称号を手に入れろ 4
「やっと終わったか」
動かなくなった肉塊を見て、アレフレッドが言った。
ミノタウロスを倒した達成感からか、気持ちが高揚している。
「そのようですね。お疲れ様でございます」
マキシがタオルを差し出しながら言う。
「お疲れさまです。回復」
四人の身体に受けた傷や、疲労感が消えていく。
「お疲れさま。で、僕たちはここからが本番だ。あのドアの向こうに報酬があるはず。そして、リリアーナがいるとしたらその部屋だと思う」
と、ルークが言った。
「念の為、フードを被って行こう。他の冒険者と鉢合わせる可能性も無いとは言い切れない」
アレフレッドの言葉に、他の三人が納得したようにフードを被る。
アレフレッドもフードを被ると、鍵をドアのカギ穴に差し込んだ。
鍵を左右に回しても、何の手応えは無かった。
―――パキンッ
カシャ――――ン!!
「今の音は?」
「わかりませんが、可能性に掛けてみましょう」
ベンフィカ兄弟の会話に、マキシも頷いた。
実際、そうすることしか、彼らには他に手が無いからだ。
「開けるよ」
そう言って、アレフレッドはドアを開いた。
部屋の向こう側は、真っ白な部屋だった。
色とりどりの魔晶石と呼ばれる魔力が込められた石が散乱し、その中心に三歳位の少女がいた。
リリアーナじゃない……。
アレフレッドは愕然とし、立ち止まった。
少女は不自然な程大きな服を着て、何やら一人で話しているようだった。
「はい。だいじょうぶです。たすけてくれて、ありがとうございます」
音が聞こえたのか、少女が振り返る。
「入らないなら、僕が入るよ」
ルークが部屋に入ると、少女は大きなエメラルドの瞳を更に大きくさせ、驚愕の表情を浮かべた。
ロナウドよりは青く、ルークより淡い色をしたプラチナブルーの髪。
二人と同じエメラルド色をした瞳。
姿は幼いが、リリアーナだ。
「本当に、あの頃のリリアだな。助けに来たよ、僕の姫」
ルークが懐かし気に、少女を抱き上げる。
アレフレッドも部屋に入った。
予想した通り、他の冒険者たちが少女、リリアーナを見ている。
イベントのチャンネルが複数あるのは、アプリと同じ仕様みたいだ。
冒険者たちは、リリアーナの側にいるルークやアレフレッドに気付き、自分たちもこの部屋に入ろうとしているようだった。
「何でアイツらだけ入れるんだよ! クソッ! もう1回やるぞ!」
試しても入れなかったからか、他の冒険者たちが次々と消えて行く。
もう、このイベント空間にアクセスしている、他の冒険者たちはいないようだ。
顔を隠す必要は無いなと、アレフレッドは思った。
「あの、たすけてくれてありがとうございました」
言葉とは裏腹に、怯えた様子でリリアーナがルークに答えていた。
ルークの胸に腕をつっぱらせ、必死に距離を取っている様子が窺えた。
「私は屋敷に戻って、先に報告してきます。リリアーナお嬢様を、どうかよろしくお願い致します」
三人の様子を入り口から見ていたカナンは、マキシとロナウドにだけ話した。
「わかった」
ロナウドが答え、マキシが頷くと、カナンの姿は忽然と消えた。
カナンが移動したのが主人であるルークに伝わったのだろう。
ルークがロナウドたちのいる方を見た。
「多分、大丈夫だ。みんな、フードを外していいぞ。って、何、リリーをビビらせているんだよ!」
アレフレッドはリリアーナをルークから取り上げる。
その声に、リリアーナがハッとして声を出した。
「あれふさま?」
「ああ、そうだよ。大丈夫だった?」
アレフレッドは外套を脱ぎ、リリアーナにかけてやる。
安心した様子でリリアーナが笑顔で頷いた。
「念のため、フードを被れと言ったのはお前だろう。リリアーナを返せ」
怒気を含んだ声でルークが叫ぶ。
「誰が」
フードを外したルークを見て、リリアーナはアレフレッドの首に回した腕に力を込めた。
「ルークおにいさま……」
リリアーナの怯えた様子を見て、ルークは更にショックを受けているようだった。
白い部屋を出ると、リリアーナが元の15歳の姿に戻る。
それまでアレフレッドの首にしがみつくように回していた腕をそっと離し、ショルダーガードを掴む。
顔を隠しているが、恥じらう様子がありありと伝わっていた。
アレフレッドは小さく笑い、リリアーナの顔をすっぽりと覆うようにフードを被せる。
そして、彼らの姿はイベントルームから移動した。
翌日。
アレフレッド、ルーク、ロナウドの三人は、昨日と同じイベントルームに向かった。
ミノタウロスを倒して奥のドアを探したが、ドアは無い。
「『お助けくださってありがとうございます』
リリア姫は救出されました!」
どこからともなくメッセージが聞こえたと思ったら、イベントルームより出されていた。
「昨日の出来事は、何だったんだ? リリーはなぜイベントルームに引き込まれたんだ? 理由も原因もわからないままだなんて、あってはならないのに」
勢いよくグラスを置いたアレフレッドは、怒りを露わにして叫んだ。
近くにいた冒険者たちの視線が集まったが、アレフレッドは気付かない。
冒険者ギルドの受付でイベントの詳細を確認したが、詳細はわからないの一点張りだった。
何軒か酒場を回り、他の冒険者たちにも話を聞いたが大した収穫は無かった。
「運営に質問をしてみる? 返事は来ないだろうけれど」
不具合等の連絡をして返事が返ってきたとしても、それは決まりきった内容が返って来るだけだと言う。
アレフレッドとルークは話を聞く度にエールや果実酒を飲まされ、既に出来上がっていた。
酒に弱いロナウドだけは、運転手と言うこともあって飲んではいない為、必然的に二人を窘める。
「二人とも、飲み過ぎです。そろそろ戻りましょう」
「何を言っているんだ、ロナウド。これからミノタウロスのステーキを食べに行くんだから! 行くぞ、アレフ!」
ルークが立ち上がると外へ歩いて行く。
「しっかたないな! 行ってやるよ、お兄様」
続いてアレフレッドも席を立つ。
「キモ! 僕の事を兄と呼んでいいのは、リリアーナだけだ」
「そういう事言ってるから、リリーに避けられるんだろ!」
二人は言い合いながら、酒場から出て行ってしまった。
「あ、おい。待て二人共! すまない、支払いを頼む」
ロナウドが適当に金をテーブルに置く。
「ああ。一緒に払っておいてやるよ」
近くにいた顔見知りの剣士が、金を受け取って答えた。
「子守りも大変ね」
剣士の隣に座る女司祭が苦笑いを浮かべて話す。
「全くだ。それじゃ」
ロナウドは二人を追い駆ける。
二人は酒場の外でも何やら言い合っていた。
既に話の内容は、リリアーナとは関係ない話のようだ。
「二人共、行くぞ」
ロナウドの声に、アレフレッドとルークの言葉が止まる。
「行くって、どこへだ?」
二人は自分たちが話していた内容も覚えていないようだ。
「ミノタウロスのステーキを食べに行くのでしょう。その店には駐車場がありますから、車でご案内致します」
そう言って、ロナウドは二人の返事を聞かずに駐車場へと歩き出した。
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