旧・妖怪ファミリーのお引っ越し
このボロ屋敷に来てからこれまでに掛けて、一つ思うところがあった。山が近くにあるせいなのか、大きい石や岩がちらほらと落ちていることだ。
それによく見たら落ち葉もかなり放置されていて、本来綺麗であろう縁側の庭の景色が台無しになってしまっている。何故今まで気付かなかったのだろうと自責の念に駆られてしまった。
俺は妖怪を好むと同時に、和の心を好む平成ボーイ。周囲の和が自然現象によって汚されていると分かった以上、見て見ぬフリなど出来るはずがない。
それに、前に温羅兄とおまけ勢をしばいた時にも思ったが、鈍器になり兼ねない大きな無機物があると、どうにも俺はそれを使って害悪を駆逐してしまう傾向がある。本当なら暴力行為なんてしたくないし、そのキッカケとなる物は出来る限り除去しておきたい。
というわけで、俺は貴重な休日である今日の時間全てを費やし、ボロ屋敷の周囲を掃除することにした。ボロ屋敷内はキサナの機嫌を取れば、座敷荒の能力でどうにでも綺麗な環境を整えられるので、今後外の掃除は俺が担当しようではないか。このボロ屋敷の主であるからには、当然の責務は全うしなければ。
というわけで、まずは落ち葉を退けるために倉の方から箒を探し出し、せっせせっせと落ち葉を一点箇所に集める。掃除をしていると己の心の中も綺麗になっていく感覚になるので、意外と一番好きな家事だったりする。
キサナは俺の私物であるテレビゲームに夢中になり過ぎて、徹夜明けにより爆睡中。猫さんは昨晩に用事があると言っていたので、今日はここに遊びにやって来ることはない。桜華さんや温羅兄は身内のことで忙しいのか知らないが、最近は殆ど顔を見せなくなったので恐らく来ない。つまり、今日は完全に一人だ。
本当なら誰か彼かと時間を共にしたいところだが、妖怪にもそれぞれプライベートな時間というものがあるのだ。俺の我が儘でその時間を割くわけにはいかない。親しき中にも礼儀ありだ。
俺もたまには一人で静かな時を過ごそうか。そんな平和的な物思いに耽りながらひたすら箒を動かしていると、不意にすぐ背後から誰かの気配を感じ取った。
「だ〜れだ?」
後ろを振り返る前に両手で目を塞がれてしまい、悪戯心が混じった静かな声が耳元で囁かれる。この手の感触に今の声からして、間違いなく相手は女性とみた。
フッフッフッ……相手が悪かったね顔が見えぬ女子様。霊感少年たるこの俺に掛かれば、視覚に頼らずとも相手の正体を突き止めるのは容易いことなのですよ。
まずは聴覚。今の声は確実に聞いたことのある声だ。声質からして年上のお姉さんであると判断できる。
次に嗅覚。手から石鹸の匂いがするこの香りは、自分の部屋に置いている消臭元の元と同じスメルだ。
更に触覚。俺の目を隠す手に触れると、スベスベした触り心地の良い肌が伝わってくる。この感触はその昔、俺の頭を幾度となく撫で続けてくれていたものと同一する。
最後に味覚。舌を伸ばしてペロリと手を一舐めすると、「ひゃうっ!?」と可愛らしい反応を示した。
「も、も〜! またそういう悪戯するんですからシロちゃんは」
「慣れないことをするから反撃を食らうんだよ、厠姉さん」
手の拘束が解かれて後ろを振り向き、この世で最も見知った顔に自然と頬が緩む。
平安時代時代のお姫様が着ていたような黄色の立派な着物に身を包み、川の風流さを感じさせるような薄水色の長い髪。見ている者全てを癒しに包むような優しい眼。
そして……その可憐さ全てを台無しにする、背中に携えし巨大なトイレ用キュッポン。その姿はさながら、小惚けた女神様といったところであろうか。
彼女の名前は厠姉さん。“厠神”と呼ばれているトイレの神様的な妖怪であり、俺と最も付き合いの長い妖怪お姉さんだ。
「姉さん久し振り〜。元気だった〜?」
テンションが上がって浮き足立ち、その勢いに身を任せて厠姉さんの胸の中にダイブして抱き付いた。不思議と卑しい気持ちにならないふくよかな胸の感触と、何年経っても永劫健在の石鹸の香りに身も心も癒される。
「ふふっ、私はこの通り元気ですよ。シロちゃんも変わり無さそうで安心しました。相変わらず甘えん坊さんなんですね〜」
にっこりと微笑んでよしよしと頭を撫でてくれる。癒され過ぎて身体が溶けてしまいそうだ。というか本当に身体が溶けてスライムと化してしまった。
「どういう身体の構造してるんですかシロちゃん!?」
「姉さんの愛情と癒しが約六十パーセント。後三十パーセントが下心で、残り十パーセントが性欲かな」
「愛と癒しとエロの化身ですか!? 水分や骨は一体何処へ!?」
「はははっ、厠姉さんも猫さんと同じで絶対反応してくれるから面白いなぁ」
気合云々でスライム状態から元に戻り、厠姉さんの肩を突っついてからからと笑う。最近は機嫌を損ねることが地味に多かったから、姉さんの顔が見られてかなりストレスが発散された気がする。
「も〜、姉さんをからかわないでくださいよシロちゃん。悪戯ばかりしてると怒っちゃいますよ?」
頬を膨らませてぷんぷんと怒る厠姉さん。
「そんな可愛い態度で怒られても、俺にはご褒美にしかならないよ姉さん。なのでむしろ叱ってくださいお願いします」
「自ら望むの禁止ですから! これでも私は真面目なんですからね〜?」
こつんこつんと頭を弱々しい力で小突いてくる。年上の威厳も何もない可愛らしさに萌えてしまう。きゅっと胸が締め付けられたよ愛で。
「……随分と機嫌良さそうですね兄さん。私の存在は完全無視ですか」
厠姉さんと存分にイチャイチャしていると、ひょこっと姉さんの真後ろから不機嫌顔のサトリが姿を現した。気配が無くて全然気付いてなかった。
「…………サトリも来てたんだね」
「なんですか今の間は!? 私だけ来ちゃいけないとでも言うつもりですか!? 姉贔屓優先ですか!?」
「まさかまさか、俺が義妹に対してそんな冷たい態度を取るわけないでしょ? ほ〜らほらほら、飴ちゃん上げるから良い子はお家にお帰んなさい」
「わ〜い!……って、ナチュラルに私だけ帰そうとしてるじゃないですか! 飴の一つ如きで退けられるとでも思いました!?」
口では文句を言うも、ベルトコンベヤーのような一連の動作で飴を口の中に含むサトリ。甘味を味わって少しふにゃけた笑みを見せるものだから、チョロい子だと思っても俺は決して悪くない。
「それで、二人はなんでここに? 遊びに来たならお茶でも出すけど」
「ちょっと! 私の話はスルーですか!?」
「はいはい、後でちゃんと構ってあげるから良い子にしてまちょ〜ね〜サトリちゃん」
「あぁもうぶっ飛ばしたいこの兄さんっ!」
イカれたラジオのように煩くなり、厠姉さん同様弱々しい力で身体のあちこちを叩いてくる。大人の女性になりたいのであれば、今くらいの挑発はスルーしないと一生成長できないですよ義妹殿。
「遊びに来たというわけじゃないんです。つい最近なんですけど、サトリちゃんが突然皆でシロちゃんのお屋敷に引っ越そうと言い出しまして」
「え? 何? 引っ越し? まさかここに?」
「はい。『結局一人暮らししてなかったから、もう兄さんの言い付けを守る必要はないんですよ!』と怒っていました。というわけで、今日こうして皆でシロちゃんのお屋敷に引っ越して来たわけです」
「それはまた……唐突な話だね」
俺としては別に構わないにせよ、一応は大家という肩書きを持つキサナに許可を貰う必要がある。もしかしたら断る可能性も無きにしも非ずだし、寝てるところ悪いけど起こしに行かなければ。
「それじゃ一応もう一人の家主に話をしに行こっか。でもさ、引っ越しに来たって言ってるけど、他の皆はどうしたの?」
「他の皆でしたら、既に屋敷の中に潜伏済みですよ兄さん」
気が早いよ。全く霊感感じなかったのに、皆スニーキングが上手くなったもんだなぁ。
折角しようとしていた掃除を中断し、二人を引き連れてボロ屋敷の中に帰ってくる。本当なら真っ先にキサナを起こしに行くところだけど時間に余裕もあることだし、まず先に皆の顔を探しに探索でもするとしよう。
目を瞑って集中力を増幅させて、ボロ屋敷内の気配を探る。そして微量ながらも、ちらほらと霊感を感知した。意識的に霊感を薄めているようで、元同居人達は卑しい連中ばかりだ。
チラチラ辺りを見回しながら廊下を歩くと、まず一人目の元同居人と遭遇した。
「う〜む……何処に落としてしまったのやら……ない、ない、ないのぅ」
俺のお腹辺りまでしか背丈がなく、細長い餅のような球体に手足が生えていて、身体中に百の目を持つ一見気色悪いホラーな妖怪。見た目通り、その名を“百目”と言う妖怪である。
「久し振り百目爺。何か探し物?」
「おぉ弥白ちゃん。いやぁ、実は屋敷内の何処かにコンタクトを三十四個ほど落としてしまってのぅ……」
「またですか百目お爺さん……いつも身体の目に気を遣ってくださいって言ってるじゃないですか」
呆れたサトリが大きく溜息を吐く。我らが百目爺は、最も目が良さそうな妖怪でありながらその実、最も視力が悪い妖怪だったりする。なので眼鏡の使えない百目爺にコンタクトを使うことを俺が勧めたわけだが、使い始めたら始めたらでよく落として無くしてしまうというお茶目な部分があった。
しかし、百目である爺さんの目の数は百個なので、当然コンタクトの使用数も比例する。それで一度に数十個も無くしてしまうものだから、爺さんのコンタクト探しに一日が潰れるということがよくあった。それで今もこうして数多くのコンタクトを落としてしまっているわけだが……。
「あんまり時間割けないけど、良かったら手伝おうか百目爺?」
「ふぉっふぉっふぉっ、弥白ちゃんは良い子じゃのぅ。じゃがその必要はない。一人で気長に探すことにしてるからのぅ」
「そ、そっか。でも何かあったら呼んでね。出来る限りで手を貸すからさ」
「ん〜、その時は是非宜しく頼むのぅ。ない、ない、ないのぅ」
そうして百目爺は廊下の奥に消えて、その途中で「あ゛っ」という間抜けた声が聞こえて来た。絶対踏んだパターンだなぁ今の。
「お爺さんの癖はいつになったら解消されるんでしょうか……これもまたお悩みの一つですねぇ」
「無理ですよ厠姉さん。あの人未来永劫ずっとコンタクト探しで一生終えますよ。そう考えるとなんて虚しい妖生なんだろうって思いますけど……」
それは俺も思った。一体コンタクトを探し続ける妖生に何の意味があるのか。きっと、一日中ゲームしてニート生活を満喫している学生並みに無意味な時間なんだろう。ごめんよ百目爺、コンタクトなんていう妖怪とは不釣り合いな物を紹介してしまって。
念の為に足元を確認しながら、次の霊感を探って移動を再開する。
しかし歩き出して間も無い内に、次の刺客が前方からエンカウントしてきた。
目にも止まらぬ凄まじい速さで飛んで来て、壁を反射しながらあらゆる角度に飛び跳ねてくる。そして高速のスーパーボールの如く、俺達の周りに固定して飛び跳ね続け出した。
「フハハハハッ! ここは通さぬぞ若き虎よ! 通りたくば我の疾風の如き瞬歩を止めてみせよ!」
男らしい猛々しさのある声が辺りに響き、奴の動きを一先ず目で追ってみる。
……ふむ、やはり目で追って捕らえるのは無理か。ならば触覚を用いて捕らえてしんぜよう。
目を瞑って再び集中力アップを図る。すると辺りが静かに聞こえるようになり、奴の動きが手に取るように先読みできるようになる。
それから奴の動きに合わせて場所を指定し、右足を斜め上に沿うよう思い切り振り上げた。
「ぐほぉ!?」
見事に蹴りが炸裂して、何度か壁に反射しながら吹っ飛んで、床に落下した瞬間に二つに分裂する。いつ見ても鮮やかな分裂っぷりだ。
「「くっ……混沌を纏いし化身より力を授かった我を、こうも容易く仕留めるとは……流石であるな白の勇者よ」」
元々茶色だった身体の毛を黒と赤に染めていて、左目に眼帯をしたちっこくて可愛い狸。正式名称は“小僧狸”と言うのだが、俺達は彼のことを“厨二堕ちした漆黒の狸”と呼んでいる。
「前にも言ったじゃんタヌっち。どれだけ速さを極めたところで、俺の蹴りは避けられないって。意地張らないで素直に学習したらいいのに」
「「フッ……我は敵の塩の施しを受ける程、落ちぶれてはいない! 今はまだこの封印されし邪眼が封じられているため、我の真の力を披露できていないというだけに過ぎん。だが逃れられぬ呪縛の時が過ぎるに連れて、我の力は刻一刻と修復の一途を辿りつつある。故に貴様が敗北するのも時間の問題よ」」
勿論邪眼の力などあるわけがないし、タヌっちは正真正銘ただの小僧狸。夜道を歩く人にちょっかいを掛けて、殴られたり斬られたりすると分裂して更にちょっかいを掛けるのが本分である、悪戯っ子以外の何者でもない狸妖怪だ。
しかし以前にそのことを追求すると、激しくブチ切れられて面倒臭い目に合ったことがあり、今はもうタヌっちの好きなようにさせている。きっと今でも変わらず、まともに話を聞いてくれる唯一の存在である厠姉さんに甘えているんだろうなぁ。
「「しかし……しかしだ白の勇者よ。我もただ皆無の時を過ごしていたわけではない。混沌を纏いし化身より授かった呪法は、先の瞬歩だけではない。刮目せよ! 我が真の力に匹敵すると言われた、究極の呪術を!」」
今までタヌっちは何度も俺に戦いを挑んで来ていた。その度その度にあらゆる方法を使って俺の度肝を抜こうとしていたタヌっちは、それはもう元気にはしゃぐ幼子のように可愛かった。でもその可愛さは変わりないようで、今も現役で戦闘大好きっ子だった。
タヌっちは不敵な笑みを浮かべると、左手で右手首を掴んで右手の平を開き、唸り声と共に力を入れ始めた。
「「血の盟約に命ずる……古より伝わりし地獄の業火よ! かの者を灰も残さず滅却せよ! いでろっ! エイシェントドラグナーブレイズ!」」
如何にも厨二感丸出しの名前が出たと思いきや、ポゥッと手のひらに人魂のような黒い炎が発生した。完全に名前負けした奥義だ。言ってて全く赤面しないタヌっちの精神力に割と本気で憧れる。
「「今日こそ我が宿命に終止符を打つ時なり! 朽ち果てよ! 白の勇――」」
「こら! 駄目じゃないですかタヌっち君! 他所の家で火を出しちゃ!」
「「んぐっ……」」
そのエイシェントどうたらこうたらという炎を用いて俺に特攻を仕掛けて来ようとしたところ、少し怒った厠姉さんが俺達の前に出て、ぽこんとタヌっちの頭を叩いた。更に分裂して四人の厨二狸となる。
「「「「な、何をする厠の化身よ! 我の戦いを阻むとは、余程の命知らずのよ――」」」」
「厠姉さん、ですよ。ちゃんと普通にお喋りしないと、シロちゃんもサトリちゃんも困っちゃうじゃないですか。良い子にしないとめっ、ですよ」
「「「「…………すいません」」」」
俺と同じで厠姉さんには頭が上がらないようで、発現させた炎を消滅させて頭を下げ、四人全員が身を束ねて一人のタヌっちへと元に戻った。何ともパッとしない終止符の打たれ方だった。
「ふんっ、我らのコミュニケーションに横槍を入れるとは無粋な……何か言ってやれ弥白よ」
「タヌっち……もう良い歳なんだろうし、そろそろ厨二は卒業しないと駄目だよ?」
「誰が我に言えと言った貴様ぁ!」
この後、外に出てタヌっちと第二ラウンドが行われたのは言うまでもない話である。
〜※〜
全員の対処をするのに中々時間を食ってしまったせいで、既に時間帯は昼時を過ぎてしまっていた。未だにキサナは熟睡中のようで、俺がどれだけ動き回っていても起きてくることはなかった。それだけ昨晩はゲームに熱中していたということだろう。
何はともあれ、一通り皆との挨拶は済ませた。奇跡的に百目爺のコンタクトも全部探し出せたし、後はキサナを起こして許可を得るだけだ。
というわけで、俺は厠姉さん、サトリ、そしてとあるもう一人の妖怪を引き連れて、キサナの部屋へとやって来た。
「だらしない寝姿ですね……品の欠片もない……」
白装束の着物をはだけさせ、布団は滅茶苦茶で、口の端から涎を垂らし、ニヤニヤと良い笑顔を浮かべながら寝ているキサナを一目見て、サトリが呆れた表情でため息を吐く。
いつもはこんなに寝相は悪くないはずなのだけれど、何故今日に限ってこんな惨状になってしまっているんだろう。ひょっとして枕返しにでも悪戯されたとか? いや、妖怪が無断で侵入して来たら寝ていても分かるし、恐らくこれはたまたまだ。
取り敢えず、日頃俺を楽しませてくれる愛するソウルフレンドのために、心地良い目覚めというのを是非堪能してもらうとしよう。
「よし……それじゃ宜しく馬ちゃん」
『了解』
俺が合図を示すと、顔が馬面の人間型妖怪である妖怪、“うまづら”と呼ばれる通称馬ちゃん(男)が自前のパネルに文字を書いて頷いた。
俺達は一旦部屋の外に出て中を覗くスタイルで待機する。後は馬ちゃんの手際に全てを託すこととしよう。
うまづらの特徴は、寝ている相手を最高のコンディションで起こしてあげるために、相手にバレないようこっそりと良心的な施しをするという、クリスマスのサンタクロースのような紳士妖怪。故に、馬ちゃんの手際があれば、例え低血圧で朝に弱い者であっても心地良く目覚めることができる。俺も向こうに住んでいた時は度々馬ちゃんに起こしてもらっていたっけ。今となっては懐かしい思い出よ。
俺達が出たことで馬ちゃんの紳士的行動が始まった。まず、布団から離れているキサナを起こさないように運び、布団の上にゆっくりと下ろした後に掛け布団を掛けた。
ハンカチを取り出して口元の涎を拭き取り、部屋の隅にアロマキャンドルを立てて火を付ける。次第に部屋内に良い匂いが充満するようになり、その間に櫛と水スプレーを用いてキサナの寝癖が付いた髪の毛を整えた。
キサナの横に寝っ転がって耳掻きを使って耳掃除をする。両の耳を掃除し終えると、次に目ヤニを取り除き、タオルで水拭きした後に空タオルで水滴を拭き取る。
最後に頭部マッサージをしつつ、何故か目が覚めやすくなる特殊な音波が録音されているCDプレイヤーを設置した。
完璧だ。完璧の采配だ。これで目覚め最悪だったとしたらキサナの頭がおかしいことになってしまうが……そこは流石の馬ちゃん。キサナはふと目を開き、健康的なスッキリ顔になって目覚めた。
「ん〜、よく寝たの。昨晩は不健康極まりないことをしていたというのに、不思議と身体が綿のように軽く感じるの。きっと我の身体がまだまだ逞しい証拠じゃて」
キサナが目覚めると同時に、馬ちゃんはキサナに認識される前にふと姿を消した。シャイという馬ちゃんの性格も関係しているが、うまづらは職務を全うした後は消えるように姿を消す習性があるのである。
ご苦労様でした馬ちゃん。君はまた功績を一つこの世に残したよ。きっと将来は妖怪界の歴史に残ることだろう。
「おはようキサナ。よく眠れた?」
「うむ、おはようさんじゃ。今日は良い朝じゃの」
「はははっ、ひょっとしてまだ寝惚けてる? 今はもうガッツリお昼の時間帯だよ」
「なんと、そうであったか。ちとゲームに意識を入れ込み過ぎたようじゃの。我としたことが、休日の午前にシロを一人にしてしまうとは不覚じゃ」
「それには及ばんよ。キサナの寝顔が見れて俺はもう満足さ〜」
「我の無防備な姿を勝手に拝むとは……一人だけ役得ズルいの〜。お詫びに我とおはようのハグを要求する」
「謹んでお引き受け致します」
要望通り前から抱擁してやり、キサナも同じく腰に手を回してくる。それから少しの間だけキサナのだらしなくも可愛らしいニヤけ顔を拝んだ後、外で待機してもらっていた二人を招き入れた。
「まさか毎日こんなことしてるんですか兄さん……そんな姿見られたら愛想尽かされてしまいますよ」
「ぬっ? お主は確かブラコン覚? 何故お主が我達の愛の巣に?」
「誰がブラコンですか! 私は今日ここに引っ越しに来たんですよ! 兄さんと貴女を監視する為にです!」
「引っ越しとな?」と首を傾げるキサナ。そしてサトリの隣に立っている厠姉さんの存在にようやく気が付くと、大きく目を見開いてまじまじと姉さんの身体全体を見つめ出した。
「ほぅ……ほぅほぅほぅ……これはこれは……ブラコン覚とは比べ物にならない成長せし身体付き……是非そのおっぱいを生で拝んでみたいの。欲を言えば滅茶苦茶揉み扱きたい」
「は、はぁ……ありがとうございます?」
何故か疑問系でお礼を言う厠姉さん。キサナのボディータッチの欲求を刺激するとは、流石俺の自慢の姉さんだ。納得しかできない評価に俺も思わず頷いた。
「それで、先の話じゃが……引っ越しとはどういうことじゃシロ?」
「あぁうん、実はね――」
事の全容を洗いざらい伝えると、キサナは意味深な表情になって顎に手を当てた。
「なるほどの……つまりはこういうわけじゃな? シロは本来一人暮らしをする予定じゃったが、結局は我と二人暮らしをしていたため、元の家に住み着いている理由が無くなった。それでまたシロと暮らすために、ファミリー全員でこの屋敷へ押し掛けて来た……と」
「そうです。それに対して兄さんは了承してくれました。後は貴女次第ですが、別に構わないですよね?」
あの懐の広いキサナのことだ。俺と同じで別に構わない的な発言をするに違いない。
……と、俺は思っていたのだが、その回答は意外なものであり、それでいて実にキサナらしい答えだった。
「ほほほっ、率直に言って断る」
「んなっ!? な、なんでですか!」
「我は賑やかなのは好むが、窮屈なのは正直嫌いでの。一人や二人ならば別に構わないところじゃったが、十数人で押し掛けられるのはNGじゃ。てなわけで駄目」
「な、なんですかその理由!? そんなこと言って本当は、兄さんと二人きりでいられる時間が減るのが嫌だというのが本音なんじゃないですか!?」
「そうじゃの、それも大いにある。てなわけで帰れ。我はこれからシロと大人のイチャイチャタイムに勤しむ予定じゃからの。今から腰の動きを良くしておかねばならぬのじゃ」
「な、ななな何をするつもりですか兄さんに貴女は!? そちらこそ駄目ですよ! そんなの私は認めません!」
ストレートに駄目だと断られたのに、サトリは大人しく引き下がらずに食い下がった。キサナは一度決めたことを絶対貫き通す性格だし、どう足掻いても無駄だと俺は思うけど……はてさてどうなることやら。
「認めぬ、とはおかしいのブラコン覚? 例えお主が認めないと言ったところで、お主の選択肢は引き返す一択のオンリーワンじゃ。見苦しく足掻くのは賢いやり方とは思えぬがの」
露骨に敵意を示すキサナ。いや、これはわざとか。そうやって憎たらしい態度や発言をすることで、サトリを煽って面白がっているんだろう。やれやれ、良い性格したソウルフレンドですな。一度会っただけでサトリの扱い方を心得ているよ。
「ぐっ……で、でも、貴女と違って兄さんは賛同してくれました! 一応兄さんはこの屋敷の現当主なんですよね? なら貴女の発言よりも、兄さんの発言を優先させるのが必定だと私は思いますが?」
「……サトリ」
優しい目でサトリを見つめ、小さな肩にそっと手を置く。
「な、なんですか兄さん? そしてその目は一体なんですか? まるで私を哀れんでいるかのような……」
「サトリ……よく思い出してみて。さっきサトリは俺が許可を出してくれたって言ってたけど、俺は一度足りとも『良いよ』とは言ってないよ?」
「…………へ?」
目を点にして固まるサトリ。そしてここに来るまでの経緯を思い出すような素振りで首を傾げ、目を瞑って唸り声を漏らす。
その結果、本当に俺が『良いよ』と言っていなかったことに驚愕し、ムンクのような顔になって飛び上がった。
「ひ……酷いですよ兄さん! ここまで引っ張っておいて最後には突き放すんですか!? いつから貴方はそんな血も涙もない鬼畜の兄さんに成り下がってしまったんですか!?」
「いやぁ、確かに俺はここの主になってるわけだけど、あくまでそれは形だけだからね。実はそういう選択権は全部キサナに委ねてるんだよ。だから一番尊重される立場にあるのは俺よりキサナなんだよね。だからごめんねサトリ」
「そんなぁぁぁ!?」
がくりと項垂れて畳の上に両手を付くサトリ。歯を食い縛って涙目になり、親の仇のようにキサナを睨み付ける。
「な、なら私だけこの屋敷に住み移ります!」
「お主その性格からして、よく人に説教するタイプじゃろ? 我の生活スタイルに絶対ガミガミ口出しして来そうだし、それも断る」
「腹立つ! 腹立つこの白装束! 大っ嫌いです私この人っ!」
「まぁまぁ落ち着いてくださいサトリちゃん」
今にもべそかいて泣き出しそうなサトリを後ろから抱き抱え、よしよしと頭を撫でて宥める厠姉さん。
「仕方無いですし、今回は潔く諦めましょう。遊びに来るのは何度でも良いんでしょうし、今はそれだけで我慢しましょう」
「うむ。妹と違って姉はしっかり者じゃの。じゃがちなみにじゃ……」
厠姉さんの大人ぶりを褒め称えるや否や、キサナは急にニヤニヤ笑い出して横目で姉さんを見据えた。
「窮屈なのがNG。シロとの濃密な時間が減る。口うるさい説教者は受け付けない。まぁ、ここまで色々と理由を出したのじゃが……一番断るキッカケになったのは何じゃと思う?」
「え? 他にもまだ何か理由があるんですか?」
「ほほほっ、その通りじゃ。我はの……我自身とキャラ被りしているという存在があまり好ましくないのじゃ。これがどういうことか、お主には分かるか?」
「いえ、全然分かりませんけど……」
キャラ被り? キサナの視線からして、その対象者はどうやら厠姉さんらしい。一体キサナと厠姉さんの何が被っているというのか。
ふむ……こう見えてキサナは着痩せしているタイプだし、もしや胸の大きさだったり? いや、それでも厠姉さんの巨乳には敵わないだろうし、恐らく身体付きではない。
年の功の可能性は? 厠姉さんはこう見えて数百年は生きているらしく、キサナもまた長寿であると本人が語っていた時があった。被っていると言えば被っているが、何だかパッとしないからこれも違うだろう。
他にも色々と考えてみるが、全くアテが付かない。一体何が厠姉さんと被っていると言うのだろうか……?
すると、キサナは右手で目元を隠して腰の仰け反らせて妙なポーズを取り、左手で厠姉さんを指差した。
「長年の勘が告げとるのじゃよ……お主、自称エロスの塊じゃろ?」
「「……はいっ!?」」
俺だけでなく、思わずサトリも同時に仰天した。エロス? あの清純で卑しさの欠片もない厠姉さんが? 世界で一番エロと無縁っぽい女神様的ポジションである姉さんが?
キサナの勘はほぼ百発百中であたると自負している。しかし、今回ばかりはソウルフレンドであっても流石に疑ってしまう。
「キサナ、それはいくらなんでもあり得ないよ。昔悪戯でエロ本を姉さんに見せ付けたことがあったけど、真っ赤になって一ページも見られなかったくらいなんだよ?」
「そうですよ何言ってるんですか、ついに頭の中沸いてしまったんですか? 厠姉さんがエロい? 確かに身体付きは嫉妬を覚えるほどにアレですけど、でもあくまでそれだけです。私達の姉さんは清廉潔白、彩色美人で有名なトイレの女神様。邪な感情など何一つありません。ですよね厠姉さん? 強く言い返してやってくださいよこの愚か者に」
そう言って俺達は厠姉さんの顔を窺った。そしてその顔は――汗水で濡れ濡れだった。
「は、はははっ……お二人の言う通りですよ〜。もう〜、何変なこと言ってるんですか〜。私がエロスの化身だなんて……ソンナワケナイジャナイデスカ〜」
嘘下手っ!
「ほほほっ、我の目を誤魔化せるとでも。更に言うと、お主もまたそこのブラコン覚と同じく、ブラコン体質なんじゃろ? それも、極度に病んでしまう程の」
「…………ナンノコトデショウカ? ワタシアナタノイッテルコトワカラナイ」
あぁ駄目だ、焦り過ぎて言葉遣いがカタコトになってしまっている。嘘だろう厠姉さん? 姉さんがエロスだなんて……俺達の清純の象徴が、偽りの仮面を被ったピエロだったというのか。なんとジーザスな。
「あくまでシラを切るか。なら我が今ここで証明してやろう。お主が我と同じ、特殊な性癖を携えたエロスの女子であることをの」
厠姉さんが踵を返して逃走を図ろうと部屋を飛び出す。しかしその前にキサナが何処からか取り出した輪っか付きのロープを放り投げて、輪投げ名人も顔負けの腕で部屋を出る前の姉さんを捕らえた。
そのロープでぐるぐるに縛り付け、身動きが取れないように拘束する。これにより、姉さんの退路は一瞬のやり取りにて絶たれた。
「は、離してください! 私は無実です! 罪を犯した覚えはありません〜!」
「確かに犯してはおらぬの。どちらかと言えば犯されてる、と言った方が正しいのじゃろうし。無論、アッチ的な意味での。さて、それでは証明のお時間と参ろうかの」
キサナは姉さんを畳の上にそっと置いて立ち上がり、部屋の箪笥の中を漁って妙な形をしたカメラと、小さな謎の小型機械を取り出した。
「シロ。お主今トイレに行きたくはないかの?」
「トイレ? そう言われると……大小どっちもしたくなってきたかな」
ビクッと厠姉さんの肩が大きく跳ねて、それを見たキサナがニヤリと黒い笑みを浮かべる。
「ならこの映像付きビデオカメラを持って今すぐ出しに行くのじゃ。この部屋の中継はこの小型監視カメラでお送りするからの。此奴の変わり様をしかとその目に焼き付けておくと良い」
「……分かった。それじゃ行ってくるよ。サトリも大人しくしててね」
「は、はい……分かりました兄さん……」
そうして俺が去ろうとすると、動揺しまくりの姉さんが両足を使って俺の右足に絡んで来た。この体勢でよくこれだけ動けるものだ。
「は、早まらないでくださいシロちゃん! そんなことしても誰も得なんてしません! 得をするのは私だけ……あ゛っ」
追い詰められたことによるプレッシャーで墓穴を掘ってしまうトイレの女神。俺は一度厠姉さんと目を合わせると、さっきサトリにした哀れみの眼差しを送って微笑み、スルリと足の拘束から抜け出してトイレへと向かった。
「ま、待ってぇ〜! 待ってくださいシロちゃ〜ん! 今そんなことされたら私は……私は……いやぁぁぁ!」
初めて聞いたかもしれない厠姉さんのシャウトを背に、俺はビデオカメラを弄りながらトイレへと一目散に向かった。
〜※〜
トイレへと辿り着いた俺は、中に入って鍵を閉めた後にビデオカメラの電源を入れる。するとモニターに映像が映り、キサナの部屋が一望できるようになっていた。
「着いたかシロ。準備が出来たら喋ってくれ。それには通信機の役割も担われているからの」
「あ〜、あ〜……ホントだスゲェ〜」
何処で近代的な機械を調達したんだろうか。何にしても、今度これを使って猫さんに悪戯でも仕掛けてみたら面白いのでは? 怒られるの確定だけど次遊びに来た時にでもしてみよう。
「よし……ならまず、下半身丸出しにして便座に座っとくれ。一応ゆっくりの」
「だ、駄目ですシロちゃん! 今一度考えて直してくださ〜い!」
ごめんよ厠姉さん。でもこれは絶対に確かめなくちゃいけないことなんだ。貴女が偽りの仮面を被っているだなんて、俺にはとても耐えられない。例えどんな結末が待っていようと、俺は姉さんを受け入れるから……だから真の己を今ここで曝け出したまえ!
ズボンとパンツを脱いで準備完了。俺は言われた通り、ゆっくりと便座に腰を下ろした。
「あっ…………」
すると、早速向こう側にいる厠姉さんに変化が見えた。ずっと忙しなくジタバタ動き回っていたのに、急に顔を赤らめて顔付きがアレなものに変わった。
「シロちゃんの……シロちゃんのお尻が私の便座に……いや、止めて……」
「か、厠姉さん? どうしたんですか厠姉さん?」
その変わり様にサトリが不信感を抱き始める。しかしまだ自分の目を疑ってる感があるようで、キサナの言っていたことを半信半疑に受け取っているようだった。
しかし、ここからが本番。この先俺の行動で厠姉さんがどうなってしまうのか……少し期待しながら出せるものを出すことにする。
「ほほほっ、これでもう逃げ出す余裕も無くなったじゃろ。どれ、拘束を解いてやろうかの」
キサナは実に楽しそうにニヤニヤ笑い、厠姉さんの縄を解いた。晴れて自由の身となった姉さんだったが、逃げ出さずに横になったまま動くことはなかった。
さて、この後はどうしようか。取り敢えず、まずはこの座った状態のまま便座をお尻で摩ってみよう。
先に小便を済まさず、座ったままの状態で少し身動きを取ってみる。
「んっ……やっ……止めて……そんな撫で回さないで……」
ぷるぷると手を震わせてキュッと目を瞑る厠姉さん。なるほどなるほど、何となくもう察しがついた。これはそういう理屈なのか。これも厠神としての宿命というやつなのだろうか……。
おっと、流石に限界近くなってきた。先に小便だけでも済ませてしまおう。どういう反応取るのか気になるし。
一度動きを止めて精神統一。そしてカッと目を見開き、チョロチョロ音を立ててアレを出した。
「んんっ! 流れてくる……シロちゃんの液が私の便器水の中に……あぁんっ……」
厠姉さんは口元を緩めてニヤけながら、自分のお腹をそっと摩る。身籠っちゃった? 身籠っちゃったの? 液と便器水って比喩表現なの?
「ほぅほぅ……小さい方はこういう反応と……にしてもまだエロスが足りないの。これじゃ肩揉みされている時のような癒しと同じじゃ。シロ、もっと他に何かしてみとくれ」
「まぁそう急がないでよキサナ。もう要領は得たから、後はじっくりやってみるよ」
そう、それこそアレのようにじっくりと。何のことか気になる良い子は、お父さんにでも聞いてみて欲しいと助言しておく。
俺の考えからして、やれることは他にも様々だと見受けられる……が、今日のところは後三つだけ。それだけで俺は厠姉さんをイ――仕留めてみせようではないか。
まぁ、まずは先に大を済ませてしまおう。本格的なことはそれからだ。
グッと腰に力を入れて踏ん張る。厠神がいるこのボロ屋敷は今、何処で大をしようとも快便になる。それが厠姉さん随一の能力であったりする。最近便秘気味だったから丁度良かった。
少しの間だけ踏ん張ると、一気に出る感覚を覚える。俺はその状態を維持しつつ、ビデオカメラの映像に目を通した。
「あぁ! シロちゃんの……シロちゃんの物が少しずつ出てきて……入る……入っちゃいます……もう少しでシロちゃんのアレが……あっ! あぁんっ!」
出せるものを出した瞬間、厠姉さんの肩が一瞬だけ半端なく跳ね飛びあがった。ふむ、インパクトが違うだけに小より大の方が感覚的に気持ち良いものらしい。
さて、俺としては後二回が本命だ。俺は密かに好奇心を抱きつつ、お尻を拭いた後にズボンを履いて便座から立ち上がった。
便器と向かい合わせになってしゃがみ込み、横のトイレットペーパー置き場にビデオカメラを置いて、便座の蓋を両手で掴む。
そして、ゆっくりと蓋を閉めてみる。
「あんっ……」
すると厠姉さんが今度は、うつ伏せの状態になって腰を少しだけ浮かせたと思いきや、ビクンッと下半身が動いた。
今度はそっと蓋を開いてみる。
「あっ……」
まるでアレからアレがアレしたように、厠姉さんの顔が少し穏やかなものになる。
よし……ここで激しく責め立ててやろうではないか! 覚悟したまえ厠姉さん!
俺は少しずつ段階上げを蓋を開け閉めせず、いきなりバタンバタンッと便座の蓋を激しく開け閉めし始めた。
「あっ! やっ! やめっ! あんっ! 気持っ! あんっ! そんなっ! 便座のっ! 蓋をっ! 激しくっ! されたらっ! やんっ!」
便座の蓋が開け閉めされる度に厠姉さんの下半身が激しく揺れて、うっとりとした表情に険しさが入り混じる。その姿はハッキリ言ってかなりエロいのだが、俺の心の内から湧き上がってくるものは邪な感情などではなく、そのシュール過ぎる光景を見てしまっていることによる笑いだった。
こっちは客観的に見て意味不明なことをしているだけなのに、向こう側の厠姉さんは明らかにアレをしている真っ最中な姿。R指定としてこれはアウトなのか、それともセーフなのか。全ては謎に包まれてしまっているが、俺はもう腹を抱えて笑いを堪えるしかなかった。
便座の蓋を片手持ちに切り替えて、最後のトドメ用にとってある水を流すノズルを指で摘み、便座の蓋の開け閉めと同時進行でノズルを左右に軽く動かしてみる。流してしまわないように加減をしてゆっくりと。
「だ、駄目っ! 嫌っ! いやんっ! そんなっ! ことっ! されたらっ! 私っ! もうっ! イ(自主規制)」
厠姉さんが両手で自分の胸を強く掴みながら、激しく下半身を動かし続ける。
そして、最後のメインデッシュ。便座の蓋を閉めたままにして手を離し、大と書かれた方向にノズルを思い切り傾けた。
「らめぇぇぇぇぇ!!」
水が流れる大きな音の中に、厠姉さんの大きな喘ぎ声がボロ屋敷内に響き渡った。ビクビクと全身を震わせて散々悶えた反応を見せると、姉さんは満足げな良い笑顔のままぐったりと動かなくなった。
「ハァ……ハァ……シロちゃん……激しい……久し振りの……おトイレでした……あぁ……愛しのシロちゃん……今すぐそのお尻をペロペロしたいです……」
「…………」
サトリの中には既に、厠姉さんに対する憧れや尊敬という思いは残っていなかった。あるのはただ、顔にハッキリ出てしまうくらいの軽蔑の一文字であった。
「……そういえばなんですが……兄さんがトイレに行ってる時……厠姉さんを見掛けたことがありませんでした……」
「……そうか」
厠姉さんの真の姿に涙するサトリ。それを見たキサナは、大量の鼻血で顔を真っ赤に染め上げた状態のまま、そっと頭を撫でてあげていた。
この日を機会に、厠姉さんの名称は『美しい厠の女神様』ではなく、『エロ美しい厠の女神様(R18)』とキサナに改名されることになったのであった。




