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女妖怪vs変態妖怪の宴 前編

 夏の終わりが近い九月下旬。日取りの良い天候の元、老婆達が農作業に勤しんでいる人気の少ない田舎村。そこに、藁帽子を被った一人の少女が訪れていた。


「あ、あの……ちょっと聞きたいことがあるのですが……お時間を少しだけ頂けないでしょうか……?」


 たどたどした様子で畑に佇むお婆さんに声を掛ける少女。声を掛けられたことに気が付いたお婆さんは一旦農作業を中止すると、朗らかな笑顔を浮かべながら少女の元に歩み寄った。


「おやおや、見掛けない顔だねお嬢ちゃん。もしかして遠くの方からいらっしゃったのかい?」


「は、はい。そんなところです……」


「そうかいそうかい、長旅ご苦労様だったねぇ」


 お婆さんが草むらに腰を下ろして空を見上げる。釣られて少女もすぐ隣に座って一息をついた。


「この辺は良い気候だろう? 何より空気が都会と違って澄んでいるからねぇ」


「そう……ですね。私もこの地域は好きです。とても静かで不思議と安らぎを感じますから」


 少女は日差しを浴びて宝石のように輝く銀髪の長髪を靡かせ、藁帽子を少し上に傾けて空を仰ぐ。そして何かに想いを馳せるよう、静かに目を細めた。


「それにしても、べっぴんさんだねぇお嬢ちゃん。もしかしたら私が今まで見てきた人の中で一番綺麗な人かもしれないねぇ」


「あ、ありがとうございます。でも私にお世辞なんて……」


「ふふふっ、謙虚なお人だねぇ。それで、聞きたいことというのは何だい?」


「あっ、はい。えっと……鼠色の短髪に、物腰が柔らかそうな雰囲気の若い男の子がこの辺に住んでいるはずなんですけど、聞き覚えがあるでしょうかお婆さん?」


「鼠色の短髪……あ~、きっとそれは猫好きの坊やのことだねぇ」


「猫好きの坊や……ですか」


 少女が口に手を当ててくすりと笑う。


「もしかしてその坊やに会いに来たのかい? だとしたら少し間が悪かったねぇ。実は坊やは数ヵ月前にここから引っ越しちゃったのよ」


「えぇ!? ひ、引っ越しちゃったんですか!? そ、それって何処か分かりますか!?」


 ぎょっとして間の抜けた顔になり、これでもかというくらいに取り乱す少女。綺麗な顔に似合わない反応に、お婆さんは思わずからからと笑った。


「あぁそんな慌てなくても大丈夫だよ。引っ越したと言っても、ここからそう遠くない歩いて行ける場所に住んでいるらしいからねぇ」


「そ、そうですか……びっくりしたぁ……」


 ほっと息をついて胸を撫で下ろす少女。


「今までは義理の親御さんと一緒に住んでいたんだけど、今年の春に一人暮らしをしたいと言い出したみたいでねぇ。それで今は離れの方で自由に暮らしているらしいのよ。でも離れにある家なんて、使われなくなった古いボロい屋敷くらいしかないし、まさかあそこで暮らしてるとは思えないんだけど……誰も確かめに行っていないから、今はどうしているのか分からないのよねぇ。学校にはちゃんと来てるらしいから元気にやってることだけは確かなんだけども」


「あはは……そうだったんですね。それで、その離れというのはどの辺りにあるんでしょうか?」


「あの林道が見えるでしょう? あそこを真っすぐに歩いて三十分程のところにあるわよ」


「分かりました。お忙しい中、わざわざありがとうございました」


「いいのよぉ別に。よかったらまたここに来てねぇお嬢ちゃん。今度美味しい大根をご馳走してあげるからねぇ」


「ふふっ……はい、楽しみにしています」


 ふわりと少女が柔らかく微笑むと、お婆さんにお礼の意味を込めて頭を下げ、ゆっくりとした足取りで林道へと歩いて行った。


「……それにしても、夏の終わりが近いとはいえ、何だか急に肌寒くなってきたねぇ。さっきまで普通に暖かかったのに、天気と気温は気まぐれだねぇ」


 冷え込むにはまだまだ早い時間帯だが、不思議と辺りに冷たい風が流れていた。


 その冷風に当てられて肌を擦り合わせていると、ふとお婆さんの視界の隅に見えるはずのないものが一瞬だけ映り込む。しかしお婆さんは「私も歳を取り過ぎたかねぇ……」と呟くと、頭を何度か振って農作業へと戻っていった。




〜※〜




 夏の終わりが近付き、そろそろ衣替えをする頃合いかと思いながら屋敷外の掃除に耽っていると、ふと遠くの方に二人の影が見えた。


 徐々に影はこちらの方に近付いてきて、やがてはっきりと見えなかったシルエットが顕となる。その正体は、いがみ合いながらメンチを切り合っている温羅兄と桜華さんだった。


「久し振り~桜華さん。最近全然見なかったけど、もしかして家の方が忙しかったのかな?」


「ご無沙汰しています主様。しばらく顔をお見せできずに心配を掛けてしまって申し訳ありません」


 と律儀なことを言うものの、その視線の先は温羅兄に一転縛りだ。もしかしなくともまた喧嘩しているらしいこの兄妹。仲悪いなぁ相変わらず。


「おう坊。ちょいと面貸してもらえるか。できればキサ坊の野郎の他に、もっと多くの女妖怪を呼んでくれると助かるぜ」


「女妖怪って……それはまた変わった頼み事してくるね温羅兄。もしかしてハーレムを作るつもりだったり? ゲスに寄って来るのは所詮同じゲスだけなんだし、百パー叶わぬ夢は抱かない方が賢明だと思うよ」


「テメェ最近やたらと俺に毒舌だよな。兄貴分として悲しいぞ俺ぁ……」


 しょんぼりと項垂れて本気で落ち込む温羅兄。だったら日頃の行いを少しでも改めるために、自分なりの努力をすれば済む話だというのに。ゲスには無理な話なんだろうけど。


 と、からかうのはさておき、女妖怪を集めているのなら丁度良かった。現在キサナの部屋では、キサナ、猫さん、サトリ、厠姉さんの四人が女子会トーク中だったりする。どうせ皆暇してるだろうし、退屈凌ぎに呼んで来よう。


「ちょっと待ってて」と温羅兄達を庭の方に待たせて、女子会真っ最中の部屋へと突撃するべく屋敷内へと引き返す。


 キサナの部屋にやって来ると、最早話のネタが尽きていたようだ。談笑からキサナ一人による猫さん&サトリ弄りに変更されていた。何を言われたのかは不明だが、サトリは涙目になってキサナに取っ掛かろうと必死に両腕を動かしていて、猫さんは拗ねて隅っこの方で横になっていた。


「誰かが脱いでることを期待して試しにノックせずに入ってみたけど……残念!」


「入ってきていきにゃりにゃに馬鹿にゃこと言ってるのよ……」


 げしげしと猫さんに足首を蹴られて八つ当たりされる。お返しに前から抱き締めに掛かろうとすると、「寄るにゃ変態!」と言われて激しく抵抗されてしまう。桜華さん達に続いて猫さんもかなり気分害してるみたいだ。


「キサナ~、からかうのは程々にしないと駄目だってば。ただでさえ二人は神経質なんだからさ」


「悪かったわね気が短くて! どうせ私はシロ君みたいにゃ大人おとにゃな対応にゃんてできませんよ~!」


 更に足首をげしげしと蹴られる。構って欲しいオーラフルスロットルだ。仕方ない甘えん坊さんですな。


「ほほほっ、いやぁすまんのシロ。こやつらを弄るのはどうにも楽しゅうての。ついついやり過ぎてしまうのじゃ」


「く~た~ば~れ~! 今日という今日は絶対に許しません! 私の背の低さをコケにする愚か者は皆滅べばいいんです! 第一の絶滅希望種です!」


「う~ん、それはまた斬新な種ですね。ちなみに私が希望するのはトイレをより多く利用してくれる――」


「貴女は黙っててください痴女姉さん。変態が移り兼ねないので」


「……すいません」


 厠姉さんの本質を知ってしまったあの日から、厠姉さんに対するサトリの評価が大きく変わってしまっていた。‟清楚で天女のようなお姉さん”という認識から、‟トイレの痴女”という認識に改められ、厠姉さんの好感度はサトリ限定で大暴落。一番仲の良い義理妹に冷たくされ続けていて、その度に気が小さくなっていく一方だった。


 人間だろうと妖怪だろうと、知られたくない秘密の一つや二つはあるものだ。強制的にではあったにせよ、己の秘密を包み隠さず教えてくれたんだから、もっと優しく接してあげればいいのに。早く大人になりなさいマイシスター。


「それで、どうしたんですかシロちゃん? 何やら要件があるような雰囲気ですけど……」


「あぁそうそう。楽しい女子会途中で悪いんだけど、ちょっと一緒に庭まで来てくれるかな? なんか皆に用があるっぽいんだよね」


「用とな? ちなみに誰がじゃ?」


「桜華さん……と温羅兄だけど」


 後者の名前を聞いた瞬間、猫さんがすぐさまボロ屋敷から出て行こうと襖に手を掛ける。無論俺はそれを阻み、後ろから猫さんに抱き付くことで拘束した。


「は、はにゃしてシロ君! これ以上セクハラするつもりにゃら訴えるわよ!」


「まぁまぁ落ち着いて猫さん。逃げたい気持ちは分かるけど、たまには俺に協力してよ。もしもの時はちゃんと守ってあげるからさ。それでも嫌だと言うのなら、俺に何でも一つ言うことを聞かせられる権利を一回だけ献上するからさ」


「…………し、仕方無しかたにゃいわね。今回だけだからね」


 交渉成立。俺の拘束から逃れるとすぐに離れて皆に背を向け、ごにょごにょと微かに何かを呟き出す。内容が地味に気になるけど、後でサトリにでも調べてもらおう。


 他の皆はすんなりと了承してくれたので、それ以上は手間も掛かることなく皆揃って外に出た。


 そして庭までやって来ると、更に先客達が温羅兄の背後に集まっていた。それに温羅兄と桜華さんの格好まで変わっていて、桜華さんはいつもの割烹着の上から『女』の文字が入った赤の羽織と鉢巻を身に付けていて、温羅兄は裸に『男』の文字が入った青の羽織と鉢巻を身に付けていた。


 その光景はさながら、戦前の男と女。お互いに自分の性別が書かれた旗を背中に背負っているところを見ると、なんとなくこの二人が何を考えてここに来たのか察しがついた。


「ほぅ……これはまた面白き匂いがプンプンするの。近頃は退屈続きで干からびておったが、どうやら久々に良い刺激を味わえそうじゃの」


「いや、むしろ面倒臭い感じしかしにゃいんだけど……やっぱり帰っちゃ駄目シロ君?」


「その気持ちも分かるけど、どうも今回のあの二人は本気っぽいんだよね。猫さんは疲れるだけだろうけど、今日のところは桜華さんのために一肌脱いであげて欲しいかな」


「むぅ……ゲスのためにゃら論外だったけど、桜華ちゃんが関わってるにゃら……」


 実は一番馬の合う友人がキサナより桜華さんだったりするので、いつもより早く事を受け入れてくれた。友達想いの猫さんらしい。桜華さんの人の良さも大きく影響しているんだろうけど。


「来たな坊! テメェ一人はこっちの陣だ! 俺の隣に来い!」


 やっぱり‟そういうこと”のようで、他の皆を差し置いて俺だけご指名が入った。呼んでくる相手が相手だから気が進まないけど、さりげなく猫さんの頭を撫でてから温羅兄の元へと歩み寄った。


「……って、あれ?」


「へっへっへっ……お久し振りでさぁ主様」


 温羅兄の隣までやって来たところでよくよく先客達を確認してみれば、二名ほど見知った顔が見えた。その内の一人は、猫さんがトラウマを抱えたあの日にボロ屋敷へと侵入してきて、最後には落雷を落とされて半殺しにされていた山地乳だった。


「お~、これまた珍しい顔が。この前は容赦せずにごめんよ? おやっさんは加減というものを知らなくてさ」


「いえいえ良いんですよ。何せ、あの日の借りは今ここで返してもらいやすからね。昨日の敵は今日の友でっせ主様」


「そうだすよ主どん。今日のおいどん達は肩を並べる同志だす」


 見知ったもう一人の人物は、俺が出合い頭にスタンガンをぶっ放した変態妖怪第一号のメタボリック不細工マン、べくわ太郎だった。


「同志……ねぇ。正直腑に落ちないなぁ」


「そんな冷たいこと言っちゃ嫌だすよ主様。男として、今日は温羅どんの顔を立ててやってくださいだす」


 一体今ここで何が行われるのか。その始まりの合図は、温羅兄の第一声からであった。


「よく集まった同志諸君に女のクソ共! これより俺達は、第一回性別軽蔑合戦を行うことを宣言するぜ!」


「性別軽蔑合戦て……というか何なんですかあの人。なんで座敷荒に馬鹿にされた後に、今度は見知らぬ人にまで馬鹿にされないといけないんですか私? どいつもこいつも性根が腐ってるんですか? そんなに私をイラつかせたいんですか?」


 温羅兄の酷い言い様に若干キレて、眼球を真っ赤にさせて苛立ちを主張するサトリ。猫さんに目でサインを送ると、俺の意図を察してサトリを宥めてくれた。


「あの~、合戦とはどういうことでしょうか? そもそもなんで私達はこんな状況になってるんですか?」


「ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません。事情は今から私が全部お話しします」


 良い質問をした厠姉さんの問いに対し、深くお詫びを申す桜華さんが事を全容を洗い浚い語り出した。


 内容はこうだ。


 まず、鬼兄妹がここまで対立するキッカケになったのは、いつもの口喧嘩からだった。


 俺が初めて桜華さんに出会ったあの日から、家事全般が苦手だった桜華さんが前向きに事柄を考えるようになったようで、ここ最近はずっと家事の修行に明け暮れていたらしい。つまり、最近ここに顔を出さなかったのは家事が忙しかったかららしい。


 しかし、温羅兄は徐々に変わりゆく桜華さんを良しとせず、桜華さんが失敗を繰り返す度に「テメェにゃ無理」だとか「何事も諦めが肝心」だとか「才能の無い奴は何やっても結果は出ない」とのように、それはもうドロドロの油のようにねちっこく桜華さんを馬鹿にしていた。本当どうしようもないゲス野郎だ。


 そんな日々がしばらく続き、最初は澄まし顔でスルーしていた桜華さんだったが、とある一言によって堪忍袋の緒をブチ切らせた。何を言われたのかは有耶無耶にされたが、桜華さんにとって今最も言われたくないワーストワンの言葉を投げ掛けられたらしく、こうして男と女の軍勢に分かれて戦争を行うことになった……という流れであった。


 誰が聞いてもお分かりの通り、この件は十割温羅兄が悪い。故に俺が協力する理由が見当たらなかった。


「まぁ事情は分かったよ。それじゃ俺、山にキノコ狩りに行ってくるからこれで」


 白けに白けて砂粒ほどのやる気も失せて、山がある方角へと歩き出そうとしたところ、温羅兄に腕を掴まれて遮られた。


「まぁそう冷めんなよ坊。今テメェが思ってる通り、今回の件は俺の方が非があるけどよ……あの野郎はあの野郎で許せねぇことを言いやがったんだよ」


 言い訳にしか聞こえないけど、一応聞いてあげることにする。自分で言うのも何だけど、俺の懐の広さはちょっと病的なものを感じるくらいに広過ぎる気がする。しかもその広さが時には考え事になるなんて、今日まで思いもしなかった……。


「いいかよく聞け坊。あの野郎はな、俺というイケてる鬼を馬鹿にするどころか、男という生き物自体を馬鹿にする発言をここぞとばかりにしてきやがったんだ。常にエロいことばかり考えていて、毎晩おっぱいと尻のことを想像しながら発情してる醜いけだもの。おまけに足が臭くて口も臭くて、挙句の果てに存在自体を汚物呼ばわり。ここまで言われてテメェは男として許せるか坊!?」


「いやそれ言葉の綾だよね? 温羅兄一人にしか言ったつもりないよ桜華さん」


「だよなぁ!? やっぱ許せるわけないよなぁ!? だって女は女で短所の塊だもんなぁ!? あいつら男を汚物呼ばわりするくせに、金持ちだけは贔屓すんだぜ? これは本当にあった話なんだけどよ。過去に人里のとある場所で、妖怪同士三対三の合コンが開かれてたらしいんだが、そのうち男勢の二人がイケメンで、残りの一人が平凡面した男だった。そして自己紹介を終えたところで男共が席を外し、女共による男共の評価が下された。結果、女勢が高評価したのはイケメン二人だけだった」


「ここまでは当然の流れだ」と、冷静に物を語る。しかし次の瞬間、閉じられていた目が大きく見開かれ、憎しみが込められた憎悪の顔を至近距離まで近付けられた。


「だが! だがな坊! この後より具体的な自己紹介が行われて、平凡面の男が金持ちだということを晒した。そしてまた男勢が席を外して女共の評価が行われた。その結果、クソ女共は当然のように手のひらを返して、金持ち男を大絶賛しやがったんだ! 最初に『いや、あれはないわ~w』とかディスってたのにだぜ!? 分かるかこの理不尽な仕打ちが!?」


 それは確かに酷い話だ。流石の俺も女性という生き物の見る目が変わってしまいそうになる。


 でもキサナ達は魔性の女ってわけじゃないし、別に今それを聞かされてもどうでもいいと思ってしまう。そもそも俺は人を見る目に自身があるし、本当に性格の悪い女がいても見極められるので、そういう理不尽な仕打ちに合う心配は全くない。


「女ってのはな、男の足元しか見やがらねぇんだ! そして相手が金持ちだと分かった途端、あの手この手使ってその野郎をたらし込めようとするクソみてぇな魔女共だ! 無論、その手の中には色気を使う女狐もいやがる! 恥部を除いてくる男とかキモッとか常日頃言ってるくせに、自分からやらしい部分を見せてきやがる痴女共だ! そんな奴らに対して俺は……俺はなぁ!!」


 女妖怪の皆に指を差し、胸を張って高らかに宣言する。


「逆にこっちが奴らを誑し込んで、裸になるまで乱暴に衣服を掻きむしって、全力抵抗してくるところを滅茶苦茶性的に蹂躙してぇ!!」


 女性を否定し続けた結果、更に男の醜い欲望を垣間見せた。それにより、女妖怪の皆が一人残らず鳥肌を立たせてしまっていた。


 温羅兄のゲスオーラに当てられて、ついに猫さんが嘔吐してしまう。釣られてサトリまでもらいゲロしてしまい、女妖怪の陣営辺りにゲロの匂いが充満してしまった。こっちにまで匂いが漂って来たが、鼻を摘まむのは失礼なので我慢した。


「へっへっへっ……ゲロを吐く女ってのもいいもんでっせ」


「おいどんはあの猫又さんが好みだすなぁ。ミニスカートタイプのメイド服を着させたら鼻血モノだす」


 猫さんの嘔吐の勢いがより一層増した。あのままだと脱水症状起きてしまうのでは? あんな猫さん見てられないよ……。


「ぜぇ……ぜぇ……危険よ……あの変態共はにゃによりも絶滅させるべき危険種よ!」


「あの人達は真っ先に滅するべきです! 世の女妖怪に危険が及ぶ前に私達がなんとかしなければ、確実に妖怪界が滅びの道の一途を辿ってしまいます!」


「その通りなんです! だから今ここであの汚物共を討たなくてはいけないんです! 二度と邪な感情を抱けなくなるまで、私達女の手で終止符を打ちましょう!」


「ふむ……エロスを好むわらではあるが、彼奴らの思想はちとズレとるの。この辺りのエロい生態系を狂わせないためにも、わらも久し振りに一肌脱ぐとしようかの」


「そうですね! 私達の力で邪悪な人達にお仕置きしてやりましょう! 私達が一致団結すればできるはずですから!」


「いえ、厠姉さんはいいです。変態は変態らしく、あっちの巣に帰ってください」


「なんで私だけ!? 勘弁してくださいサトリちゃん!」


 温羅兄の余計な発言により、女妖怪の心が今一つとなった。桜華軍の士気は良い感じにうなぎ上り状態まっしぐらだ。


「この合戦に勝てば、敗北者達を一日好きなだけ命令できる権利を得ることができる! そういう条件の元、俺はこの真剣勝負に挑むとあの脳筋と誓った! テメェら! 金にがめついあの女共を好きなだけ弄びたいなら、この先の未来の活力全てを振り絞って死ぬ気で戦え!」


「「「「おぉおおお!!」」」」


 変態勢+ゲスの五人が雄叫びを上げて腕を掲げる。その手にはいつの間にか用意していた木製の刀や槍が握られていて、女勢もまた各々武器を携えていた。


「大丈夫だ! 俺達は確実に勝てる! 何せ今回俺達の陣営には、俺を外しても伝説級の妖怪が二人も付いてんだ! むしろ負ける要素が見当たらねぇぜ!」


「伝説の妖怪って……それってもしかして……」


 確か桜華さんの両親は、かの有名な三大妖怪の酒呑童子と玉藻前と聞いていたけど、まさかこのフードマントを被った二人がそうだと言うのだろうか? だとしたらオラすっげぇワクワクしてきたぞ。


「ご紹介しよう! まずは一人目だぜ!」


 温羅兄の合図と共に、二人の内の一人がフードマントを華麗に脱ぎ捨てた。


 ぱっちりとした可愛いお目々。山なりに尖った頭。普段エキスでも吸い取っているかのようなタコ口の唇。さっらさらな猛獣の毛を上半身から生やした美しい身体。薄い布一枚の腰巻だけ身に付け、美術館に飾っている銅像のようなポージングをとった――変態。


「ご機嫌麗しゅうレディ達。自称変態紳士、‟身の毛立ち”でございます」


 無駄に美しい動きで右腕を折ってお辞儀をする。やっていることは紳士なれど、根っこは正真正銘の変態なので、女勢は一歩後ろに引き下がって青ざめていた(キサナ以外)。


 確かこの人もキサナ御用達の変態妖怪図鑑に載っていた。俺の記憶によれば、いつ、いかなる状況において、三百六十度どの方角から見られても美しく、かつ変態であれという心情を胸にした変態の神様なんだとか。神様にも全く必要性を感じない神様がいるんだと、今初めて思い知らされた気がした。俺の高ぶった好奇心を利子付けて返して欲しい。


「こいつは美しさを常に求める変態で、身動きに関してはプロの体操選手並みだ。ど素人の太刀捌きくらいなら、目を瞑っていても余裕で避けられると豪語していた。この場においては正しく、俺の次に最強の妖怪と言えるだろうな」


「フフフッ、お褒めのお言葉恐悦至極。わたくしの手に掛かれば、赤子の手を捻るのと同様、戦いながらレディ達が身に付けている下着を盗み取るのも容易いことでございます。以後、お見知りおきを」


「うわぁ……堂々と変態宣言される方がより気持ち悪いですね……」


「それもお褒めのお言葉と受け取っておきましょう、そこの幼きレディ。フフッ、君のパンツは動物柄の……と見せ掛けて、見栄を張って大人のエロティックなパンツと見受けましたよ」


 サトリが身体中に悪寒を巡らせ、またもや吐き気に襲われて口を手で塞いでいた。表情から察するに図星か。きっと厠姉さんのパンツをこっそり頂戴したんだろうなぁ。


「続いて……身の毛立ちを軽々と越えた、最強災厄の妖怪に来てもらってるぜ! さぁ、出番だぜボス!」


 身の毛立ちのレベルで既に嘔吐モノなのに、更にそれすら超越した妖怪が今ここにいるという。とてつもなく嫌な予感を察知しながら、二人目の妖怪がフードマントを勢いよく脱ぎ捨てた。


「……あっ……あっ……にゃぁぁぁ!?」


 その二人目の姿が顕となった瞬間、突如猫さんが発狂した。あの尋常じゃない驚き様を見ると、もしかしてこの前猫さんが遭遇した変態妖怪って……。


 二人目の妖怪の特徴は、事細かく説明せずとも至ってシンプル。股間にモザイクが掛かったのっぺらぼうの全裸の男。これ以上にない堂々たる変態の鏡であった。


「フッハッハッハッハッハッ!! 我が名は‟尻目”!! いずれこの世の女妖怪全ての恥部を露出させる野望を持つ、変態妖怪の王である!!」


「「「イェエエエ!! ボス万歳~!!」」」


 変態妖怪からの人望は厚いようで、カリスマ性に特化したど変態。流石の俺も無意識に距離をとってドン引きした。


「いやぁ……いやよぉ……もう‟アレ”だけは見たくにゃいよぉ……」


「しっかりしてください猫ちゃん! 大丈夫、今の貴女には私が付いていますよ!」


「うぅ……桜華ちゃん……」


 まだ肝心の戦は始まっていないというのに、奴の登場によって猫さんの戦意が消失してしまっていた。一体前に奴と何があったのか。尻目という妖怪なだけあって、多分尻が関係しているのだろうと憶測できるけど……真意は俺には分からない。


「以上が俺達の軍勢だ! 俺、山地乳、べくわ太郎、身の毛立ち、尻目、そして俺達の切り札的存在の坊! この最強の布陣にテメェらクソ女共が勝てるか!?」


 許可もしていないのに、勝手に切り札扱いされても困る。


「ねぇ温羅兄。割と本気でキノコ狩りに行きたいんだけど、俺だけ抜けちゃ駄目?」


「駄目に決まってんだろ! まぁ駄目じゃないにせよ、今裏山に潜るのは止めた方がいいぜ。何でも最近、五メートル級の謎の化け物が山ん中で神出鬼没してるらしいからな。今はキノコよりこっちの戦いに集中しろ!」


「えぇ~……ならせめてバイト代出してよ」


「アルバイト気分で戦いに挑もうとするな! んなのんびりムード出してねぇで、たまには男の意地ってやつを見せ付けろよ! そんなんじゃあの野郎共からチキン呼ばわりされんぞ!」


 そんなこと言うような酷い女の子達じゃないし、仮にチキンと言われても全然気にしないんだけどねこっちは。でもこの分じゃ抜け出させてくれないようだし、適当に付き合ってあげる他ない……か。


「ルールは至って単純明快です! 武器を用いて戦い、どちらかの軍勢の大将が戦闘不能になれば戦闘終了! それ以外は何をしても良い、ルール無用の乱闘方式です!」


「ちなみに男勢の大将は俺こと温羅! 女勢の大将は脳筋だ! 戦いの途中でど忘れしやがった野郎は、この大将の象徴である鉢巻を目印に覚えておけ!」


 メンバー紹介も一通り終わり、戦前の準備が全て整えられた。今ここに、第一次第妖怪戦争の火蓋が切って落とされた。


 べくわ太郎が戦いの狼煙として高らかに法螺貝を吹く。そして両軍は武器を携えたまま、同時に正面衝突しようと駆け出した。


眼的必殺がんてきひっさつだ!! 己の欲望を手に入れるために、前へ前へと突き進め!!」


「今こそ女の意地を見せる時です!! 度々ご迷惑お掛け致しますが、どうか全力で宜しくお願い致します皆さん!!」


 大将らしく味方を鼓舞し、兄妹の剣と槍が炸裂する。


「双方、待ったぁ!!」


 だがその寸前、俺が中立の場に立ちはだかって両軍を引き留めた。


「おいコラ邪魔だぞ坊! いい加減腹を括りやがれ!」


「道を開けてください主様! 私はどうしてもそこのゲスと決着を付けないといけないんです!」


「駄目です、誰も通しません。あのね皆、一旦沸騰した頭を冷やして冷静に考えてくれるかな? こんな物騒な武器ものを使って争うだなんて、どうかしてるとしか思えないよ。一人残らず泥塗れになって地獄絵図になるのが目に見えているのに、それを止めないわけにはいかないよ」


 この醜い戦いを止めるには、俺の本音を曝け出してぶつかるしかない。例えどんなに変態的な妖怪であれど、大怪我を負うような目には合ってほしくないのだから。


「今ここで争ったところで、何にも解決なんてしやしない。争いは次なる争いを呼ぶだけだよ。だからね皆、ここは俺の顔を引き立ててさ……」


 ここが一番大事なところ。俺は手に持つ剣を投げ捨てて――日頃から常に隠し持っていた‟それ”を手に取った。


「サバゲーしようよ!!」


「「「「「争い云々の話の意味は!?」」」」」


 この場にいる全員にツッコまれ、俺はハンドガンを掲げてペロリと舌を出すのだった。

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