ボケて暴れて妖怪野球合戦 前編
ーーーーーーーーーー
一番、ショート、弥白
二番、レフト、キサナ
三番、ライト、コン子
四番、ファースト、大雪
五番、セカンド、山姫
六番、サード、氷麗
七番、ピッチャー、狸小僧
八番、センター、紅葉
九番、キャッチャー、河童
ーーーーーーーーーー
「はーい、今一度自分のポジションを確認しておくように。後で役回り忘れたとか言い出して皿割られる奴がでたりしないためにも、しっかりと脳裏に刻んでおくように」
「遠回しに俺のこと言ってるだろお前」
ポジションを書いた用紙をチームに配り、打席に関してはついさっきキサナと厳選して決定した。こんな辺りが妥当なんじゃないだろうか。
「あっ、四番打席アタシじゃねぇ!? おいおい弥白〜、そこは迷いなくアタシを選んでおけよな〜」
「俺のイメージだと、この中で一番怪力なのは大雪さんだからさ。俺、キサナ、コン子ちゃんで確実に出塁した後、四番と五番で決定打を入れる。姉御の役割も十分攻撃の要になってるから許して」
「ちゃんと考えてたのな。ま、だったら良いけどよ」
これでこっちの準備は完了。天狗の親分に頼んでおいたユニフォームにも着替えたし、後は向こうのチームの着替えを待つだけだ。
「弥白殿。此方の聞いた話では、団体戦なるものは勝負の前に円陣を組んで気合いを入れるものだと聞いているのだが」
「そういやそんな儀式もあったね。時間あるし、一応やっておこうか」
「全員集合〜」と声を掛けて、自分含めた九人メンバーを集結させる。
「どうしましたか弥白君? トイレなら皆さんは既に済ませていますよ」
「俺も小と大どっちもしたよ。そうじゃなくて、何でも呉葉が円陣を組んでみたいって言っててさ。折角だから肩組んでやってみようと思って」
「別に此方はしたいと言ったわけではなかったのだが……」
「まぁいいじゃん何でもさ。というわけなので、皆集まって肩組んで」
言われた通りに肩を組み合って、チームの心をまた一つにするために円陣を組む。
「……で、これ誰が何言うの?」
「シロがキャプテンなのじゃから、ここはシロがビシッと言うべきではないかの?」
「あっ、俺? そうだなぁ……」
もわんもわんと想像して、改めてこの勝負の内容を確認する。向こうチームのキャプテンは猫さんで、勝利を掴んだら俺に二度と悪戯をさせないという強制的法律を定めるつもりらしい。
そしてこっちは……全員明確にはなっていないけど、向こうチームの人に好き勝手命令できる権利が与えられる。“何でも”という、今時珍しい大胆な褒美だ。
「俺は……この勝負に勝ったら、とある施設を建設してもらおうと思ってるんだよね。その野望を叶えるためにも、この勝負は絶対に負けられません。全員死ぬ気で勝ちに行くように!」
「施設……まさか弥白!? ついに貴様は魔導兵器を生み出す研究室の開発に着手して――」
「合法的混浴温泉設立目指して、ファイトォォォ!!」
「「おぉおおおお!!」」
キサナと若頭だけが俺に呼応し、三人の雄叫びが会場内に響き渡る。円陣組みたい言ってた人まで無言とはけしからん。
「……我が愛息子よ。お主そんな阿呆だったか?」
「いけません弥白君。弥白君とお風呂に入って良いのは、私と雪羅ちゃんと大雪さんだけですよ」
呆れる義父親に、禁止事例を提示してくる義母親。お二人共手厳しいことで。
「また馬鹿にゃこと言ってるし……。こういう時くらいは真面目ににゃりにゃさいよ!」
「あっ、にゃーちゃん」
「その呼び方止めぃ!」
中途半端に一致団結したところで、ユニフォームに着替えた向こうチームがご登場。鬼のマークがトレンド印のお洒落なデザインだ。
「兄さん。その混浴限定メンバーには妹の私も入れておいてくださいよ。姉の方はいらないですけど」
「そんな冷たいこと言わないでくださいサトリちゃん!」
「ええい、そこの実家メンバーは静かにしてにゃさい! 混浴の話はもういいのよ!」
話が逸れそうになるところを素早く猫さんが訂正を加えて、ビシッと俺に人差し指を向けて来る。
「ついに勝負の時よシロ君! 完膚 無きまでに叩き潰してあげるから覚悟しにゃさい!」
「叩き潰すだなんて物騒なこと言っちゃ駄目ですよ。それと人を指差してもいけません」
「あっ、はい、ごめんにゃさい……って、そういう時だけ真面目ににゃらにゃくていいのよ! もう! さっさと試合始めるわよ!」
プンスカと怒りながらチームの皆を引き連れて去って行く猫さん。勝負前に牽制でもしたかったんだろうか? 可愛いだけだから意味無いのに。
「さてと……それじゃ俺達も行きますか」
場所は妖界にある大広場の野球場。大勢の妖怪の観客達に囲まれながらの大決戦が、今始まる!
「では、これより白チームと猫チームによる野球試合を執り行う。審判はこの私、天狗が務めさせて頂く。双方、文句はないな?」
「異議なし」とほぼ全員が断言する。
「ならば位置に付くが良い。イニングは全部で五回。延長は無し。先行は白チームだ」
審判の指示に従い、俺一人は打席の方へと移動し、他の皆は白チームのゾーン席に戻って行く。
猫チームの皆が各々ポジションについたところで、審判のホイッスルの音が会場内に響き渡った。
「プレイボール!!」
試合開始の宣言がされて、ピッチャーの温羅兄はニヤリと悪人らしい笑みを浮かべた。
「坊。そういやテメェと勝負するのは何気に初めてだな。弟分とはいえ、あの野郎を打ち負かすためにも手加減はしねぇぞ」
「そういうのいいから早く投げてくれない? これ以上尺稼ぎとか思われたくないから」
「何の話してんだ……? まぁいい。だったら……いくぜ!」
大きく振り被り、驚異のアンダースローが放たれる。一球目はバットを振らずにストライク。
二球目。ブレることなきアンダースローで、また見送る。これでツーストライク。
「おいおいどうした坊! 速過ぎてバットもロクに振れねぇってか?」
「……ふっふっふっ」
「な、何だよその笑みは」
二球仕留めたくらいで良い気になっている伝説の鬼。なんとまぁ可愛らしいことよ。
「しょうがないなぁ……見せてあげるよ温羅兄。俺の修行の成果というやつを!」
「修行の成果だぁ……?」
左打席から右打席に移動して、バットを腰に差すような形で持ち構えて腰を低くする。
「これぞ日本の美! その名も居合い打法! 瞬発力を売りとした侍魂なる打法であり、これを見たものは――」
スパーンッ!
「ボケてないで真面目にやれと剛速球を投げて来る!」
「ホント真面目にやってくれません兄さん!?」
見逃し三振によって敵チームのキャッチャーであるサトリから文句を言われてしまう。だって想像以上に温羅兄の球が速かったんですもの。あんなの人間の俺には打てないよ。
「ドンマイじゃマイバディ。ここは一つ我に任せておけい」
すれ違い様に俺を元気付けながら、今度はキサナが打席に立つ。
「次はキサ坊か……こりゃ坊以上に余裕だな」
「言ってくれるの。じゃが、その意気や良し。さぁ掛かって来るのじゃ!」
スパーンッ! スパーンッ!
一球目、二球目と空振りによるストライク。間もないくらいの速さでキサナも淡々と追い詰められてしまう。
「……ふっふっふっ」
「あァ? テメェも何か秘策があんのか?」
「その通り。見るが良い、我の必勝打法を!」
キサナはバットを股間に挟むことで持ち直して、空いた両手を頭の後ろで組んだ。
「これぞ卑猥の鏡! その名もち○こ打法! その名の通り、バットをナニとして扱う斬新な打法! これを見たものは全員――」
カキンッ
「おぉっふ……」
温羅兄の剛速球がキサナのバットに直撃。キサナはバットの振動が股間に伝わることで赤面し、とても良い顔になりながらその場で横になった。
温羅兄の前にボールが流れてファーストへ。これでツーアウトとなった。
「本当に野球しに来たんですか貴方達!?」
立て続けにサトリのツッコミが連呼される。しかしキサナの表情に後悔の色はなく、むしろ欲求解消したような顔で戻って来た。
「…………(むくり)」
今度は三番打者のコン子ちゃんが席を立つ。キサナからバットを受け取って、タップダンスを嗜みながら打席の方に移動した。
「坊とキサ坊は問題無いとして……こっからが本番みてぇだな」
未だにその実力は未知数であり、ある意味俺達の最終兵器。小さな身体でバットを構え、黙々と温羅兄のフォームを見つめる。
スパーンッ! スパーンッ!
だが、何故かバットを振らずにツーストライク。多分自発的にコン子ちゃんも自分を追い詰めてしまう。
「…………(くすくすくす)」
「テメェもかよ! もういいだろその流れ!」
口に手を当ててほくそ笑むと、コン子ちゃんはバットを逆手持ちにして構えを取った。
「これぞ忍びの極意! その名も忍々打法! バットを逆手に持つことで俊敏力を底上げし、これを前にした投手は――」
スパーンッ!
「そんな持ち方でまともに打てるわけないだろとストレートを入れて来る!」
俺の声の声帯模写で叫ぶコン子ちゃんも見逃し三振。あっという間にチェンジとなった。
「これはもしや、弥白様による策略なのでは……?」
「なわけねぇだろ! 馬鹿相手に考え過ぎだ!」
サードの桜華が深読みしてくれていた。すいません、今回は素でボケてました。
「よしよし、まぁ掴みはこんな感じで良いよね。十分相手を油断させられたはずだよ」
「彼奴らは我達の手中にハマっておる。弄ばれているとも知らずに愚かな奴らじゃの」
「…………(フッ)」
「お前さんら、ちょっとそこ座れ」
数十秒後、姉御から説教の拳骨を三人一発ずつ頂戴した。次からは真面目にやります。
今度は俺達の方が守備の位置に着くと、一番バッターの雪羅が打席に立つ。相対するのは、俺の親友のタヌっちだ。
「フッ……我が宿敵の嫁が相手か。我にとっては役不足でしかないな」
「よ、嫁? 嫁って……まだそんな関係になったわけじゃ……」
嫁というキーワードに敏感な反応を示す雪羅。顔を赤らめて恥ずかしがりながらも、見るからに上機嫌になっている。チョロインになってますよ雪羅さんや。
「行くぞ! 我の魔球に屈するがよい! 貫け、無球の波動!」
「え!?」
一投目。タヌっちが投げたボールが途中で消失し、少し後にキャッチャーミットに収まる音が響いた。
「今のって所謂、消える魔球とかいうやつだよね!? そんな球種有りなの!?」
「変化球の一種のようなもののため、反則にはならぬ」
「変化球っていうか魔球じゃないの!?」
「妖怪に魔の字は付き物だ。ストライッ!」
雪羅の申し立ては虚しくも無効。試合続行だ。
「フハハハハッ! どうやら手も足も出ないようだな! 所詮は人型の妖怪! 我の深淵なる魔術に屈するしかないのだ!」
粋がって高らかに笑うタヌっち。二球目、三球目と消える魔球を駆使して、見事雪羅から三振を打ち取った。
「くぅ……見えない球なんて打てる訳ない……」
「ドンマイですよ雪羅ちゃん。でもバットはちゃんと振らないと、当たるものも当たりませんよ。目に見えないものは心の目で見るんです」
「そんな武人みたいなことを言われても無理だよお母さん……」
母親の助言を背に受けながら、悔しそうにチームメイトの元へ戻って行く雪羅。野球的な意味でも意外とチョロい相手だったようだ。
「やっぱり姑息にゃ手を使ってきたわね……。でも私には通用しにゃいわよ!」
続いてのバッターは猫さんこと、にゃーちゃん。自信満々な様子でバットを素振りしながら、打席の方に立った。
「何者が相手であろうと、我が魔術に抗える者など皆無! 貴様も我が宿敵の嫁同様、魔術に足掻いてみるがいい!」
一球目。変わらずタヌっちは消える魔球を扱い、ミットのど真ん中に向かって投げる。
「甘い!」
「何っ!?」
しかし猫さんは、バットを振らずにバントをすることで消える魔球を見事に捉えた。
見えない球がバットに当たり、ファールギリギリの線を左側にいやらしく転がって行く。
「くそっ! やられた!」
キャッチャーの若頭が慌ててボールを取りに行くが、完全に意表を突かれた上に、相手はあの猫さんだ。恐らく相手チームの中で最も足が速い彼女にとって、バントは最強の武器。案の定、結果は余裕のセーフだった。
「どんにゃもんよ! 貴方達の策略にゃんて、私からしたらお遊びも同然よ!」
「馬鹿な……。たかが猫如きに我が遅れを取るなど……」
「貴方だって普通の狸と対して変わらにゃいでしょうが!」
猫さんの出塁により、最初の流れが向こうチームに持っていかれる。士気が上がった状態のまま、今度は三番打者である九ちゃんが打席に立った。
「さぁ掛かって来なさ~い。お姉さんもにゃーちゃんに続くよ~」
「くっ……そうはさせぬ! ならば第二の魔術を味わうがいい! 飛翔せよ、分離球の波動!」
看破されてしまった消える魔球を封印し、また違う魔球を投げ放った。
「おぉ~!?」
投げられたボールがぐにょんと歪み、ボールが三つに分身した。消える魔球の次は増える魔球ときた。
……ただ、それは魔球と呼ぶには相応しくない駄作だった。
「よっと!」
魔球は綺麗に横並びになって飛んでいた。つまり、上手いこと真横にバットを振れば、どれが本物だろうと打ち返すことが容易となる。タヌっちはそれを理解していなかったようだ。
九ちゃんが三つ全てを打ち返し、本物のボールが右中間を低く飛んで行く。
レフトのキサナが急いでキャッチしてボールを投げるが、既に九ちゃんも猫さんもまた余裕でセーフだった。
「馬鹿な……この我が二度も出し抜かれるだと!?」
「いや今のはお前さんがミスっただけだろ」
姉御の冷静な言葉に、タヌっちは地に両手を付いて跪く。あれはもう駄目っぽいなぁ。
「よく繋いだじゃねぇかテメェら。ここで俺が打ちゃぁ、先制の三点頂きってわけだ!」
落ち込むタヌっちとは裏腹に、相手の四番バッターである温羅兄が出て来て打席に立つ。
このままタヌっちに投げさせれば、温羅兄にホームランを打たれる可能性が大だ。それだけは絶対に阻止しなくては。
「タイム!」
手を挙げてタイムを申し出て、落ち込んでいるタヌっちの元に駆け寄る。
「いつまで落ち込んでるのだ親友。タヌっちらしくないよ」
「くっ……しかしだな弥白。俺の持ち手は今の二つだけだ。他に投げられる球種はない……」
「大丈夫。他の皆はともかくとして、温羅兄を打ち取るのは実は簡単なんだよ。いい? まず最初に――」
タヌっちの耳に耳打ちして、策略の内容をこっそりと伝える。
「……そんなことでいいのか?」
「うん。あの人基本的に馬鹿だから」
「分かった。だがもし失敗した時はお前を恨むからな」
「大丈夫だって、絶対に上手くいくから」
全て伝え終えて元の位置へと引き返す。
問題はない。絶対に打ち取れると確信を得られているのだから。
「四番打者であろうと関係ない! 我の第三の魔術を受けるがいい! 吠えろ、素質の波動!」
名ばかりの普通のストレートが投げられる。そこまで肩の力が強くないタヌっちが投げるストレートは、誰が見ても速いものではない。
でも大丈夫。温羅兄は絶対にあのボールを打てない。何故なら――
「この波動は、イケメンには百パーセント打てない究極の球種! 故に、ブサイクな者のみが打てるボールである!」
「何ぃ!?」
あのゲス馬鹿が自分に自惚れている性格である以上、簡単な言動でいとも容易くマインドコントロールできるのだから。
絶好のホームランボールだったストレートがキャッチャーミットに収まる。温羅兄は大振りしようとしていたバットをわざと空振りさせていた。
「くっ!? なんつー球だ! 俺にはとても打てねぇ!」
「何してんのよゲス鬼! どう見ても絶好のホームランボールだったじゃにゃい!」
「にゃっはは~、これは白君にしてやられたなぁ~」
続いて二球目にも同じボールを投げて、ツーストライクを取る。このままいけば三振を取れるのは間違いないが、それじゃまだツーアウト。この後に酒呑童子の親分を立たせないためにも、俺の策略で更に温羅兄を翻弄させてやろう。
三球目。変わらずストレートを投げるタヌっちだが、さっきまでの流れと同様ではない。
「このボールは…………ブサイクには打てない球種! 故に、イケメンであれば絶対に打てる球である!」
「んなっ!? うぉおおお!!」
さっきよりもわざとネタバレを溜めて言わせて、温羅兄に咄嗟のところでバットを慌てて振らせる。
判断が遅れて振られたバットは何とかボールを捉えるも、ピッチャーゴロでタヌっちの元に戻って行った。
セカンド、ファーストにボールが投げられて一気にツーアウト。全ては俺の計画通り。劣勢なる状況を見事覆してやった。
「何してんのよこのクソゲス野郎!」
「私達の足を引っ張ってんじゃないわよクソゲス野郎!」
「や、止めっ、寄って集って二人係で……ぐわぁぁぁ……」
桜華と玉さんの報復を受けて、温羅兄はベンチの方で袋叩きにされていた。仲間割れさせてチーム全体の士気を落とさせる作戦も予定通りだ。フフフッ、今度はこっちの流れになってきたぞ。
「頑張ってください大雪さん。弥白君のためにも、ここで一発ホームランを打ってあげてください」
「うむ。我が愛息子の期待に応えよう」
妻の声援を浴びて、我らが四番バッターの大雪さんが打席に立つ。身体が大きい妖怪用として打席のスペースが広くなっているので、バットを上手く当てられる場所に立てない不安は取り除かれているのでご安心だ。
「ぐふっ……こ、今度はゴリラ男か。誰が相手だろうと、俺の球を打つことは無理だっつの!」
ボコボコにされて満身創痍になっていても尚、温羅兄の腕は鈍ってはいなかった。剛速球がキャッチャーミットの中に収まり、意外なことにあの大雪さんも見逃してしまっていた。
「どうだ! この男らしいド直球ボールをテメェに打てるか!?」
「ふむ、確かに素晴らしい肩ではあるが……問題ない」
「あァ? だったら打ってみろやぁ!」
挑発に乗った温羅兄は目を三角にして、さっきよりもより凄まじい剛速球を放った。
「せいやぁ!!」
だが、大雪さんはその剛速球をジャストのタイミングで捉えて、気合が込められた雄叫びと共にボールが上空へと吹っ飛んで行った。
キランと光ってボールが夜空の一部となる。文句無しのホームランだ。
「いいぞ大雪さーん! 俺達の先制点だー!」
「流石です大雪さん。恰好良かったですよ」
「うむ、期待に応えられて何よりだ」
氷麗さんと一緒に、ホームベースに戻って来る大雪さんとハイタッチ。早速一点先取に、チームの皆は活気強く歓喜の反応を示していた。
応援席の妖怪達もホールランが出たことで大盛り上がり。段々と楽しくなってきましたよこの勝負。
「あんたには学習能力ってものが無いわけ!?」
「この知恵の低い下等種族! 役に立てないのなら潔く朽ち果てていなさい!」
「ギャァァァ……」
再び例の二人にリンチにされる温羅兄。あれはもうピッチャー交代の流れと見た。
「このゲスはもう駄目ね。今度は貴女が投げなさい、桜華」
「え? 私ですか? 私よりもお母さんが投げた方が良いと思うんですが……」
「私は私でやるべきことがあるのよ。とにかく、ここからは貴女がピッチャーよ」
「わ、分かりました。やってみます」
思った通り、ピッチャーだった温羅兄はセカンドに引っ込められて、代わりに今度は桜華がピッチャーとなってマウンドに立った。
でもタイミングが悪かったね桜華。何の因縁があるのか知らないけど、不幸にも次のバッターは君の宿敵なんだよねぇ。
「ほぅ、次はお前さんが投げるのか桜華」
「えっ……ひぃぃ!?」
打席に立つ姉御を前にして、怯える反応を見せる桜華。
相手が誰であろうとも、姉御に策略なんて必要ない。あの最強の武力がある限り、姉御が負けるなんてまずあり得ない。
「さっきは大雪の旦那に良いところを取られちまったからな。アタシはアタシで可愛い舎弟に格好良いところを見せなきゃいけねぇんだ。悪いが、ここはホームランを打たせてもらうぞ」
バットの先を桜華に向けて牽制する姉御。桜華は面食らって身体を震わせ、とてもボールを投げるような状態じゃなくなってしまっていた。
「頑張って桜ちゃ~ん。桜ちゃんはやればできる子だってお姉ちゃん信じてるよ~」
「だったらニヤニヤしながら言わないでください! おちょくってますよねそれ!?」
九ちゃんの応援が煽りになってしまい、余計に桜華の気力を削いでしまう。敵に塩を送るような真似は控えたかったところだが……致し方無い。
「桜華ー! 俺も桜華がやればできる鬼だって信じてるよー!」
「そうじゃぞ桜華ー! 早く我にボールを投げる際に揺れるおっぱいを見せとくれー!」
「…………(グッ)」
「み、皆さん……」
俺に続いてキサナとコン子ちゃんもエールを送る。まだ完全とはいかないが、桜華の目に力強さが戻ったように見えた。
「……この勝負に勝った時に私が叶えようとしている願いは、また弥白様達と私達のお屋敷で一緒に暮らすこと。それを叶えるためにも、相手が山ちゃんだろうと負けられないんです!」
「そりゃ健気なこった。だが、アタシはアタシで叶えたい願いがあるもんでね。いざ尋常に勝負だ桜華!」
「はい! いきますよ山ちゃん!」
己の願いを叶えるがために、乙女達が各々武器を携えて勝負に挑む。その姿はさながら戦乙女。なんて勇ましい姿だろうか。
ガキィィィンッ!!
長丁場になると思われた二人の勝負。だが呆気なくも、姉御の特大ホームランが一発目で出たことで勝負がついてしまっていた。容赦無いなあの最強の姫……。
「まぁ……こうなることは分かってたんですけどね……」
桜華は涙目になって意気消沈し、温羅兄に続いてピッチャーとしての責務を果たせなくなってしまっていた。
頑張れ桜華。たとえ敵同士だろうと、俺は君を影ながら応援しているよ……。




