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天下一変態妖怪コンテスト『昼の部』 前編

 俺は今、激しく迷走していた。


 世の中には都市伝説の一つとして、本当か否か解明していない『モテ期』というステータスが存在する。そのステータスを身に付けたものは、大勢の異性から言い寄られ、持ち上げられ、キャーキャー言われるんだとか。


 但し、基本的にそのステータスを持つ者は、外見がイケメンでなければならないという前提条件がある。


 顔なんてこの世に生まれた瞬間に決まっているもの。故に、イケメンという顔を持つ者と持たない者が当然の如く存在する。なんて不合理で、不条理で、理不尽な自然の摂理なんだろうか。


 ちなみに、俺は別にイケメンというわけではない。かと言ってブサイクというわけでもない。ただ唯一の特徴的として、中性的な童顔だと例の扱き使い魔から言われていた。


 故に俺は、『モテ期』という潜在的ステータスを持たざる者としてこの世に生誕した――と、思い込んでいた。


 現に俺は全然モテない。というか、モテるモテない以前に霊感体質のせいで毛嫌いされているので、友達の一人すらいない状態だ。だからこそ余計にモテるわけがないと思っていた。


 しかし……しかしだ。人間相手に毛程もモテない俺であったが……その相手が妖怪となると、話が大きく変わってしまうステータスの持ち主だったらしい。


 正真正銘の俺の恋人、つらら女の雪羅。女優顔負けの可憐な容姿を持ち、気が強くて頑固な部分がある彼女ではあるが、可愛らしい女の子の部分もちゃんと備えた良き乙女。たまに憎まれ口を叩き合ったりするけれど、それは俺達の信頼の証でもある。


 雪羅に告白したあの日から、心の底から甘えられる女の子は彼女しかいないと思っていた。雪羅さえ側にいれば、俺はもう誰からもモテなくて良いと。俺は雪羅といられる現状に満足していた。


 だがそんな時だった。俺が雪羅という恋人がいることを知っていても尚、俺に告白してきた女の子が現れた。あの伝説の鬼、茨城童子こと桜華さんだ。


 雪羅を美人系の女の子と称すなら、桜華さんは可愛い系の女の子。礼儀正しく、気立てが良く、ドジでポンコツなところがたまに傷だけど、その欠点すら可愛さに引き立ててしまう頑張り屋の鬼っ子。最近は俺を弥白様と呼ぶようになり、人懐っこく慕ってくれている良心的な乙女だ。


 そんな彼女が……そんな魅力に溢れる彼女が……俺のことを好きだと言ってきた。雪羅の目の前でありながらも、自分の気持ちに正直になり、その想いを打ち明けたのだ。相当の勇気を持たない限り、そんなことはまずできないだろう。


 正直なことを言えば、告白されたことに関しては滅茶苦茶嬉しい。可愛い女の子から告白されることは人生初だったし、むしろこれで喜ばない方が男としてどうかしている。


 ただ……何度も言っているが、俺には既に雪羅という恋人がいる。だからこそ俺は、あの時に堂々と断るべきだった。「俺には雪羅がいるから……」と。


 でも……できなかった。頭じゃ駄目だと分かっていたのに、桜華さんの純粋な想いを跳ね除けることができなかった。チキン野郎だと心の底から思う。


 テンパりまくったチキン野郎は告白された場面から逃げ出してしまい、その返事を有耶無耶にしてしまった。本当はすぐにでも返事を返すべきなのに、断った時の桜華さんの顔を想像するだけでもう……罪悪感というストレスで死にそうになる。


 だから俺は考えた。俺の口から解答せずとも解決できる、逃げの一手を。クソ野郎だと自覚しているが、それで桜華さんが傷付かずに済むなら全然マシだ。


 で、その肝心の一手の内容だが……話はとても簡単だ。


 俺は惚れるべき対象ではないと、俺の醜い部分をわざと披露する。そうすることで、桜華さんの初恋の熱を冷まさせる。それなら桜華さんの恋心に傷付くことはないし、俺という人間の感性が疑われるだけだ。嫌われるようなことは慣れっこだし、何も問題はない……と思う。


 そして次に考えたのが、その一手の具体的内容。真意は伝えていないが、この問題に関してはキサナという協力者を得て、模索することに成功した。


 そして今――俺はキサナと共に外に出て、とある場所へと向かっていた。俺は黒い服とサングラス、キサナは黒い和服とサングラスを身に付けて。


「首尾は?」


「うむ、メンバーは既に(わら)が招集済みじゃ」


「尾行は……大丈夫だよね?」


「無論じゃ。他の者達は鬼屋敷か狐屋敷におる。神出鬼没のコン子の確認もしておるし、追っ手の心配は無用じゃ」


 気配を殺し、いつ誰に見つかっても隠れられるようにゆっくりと移動する。目的地は屋敷からほとんど離れていない林の中の木の影だ。


「…………来たな、司会者。待っていたぞ」


 そう時間を掛けずに到着すると、キサナの言う通り首尾は万全。既にメンバーは意気揚々とした様子で勢揃いしていた。


 オッケルイペとのハーフであるレア変態妖怪、尻目。食いしん坊のおデブな裸体変態妖怪、べくわ太郎。クチバシのような尖った口の猿モドキ変態妖怪、山地乳。ぱっちりした目にタコのような唇のナルシスト変態妖怪、身の毛立ち。ご覧の通り、変態妖怪のオンパレードだ。


「今日はよく集まってくれたの皆の衆。始める前に軽く意気込みを聞いておこうか」


「フッ……こんな機会は滅多にないからな。公式の場である以上、一切手を抜くつもりはない。貴様らも覚悟しておけ」


「尻目の旦那。一応これ非公式でっせ。下手すりゃオイラ達全員一網打尽だで」


「決行前に臆しましたか山地乳? そういう時はこの美しい(わたくし)のプロポーションをご覧なさい。(わたくし)の美貌はリラックス効果を生むのです」


「身の毛立ちどん……その自身は一体何処から来るだすか? おいどんの記憶によれば、身の毛立ちどんは引かれているところしか見たことないような……」


 前に出会った時と変わらず、皆はいつも通りだった。特にべくわ太郎なんて熊風に真紅の肉塊にされていたのに、今じゃ傷一つ残さずにピンピンしている。妖怪の再生能力って羨ましい。


「それより主どん。左腕の具合はどうだすか?」


「しばらく安静にしてたから着実に治りつつあるよ。心配してくれてありがとね」


「いえいえ。おいどんにとって主どんは戦友だすからな。早く治ってくれることを祈るばかりだす」


 実は気の良い奴だったべくわ太郎。初対面の際にスタンガンをぶっ放した時は本当に申し訳なかった。俺を恨んでいないのがせめてもの救いか。


「さてと……それじゃ、そろそろ始めよっか……」


 こくりと頷く一同。俺も頷き返し、ニヤリと不敵に笑った。


「それでは……今ここに、天下一変態妖怪コンテストを開催します」


「「「イェエェェェ!!」」」


「叫ぶでない戯け者共。見つかったら即終了なのじゃぞ」


 開会宣言した天下一変態妖怪コンテスト。そう、これが桜華さんに幻滅される方法だ。


 その内容は至ってシンプル。これから俺は、変態妖怪達に習って変態行為に近しいことを平気な顔で行う。そして全てが終わった後で、「いやぁ、実はこんなことしてたんだよね〜」とさり気無い形で桜華さんに洗いざらい話をする。


 そして全てを聞き終えた後で、桜華さんは言うわけだ。「弥白様……そんなことをする人だったんですね。ぶっちゃけキモいです……」と。


 キモいとまでは言わないかもしれないけど、辛辣な言葉を思わずポロリするのは必定。桜華さんの恋心は一瞬で冷め、俺が一方的に嫌われて万々歳。これにて一件落着って流れだ。


「う゛っ…………」


「ぬっ? 何事じゃシロ? 大丈夫かの?」


「だ、大丈夫……俺は元気だよ……」


 俺はこれから桜華さんに嫌われる行為をする。行為自体は全然問題ないんだけど、問題なのは桜華さんに嫌われる瞬間だ。


 桜華さんに出会った時から今日にかけて、俺はかなり桜華さんと仲良くなったと自負している。桜華さんも俺の名前を呼んでくれるようになったし、俺もまたちゃんと本人から許可を貰って最終的に“桜華”と呼ぶようになった。


 しかしその積み立てられた絆に亀裂が生じることになると思うと、心にぐさりと来るものがある。でも状況が状況だ。背に腹は変えられない。だったら俺は、自分の血肉を噛み締める思いで堪えてみせよう。


「はい、それでは今コンテストの詳細を説明します。まず、このコンテストは昼の部と夜の部に分かれて二回行われます。それぞれ種目は一つだけ。その二つの種目にて好成績を叩き出した者が優勝者となり、ベスト変態妖怪大賞の証を献上させていただきます」


「ちなみに審査員は(わら)一人じゃ。(わら)の性欲が満たされるよう、奮闘するのじゃぞお主ら」


「ほぅ……つまり、主の小僧も参加する形というわけか」


「それはまた興味深いですね。(わたくし)は主様も審査員だと思っていましたが……ライバルの一人になると言うのであれば、この美しさにかけて打倒してみせましょう」


「ウケケッ……いつかの借りを返させてもらいまっせ主小僧。あの雷の件、忘れたとは言わせないでんな」


 あれは俺じゃなくて建御雷神(おやっさん)がやったことなんだけどなぁ。でも俺が呼んでたんだし、俺が主犯格と思われてもおかしくないか。


 やる気満々な皆ではあるが、今回の俺は皆以上に闘志を燃やしていると自負している。ここで優勝してこそ、俺は真に軽蔑される対象となるのだから。俺に敗北の文字は許されないってね。


「では、ここからは(わら)一人に仕切らせてもらうとしようかの。それでは早速……昼の部の種目はズバリ、これじゃ!」


 キサナが懐から折り畳まれた紙を取り出し、意気揚々とした面立ちでそれを広げた。


『エクセレント撮影技能対決』


「「「……撮影?」」」


 声を揃えて皆が首を傾げる。


 肝心のコンテストの内容はキサナが一人で考えていたもののため、俺はその内容を全く知らされていない。参加者だから当然の配慮だけど。


 だが、俺はキサナにとって唯一無二のソウルフレンド。そのタイトルを見ただけで、全てを察することができた。


「まずルールを説明するが……と言っても内容はシンプルじゃ。お主らが女子(おなご)のベストショット写真を撮影し、それを(わら)が採点する。つまり、その採点にて出された点数がそのままポイントとなるわけじゃ」


「ほぅ……ちなみにその女子(おなご)というのは、あの屋敷に住む者達のことを示しているのだな?」


「無論じゃ。ちなみに撮影手段は一切問わぬ。己の持てる力全てを駆使し、ベストショットを撮るのじゃ」


「ただし……」と続けるキサナ。


「カメラのシャッターを切れる回数はたったの一度のみ。つまり一度失敗すれば終わりであり、採点できる写真も一枚限りというわけじゃ」


「い、一度きりだすか? それはまたハードだすなぁ……」


 一発限りのシャッターチャンス……つまりこれは技能だけではなく、外せば負けというプレッシャーにも打ち勝たなければいけない。技能とメンタルが勝負の鍵を握っているわけだ。


 面白い……流石はキサナだ。久し振りに感じるこの緊迫感。良い感じに高ぶってきましたよこれ。


「カメラはこれ一台しか持ち合わせがないため、撮影に行くのは順番じゃ。早速始めたいと思うのじゃが……誰から行くかの?」


 最初は一応様子見したいので、できればトップバッターは避けたいところだ。しかしその心配は杞憂だった。


「フッ……よし、ならば最初は我が行こう。トップで高得点を取り、ベスト変態妖怪大賞の座は我が頂戴させてもらおう!」


 自分から挙手して名乗りを上げたのは、ケツの穴に目を持つ男。自ら負けフラグを出していることにも気付いていない、愚かな屁こき妖怪だった。


「ふむ、ならば尻目から始めさせてもらうとしようかの。では、昼の部開始じゃ!」


 昼の部開始宣言と共に、尻目はカメラを受け取って駆け出した。行き先は無論、女の子の魔窟である狐屋敷だ。


「……む? 何故貴様も付いて来ている小僧」


「いや、こういうのは写真を撮るところを見るのも重要だと思ってさ。皆がどんな風に写真を撮るつもりなのか気になるし」


「フンッ……まぁいい。我の邪魔をしなければな」


「しないしない。これは真剣勝負なんだから。正々堂々と戦わないとね」


 というわけで、俺も撮影者の付き添いとして同行することに。見せてもらおうじゃないか。変態妖怪の意地ってやつを。


 相変わらず無駄のない動きで移動する尻目。正面からではなく、一階の窓から飛び込んで侵入した。


 俺も後から続いて中に入る。幸い、入ってすぐに誰かとエンカウントすることはなく、難無く侵入に成功していた。


「まずは気配を隠さなくてはな……とうっ!」


 尻目は跳躍し、天井裏に張り付いた。動く気がないようで、ここに女の子がやって来るまで待ち伏せするつもりらしい。


 待っている間は特にすることもないから退屈だ……と思い掛けた矢先、廊下の向こう側から一人の妖狐が歩いて来ているのが見えた。


 次第にこっちの方に近付いて来たところで俺の存在に気付き、妖狐の女の子はニコッと笑ってお辞儀をしてきた。


「こんにちは主様。お一人で珍しいですね?」


「そうかな? 俺って結構一人でいることも多いよ? たまには一人で気長に過ごしたい時もあるからね」


「へぇ、そうなんですか。ちなみに一人でお過ごしになる時は、どういうことをしているんですか?」


「う〜ん、そうだなぁ……」


 談笑する中で俺は質問され、首を傾げて唸りながら考え込む。


 そしてその刹那、奴は動いた。


「もらったぞ!」


「え? 何――キャアッ!?」


 物音を立てないように上手いこと床に着地した瞬間、手の平を妖狐の下半身に向けて突き付けた。直後に例のオナラが勢い良く噴出され、滅茶苦茶臭い腐臭の風が巻き起こった。


 史上最悪の風は妖狐の袴を捲り上げ、後ろから見れば下着丸出しの姿に。尻目はその隙を逃さず、妖狐の背後に回ってシャッターを切った。


「フッハッハッ! 愚かなり妖狐の小娘! 貴様の赤裸々な写真は頂いて行くぞ!」


「し、侵入者〜! 変態妖怪の侵入者よ〜!」


 尻目は怪盗の如く窓から姿を消した。色んな意味で侮れないなあの人。あれの直撃受けてよく生き残れたなぁ俺。


 ……というか、まさかと思うがあいつ……最初に撮影者を切り出したのは“これ”が狙いだったのか? だとしたら、これで戦況は大きく覆ることになるかもしれない。


 この先の戦いに懸念を抱きつつ、俺も尻目が出て行った窓から飛び出して外に出た。少し先に尻目の逃げる姿があり、俺もその後を追った。


 そして俺達は、さっきの待機場所へと戻って来た。


「早いの。あまり手間が掛からなかったと見受けるが」


「当然だ。この程度、我にとっては造作もない」


「ふむ、どれどれ?」


 自信満々な尻目。写真もばっちり撮れていたようで、撮った画面を出したままキサナにカメラを引き渡した。


「…………ほぅ」


 俺もキサナの横に並んで画面を覗く。そこには、袴を捲り上げられて黒いパンティを曝け出した妖狐の姿があった。


 ポタポタとキサナが少量の鼻血を流し出した。聞くまでもなく、黒下着に目を奪われたのだろう。大人びた容姿の人だったし、下着のセンスが見事マッチしていたことがよりエロさを引き出していた。


「そうじゃの……七十点と言ったところか」


「何?」


 想像していた点数よりも低かったのか、尻目は不服そうに尻のシワを寄せた。……どんな芸当だ。


「何故これが七十点なのだ。納得いかんな」


「確かにこれは見事なパンチラ写真じゃ。しかし、(わら)にとってこんなものは二流か三流の写真に過ぎぬ。本来ならばもう少し点数が低いところじゃが、この妖狐の下着センスにグッときたので下駄を履かせたのじゃ。むしろこの妖狐に感謝しておくことじゃ」


「……なるほどな。どういう写真が貴様にとって点数が高いのか、その具体例は口外しないというルールというわけか」


 つまり、俺達はヒント無しでキサナが求める写真を撮って来なくてはならないわけだ。尻目のせいでリスクが増えたこの状況下で。


「だがまぁ良い。この勝負、既にもらったようなものだからな」


 やはり故意だったのか、勝利を確信している尻目。皆は疑惑の眼差しを受けるも、その瞳に宿る対抗心は衰えることがなかった。


「それじゃ次はおいどんが行くだす。頑張るだすよ」


 次に名乗りを上げたのはべくわ太郎。カメラを受け取り、のそのそとのんびりした歩みで屋敷へと向かった。無論、俺も後に続いている。


「……ん? なんだか屋敷内が騒がしいだすな?」


「……べくちゃん。悪いこと言わないから、今回は諦めた方がいいと思う」


「んん? 主どん、それは一体どういう――」


「いたわ! 更なる侵入者発見よ!」


 べくわ太郎は身体が大きいため、屋敷に侵入するには正面以外に手立てはない。しかしその手段とは関係なく、正面玄関に辿り着く前にその声は周囲に響き渡った。


 小窓から一人の妖狐が顔を覗かせて叫び上げた瞬間、次々と大勢の妖狐が窓から外にロープを放り投げると、そのロープを駆使して一斉に外に出て来た。


 その光景はまるで統率された軍隊。さりげなく武装もしていて、各々腰や背中に剣や槍を装備していた。


「奴を包囲せよ! 絶対に取り逃がしちゃ駄目よ!」


「な、なんだすかなんだすか!?」


 動きの鈍いべくわ太郎はあっという間に取り囲まれてしまい、剣先、槍先を突き付けられて包囲された。戦国時代の戦ならば完全にチェックメイトだ。


「なんでだすか!? なんでおいどんが来ることにいち早く気付けただすか!?」


 戸惑うのも無理はない。全てはあの尻目のせいなのだから。


 そう、これは奴の策略だ。一番不利と言えるトップバッターを名乗り出たのは、この状況を作るためにあった。


 わざと騒ぎが大きくなるような方法で妖狐に襲撃を仕掛け、屋敷の警戒度を刺激する。そうすることで、後の撮影者達の撮影難易度を飛躍的に上昇させたというわけだ。


 奴は身体の至るところから驚異の威力を誇る屁を放出することができる。騒ぎを起こすことに適した能力だ。俺達は、馬鹿そうに見えて計算高い奴の思考を少々侮っていたみたいだ。


 さてどうするべくわ太郎……と言いたいところだが、べくわ太郎にはスタンガンでの借りがある。ここは一つ、敵に塩を送らせてもらうとしよう。


(べくちゃんべくちゃん。俺の話をよく聞いて)


(なんだすか主どん!? このままじゃおいどんは……)


(そうだね、十中八九リンチに合うことになるね。だからそうならないために――)


(…………えっ!? で、でも主どん! それは流石に主どんに悪い気が……)


(でも串刺しにされるよりはマシでしょ。俺のことはいいから、上手く利用してみて)


(くっ……背に腹はかえられないだすね。感謝するだす、主どん!)


 べくわ太郎の傍に寄ったままの会話を取り止める。そして決断を下したべくわ太郎は、俺の策に乗った。


「全員動くなだす!」


 すぐ傍にいた俺の首を脇に挟めて拘束する。そうしてべくわ太郎は、人質にとなった俺を皆に見せつけた。


「絶対に動いちゃ駄目だす! もし妙な動きを少しでも見せたら……主どんの首をへし折るだす!」


「くっ!? 卑怯なことを!」


 元々濃い顔をしているため、迫真の演技も合わさって今のべくわ太郎は犯罪者以外の何者でもなかった。


「主様を離しなさい! その人に何かあったら……私達が玉様に何をされるか……」


「それにコン子様や姉様、桜華様にも何をされるか分かったものじゃないわ!」


「即刻主様を解放しなさい! 死ぬわよ! お互いにっ!」


 ……一気に罪悪感が高ぶってきた。実は桜華さんを元気付けたことで、玉さんから絶大に好かれるようになったんだよなぁ。そのことに関しては全く悪い気はしないし、むしろ嬉しいことではあるんだけど……この場合は話が変わっちゃうよ。


「黙れぇ! お前どんらの事情なんておいどんには関係ないだす! さぁ、主どんを無事に引き渡した欲しければその武器を捨てるだす!」


 より磨きがかったべくわ太郎の演技に気圧され、妖狐の皆は手に握る武器を地面に置いた。


「よし……お前どん! 今からおいどんの言うことをよく聞くだす!」


 一人の妖狐に指を指すべくわ太郎。その妖狐は表情を歪ませた。


「くっ……一体何を要求するつもりよ?」


「それは……い、今お前どんが着ている巫女服の胸元を少しだけ露出させるだす! 谷間が少しだけ見える範囲でいいだす!」


「な、何を言ってるのよ変態! 変態の前でそんなことしたくないわよ!」


「だったら主どんの首をへし折るだけだす! さぁ、どうするだすか!?」


 命令に若干の照れが混じっていたが、コンテスト的には良い判断だ。それに「おっぱいを見せろ! 揉ませろ!」ではなく、「胸の谷間を出せ!」というところで止まらせるのは、べくわ太郎の良心が判断したんだろうか。


 ……いや、違った。この人、単にチキンなだけだ。今気付いたけどめっちゃ膝ガクガクしてるし。膝だけ不思議なダンス踊っちゃってるし。


「さぁ早くするだす! 後五秒以内に言うことを聞かなかったら、このまま主どんの首を……」


「わ、分かった! 分かったわよ! だから主様には手を出すんじゃないわよ!」


「分かればいいだす。ぐひひひひっ……」


 ……涙目になってる。向こうも涙目になってるし。何この状況? 罪悪感で押しつぶされて死にそうなんだけど俺。


 命令された妖狐は屈辱感を漂わせる表情を浮かべながら、上半身を少しだけはだけさせて胸の谷間を露出させる――


「はいは〜い、ちょっと待ったそこの悪代官〜」


 と、この場にいる誰もが思った瞬間だった。最上階の窓から一人の妖狐――いや、九尾が飛び降りて来たのは。


「お、お前どんは……」


 遅れたヒーローのように現れたのは、妖狐の皆の統率役を担っている妖狐のリーダー九ちゃんだった。


「一応この子達は私の部下だからさぁ〜? こういう時は、私が一役買って出ないといけないんだよね〜。というわけで、谷間の露出はこのお姉さんで勘弁してもらいましょっか〜」


「あ、姉様ぁ〜……」


 部下のために身体を張る。そう宣言した九ちゃんはとても勇ましく、男らしく、格好良く見えた。


 気さくな性格で部下想い。これには妖狐の皆も感激の嵐で、命令されていた妖狐なんて九ちゃんに熱を込めた眼差しを送っていた。女の子が女の子に惚れる瞬間を初めて見た気がした。


「あっ……あぁっ……」


「うん? ど〜したのさ〜変態君? まさかお姉さんの谷間じゃ不満があるとでも?」


 べくわ太郎は、九ちゃんの胸の谷間を見て騒然としていた。


 九ちゃんの最も尖った特徴的部位。それは他でもない、他の妖狐よりも圧倒的にダイナマイツなバスト。巫女服の胸元から零れ落ちそうな現代兵器は、老若男女問わずに見るもの全てを常に威圧し、異性限定で性欲を強烈に刺激していた。


 見る見るうちに顔を赤くさせていくべくわ太郎。やがて顔の熱はオーバーヒートを起こし、鼻血を吹き上げて地にひれ伏した。


「ありゃりゃ、チキン君にはちと刺激が強過ぎたのかなぁ〜?」


「痴女を思わせる色気とビッチ臭に溢れたその身体付き! 流石です姉様!」


「にゃっはは〜……褒めてるのそれ? (けな)してないそれ?」


「そ、そんなことないですよ。とにかく助かりました姉様」


 ホント、流石だ九ちゃん。大胆に露出された胸の谷間だけで相手を気絶させるだなんて、これが色欲色(しきよくしょく)の覇気ってやつなのかもしれない。末恐ろしい女の子ですこと。


「んじゃ、一応その変態君は処分しといて〜」


「分かりました。皆、拷問部屋に連れて行くわよ。運ぶの手伝って」


 俺は瞬時にべくわ太郎が手に持つカメラを回収した。そうしてべくわ太郎は数人の妖狐達に担ぎ上げられて運ばれて行った。


 脱落者、一名。ごめんよべくわ太郎。俺じゃ力になり切れなかったよ。


「……ねぇ白君(びゃっくん)


「ヒョォ!?」


 べくわ太郎が運ばれて行くところをジッと見ていると、不意に耳元に吐息が当たる距離で九ちゃんに囁かれた。我ながら凄い声出たな今。


「ひと〜つだけ聞きたいことがあるんだけどさぁ〜。白君(びゃっくん)、なんでわざとあの変態君に捕まってたのかなぁ〜?」


「……はて、何のことかさっぱり?」


 バレてらぁ。何かと鋭いんだよねぇ九ちゃんって。というか声付きエロいわぁ。背筋ぞくぞくしてきた。


「ま、大事無かったから良いんだけどね〜。でも悪戯は程々に……ねっ」


 そうして九ちゃんはニコッと笑い、俺の耳にキスをしてきた。


 ……敵わないなあ。


「にゃっはは〜、少し顔赤くなってるよ〜白君(びゃっくん)?」


「……年上の女性からのキスは男にとって恐悦至極なので」


「そかそか〜。なら、これで私は桜ちゃんよりも一歩リードしたかなぁ〜?」


「勘弁してください九ちゃんっ!」


「にゃっはは〜、や〜だよ〜」


 九ちゃんはからからと笑いながら後ろ手に手を振り、陽気な気分になりながら屋敷の中へと去って行った。あの人ばかりは冗談なのか本気なのか、何もかもが予測付けられないなぁ。


 耳に残るキスの感触に浸りながら、キサナの元へと戻って行く。


「「…………チッ」」


 戻った矢先、尻目と山地乳に舌打ちされる俺だった。

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