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妖神坊

 そこはジャリングと呼ばれる巨大な島国である。

 この島国には大小様々な国が存在していたが、ある時を境に幾つかの国々が集まり、共和国を設立した。この背景には島国で発生した、長きに渡る大戦が原因だった。

 元々、魔力を扱う事の出来る人間種、エルフ種、獣人種の三大大国、そして幾つもの人種が存在していれば、考えが違うのは当たり前である。考え方が違えば必ず戦争は起きるもの。その戦を起こさない為に、各人種から数名の代表者を選び、国をまとめる事を決定したのであった。そして、この共和国の最大権力者には、あえて、人間、エルフ、獣人からではなく、共和国内でも小国から選出する事にしていた。その最大権力者の事を、人々はこう呼んだ。『大神官』と。

 この共和国の海岸沿いにシャビエルシーサイドホテルと呼ばれる高層ホテルが建っていた。

 表向きはシャビエル・エン・ガンベルと呼ばれる初老の男性が経営しているのだが、この男性には裏の顔があった。それは、この共和国の闇を仕切る人物なのである。扱う物はお金だけでなく、この国の最大自衛部隊『魔装騎兵隊』が扱う魔装具から色々だった。

 そんな裏の大人物が経営する高級ホテルのフロントロビーに一人の男性が現れた。

 アッシュグレイの髪に青と赤の瞳。

 歳は二十代半ば位で、中肉中背である。

 黒一色の服装で、右手には銀色の鞄を持っている。

 男性がロビー中央まで来ると、数人の男性が寄って来て、声をかけた。

 「失礼。ユーヤ様でいらっしゃいますか?」

 「えぇ。依頼人の代わりにコレを持ってきました」

 銀色の鞄を前に突き出して見せる。

 男達はそれを見てから、顔を見合わせ頷いてみせた。

 「では、ご案内致します」

 ユーヤは男達のあとについてエレベーターに乗り込み、最上階まで向かった。

 最上階へ到着し、エレベーターの扉が静かに開くと、眼前に赤い絨毯の敷き詰められた廊下の上に男達が並んでいた。その内の一人がユーヤに近づいてきて、

 「申し訳ございません。これより先は武器の所有が許されておりません。もし、武器を携帯されておりましたら、こちらでお預かりいたします」

 言って、両手を差し出してきた。

 ユーヤは一つ息を吐くと腰の後ろに差していた漆黒の小太刀を抜き、男に差し出した。

 「確かに。お帰りの際にお返しいたします」

 「丁寧に預かって下さいね」

 言ってユーヤは先に進んだ。そして突き当たりの部屋まで来ると扉の両側にいた男達が静かにその扉を開き、中へと入れてくれた。

 部屋の中は、さすが、ホテルのオーナーと言いたくなる部屋で、豪華な装飾品で飾り立てられていた。

 「お気に入り頂けましたかな?」

 声が聞こえてきた方へ視線を向けると長椅子に腰を下ろした初老の男性がそこにた。白髪交じりの髪の毛をオールバックで決め、高級な服で着飾っていた。

 ユーヤはこの初老の男性、シャビエル・エン・ガンベルに向かい静かに頭を下げてみせた。そして、

 「お初にお目にかかります。ユーヤと申します」

 「こちらこそ。シャビエルと申します」

 シャビエルはユーヤに座るよう、身振りで示した。

 「失礼します」

 一礼してから長椅子に腰を下ろし、大理石のテーブルの上に鞄を静かに置いた。

 「依頼人から預かってきた金幣1000枚です。お改めいただけますか?」

 この国の通貨は金の紙幣と、銀貨だけである。

 普通の生活をしていくだけならば、銀貨50枚あれば一月は生きていける。金弊5枚あれば5年は生活出来る世界である。その金弊が1000枚ということは普通の事をしていてはまず、手に入る事はない。つまり、普通でない何かをやらない限り、こんな大金を手にする事は出来ないのである。

 シャビエルの後ろに控えていた男が鞄に手を伸ばし、中身を確認する。そして鞄を閉めるとシャビエルの横に置いたのであった。

 「では、今度はこちらの番じゃな」

 高級そうな木箱がユーヤの前に出された。

 それをユーヤが開くと、中に漆黒の石が入っていた。

 それは『獅子の涙』と呼ばれる宝玉で、ある大陸の国宝だと言われる代物であった。

 「しかしまぁ、こんな小さな石がこんなにするんだからなぁ」

 ユーヤは箱を閉めると長椅子に深く腰掛け足を組んだ。

 「こんな物をどこで手に入れるんですかって質問は、したらいけないんでしょうね?」

 「色々とあるのですよ。それより、お酒は飲むかな?」

 「いえ、結構。それより煙草を頂きたいのですが・・・・・・」

 と言いながらユーヤは部屋を見渡した。どうみても、部屋の中に灰皿や煙草の類は置いていない。

 「すまいないが、私は煙草を辞めてね。灰皿ならばそこのテラスにある。すまんが、そこで吸ってもらってよいかな?」

 「構いませんよ。では少し、失礼」

 立ち上がり、テラスへ出ると煙草に火を点け煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 「おっ!?」

 煙草が指から離れ、下へ落ちていく。

 ユーヤは静かに溜息を吐いて新しい煙草に火を点けた。

 今度は落とさないように吸いながら夜空を見上げる。

 そして、部屋へ戻って来ると、再び長椅子に腰を下ろした。

 シャビエルはグラスに赤ワインを注ぎながら、

 「これからも、キミとは良い関係を続けていけたら良いな」

 「どうでしょうね。今回が最後になるかもしれません」

 意味深な言葉を口にして、ユーヤは木箱を手にした。それと同時に部屋の扉が勢い良く開き、男達が息を切らしながら飛び込んできた。

 「何事じゃ!?」

 シャビエルは目を見開き、怒声を張り上げた。

 「す、すいません、御大!! し、しかし、大変な事が・・・・・・!!」

 「だから何が起きた?」

 後ろに控えていた男が静かに尋ねると、

 「い、今、ロビーに魔装騎兵隊の連中が流れ込んできて、この階以外を全て制圧しています!!」

 「なんだと!?」

 ユーヤ以外の全員の顔に焦りが浮かぶ。

 「御大。今すぐこの部屋を出て隠し部屋へ。あとは我々がやりますので」

 「うむ。頼むぞ。さ、ユーヤ殿も」

 言ってユーヤの顔を見たが、ユーヤは椅子から腰を上げようとしなかった。

 「何をしておる。早く!!」

 「焦るなよ、ジイさん。アンタそれでも裏世界に長年君臨してきた大将か?」

 ゆっくりと足を組み直し、シャビエルと男達を見た。

 「な、なに?」

 「さっき言ったろ? 最後になるって」

 「き、貴様!! 政府の回し者か!?」

 ユーヤの後ろにいた男が飛び掛かってきた。だがユーヤはそれを軽く交わすと男の顔面に裏拳を食らわせ、鼻の骨を叩き折った。

 男は顔面を抑え膝から崩れ落ちた。そこへ今度は回し蹴りが後頭部にヒットし、そのまま床に落ちた。

 「もう少しで連中がここへ来る。さぁ。そこで問題です。俺を殺してここから逃げるか? それとも、俺に倒されて連中に拿捕されるか、二つに一つ。お任せするぜ?」

 首の骨と指を鳴らしながらユーヤは提案した。

 こんな提案されて、拿捕を選ぶ連中はまずいない。いたら、最初から悪人をしてはいないだろう。

 「お前ら!! コイツを殺れ!!」

 シャビエルの後ろで控えていた男がそう指示すると全員携帯していた武器を取り出し、ユーヤに襲いかかって来た。だが、その攻撃を簡単に交わしながら、ユーヤは自分の小太刀を預けた男の所へ行き、

 「俺の小太刀、返してもらうぜ」

 「な!?」

 男から小太刀を奪い返すと、鞘で鳩尾を付き、首筋へ思い切り叩きつけた。

 そして男達の中に入り込むと、全員の武器を叩き落とし、急所を尽く突いていった。そして、部屋と廊下にいた男達を全員気絶させると、シャビエルの方を見た。

 「年貢の納め時だな、シャビエル・エン・ガンベル」

 ユーヤは小太刀を腰の後ろに差し。煙草に火を点けた。それと同時に完全装備した者達が部屋へ突入してきて、気絶している男達を縛り上げていく。そんな中、軽装備でやって来た一人の男がいた。そしてシャビエルの前に立つと、

 「シャビエル・エン・ガンベル氏ですね? 私は魔装騎兵隊総指揮官、ギガイアスと申します。裏世界で悪名高い貴公にお会い出来て光栄です」

 「嫌味な男じゃな、貴様は・・・・・・」

 溜息を吐いて静かに立ち上がり両手を突き出した。

 ギガイアスは後ろの兵隊達に目配せして、シャビエルに手錠をかけさせ、連行した。

 煙草をくわえたまま、ユーヤはテラスに出て灰皿へ落とした。

 「ご苦労だったな、妖神坊」

 「・・・・・・」

 ユーヤは懐から木箱を取り出し、ギガイアスに投げて渡した。

 「頼まれてたもんだ。これでお前さんに頼まれてた仕事は終わりだ。報酬はあの鞄の中から頂くぜ」

 「あぁ。また、仕事を依頼するかもしれん。その時は頼むぞ、妖神坊」

 ギガイアスの言葉にユーヤは背中越しに手を振ってみせ、その場をあとにした。

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