それぞれの動き
お久しぶりです。
強引なところがいろいろとありますが、暖かい目で見て貰えると有難いです。
後、視点がコロコロと変わります。
11/29 雪崎詩織から冬月詩織に変更
ーーシュネージュ王国領 カセリヌ島
カセリヌ島にある北方方面海軍基地。北西ーーシラビア海域や北のソロモン海域に住み着く魔物の脅威から国を防衛する一大拠点。その基地の執務室に司令官らしき一人の男が手元にある数枚の資料を見ながら電話をかけていた。
「にわかに信じがたいが……本当なのかね?」
『私もこの報告は信じられないのですが、監視対象であるロイバァ率いるデロタ海賊艦隊が一隻も残らず全滅したとのことです』
電話の相手はその男の部下であるようだ。
「魔物か何かか?」
『いえ。偵察艦隊のレーダーに魔核の反応はなかったようです』
「……」
男は顎に手を添え思案する。
(魔物ではないとすると……高ランクの冒険者パーティか?いや、幾らなんでも200隻近い船団を一隻残らず沈めるなどまずあり得ん)
男は高ランクの冒険者パーティではないかと予想するが、すぐにそれはないと考える。SSSランクの魔物とまともにやりあえる実力を持った世界最強のパーティである"シュヴァルツ・フリート"でも数百もの船団を一隻残らず沈めたという情報はない。
ーーーでは一体何者が?
「……正体を突き止める必要があるな。暫くの間シラビア海域への航行を全面禁止とすると全て冒険者ギルドに伝えろ。そして、当海域モーラ島付近に"フェアリー"を向かわせ、調査に当たらせる」
『調査にあの精鋭飛行艦隊をですか?他の艦隊を向かわせた方がよろしいのでは?』
「対象は数百もの船団を全滅させた"何か"だ。彼女達以外では調査も碌に出来ん」
『……わかりました。すぐに彼女達に通達します』
男の部下はそう言って電話を切った。
「ありえんかもしれんが……」
北方方面軍総司令官ーーガリア・ネーヴェルは壁に貼られている一枚の写真を見る。
「それがもし″奴″だったら」
その写真には100門もの主砲を装備した巨大な″何か″が写っていた。
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アントリューズ帝国 首都ロウナ
「デロタ海賊艦隊が正体不明艦隊の攻撃を受けて壊滅した、か」
一枚の報告書を見てそう呟いたのは帝国軍総司令官、ゲルグ・レーゲン。歳は53。がっしりとした体型に荒々しい赤髪が特徴の男だ。
「司令、これは我が国が勢力を広げるチャンスでは?」
「そうです。あの忌々しい海賊が壊滅した今、シラビア海域の島々を占領して領土を広げる絶好の機会です」
ゲルグにシラビア海域への侵攻を主張するのは、オールバックで肥えた体をしたシュヴァイン・ヘスリヒ大佐とモヒカンで痩せこけた体格をしたガストーロ・ルジット少佐。二人とも上級貴族出身で南方方面軍の指揮官だ。尚、実力ではなく親のコネである。
「司令、陛下や議会にシラビア海域への進軍を容認して頂きたい」
シュヴァインが数枚の紙をゲルグに渡す。その紙には進軍する兵力の詳細及び侵攻プランが書かれていた。
「正気か?あそこにはあの正体不明の艦隊がいる可能性が高い。仮に衝突したら君達は勝てるのかね?」
「心配ありません。我が海軍にはアスリア共和国からの技術支援を受けて完成させた新型の電磁加速砲があります。その威力は巡洋艦型魔物を一撃で葬り去る程です。これさえあれば、たとえ正体不明の艦隊が来ようが我が海軍の敵ではありません」
「我が海軍の物量と火力を持ってすれば討伐も容易かと。後に残るのはカスにも等しい魔物共のみです」
自信有り気な二人の返答にゲルグは眼を細める。
「……そうか。一応このことは陛下や議会に伝えておくとしよう」
「では、お願いします」
二人は敬礼し、ゲルグの部屋から退室した。
「……議会はともかく皇帝陛下はこの案件は却下するだろうな」
扉を見ながらゲルグは書類の作成に取り掛かった。
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シュネージュ王国 海上都市エラヌス
シュネージュ王国の北側に位置するエラヌスは多数の冒険者が多数集まる活気盛んな巨大海上都市だ。
北東のミドウェー海域の新鮮な魚介類を使った海鮮料理が食べられる宿屋や北西のシラビア海域で採掘できる豊富な希少鉱物資源を使用した兵器を製造する熟練の工員がいる造船所等、冒険者にとって活動の拠点にしやすく過ごしやすい場所でもある。
ちなみにエラヌスにも冒険者ギルドは存在するがその規模は非常に大きい。どれくらいかといえば、千隻以上もの艦船を駐船できる港(普通のギルドの港は50〜150隻程度)や、施設内に高級ホテル並みの豪華さを持った酒場や会場があるなど、質・設備は他の国の冒険者ギルドよりも遥かに上回っている。
閑話休題
ピーン
ギルドの入口の自動ドアが開かれ、そこから黒と蒼で構成されたレオタード風の服に黒のニーソを着た少女が入ってくる。大半の男性冒険者達が見惚れている中、本人は特に気にせず受付会場へと向かい、受付嬢の一人に話しかける。
「あの……」
「あらシオリさん。どうかされましたか?」
シオリと言われたこの少女。彼女の名は冬月詩織。抜群のプロポーションに腰まで伸ばした滑らかな黒髪が特徴の少女だ。
「はい、依頼達成の報告をしたいのですが」
彼女はクエストの達成を報告しに来たのである。
「ではタブレットの記録メモリをこちらの機械に刺して下さい」
詩織はタブレットの左側についている記録メモリを抜いてその機械に差し込む。
「記録メモリ通り、サウスカロライナ級3隻撃沈のクエスト達成が確認されました。報酬として約150000セルが渡されます。どうぞお受け取り下さい」
「はい、ありがとうございます」
ギルドの受付嬢が詩織に一枚のカードを渡す。それを受け取った彼女はカードをタブレットの右横に付いているキーに差し込んで引いた。すると画面上に報酬金額が表示され、右上の合計所持金に加算される。そしてカードは光の粒子となって消えた。
「またのご利用をお待ちしております」
受付嬢のお辞儀に一礼し返し、そのままギルドを出た。
「詩織ちゃん!こっちこっち!」
ギルドを出た詩織に手を振るもう一人の少女。
「結衣ちゃん、お待たせ」
詩織も結衣ちゃんと呼ばれた少女に手を振り返す。
彼女は七瀬結衣。おっとりとした瞳に背中まで伸ばした黒紫色のセミロング、身長は150と詩織よりも低めで何処か保護欲を感じさせる少女だ。彼女も緑と黒で構成されたレオタード風の服に白のニーソを着ている。
この二人は小学、中学、高校を共にした幼馴染で、どこか百合を感じさせるほど仲が良い。
「詩織ちゃん、これからの予定とかってある?」
「ん〜。今のところないかな〜」
「じゃあどっか食べに行こ!」
結衣に手を引かれ、詩織はとある海鮮料理店へ向かった。
カロン
そんな音を立てて詩織と唯は海鮮料理店ーーメーレスに入る。この料理店は各海域で採れるエラヌスにおいてナンバーワンの実績を誇る海鮮料理店だ。特にミドウェー海域やシラビア海域で採れる高級魚をふんだんに使ったメニューが安く食べられるため冒険者にはとても人気が高い。ちなみに支払いは注文と同時に行われる。
指定された席に座り、店用のタブレットでメニューを注文しようとする二人。
「何にしようかな〜、って、あれ?」
「?、どうしたの?」
「なんか、注文出来ないメニューが多い」
「え?あ、ほんとだ」
詩織もメニュー一覧を開いてみると、【このメニューは諸事情により注文出来ません】と表示されたメニューが多かった。
「なんでだろう、前はこんなことはなかったのに」
「…?」
二人が疑問に思ってると、隣のテーブル席に座っている複数の男女が話しているのが聞こえる。
「それ本当なのか?海軍がシラビア海域を航行禁止にしたって」
「ええ、あの海域を根城にしていた海賊団が壊滅したからそうよ」
「は?それって海賊団がそこからいなくなっちまったってことだよな?なのに航行禁止にする必要はあるのか?」
「海賊団が全滅したのは私達冒険者や民間企業にとっては嬉しいこと。ーーけどね、問題はそこじゃないの」
「どういうことですか?」
詩織の問いかけに対し彼らは顔を振り向く。
「あ、す、すみません。お話中邪魔をして」
彼女はハッとなり、慌てて謝罪した。唯も申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。
「……まあ、別にいいわ。それより、貴方達も冒険者かしら?」
「あ、はい。冒険者の冬月詩織です」
「同じく冒険者の七瀬結衣です」
「んー、シオリにユイね。私はカトレア・アーネット。んで、こいつがダグラス・オーティス」
「ダグラスでいいぜ。嬢ちゃん達」
カトレアはスレンダーな肢体に腰まで伸ばした赤髪をポニーテールで纏めた20代後半の女性だ。そしてダグラスは焦げ茶の短髪190センチもある引き締まった身体を持った巨漢だ。ちなみにカトレアは赤と白のドレスに紫のニーソ、ダグラスは蒼のサイバースーツに黒銀の胸当てと籠手を付けている。
「じゃあ本題に戻るけど海軍がシラビア海域を航行禁止にした理由が海賊団が全滅したから、だったわね?」
カトレアの問いに二人はコクリと頷く。
「でも、問題はそこじゃない。なんだと思う?」
「………あ、もしかして、その海賊を全滅させた相手が未知の魔物かもしれないってことですか?」
「そう、シラビア海域を根城にしている海賊団は、比較的大きな勢力を誇ってるの。 生半可な軍隊や魔物では返り討ちにされるわ。それに当海域にはカテゴリーSの陸上型魔物が一体しか生息していないし、海上型魔物は最高でもAランク、しかも最下位のしか存在しない」
お茶をずずっと一口含み、話を続ける。
「けど、彼らは呆気なく全滅した。つまりあの海域には、SSSランク以上の未確認魔物が住み着いている可能性があるため、海軍は当海域を航行禁止にしたーーーとまあ、予想はせいぜいこれくらいかしらね」
と、背もたれに寄りかかる。
「しっかし、シラビア海域が航行禁止になったせいで、今頃エラヌスの工廠や料理店は混乱しているだろうな。資材や海産物の一部はあの海域でしか獲れない物が多いしな」
ダグラスが酒を飲みながら、そんなことを呟いた。
「それに、SSSランク級がこの都市に攻め込んで来るってこともあり得なくはない筈。私も見た事はないけど、性質は極めて凶暴で攻撃的。そしたらここは地図から消滅するでしょうね」
(……ッ)
詩織はカトレアの言葉に青ざめた表情をする。SSSランク級の魔物を直に見たことはないが、その戦闘能力は計り知れないものであると。この都市の近くにあるシラビア海域にそれがいるかもしれないと。
ーーそんな災害そのものと言える存在が襲いかかってきたらーー
(……晃君)
彼女は自身の両肩を抱いて震えながら、ある青年の名を心の中で思わず呟いた。
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シラビア海域 玄武島
時刻は既に夜の11時過ぎ。場所は大和艦橋内のブリッジ。この船の管理者が既に床についた暗闇の中、テーブルの上に1人の幼い顔立ちをした少女が目を閉じて座っていた。
「ヤマト様」
不意に男の声が聞こえる。その少女ーーヤマトが目を開き、その一対の紅眼を声がした方向へ向ける。
そこには忍装束を着、腰に小刀を付けた男が薄暗い緑色の光を纏いながら微動だにせず立っていた。
「天龍ですか、周辺の調査報告でしょうか」
「はい。それと北で情報収集中の炎龍から緊急の報告が」
天龍型潜水艦のAIーー天龍が右手に調査データの入った小さなディスクを取り出して、ヤマトに渡す。
「確かに受け取りました。それで炎龍からの緊急報告とは?」
「はい、実はーー」
炎龍からテンリュウを通じての緊急報告内容はとんでもないものであった。
「……そうですか。その件はマスターにも伝えておきます。そして炎龍には引き続き情報を収集するよう指示を」
「了解しました」
ヤマトは顔色一つ変えず、テンリュウに09へ奴等の監視を行うよう命じる。
「それでは、拙者はこれで」
彼は敬礼した後、身に纏っている緑の粒子を木の葉隠れのように散布させ、その場から消えた。
「……一難去ってまた一難」
ヤマトは左手に紫色のディスクを具現化させながら、そんなことを呟いた。
因みにメインヒロインは詩織ではありません。




