称号を手に入れろ 2
何度目だろう?
モンスターの攻撃で、マキシが倒れるのを見るのは。
スマホの画面を操作している時は何とも思わなかった、仲間の気絶。
目の前で起こると、とてつもない恐怖に襲われる。
プリーストのロナウドが蘇生呪文を唱えると、何事も無かったようにマキシが立ち上がるのが見えた。
「ありがとうございます。ロナウド」
「礼には及ばぬ」
会話の内容は、チャットと変わらないな。
話をする2人を見て、アレフレッドは思った。
バスッ!!
左肩に鈍い痛みが走った。
よそ見をしていた隙を突かれたらしい。
鰐のようなモンスター、クロコダイルウォーリアの尾が直撃していた。
ヤバイ。戦闘中だった。
アレフレッドが痛みに顔を顰めると、更に追撃しようとクロコダイルウォーリアが迫る。
「石の矢」
クロコダイルウォーリアに無数の石矢が突き刺さる。
ルークの呪文だ。
動きを止めた隙を付いて、アレフレッドが剣で薙ぎ払って後ろに下がった。
「突き刺され、岩の柱」
鋭い岩がクロコダイルウォーリアに突き刺さり、そのまま動かなくなる。
動かなくなったのを見届けて、アレフレッドは後ろを振り返った。
ルークは呪文を唱えた体勢のまま硬直していた。
ディレィが長いスキルだったのだろう。
ルークのような魔法職は、スキルを使う前に呪文の詠唱があり、使用後もすぐに行動することができなくなるディレィが長い。
前衛職と言われる戦士系の職は、スキルのディレィが少ない場合が多い。
「悪い、助かった」
「大丈夫か? 気持ちはわからなくもないが、油断するなよ。ロナウド!」
ルークの声にロナウドがやってきた。
「失礼致します、殿下。……回復」
ロナウドの呪文が発動し、柔らかな光がアレフレッドを包む。
目に見えていた傷が塞がり、痛みが消える。
「ありがとう、ロナウド」
「当然の事をしたまでです。それにしても、お強いですね。クロコダイルウォーリアの一撃が致命傷にもならないとは」
「ここのクロコダイルウォーリアは、動きが速いだけだから大して痛くないんだよ。前衛職だとここのモンスターの中では戦いやすい相手だし」
「そうでしたか。私たちからしたら、戦闘になるのは避けたい相手ですね」
ロナウドの言葉にルークも相槌を打つ。
「そうだね。素早いから攻撃を避けるのが大変なんだよな」
「そんなもんなんだな。さ、先に進もう。油を売ってる暇は無いんだから」
「ああ」
ルークは返事をすると先頭に立って歩き出した。
「殿下、大丈夫でしょうか?」
歩きながらマキシが尋ねる。
戦闘が終わる度に、毎回聞いていた。
「大丈夫だ。俺はここのモンスターで致命傷を受けるのはいないから。それより、マキシが気を付けろ。レベル差があるのに俺からヘイトを奪うなんて。やっぱりスキルの使い方か? そうそう。スキルの上げ方は考えてやれよ。スキルツリーの進め方に由って、取れなくなるスキルもあるから」
「はい」
クラスによって取得できるスキルが異なるが、同じクラスでも目指す戦闘スタイルによってスキルの取得方法が異なってくる。
再振りすることも可能だが、今、彼らは急いでいた。
屋敷から姿を消した婚約者のリリアーナを探しているからだ。
「切り裂け」
スパスパー。
ぶしゃーー!!
「突き刺され、岩の柱」
すどーん!
「火の海となれ」
ごぉぉぉぉおおおおおお!
メラメラメラ……。
先頭のルークが魔法を唱えながら歩いて行く。
一撃で敵を葬り去っているらしい。
ルークの後ろを歩く、マキシのレベルが面白いように上がっていった。
「容赦ないな」
アレフレッドがボソリと言うと、ルークが振り返らずに答える。
「一撃必殺しないと、コッチが危ないんだよ。一撃でも食らったら瀕死か、即死だ」
「なるほど」
二人とも何も言わなかったが、マキシが倒れるのを見るのが辛かったのだ。
その後も、ルークの魔法で敵を殲滅しながら進む。
それでも、次第にマキシのレベルの上がり方が緩やかになっていった。
ふと、先頭を歩いているルークが扉の前で足を止めた。
「ここが、この洞窟のボス部屋だ。リリアーナがいるとしたら、この奥だと思う。入ってすぐ戦闘になるだろうから、補助を掛けるなら今掛けてくれ」
ルークの言葉に、ロナウドが祝福や速度上昇を掛ける。
「来い、カナン」
「お呼びでございますか? 主人」
突如現れたメイドのカナンにマキシとアレフレッドが驚く。
「か、カナンさん?! ルーク、危険でしょう。なぜ、カナンさんをここに呼ばれたのですか?」
余程驚いたのか、マキシが珍しく言葉を詰まらせて言う。
「カナンはメイドの真似事をしているが、れっきとした僕のペットだよ。なぜか、リリアーナが気に入ったらしくて、学園の寮にまで付いて行ってしまったけれど」
カナンが動く度に爽やかな風が生じて、鬱屈した洞窟の空気を吹き飛ばしていく。
「ペット? もしかして、風の精霊なのか?」
MSGのペットシステムは、モンスターを捕獲機で卵にして捕まえるか、ショッピングモールで課金して買う方法がある。
風の精霊は、ショッピングモールでは売られず、自力で捕獲しなければならない。
高レベルの風の精霊を倒し、卵にできるかはよっぽど運が良くないとできない芸当だ。
「はい。アレフレッド殿下。リリアーナお嬢様には、ご内密にお願い致します」
アレフの疑問に、カナンが答える。
手に、小さなつむじ風を作りながら。
「あ、ああ。マキシも命が惜しかったら、リリーには内緒にしてくれ」
「かしこまりました」
二人の様子を満足そうに頷くと、カナンがクルリと回った。
頭のてっぺんで纏めてあった髪が解け、はちみつ色の緩やかなウエーブがかった髪がそよ風のように揺れ、メイド姿から風の精霊らしい新緑色のふわりとしたドレス姿に変わる。
カナンが片手に持っていたつむじ風に息を吹きかけると、全員に風が纏わりつく。
防御力上昇と魔法抵抗力上昇のようだ。
「準備はいい? 行くよ」
皆が頷くのを見て、ルークはドアを開けた。
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