集え! 強者達よ!
「決着を付けに来たわよシロ君」
学校帰りの道にて、途中にある川のところで寄り道していた時のことだった。
何処からともなく現れた白猫は、二足歩行になってビシッと猫の手を向けて来た。顔は真剣そのものだけど、猫だから可愛さアピールをしているようにしか見えない。
「あらやだ可愛い子猫ちゃん。ほーら、俺の改良式猫じゃらしですよぉ」
リュックの中に手を突っ込んで、一本の猫じゃらしに二本の猫じゃらしを付け加えた改良式猫じゃらしを取り出す。
右に左にと猫じゃらしを振ってやると、白猫はピクピクと身体を痙攣させた。
我慢しているようだがその身が猫である限り、この誘惑に打ち勝つことなど不可能に等しい。
「うぅぅ……にゃっ! にゃっくるにゃっくる!」
耐えられなくなったようで、一思いに飛び付いて来て猫じゃらしに猫パンチを繰り出して来た。まるでボクサーのようにワンツーのリズムを保ち、ノリノリで猫パンチを繰り返している。
更にリュックからキサナから借りていたビデオカメラを取り出し、その一部始終をカメラに収める。これはまたレアなコレクションが増えてしまったようだ。役得役得っと。
「って、何させるのよ馬鹿!」
ようやく正気に戻った白猫は高く上に飛び上がり、俺の頰にドロップキックを放って来た。ぷにっと頰が凹んで、柔っこい感触に悶えながら地面に倒れた。
「くっ……なんて恐ろしい攻撃だ。俺の萌えゲージの半分がごっそり持っていかれてしまったじゃないか」
「何が萌えゲージよ! くだらにゃいこと言ってにゃいで、ちょっとこっちの方に来にゃさい!」
ここでは人目に見つかる可能性があるからか、白猫は木の陰の方へと歩いて行く。
大人しくその後に続いていき、周りから見えないように上手く隠れられたところで、白猫はいつもの人型の姿に変化した。
「全く……珍しく全然帰って来にゃいから、わざわざこっちから出向く羽目ににゃっちゃったじゃにゃい。あんまりこっち側の方に来させにゃいでよね」
「ごめんごめん。それで猫さん、俺に何か用? まさかついに俺とキサナの本格的な萌えドルになる決意が!?」
「さっきから萌え萌え喧しいわ! そんにゃことでわざわざこうして出向いて来るわけにゃいでしょ!」
「なら放課後デートをご所望で? 地味に猫さんと二人っきりっていうのもレアなことだし、少し遠くの方までゴートゥーしちゃう?」
「……雪羅ちゃんに告げ口してあげてもいいのよ?」
「はいすいませんでした、真面目に話聞きます」
ぞわりと背筋に悪寒が走り、軽い吐き気に襲われる。すっかり俺にも決定的な弱点ができてしまったようで、その名を出されたことでボケることを禁止されてしまった。
「それで、実際のところ本当の要件って何? 決着を付けに来たとか言ってたような気がするけど」
「その通りよシロ君。貴方の性根を叩き直すために、皆の代表として私が買って出たのよ。だからこうして私が一人でシロ君の元に会いに来たってわけ」
「性根を叩き直すって……いや、うん、分かってる、要は俺が死ねば良――」
「その思考はまた前の時のようにゃことににゃるから止めにゃさい! ここで貴方が瀕死ににゃったら、私が雪羅ちゃんに殺められちゃうわよ!」
「でも性根を叩き直すって結局はそういうことなんじゃないの? 長いようで短い付き合いだったね猫さん……」
「事を深刻に捉え過ぎだから! そういうことじゃにゃくて、私達はシロ君の“小ボケ要素”を払拭するために計画を立てたのよ」
計画って、また穏やかじゃなさそうな響きだなぁ。それに小ボケ要素を払拭って、まるで俺がボケ製造マシーンのような口振りじゃないか。この常人たる俺になんと失礼なことを物申すんだこの猫ちゃんは。いっそのこと愛で尽くしたろうか。
「計画って一体どんな? まさか俺を人造人間にでも改造するつもりとか?」
「にゃわけにゃいでしょ。一言で言えば勝負よ勝負。条件付きの勝負をすることで、シロ君を無理矢理改心させようっていう計画よ」
「そっか。ならその勝負を断れば計画は失敗ってわけだね」
「……へ?」
俺は猫さんを置き去りにして、また川の方でのんびり佇むために木の陰から出て行った。
「ちょ、ちょっと待ちにゃさいよ! 話はまだ終わってにゃいわよ!」
「でも話って計画の内容でしょ? 最近騒がしいことばっかりだし、たまには俺もゆっくりしたいんだよ。だから猫さんには悪いけどパスで」
「ま、待って待って! パスは駄目! パスは駄目だから! 大人しく私達との勝負を受けにゃさい!」
「横暴だなぁ……断るけど」
さっきから気になっていたけど、“私達”ってことは猫さん以外の同士が集っていることに他ならない。多対一な状況はもうお腹いっぱいだ。姉御がいてくれるならまだしも、勝負の時は俺一人なんだろうし。
「あのシロ君が頑にゃに拒んで来るにゃんて……一日だけで済むけど、それでも駄目にゃの?」
「駄目っていうか、不毛っていうか、そもそもその勝負に需要を感じないんだよ。むしろ俺にはデメリットしかないじゃんか」
「それってシロ君が勝った時の場合の話のこと?」
「うん。もし俺が負けた時は、猫さん達に好き放題辱められてお婿にいけなくなるんだろうけど、俺が勝った時の褒美って特に考えていないんでしょ? それなのに勝負しろと言われても、俺がイエスと答えるわけないと思うけど」
「…………確かに」
本当にその場合のことを考えていなかったらしい。きっと俺の性根を叩き直す内容だけをひたすら考えてたんだろうなぁ。
「ちなみに勝負の内容ってもう決まってるの?」
「う、うん。桜華ちゃんの提案で野球ってことににゃってるけど……」
野球……それだけなら面白そうなんだけど、条件のせいでやっぱりやる気になれない。せめてこっちにメリットがあればなぁ。
「……あっ、だったらさ猫さん。いっそのこと、この前の時と同じ条件で勝負しない?」
「この前の時? 何のことを言ってるのか分からにゃいんだけど……」
「ほら、ずっと前に男チームと女チームに分かれてサバゲーしたの覚えてるでしょ? その時と同じ条件でやろうってことだよ」
「それってもしかして、負けたチームは勝ったチームの言うことを何でも聞くってことかしら?」
「んっ、つまりはそゆこと」
前の勝負では熊風が割って入って来たせいで、結局勝負は有耶無耶な形で終わっていたんだし、仕切り直しということでまた勝負をするのも悪くないだろう。
「まさに天国が地獄かの大勝負ってわけね。良いわよ、やってやろうじゃにゃいの」
「猫さんがやる気になってるのは良いんだけど、他の皆はそれで納得してくれるのかな? 人によっては嫌がると思うんだけど」
「それについては心配無用よ」
そう言うと猫さんは、袖の中から輪ゴムで固定していた丸めた紙を取り出して、俺に見せるように両手で持って横に広げた。
「これは私達のチームのメンバーよ。目を通しておいて」
「えぇ? そっちはもう人員集め終えてるの? どれどれ……」
それはポジションとメンバーが書かれた表だったようで、誰が俺の敵チームになるのか確認する。内容はざっとこんな感じだ。
――――――――――
一番、センター、雪羅
二番、レフト、猫又
三番、ファースト、九
四番、ピッチャー、温羅
五番、ショート、酒呑童子
六番、ライト、玉藻前
七番、キャッチャー、サトリ
八番、サード、厠神
九番、セカンド、桜華
――――――――――
「そっちスペック高くない!?」
先手を取られていたせいで、主力となってくれるであろうメンバーは全員敵に回っていた。如何にも俺に対して物申したいと思っているであろう人が殆どだ。
「シロ君の日頃の行いの結果がこれよ。大体がシロ君に対して何かしら言いたいことがある人ばかりよ」
「いやいやずるくない!? そっちに三大妖怪が二人もいる時点で不公平だよ!」
「だったらシロ君が三大妖怪レベルの仲間を集めれば良い話じゃにゃい。そんにゃ人に心当たりはにゃいと思うけどね〜?」
どうやら人選は故意だったようで、珍しく猫さんが憎たらしく笑っている。そんな顔されても可愛いだけだからイラッとくることは微塵もないんだけどね。
「とにかく、シロ君も早く残り八人の仲間を集めることね。勝負は一週間後の予定だから、それまでに宜しく」
期間やたら短いなぁ。それも計画の内ということか。どんだけ俺の性根を叩き直したいんだか。
「それじゃ私は野球の練習があるから。せいぜい首を洗って待ってにゃさい、シロ君!」
ビシッと俺に指を差して言いたいことを全て言い終えたところで、猫さんは風のように去って行った。
安請け合いしたせいで、これは大変なことになったぞ。何が何でも向こうと対等に張り合えるようなメンバーを探さないと、俺が皆に何をされるか分かったものじゃない。
取り敢えず、一旦屋敷の方に急いで帰ろう。キサナと一緒に作戦会議だ!
〜※〜
「なるほど、そんなことがあったとは……趣深いイベントじゃの」
「感心してる場合じゃないよキサナ。これは俺達を粛清するために仕組まれた野球勝負なんだよ? このまま無駄に時間を過ごせば、負けることは確実だよ」
急いで屋敷に帰って来たところで、一目散にキサナの部屋に駆け付けて、リビングの方に移動して作戦会議を場を開いた。現在のメンバーは無論のこと、向こうの粛清ターゲットであろう俺とキサナの二人だけだ。
「我とシロは確定として、後残りの席は七人。それに相手チームと互角に渡り合えるような者達を集めなければならないわけじゃな?」
「そういうこと。キサナは誰か良い人思い浮かばないかな?」
「ほほほっ、我はこれといって人望があるわけじゃないからの。むしろメンバー集めは、シロの方が向いていると思うのじゃがの」
「やっぱりそうなるかぁ……となると、実はキサナ以外にも即効で思い付いた人がいるんだよね。その人も確定しちゃって良いかな?」
「うむ、シロがすぐ思い付いた者なら文句はあるまいて」
「そっか。それじゃ決まりっと……」
勝負事を三度の飯よりも喜ぶのがあのタヌッちだ。きっと二つ返事で了承してくれるだろうし、後で口寄せでもして直接お願いしておこう。
残るメンバーは六人。さて、誰を仲間に引き入れようかなぁ……。
「…………(つんつん)」
「ん?」
お茶を啜りながら首を傾げて悩んでいたところ、不意に誰かが背中を突っついて来た。キサナは前にいるし、他のメンバーは今この屋敷を出ている。一体誰だろうか?
気になって後ろを振り向いてみる。すると、トラップで仕掛けられていた指が当たって、ぷにりと頰がへっ込んだ。
「あっ、コン子ちゃん!」
お茶目な悪戯をして来ていたのは、野球のキャップ帽を被ったコン子ちゃんだった。その帽子からして、事情は全て知っているようだ。
そう言えば地味に気になっていたけど、向こうのメンバーには鬼&妖狐組の皆が勢揃いしていたのに、何故かその中にコン子ちゃんの名前が入っていなかった。コン子ちゃんなら最高戦力の一角になるだろうに、どうしてチームに入れていなかったんだろう?
「どうしたのコン子ちゃん? 俺に何か用?」
「…………(ぷくっ)」
ジト目な目を更にジト目にさせて、ぷっくりと頰を膨らませるコン子ちゃん。なるほど、そういうことか。
「キサナ、四人目のメンバーが決まったよ。しかも最強で最萌の妖狐だよ」
「願っても無い戦力じゃが、これまた意外じゃのコン子よ。お主は向こうの方に付くと思っていたのじゃがの」
「…………優先度は兄が最上」
「やだこの子、俺を萌え殺す気かしら?」
あの日以来、こうして稀に地声を出して喋ってくれるようになったコン子ちゃん。初対面の時はあまり気に掛けられていないような関係だったのに、いつの間にか俺はコン子ちゃんにとっての最上位の人になっていたらしい。
どうしよう、感激のあまりに涙が溢れて来そうだ。ていうかもう出て来てるし。
何はともあれ、残るは後五人。即席のメンバーとは言え、中々良いメンバーが集まって来た。この調子ならもしかしたらもしかするかもしれない。
今のところの主力はコン子ちゃんだけど、コン子ちゃん一人だけじゃ正直心許ない。せめて玉さんと酒呑童子の親分に匹敵するだけの人を呼ぶことができれば、他には言うこと無しなんだけど……。
「……あぁ!? そうだ! こんな時こその“皆”じゃないか!」
「むぉ、急にどうしたのじゃシロ? もしやまた良きメンバーの宛てが思い付いたのか?」
「ふっふっふっ……丁度良い機会だし、そろそろ二人には教えてあげても良いかもね」
「「……?」」
俺の発言に首を傾げる二人。分からないのも無理はない。何せ、二人は俺の新たなマブダチの存在を知らないのだから。
きっと“皆”なら俺に力を貸してくれるはず。だとしたらこっちのメンバーのクオリティは、向こうに匹敵するどころか、大幅に凌駕する可能性があるかもしれない。
「よし、早速移動しよっかな。二人も俺について来て。“皆”に二人のことも紹介したいからさ」
「うむ、承知した。コン子も大丈夫じゃな?」
「…………(こくり)」
というわけで、早速俺は例のあの世界に足を運ぶため、境界門の役割を果たしている玉さん達の神社の元へと向かった。
〜※〜
俺が居候していた頃は毎日見張りがいたはずなのに、こっそり鬼&妖狐屋敷に来てみれば、神社の前には人っ子一人いなかった。そのお陰あって、妖界に入るのは容易なことだった。
階段を降りて一方通行の境界門を潜り抜けて妖界へと出る。まず最初は姉御に会いに行くため、妖町ではなく、山奥にある小屋を目指して歩いた。
あの時は呉葉に追いかけ回されて偶然見つけた姉御の家だけど、今ではしっかりと場所を記憶しているので、迷子になることなく小屋に到着することができた。
「ここにシロのマブダチとやらがいるのかの?」
「マブダチでもあって、俺の尊敬する人でもあるかな。姉御〜、入るよ〜?」
ノックをしてから靴を脱いで小屋の中に入る。
「Zzzz……」
何をしているかと思えば、酒瓶の中に埋もれて涎を垂らしながら爆睡していた。
姉御の付近だけでなく、小屋中に日本酒やら焼酎やらが転がっている。酒豪とかもうそういうレベルじゃない量なんだけど……。
「サラシを巻いた小袖の巨乳お姉さん……なるほどエロいの!」
「はははっ、キサナはブレないなぁ」
エロいと言えばエロいんだけど、姉御の場合はそういう目で見れないんだよなぁ。揉めるものなら揉んでみたいけど。
「姉御起きて〜。夜明けはとうに超えてますよ〜」
「Zzzz……」
ゆさゆさと身体を揺さぶってみるが、寝返りを打つだけで目を覚ます気配は見受けられない。むしろ俺の膝の上に頭を乗せて来て、余計に幸せそうな寝顔になってしまった。
「どうしよ、全然起きてくれないんだけどこの人」
「…………(ちょんちょん)」
「ん? どったのコン子ちゃん?」
「…………(グッ)」
親指サイン……私に任せてってことか。
「起こせるの? できれば暴力は控えて欲しいんだけど」
「…………(ちっちっちっ)」
どうやら叩き起こすわけではないらしい。でも自分で言っておいてなんだけど、こうなった姉御は叩き起こす以外に起きてくれるとは思えないんだけど……。
まずは床に寝かせてくれとのことで、膝の上から姉御の頭を動かしてうつ伏せに寝かせた。これでセッティングは完了らしい。
コン子ちゃんは姉御の背中の上に乗ると、両手の人差し指を立てて背中に狙いを定め、ブスッと思い切り突き刺した。
「んほぉぉぉ……?」
おぉ、本当に起きちゃった。随分と気持ち良さそうなアヘ顔で、姉御らしかぬだらしない顔だ。
「くっ……輸血パックを持参しておいて正解だったようじゃの」
今のアヘ顔にエロ素を感じたのか、キサナは自分の身体に点滴を施しながら鼻血を出していた。いつの間にそんな道具を用意して?
「んぁ〜……やけに気持ち良い目覚めだったな……。それに目の前に我が舎弟が見えるような……?」
まだ寝惚けているのか、うつらうつらと首を動かしながら目を薄く開いている。
「舎弟ですよ姉御。貴女の愛する弟分はこちらですよ」
姉御の頰を優しく両側に引っ張ってあげたところで、パッチリと目を見開いた。
「おぉ、しばらくぶりだな弥白。アタシの顔でも見たくなったってか? カカカッ、可愛い奴め」
抱き締められてよしよしと頭を撫でられる。色んな意味で柔らかいお人だ。
「ず、ずるいぞシロよ! 我もその巨乳を押し付けられたい!」
「あん? そういや誰だお前さん達? この世界じゃ見ねぇ顔だが」
「あぁ、それは今から説明するよ姉御」
柔っこい胸の感触を背中に感じながら、俺が仲介役となって双方の自己紹介をした。
「ほぅ、お前さん達が人間界で弥白と暮らしてるって連中か。見た目は地味だがキャラが濃そうに見えるな」
「ほほほっ、我はただのしがないエロ妖怪じゃよ。それより、お主はいつ何処でシロと知り合いになったのじゃ?」
「あぁそれは――むぐっ?」
咄嗟のところで姉御の口を塞ぐ。危ない危ない、あの時のことは隠すようにしないと。
「そ、そんなことより姉御。突然だけど野球勝負に興味ない?」
「野球勝負? なんだよ弥白、また面白そうなことに首を突っ込んでるじゃねぇか。そういう時は一目散にアタシに声掛けに来いって言っただろうが〜?」
「はははっ! ストップストップ! くすぐるのはアカンて!」
正確には脇に手を置かれただけだったけど、これがまた悶絶しそうになるくらいにこちょばしい。スキンシップしてくれるのは良いにしても、この攻め方は求めてないよ。
「結果的にはこうして話に来たんだから許してよ。でもそう言ってくれるってことは、協力してくれるんだよね?」
「当たり前だろ、舎弟の世話をするのが姉貴分の役目だからな。それに勝負とあっちゃ目を背けるわけにもいかねぇしな。やるからには徹底的にぶっ潰すぞ」
「ぶっ潰すと言っても勝負は野球だからね?」
「何言ってんだ弥白。野球には乱闘ってのがあんだろ?」
「暴力駄目絶対!」
戦闘狂はこれだから……。当日に妙な騒ぎを起こさないように、俺が姉御のブレーキ役にならなければ。
「これで残るは四人じゃの。して、他の宛ては誰なのじゃ?」
「残りは後三人かな。まずはもう一人の方のマブダチに会いに行くよ」
「なんだよ弥白、紅葉の奴も誘うのか? アタシとしては敵としてあいつと戦いてぇんだが」
「今回は我慢してよ。それに呉葉と戦えなくても、相手チームは強者揃いだからさ。不完全燃焼になることはないと思うよ」
「そうか、そりゃ楽しみだ。んじゃ早速あいつのとこに会いに行くか」
新たに姉御を仲間に引き入れると四人で小屋を出て、今度は呉葉がいるであろう妖町へと向かった。
〜※〜
「で、町に来たのは良いんだけどよ……」
棒立ちする姉御は、呆れた顔で俺達を見渡していた。
「うひょひょひょひょ!! ここはもしや天国か!? ずっと昔にはこのような場所は無かったはずなんじゃがの!」
ネオン街通りから町に入ったのがミスだったのか、キサナが今までにないくらいの暴走っぷりを見せていた。
あちらこちらにいる呼び込みのお姉さんに目移りして、ひたすら声を掛けてはお近付きになろうとアピールしている。その積極性を見習いたいものだ。
「……あれ? ずっと昔にはって、もしかしてキサナってこの町のことを知ってて……?」
「…………(ちょんちょん)」
「ん? 何コン子ちゃん?」
ジェスチャーだけじゃ伝わらないと思ったようで、わざわざ文字書き用の紙を用意して中身を見せて来た。
『妖怪は基本的にこの世界のことを知らない人はいない』
「あっ、そうなんだ。でもそう言われればそうだよね。何と言ってもここは妖怪の世界なんだし」
ということは、今まで俺一人だけ知らされずにいたというわけか。なんで教えてくれなかったのかは……うん、何となく分かる。この世界の事情を知っていたからだろう。
まぁでも今は問題解決したし、こうして俺が出歩いていても敵意を剥き出しにされるようなことはない。
……むしろ、ね。
「あっ、見て見て。例の人間よあの子」
「お兄さ〜ん。ちょっとウチに寄ってかな〜い? 沢山サービスしちゃうわよ〜?」
「だったらこっちは沢山御奉仕させてもらうわ。じっくり、ねっとりと……ね?」
ネオン街のお姉さん達に取り囲まれて注目を浴びてしまうくらいに、いつの間にか俺の知名度が上がっていたようだ。男冥利に尽きるんだけど……急いでる身なので今はちょっと困る。
「おいコラ弥白、女を侍らせて良いご身分だな? 姉御一人じゃ欲求不満だってか?」
「侍らせてるつもりはないんだけどなぁ……」
このままじゃ身動き一つ取れない。ここは姉御に運んでもらうことにしよう。
「へいキサナ、ハウスよハウス」
「ワンッ」
パンパンと手を叩いたところで、エロス犬と化したキサナが戻って来る。
「というわけで姉御、また前の時のようにタクシー役宜しく」
「仕方ねぇなぁ。振り落とされないようにしっかり捕まっとけよ?」
俺達全員で姉御の身体にしがみ付いたところで、妖怪の群れから脱するように高く飛び上がった。それから物凄い速さで人混みの中を駆け抜けて行き、あっという間にネオン街エリアから離れることができた。
「で、紅葉が今何処にいるのか分かってんのか?」
「うん、ここに来た瞬間に霊感を探っておいたからね。呉葉なら多分まだ蜘蛛の巣にいるよ」
「あぁ、あいつの行き着けの店か。了解だ」
そのまま姉御タクシーに乗ったまま移動して、数分も掛からない内に蜘蛛の巣へと到着した。流石は姉御、この足の速さがある限り野球勝負でも天下無双だ。
姉御の背中から降りたところで、営業中であることを確かめた後に、蜘蛛の巣の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいッス! ……って、弥白さんじゃないッスか。まさかまたウチらのことをからかいに来たッスね? 迷惑なお客様はお断りッスよ!」
随分なご挨拶で出迎えてくれるテケちゃん。第一声から辛辣だなぁ。
「いきなり怒らないでよテケちゃん。今日は遊びに来たんじゃなくて、呉葉に用があって顔を出しに来たんだよ」
「紅葉さんにッスか? 紅葉さんなら厨房の方で料理の真っ最中ッスよ」
「……何故に料理」
まさか武人から正真正銘の大和撫子にでも昇華するつもりだとでも? 勇ましさと可愛らしさの両方を磨こうとするだなんて、意外と貪欲なのかもしれない。
「紅葉が料理たぁ、そりゃまた面白そうだな。ちょいと邪魔すんぜ~」
「あっ、邪魔はしちゃ駄目ッスからね? 紅葉さん珍しく真剣なんでッスから」
一体どんな料理を作っているのやら。姉御と共に厨房へと向かい、ちらりと顔を覗かせてみた。
「おーう紅葉! お前さんもようやく女としての自覚が――」
「ハハハハハッ!! よい! よいぞ! この高ぶる躍動感! これが甘味を極めるということなのだな! 久しくこの腕が滾っておるわぁ!!」
「……おぉう」
声を掛けようとした姉御だったが、思わぬ人格の変わり様に若干引いて引き下がった。
いつもの赤い袴姿に可愛らしいデザインのエプロンとナプキンを上から身に着けていて、ボールと手動の泡立て器を手に目を血走らせている。液体状のチョコレートを激しくかき混ぜていて、まるで初めての調理実習にはしゃぐ幼子のようだ。
しかし表情が表情なだけに、料理をするその姿が恐怖を帯びているようで、近寄ろうにも近寄りがたいキャラへと変貌を遂げてしまっていた。貴重な真面目キャラの呉葉の身に何があったらこうなるのか……。
「あの~……呉葉さん? 一体何をしていらっしゃるんでしょうか?」
「むっ、久しいな弥白殿! ただその質問は愚問であろう! 此方の姿を見れば何をしているかなど、一目瞭然ではないか!」
「そうだね、どう見てもお菓子作りしてるよね。でも俺達の目には、やたらテンションの高い魔女が荒ぶりながら怪しい食物を生成してるようにしか見えないんだよね」
「失敬だな弥白殿! 此方はただチョコレート城なる物を生み出そうとしているだけだ! 他意など無く、純粋な菓子作り以外の何物でもない!」
駄目だこりゃ、完全にお菓子中毒になってらぁ。そういや呉葉って甘い物好きだったっけ。でもまさか人格変わってしまうくらいにラブだったとは思わなかった。
「これまたインパクトのある女子じゃの。彼奴は何者じゃ?」
「彼女は紅葉。本来は武人を絵に描いたような妖怪なんだけど、ご覧の通り今日はただの狂人みたい」
「こりゃあいつの気が済むまで待ってやるしかないみてぇだな。店の方で何か注文でもして気長に待つとしようや」
「そうだね。ぶっちゃけ今の呉葉に関わるとかなり面倒臭そうだし」
「だな。今はそっとしておいた方が賢明だ」
「酷い言い様だな! ハハハハハッ!」
何も見なかったことにして店の方へと引き返していき、店内に響く奇声のような叫び声を耳にしながら、皆で昼食を済ませつつ静かに待つのだった。




