主さんのいない妖怪屋敷 前編
何気無くふと思ったことがある。
今年の春頃にキサナと出会い、その出会いから皆と繋がって妖怪の輪の中に入った俺。今ではそこにいて当たり前の存在として受け入れられている。
普通なようで普通じゃない日常は何ら不満無く、時折奇想天外な事態と遭遇してパニックに陥ることも稀にあるが、何とかこうして今を生きている。
で、今日まで生きてきて唐突に気になったことが一つあった。
それは、俺が皆と出会う前のこと。俺がこの場所にいない頃、皆はどのようにして日々を過ごしていたのかということだ。
でもその時のことを具体的に体感する術は生憎持ち合わせてはいない。その日々は既に過ぎ去ってしまった長い時間なのだから。
そこで俺は考えた。ならば、現時点で俺がここにいない場合、皆が何をして過ごしているのか。それならば実際にこの目で見て確認することができる。
というわけで、今日は誰の目にも見つからないように気配を殺し、ひっそりと皆の日常を覗いてみようと思い至った。
本来今日は登校日だが、学校設立記念日であったがために祝日であり、学校に通う必要は無い。しかし俺はそのことを皆に伏せた上で登校するフリをした。
今頃皆は俺が学校に行っていると思っている。これで心置きなく皆の素を暴けるというものだ。
今俺は狐屋敷の一階の天井裏に隠れており、廊下を歩く妖狐達を観察しているところだ。
しかし場所が場所なだけに、未だに誰かの特別なアクションは拝めていない。やはり直接皆の部屋に赴くしか無さそうだ。
まず一番最初に向かう部屋は何処にしようか。……いや、ここはやはり何よりも最優先して確認するべき相手から探るべきか。
その相手というのは他でも無い。俺がいない時に何をしていてもおかしくない危うき存在。どんな手を使ってでも俺を息子にしようとしているあの三大妖怪の一角、玉藻前こと玉さんである。
根は良い人ではあるのだが、同時にあの人はあまりにも危険な存在だ。一度決めたことには徹底する頑固さを持ち合わせており、夢中になり過ぎると周りが見えなくなって暴走を引き起こす。今はこうして無事でいられているが、いつ何を仕掛けて来てもおかしくない人なのだ。
もしかしたら俺がいない時を見計らって何かを企んでいるのではないか。内密に怪しい作戦会議的なものを開いて密会しているのではないか。
今はまだ仮説でしかないが、その仮説を明らかにするために今日はスパイ活動的なことをしていると言っても過言では無い。
経路は既に確保済み。きっと今頃玉さんは自分の部屋にいるはず。この謎を暴きに行くタイミングは今しかない。
「……よし」
暇な時間を駆使して極めに極めた青虫の動きを駆使して、天井裏をにょろにょろと移動していく。我ながらくだらないものを極めたものだ。
周りの目に入らないように屋敷内を徘徊し、そう時間も掛からないまま玉さんの部屋の天井裏に到着。予め作っておいた小さな穴から覗き込み、玉さんの所在を確認した。
「…………ハァ」
予想通り、玉さんは自分の部屋に待機していた。座布団の上に正座している玉さんは、十の尻尾を揺らめかせて腕を組みながら重い溜息を吐いていた。
「……ん?」
そしてよくよく見てみれば、玉さん以外にもよく見知った人物達が集結していた。
桜華に九ちゃんにコン子ちゃん。玉さんの実の娘達である三姉妹は、玉さんを正面に並んで座っていた。
何やら妙な空気が漂っているが……これはまさか?
「全く……私は情けないわ。これまで何度も助言しているというのに、一向に進展が無いだなんて。それでも貴女達は私の娘なの?」
「にゃっはは〜、これまた理不尽な切り出ししてきたねぇ〜」
「進展も何も、助言が助言になっていないから平行線になっていると思うんですが……」
「……(こくこく)」
「シャーラップ! 減らず口や御託を立て並べている暇があるのなら、一つでも何かアイデアを捻り出しなさい! 努力というのは絶えず続けてこそ成果を出せるものなのよ!」
バンバンと畳を叩いて三人に喝を入れる玉さん。しかし対する三人は玉さんのテンションについて行けず、荒れている母親を目にして呆れている様子だ。
そもそも何の作戦会議をしているのやら。もう少し様子を見よう。
「私が若い頃なんて凄かったのよ。あちらこちらから寄って来る男を一蹴し、あの人にひたすらアプローチをしていたのよ。誰にも靡かないこの一途な想いをぶつけ続けた結果、こうして夫婦になることができたってわけなのよ」
「その話もう数千回は聞いてますよお母さん」
「そもそもお父さんはその頃のお母さんのことを鬱陶しいって思ってたらしいしねぇ〜」
『最終的に強行手段で既成事実を作られたから、仕方無く夫婦になったと以前に聞いた』
「お黙りなさい未熟者の処女共! ……女って言うのはね、多少強引になった方が後々幸せになれるものなのよ。押して駄目なら引いてみろなんて言葉があるけども、そんなのは所詮迷信よ。今時の男なんて草食ばっかの根性無しなんだから、女から言い寄ってあげないと何も進展なんてしないのよ」
さらりと俺もディスられた気がする。草食根性無しに関しては反論の余地無しである。
「貴女達が駄目な理由の一つは、躊躇いという心のブレーキがあることよ。そのせいで後一歩を踏み込めず、臆して引き下がってしまっているのよ。本気で惚れた男をモノにしたいのなら理性なんて捨てなさい。そして手段を選ばずに既成事実を作るのよ」
「……なんでこんな人が私達のお母さんなんだろうねぇ〜」
「そもそもこの人が子持ちの母親になれていることが不思議って話ですよ」
『こういう女の人は男に捨てられた瞬間に死に腐る脆い生き物』
「……好き勝手言ってくれてるけど、これでも傷付きやすい生き物なのよ私」
三位一体の罵詈雑言に項垂れる玉さん。自業自得である。
「そういえばお母さん。この前助言してくれたトイレ作戦のことですけど、一応実行はしてみたんですよ」
「あら、そうなの?」
トイレ作戦て……。あれ玉さんの入れ知恵だったんかい。道理で桜華らしくないことをしていたと思っていたけど、要は玉さんの差し金だったわけね。
「で、どうだったのよ? 弥白ちゃんも男の子なんだし、可愛い女の子にトイレしている姿を見物なんてされたらねぇ……。興奮して狼化して貴女を性的に襲うと踏んでいたのだけれど」
「……マジ切れされかけました。私と弥白様の繋がりに多少なりともヒビが入ったかと思われます」
「ははは……」と精気の無い目をして笑う桜華。ヒビが入ったというのは大袈裟な表現だし、後悔するなら実行しなきゃよかったのに……。
「弥白ちゃんは初心なんだから、そんなことで怖気付いてどうするのよ。そんなのは貴女を追い払うための冗談まがいの脅しよ。私だったらトイレの鍵閉めて密室にした後、鬼の力を利用して有無を言わさず無理矢理――」
「お母さん大概にしてください」
「教育に悪いこと山の如しだねぇ〜。相手を犯すことしか考えてない母親って……ねぇ?」
『最近またお父さんに相手されていないから、欲求不満になっているのかと。それと、仲直りしてから夜の営みの回数が激増したとお父さんが愚痴っていた』
三人が玉さんを見る目がどんどん冷たいものになっていく。哀れというかなんというか……。
「……だって寂しいんですもの。いいじゃない、夜の一発や二発くらい。夫婦なんだから当然でしよ」
「いつまで思春期引きずってるんですか。自分の歳を考えてくださいよ」
「喧しいわね。確かに生きた年月はかなり積み重なっているけれど、妖怪であるが故にプロポーションが衰えることはない。この美貌が健在し続ける限り、私は未来永劫あの人に発情し続けるわよ」
「そしたらまた同じ過ちを繰り返すだけでしょう……。弥白様のお陰で折角仲直りできたんですから、この機会にお父さんとの接し方を考え直しましょうよ」
「無理よ。今だってここがうずうずしてるくらいですもの。盛りというのは満たされない限り静まらないものなのよ」
真顔で自分の股間に指を差す母親。娘達に対してする発言じゃないだろうに……。
「駄目だこりゃ、救う余地無いねぇ〜」
『時間の無駄。私は一抜ける』
「それじゃ私は二抜けますね」
不毛だと判断を下した三人は立ち上がり、玉さんの部屋から出て行こうと踵を返す。
「いやちょっと待ちなさいよ貴女達。そもそもなんで私が一方的にディスられなくちゃいけないのよ。貴女達をここに呼んだのは、今後の計画を立てるためよ。さりげなく逃げようとするんじゃないわよ」
尻尾を伸ばして三人の身体を巻き上げて拘束する。モフモフに包まれて幸せな気分を味わえるはずのあの尻尾だが、三人は心地良さと相反するような苦い顔をしていた。
「さぁ、一刻も早く弥白ちゃんを落とす計画を立てるのよ。中身の濃度が薄いその脳みそを捻ってでも考え出しなさい。そして早く私に息子を提供しなさい」
察してはいたが、やはりそういう意味が込められた密会だったようだ。思った通り、あの人が黙って俺を見過ごすはずがなかった。
「私達は私達のペースがあるんです。お母さんは引っ込んでいてください」
「そ〜そ〜。この件に関しては口出し無用ってねぇ〜」
『私に関しては現状で満足している』
「……だったら聞くけど、最近はどういうアプローチをしているのかしら?」
「「「…………」」」
黙り込む三人。そういや最近はコン子ちゃんくらいとしかコミュニケーション取ってなかったような気が……。
「そら見たことか。私達のペースがあるだなんてそれっぽいこと言っといて、本当はその場凌ぎに適当なこと言ってるだけじゃない。まさか最近の若い乙女すら草食化の一途を辿っていただなんて情けない……」
「うぐっ……。で、でも私は一度とは言え、ちゃんと真正面から告白を――」
「それで逃げられてるんじゃ不発も同じよ。一度想いを伝えたから、後は返事を待つのみと? それは貴女の自己満足でしかないわ桜華!」
ぐさりと胸に見えない何かが突き刺さり、桜華は背中から畳の上に倒れた。
「でもさぁお母さん。白君には雪ん子ちゃんっていう恋人がいるわけじゃん? 白君は白君で雪ん子ちゃんに一途なところあるし、その気持ちを私達に靡かせるっていうのも難易度が高いと思うんだよねぇ〜」
「相手が彼女持ちだろうが知ったことじゃないわよ。それにあの氷柱娘は病みが入ってるっぽいし、将来的に間違い無く依存系妻になることは明白よ。今はまだ出来立てほやほやカップルだから熱が熱いんだろうけど、時間が経てば熱も冷めて溶けていき、最終的に鬱陶しく思うようになるわよ」
『……なんて分かり易いブーメラン』
「それ雪ん子ちゃんじゃなくて自分自身のことでしょ。自分で自分を貶めてどうするのさお母さ〜ん」
「誰が依存系妻よ! 私はただ、あの人に毎日構ってもらいたいだけよ!」
それを依存しているというのですよ玉さん……。
「とにかく! 今日は貴女達が吹っ切れるまで逃すつもりはないわよ! 丁度良い機会だから、間違った過去の育て方を払拭すべく、今一度貴女達に再教育を施してあげるわ!」
『なんて傍迷惑な……』
「ひぃぃ! だ、誰か助けてくださいぃ!」
暴走する母から必死に逃げ惑う三人。
毎日こんなことをしているわけじゃないんだろうけど、これも彼女達の日常の一部なんだろう。これは知っておいて良かった気がする。
「やれやれ……」
こうなる事態を予期しておいたため、三人を助けるための準備を予めしておいて正解だった。
俺はポケットから小さい玉状の煙幕を取り出すと、玉さんの視界に入らないように見計らって覗き穴からぽとりと落とした。
〜※〜
「初っ端から濃い日常を見てしまったなぁ……」
あの後、三人は煙幕に紛れて無事玉さんの元から逃げ延びることに成功していた。きっと今は各々身を潜めていることだろう。未だに諦めていない玉藻前の追跡から逃れるために。
さて、お次は誰の所在を確認しに行こうか。玉さんの様子があれだったし、鬼屋敷側の方も確認しに行きたいところだけど、向こうに行く前にこっち側の住民達を優先した方が効率的か。
だとすれば次に確認するべき人物はキサナ、猫さん、雪羅辺りだが……。
……いや、ここは先に雪羅の様子を確認するべきだろう。以前引き篭もり生活から脱却するように促しておいたけど、俺がいない間にもちゃんとしているのか審査すべきと見た。
善は急げだ。まずは雪羅の部屋を当たってみよう。
最低限廊下には出ないように天井裏を移動して、周りの気配を確認しながら階段を上がり、また天井裏に隠れて移動を繰り返す。
雪羅の部屋の前までやって来ると、周りに誰もいないことを確認しながら廊下に飛び降りて、襖越しに耳を立てた。
「……?」
雪羅の気配を感じない。どうやら留守にしているようだ。他の人の部屋に行ってるのかな?
雪羅の部屋を後にして、それからあらゆる部屋を散策する。しかし雪羅の姿は見つからず、キサナの部屋や猫さんの部屋を見回ってみても、二人の姿すらそこには無かった。
もしかしたら外に出掛けている可能性があるかもしれない……が、その前にまだ見てない部屋が一つだけ残ってる。何を隠そう、俺自身の部屋である。
まさかと思いながら天井裏を移動して、自分の部屋の天井裏にやって来る。一応ここにも穴を開けておいたが……はてさて皆はいるのかな?
「「あ゛ぁ〜……」」
……いた。何故か俺の部屋に三人全員集結していた。
キサナと雪羅は対称的にコタツに座っていて、その間に猫さんが座っている。そして猫さん以外の二人はコタツの上に両手を伸ばして顔から倒れており、見るからに精気を失っている。
ダラダラするなと注意した矢先にこれとは……。三日坊主にすらなってないじゃないか。
「ハァ……。だらしにゃいわよ二人共。まさか一日中そうしているわけじゃにゃいでしょうね?」
「そんなわけないじゃろ。いくつになっても我は風の子元気の子。この寒い冬の中であろうと猛々しく生きておるわ」
「私も最近はようやく寒さに若干慣れてきたところだよ。この調子なら寒さを克服する日も遠くないかもしれないね」
「姿と台詞が噛み合ってにゃいように聞こえるのは私の気のせいじゃにゃいわよね」
「「気のせい気のせい」」
「どの口が言うか!」
あくまでダラけていないことを主張するダラけ組。
なんと嘆かわしいことか。俺がいない二人はこんなにも無気力になっていただなんて。ということは、キサナは俺と出会うあの日までずっとこんな生活を送っていたと? いやまさかそんなはずは……。
「雪羅ちゃんはともかくとして、キサの方に関してはどうにゃってるのよ。冬ににゃったら毎日のように外に出てはしゃぎ回っていたのに、いつからそんな自堕落にゃ生活を送るようににゃったのよ」
何? 昔はそんなわんぱく少年だったのか。だったら何故今になって空気が抜けたように萎んでしまったんだ……?
「昔はよく雪像とか作ってたじゃにゃい。凝り性だからやたら時間掛けてやらしい作品作り上げて、鬱陶しいくらい自慢して来ていたのに」
「そんな頃もあったの。いやはや今となっては懐かしき思い出じゃの」
「遠い昔話のように語ってるけど、長生きしてる貴女からしたらごく最近の話でしょうが」
「だってしょうがないじゃろ。やる気が出ないのじゃから。その理由は雪羅も同じじゃろうて」
「そうだねぇ……。同じだねぇ……」
「何よ理由って……。どうせくだらにゃい理由にゃんだろうけど」
「くだらないなんてことはない。お主も理解できる正当な理由じゃぞ」
「ふーん……。で、理由って?」
全く興味無さそうな反応をするが、一応理由を聞く猫さん。そこで聞いてあげようとする優しさが目に眩しい。
「……麻薬ってあるじゃろ? 一度使えば死ぬまで依存してしまう危ない薬のことなんじゃが」
「まさかの犯罪臭!? キサそれ洒落ににゃってにゃいから!」
とんでもない予期せぬ発言に眼球を見開いてキサナの胸ぐらを掴む猫さん。俺も驚き余りに思わず声を上げてツッコミを入れそうになった。
「まぁ話は最後まで聞け。そもそも麻薬を使ったところで我達は妖怪じゃ。効果も無ければ病的な害が及ぶこともない。しかしの、どうやら麻薬というのは薬という概念だけに収まらないものだったようなのじゃよ」
「は、はぁ……。つまりはどういうことよ?」
キサナは身を起こして猫さんに指を差し、キメ顔で不敵に笑った。
「…………養分、じゃよ」
「……はぃ? 養分? 何の?」
「シロの」
「白!? やっぱり危にゃい薬じゃにゃい!」
「いやそっちじゃない、弥白のシロの方じゃ。冷静さ欠いて判断力が鈍っとらんか猫よ?」
「貴女が麻薬とか危にゃげにゃキーワード出すからでしょうが! で、シロ君の養分ってどういうことよ?」
俺には意味が分かってきた。そしてこの後の猫さんの反応も。
「我は春頃にシロと同じ屋根の下で濃密で濃厚な時を過ごし始めた。そうしている内に妙な症状が我の身体と精神に発症しての。三時間以上シロと離れるとあらゆる気力が削がれてしまうのじゃよ」
「要はモチベーションの問題じゃにゃい! 理由がしょうもにゃいわよ!」
「三時間? フフッ、甘いよキサナ。私なんて一時間もすればこうなるから!」
「貴女も同じ理由かぃ! 誇って言うことじゃにゃいし、張り合う場面でもにゃいから!」
「まさか雪羅と二時間の差があるとはの……。もっとこの養分に溺れなければ時間差を埋めることは難しい話じゃろうな……」
「神妙にゃ話っぽく喋るにゃ! そんにゃ養分に毒されていたらこの先まともに生きていけにゃいわよ!」
全くである。そこまで好いてくれていることは正直嬉しいものの、そのせいでだらしなくなるというのなら事情が変わってしまう。
「まともに生きていけないって……。大袈裟だよにゃーちゃん。逆に言えば、私達は弥白が側にいればいくらでも生命活動することができるんだよ」
「その通りじゃ。我達の元にシロがいる限り、仮に三日三晩の戦争をすることになったとしても不眠不休で動けるぞ」
「じゃあ私達の元からいにゃくにゃった場合は?」
「「……んん?」」
間抜け面で目を皿にする二人。雪羅に関しては若干キャラが崩壊してきているような……。
「シロ君今はまだ学生だけど、学校を卒業したら進路先の都合でここを離れにゃくちゃいけにゃいかもしれにゃい。ううん、むしろここは田舎にゃんだし、離れる可能性の方が高いと思うわ。そうにゃったら二人はシロ君無しでまた過ごさにゃくちゃいけにゃいわけで――」
「あーあー、聞こえない聞こえないー。私は何も聞こえないー」
「にゃーにゃー言ってて何言ってるか分からないのー。よく噛まずに言えるのー」
「……駄目ねこの二人。私じゃもうどうしようもにゃい」
すっとぼけて目を背け、現実逃避をする二人。
まさか俺のせいでこの二人がこんな駄目妖怪になってしまっていただなんて、もしかしたら俺はキサナと雪羅に対して甘えさせ過ぎた生活を送らせてしまっていたのかもしれない。だとしたら責任があるのは俺なわけで……。
だ、駄目だ駄目だ。猫さんの言うことは正論だし、このままじゃ本当に二人が一生腐って生きることになる羽目になる。今日は様子見するだけだけど、今後二人には飴と鞭を使い分けるようにしないと。
「駄目とはなんじゃ駄目とは。別に我は立ち上がろうと思えば立ち上がれるんじゃぞ。さっきから不思議と気力が回復して来てるしの」
「にゃんで今更……。シロ君がいにゃいと駄目にゃんじゃにゃかったの?」
「……いやおかしいよ。さっきまで全然動く気にならなかったのに、不思議と私も気力を持ち直してきてるし」
「「……ということは」」
キサナと雪羅はお互いを見つめ合った後、ゆっくりと上を見上げて来た。
今更ながらに思い出してしまった。そういやキサナと俺は互いの居場所を本能的に察知できるんだった。なんで今の今まで気が付かなかったんだ俺は。
「……いるね」
「うむ、間違いないの。それに目を凝らして気付いたが、あそこに不自然な穴が開いておる」
やっべバレた。なんで雪羅までその能力身に付けてんだ。
「ぐぇっ!?」
物音立てずにそそくさと逃げようとしたが時既に遅く、俺の周りに円を描くように氷柱が突き刺さって来て、円状に天井裏を破壊されて部屋の中へと落下した。
「膝イッた膝イッた! なんで迎撃する!? 馬鹿じゃないの!?」
「あ、いや、うん、なんかごめんね弥白。反射的に手が動いたというか……」
「馬鹿はお互い様だとして……。いやらしいわねシロ君。こっそり覗き見にゃんて良い趣味とは言えにゃいわよ」
「遊んでたわけじゃないよ? 色々こっちにも事情があるんだよ。例えばこの二人だけど……」
さりげなく擦り寄ってくる二人に手を伸ばし、頭を鷲掴みにする。徐々に力を込めていくと、塩辛声を漏らし出した。
「さっきから全部黙って聞いていたけど、酷過ぎますよお二人さん。俺がいようがいまいが普段からシャキッとしていないと、本当に腑抜けた妖怪になっちゃいますよ。一人でもちゃんと私生活を見直しなさい」
「「……すいませんでした」」
「うむ、素直でよろしい」
これで流石に二人も以前の自分を取り戻していくことだろう。取り敢えず一安心。
「それじゃ俺は野暮用があるから失礼するよ」
「え? も、もう行っちゃうの? そもそも何処に行くの?」
「せ、せめて我達に三時間分の養分摂取を……」
「うん、反省してないでしょ君達」
合法の麻薬程厄介なものはないと思い知らされた。依存症って怖いわぁ……。




