称号を手に入れろ 3
ヒュン!
ルークの顔面スレスレを斧がブーメランのように飛び、持ち主の手へと戻って行った。
二足歩行している人面牛が立っている。
「ボスはミノタウロスか」
ミノタウロスは、普段ならソシオの洞窟にはいないモンスター。
GWイベント仕様のボスのようだ。
「モー。何度来ても娘は渡さないぞ! モー!」
恐ろしい外見に反して、『モー』と鳴く声は意外に可愛らしい。
「モンスターなのに、言葉を話すのか」
面食らったようにアレフレッドが言う。
同じく、マキシも驚いた様子で呟く。
「モーって、案外可愛く鳴きますね」
「おいおい。ミノタウロスは初めてか? 頭は悪いから簡単な思考能力と会話しかできないが、パワーは凄いよ」
「火属性の魔法も使います。私とルークは相性も悪い。油断しないように」
「わかった。行くぞ!」
アレフレッドがバスタードソードを構え、ミノタウロスに向かって行く。
「はぁぁあああ!!」
上段から一気に振り下ろす。
ミノタウロスの腕を浅く切り裂いた。
「なっ! 全然効いていない」
効果は今ひとつのようだ。
動揺するアレフレッドに、ミノタウロスが斧を振りかざした。
左足を狙った攻撃を、右足を軸に身体をひねって躱す。
「氷の矢」
複数の氷の矢がミノタウロスの後頭部に突き刺さる。
「モォー!」
怒り狂ったように斧を滅茶苦茶に振り回した。
仕掛けようとしていたマキシは、戸惑ったように足を止め、下段から上に空を切り裂く。
「疾風!」
刀から生じた剣圧を飛ばしたが、ミノタウロスの斧に弾き飛ばされてしまう。
「氷弾」
ミノタウロスの足が凍り付いた。
「物理より、魔法が効くみたいだな」
「ああ。ミノタウロスは脳筋だから、物理は厳しいぞ」
アレフレッドの言葉に次の呪文の準備をしながらルークが答える。
「なるほどな。光の爆弾」
光がミノタウロスの左胸で爆発し、左腕がはじけ飛ぶ。
血生臭さと獣臭さが辺りに漂い始めた。
「嫌な臭いだな」
「ところがこうすると、炎の玉」
ルークが狙いを定めたように左胸に炎の玉が着弾した。
焼肉のような臭いが充満する。
「うわ。グロいのに、段々いい匂いに思えてくる。止めろよ! ステーキが食えなくなるだろ!」
「繊細だな。ミノタウロスの肉で作ったステーキは旨いんだよ」
ルークの言葉にロナウドも頷く。
「げぇ! 食うのかよ」
「酒場に行ったら、そんなメニューゴロゴロしてるよ」
「そうか。モンスターの肉料理って、異世界っぽいな」
アレフレッドが何でも無い風を装って、一人呟いた。
そこにミノタウロスから火の玉が、カナンから突風が2人を襲う。
「うわあー!」
「あっちー! 何だよ」
火と風が相乗効果をもたらし、アレフレッドとルークにダメージを与える。
効果は抜群だ!
「マスター、今は戦闘中でございます。早くリリアーナお嬢様をお救いしなければいけないのに、なぜ無駄話をされているのでしょうか?」
「だからって、ミノタウロスの攻撃に合わせてやるなんて!」
「偶然でございます。ツッコミのタイミングは今だと。ええ。偶然でございます。ふふふ」
笑いながら、手につむじ風を起こし、息を吹きかける。
防御力と魔法抵抗力上昇が切れたタイミングを付いたらしい。
「……ペットがこんな態度を取るものだとは思わなかった」
アレフレッドにはペットは主人の後を付いて歩くと言う、忠犬の様なイメージしかなかった。
時折、話しかけてきたり、ペットによってはスキルで主人を助ける種類もある。
ゲームのペットで反抗的な者がいるとは、攻略サイトでも聞いたことが無い。
「それは、僕もだ」
二人が話していると、カナンがジロリと睨んでいる。
「ルーク、殿下。早くミノタウロスを仕留めましょう。そうしないと、我々が危険です」
ロナウドがカナンを意味深に見て言った。
ふわりと空に浮いたカナンの手がプリズムのように輝き、段々と光を増していく。
誰に向かって放つのか、カナンの視線の先には誰もいないので、わからなかった。
「ダイヤモンドダスト」
「破壊せよ」
ミノタウロスの身体が凍り付いた部分が破裂し吹き飛んでいった。
身体の1/3位が無くなっても動く様は不気味だ。
アレフレッドは込み上がってくる吐き気を押え、慌てて剣を振るった。
ガキーン
ミノタウロスの接近を許してしまっていたらしく、襲い掛かる斧をアレフレッドは剣で受け止める。
「くっ!」
なんて重さだ。
斧を跳ね返すことができずに、剣の角度を変えて勢いを殺ぐ。
「二段斬り」
マキシの刀が素早く斬りつけ、ミノタウロスの右腕を切り落とす。
両腕が無くなり、ミノタウロスの斧を使った攻撃は止んだ。
それでも、体当たりや頭の角を使った攻撃が繰り出される。
火属性の魔法の攻撃も増えた。
ロナウドは回復魔法を絶え間なく唱え続けていた。
ミノタウロスは肉の塊になっているが、無駄に多いHPを削りきるまで戦闘は続いた。
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