称号を手に入れろ 1
数百年の時を経て太陽と月が重なるEclipseの時。
異世界へのGateが開かれる。
今。
ここに2つの世界が繋がる。
薄暗い魔法の明かりが灯された空間に、突如として4人の男たちの姿が現れた。
魔法の明かりに灯された、掲示板があるだけのやや広いゲート。
「ここは、どこだ?」
金茶色の髪をした男、いや、あどけなさが残る顔は少年と言ったところか。
四人の中では一番年若い。
剣士風の少年、アレフレッドが三人に尋ねた。
「僕はリスロアだと思う。ロナウドはどう思う?」
青味の強いブループラチナの髪を短く切り揃えた魔術師、ルークが周囲を確かめるように隣にいる青年に聞く。
「風が無いので、ソシオの森にある洞窟の掲示板だろう」
ロナウドと呼ばれた、プラチナブロンドの髪を肩まで伸ばしたプリーストが答える。
髪の色は違うが、同じエメラルド色の瞳をしたルークとロナウドの相貌はよく似ていた。
「この掲示板に書かれてはいないのですか?」
この四人の中で一人だけ装備が真新しいマキシが、確認するように掲示板に近付いた。。
ルークよりも更に青い髪を後ろで束ね、腰に刀を差している。
彼らは、掲示板と呼ばれるゲートを使って、イベントに参加している冒険者たちだ。
「書いてなかったと思うな。ソシオの洞窟だとわかったんだ。問題ないよ。それより、早く進もう」
アレフレッドが皆の返事を待たずに奥へと歩き出す。
走り出したわけでもないのに、姿があっと言う間に見えなくなる。
掲示板の場所は、モンスターが出現しない中立地帯だ。
「おい! 勝手な行動を取るんじゃない! お前たちは僕たちから離れないようにしないと危ない。ここは初心者が来るような場所じゃないんだから」
ルークが叫びながらアレフレッドの後を追うと、掲示板を見ていたマキシとロナウドも慌てて二人の後を追った。
四人がいなくなった掲示板に、再び静けさが訪れる。
次の冒険者を迎える為に。
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「こんなに返り血を浴びるなんて思ってもいなかった。汚ねぇ」
外套のフードを外したアレフレッドにマキシがタオルを差し出す。
二人とも、モンスターの赤黒い血で汚れている。
「剣で戦っていたら当然だろう。拭かなくてもすぐに消えるけれど。……それにしても、王宮にお住まいの王子様のレベルは幾つなんだ? ここは属性魔法を得意とするモンスターが多いから、前衛職だとキツイ狩場なのに」
「光属性だからな。属性魔法なんて当たるかよ。うわ! 本当にモンスターの血が消えた」
アレフレッドは、驚いたように自分の身体を見回す。
倒したモンスターも経過時間と共に姿を消し、ドロップアイテムだけが床に転がっていた。
本当に、ここはゲームの世界なんだ。
漠然とした思いで、アレフレッドはドロップアイテムを見つめていた。
元の世界でやっていた携帯ゲーム、Magic Sword Gate。
通称、MSG。
アレフレッドは気付けば見知らぬ学校の一生徒となっていた。
手元にあった物の中で、唯一、見覚えのあった物が一枚の冒険者カード。
名前は若干違ったが、元の世界で作ったMSGのキャラクターだった。
せっかくなんだから冒険に出たいと思っていたが、なぜか第二王子になっていて王族と言う身分上、勝手なことはできなかった。
そして今、屋敷から忽然と姿が消えた婚約者リリアーナは、突然公開されたイベント、『称号を手に入れろ!』に出てくる悲劇のお姫様リリアでは、と四人は考えている。
MSGで一年前に行われたこのイベントの後、好評だったからと言う理由で、リリアはモンスターとして再登場していた。
モンスターに。
それだけは、絶対に防がなければいけない。
「風よ」
ルークが持つ、緑色の宝玉が付いたスタッフから生まれた突風がアレフレッドを襲う。
「ぶっ! 何するんだよ、ルーク!」
ダメージは無かったが、考え事をしている最中に不意を突かれ、風を顔面に食らったアレフレッドが叫んだ。
「いや、何となく。五属性持ちの代表として、一撃、喰らわせなければイケない雰囲気だったんだ。気にするな」
「気にするだろう! 光!」
アレフレッドの手から光の玉が生まれルークに向かって行ったが、横に躱される。
「何だよ。光属性も大したことないな」
あらぬ方向へ消えて行った光の玉を見ていたルークは、アレフレッドを振り返りにやりと笑った。
「へぇ、剣で勝負するか?」
「王子様は、この僕に剣だったら勝てるとでも思っているのかい?」
柄に填め込まれた緑の宝玉が付いたバスタードソードを右手で構えるアレフレッドに対峙して、ルークがスタッフを構える。
すぐ傍で、止めるに止められずにいたマキシに、ロナウドが近付いて行った。
「マキシ様。先程、怪我をされたように拝見いたしました。治療いたしますのでしばらく動かないでください」
ロナウドが手をマキシに向け、呪文の詠唱を始める。
「回復」
柔らかな光がマキシを包む。
「ありがとうございます。ロナウド様、お二人を止めなくてもよろしいのでしょうか?」
「先を急がなければいけないことは確かですが、二人共不安なのでしょう。ストレスを溜め込むよりは、怪我をしない程度に発散させれば良いと思います」
「左様でございますか」
剣を振るうアレフレッドに対し、防戦一方になっているルーク。
二人の持つ武器には、同じ宝玉が煌めいていた。
この世界の生物、植物全てに魔力が備わっている。
魔力には、木、火、土、風、水、光、癒、闇の八種類の属性があり、必ず得意な属性を持つ。
大抵は、五属性と言われる木、火、土、風、水のどれかを得意とする。
光と癒は似通った属性で、攻撃に特化したものが光、回復や補助を得意とする属性は癒とされている。
光は王族の男子、癒は司祭の家系にしか具現しない特殊な属性。
闇属性は、アンデッドモンスターのみが持つと言われ、命ある生物には具現しない属性である。
得意な属性はスキルを使用する上で、効果を上昇させる働きがある。
スキルは、クラスに拠って使用できるスキルが異なり、取得も修練の上げ方も自分好みにカスタマイズできる。
修練を重ねると、得意属性で無いものでも強くする事ができ、装備に属性を付加する事で、得意属性を変更することが可能だ。
「殿下、ルーク。そろそろお止めください。先に進みましょう」
ロナウドの声に、二人はピタリと止まる。
「決着は次の休憩の時だからな」
「ああ。つきあってやる」
アレフレッドは剣を背中に仕舞うと、歩き出す。
「殿下、私が先に行きますので、先頭を歩かないでください」
「マキシが先頭を歩く方が危ないだろう。今日、冒険者になったばかりなんだから」
「それでも、このような場所で殿下を先にする訳には参りません」
自分の護衛であるマキシの生真面目さに、アレフレッドはため息をついた。
元々、冒険者だった二人とは違い、マキシはここに来る直前に冒険者ギルドで冒険者になったばかり。
アレフレッドの護衛として武術の心得はあるものの、冒険者としては今の戦闘でレベルが12になった初心者にしかすぎない。
ソシオの森は、推奨レベル50以上の狩場。
自分たちより弱いマキシを先頭にするつもりは毛頭ない。
「僕、マキシ様、アレフ、ロナウドの順で行こう。僕やロナウドはソシオの洞窟に精通しているし、魔法にも耐性があるから平気だ。」
「そうですね。ここは、我が侯爵領。我々にとっては庭みたいな場所です」
リスロアと呼ばれる地域はベンフィカ侯爵領であり、ロナウドとルークはベンフィカ侯爵家の子息だ。
「わかりました」
マキシが頷くのを見て、ルークは前に出る。
「恐れながら、私に敬称を付ける必要はございません。どうか、マキシとお呼びください」
マキシはソルーア王国に代々仕える執事、フラガ大公家の子息であり、第二王子アレフレッド・ソルーアの専属執事として子爵の爵位を持っている。
ロナウドとルークは侯爵家の子息だが、まだ爵位を譲渡していない。その為、子爵であるマキシに敬称を付けて呼んでいた。
「わかりました。それでは、マキシ。私たちのことも、ロナウド、ルークとお呼びください」
ルークが第二王子であるアレフレッドに敬称を付けないのは、彼らの妹の婚約者だからである。
妹を溺愛するルークにとって、嫌な存在でしかなかった。
「そうだね。一時とは言え、パーティなんだから無礼講で行こう」
三人の会話に区切りが付くのを待っていたかのようにアレフレッドが立ち上がった。
「それじゃ行くぞ。本当にこのイベと、リリアーナが関連しているのかわからないんだから」
「ああ。最深部への近道はコッチだ」
魔法の明かりに照らされた洞窟に、彼らの歩く靴音が響き渡った。
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