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とある勇者の異世界譚は此処から始まった。

作者: 先生













 異世界召喚。

 健全な男子なら一度は夢見るであろう夢物語だ。


 ある日、唐突に異世界に召喚され、勇者として世界を救うための旅出。

 その旅の中で様々な物語が紡がれていき、時に戦い、時に恋し、人生経験を積み終え、異常なまでのステータスを築き上げた勇者は本来の目標である『魔王討伐』を成す。

 世界中の人々に祝福され、残る日々を仲間や御姫様たちと過ごし、幸せに人生を終える―――、そんな夢物語。


 が、所詮は夢。たかが幻想。

 そんなものは有り得ないと割り切って生きてきたはずの俺は、この時、


 ―――無我の境地(いせかい)にいた。




「勇者様、どうぞ私たちを御救い下さい!」


「あぁ、うん。任せてください、……はい」




 何を言っているのか、というより、何が起きたのか自分でもさっぱり理解できない。

 ただ、坑道を颯爽と走り去ってゆくドラゴンみたいな生き物を見てしまうと、やはり此処は異世界なのだと思い知らされる。


 そしてこのお爺さん。

 俺のことを『勇者様』と崇め、果てには『救ってくれ』と言い出している始末である。

 ここまで迫真の形相で言われると信じそうになってしまう。


 俺は恐らく、異世界召喚とやらを経験してしまったのだと。


 しかし如何なるわけか、俺には召喚の際の記憶が無い。

 より詳しく言えば、王様に会ったり御姫様と駄弁ったり、異世界の現状について説明されたりなどもされてない。

 理解しているのは此処が『異世界』だということと、現在地が『王都』だということのみ。これはさっき爺さんが口走ったのを聞いた。


 此処は異世界で、現在地が王都で、俺は皆が崇め称える勇者様。


 つまりこれは、……どういうことだってばよ?




「では勇者様、私めはこれで……」


「あ、うん。分かりました」


「勇者様がきっと世界を御救い下さることを信じておりますぞ―――!」




 盛大な声援をありがとう。注目されるから止めてほしい。

 そのまま爺さんは振り返ることなく立ち去って行った。きっと悪気はなかったんだろうと納得する。


 さて、どうしようか。

 有り難いことに、爺さんの叫びは街路を包む喧騒に掻き消されたらしく、全くと言っていいほど注目を帯びてない。

 これなら少しは動きやすい―――、しかしこの人混みの中を歩くのだけは避けたい。


 さすが王都というだけあって、人通りが限りなく多い。

 坑道の隅で幾数ものテントが立ち並び、それぞれ専門の店を展開している。

 煉瓦製の建物も建設されていて、そこは武具店であったり宿屋であったり、レストラン的な店だったり、とにかく人を呼び込むようなものが多かった。



「何だろうな、これ」



 これというのは、どうしようもない現状についてことを指す。

 右も左も分からないような、まさに絶望的な状況。この世界での自身の立ち位置さえはっきりとしていない。


 俺が世に言う『勇者様』であることは何となく理解した。理解せざるを得なかった。

 しかし、実のところ勇者とはどれ位の立場にあるのか。

 生憎と「ねぇねぇ俺って勇者なんだけど、どれくらいの実権持ってんの?」と誰かに聞けるほどの勇気は持ち合わせていない。

 なんなら返答として「またまた御冗談を。あの勇者様ですよ、それくらい分かるでしょう?」とか言われることを完璧に予想しているまである。


 さて、本気でどうしようか。


 よくある異世界モノのラノベみたいに『ステータス!』とか叫んだら画面が出てきて、基本パラメータとか称号とかを視れるってやつがあったら一番ラクなんだが……。

 試しに言ってみる。



「ステータス。……ステータス、オープン」



 大事なことなので二回言いました。なんつって。

 まぁ元より期待はしてなかった。しかし、これで更に露頭に迷うことになる。

 結果として何も現れなかった虚空を見詰めながら、こめかみを抑えた。



「いや待て、よくあるじゃないか、ギルドカードとかでステータスが確認できるっていう設定。あれならイケるんじゃないか?」



 ギルドカード。それはまさしく、迷える子羊を救済せし希望の花……。

 とは単なる心境の描写なだけで、ギルドカード略してギルカはギルカである。

 そんな、希望とか花とかとはまったくの無縁な代物だ。


 よし、そうと決まれば目的地:ギルドで決定だな。王都のギルドといったら総本部だとか、無駄に大きい建物だとかの設定がよくあったが……、実際だとどうなってるのか少し期待。


 さぁ行こう。全てを確かめるために、何より自分を助けるために。


 ―――俺の異世界冒険譚は此処からだッ!











 ……。

 …………。

 ………………、



「で、ギルドって何処にあんの?」



 冒険譚の始まりは、まず誰かに場所を尋ねることからだった。











 ※先生の次回作にご期待ください(意味深)



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