表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/79

天下一変態妖怪コンテスト『昼の部』 後編

「コンテスト中に巨乳美人とイチャイチャしやがってよぉクソが……」


「お姉様系巨乳とパフパフしてんじゃねぇよボケが……」


 うんこ座りになって反吐を吐き捨てるガラの悪い変態妖怪が二人。イチャイチャはともかくとして、パフパフした経験など一度もない。むしろこっちがやってるところを見せて欲しいわ。


「嫉妬なぞ見苦しいぞお主ら。シロとお主らには決定的な差があるのじゃ。仕方無いじゃろうて」


「決定的な差……それ即ち、美しさということでしょうか?」


「まぁそれもそうじゃの。シロは美しいというより可愛いと言うべきじゃが、少なくともお主よりは美しさを持っておるぞ、身の毛立ちよ」


「この女々しい見た目の少年が(わたくし)よりも美しい? 笑止! 私よりも美しい者などこの世には存在しない! 私こそが誰よりもエレガントでビューティフルな存在なのです!」


『美』に過敏な反応を示して立ち上がる身の毛立ち。俺の元に近付いてくると否や、目にも止まらぬ腕使いでカメラを回収された。


「いいでしょう! ならば勝負です主様! (わたくし)と貴方、どちらがより美しいか! 結果は既に分かり切っていますがね!」


「そうじゃの、確かに分かり切っとるの。シロよ、面倒を掛けてすまぬが少々付き合ってやっとくれ」


「あはは……うん、分かったよ」


 確かに結果は目に見えているが、それでこの自意識過剰妖怪が納得するならば良しだ。


「でもそれはこの昼の部が終わってからにしてくれない? 今はこっちに集中したいからさ」


「それはご安心を主様。今から行う勝負は、コンテストと並行して進行するつもりですので」


「要は同時にやるってこと?」


「その通りです。とにかく(わたくし)に付いて来てください」


 さっさと屋敷の方へと向かう身の毛立ち。俺も慌てて後を追う。


「あっ、そういえばね身の毛立ち。今さっきの光景を見てたなら知ってるだろうけど、妖狐の皆はべくわ太郎の拷問をしてる最中だから……」


「えぇ、どうやらそのようですね。なのでここは、妖狐の小娘以外の女妖怪(にょようかい)を狙うことにしましょう」


 まさかの妖狐の皆以外の撮影宣言。誰をターゲットにするつもりなんだろうか? 妖狐の皆を除外するとなると後は曲者揃いの皆だけだし、そう簡単に写真を撮れないと思うけど。


 身の毛立ちも窓から入るつもりはないようで、堂々と出入り口の玄関の方へと移動した。


 案の定見張りは誰もおらず、容易に中へと侵入する。


 それからしばらくシーンとなった屋敷内を彷徨い歩いていると、一人の女妖怪が廊下の奥から歩いて来ているのが見えた。


「あっ……弥白……と誰?」


 歩いて来ていたのは雪羅だった。しかしその表情は暗く、何処か調子が悪そうだった。


「大丈夫雪羅? 具合悪そうだけど、もしかして風邪でも引いた?」


「え? う、ううん、そんなことないよ。それに元々妖怪は風邪引かないから」


「そう? なら良いけど……気分悪くしたらすぐ俺に言ってよ? 心配し過ぎて気が気じゃなくなるから」


「……うんっ」


 雪羅の身体をくまなく調べた後でよしよしと頭を撫でてやる。するとさっきまでの暗い表情が消え去り、ふんわりと微笑んでくれた。


「それで弥白、その人は一体誰? なんか何処かで見たことがあるような……」


「ご機嫌麗しゅう、つらら女様。先日の熊風の件はお見事でした」


「熊風の件って……あぁ、あの時の変態妖怪の一人ね貴方」


 折角微笑んで柔らかい表情になっていたというのに、身の毛立ちのせいで一気に冷めた呆れ顔になってしまった。少々イラッとした。


「突然申し訳ないのですがつらら女様。私と主様の勝負の審査員になってくださいませんか?」


「審査員……?」


 よりにもよって雪羅に頼むつもりらしい。どういう勝負なのかは手に取るように想像が付くけど……これでもう勝敗が確定したことは否めない。


「審査員と言っても簡単です。私と主様、どちらがより美しいかを判断して欲しいのです。そして勝った方が貴方とツーショット写真を撮るという勝者の証を――」


「弥白は腕怪我してるから、私がカメラ持った方が良いよね?」


 身の毛立ちの話を最後まで聞かず、いつの間にか雪羅は身の毛立ちからカメラを回収していた。


 カメラを持ったまま俺の横に並び、べったりくっ付き合ったままシャッターを切る。


 デジカメだから上手く撮れないのではと思ったけど、上手いこと二人の顔が写っていた。雪羅の笑顔が目に眩しい。


 ……後でキサナに頼んで写真立てにしてもらおう。地味に雪羅と初めてのツーショットだし。


「ふふっ……綺麗に撮れたね」


「あの、つらら女様? 話を最後まで聞いて欲しいのですが……」


「え? 話はもうついたでしょ? だから弥白と写真を撮ったんだし」


「…………馬鹿な」


 今頃勝敗を知った身の毛立ち。崩れるように前から倒れ、床に両手をついた。


「負けた……? (わたくし)が……こんな女々しい少年に……?」


「雪羅さんや、まずその手に持った氷柱を置いて落ち着こうか。深呼吸して深呼吸」


 女々しいというディスりワードに反応して氷柱を出す雪羅。おかしいなぁ? この程度の悪口にはもう反応しないと思ってたんだけど。


「嘘です! 美しさで(わたくし)が負けるなどありえません! 私はこの世で最も美しいワンダフルでエクセレントな美妖怪! きっと貴女の目が腐っているに違いありません!」


(おご)りよそれは。そもそも貴方のようなブサイクが弥白と比較し合うって……全く勝負にならないわよ」


「ブサッ……イクッ……」


 これ以上にないくらい身の毛立ちの顔色が悪くなる。元々顔色は悪いけど、文字通り今の身の毛立ちは真っ青だ。


「ま、待って待って身の毛立ち。実はさ、雪羅は俺の恋人なんだよね。だからこの場合は俺を選ぶのは当然のことだから、ある意味この勝負は八百長に近いところがあるっていうか……」


「そんなの関係ありません! 仮に貴方達が愛し合っていたとしても、(わたくし)の美しさの前では愛など無力! 本来ならばつらら女様の心が私の美しさに傾き、主様を見捨てて寝取られが起こるのが必定――」


「雪羅、やっぱ好きにやっちゃってください。むしろやっちゃって」


 許可を下した瞬間、身の毛立ちの全身から氷柱が逆向きに生えるような姿と化した。血に塗れた驕り妖怪は地にひれ伏し、敗北の味を噛み締めたまま動かなくなった。


 自分に自信を待つことは良いことだけど、過度な自信は身を滅ぼすことに繋がる。俺も二の舞にならないように気を付けておこう。


「それじゃ、俺行くとこあるから。時間取らせてごめんね雪羅」


「あっ……や、弥白!」


 するりと雪羅が手に持つカメラを回収し、また出た脱落者を置き去りにしてキサナ達の元へと戻ろうとする。だが雪羅に呼び止められて、すぐに足を止めた。


「ん? どしたの雪羅?」


「えっと……その……わ、私も付いて行ってもいい……かな?」


 歯切れが悪い。それについさっきまでは柔らかい表情だったのに、また顔色が少し悪くなっているように見える。


 これは安静にさせて置いた方がいいかもしれない。それにここで雪羅を引き連れて行ってしまったら、今俺達が行ってる最低のコンテストの内容がバレてしまうことは必定。ここは上手く誤魔化しておかないと。


「あ〜……ご、ごめん雪羅。こういう言い方はあんまりしたくないけど、雪羅が一緒に来ちゃうと色々と都合が悪いというか……。それにやっぱり具合悪そうだよ雪羅? 部屋まで送っていくから、今日は安静にしてた方がいいよ」


「そ、そっか……うん、分かった……」


「ごめんね雪羅。この埋め合わせは必ずするからさ」


「い、いいよ別に気を遣わなくて。私は大丈夫だから」


 そうは見えないから気を遣ってるんだけど……とにかく今は安静にしてもらわないと。それでとっととこのコンテストにもケリをつけて、目的を達成しなくては。




〜※〜




「戻ったよ〜皆」


「今回は時間が掛かっておったの。して、身の毛立ちは?」


「べくわ太郎に続いて脱落した」


「……さっきから思うんだが、脱落者って何でっせ? この屋敷危険度高くね?」


「尻目が無駄に暴れたせいでピリピリしてるんだよ。というわけで、頑張ってね山地乳」


「あぁ……やっぱ次はオイラの番でんな……だがしかし、オイラも変態妖怪の端くれ。やるときゃやってやるで!」


 続いて山地乳がカメラを手に取る。弱気になっていたけど、自分の番だという自覚から無理矢理やる気を絞り出していた。


「なんかもう疲れちゃったから、俺ももう自分の番が来るまでここで待ってるかな」


 流石にこう立て続けにトラブルやらイベントやらに巻き込まれていたら、夜の部まで体力も精神力も持たない。体力温存のためにも、今はもう大人しく待機していよう。


「それじゃ行って来るでんな。尻目、おんしには負けんで」


「フッ……言ってろ」


 尻目と少し絡んだ後で、山地乳は単身で屋敷の方へと向かって行った。


「ギャァァァ!?」


 しかし三十秒後、戦場に向かったはずの山地乳の断末魔の叫び声が聞こえて来た。もしかしてもう妖狐の皆が戻って来たんだろうか?


 草木に身を隠しながら、屋敷の方の様子を伺ってみる。


「ウゲッ……な……何なんだで……この小狐……」


 悪運強し。山地乳は運悪くも、一番見つかってはいけないハンターに半殺しにされていた。鬼と妖狐の三姉妹の末っ子、最強の実力者であるコン子ちゃんに。


「あれは自分の悪運を呪うしかないの。哀れな奴じゃの、山地乳」


「影が薄い奴は雑に処分されるのがオチだ。己を見誤ったな、山地乳よ」


「妖怪の特徴としては十分濃い奴なんじゃがの。ほほほっ」


 コン子ちゃんに何処ぞへと引き摺られていく山地乳。ついでにカメラも回収されてしまい、二人はそのまま姿を消してしまった。


「……あ、あれ? カメラまで持ってかれちゃったよ? 後は俺だけなのにどうすればいいの?」


「不戦勝というわけにもいかないしの。悪いがシロよ、コン子から取り返して来てくれぬか?」


「その必要はない!!」


「ぬっ?」


 突如、上の方から高らかな声が聞こえて来た。俺達は示し合わせもせずに同時に上を見上げた。


「……?」


 しかし、声の主の姿は見えなかった。確かに真上の方から聞こえて来たから、木の上の方にいるんだろうと思ったんだけど……。


「鈍い。何処を見ているボンクラ共」


「うわっ!?」


 上に気を取られていたところ、今度はすぐ俺の背後から声が聞こえて来て、思わず俺はキサナの方へと飛び退いた。


「誰じゃお主? 見掛けない顔じゃな」


 キサナの隣まで移動して、そいつの姿をようやく視界に捉えた。


 見た目は人間と差して変わらない、忍装束に身を包んだ男。顔は不気味な笑顔を浮かべるデザインの仮面を被ってるため、何もかもが謎に包まれている。


 しかし、唯一見えている部分がある。気色悪い程に毛むくじゃらな手だ。まるで縮毛を圧縮して寄せ集めたような印象を受ける。はっきり言って気持ち悪い。


「き……貴様は!?」


 すると、いつも堂々たる姿勢を見せている尻目が驚きあまりに身動いでいた。どうやら顔見知りらしい。


「久し振りだな。我が永遠のライバル、尻目よ」


狸伝膏(ばけものこう)……貴様、こんなところで何をしている!?」


「ば……狸伝膏じゃと!?」


 “狸伝膏(ばけものこう)”……確かキサナの例の資料に載っていた気がする。内容は忘れちゃったけど、キサナの驚き様からこいつもハイレベルな変態妖怪だと察した。


「クククッ……随分と賑やかな祭りに興じているではないか、ボンクラ共。その祭り、ここからは拙者も混ぜてもらおうか」


「それは別に構わぬが……どうやってこの行事を嗅ぎ付けたのじゃ?」


「そんなの決まっているだろう。貴様らの性欲の気配の高ぶりを感知し、様子を見に来たのだ。するとどうだ? この拙者を差し置いて、ナンバーワンの妖怪を決定するという祭りを開いているではないか。拙者のプライドにかけて易々と見過ごすわけにはいかん。だからこうして姿を現したのだ」


 高ぶった性欲の気配を察知って……やばいこいつ、正真正銘の変態だ。変態というオーラが滲み出ているかのような腐臭まで漂って来るし。


「ねぇキサナ、この人アンモニア臭くない? このままじゃ夕飯食べられなくなりそうなんだけど」


「全くじゃの。とにかく臭くて仕方無い」


「情けないぞ貴様ら。それでも熊風とやらに抗った強者か?」


「尻目はのっぺらぼうで鼻が無いからそう言えるんだよ。嗅げば分かるよこの臭みが」


 なんだか段々と気持ち悪くなってきた。雪羅も気持ち悪くなっていたのに、俺まで体調を崩すわけにはいかない。


「申し訳ないけどさ。カメラ取られちゃったから、これ以上コンテストを続行するの無理なんだよね。だから今すぐ帰ってくれるとありがたいんだけど」


「それには及ばん。ここに別のカメラを用意してあるからな」


 と言う狸伝膏の手には、確かにカメラが握られていた。無駄に用意が良い奴だ。


「拙者もこの祭りに混ぜろ。さもなくば、貴様らボンクラ共にしばらくは解けぬ呪いを施す。シャンプーで頭を洗うといつもの三倍は毛が抜けるという呪いをな」


「正気か貴様!? 毛根に悩める中年達を何と心得る!?」


「知ったことか。それに尻目、貴様は元々ハゲだろうが」


 なんつータチの悪い技を持ってるんだこいつ。この若さで毛根に悩むことになるだなんて真っ平御免だ。十代から毛根に見限られるとか冗談じゃない。


「わ、分かったよ。分かったからさっさと写真撮ってきて。俺達はここで待ってるから」


「初めからそう言えばいいものを。あまり拙者の手を(わずら)わせるでない。うっかり呪いを出してしまうところだったぞ」


「いいからとっとと行け。だが丁度良い機会だ。貴様とは今日ここで決着をつけてやる」


「面白い。受けて立とう、尻目よ。変態キングの名を手に入れるのは他でも無い、この狸伝膏様だ! フハハハハッ!!」


「だから騒ぐな言うとるじゃろうが阿呆」


 尻目と似た自信過剰者は仮面の下でまた高笑いし、カメラを手にしたまま消えるように姿を消した。まるで見た目通りの忍びのように。


「何だか騒がしい奴が参加しちゃったね。結局あの人って何者なの?」


「……奴はな。これまで我と幾度となく勝負をし、平等に渡り合ってきた猛者なのだ。その実力は無論のこと、この我が認める程のド変態だ」


 しょうもない人だってことはよく伝わって来た。それと、今まで出会って来た変態妖怪の中で一番悪質な体臭の持ち主だったことも。


「正直俺としてはこのまま戻って来て欲しくないかなぁ……コン子ちゃんとかに見つかっちゃえばいいのに」


「いや、それは無理だ。奴は必ずこの場所に戻ってくる」


「随分とあやつのことを買っとるんじゃの。何を根拠に断言しとるのじゃ?」


「……能力だ。奴はある一定の場所に身を潜めることで、完全なるステルス能力を発揮する。一度隠れたが最後、奴自身から出て来るまで見つけることは敵わん」


 ド変態な上にステルス能力持ちって……それ割と本気でヤバくない? 変態が一番得ていけない能力得ちゃってるとか、この世の女の子達にとって害悪でしかない気がする。


「して、その能力とは何なのじゃ? 実は狸伝膏という存在は知っていても、その能力までは知らないのじゃよ」


「意外だな。貴様ほどの変態ならば知っていると思っていたが」


「……なんじゃと? お主、(わら)のことを今何と言ったのじゃ?」


 すると、キサナが珍しく静寂なる怒りを芽生えさせ、尻目をジッと睨み付けた。


「な、なんだ貴様。何故そんなに怒っている?」


「尻目。君は今、キサナのプライドに喧嘩を売る発言をしたんだよ。だからキサナは怒ってるんだよ」


「プライド……? どういうことだ?」


 分かっていないご様子。仕方無い、この際だからはっきりさせておこう。俺もキサナと同じ“同類”として、黙って見過ごすわけにはいかない。


「このままだと俺まで変態扱いされそうだから言うけどさ……俺もキサナも君達と違って変態ではないんだよ」


「……いや変態だろうどう考えても。このコンテストに参加している時点で決まりきったことだろう」


「いや違うの。(わら)とシロにとってこのコンテストはただの座興。変態の王様の肩書きなど、本当はどうでもいいのじゃよ。何故なら我達(わらたち)は……エロ――」


「待たせたな。戻ったぞ」


 わざわざそれっぽい決めポーズまでして断言しようとしていたところ、間が悪いところで狸伝膏が横入りするように戻って来た。


 ブチッとキサナのこめかみから何かが切れる音が聞こえた。


「おいコラお主……KY等という俗物が蔓延(はびこ)る時代はもう過ぎたのじゃよ。何を良いところで横槍入れてきてんじゃ戯けが。消毒液ぶっかけてそのアンモニア臭を取り払ってくれようか……?」


「何のことを言っているのかさっぱり分からんが……これだけは言わせてもらおう。この勝負、既に決着はついたとな」


 空気の読めないキャラを貫く似非忍者。完全にキサナに嫌われていることにも気付かず、自信満々なご様子でキサナにカメラを差し出した。


「……覚えとれよお主」


「おいエロ荒。一体貴様は何を言おうとしたのだ?」


「すまぬの尻目。どっかの馬鹿のせいで全て台無しにされてしまったので、次の機会にまたゆっくり話をさせとくれ」


「くっ……このKY忍者が……」


 尻目にまで邪険に思われてしまう愚物忍者。この人絶対友達少ないな。


「ふんっ……一応はルールじゃ。お主のベストショットを評価させてもらうとするかの」


「願ってもいない。既に評価は百点満点だと決まりきっているがな」


 余程自信があるようで、不安の文字など知らないと言った感じだ。


 しかしその自信が命取りになることを、この変態はまだ知らなかった。


「……んん?」


 キサナと顔を並べて奴が撮った写真を見る。そこには、“妙なもの”が写っていた。


「……何これ?」


「…………狸伝膏よ。これは何の写真じゃ」


 写真の内容を聞くキサナだが、この写真に写っている“妙なもの”の答えを既に導き出しているようだった。


 そして何故か、キサナは更に怒りの感情を剥き出しにしていた。それは俺も今すぐに知ることとなる。


 キサナが奴を殴り飛ばすまで――後一秒。


「知れたこと。無論、女の股間に決まっているだろう」


 カウントゼロ。風を切るキサナのストレートパンチが解き放たれ、狸伝膏の鳩尾(みぞおち)を確実に捉えた。


「ぐほぉっ!?」と狸伝膏は吹き飛んでいき、太い木の根元に頭から突っ込んだ。首だけ上が木に突き刺さり、身体がピクピクと痙攣を起こしていた。


「何を撮ってくるかと思えば……正気かお主? ちなみにこれは誰の◯◯◯じゃ?」


「た……確か……(とお)の尻尾を生やした妖狐だったはず……」


「よりにもよって人妻のを撮るとは何事じゃ俗物がぁ!!」


「んがぁぁぁ!?」


 キサナは世にも恐ろしい技を――男の股間に膝蹴りという一撃抹殺の禁忌を犯し、奴の意識と二つの玉を奪い取っていった。


「我がライバルながらなんと恐ろしいことを……流石の我もガチで犯罪に引っ掛かるようなことはしていないというのに……」


「いや君も大概だと思うけど……」


 そもそも全裸な時点でまずアウトだろう。それで女の子相手にケツの穴を見せびらかすんだから、犯罪以外の何物でもない。


 にしても恐ろしい奴だ。女の子の股間を撮影って……今現在の現代社会のニュースですらそんなことした人は見たことがない。常軌を逸しているとしか思えないよ。


「論外じゃの。こんなものはただのポルノ画像。エロとは全く違う別物じゃ」


 反吐を吐き捨てた後でキサナの手により、そのポルノ画像は無の彼方へと消え去った。急に現れて忙しない奴だ。


「全く……どいつもこいつも何なのじゃ! まだ尻目しかまともな写真を撮って来れてないではないか! このままじゃ(わら)は不完全燃焼じゃ! (わら)の期待を返せ! (わら)の欲求を満たせ! (わら)の性欲に只ならぬ刺激を与えるのじゃぁぁぁ!!」


 欲求不満になって寝っ転がり、幼子のようにジタバタと(もが)き出すキサナ。


 ……やれやれ。キサナの言う通り、誰も彼もが情けない。この程度で変態妖怪の名を名乗っているなんて片腹痛いわ。


「さてと……それじゃ昼の部の決着をつけようか。君もそれを望んでいるでしょ、尻目?」


「むっ……」


 ニタリと笑って尻目の顔を見る。何を思ったか、尻目はまた少し身動いでいた。


「機嫌を直してキサナ。大丈夫、俺は俺の愛するソウルフレンドの期待を裏切るようなことはしない。勝負事というのは、最後の最後でインパクトが強い展開が訪れるものだからね」


「おぉ……なんと慈悲深いことか……。期待しておるぞ、我が愛しのソウルフレンド……」


「任せておいて。キサナの溜まりに溜まった欲求はこの俺が満たしてあげるから」


 グッジョブサインをキサナに送り、俺はカメラを手に立ち上がった。


 問題無い。狙う女の子と狙うシャッターチャンスは既に模索済み。そのシャッターチャンスを作る手段も“会得済み”だし、後は実行に移すだけだ。


「それじゃパパッと終わらせてくるね」


 単身で駆け出し、屋敷の中へと一目散に向かう。


 わざわざ入り口から入るのも面倒なので、一階の開いている窓から飛び込んで侵入した。


「まずは……っと」


 “ある物”を装備した後、右手の人差し指を立てて頭の横に付け、いつもの霊力感知術を使う。指先から伝わってくる霊感は、俺の思い通りに“彼女”のモノを捉えた。


「三階ね……よーしっ」


 スタコラサッサと階段へと向かい、段飛ばしで一気に三階まで上がる。それからまた忙しなく駆け出し、すぐに“彼女”の姿を発見した。


「……あいや待たれいそこの日常アイドル!」


「にゃ?」


 そして俺は彼女――猫さんを大声張り上げて呼び止めた。


 そして誤算にも、俺は知っていた。猫さんの傍にいたもう一人の存在を。


「……? 誰でしょうか?」


 猫さんには親友が存在する。その人物とは他でも無い。俺が今最も面識を控えるべき存在である二人目の日常系アイドル、桜華だ。


 この時間帯だと、基本二人は常に行動を共にしている。故に形勢は明らかに不利だろう。しかしそれでも俺は、逃げるわけにはいかないのだ。傷付かれないようにあの人から嫌われるためにも。


 桜華は俺を「誰?」と言った。それもそのはず、ついさっきに俺は“狐のお面”を装備したのだ。桜華と猫さんに正体がバレないようにするために。


 というのも、変態妖怪の皆は捕まるという危険性を考えてこの屋敷に潜入していたんだ。ならば俺もそれに習って、自分という存在を隠して挑むのが筋だろう。それが正々堂々と戦うということなのだから。


「悪いがそこの可愛い可愛い猫又娘! 今から君に勝負を挑ませてもらう!」


「……(にゃに)してるのシロ君」


「…………」


 声質もわざと変えておくべきでした。はいはい、どうせ俺は馬鹿ですよ。


 俺は静かに仮面を懐にしまい込み、改めて歌舞伎のようなポーズを取った。


「悪いがそこの可愛い可愛い猫又娘! 今から君に勝負を挑ませてもらう!」


「あっ、弥白様! 弥白様だったんですね!」


 俺の正体を知ると否や、凄く良い笑顔を浮かべた桜華が小走りして駆け寄ってきた。


「あいや待たれいそこの鬼娘! 今の俺は弥白等という(やから)ではない! 俺は弥白の第二の人格者! その名もお狐仮面様だ!」


「えっと……という設定なんですか?」


「設定ちゃいます! 俺は正真正銘お狐仮面! お祭り騒ぎに現れる神出鬼没の神様よ!」


「はいはいもう茶番はいいから。で、(にゃん)の用にゃのよ?」


「…………」


 酷い……酷いよ二人共……俺なりに頑張って演技してたのに、冷静な対応のせいで全部台無しだよ!


 こうなったらもうヤケクソだ! 問答無用でシャッターチャンスを導かせてもらう!


 親指の皮を噛んで微量の血を流し出し、一雫の血液を床に垂らした。


 さぁ見せてしんぜよう! ここに来てから密かに行なっていた修行の成果を!


「奥の手・口寄せの術!!」


 血液が落ちたところに右の手のひらを思い切り叩き付けて霊力を込める。すると同時に、叩き付けた床の部分から辺りを包み込む煙幕が発生した。


「にゃ、何々(にゃににゃに)!? (にゃに)が起こってるの!?」


「や、弥白様ぁ〜!?」


 突然の煙幕によって慌てふためく二人の可愛らしい乙女。その隙も利用させてもらう!


「ほぅ……まさか本当に会得してしまうとはな。古より伝わりし外道魔法、神羅転生の術。それでこそ我が宿敵よ」


「久し振り親友! 急なことで悪いけど、ちょっと俺の頼みを聞いてくれるかな!?」


 口寄せにより、元実家メンバーの一人である俺の親友、眼帯が特徴的な小僧狸のタヌっちを呼び寄せた。


 そう、これが俺の新しき秘術。実は子供の頃にタヌっちからレクチャーしてもらっていた技であり、つい最近集中的に修行して身に付けた秘伝の奥義だ。


 と言っても、口寄せできるのは契約を交わしたタヌっちのみ。他の妖怪の誰かを呼び寄せることはできなかったりする。


 ただ今は、タヌっちだけがいてくれるだけで十分だ。


「ほら、あそこに猫又さんが見えるでしょ!? あの子に突風を送って欲しいんだ! タヌっちって風の術みたいなのも使えるんでしょ!?」


「無論だ。良いだろう、今は貴様の力になってやる。神羅転生の術を会得した褒美と思え!」


 実は口寄せによって召喚されることに憧れていたタヌっち。その瞳の奥はキラキラと輝いていて、今までで一番意気揚々とした良い表情になっていた。


 徐々に煙が晴れていく中、タヌっちは未だ煙に気を取られている猫さんをロックオン。すぐさま印のようなものを結び始めた。


 俺は勢い良く猫さんの元へと駆け出し――通り過ぎた。


「その昔、風神の悪化と恐れられた古代より伝わりし化身の秘術! くらえ! 烈空真空波(れっくうしんくうは)!!」


 印を結び終えたタヌっちが両手を伸ばし、それなりに強いそよ風がふわりと猫さんを襲った。


「キャッ!?」


 直後、猫さんのミニスカートのような裾がふわりと上に上がり、猫さんは顔を赤らめてすぐに裾を支えた。


「もらったぁ!!」


 全ては俺の想像通りに事が運ばれ、猫さんの後ろに回り込んでいた俺はシャッターを切った。


 刹那的な空間の中、撮った写真を確認する。完璧だ。上手く撮れるか不安だったけど、決定打となる“それ”は確かに撮影できていた。


「ありがとタヌっち! 解っ!」


「いやぁ!? ま、またぁ!?」


 右手を振って霊力を解き、タヌっちの姿は煙幕となって再び元の場所へと帰って行った。そうして再び発生した煙幕を上手く利用し、俺は二人の元から離れて行った。




〜※〜




「どうもどうも。無事撮影できましたよ」


「……妙に騒がしい声が聞こえていたな。小僧、貴様一体何をしていた?」


「勿論、撮影してたに決まってるじゃん。ほらキサナ。ご要望の写真を撮って来たよ」


「ぬっ?……おぉシロよ! さぁ早く(わら)の期待の写真を見せとくれ!」


 皆の元に戻って来たところ、キサナはすっかり不貞腐れてしまっていた。しかし俺がやって来たところですぐに起き上がり、スライムの如く俺の背中に纏わり付いてきた。


「ほら、これだよ」


 そうして俺は、ついさっき撮って来た写真を二人に見せた。


 そしてコンマ一秒後、キサナは勢い良く鼻血を吐き出して仰向けに倒れ込んだ。


「……こ……これは……まさか!?」


 のっぺらぼうの尻目ですら顔を赤くし、無い鼻を押さえてぷるぷると震え出す。


「そう……君達は何も分かっていなかったんだよ。キサナが求めるエロい写真とは、一体どういうものなのかを!」


 エロい写真とは即ち、おっぱいやら◯◯◯やらを激写したものだけが全てではない。むしろ、俺が撮って来たこの写真に真のエロスが含まれていると断言する。


 俺が撮ったのは、ミニスカートのような裾がめくれて、顔を赤くして恥じらっている猫さんの表情が写った後ろ姿の写真。しかしその裾の中に潜みしおパンティは、ギリギリのところで見えていない。


 決してミスをしたわけではない。むしろ、それを狙って俺はシャッターを切った。全ては、この写真を見るものの“とある想像力”を刺激するためだ。


 写真とは、一定の角度からローアングルでスカート姿の女の子を撮影することにより、謎の原理が発生する。その名も、『下着を履いていないように見える』という未知の技術である。


 猫さんは間違いなく下着を履いているはず。しかし俺が撮ったこの写真は不思議なことに、あたかも猫さんがノーパンであるかのように見えているのだ。


 更に畳み掛けて、猫さんのこの恥じらった表情だ。エロスを心に刻んでいる男ならば、誰もが性欲を高ぶらせるであろうこの表情。エロと可愛さを二重に備えた猫さんのこの顔は、二人の性欲に十分な刺激を与えた。


 撮影技術と猫さんの可愛さとエロさを利用したベストショット。俺の成せる技を全て駆使した、伝説の猫さん写真だ。


「勝負あり! 昼の部の優勝者は……シロ!!」


「ば……馬鹿な……この俺が二度も負けを味わうだと……?」


 キサナの勝利宣言により、崩れ落ちる尻目。俺はカメラを持った右腕を天へと掲げ、不敵に笑うのだった。






 ――ちなみにこの後、キサナと一緒にみっちり猫さんに説教されましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ