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リア充な“りあじゅう”のお告げ

 鬼屋敷から歩き続けること約三十分。林を抜け、森を抜け、小さな山を越えた先に、人里離れた場所としては不自然過ぎる建物が見えた。


 金閣寺をフラッシュバックさせる黄金色の五重の塔モドキ。高い屋根の上には、アロハシャツを着てサングラスをかけた狐(?)のような、どでかい金像が飾られている。


 塔の近くにはプールや花園が設備されていて、遠目から何人かのガードマンのような人達が見える。これじゃまるで豪邸だ。どんだけお金掛かってるんだろうか。


「着いた着いた。あそこが合わせ屋だよ〜」


「何とも主張が激しいというか、お金持ち感が堂々と醸し出された家ですね」


「つーかなんだあのバカデケェ金像は? 調子こいた表情が癪に触りやがる」


「あぁ〜、ちなみにあの金像が合わせ屋本人の姿なんだよね〜」


 自分の像をあんな目立つように飾るって、大分痛い妖怪だなぁ。主張が激しいだけなら気にしなかったのに、俺個人としてはちょっと……。


「見た感じ凄い儲けてそうだよね、その合わせ屋って妖怪(ひと)


「結構な頻度でお客さんがやって来てるらしいからね〜。合わせ屋曰く、異性に悩める妖怪って意外と多いんだってさ〜」


 現代社会の人間界では少子化が年々に進行しつつあるけど、どうやら妖怪も似たような問題を抱えているらしい。


 でも妖怪の場合は人間の想像から生まれる場合が多いし、何より人間と違って寿命が異常に長い。種子が絶えて絶滅する、なんてことは考えられないだろう。


 とは言え、妖怪だって恋はするし、好きな人と付き合いたいと思うのは自然なこと。そのサポートをしてくれる妖怪がいると言うのだから、特に人間の身である俺としては是非会ってみたいものだ。今後のために色々と助言をしてもらいたいし。


「見張りがいるみたいだが、合わせ屋ってのはすんなり会えるものなのか?『金持ってねぇ奴は帰れ貧民!』とか言ってくるんじゃねぇのか? 金持ちってのはクソみてぇに性格悪い奴多いイメージあるからよ」


 それと、大らかで心優しい人のどちらかだと思う。正直俺も金持ちに良い性格のイメージはないけど。


 妖怪はともかくとして、人間というのは高い地位にいればいるほど、他者を下手に見る人が多い。特に社会の大人達なんてそうだ。天狗にでもなった気分でいるのか、無駄に偉ぶっているような印象がある。


 実際偉いんだろうから仕方無いことなんだろうけど、本当に偉い人は相手を自分と対等な者として見る人のことなんじゃないかと思う。立場なんて関係無しに、同じ生き物として。その方が貫禄があるというか、器が大きい人なんじゃないかと俺は思う。


 さて、ここの金持ちさんはどちらの人種――もとい妖種なのか。良き人格者であることを願いたいが……果たして?


「その件に関してはだいじょ〜ぶ。少なくとも嫌な妖怪ではないよ〜。りあちゃんと私は気の合った仲だしねぇ〜」


 九ちゃんと気の合う人格者……だったら俺は大丈夫かもしれない。温羅兄や桜華はまだ分からないけど。


「それじゃいこ〜」と九ちゃんが先頭を歩いて行き、俺達も後に続いて行く。


 敷地の境目である門を開いて中に入ると、ガードマン達がこちらに何人か走って来た。ボディチェックでもされるのでは? と思いきや、普通にお辞儀をして解釈して来た。


「どもども〜。りあちゃんって今いるかな〜?」


「えぇ。今はプライベートルームにおります」


「いつものパタ〜ンだねぇ〜。じゃ、お客様連れて来たので失礼しま〜す」


 それだけ会話したところで話は終わり、すんなりと合わせ屋に会える許可を得られた。思ってたよりあっさり事無きを得たなぁ。


 でもよくよく考えてみると、九ちゃん曰く、ここの儲けは凄いとかいう話なんだし、いちいち合わせ屋のお世話になるのに面倒な許可なんて得てたら営業も上手く回らないか。


 更に敷地の奥へと進み、正面門から五重の塔モドキの建物の中へと入った。


 中に入ると、四角形の螺旋階段が天高く続いていた。途中にいくつもの部屋があり、和風な外面と違って中身はがっつり洋風チックだ。


「相変わらずラブホテルみたいな場所だねぇ〜。そう思わない白君(びゃっくん)?」


「雑誌とかでしか見た事ないけど、確かにそんな感じするね」


 こんなことならキサナも連れて来ればよかったかも。きっと子供のようにハイテンションになるんだろうなぁ。


「へ、変な例えは止めてください姉さん……」


 “ラブホテル”というキーワードに恥ずかしがる反応を見せる桜華。そんな純粋な乙女の反応されてしまうと、こっちの胸がキュンとしてしまうのは仕方のないことだ。


「何々〜? もしかして桜ちゃん、今エッチなこと想像してたのかなぁ〜?」


「ちちち違います! 妙な誤解が生じる発言も控えてください!」


「普段真面目キャラ気取ってるくせに、そういう知識はちゃんと知ってるのなテメェ。純粋ぶってぶりっ子見せ付けてんじゃねぇよ気色悪ぃ」


「女を虐げたいと常日頃ボヤいてるあんたにだけは気色悪いなんて言われたくないわよ!」


 ごもっともである。


「おいコラ坊、何納得して頷いてんだ。その俺も今日限りの話なんだからよ」


「確かにそうかもしれないけど……でも温羅兄だからさぁ。あんまり期待できないというか」


「ですよね。私も正直無駄な努力だと思います。こんな奴に恋人なんて到底できると思いません」


「にゃっはは〜、バッサリ言うねぇ二人共〜。ま、ぶっちゃけ私も同感だけど」


「そこの二人はともかくとして、ここに連れて来た本人までそれかよ! むしろこれで駄目だったら恨むからなデカパイ狐! その時は詫びとして揉ませろよその巨乳!」


「やなこった〜。私のお乳は愛する妹達と白君(びゃっくん)だけの限定品だも〜ん」


 桜華の後ろから抱きついて、その巨乳に桜華の顔が挟まれる。一瞬羨ましいと思ったけど、桜華の角が胸に刺さって痛そうにしていた。


「で、肝心の合わせ屋ってのは何処にいんだ?」


「この階段を登り切った最上階だよ〜」と、真上を指差す九ちゃん。


「よりにもよって一番上かよ……面倒臭ぇな」


「なら帰る? 私あんたのために無駄な時間使いたくないんだけど」


「勝手に帰ってろ! そもそもなんでテメェまでついてきてんだ? 関係ねぇ奴は引っ込んでろや!」


「私は弥白様に付いて来ただけで、別にあんたに付いて来たわけじゃないわよ」


 そう言いながらさりげなく俺の右腕に寄り添ってくる桜華。ほんのりと頰を赤く染め、ちらりと顔を覗かれた。


 困ると言いたい。困ると言いたいのに、振り解くことすらできない自分がいる。この根性無しの浮気性め。少しは雪羅のためにバッサリ男らしいこと言えってんだ。


「おい脳筋。気付いて無さそうだから言っておいてやるが、普通に嫌がってんぞ坊。つーか彼女持ちの男にそういう風に擦り寄るか普通?」


「うっ……」


 痛いところを突かれて桜華は身じろぎ、「申し訳ありません弥白様……」と言って右腕から離れた。


 そして今度は、左から九ちゃんが抱き付いてきた。


「なら白君(びゃっくん)は今だけ私が独り占めってことで〜。いこ、白君(びゃっくん)


「な、何してるんですか姉さん! 今こいつの話聞いてました!? ゲス野郎に言われたのは屈辱ですけど、正しいこと言ってましたよね!?」


「ん〜、確かにそうかもしれないけどさ〜。でも自制ばっかりしてたら白君(びゃっくん)にアピールできないんじゃないかな〜? 私はそんなの我慢できないしさ〜」


「そ、それは……」


「雪ん子ちゃんも桜ちゃんも白君(びゃっくん)大好きなの分かってるけどさ〜。私も白君(びゃっくん)のこと狙ってる女の子なんだよ〜? 桜ちゃんももっとこういう風にアピールしていかないと置いてかれるってね〜」


 そう言いながら、ふと俺の耳にキスをしてきた。


「九ちゃん! それマジで勘弁してって言ったよね前!?」


「むほほ〜、可愛い反応するなぁ白君(びゃっくん)。お姉さん胸がキュンキュンしてくるよ〜」


 キサナみたいな反応をする人だ。今はお姉さんというより、セクハラに勤しむ親父にしか見えない。


「いい加減にしてください姉さん! ほら、弥白様から離れてください!」


「や〜だよ〜。返して欲しくば私を上手く説得してみなさいな〜ってね」


「……本気で殴りますよ?」


「おぉう……そういう説得求めて無かったんだけどなぁ〜」


 ガチな目になって殺気を見せた桜華に反応して、パッと俺から離れる九ちゃん。懸命な判断だ。怒った桜華は見境無しで何をするか分からないから。


 にしても今考えると、俺の周りって怒ると怖い女の子ばっかだなぁ。ピリピリしないでもっと平和的になればいいのに。


 ……怒りの元凶の俺が言えた台詞じゃないな。


「いつまで油売ってるつもりだ色ボケ共。テメェらの茶番に付き合ってる時間は無ぇんだよ」


「ならあんた一人で行けばいいじゃない」


「いいじゃない、じゃねぇよ! つーか坊は俺の付き添いで来てんだよ! 一番お呼びじゃねぇ脳筋はとっとと失せろ!」


「そもそも弥白様の貴重な時間を奪うだなんて、ゲスの分際で随分と偉そうね。あんたに弥白様に物を頼む権利なんて無いわよ!」


「それはテメェも同じだろうが! 坊の下僕になってるつもりなのか知らねぇが、事ある毎に坊に付いて来やがってよぉ!? 金魚の糞並みに鬱陶しい脳筋野郎が!」


 今度は温羅兄(いぬ)桜華(さる)の喧嘩魂に火が付き、睨み合いの火花が散った。


 次第に二人の距離が詰まっていき、手を合わせ合って握力に物を言わせる喧嘩へとシフトチェンジ。流石にこれ以上は黙って見ているわけにもいくまい。


「ちょっとちょっと二人共。他所の家に来てまで喧嘩は駄目だってば」


「すっこんでろ坊! 最近こいつ調子に乗り過ぎなんだよ! 一回ぶっ飛ばしておくのがこいつのためにもなるってな!」


「下がっててください弥白様! こいつは弥白様にとって害悪にしかなりません! 今すぐにでも縁を切って頂かないと、今後の弥白様の成長に悪影響が及び兼ねません!」


 駄目だこりゃ、完全に頭に血が上っちゃってるし。俺にはもう止められそうにない。


 お互いが呻き声のようなものをあげて、そろそろ本気の殴り合いが始まりそうな雰囲気になった時。二人の足元に大きな丸い影が映った。


 妙な違和感を覚えて、咄嗟に上を見上げた。


「仲良しこよしの匂いがするネ〜! フォッホー!」


 天高い天井から舞い降りてくるパラシュート。俺の視界の先には、やけにテンションの高い小さな狐がいた。


 ついさっき見た金像と全く同じ格好をしていて、パラシュートで降りて来ているにも関わらず、その両脇に狐の女の子達を侍らせていた。その姿はさながら、“リア充”そのものだ。


「ハローエブリバディー! セイ、イェァァァ!」


 未だ十メートルくらいは地上から離れているというところで、パリピ狐はパラシュートを取り外して飛び降りて来た。


 女の子二人を両脇に抱えて、アクロバットに縦回転しながら華麗に着地。


 グキリ、と嫌な音が聞こえた。


「オウ! ジーザス!」


 最後の最後でミスった狐。その際に両脇の女の子達も離れてしまい、二名とも顔から床に叩きつけられるように倒れた。


 鉄が叩きつけられるような音が鳴り響く。女の子達の全身から火花のようなものが飛び出してくると、びよ〜んと目玉が飛び出て動かなくなった。


 よくよく見たらあれロボットだ。無駄にリアルに作られている。今は顔面崩壊してグロテスクなことになってるけど。


「ミーとしたことが、とんだアクシデンツ! 三千万したロボッツがバニシングしてしまったヨ!」


 リア充ロボットの値段よ……。つまりあの狐は六千万を今この瞬間に失ったと? 恐ろしい金銭感覚の持ち主ですこと。


「どもども〜りあちゃん。私達が来たの分かってたの?」


「ヘイ九! つい先程ガードマン君からテレフォンが届いてネ! 九がお客様を連れて来たと聞いて、ついついフライングしてしまったヨ!」


 恐らく足が折れているであろうにも関わらず、台詞ごとにイチイチ妙なポーズを取る。その度にグキゴキと鳴ってるけど、痛そうな素振りは全く見せない。逞しいパリピ狐だ。


「こいつが合わせ屋か? ただの調子こいたチビ狐じゃねぇか。チビな狐はコン子の野郎だけで間に合ってるっつの」


 目的の人物の登場により、いつの間にか殺伐とした喧嘩が取り止められていた。なんて良いタイミングで現れてくれるんだろうか。流石は“リア充”だ。


「君達が九が連れて来たお客様だネー? 今日は一体どんなご用件デ?」


「はいはーい、本題に入る前に質問いいですか〜?」


「イェア! そのアンサーに答えよう!」


「どうもどうも。一応お約束だから聞かなくちゃいけないんだけど……君って何の妖怪?」


「ミーかい? ミーは歴とした“りあじゅう”ネー!」


 質問の答えになってないんだけど。


「いや……“リア充”なのはよく分かるんだけどさ。俺が聞いてるのは妖怪としての君のことを聞いてるわけでね?」


「イェア! 分かっているよヒューマンボーイ! ふざけているわけではなく、ミーは“りあじゅう”という名の妖怪なのサ!」


「“りあじゅう”……?」


 なんだそれ、全く聞いたことがない。恐らく俺の妖怪図鑑にも載ってない妖怪だ。もしかしてキサナと同様、俗説すら未だ判明されてない希少妖怪だったりして。


「その顔から察するに知らないみたいだね〜白君(びゃっくん)。有るに獣と書いて“有獣(りあじゅう)”。普通に俗説も存在するノーマル妖怪なんだよね〜実は」


「え? そうなの? 一体どんな?」


「主に、恋人達に幸福や優越感を与える妖怪だよ〜。男や女を結び合せるといったように、キューピットのような役目も勤めてたりするかなぁ〜。その人との相性だとか、一番強い絆で結ばれている人だとか、そういう占いみたいなこともできるらしいよ〜」


 なるほど、だから合わせ屋か。有獣にとってまさに天職というわけだ。流石はリア充だ。


「もういいだろこいつのことは。おいリア充狐。この俺に相応しい女を教えやがれ」


 人に物を頼む言い方とは思えない頼み方。流石はゲスだ。


「イェア! 君が第一のお客様ってわけだネ! 良いでしょう! 早速ミーがサーチングしてあげるヨ!」


 温羅兄の態度に微塵も物怖じすることなく、催眠術のようなジェスチャーのような動きをし始めた。不思議と胡散臭く見えず、それっぽく見える。


「ふむ……ふむ……なるほどなるほど。サーチングの結果が出たヨ!」


「マジでか! で、どうなんだ!? 俺に相応しい女はいるのか!?」


「イェア! 勿論さ! この世に蔓延(はびこ)る生き物は、誰にでも一人は必ずラブパーセントがマックスの異性が存在しているからネ! ミーに探せないボーイ&ガールは存在しないのサ!」


 マジでか。つまりこのゲス野郎にすら、相性ピッタリな人が少なからず一人は存在すると。


「……世も末だなぁ」


「どういう意味だ坊テメェ!?」


 俺の独り言に桜華と九ちゃんが吹いていた。特に九ちゃんは腹を抱えて爆笑していた。


「この野郎共……もういい! おら、とっとと俺の女を教えやがれ!」


「イェア! まず、君に相応しいガールは三人存在するヨ!」


 嘘……だろ? 三人? 三人“も”いるの? こんなゲス野郎に?


「弥白様……」


 意味深な目で見つめてくる桜華。俺はその口に手の平を突き付けた。


「何も言っちゃいけないよ桜華。分かる、分かるよその気持ちは。きっと世が滅ぶのはすぐ先の話なんだろうけど、真実はしっかりと受け止めなくちゃ駄目だ」


「そうですね……。悲しいことですけど、私は最後の時が来るまで精一杯生きようと思います」


「大概にしとけよテメェら!? そろそろ本気でぶっ飛ばすぞ!?」


「うるさい! 世が滅ぶ元凶め! 俺達の平穏だった日常を返せ!」


「まさかの逆ギレ!? 人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ! 勝手に俺を疫病神扱いしてんじゃねぇ!」


「ヘイヘイ落ち着いてエブリバディ。世のピースはまだまだ滅びず存続ネ。安心すると良いヨ」


「そ、そっか。それは良かった……」


 ……のか? それってつまり、正式に温羅兄には三人の相性ピッタリな女の子がいるわけになるんだし。やっぱり世も末だこりゃ。


「で、その三人の女ってのは誰のことだ?」


「イェア! 喜ばしいことに、君は既に三人の内の二人と出会いを果たしているヨ! これは奇跡と言っても過言ではないネ!」


「何ぃ!? だ、誰だ!? 誰なんだそいつらは!?」


「イェア! まず一人目は……灯台下暗しってネ。実はすぐ君の傍にいるんだヨ」


「……何処に?」


「そこに」


 そう言いながら有獣が指を差したのは――桜華だった。


「相性度95%! どうやら従兄妹関係らしいけど、君達が夫婦になれば君の妖生はグェェェ!?」


 顔色を真っ青にさせて有獣の首を絞め上げる温羅兄。桜華自身も同じ顔色になってしまっていて、口に手を当てて嘔吐しそうになっていた。


「ざけんなよテメェ……よりにもよってあの脳筋がその一人だと? 次んなこと言ったら去勢すんぞ?」


「ウェ……ウェイト……待つんだ鬼のボーイ……ミーを去勢してしまうと……君は一生ガールと縁のない……むしろ不幸ばかりの妖生になってしまうヨ……」


「ちっ……次はねぇぞ。本気で頭カチ割ってやっからな」


 首締めから解放された有獣は即座に温羅兄から離れ、俺の背中に張り付くようにして身の安全を得た。


「次言えや。早くな」


「イ、イェア……。二人目は、病み女と呼ばれていることで有名な清――」


「帰る」


 すっかりテンションが冷め切った温羅兄は、三人目の正体を聞かないまま立ち去っていってしまった。


 哀れなり、伝説の鬼。だが俺はその三人目にいつか出会えることを祈っておこう。仮にも俺は、温羅兄の弟分なのだから。


「切羽詰まったバイオレンスなボーイだったネ。でもあのボーイは大丈夫サ。そう遠くない未来に三人目と出会い、名も知らぬそのガールと結ばれるとミーは踏んでるネ」


「にゃっはは〜、そうなったらそうなったで面白そうだねぇ〜。私としては桜ちゃんとくっ付いてもらった方が笑えるけど」


「姉さん?」


「じょ、冗談だよ桜ちゃ〜ん。そんな怖い顔で見つめちゃいやん」


 今すぐにでも九ちゃんを殴打しようとした桜華。それだけ温羅兄と相性ピッタリと言われたことが不服であり、不名誉であり、不幸なことだったんだとよく分かった。


「にゃっはは〜、にしてもりあちゃんの占いはやっぱり面白いね〜。丁度良い機会だし、私達も占ってもらわない? 実は私もまだ占ってもらったことないんだよね〜」


「え!? わ、私達もですか!?」


「イェア! 本人自ら望むなら喜んで見てあげるヨ!」


「相性……相性……」


 不安な表情になりながらちらちらとこっちを見てくる桜華。正直気まずい。


 でも……相性か。確かに丁度良い機会かもしれない。仮にこの人の占いが本当に的確なのだとしたら、俺の相手の名前の中に雪羅が入っているはずだから。


 俺が本当に雪羅のことが好きならば、一番相性が良い相手と出るはず。確かめないわけにはいかない。


 これは、俺の気持ちに嘘偽りが無いかを確かめるための試練だ。乗り越えるべき壁だ。逃げるわけにはいかない。


「りあちゃん。だったら俺のことを占ってくれないかな?」


「オフコース! では早速見させてもらうヨ!」


「え!? ちょ、ちょっと待ってください有獣さん! 私まだ心の準備モゴゴ!?」


「まぁまぁ桜ちゃん、ここは腹を括って聞いてみようよ〜」


 九ちゃんに口を押さえられてしまう桜華。桜華には悪いけど、先駆けさせてもらうとしよう。


 俺の背中から降りて正面に立ち、さっきのジェスチャーを始める。


「ふむ……ふむ……」と呟いているうちに占いが終わり、有獣は目を丸くさせて驚いた表情を浮かべていた。


「ワァオ……これは驚いた。ボーイのような人を見たのは生まれて初めてだヨ」


「驚いたって……どういうこと?」


「それなんだけどネ。まず先に言うと、君に相応しい相手は一人だけ……“だった”」


「だったって……それってもしかして……」


「……君はこの世に生まれ、出会うはずのなかったガールと出会った。しかもそのガールとの相性は0%だった。でも何があったのか、今はそのガールとの相性が“未知数”と出てるヨ」


 間違いない、雪羅のことだ。しかも相性度が未知数って……。


「この世に生きとし生ける者は、生まれた時から結ばれる相手が運命で決まっている。ミーはそう思ってこの合わせ屋を営んでいたけどネ。でも……君と出会ってそれは間違いだったということが分かったヨ」


 有獣はサングラスを外して優しい目を浮かべ、俺の顔を見てにっこりと微笑んだ。


「君は今、大切にしているガールがいるね? 心の底から愛している彼女が」


「……うん。雪羅って言うんだ」


「そうかいそうかい。うん、安心すると良いネ。君の愛情は紛れもなく本物ヨ。それと、そのガールも君のことを心の底から愛している。正しく君達は、相思相愛の恋人だヨ。少なくともミーが今まで見てきたボーイ&ガールの中じゃ断トツだネ!」


「……そっか」


 頭の中で雪羅のことを思い浮かべ、思わず頰が緩んで笑ってしまう。どうやら俺の不安は杞憂だったらしい。


「ボーイ。一つ聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」


「うん。どうしたの?」


「君のその……雪羅というガールなんだけどネ。最近体調を崩していたりするかな?」


 驚いた。恋人のことならそんなことまで分かるんだ。


「う、うん。実はそうなんだよ。本人は大丈夫って言うんだけど……妖怪は風邪引かないし、一応は安静にしておいた方が良いって言っておいたけど……雪羅がどうかしたの?」


「ん。確かに君の言う通り、妖怪は病気になることはない。でもね、心の病を抱えることはあるんだヨ」


「心の病……」


「そう。君のガールは今まさに、その心の病に掛かってしまっている。“寂しい”という病にネ」


「……あっ」


 そういえば変態コンテストの時だった。言い訳をして雪羅から離れていく時、雪羅の表情は具合が悪いというよりも……寂しそうにしているように見えた気がする。


「ボーイ。女の子はね、ミー達と違って繊細な生き物なんだヨ。どうやら君は多くの妖怪達から親しまれているようだけど、今の君は皆と同じようにそのガールと接している節があるネ。恋人はちゃんと特別視してあげないと可哀想だヨ」


 ぐうの音も出なかった。有獣の言っていることは、全て的を得ていたから。


 確かにそうだ。俺は雪羅と再会してからというものの、二人きりの時間を作っていなかった。特に最近なんかは、鬼や妖狐の皆と一緒にいる時間の方が多いくらいだった。


 俺にとって雪羅は恋人。有獣の言う通り、俺も雪羅もお互いを愛している。


 だけど、今までのそれは“言葉だけ”だった。俺は雪羅の見えるところで、愛情的な行動を見せていなかった。


 しかもつい最近に桜華や九ちゃんから告白されて、完全に浮かれていた。モテ期到来だのと一人で盛り上がっていて、雪羅の気持ちを何一つ理解してあげていなかった。


 女を弄ぶ輩は去ね……か。猫さんが言っていたことも、実に俺の的を得ていたわけだ。


 最低で、最悪で、甲斐性無し。今の俺にはその言葉が相応しい。


「ん〜……良い顔だよボーイ。どうやら深く反省したみたいだネ」


「はははっ……うん。自分の愚かさが身に染みたよ。気付かせてくれてありがとう有獣」


「礼など無用ネ! なんてったって、ミーは合わせ屋だからネ! 恋人達の絆を結び、守るのがミーの役目ヨ!」


 見た目がチャラいから中身もチャラいという先入観に捕われていたけど、それは間違いだったらしい。ここに来たのは偶然だったけど、この人に出会えて本当に良かった。


 この借りはいつか必ず返そう。大事なことに気付かせてくれたお礼として、ね。


「それじゃ、俺はもう行くよ。早く雪羅のところに行かないと」


「ま、待ってください弥白様! まだ私達の占いが……というか、まだ弥白様の占いが終わっていませんよ!」


「え?」


 俺の相手は雪羅。それで確定していたはずだけど……。


「だ、だって! 弥白様と相性が良い相手は“一人だった”って話ですよね? それで新たに雪羅さんが出てきたということは、その元々の一人がまだ伝えられていないじゃないですか!」


「あっ、そっか。そういえばそうだね」


 雪羅に気を取られ過ぎてすっかり忘れていた。でも雪羅以上に相性が良い相手なんて……。


「…………まさか、ね」


「え?」


「いや、なんでもないよ。それじゃ一応もう一人も聞いておこうかな」


「で、ですよね! やっぱり気になりますよね! というわけで教えて下さい有獣さん! 弥白様に相応しいもう一人の相手って誰なんですか!?」


「にゃっはは〜、必死だねぇ〜桜ちゃん。ま、その気持ちは分からなくもないけどさ〜」


 そのもう一人の相手とは誰なのか。


 有獣は、言った。


「うん。もう一人のガールは……“(まな)”、だネ」


 まさかと思っていた、その名を。


(まな)……ですか? え? そ、それって一体誰――」


「教えてくれてありがとね有獣。それじゃ俺はもう帰るから」


 俺は踵を返して塔から出て行った。振り向かず、逃げるように。


「……弥白様?」


「ノー! ミーとしたことが、今のは蛇足だと気付かなかったヨ! すまないボーイ!」


「……私達も帰ろっか、桜ちゃん」


「え? は、はい……」


 過ぎたことには捕われない。二度と後悔しないためにも、俺はこれからもずっと雪羅を愛し続ける。


 罪を抱え続け、俺が自分を一生許さなくとも、雪羅だけは必ず幸せにする。例え自分が不幸になろうとも。


 本当にここに来て良かったと、俺はまた改めて思いながら雪羅の元に帰って行った。

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