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スクールバスター主さん 後編

 忘れ物コーナーの唐傘小僧の処理を終えた俺とキサナは、次なる怪談話の現場へと向かうべく、二階のとある一教室に向かっていた。


「して、次は何処を潰すつもりじゃ?」


「一番危険性が高そうだし、理科室の鎧武者かな。武者ってだけで物騒に聞こえるしね」


 そもそもなんで理科室に鎧武者なのか。そこは無難に人体模型が一番しっくりくるだろうに。


「唐傘小僧の件もそうじゃが、何の妖怪なのか検討が付かぬの。鎧武者を着た妖怪など聞いたこともないしの」


「そうだねぇ……。俺の勘としては、鎧武者に妖怪が取り憑いているってところかな。だとしても誰なのか全然分からないけど」


 恐らく俺と面識がない妖怪であると予想する。物に取り付く妖怪の知り合いなんて、俺の記憶の限りじゃいなかったはずだし。


「よし……ここだね」


 そんなこんなであっという間に理科室の前に到着。逃げられる可能性を考慮して、まずはドアに聞き耳を立てて中の様子を伺ってみる。


 ガチャッ……ガチャッ……


 何やら妙な物音が聞こえて来る。重みのある何かが歩いているような、そんな足音っぽい音が。


『理科室を徘徊する鎧武者』……ね。これは真実を知らなければ、ビビってしまうのは仕方無いかもしれない。


 音は人の想像力によっていくらでも勘違いを生む。化学現象であると誰もが否定したいのだろうが、頭で分かっていても恐れてしまう。それが物音の怖さというものなのだろう。


 さて、その紛らわしい心霊現象を引き起こしているのは誰なのか。その顔を拝ませて頂こう。


 キサナと目を合わせて「行くよ」とアイコンタクトし、頷き合った後に勢い良くドアを開いた。


「右……左……右……左……よしよし良いぞ、この調子なら……」


 予想通り、妖怪らしき奴が理科室の奥のテーブルの上に立っていた。


 しかしそれは、甲冑を着た鎧武者等ではない。超合金サイズのオモチャのような大きさで、いかにも古臭いデザインの首無し武者であった。


「なるほど、瀬戸大将じゃったか。めっきり見なくなっていたとは思っておったが」


 その妖怪は、以前俺が本能に赴いて木っ端微塵に打ち砕いた付喪神。くだらない茶番劇を生業としていた瀬戸大将(合体版)であった。


「何してんのこんなところで」


「ややっ!? 貴様はいつぞやの鬼畜主様!」


 出会い頭に酷い言い様だ。俺はただ制裁を与えていただけだというのに。


「見掛けなくなったな〜とは思っていたけど、今まで何処ほっつき歩いてたの君達」


「某を粗大ゴミに出しておいて、よくそんな台詞が吐けるものですな!? あの後どれだけの苦労があったことか! 全ては貴様のせいだ鬼畜主様!」


「失敬な。粗大ゴミにだなんて出した覚えはないよ。俺はただ袋詰めにして玄関辺りに置いておいただけだし」


 そういえばいつの間にか無くなってたっけあの袋。今更な話だけど、なんで無くなってたんだろう?


「あ〜、あの時の袋はシロがまとめたものじゃったか。(わら)はてっきりゴミ袋の一つじゃと思い、この手で処分してしもうてたの」


「貴様が実行犯かぁ!」


 どうやらキサナが勘違いしてゴミ処理してくれていたらしい。勘違いなら仕方無いよね。


「故意ではなかったのじゃ。この通り頭下げて謝るから、これで許してくれ」


 と言いつつも、むしろ棒立ちしたままニヤニヤと笑うキサナ。罪悪感は欠片も見受けられない。


「貴様らぁ……だが、まぁいい。某は大人故、今回のことは水に流そう」


 決して大人って感じの見た目ではないけれど、余計なこと言って突っかかるのはよしておこう。


「で、何故お主らがこんなところにいるのじゃ? 繋がりが全く読めないのじゃが」


「それにさっきからシルバーしか話してないけど、なんで他の皆は黙ってるの? 全員揃ってシャイなの?」


「順を追って話そう。まず、粗大ゴミに出された某達は、そのままゴミ収集場に運ばれると思いきや、ゴミ漁りのホームレスに身柄を引き取られたのだ」


 趣味の悪いホームレスがいたものだ。


「骨董品としての価値があるのではないか……と、そのホームレスは思い至ったのか、“ふりーまーけっと”なる場にて某達を売りに出した。結果、某達は二百三十二円という値段にて買収された」


 コンビニのちょっと高いアイスと同価値。値段が付いただけ奇跡だと思う。


「その買収人というのが、この学校で働いていた老人だった。そうして某達はその老人に改造手術を受け、全ての人格が某に統一されたのだ。そして現在某は、この理科室に住み着いているというわけだ」


 色々あったとか言っていたけど、要はフリマで買収されて改造手術を受けたってことね。掻い摘んで説明してくれれば手間が省けたものを。


「話は分かったよ。じゃ、取り敢えずこの学校から出て行こうか」


「何も分かってないではないか! 言ったであろう。某の家は今はこの理科室なのだ。意外と住み良い家だし、出て行けと言われて出て行く阿保が――」


 ガシャンッ!


「キサナ、これ袋にまとめておいて」


「了解じゃ」


 改造手術を受けたとはいえ、耐久度は変わりなし。手刀の一振りで粉々になった瀬戸大将を理科室にあったゴミ袋に入れて、ゴミ箱の横にそっと置いた。


「なんか段々と面倒臭くなって来たんだけど……」


「残りの霊現象は後三つじゃ。ここまで来たんじゃし、最後まで気張れシロよ」


 段々と乗り気だったテンションもすっかりガタ落ちしてきたところだけど、一度引き受けた頼み事を中途半端に終わらせるのも癪だし、後三回我慢しよう。それで全部終わる話なのだし。


 次なる目的地はここからすぐ近くにある家庭科室。『中に入ろうとすれば消える家庭科室の香ばしい謎の匂い』だ。


 これに関しては一つ思い当たる節がある。でも俺の記憶が正しければ、その妖怪は目立った行動をしない性格だったはず。その真意とは一体……。


「……むむ? 何だか良き匂いが漂ってきたの」


 家庭科室の側までやって来ると、案の定嗅ぎ覚えのある匂いが漂って来た。やっぱり思っていた通りだったみたいだ。


「中に入ろうとすれば消えるのじゃったな。であれば、こっそり覗くのがベストと見たの」


「ドアの上にガラス窓があるから、そこから覗いてみよっか」


 ドアの上の窓は高いので、俺がキサナを肩車して確認することにした。


 下に屈んでキサナを上に乗せると、ひょいっと立ち上がった。相変わらず軽いなキサナ。


「どう? 何か見える?」


「……形の良い左回りのつむじが見えるの」


「それは俺の頭頂部の話だねぇ」


「ほほほっ、冗談じゃ。何やら調理の真っ最中のようじゃの。人数は……二人じゃ」


「え? 二人?」


 俺の予想では一人だったのだけれど、相方が付き添っているのだろうか? だとすればそれは誰なのか……。


「料理に集中しているようじゃし、こっそり少しだけドアを開ければセーフなんじゃないかの?」


「ふぅむ……。そうしてみよっか」


 念の為奥のドアの前まで移動して、物音を立てないように顔をはみ出させる程度までドアを開けた。


 キサナの言う通り、家庭科室の教卓で調理をしている妖怪が二人。その内の一人は俺の予想通り、馴染みのある妖怪の一人だった。


 顔が馬になっている人間型の妖怪。朝方に心地良い匂いを発してくれることで、気持ちの良い目覚めを提供してくれる心根の優しいお方。その名を“うまづら”と人は呼ぶ。


 うまづらこと馬ちゃんは、ただひたすらに調理を行なっていた。家庭科室の机の上は選り取り見取りの料理で溢れていて、一級のレストランみたいになっている。


「馬さん、そろそろ引き上げないとまた誰か来てしまう恐れがありますよ。今日はこの辺にしておいた方がいいのでは……」


 馬ちゃんの隣には、頭に手拭いを巻いて割烹着を着た、人間と変わらない見た目をした綺麗な女の人が立っていた。俺の記憶にはない人だ。


『駄目だ……これじゃ駄目なんだ……。この程度の味覚じゃサトリさんの舌の合格点に満たないんだ』


 何故か俺の名前が上がると否や、手を止めていた馬ちゃんの動きが再び起動し、飛躍的な速度で調理を再開し始めた。


「ふむ、どうやらブラコン覚を思っての味覚の探求だったようじゃの」


 俺が実家暮らしをしていた頃、調理するのは基本的に俺の役目だった。と言っても一人で行っていたわけではなく、俺のパートナーとして毎回馬ちゃんが付き添ってくれていた。


 今では馬ちゃん一人が実家メンバー全員の料理を受け持っているようだけど、その中でもサトリは味に拘りがあるので、料理を作る度にあれやこれやと言われているんだろう。


『文句の付け所がないものを完成させないと、決してサトリさんには認められない。弥白君のようになれるまでもっと腕を磨かないと』


「でも今晩のこれはやり過ぎでは……? 今から片付けを始めないと、妙な噂が広まりでもしたら大変ですよ」


 広まったら大変というか、既に怪談話として広まっちゃってるんだよなぁ。他の怪談と比べるとここは怖い要素が薄いからまだマシだけど。


「…………馬ちゃん」


「っ!?」


 事情を確認できたので、気配を殺して蛇のような動きで家庭科室内に侵入し、馬ちゃんの背後に回って肩に手を置いた。


『弥白君!? 何故ここに!?』


「それはこっちの台詞だよ。なんでわざわざここで料理の練習してるのさ」


『それはその……ここはテーブルも多いし、沢山作っても置き場に困らないと思った次第でして……』


「だとしても噂が立つような行動は控えないと駄目だよ。目立つの嫌いでしょ馬ちゃん?」


『……すいません』


 しょんぼりと落ち込む様子を見せる馬ちゃん。悪気があってこういうことをしていたわけじゃないんだし、これ以上は何も言わないでおこう。


『あっ、紹介しておきます弥白君。この人は“蛤女房(はまぐりにょうぼう)”の貝子さんです』


「初めまして弥白さん。馬さんの妻の貝子と言います」


「へぇ、蛤女房だったんだ。宜しくね貝子さ……ん?」


 今サラリと重大発言していたのは気のせいか?


「え? 何? 妻? 女房だけに? そういう洒落的な?」


「いえ、お嫁さんという意味ですよ。夫婦なんです私達」


「……馬ちゃん既婚者だったんだ」


 そう言えば他の皆と比べると、馬ちゃんが実家にいる頻度は多くなかった。それはつまり、貝子さんと別の場所で暮らしていたということだったわけだ。


「つまり(わら)達は夫婦水入らずのところを邪魔してしまったというわけか……。この後に夫婦の営みをするつもりもあったんじゃろうし、悪いことをしたの」


「だとしたら馬ちゃんは上だろうね。馬だけに馬乗りっつってね」


「ほほほっ、違いない。見た目に反してお盛んじゃの」


『むしろお盛んなのはお二人の方なのでは……?』


 うんうん、仲睦まじい雰囲気の妖怪夫婦だ。今後は温かい家庭を築き上げていくことだろう。将来の参考に俺も見習わなければ。


「それじゃお邪魔虫は失礼するよ。またね馬ちゃん」


「あっ、お待ち下さい弥白さん。実は味見して頂きたい物があるのですが……」


 そう言って貝子さんが差し出して来たのは、お椀一杯に入ったほかほかのお味噌汁だった。


「…………キサナ、味見してあげて」


「ぬっ、(わら)か? ならば一口だけ貰うとしようかの」


 キサナはお椀を手渡しされると、一口分だけ汁を啜って飲み込んだ。


「ほほぅ、これは美味じゃの。香ばしい匂いといい、文句の付け所がのうて。一体何をダシに使っておるのじゃ?」


「はい、私の小便です」


 刹那、キサナは派手にゲロを吐き散らした。


 美味しいお味噌汁と言う名の小便を提供する。それが蛤女房の特徴なのであった。




〜※〜




「げほっ、げほっ……。まだ口の中に味が残っておるわ。おのれシロめ、まさか(わら)を謀るとは……」


「ごめんごめん。断るに断れなかったから咄嗟に口が動いちゃって」


「この口か? この口が意図せずに動いたのか? んん〜?」


 次なる目的地へと向かう為に二階に上がっている最中、キサナが背後から口元を突っついて来る。キサナに怒られるなんて斬新な体験だ。


「この埋め合わせは何かで返すから勘弁してくれませんかね」


「……雪女物と妖狐物のエロ本一冊ずつで手を打とうかの」


「うん、言われると思ったそれ」


 しかも特定のエロ本ときた。妖界にでも行けば売ってるだろうか? 今度天狗にでも聞いてみよう。


「なんやかんやで残る怪談も二つじゃの。先にどっちに行くつもりじゃ?」


「『深夜一時に行くとこの世のものとは思えない体験をする二階女子トイレ』の方かな。音楽室に行く途中にあるからさ」


 怪談の中でもこれが最も予測がつかない。それ故に俺であろうとも危険性が高い恐れがある。もしもの時はキサナだけでも逃がせるようにしておかないとね。


 二階の女子トイレの前までやって来たところで、すぐ真後ろから付いて来ているキサナに掌を向けた。


「ストップキサナ。ここは俺一人で確認して来るから、キサナはここで待機してて」


「その口振りから察するに、それなりに危険性があるということじゃの? だとすれば退くわけにはいかぬの。(わら)達は一蓮托生なのじゃから、一人だけ安全圏内で待機するのも今更じゃろうて」


 そう言われると折れるしかないんだよなぁ……。ここで断れば一蓮托生が偽りになってしまうのだから。


「そこまで言うなら構わないけど、本当に危なくなったら一目散に逃げてね?」


「了解じゃ」


 話が付いたので、足音を殺しながら女子トイレへと侵入した。


「……いないな」


 辺りを調べてみるが、妖怪の姿は何処にも見当たらない。ということは、便座の方で待機している可能性が高い。


 トイレのロッカーから護身用のモップを取り出して、箒の尾を先に向けるように持ち替える。


 まずは一番手前のドアをノックしてみる。


「…………」


 返事無し。何もいないことを祈りつつ、ゆっくりとドアを開けた。


「せぇぇぇい!」


 開けた瞬間、これでもかと俺の眼前に尻を突き出して来る尻目の姿があった。


「ギャァァァ!?」


 尻の目目掛けて躊躇なく箒の尾を突き刺した。尻目は阿鼻叫喚し、便器に顔を突っ込んで動かなくなった。


「ふむ、確かにこの世のものとは思えないと疑ってしまう体験じゃの」


「危険性を警戒してた自分が恥ずかしいよ……」


 最も妖怪らしいことをしていたと言えるのだろうが、女子トイレでこんなことをされては堪ったものじゃない。念の為全部確認しておこう。


(わたくし)の美尻に酔い痴れなさい!」


「おいどんのビックヒップにワンダウン!」


「拙者の双子山の丸みに恐れ戦け!」


 身の毛立ち、べくわ太郎、狸伝膏と立て続けに尻を突き出して来た。この世のものとは思いたくない地獄絵図だ。


「「「ギャァァァ!?」」」


 一人残らず箒の餌食に処し、全員まとめてトイレの窓から外に叩き出した。これで再びこのトイレに平穏が訪れてくれることだろう。


「しょうもない怪談話じゃったの」


「十六年間生きてきて最も時間を無駄にしたと思うよ」


 でも逆にそういうどうでもいい思い出こそ記憶に残りやすいものだ。いらんことしてくれたなあの変態共。


「仕切り直して……残る一つは音楽室だね」


「『妙な歌声が聞こえて来る音楽室+何故か湿っていて磯臭いギター』じゃったな。何となくじゃが、これが誰の仕業か(わら)には予想がついておるの」


「奇遇だね、俺も予想ついてるんだよ」


 そしてそれはきっと、同じ妖怪のことを思い浮かべているはずだ。


 校舎二階の一番奥にある音楽室。近付いて行くに連れて、徐々に妙な歌声が聞こえて来た。


 ――波に流され幾星霜〜♪ 意外と河童は流れてばっか〜♪ シュードゥバドゥビドゥドゥドゥワ〜♪


「……先に帰って良い?」


「気持ちは分かるがやることやらねばならぬじゃろう」


「いやもうお腹一杯なんだけど。顔見ただけで皿割る可能性大よ?」


「それが彼奴(あやつ)の報いとなるなら構わぬじゃろうて」


 危険性も何もあったものじゃない。何ら警戒することなく、音楽室のドアを開いた。


「ドゥードゥルドゥードゥルドォワドォワ〜♪ ん〜んん〜ん〜ドォワドォワ〜♪」


 音楽室の片隅にて、下手くそなギターを弾きながら何かふにゃふにゃ言ってる河童を発見。くたびれた灰色のコートを着ていて、全く似合ってない丸いサングラスを掛けていた。


 率直に言ってぶっ飛ばしたかった。なりふり構わずここから叩き出したかった。いつもの俺ならほぼ間違いなくワンパン叩き込んでいた。


 でもそれはできなかった。できるはずがなかった。というのも、予想外の人物が河童の側に付き添っていたからだ。


「素敵! 格好良い! イケメンだわ! 見た目も美声も何もかもが美しい! キャーキャー!」


 一度怒らせたら死神のように付き纏い、その者を確実に死に至らせる。綺麗バージョンのヤンデレ妖怪清姫は、河童に対して目をハートに輝かせていた。


「ん? おうマイバディ、俺のライブをわざわざ聞きに来てくれたのか。サンキューセンキューチェケラッチョ」


 にわか英語が癪に触る。また別のものに影響を受けたか。ドゥワドゥワ言ってれば成り立つとでも思ってるんだろうが、それは逆に米国人を熱り立たせるだけだ。


「誰がそんなお粗末ライブを聞くか。身の程を知った方が宜しいかと」


「……何がお粗末ライブですって?」


 反射的にいつものような対応を取ってしまった刹那、闇に紛れた清姫が俺の背後を取って首筋に鉈の刃を添えて来た。折角綺麗だった顔がいつもの怖い顔に逆戻りだ。


「口に気を付けた方がいいぜマイバディ。ほんの少しのディスりが入った瞬間、俺の懐刀が火を噴くぜ」


「火を噴くどころか噴火寸前なんですけど。後少しで死という大災害起きちゃうんですけど」


「災害なんて起きないわ主様。ただ静かに貴方の命がこの世から別離するだけよ」


 それはそれで人災が起こる危険性大なんだけどね。


 にしても厄介な組み合わせが出来てしまった。見た感じ河童は清姫に関してウェルカムだし、清姫は清姫で河童にベタ惚れしてるっぽいし。これじゃ強引に叩き出すことは不可能だ。


「そもそも清姫、一体何処で河童と知り合ったの? 男探しの放浪中に見つけたとか?」


「えぇそうよ。これは未だかつてない運命だと思ったわ。初見でありながらもこの方は私という存在を受け入れてくれたんだもの。これで運命を感じない方がどうかしていると思わないかしら?」


 ナルシスト馬鹿だから見境無しなだけなんだよなぁ……。恐らく温羅兄と同じパターンで、清姫の本質を知ったら河童も逃げ出すと思う。


「清は俺の歌声を始めて褒めてくれたファン一号なんだぜ。俺はファンの期待に応えるために、今後もここでセクシーボイスを轟かせ続けるのさ。この世が明けるまで凄絶に……な」


「キャー格好良いぃぃぃ!!」


 俺から離れて河童の方へすっ飛んで行く清姫。この様子だと正攻法の説得も通じなそうだ。


 ……仕方無い。ここは一つ、カマを掛けて河童の本性を引き出してやろう。


「そうだ河童、ここで会えて丁度良かったよ。実は河童に伝えないといけないことがあってさ」


「伝えたいこと?」


「うん。つい最近の話なんだけど、河童が川辺で一人語りの歌を歌っているところを見掛けた知り合いの妖狐がいるんだけどさ。その美声に惚れちゃったらしくて、しょっちゅう河童に会いたい会いたい言ってるんだよね」


「妖孤だと……?」


 ピクリと聞き耳を立てて反応を示す河童。


「ふむ、なるほどの……」


 俺の考えがキサナに通じたようで、河童に見えないようにニヤリと笑い、俺の作り話に援護射撃を開始してくれる。


「そうなのじゃよ。(わら)も本人からその話を聞かせてもらっての。自作の河童グッズまで作ってて、凄まじい熱意を感じたの」


「しかもその妖狐がまたスタイル抜群なんだよね。性格は大人しめの清楚な感じなんだけど、身体付きがエロを具現化したような感じでね」


「濃厚な唇、透き通った美肌、そして何よりぴょこんと生えた狐耳と尻尾……。親しい仲になればきっと熱い夜を過ごせること間違い無しじゃろうて。このチャンスを逃せば全て水の泡と化すんじゃろうが……な」


「…………フッ」


 河童は鼻で笑うとサングラスを指先でくいっと上げて、ギターを背に担ぎ上げた。


「聞こえるぜ、俺を呼ぶ新たなファンの麗しき声が……。で、そのエロエロボディちゃんは何処(いずこ)に?」


 格好付けてるつもりなんだろうけど、鼻の下ががっつり伸びてしまっている。下心が見え見えだ。


「…………は?」


 単純馬鹿とはまさにこの緑色のこと。いとも容易く騙されてくれたお陰で、河童を見る清姫の表情が一変した。


「河童様……どういうこと? 清は貴方のオンリーワンじゃなかったの?」


「俺にとってファンの一人一人がオンリーワンでナンバーワン……。優劣なんて付けられないんだぜ」


「……騙したのね? 清を弄ぶだけ弄んで、貴方も清の心を踏み躙るのね? 浮気よ浮気……またそうやって清を見捨てて……どいつもこいつも清を……」


 もやもやしたドス黒いオーラが醸し出されて、ボサボサの長い髪が風ではためくように浮かび上がる。


 そうして清姫のターゲットが河童――ではなく俺達に向けられ……て?


「貴方達も貴方達よ……。貴方達が余計な告げ口をしなければ清は幸せに浸っていられたのに……。恋愛妨害許すまじ許すまじ許すまじ……」


「……シロよ」


「うん、分かってるよ」


 俺達に飛び火したと分かった瞬間、俺達の足は音楽室の出口へと向かっていた。


「恨めしや……妬ましや……。清を軽蔑する者皆許すまじぃぃぃ!!」


「逃げろぉぉぉ!!」


「あっ、待てお前ら! 俺ギター持ってるから足遅――あ゛ぁぁぁ……」


 死と隣り合わせの逃避行。この時、俺は新たな怪談話が立ち上げられることを予感していた。




〜※〜




「いや〜、助かった助かった。お前の活躍のお陰で霊的な現象は全部起こらなくなったらしいぞ。何故か私の評価も上がったっぽいし、こりゃ近々特別手当てとか貰えるかもな」


「…………」


「で、だ。実はまた相談があってな? 前の霊的な現象は解決したのはいいとして、また新たに霊的な現象が起こってるらしいんだよ。『校舎を彷徨い続ける長髪の鉈女』っていう話なんだが、お前これ――」


「断固拒否で」


 誰が何処で何をしようが知ったことじゃない。怪談話とは無縁の生活を送ることを密かに誓っていた。

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