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天下一変態妖怪コンテスト『夜の部』 後編

 グシュ、ズバッ、ドゴッ、ブシャァ……


「ふぅむ……鮮やかな殺戮じゃの。もしや将来は殺し屋になるつもりがあったりするのかの?」


「ストップストップ、キサナ撮影ストップよ。これ以上はいけない。これ以上は教育に悪い」


「ほほほっ、それもそうじゃの。しかし彼奴(あやつ)をターゲットにしたのは(わら)のミスだったようじゃの……不覚」


 尻目が脱落し、次に名乗りを上げたのは狸伝膏だった。


 ライバルが脱落したことも影響して、ご機嫌な様子でターゲットの元に向かって行ったのだけれど……結果はご覧の有様。入室した瞬間に襖が閉められ、コン子ちゃんの殺戮ショーが始まった。


 コン子ちゃんは天井に張り付いて待機していたようで、キサナが部屋にカメラを取り付けていたこともお見通しだったらしい。色々と抜け目ないというか、勘が鋭過ぎな気がしてならない。


 扱いが雑なのはともかくとして、これで狸伝膏も呆気なく敗退。新しい乱入者として参戦していたのに、良いところを一つも見せずに終わっていた。何から何まで残念な奴だ。結果的に女の子の◯◯◯を撮りに来ただけだし。


「……そういや思ったんだけどさ。これってもう俺の勝利確定だよね? 残った身の毛立ちは昼の部で失格になってるし、他の二人も失格になっちゃったし」


「ふむ……そう言われると確かにそうじゃの。どう転ぼうが身の毛立ちに勝ち目はないしの」


 昼の部は俺が優勝したんだし、ここで身の毛立ちが成功しようが失敗しようが結果は同じ。トータル的に俺が勝ち確なのは必然だ。


 おっと? これはもしや、これ以上何もしなくて良い感じかな? 楽々とコンテスト優勝狙える感じかな?


「待ってください審査委員長。(わたくし)から一つ提案があるのですが」


「提案? なんじゃ?」


「正直なことを言うと、確かにこのままでは(わたくし)に勝ち目は無いでしょう。なのでここは一つ勝負を盛り上げるためにも、この夜の部の活躍ポイントは倍にしてくれませんか?」


「なぬっ!?」


 こ、この驕り妖怪余計なことを! このまますんなりいけばコンテストは終了していたはずなのに、そんな提案しちゃったらキサナは――


「ふむ……一理あるの。確かにその方がコンテスト的にも盛り上がるしの。競い合いにおいて、最後は点数倍というのは王道じゃし。うむ、分かった。お主の提案を受け入れてやろう」


「ありがとうございます審査委員長」


 結果、前向きに検討されて受理されてしまった。そりゃそうだ。キサナは俺達の変態プレイを拝むために今ここにいるんだ。つまり、コンテスト続行はキサナにとって願ってもいないこと。前向きに考えるのは当然のことだ。


 まずい……このままだと本当に桜華に対して変態行為をしなくちゃいけないことになりそうだ。


 はっきり言うと、俺は他の皆と違って何をすれば良いのか分からなくなってしまっている。寝ている相手に対して何が有効的なのか、皆目見当もつかない。


 きっとこれは俺が焦っている証拠だ。割とマジでどうしよう……。


「では……次は主様に行って貰いましょうか」


「え!? 俺!? なんで!?」


「なんでって……特に意味はありませんが?」


 野郎……さっきから一体何のつもりだ? 嫌がらせか? 昼間の雪羅との一件を根に持ってるが故の嫌がらせのつもりなのか!?


「というわけで、次はシロの番のようじゃ。期待しとるぞシロ」


「……マジで?」


「うむ、マジで」


 まずい……非常にまずいぞこの流れは。もし下手こいて桜華を起こしたりなんてしたら……時間帯が時間帯だし、誤解を抱かれるのは免れない。しかも俺がやろうとしているのは変態行為だし、一歩踏み間違えればジ・エンドだ。


「どうしたシロ? 顔色が良くないようじゃが」


「だ、大丈夫大丈夫。うん、分かったよ。それじゃ行ってくるね……」


 既に逃げ道は閉ざされた。なればこそ、背を向けて逃げ出すわけにもいかない。ここは覚悟を引き締めてやるしか……いや、やるってそういう意味じゃなくてね?


 気乗りが全くしないまま渋々と屋敷の方に向かい、正面から堂々と中へと侵入した。


 歩く途中で狐の仮面を装着し、フェアルールを実行する。まずは桜華の部屋に行く前に、見回りの妖狐達に見つからないようにしないと――


「あれ? どうされましたか主様?」


 言ってる側から見つかった。やっぱ俺に隠密行動は向いてないのかな?


 ……あれ? でもなんで俺が俺だって気付かれてるんだろう? でも取り敢えずここは誤魔化しておこう。


「フフフッ、一体君は誰のことを言っているのかな? 俺の名前はお狐仮面。真夜中にだけ出没する性犯罪者よ」


「いや……主様ですよね? 腕折れてますし」


「…………」


 俺は静かに仮面を外し、思い切り床に投げ捨てた。この左腕は変装さえ邪魔をするというのか? というかいつになったら治るんだよもう! 不便過ぎて洒落になってないんだよ!


「だ、大丈夫ですか主様? どうされたんですか一体?」


「気にしないで、これは俺個人の問題だから。それじゃ俺は行くね……」


「は、はぁ……暗いので足元には気を付けてくださいね。おやすみなさいませ主様」


 ペコリとお辞儀をした後、見回りの妖狐は去って行った。フェアルールは既に適用されないものと化してしまったけれど、この際もうどうでもいいや。勝つことも大事だけど、今はこの苦難を乗り越えることが最重要任務なのだから。


 それからまた何度か他の見回りの妖狐達と出会し、度々軽く解釈を交わして桜華の部屋へと向かう。


 鬼の連中だったらリンチにされているはずなのに、俺だけ何の警戒もされずにこんな待遇とは。最初は俺も酷く警戒されていたのに、随分と信用されたものだ。


 ……まぁ、今その信用を裏切るようなことをしてるんですけどね。あっ、駄目だ、これ以上考えたら罪悪感に押し潰される。無心になれ俺よ。深く考えたら終わりだぞ。


 重く感じる足を一歩一歩踏み締めて先へと進み――ついに今回の舞台となる部屋の前に到着した。


 襖に手を掛け――離す。一旦後ろを向いて深呼吸し、脳内に潜む邪念を打ち消すために念仏を唱える。


 心臓の鼓動が波打つ。バクンバクンと早鐘のようにその音が全身に伝わり、額から汗が滲み出てきているのが分かった。


 変態になりきれ俺。身も心も変態に染め上げ、罪悪感も良心も吹っ飛ばせ。恥も外聞もプライドも捨て去れ。性欲だけを己の中に維持しろ。


 俺は……ド変態だ!


「……よし」


 明日は学校休もう。涙を流しながらそう誓い、俺は戦いの舞台へと足を踏み入れた。


「うっ……」


 部屋に入ると、真っ先に布団の中で眠っている人物に目を奪われた。他でもない、俺のターゲットである桜華だ。


 ゆっくりと襖を閉めて、足音を立てないように忍び足で移動し、桜華のすぐ傍らでしゃがみ込んだ。


 顔を覗き込んだところ、実に幸せそうな寝顔で眠っていた。良い夢でも見ているのか、頰が緩み切って涎が垂れてしまっている。羨ましいお人だ。


 いつも割烹着姿ばっかり見ていたから、寝間着姿の桜華は新鮮だった。薄い桃色の無地の浴衣を着ていて、よく見れば片肌や胸元が少し露出している。


 ……何だこのエロ可愛い生き物は。きっとカメラの向こうのキサナは鼻血を出していることだろう。俺でさえなんか妙な気分になってきたし。やっぱ夜だから性欲高まっちゃってるのかな。


 本来ならずっとこうして桜華の寝ている姿を見物していたいところだけど、今はそうもいかない。何かしらアクションを起こすために俺はここにやって来たのだから。


「……取り敢えず」


 序の口として、人差し指の先で頰をぷにぷにと突っついてみた。


 ……にへらっと笑った。やだこの子、超お茶目なんですけど。


 って、違うだろ俺。こんなのいつもやってるノリじゃないか。もっとこう、過激なことをしなくちゃいけないんだって。


 胸か? こういう時はとにかく胸を揉んでみればいいのか? 男が女の子の胸を揉む行為は基本的に過激なことだし、一応はそれっぽいのか?


「……くっ」


 歯を食いしばり、桜華の胸目掛けて右手を伸ばす。


 ぷるぷると震える右手。じわりと滲み出てくる手汗。次第に苦しくなっていく呼吸。


 ……後少しで届くというところで、俺は手を引っ込めた。


「うぅぅ……っ!」


 心臓が握り潰されているかのような痛みに襲われ、堪らず横に倒れて胸を掴む。


 無理だ。寝ている女の子の胸を揉むとか絶対無理。普通に女の子と接することに関しては平常心でいられるけど、こういう場面にゃめっきり弱いのよ俺。罪悪感が俺を自動的に自粛させてしまうの!


 しかもだ。今改めて見ると、桜華の胸は意外と大きいということが判明してしまった。普段は割烹着の影響でくっきりとしたスタイルが出てなかったけど、今の桜華は浴衣一枚の姿。故に身体の凹凸がはっきりしてしまっていた。


 でもよくよく考えると、親の玉さんも普通に大きいし、九ちゃんに至っては兵器レベルなんだ。桜華の胸が大きくても何ら不自然じゃないし、むしろそれが当たり前なんだと思える。


 くそっ……俺はド変態だとさっき頭の中切り替えたはずなのに、桜華の胸のせいで冷静に戻ってしまった。このままだと何の戦果も上げられずに終わってしまいそうだ。


 スクワットか? 俺も桜華の顔の上でスクワットすれば良いのか? いや、そもそも寝ている女の子の前で筋トレすること自体が既に変態行為なのか? ならもうやるしかないでしょ。


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」


 桜華の横に寝そべって片手腕立て伏せを始める。


 ……数秒後、俺の身体は崩れ落ちた。


「……何がしたいんだろう俺」


 なんでこんなところで筋トレ始めてんの? 馬鹿なの? これじゃ変態というより変人だろ。一体何が悲しくてこんな場所で腕立て伏せなんかしなくちゃいけないんだよ……。


「うぅん……」


「うっ!?」


 突然桜華が寝返りを打ち、起きたと思って一瞬肩が跳ね上がった。


 ふとしたことですらこのビビり様。俺って実はチキンだったのね。


 ……いや、違う。俺のこのビビり様はチキンが原因というより、この数十年間童貞だったことで女の子に対する性的な免疫が弱まってしまっているのかもしれない。


 何せ、最後にエッチな本を読んだのが、キサナのボロ屋敷に住み着き始めた頃だ。数日して猫さんと知り合い、それ以来エロ本に読み耽ることができなくなっていた。


 だからだろうか。今こうして女の子の無防備な姿を見てるだけなのに、少しばかり興奮している自分がいる。それと同時に、恐れを抱いている自分もいる。


 性と無縁になり過ぎた結果、性的なものを恐れるようになってしまっただなんて……屈辱だ! 以前の俺なら平然とした様子でいられたであろうに! 紳士的に余裕こいていられただろうに!


 こんなの俺のプライドが許さない! 女の子相手にきょどるなんて俺らしくない! 照れる対象は雪羅一人で間に合ってるんだ!


「はっ!」


 弱気になっていた自分の殻を破るように着ていた衣服を脱ぎ捨てて、トランクス一枚の姿へと変身する。少しばかりの重みが感じられなくなったせいか、不思議と心が穏やかになったような気がした。


 ……待てよ? そういえば、いつかに見たテレビの番組で似たような企画をやっていたのを思い出したぞ。確か、真っ暗闇になった部屋に突然現れるブリーフ一丁のおっさんがドッキリを仕掛けるという……。


 番組名は忘れたけど、あれを参考にすれば良いんじゃないか? となると、これがこれから取るべき行動は……これだ!


「…………ヘッヘッヘッ」


 ほぼ裸になったことで開放的な気分になり、大きく四つん這いになって桜華の上に覆い被さる体勢を取る。


 もし今の俺を第三者が見たら、間違いなく俺が桜華を襲っている図にしか見えないだろう。さぁ、ついに引けないところまでやって来ちゃいましたよ俺。もう取り返し付かないよこれ。


 出来る限り気色悪い笑みを浮かべ、桜華との目と鼻の先の距離感を保つ。いいよいいよ、きっと得点高いよこの変態プレイ。この瞬間に起きられたら地獄行き決定だよこれ。


 だがしかし、ここまできてヘマをやらかすような俺じゃない。この調子で桜華の知らぬ間にあらゆる変態プレイをやり過ごし、完全犯罪を決め込んでやろうじゃないか!


 これぞ新境地! 未だ(かつ)て変態妖怪達が辿り着いていなかったであろう変態の頂! 人間の身であるこの俺が、その頂へと上り詰めつつあるのだ!


 トントン、トントトン、トントントンッ


「……?」


 あくまで声を抑えて高笑いしていたところ、不自然なラップ音が聞こえてきて我に帰った。


 トントン、トトトトントン、トトットトトッ


 妙にリズムを刻んでいるラップ音。右横から聞こえてくるその音の正体を確かめるべく、俺は咄嗟に振り向いた。


 トトットトットトッ、トトントトントトン


 そこには、世にも奇妙な生き物がいた。小さなタルに目と手足がついた未確認生命体。その正体は他でもない、歴とした妖怪だった。


 いつの間に侵入していたのかは分からない。どうやって侵入していたのかも分からない。ただ、一つだけ理解できることがある。


 トトトッ、トトン、トッ、トッ、トッ


「うぅん……」


 眠気覚ましになり兼ねない音を鳴らすあのミニマム妖怪は、今の俺にとって脅威となり得る存在だということだ。


 ぐっすり眠っている桜華がむにゃむにゃと口を動かし、何度か首を左右に動かした。


 まずい。このままだと奴が鳴らす音のせいで桜華が目を覚まし兼ねない。そうなったら俺はもう終わりだ!


(ちょっと! ちょっとそこのミニマム! 畳叩くの止めぃ!)


「……?」


 ロープのような手を止めて、きょとんとした目で俺を見つめてくる。


 実際に見たことはなかったけど、あの妖怪の正体は恐らく“畳叩(たたみたた)き”に違いない。その名の通り、畳を叩いて人を驚かす悪戯妖怪。俗説ではただのポルターガイストと決め付けられていたけど、例の如くガセネタだったらしい。


 とにかく、奴を早々にこの場から立ち退かせないと危険だ。あまり音は大きくないけれど、このままラップ音が鳴り続いたら流石に起きられる可能性が大だ。


(何なの君!? 取り敢えずここから出てってくれない!?)


 ふるふると首を横に振る畳叩き。なんでやねん。


 ……いやいや、何がなんでやねんだよ。なんでやねんなのは俺の方だろ。てゆーか普通に第三者に見られちゃってるし。もしかして詰んだのか俺?


(じゃあ別に居ても良い! 居ても良いけど、せめて大人しくしてて? とにかくそのラップ音は止めて?)


 こくりと首を縦に振る畳叩き。よしよし、ちゃんと伝わってくれたみたいだ。


 畳叩きから視線を外し、再び目の前の桜華に視野を戻す。よし、なら次は舌を出してギリギリ鼻に付かない距離を――


 ドンッ、ドドドドンッ、ドドン、ドン、ドドンッ


 ラップ音のリズム感が変わった。さっきよりもより大きな音が鳴り出し、すぐさま畳叩きの様子を確認した。


 ドドンッ! ドンッ! ドンドンドン!


 何処からか取り出した鉢を使って畳を叩いていた。まるでお祭りではしゃぐ子供のように。


(おい! おいコラ太鼓名人!)


「……?」


 またもやきょとんとした目で見つめてくる。一応叩くのは止めてくれていた。


(リズム変えれば良いってわけじゃないんだって! 止めてって言ったでしょ? ラップ音自体もう止めてって言ってるの俺。分かる? 伝わってる?)


 こくりと首を縦に振る畳叩き。よしよし、今度こそ伝わったみたいだ。


 二度(にたび)桜華に目標を定める。自分を落ち着かせるために一旦深呼吸をし、今度こそペロリと舌を出して桜華の鼻先にギリギリ当たらないように伸ば――


 タタッ、タン! タタタン! タタッ、タタッ、タタッ


 懲りずにまた聞こえ出す物音。苛立ちと焦りを抱きつつ、畳叩きの動向を確認する。


 ……お気楽な様子でタップダンスを踊っていた。


(タップ音も認めた覚えはありません!!)


「……?」


「さっきから何なの?」みたいな目で見つめて来た。俺が今一番言いたい台詞だよ。君にも、自分自身にも。


(畳叩くのも駄目なら踊るのも駄目! 妨害騒音ご法度分かる!?)


 手を上げながら首を横に振られた。更にはため息までつかれた。


 こんな体勢じゃなかったらすぐに追い出してやるのに、逃げ回られて足音立てられる方が余計に怖い。くそっ、何なんだあいつは!? 俺に恨みでもあるというのか!?


(お願いだからやっぱ帰って! こっち今立て込んでるの! こう見えて真剣勝負中なの!)


 ほぼ裸で女の子に覆い被さった状態で真剣勝負宣言。むしろ信じる馬鹿の方が少ないという話である。


「…………」


 すると、急に無い肩を(すく)めさせたと思いきや、とぼとぼ歩いて襖から部屋の外へ出て行った。


 何だかよく分からないけど、一応は危機を逃れられたんだろうか……? と、とにかく変態プレイは今が好機ぞ!


 舌を伸ばすのは懲りたので、今度は口を大きく開けて桜華の鼻を噛み付こうとする。無論、本当に噛み付くつもりはない。これはあくまでフリだ。


 ジャランッ……


「…………」


 ジャランッ……ジャランッ……


 畳叩きが立ち退いて安堵したのも束の間。畳叩きが去って行った襖の方から、琵琶の音色が聞こえてきた。


 どうにか後ろを振り向いてみると、襖によし掛かった畳叩きと、もう一人のニューミニマム妖怪がその隣に立っていた。


 日本人形のような身体に、首から上が琵琶そのものになった新たな未確認生命体。あれは確か……“琵琶牧々(びわぼくぼく)”だったっけ?


 自前の琵琶にて数多の者を、その音色と演奏技術で魅了していたと言われている和楽器マスターのような妖怪。なんでよりにもよってこのタイミングでこんなとこ来るわけ?


「それでは聞いて下さい。『春うらら子守唄』」


 ジャジャジャジャジャッ!! ジャラランッ! ジャラランッ! ジャラランッ!


 子守唄要素皆無なんですけど!?


「うぅ〜ん……んん……?」


 やばいやばいやばいって! 起きちゃうって! 頭の上に“?”浮かべちゃってるって!


(ちょ、うるさい! マジでうるさい! 一旦ストップ! 一旦一時停止して!)


「「…………」」


 二人して黙り込む騒音ブラザーズ。「黙って聞けよ」と目で訴えて来た。


 割とマジで張っ倒したくなってきた。でも今は我慢だ。ここで暴れたが最後、桜華が起きて全てが台無しに終わってしまうのだから。


(お願い! もう一分で良いから! それだけで良いから俺の邪魔しないで!)


「ところで畳叩きさん。あの殿方は一体何をしているのですかな?」


「…………」


「なるほど、◯◯◯ですか。人間のクズですね」


 見えない大槍が俺の胸を貫通した。文字通り折れてしまいそうになる。心も、身体も、何もかも。


(事情が……事情があるんです……)


「行きましょう畳叩きさん。これ以上ここにいたらクズが移ってしまいますよ」


「…………」


 正論過ぎてぐうの音も出ず、散々言い残してからミニマム妖怪達は去って行った。


 ……そして、ミニマム妖怪達の反対方向から、また新たなミニマム妖怪が通り過ぎ様に現れた。


 腹が木魚になっている手足の生えたミニ達磨。その達磨は右手に持っている鉢を振り、


 ぽんっ


 と、一度だけ腹部の木魚を叩いた。


「……ほな」


 律儀にお辞儀をしてくると、そのままミニマム妖怪達を追い掛けるように去って行った。


「……何なんだ一体」


 突然現れて嵐のように去って行った悪戯妖怪達。最後のは訳分からないけど、今度こそ刺客達は立ち退いていったようだ。


 全く……予想だにしていない襲撃に一時はどうなるかと思ったが、どうにか乗り越えられたぞ。後はやることやってさっさとキサナ達の元に戻らないと。


「よし……なら次で最後にしてと……」


 だが……その時だった。


「…………弥白様?」


「……うん?」


 聞こえるはずのない声がすぐ近くから聞こえて来た。俺は思わず頷いてしまい、ゆっくりと正面の方に振り向いた。


 そこには、お目目をぱっちりとさせた桜華がいた。


「…………」


 その刹那、俺の脳裏に走馬灯が駆け巡った。だがフラッシュバックするのは過去の思い出なのではなく、つい先程俺がこの目でみた妖怪の姿だった。


 腹が木魚になった達磨のような妖怪。俺の見解が当たっていたとしたら、あの妖怪の名は“木魚達磨(もくぎょだるま)”。不眠の象徴と言われていて、奴の木魚の音を一度でも聞いた者は不眠症となり、寝ている者は一発で目覚めてしまうというタチの悪い妖怪と言われている。


 つまり……つまりだ。奴が通り過ぎ様に木魚を叩いたのは……。


「はわわっ……はわっ……」


 見る見るうちに顔を真っ赤にさせていく桜華。対照的に、俺の顔色が真っ青に染まった。


「きゃぁぁぁ!?」


 初めて聞いた桜華の女の子らしい悲鳴。よく耳に響くその声を鑑賞する暇もなく、頬をぶっ叩かれた俺は壁を貫通して屋敷の外に吹っ飛ばされていった。




〜※〜




「優勝は弥白じゃ。じゃが、お主らも良き変態道を見せていたの。これからはよりその変態に磨きを掛け、第二第三のコンテストに挑むが良い」


「フンッ……この俺様が人間風情に負けるとはな。だが見事だったぞ人間の小僧。その健闘を讃え、俺様直伝のこの膏薬(こうやく)をやろう。これを使えばその折れた腕も一瞬でくっ付くだろう」


「おぉ、そういえば狸伝膏にはそんな薬を持っていると聞いたことがあったの。良かったの弥白よ。これで不便な片腕生活とはおさらばじゃ」


「…………」


「あ〜……その〜……弥白よ。あまり深く気にするでない。(わら)も過去には幾度と無くぶっ飛ばされていた時期があっての。一度や二度ぶっ飛ばされたところで気に病むことはない」


「…………」


「いや……うん……わ、悪かったの弥白。悪気は無かったのじゃよ。まさかお主が桜華に殴られるとは露ほどにも思っておらんでな? だからその……すまぬ……」


「…………」


 次の日。俺は狸伝膏の膏薬で無事左腕を完治した。


 同時に、今後一生癒えぬであろう心の傷を負うのだった。

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