ちょっと黙ってろ人形神 前編
もしもの話。何でも一つだけ願いを叶えられるとしたら、一体何を望むだろうか?
抱えきれない程の莫大な財産。空を飛んだり火を出したりできる魔法使いの力。全人類に好きな命令を下すことのできる権力。想像を膨らませれば膨らませる程、願いというものは限りなく尽きることが無い。
ただ、俺は思うのだ。願いというものは、想像でしかその価値を見出せないのではないかと。もし本当に何でも願いを叶えられる力を手に入れたとしても、思い付くものを全て叶えてしまっては、物事が全て退屈なものになってしまうのではないかと。
例えば、宝くじの話をしよう。
学校のとあるクラスメイトがこの前「なぁなぁ、宝くじ当たったまず何する?」という話題を元に雑談していた。その回答に関しては「奴隷欲しいな~」「むしろ性奴隷欲しいな~」「というか異世界行って性奴隷欲しいな~」と、イレギュラーな答えしか言っている人がいなかたっため、あまり参考にはならなかった。
本来の回答とすれば、旅行に行きたい、別荘を買いたい、車が欲しい、とのように日常の中での憧れに近いものを望むだろう。ただそれらは全て、宝くじが当たった場合の話だ。つまり、宝くじが当たらなければそうして願いを話題にした楽しい雑談をすることができるわけだ。
即ち願いとは、想像すること自体に価値観があるのだ。一つでも叶えることができればそれはそれで構わないが、何でもかんでも叶えてしまってはやはり退屈に思うようになるだろう。そう思わない人もいるかもしれないが、俺としてはその生き方を損と言わざるを得ない。
仮に俺が願いを叶えるとすれば、それはきっと努力が前提とされたことに限ると思う。要は達成感が何よりも優先というわけであり、それが願いの方程式と言いたいわけだ。
さて、ここまで願いの理論を述べた上で、もう一度自分に問いてみよう。
もしもの話。何でも一つだけ願いを叶えられるとしたら、一体何を望むだろうか?
「合法で女湯を覗ける公共の場を提供して欲しいかな」
「「「…………」」」
本心である願いをさらりと言い退けてみると、猫さん、桜華、雪羅の三人に白い目で見られた。
願いは想像するからこそ価値がある? 願いはそこに行きつくまでの達成感の方に価値がある? 願いは何でも叶えられたら退屈になる?
笑止! そんな考え方は全て綺麗事! 願いは叶えられる方が断然良いじゃないか! それが欲に塗れた人間らしいじゃないか! たとえそれで醜い人間だと言われたとしても、俺は断固魔人のランプを崇拝する!
「良いのシロ、それは我も大賛成じゃ。欲を言えば、覗けるポイントはスリーアングル分だけ求めるかの」
「男湯と仕切った壁、温泉の底、身体を洗う場所付近、と言ったところだろうね。ん~、様々なアングルから覗ける女湯とか素晴らしいね。でも俺としては危うい身体の部位を全て湯煙で隠して欲しいけど」
「ふむ、それはあれじゃな? エロスは見えないからこそエロスである、という理論じゃな?」
「そうそう。女の子のエッチな部分っていうのは、見えないからこそ価値があるんだよ。際どければ際どいだけそそられはするけど、見えちゃったらそこで終わりさ。だってエロスっていうのは、見えないからこそ想像力や妄想力が無限大に広がってくれるんだから」
「分かる、分かるぞシロよ。エロス――もといエロ素は、見えた瞬間にエロスではなくなってしまう。それは最早エロスではなく、単なるポルノじゃ。ただエグいだけのポルノに我は微塵も興味など無いの」
「その通り。つまりエロ素とは、見えないということを極限まで高めた希望の象徴ってことだね。ただ人によってはそれでも欲求不満に感じるという異端者がいて――」
「「長いわぁ!!」」
キサナ共々、猫さんと雪羅に頭をぶっ叩かれた。
「痛いなぁ、いきなりどうしたのさ二人共。まだエロス談義は終わってないのに。人の話は最後まで聞くものだって誰かに教わらなかったの?」
「誰も聞いてあげるにゃんて一言も言った覚えはにゃいわよ! 下品にゃ上にくだらにゃいし、そもそも女の子の前でする話じゃにゃいでしょうが!」
「それに元々の趣旨が変わっちゃってるでしょ! 少なくとも私達がしていた話は、個人のエロスの定義の話じゃないから!」
「何でも叶えられるなら何を望むか……というお話でしたよね? 今のはお二人らしいと言えばらしいですけど、そういう話は私達抜きでしてくださいよ」
ノリの悪いお三方よ。思春期がそういう話をするのは至って普通だというのに。皆真面目ぶっちゃってるけど、きっと俺の見えないところではそういう話をしているに違いない。雪羅辺りとか絶対してそうだ。
「にゃっはは~、お堅いねぇ三人共~。願いっていうのは突拍子が無いぶっ飛んだ内容の方が面白いじゃんさぁ~?」
「姉さんは異端児だからそういうことを思ってるだけですよ。姉さんの常識を正当化しないでください」
「…………(フッ)」
「それどういう意味でのほくそ笑みですかコン子ちゃん!? まさか私の考え方の方が異端児だとでも!?」
上と下の姉妹に翻弄され、弄ばれる次女が一人。久し振りに見た気がするあの三人のやり取り。やっぱメンバーが増えると賑やかで楽しいなぁ。
「お主ら散々 我達の願いをディスっておるが、だったら逆にお主らの願いというのは何なのじゃ? 無論、シロのビューティフルな願いよりハイクオリティー何じゃろうの、猫よ?」
「にゃんで私!? べ、別に願いにゃんて無いわよ私は!」
「願いがない……? 猫よ、嘘はいかんの。誰しも一つは願いというものを持っておるものじゃ。この期に及んで隠そうとするなど言語道断じゃ」
「だから隠そうとにゃんてしてにゃいから! そもそもシロ君、私達を招集した理由ってまさかこのためにってことにゃの!?」
「ん~、半分正解かなぁ。実を言うと本題は別にあるんだよね」
本日のメンバーは、俺、キサナ、猫さん、桜華、雪羅のレギュラーメンバーに加え、九ちゃん、コン子ちゃんが追加で七人という大所帯。約一名ゲスなレギュラーがいないけど、それは本日の要件の諸事情で敢えて呼んでいなかったりするので悪しからず。
「実はさ、結構前に屋敷の裏の倉庫で掘り出した反魂香っていう不思議グッズを見つけてたんだけど、それが良い機会のところで凄い役に立ってくれたんだよね」
「良い機会って……何処でですか弥白様?」
「ま、まぁそれは気にしなくていいよ」
先日の妖界での出来事に関して、実はここにいる皆には誰一人として伝えていなかった。だから皆は俺があの世界で何をしていたのかということを知らない。
一日以上も姿を晦ませておいて隠し事にできるはずがない、と俺も最初は思っていた。だけどそれは予想外にも、“ある事象”によって誤魔化すことができた。
あの世界からこっちの世界に帰って来て神社の出口に向かった時、そこで待っていたのは外の警戒を行っていたキサナだけだった。
俺が神社の奥のものを物色しに行く際に、キサナは外から誰かやって来ないか見張りをするという手筈だった。でもそれから一日以上も経過しているというのに、まだ見張りをしていたことには正直驚いた。
でもそれはおかしいと思ってキサナと話をしてみたところ、あの世界とこっちの世界の違いを特定することができた。
それは単刀直入に言うと、あの世界とこっちの世界は時間の流れが違うということだった。つまり、向こう側にいて一日経過しても、こっちでは数十分しか流れていないということだ。
あの世界で俺はタヌッちを二回口寄せしていたけど、一回目と二回目にした口寄せのタイムラグは一日以上は過ぎていた。でも二回目の時にタヌッちは、一回目の時に俺の所業で怪我をしたことを「さっき」と述べていた。それもあって、俺は時間の流れの違いに気付くことができていたわけだ。
だから俺は何事も無かったかのように振舞い、キサナには「奥には何も無かったよ」と言っておいた。もしあの世界での話をすれば、きっと皆からまた心配されることになるだろうと思ったから。特に猫さんからは無茶を禁じられていたし、また懲りずにガチ説教を受けるのは御免被る。
まぁ、神社の奥に何もなかったせいで、あの後の玉さんの説得にはかなり苦労したけど……それも今となっては過ぎた話だ。
って、今は妖界の話よりもだ。こっちの話を優先しなくては。
「囀り石や反魂香とのように、あの倉庫で見つかる不思議グッズって面白いものばかりだからさ。もっと他に無いかな~って思って、先日またこっそり倉庫を漁ってたんだよ。そしたらまたまた見つけちゃったんだなぁこれが」
「また見つけたって……囀り石の件があるから、私はあんまり良い印象が無いんだけど……」
「そんな寂しいこと言わないでよ猫さん。皆も知りたいでしょ? 俺が何を見つけてきたのか凄い気になるでしょ?」
「その顔のことだから、どうせロクなものじゃないんでしょ……」
ニヤニヤしながら期待の返し返事を待ち構えたところ、雪羅が先んじて空気の読めない冷めた発言をしたことにより、ノリに乗ってくれようとしていたキサナ、九ちゃん、コン子ちゃんが出遅れた。これには流石の俺の顔も渋くなる。
「雪羅……君はいつから俺のことがそんなに嫌いになったんだい……?」
「わ、悪かったってば。別に拗ねなくても良いじゃない」
「知ってる雪羅? 男という生き物はね、好きな女の子からキモいって言われたが最後、その記憶は一生トラウマとして背負うことになる重荷になるんだよ」
「重いよ話が! それにキモいだなんて一言も言ってないでしょ!」
憎たらしい笑みと共にペロリと舌を出す。軽い仕返しはできたのでここまでにしておく。
「白君それでそれで~? その面白グッズってどんなのなの~?」
「うん。これなんだけどさ……」
ずっと後ろの背中に隠して置いておいた“それ”を取り出し、皆に見えるように卓袱台の上に置いた。
「な、何ですかこれ……正直触り難い代物なんですけど」
それは随分とボロボロになっていて、相当昔の物であることを示している古びた日本人形だ。裾や袖が破けた赤い着物を着ていて、やたらと髪がボサボサに伸びている。それはまるで、
「呪われていそうなデザインじゃの」
と、キサナが忠実な表現をしてくれていた。
「これはまた凄いインパクトのある人形さんだねぇ~。夢とかに出てきそう」
隣に座っていた雪羅がさり気無く擦り寄って来て、顔色を悪くさせたままぎゅっと手首を掴んで来た。
「夜中に寝ている時とかヤバそうじゃの。押入れの隅からチラッと顔を覗かせたりしておったら、ホラー耐性無い者は不眠確定じゃろうの」
「痛い痛い痛い。雪羅手首痛いって。骨がキシキシ鳴ってるって」
そう言えば、氷麗さん達と暮らしていた時だったか。俺がふと夜中に怖い話をしたら、雪羅に涙目で怒られてしばらく抱き枕にされたんだっけ。雪羅がホラー適正無いのすっかり忘れてた。
でも妖怪がお化けを恐れるっていうのも妙な話ではあるけれど……いや、それは妖怪差別か。皆の場合は差して人間と大差無いし。
「なんでこんなもの拾って来るの? 嫌味? 私に対する嫌味なの? 弥白本当は私のこと嫌いでしょ?」
「違うって、別に故意とかじゃないんだって。確かに見た目はかなりアレだけど、不思議グッズとしては凄い代物なんだよ」
「シロ君、流石にこういう嫌がらせはいつも以上に無いと思うわよ。雪羅ちゃんが可哀相だと思わにゃいのかしら?」
「弥白様……いつから貴方はそのような歪んだお人に……まさかこの前の天邪鬼の後遺症がまだ!?」
「にゃっはは~、今日の三人はいつにも増して当たりが強いねぇ~」
全くだ。どうして今日はこうも悪役ポジションに仕立て上げて来るんだ。日頃の恨みと言うならしょうがないけど、そこまで酷いことしてるかなぁ最近の俺って……?
傷付いた心を癒すためにコン子ちゃんを手招きすると、卓袱台の下を這いずって来て俺の足の上にちょこんと座った。モフモフした尻尾の感触が実に心地良い。
「人の話は最後まで聞いてよ。俺にレ○○されたいの皆?」
「コン子ちゃん、俺の声でとんでも発言しちゃ駄目よ? 言葉はちゃんと選ぼうね?」
ほら見たことか、今にも雪羅が俺の眉間に氷柱をぶっ刺そうとしてきているじゃないか。いつだって俺の命は風前の灯火だぁ。
「冗談抜きにして、これは本当に不思議グッズの一つなんだってば。人形神って聞いたことない?」
「あっ、私それ知ってる~。願いを言えば何でも叶えてくれる付喪神だよね~?」
「え? それ本当ですか姉さん?」
「モチのロンだよ~。お姉ちゃん嘘吐かない生き物なんだし~」
「吐いたじゃないですかたった今」
「も~、手厳しいなぁ~桜ちゃんは」
九ちゃんの言った通り。俺の妖怪図鑑によれば、これは付喪神の一種であることが分かった。
“人形神”……願いを言えば何でも叶えてくれるという、それこそランプの魔人のようなワンダフルな付喪神。しかもこれはその魔人よりも優れていて、願いを叶える回数に制限はないんだとか。
……ただ、そんな都合の良い代物がこの世に存在するわけがない。無論のこと、この人形神は曰くつきの付喪神である。
「何でも願いを叶えてくれることは事実なんだけどね~。そのリスクとして、人形神に願いを叶えてもらった人は死後地獄に落ちるのが確定するという呪物とも言える付喪神で――」
「やっぱり嫌がらせじゃにゃいのよ!」
捲くし立てた猫さんが近付いてきて胸ぐらを掴み上げられる。暴力的な猫さんもキュートですこと。
「どうせ自分以外の誰かに自分の願いを叶えさせて、私達の誰かに犠牲ににゃってもらうって魂胆だったんでしょ! 最低! 外道! 悪魔! 何処ぞのゲス鬼と何も変わらにゃいじゃにゃいのよ!」
「弥白様……やはり先日の天邪鬼の後遺症が残っているんですね!? そうなんですね!? そうなんだと言ってくださいよ!」
「信じていたのに……どうしてそうなったの弥白? 貴方の今までの優しさが全部偽りだったなんて、信じたくないよ私……」
「皆はどうしても俺のことを悪役にしたいの? 俺ってそんなに気に食わない奴だった?」
思わずほろりと涙が零れてきた。天邪鬼の後遺症が残ってるのは皆の方だと思うんですけど。
「あのね三人共、俺は不思議グッズを“見つけた”って言ったんだよ? 俺が一度でも“使いたい”だなんて言った?」
「口では言ってにゃいけど、心で言っていたわね」
「以心伝心ですよ弥白様」
「日頃の行いが悪いからそういう風に疑われるんだよ」
「もういいよ! 私のことが嫌いなら出て行けばいいじゃない! 貢がせるだけ貢がせてポイだなんて、魔性の女って最低! 私もう誰も信じられないわ! やっぱり信じられるのは自分自身だけなんだわ!」
コン子ちゃんの頭に顔を押し付けてわんわんと泣き出す俺。ぷにぷにするケモミミの感触が溜まらんことよ。
「どうやら本当の悪はお主らだったようじゃの。男子を騙すだけ騙す女子の末路を知らぬ者は逞しいの」
「なんで今日に限って白君に意地悪してるのさ~? お姉ちゃんそういうの良くないと思うなぁ~?」
「「日頃の恨みよ」」
言動のキツい二人は何度でも刺してくる。二度しか刺さないまだ蜂の方が優しい。
「す、すいませんでした弥白様。しょんぼりする弥白様が可愛くてつい……」
言動の可愛い鬼の娘は何度でも萌えさせてくる。辛辣なことしか言わない二人にはかなり見習って欲しい。
「話進まないのでそろそろ進まさせてください」
「「「どうぞ」」」
「九ちゃんの説明の通り、これは願いを叶えてくれる代わりに地獄落ちのリスクを伴う危険な付喪神でもあります。ですが、世の中にはきっとこういう人がいると思うんですよ僕は。地獄に落ちてでも願いを叶えたいと志している人が」
「ふむ……それで?」
「それで、皆の中にはそういう性根の腐った志を持ってる人がいないか試してみようかなって思ってさ。だからこうして持って来たんだけど、使いたい人いる?」
しーんと静まり返るリビング。手を挙げる人は誰一人としていなかった。
その反応に、俺はふと笑った。
「というわけで、今から囀り石を使って皆の願いを暴きたいと思います」
「どうしてそうにゃるの!?」
予め用意しておいた囀り石を卓袱台下から持ち出し、卓袱台上に置いた。
「どうしてって? そんなの決まってるじゃないか。一体皆がどういう貪欲な思念を抱いているのか、それを暴くためだよ」
「だからそれがにゃんでって言ってるんだけど!?」
「はははっ、何言ってるのさ猫さん。それこそ決まり切っていることじゃないか」
キサナと目を合わせてニタリと笑い、足の上に座っているコン子ちゃんもいやらしい笑みを浮かべた。
「「欲を暴かれた皆の悶える顔が見たいから!!」」
「やっぱり今回も悪戯だったんかぃ!」
すぐに立ち上がって逃げようとする真面目組三人。だがその判断はもう遅い。
「ほほほっ、逃がすわけがなかろう」
「観念してお姉ちゃんのお縄につきなさ~い」
「…………(ニヤニヤ)」
猫さんはキサナが、桜華は九ちゃんが、雪羅はコン子ちゃんが拘束し、三人もれなく逃亡を阻止した。
「まさか皆さんは知っていたんですね!? 私達にだけはこのことを黙っていたんですね!?」
「くぅ……見事に嵌められた。弥白、今すぐ謝るなら許してあげても良いのよ? 後悔しない内に悪巧みを諦めなさい!」
「ワッツ? アナタガ、ナニヲイッテイルノカ、ワタシワカリマセーン」
「雪羅ちゃんやっちゃって! そのムカつく顔を凍らせちゃって!」
「無駄よ~ん。実は雪羅対策のために天狗の助言を得て、俺は相手の霊力を封じる腕輪道具の開発に成功したのだよ。それを今コン子ちゃんに付けてもらったから、今の雪羅は半纏とマフラーを着こなしただけのただの寒がり乙女に過ぎぬわ! フハハハハハッ!」
「やっぱ悪役じゃないですか今日の弥白様! こんなのあんまりですよぉ!」
何と言われようとも、ここまで俺をからかってくれた報いだ。三人にはたっぷりと辱めを受けてもらおう。
「……九ちゃん、やっぱり桜華のことは離してあげて良いよ。桜華は俺とキサナに優しいから、今回はこの二人だけ辱めることにしたよ」
「や、弥白様ぁ~」
涙目になってぱぁっと笑顔の花を咲かせる癒し系鬼娘。
萌えを交えさせて俺をからかっていた彼女には罪は無い。むしろそれは俺にとってのご褒美だ。恩恵を与える意思はあっても、恩を仇で返す意思などあるはずがない。
「良かったねぇ~桜ちゃん。私としては桜ちゃんの願いも……と思ったけど、今の桜ちゃんの願い事なんて分かり切ってるもんね~?」
「……姉さん」
九ちゃんが桜華の拘束を解いたと思いきや、ふと桜華が九ちゃんの背後に周り、今度は逆に桜華が九ちゃんを拘束した。
「えっと~……こ、これはどういうことかなぁ~桜ちゃん?」
「……そういえば姉さんは、今まで何度か弥白様に過激な悪戯をしていましたよね? それはつまり、姉さんも弥白様の辱めという罰を受ける資格があるということに他ありません」
動揺の汗を全身から流し出す九ちゃん。そういえば九ちゃんには、向こうの屋敷にいた時に散々からかわれたっけ。
「弥白様! どうか今回は姉さんも辱めの罰を与える一人に加えてやってください!」
「……御意に」
「白君~!?」
断る理由無し。ということで、桜華を外して今回は九ちゃんに被害者になってもらうことにする。斬新な展開に笑顔を隠せないわぁ。
「桜華ちゃん! 私も! 私もシロ君の対象から外れるように説得して!」
「私達友達よね桜華!? まさか一人だけ辱めから逃れようと思わないよね!?」
「あー、あー、聞こえませーん。私は何も聞こえませーん。最近は耳のノイズが酷いものでしてー」
「「桜華ぁぁぁ!!」」
棒読みで誤魔化す桜華に対して目を三角にする彼女の同士二名。傍観者のキサナは涙目になりながら爆笑していた。
「えー、それでは早速初めていきたいと思います。さぁ目覚めるのです、可愛い可愛い囀り石ちゃん」
「絶対許さないわよ!! 今回ばかりは本気で怒ってるからね弥白ぉ!!」
「はははっ、何とでも言いたまえよ。つらら女さん改め、ただの女さん」
「……フフフッ」
雪羅の目が完全に人を殺す目になっている。後で死ぬかも俺。ま、その時はその時だ。
俺は愛でるように囀り石を撫で回し、生まれ変わった新生囀り石を起動させた。




