆に亀裂を生じさせないためにこの気持ちを奥底にしまっていたのに、あいつはその隙を見計らってピンクを! くそっ! 俺達の友情は偽物だったってのかよ!」
オイルを完全に吸収し終えない内に鍋の中から出てしまい、オイルが乾いていないことによって畳が少し汚れてしまう。下手な配慮を施した俺が浅はかだった。
「あいつは……あいつは俺達の中にいちゃいけねぇ存在となった! だから俺があいつを……シルバーを殺して全てを終わらせる。そのために力を貸して欲しいんだ主! アンタの器量なら付喪神の一体くらいどうってことないだろ!?」
結果的に物凄く物騒なお願いをされてしまった。無論、俺は右籠手の赤城に対してかぶりを振った。
「殺生駄目絶対。俺ができるのは話を聞くところまでなので、これ以上は力貸しません。それと邪魔だから殺すっていうのは野蛮な考え方だから、少し君は頭を冷やした方がいいよ」
「くっ……分かってんだよそんなこと! 少し席を外す。空いてる部屋を借りるぜ」
「どうぞどうぞ」
興が削がれた右籠手の赤城は痺れを切らし、オイルの後始末を俺に押し付けて部屋を出て行った。シルバーがいる部屋と被らないことを祈りつつ、部屋にある雑巾で汚れた畳の部分を綺麗に拭き取った。
「にゃんか面倒にゃことににゃってるみたいね」
「まるで昼ドラのサスペンスドラマのようじゃの。この分だと彼奴らに死人が……出るわけないの。妖怪は物理的に不死身じゃし」
「それはそうだけど……これ絶対まだ来る感じだよね。正直お腹いっぱいだよ俺」
ぶっちゃけてしまうと面倒臭い。何度も言うが、俺は誰の言うことでも聞く良人ではない。嫌なものは嫌だと言うし、面倒臭いことは極力避けたいとも思う。
「とにかくこの流れを止めよう。そのために俺は逃げ――」
「失礼するわ」
風呂敷を被って盗っ人スタイルになって逃げようとしたところ、時既に遅し。またもや不法侵入されて襖を開かれ、緑色の右脚がやって来た。さっきも思ったけど、手がないのにどうやって襖開けてるんだろう……。
「貴方がここの主様で良いのよね? 私は瀬戸大将の右脚を担当している縁花。初対面でいきなり失礼だとは思うけど、少し私の相談に時間を割いて貰えないかしら? 聞いてくれたら今度それなりのお礼を渡しに来るわ。ついこないだ買ったばかりの羊羹なんだけど……」
隙を突いて尻尾巻いて逃げる思考を捨て去り、座布団の上に踏ん反り返って座り込む。
「意外と現金にゃのねシロ君……」
「こう見えて甘い和菓子が大好きでさ。少し話を聞くだけなら安いものだよ。“聞くだけ”ならね」
「そうじゃの。“聞くだけ”なら簡単じゃしの。それで礼が出るなら拒む理由はないじゃろ」
綺麗な雑巾を用意して右脚の縁花を直に磨く。彼女にとってマッサージのようなものなのか、つぶらな瞳を細めて「あぁぁ〜……」とボヤいていた。
「では、相談内容をどうぞ」
「えぇ、実は私達瀬戸大将は固い絆で――(以下省略)」
〜※〜
その後、数時間に渡って瀬戸大将のピンク以外の全員が相談しに来て、結局俺達はそのどうでもいい話の全てを知ることとなった。一度に全員やって来るとか、裏で打ち合わせでもしてるんじゃないかと疑ってしまう。
全員の話を聞いた上でまとめるとだ。まず、左籠手シルバーと胴体ピンクは相思相愛の内密カップル関係。そしてその関係を疎ましく思っている右籠手の赤城はピンクに恋をしていて、法令を破ったシルバーを殺そうとしている。
右脚の縁花は実はシルバー達の関係を全て知っている唯一の理解者であり、二人の想いを知っていながらも密かにシルバーに想いを馳せている。淡い恋心を抱くお姉さんのような人だった。
その後に続いて現れた左脚の黄奈。彼女はピンクに恋心を抱く赤城に惚れていて、赤城にシルバー達が怪しいと情報を流したのも彼女だった。気弱な感じに見えて、何処か腹黒い部分を持ち合わせている心を病ませた女の子だった。
最後にやって来たのは兜……ではなく、褌の青太。影が薄いらしい彼はあまり主張ができない性格であったが、赤城に恋心を抱く黄奈のことが好きらしい。気弱で内気な草食系男子といった男の子だった。
なんか話が混ざりに混ざり合って訳が分からなくなってきたので、ほぼ全員の話の内容をまとめて相関図にしてみた。ざっとこんな感じだ。
「にゃんていうか、恋愛禁止法令も何もあったもんじゃにゃいわね」
「こうして見るとかなり面倒なことになっとるの。リーダー達以外皆空回りしとるではないか」
「戦隊モノとして名前を付けるなら、昼ドラ戦隊付喪6ってところだね。おばさん達から絶賛浴びそうだと思わない?」
「ひゃっひゃっひゃっ! そのネーミングセンス我のツボじゃ! 意外と視聴率取れたりしての!」
「またくだらにゃいことを……で、ピンク以外のメンバーが奇跡的にこの屋敷に揃ってるわけだけど、何か手を打つつもりはあるのかしら?」
手を打つ……か。俺が何をしたところで何かが変わるんだろうか? 結局は彼らの事情なんだから、彼らだけでじっくり話し合いをするのが一番だと思う。
つまり、俺が取るべき行動は――
「よし、黙って見守ってよう。どんなオチで終わるのか気になるし」
「うん、今回のシロ君の役回りがどんにゃ感じにゃのか理解したわ」
何故か冷たい視線を浴びせてくる猫さん。そんな目で見られても俺にはどうすることもできないし、だったら下手に状況を悪化させるよりは放っておいた方が良いと思うんだけどなぁ。
「そう意地悪するでない猫。シロも完璧な生き物というわけではないのじゃ。誰しも何かしらの汚点はあるものじゃし、それはシロもまた同じじゃ。甘んじてその幼心を受け入れてやるくらいの懐の広さを見せんか」
「マイバディ? それさりげなく俺のことディスってませんかね?」
下手くそな口笛を吹いて明後日の方向を見つめるキサナ。さては何時ぞやの囀り石の件の仕返しのつもりかな?
肘で脇腹を突っついてやると、ご機嫌良さそうにニヤけながら同じ要領で仕返ししてきた。
「よせよキサナ〜。これ以上するならおっぱい鷲掴みしちゃうぞ〜?」
「いやん、シロったら手が早いんじゃから。でもそんなところがス・テ・キ☆」
「気色悪いわよ似非バカップル。コントに逃げるんじゃにゃいわよ」
辛辣な台詞に少し心痛ませるが、負けじとこちらも反撃に転じる。
「そんなこと言って猫ったら〜。本当は羨ましいんじゃろ? こうしてシロにベタベタと積極的になれる我の性格に嫉妬しとるんじゃろ?」
「そ、そんにゃわけにゃいでしょ! 貴女と違って私はちゃんとした自尊心を持ち合わせてるのよ! そんなことばかりしてるといつかシロ君にビッチ扱いされるわよ! そうにゃったら何をされることか……」
「はははっ、信用ないなぁ俺。確かに俺も変態っ気があるにはあるけど、手を出すようなことはしないよ? するとしてもトイレで踏ん張っている姿をこっそり拝むくらいだよ」
「普通にアウトよそれ! 本当に最低ね貴方!? しばらく話し掛けにゃいで頂戴! こっちにまで変態が移り兼ねにゃいわ!」
「ほほほっ、そうかそうか。なら我のエロス成分を猫にもお裾分けしてやろう。さすればお主も少しはシロの気持ちが分かるようになるじゃろ」
わざと涎を垂らしてエロい手付きで猫さんにじわじわ近づいて行くエロ荒。俺もそうしたいところだが、やったらマジで引かれそうなので謹んでおく。
「止めにゃさいエロ荒! それ以上近付くと引っ掻くわよ!?」
「ほほほっ、良心的なお主が我を傷付けられるとでも? むしろ引っ掻いてくれたら我昇天しちゃう」
「前々から思ってたけど、SにゃのかMにゃのかハッキリしにゃさいよ!」
「無論、両方の素質を持ち合わせたどエロ女妖じゃ!!」
「胸を張るにゃ腹立つ!」
言い争いの中にどさくさに紛れ込み、キサナが芋虫の如く猫さんに纏わり付いて身体中を弄る。それを見た俺が固唾を飲み込むのは、男として当然の反応であった。
「ほぅ……お主また胸が一段階成長しとるの。A止まりで良かったものの、Bを超えてCへ行くなど笑止千万。猫はスレンダーな身体が売りなのじゃから、これ以上己のアイデンティティーを損なうような真似をするでない!」
「そんにゃどうしようもにゃいことを押し付けにゃいでくれにゃい!? 自然の摂理に逆らえるわけにゃいでしょ! ていうか着物の間から手を突っ込むにゃ変態!」
キサナの影響によって猫さんの着物が少しだけ着崩れする。それを見て鼻血が出そうになるのも自然の摂理というやつだ。俺は決して悪くない。
「そこっ! 私が気付いてにゃいとでも思った!? シロ君は後ろ向いてにゃさい!」
「いや、日頃の行いに対するご褒美をくれてるのかと思って」
「貴方に必要にゃのはむしろ罰だと思うけど!?」
猫さんが必死になってキサナを振り払おうとして、俺の目を潰そうと徐々にこっちに近付いて来る。まずい、このまま近付かれたら猫さんの見えてはいけない部分が現となってしまうやもしれない。
「まぁまぁ落ち着いてよ猫さん。こんなのもう日常茶飯事じゃないか。見られることに関しては恥なんて思わないでしょ既に?」
「まるで私がビッチとでも言いたい様子ね!? もう昼ドラ付喪神にゃんてどうでもいい! 今日という今日こそはシロ君の邪にゃ感情を取り払って――にゃっ!?」
後退りしながら説得に興じている最中、キサナと猫さんの足がもつれてバランスを崩した。
「あだっ!?」
二人は密着したまま俺の方に倒れて来て、二人を受け止めた俺もまた後ろに倒れてしまう。更に後ろにあった襖が外れて倒れてしまい――何かが割れる不吉な音が聞こえた。
「ご、ごめんにゃさいシロ君! 怪我してにゃい!?」
「俺は大丈夫だよ。キサナは?」
「うむ、傷物にはなっておらん。二重の意味での。それより今奇妙な音が聞こえた気がしたが、気のせいかの?」
音はキサナにも聞こえていたらしい。要は聞き間違えってわけじゃないと。どうやら音の主は襖の向こう……というより、襖の下にあるみたいだけど……。
なんだろう。不吉な音だと思った瞬間にも思ったけど、凄く嫌な予感がする。
俺は二人を退けると、そっと襖を持って避けてみた。
そこにあったのは……バラバラの欠片と化したピンク色の鎧でした。
「ピ……ピンク!?」
更に災いが災いを呼び、別室で物思いに耽っていたはずの左籠手シルバーが顔を出してきた。やばい、ひょっとして今の見られてた?
「ピンク! しっかりするんだピンク! くそっ、一体誰がこんな酷いことを!?」
良かった、見られてなかった。ここは知らないフリして口笛でも吹いていよう。
幸いシルバーは目の前のピンクしか見えていないようで、俺達の存在には見向きもしないどころか、気付いてすらいない。チャンスと思ってこっそり襖を元に戻し、二人に静かにするようにと人差し指を立てて、襖に隙間を作って皆で外の様子を覗く。
「シルバー!? お前……お前何をして!?」
「赤城!? 何故お主もここに!?」
なんてバッドタイミング。何の因果か、シルバーに続いて右籠手の赤城まで来てしまった。今この二人を合わせるのは非常にまずい……けど関わると面倒臭そうなので手を出さずに観察しておくこととする。
「そいつは……ピンクか? お前がやったのかシルバー!?」
「ち、違う! 違うのだ赤城! 某は今ここに来たばかりで、某も状況が全く分からないのだ!」
「そうやって必死に弁解してんのが余計に怪しいんだよ! お前……一体何だってこんなことを――」
「落ち着きなさい赤城!」
「お前は……縁花!? それに他の皆もだと!?」
ここでまさかの全員集合。彼らにとって最悪の場でありながら全員集ってしまった。
「シルバーがピンクを殺すなんて……そんなことするわけないじゃない!」
「何を根拠にそんなこと言ってやがる縁花! どう考えたって怪しいのはリーダー様じゃねぇのか!?」
「違うわよ! だって……だってピンクはシルバーの恋人だもの! 愛する人を殺すだなんて、そんなのあり得るわけないじゃない!」
「恋人……だと? シルバー……やっぱりてめぇは!?」
ずっと隠されていた真実が告発され、シルバーは赤城から目を背けながらこくりと傾いた……というより、頷いた。分かり辛いよ甲胄達の仕草……。
「……すまない皆、今まで隠していて。某はこういう身内争いが起こらないようにするために法令を定めたのに、某自らその法を破ってしまっていたのだ!」
「シルバーてめぇぇぇ!!」
ぴょいんぴょいんと跳ね飛びながらシルバーに襲い掛かっていく赤城。しかしその途中で左脚の黄奈が立ち塞がって赤城を止めた。
「だ、駄目だよ赤城君! 今は喧嘩してる場合じゃないよ!」
「どいてくれ黄奈! 俺はそいつが許せねぇ!」
「落ち着きなさい赤城! 言いたいことは分かるけど、今はピンクの死因を優先して探さないと!」
「うるせぇ縁花! 俺は……俺はなぁ……最初の頃はシルバーのことを信じていたんだ! ピンクのことを好きな気持ちを必死に抑えて、俺達の絆を優先して信じ続けていたんだ! それなのにそいつは俺を裏切るどころか、ピンクを掻っ攫っていきやがった!」
八つ当たりに床を叩く――ではなく、その場で倒れてガツンと床に身を叩き付ける。何から何まで仕草がシュール過ぎて妙な違和感しか感じない。
「お前にこの気持ちが分かってたまるかよ! 裏切られた上に好きな人を横取りされた俺の気持ちが!」
「そんなの……そんなの私だって同じよ!」
「……縁花?」
ここまで冷静だった縁花の変わり様に、思わず皆が身じろぐ。
「私……本当ね? ずっと昔からシルバーのことが好きだったの。だけど私は、シルバーがピンクのことが好きだったことを偶然知ってしまったのよ……」
「え、縁花? お主は何を……そもそも一体それを何処で?」
「見たのよ私。貴方達が人目の付かない小屋で、こっそり二人きりで合体していたところを。何度も何度もピンクの左腕の付け根部分にガシャンガシャンしていたところをね……」
ガシャンガシャンて……要はこういうことだろうか?
「にゃんちゅーものを律儀に図解してるのよ! ていうか何で相関図風!?」
「俺なりに規制を掛けた結果の末路だよ」
「なるほどの……こうして彼奴らはお互いの体温を高ぶらせ、息を荒くし、灯りを消し、左籠手と胴体をガシャンガシャンと幾度と無く交えたわけじゃの……」
「や、止めにゃさいよ! 実際見たらシュールにゃ絵面のはずにゃのに、貴方達のせいで変にゃ気分ににゃってきたじゃにゃい!」
顔を真っ赤にさせてぽかぽかと頭を叩いてくる。甲胄同士の交尾で顔を赤くさせるとは、猫さんの想像力は個性的だなぁ。笑い要素しか抱けない俺にはとても無理だ。
「正直ショックだった……けど、二人の幸せそうな顔を見て、私は見て見ぬフリをしてしまった。お互いに想い合っているのに、引き裂けるわけがなかった。だから私は二人の関係を知りながらも知らない素振りを貫き通して、シルバーのことが好きな気持ちを心の奥底に押し込めていたの……」
「縁花ちゃん……」
とても悲しい悲恋話だ。本来笑い要素なんて何一つないはずなのに、甲胄というパラメーターがシリアスムードをぶち壊しにしてしまっている。
キサナは再び笑いに堪え出し、釣られた俺もまた口を手で塞いで笑いを堪える。
「縁花……某は……某は何と言って詫びれば良いのか!」
「止めてよ詫びなんて! それだと私が本当に惨めな女になるじゃない……」
「……ううん、そんなことないよ縁花ちゃん」
「黄奈ちゃん?」
左脚の黄奈が目を細め、優しく縁花に語り掛ける。
「惨めだと言うなら……それはきっと私のことだよ。今勇気を持って自分の想いを言えた縁花ちゃんと違って、私は自分の殻に閉じ篭ったままの臆病者だから……」
赤城はピンクにずっと一途に片想いをしていると聞いた。それを直接教えてくれた黄奈は、この場でも自分の気持ちを隠し通すつもりらしい。
報われない恋だと分かっていて、想いを告げぬまま忘れ去る。それが女の子にとってどれだけ辛いものなのか、男の俺には想像もつかない。
……真面目だ。彼らは真面目な話をしているんだ。だから笑うな俺。空気を読まずに大声で笑い上げるのだけは何としても耐え忍ぶんだ。だってもし全部バレたら彼らに袋叩きにされそうだから。
「縁花、お前の気持ちはよく分かった。だが俺は余計にそのクソ野郎を許せなくなった!」
罪作りなシルバーをキッと睨み付ける赤城。
「表に出ろシルバー! そして俺と決闘しろ! 負けたらお前には俺達の輪から出て行ってもらう! 俺が負けても同様だ!」
「そ、そんな駄目だよ赤城君! ピンクちゃんが死んでいなくなっちゃったのに、今度は赤城君かシルバー君がいなくなっちゃうなんて!」
「止めるな黄奈! 俺の意志はもう変わらねぇ! さぁ、今すぐ俺と勝負しろシルバー!」
「……承知した」
「ちょ、ちょっとシルバー!?」
この誰も報われない関係性を作ってしまったことに自覚があるようで、シルバーは赤城の申し出を受け入れて外へと出て行った。続いて赤城も外に出て行き、他のメンバーもピンクを取り残して後を追う。
皆が外に出たところで俺達も部屋を出て外に向かう……前に、一応接着剤を使ってピンクを即席で修理しておく。皆は死んだ死んだとのたうち回っていたけれど、よく見たら気を失っているだけだった。そもそも妖怪なんだから物理的に死なないなんてことは分かってるんじゃ?
修理を終えた俺は落とさないようにピンクを両手で持ち、二人と共に外に出る。瀬戸大将の集いは縁側の方に移動していて、ボロ屋敷の物陰に隠れて再び傍観者ポジションについた。
「勝負はどちらかが壊れるまでだ。それで良いな?」
「うむ……文句はない」
シルバーと赤城はそこそこの距離感をとっていて、丁度決闘が始まろうとしていた。いつの間にか昼ドラから青春モノのドラマに転換されてる気がしたが、この際はもう気にしないでおく。
「止めてよ二人共! 仲間同士で争うなんておかしいよ!」
「……もう無理よ黄奈。本気になったあの二人に何を言っても」
「そんな……」
ヒロインズは俺達と同様、近くの方で二人の決闘を見守っていた。
雨雲で激しい風邪が吹き荒れる周囲――ではなく、ぽかぽかとした陽気が辺りを包んでいる中。二人は、一斉に飛び跳ねた。
「シルバァァァ!!」
「赤城ィィィ!!」
声だけはでかい二人の咆哮が飛び交い、そして――
かつんっ、と小さな音と共に籠手同士がぶつかり合う。
「うぉおおお!」
かつんっ
「はぁあああ!」
こつんっ
「でやぁあああ!」
かつんっ
「まだまだぁ!」
こつんっ
「地味っ!!」
キサナが吹き出して腹を抱えながら転げ回る。俺は何とか笑いを堪えるものの、腕を振って地面を叩かずにはいられなかった。
本人達は本気なんだろうけど、客観的に見たら物凄く平和な光景なせいで、余計に笑いのツボが刺激される。こんなのいつまで経っても決着付かないだろうに。
「……私もう帰っていい?」
楽しそうにしている俺達を見て一人白けている猫さん。もう少しだけ待ってとサインを送り、世界一地味であろう決闘に視線を戻した。
「あっ……」
そうしていること約十分。どちらにも戦況が傾かないままバトっていると、林の方から見知った顔がやって来た。
「ったく……あのヤンデレ野郎、いつまで俺を殺しに付け回るつもりなんだっつの。これじゃ満足に坊と釣りにも行けねぇじゃねぇか」
ゲス鬼こと温羅兄登場。ちらりと後ろを振り向くと、いつの間にか猫さんの姿が消えていた。清姫事件以来から、猫さんは温羅兄と顔を合わせる度に逃げるようになってしまっていて、どうしたものかと思い悩んでいる今日この頃であったりする。
どうやら清姫の追跡をさけてここに遊びに来たらしい温羅兄。そのまま屋敷の方へ近付いてくるが、そのすぐ先には真剣勝負中の籠手達がいる。このままだとどういうことになるのかは察しが付いた。
「邪魔だっつのガラクタ共」
「っ! 赤城!」
屋敷へと続く道を遮る籠手達に対し、容赦無く足蹴りを放つ。しかし直前に危機を察知したシルバーは赤城に体当たりして突き飛ばし、身を犠牲にして温羅兄に思い切り蹴られた。
ピンクの時も思ったが、彼らは想像以上に脆い作りだった。故に、あの温羅兄の蹴りの一撃をもらったことにより、シルバーもピンク同様バラバラに砕け散った。
「シ……シルバー!?」
宿敵に助けられた赤城がシルバー飛び寄る。そしてヒロインズ達もシルバーがやられたことによって取り乱し、シルバーの元に集まった。
「馬鹿野郎! なんで敵に塩を送るような真似しやがった!?」
「決まって……いるではないか……お主は……敵ではなく……仲間なのだから……」
「シルバー! しっかりしてシルバー!」
縁花が懸命になって呼び掛けるが、シルバーが回復することはなかった。砕けてるんだから普通に考えて当たり前だ。
「元々某は勝つつもりなど毛頭なかった……己のつもり罪は己で裁く……それが某がついさっき誓った志だ……すまなかったな赤城……縁花……そして皆……」
「馬鹿……野郎が……こんな終わり方があってたまるかよ……」
赤城がポロポロと涙――ではなく、砂粒サイズの鉄屑を流す。悲しみも感動もあったものじゃない。
「赤城……これからはお主が……某の代わりを引き継いでくれ……次の主役は……お主……だ……」
「シルバー……シルバァァァ……」
赤城の慟哭の叫びが天へと上がっていき、シルバーは息絶えた。後に皆が啜り泣く声が聞こえてきて、それでも俺達は頬袋を膨らませて笑いを堪えていた。
そして、物語に終焉が訪れる。
「はいカットー!」
温羅兄の妙に明るい声で。
「「…………は?」」
俺とキサナは目を点にして固まっていると、俺に担がれていた胴体ピンクが突然目を覚まして俺達の元から離れ、仲間の群れへと帰るように戻っていく。
「これで満足かテメェら? ちゃんと後で紹介料とギャラを俺に渡せよ」
「勿論であります温羅殿! いやぁ、今回は本当に助かりました!」
死んだはず(仮)のシルバーが目を離した隙に再生していて、意気揚々とした様子で温羅にぺこぺこ腰を低くしている。何これどういう展開?
「よう、坊。勝手に視聴者にして悪かったな。でも暇潰し程度にはなったろ?」
温羅兄が瀬戸大将達を引き連れて、けらけらと呑気に笑いながらやって来た。
「いや……温羅兄? どういうことこれ? 全然訳分かんないんだけど」
「あぁ、実はこいつら俺の知り合いでよ。妖怪界でクソも売れてねぇ劇団なんだが、劇を披露する客がいなくて困ってるって相談されてな。で、暇人のテメェらを俺が抜擢したってわけだ。ちなみに俺はその感謝として金を貰う手筈になっててよ。いやぁ、テメェらには感謝感激だぜ。カッカッカッ!」
……つまり、これまでのことは全て演技だったというわけだ。俺の良心を利用して相談しに来るところから現在に至るまで全て。
「ありがとうございました主様! お主のお陰で某達は満足です!」
「どうだったよ俺の演技? 迫真の演技だったろ?」
「この関係性を考えるのに結構頭使ったのよね〜。まぁ私は頭じゃなくて足なんだけど。アハハッ!」
「でもあそこでピンクちゃんが壊されるのは想定外だったよね。シルバー君と赤城君の起点のお陰で乗り越えられたけど」
「いやん、あの時のシルバー格好良かったわぁん。私ゾクゾクしちゃった」
「ふふっ、よせピンクよ。そんな誘うようなこと言われたら……某の某がまた疼くであろう?」
「バッカ野郎シルバー。ピンクは俺達皆のピンクだろ? よし、なんだったら景気付けにここでやるか!」
「良いわね、そうしましょっか。私もなんだか火照ってきちゃったわ……」
以心伝心して一致団結する瀬戸大将達。ピンクが地面に寝そべり、他の部位達がそれぞれ位置に付いて合体する。
それから、何度も何度も合体しては離れるを繰り返す。ガシャンガシャン音を立てて繰り返す。
「これが某達の絆ハァハァ……」
「切っても切れぬ鉄の絆ハァハァ……」
「決して解けない奇跡の絆ハァハァ……」
「何よりも硬い鋼の絆ハァハァ……」
「あんっ、やっ、んっ、あっ……」
「「「「「瀬戸大将付喪6ハァハァ……」」」」」
その辺の地面に置いてあった漬物石程度の石を手に取り、温羅兄の顔面目掛けて力一杯振り切る。
「げっほぉ!?」
油断していた温羅兄の顔に石が炸裂。その反動で後ろに吹き飛び、合体を繰り返す瀬戸大将達に激突。瀬戸大将達は見る影もなく粉々に砕け散った。
「……色々思うところがあるが、取り敢えず我は一つ物申したいの」
「奇遇だねキサナ。俺も一つ言いたいことがあるんだよね」
こちらも語らずに以心伝心して、散々俺達を振り回したガラクタ達に対して一言だけ言い放つ。
「「褌も仲間に入れてあげて……」」
隅っこでひっそり啜り泣く褌の青太を目にしながら、切実の思いを打ち明ける俺達だった。