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9. 救助

「じゃぁ、今日は守と佐伯さん先頭で移動をお願い。何かあったら声をかけるからまずは自由にやってみて」


「「わかった」」


 出てくる深き者とかを守と美香で倒しながらしばらく歩く土手が見えてきた。

 今日はその土手を超え、川岸の広場が指定場所になっていた。


「なぁ、退屈なんだが…」


「啓太さん、あきらめてください。まず2人に経験させることが大事ですから」


「それも分かってるんだが、俺が言った事覚えてるか?」


「お互いの戦い方を知ることですよね」


「ああ」


「じゃぁ大丈夫です。シャンタク鳥が出たら啓太さんに率先してやってもらいますから」


「出るか分からないじゃないか」


「ああ、歩き出す前に風で簡単に調査したんですけど、どうやら川の中州部分に居るみたいなのでちょっと刺激すればこっちに来ますよ」


「ったく、いつの間に」



 土手上ると確かに中州にシャンタク鳥がいるのが見えた。


「じゃあ、啓太さん中心に守と佐伯さんでお願い」


「「わかった」」


「って、本当に俺中心でいいのか? お前は?」


「俺は2人のフォローに回りますから、啓太さんは思う存分暴れてください。

 ついでに戦い方も拝見させてもらいますから」


「はぁ、分かったよ。  うぉおおおおお」


 啓太は溜息をついた後、一気に土手を下り川岸に走って行った。

 守も美香も慌てて後を追って走りだし、シャンタク鳥もこちらに気づき上昇を始めていた。


「さてさてどんな戦い方かな?」


 崇一はのんびりと土手に腰を下ろし観戦することにした。


 啓太は上昇を開始したシャンタク鳥の周囲に向け炎を放射してそれ以上の上昇を牽制しつつ、そのまま中州に向けてジャンプした。

 着地と同時に火柱をよび上空のシャンタク鳥を下から突き上げた。

 墜落させるほどのダメージが与えられなかったとみると掌に雷の塊を用意したが、川原側から氷の塊と土の塊が飛んできた。

 土の塊の方が翼にあたり、羽ばたきが中断されシャンタク鳥はズシンッと音を立て落ちてきた。


 直ぐに啓太は倒れているシャンタク鳥に近づき、雷を纏わせたハンマーを振りかぶり羽に叩きつけた。


 ギッギギギィィィィ


 シャンタク鳥は悲鳴を上げ、飛ぶことをやめ、カギ爪を使い攻撃してきた。

 啓太はハンマーを盾替わりにカギ爪を受け止めたが、攻撃後のバランスを崩した体勢だったため踏ん張れず弾き飛ばされた。


「く」


 ハンマーのおかげで大した怪我もなく啓太は直ぐに立ち上がり、ハンマーを後ろに構えシャンタク鳥に走り寄って顔めがけて振りぬいた。

 しかし、首を動かしかわされたため、そのままの勢いでもう一回転して次は胴体にハンマーを叩きつけた。

 その頃には、守と美香が川を渡り中州に到着した。


「アイスカノン」


 美香は直ぐに氷の塊をシャンタク鳥に放ち、攻撃後の啓太に追撃させないように牽制した。

 その間に守は槍を構え特攻して、左足に槍を突き刺し直ぐにその場を離れた。


 2人が牽制してくれている間に、啓太は飛び上がり大きく振りかぶったハンマーを炎の尾を引きながらシャンタク鳥の頭に叩きつけた。

 着地後、シャンタク鳥が頭を振りヨタヨタしだしたのでそのまま離れず連続でハンマーを叩きこんでいった。


「っよし。

 サンキュー2人とも助かった」


「いえ。それより先ほど弾かれたように見えましたけど怪我は?」


「ああ、このくらいなら大丈夫だ」


 啓太はポケットから魔石を取り出し、自分に使いながら2人に笑いかけた。


「でも2人ともよく見てたな。うまくフォローしてくれてやり易かったよ」


「まあ、崇一に毎回指摘されてますから」


「うん、こういう時はこうした方がいいいとかその都度教えてくれるんで助かってるんですよ」


 3人が話していると、崇一が空を浮かびながらやってきた。


「大丈夫? 3人とも怪我はない?」


「って空を飛べるのか? Aランクの風属性持ちでもいないぞそんなやつ。お前本当にAか?」


「えっと。気にしないでもらえると助かります」


 いつも通りやってしまってから崇一は啓太がいることを改めて認識し、苦笑いを浮かべながら頭をかいて誤魔化した。


「まぁ別にいいけどな…。どのみちそんなの直ぐにばれるぞ」


「分かってはいるんですけど、必要なければ変に目立ちたくないんですよ」


「強いってわかる方がモテるぞ」


「いや、モテたいのはやまやまなんですが、女の子と話すってのが慣れなくて…」


「情けないやつだな、男だろ。 そうだ妹がいるんだからそれと話すのと同じだって」


「いや家族は違うでしょ」


「そんな事いってると彼女なんてできないぞ、まぁいいや、戻るか」


「ですね」



 全員が中州から戻って守と美香の一部濡れた防具、服を乾かしていると離れた場所で爆発のような音が鳴った気がした。


「あれ、どこかのパーティが大技でもかましたんですかね?」


「さあな、音の方角からすると一緒に来たパーティだとは思うけどな」


 崇一は少し気になり、風を使って音を拾ってみると断末魔のような悲鳴と複数人が戦う音が聞こえた。


「まずいっ! ごめん行ってくる。守と佐伯さんは啓太さんに従ってギルドへ戻ってて」


 崇一は直ぐに立ち上がり、風を纏って飛び出した。


「え、何だ。さっきの音は? 崇一はどうしたんだ?」


 守と美香は崇一が遠くの音を拾うのを前に見ているので驚いていなかったが、啓太はいきなり音が聞こえたので混乱しているところに崇一があわてて飛び出していったのをみて余計混乱した。

 守が慌てている啓太の肩に手を置いて声をかけた。


「啓太さん、落ち着いてください。まずさっきの音は崇一の魔法で遠くの音を拾ったんです。

 おそらく先ほどの爆音が気になったんだと思いますけど。

 で、状況が酷いようなので助けに向かったんです」


「お、おう。じゃあギルドの仲間がやばいってことか」


「そうなります。で、俺たちはどうしますか? 崇一が言ったようにこのままギルドに戻りますか?」


「いや、もしかしたら人手がいるかもしれないから様子は見に行こう。

 ただ、安全がわかるまで接近はしない。2人ともそれでいいか?」


 啓太は仲間が危ない状況と聞いて、ギルドの上位プレイヤーとして何ができるかと、2人の安全を考え距離を置いてまず状況を把握すること提案した。


「はい、かまいません」


「私も」


 守も美香も崇一の足手まといになるのは嫌だが、何も出来ないのも嫌なので啓太の案に乗ることにした。


「じゃあ、急いで俺たちもいくぞ」


「「はい」」






 崇一が到着すると巨大な蛇みたいな生き物に男女7人のプレイヤーが襲われていた。

 崇一は見たことがなかったが、特徴から奴がイグだと判断した。

 周囲を少し見渡してみると、離れた場所におそらくパーティメンバーだったと思われる胴体がちぎれている体が横たわっていた。


「くそ、間に合わなかったか」


 崇一にとって、もちろん響子とか身近な人が最優先ではあるが、ギルドに入ってまだ短いとはいえ、同じ食堂で食事したり少しは会話をする人たちも出てきていたので今のギルドの仲間は守れるなら守りたいと思えるようになっていた。

 走りながら状況を確認すると1人はイグに咥えられており、6人が何とか救助しようとしていたが、カギ爪としっぽの攻撃で思うように近づけないでいた。

 弓を持つ女子だけが何とか攻撃できているようであるが、ほとんどが皮膚に弾かれるか、刺さっても浅く効果が出ていなかった。


 崇一は6人の前に走りこみ、イグのしっぽの攻撃を双龍で払いながら怒鳴った。


「直ぐに離れろ。俺が助けるから」


「でも渡辺をほっとけない!」


 一番前で戦っていた両刃の斧を持った男子が反論してきた。


「今のお前たちじゃ、助けるのにも時間がかかりすぎる」


「うるせぇ、いきなり現れてあんた何者だよ?」


「同じギルドに所属しているものだ」


「お前なんか知らないぞ。嘘つくな!」


「ねぇ、芳樹よしき。この人ついこないだ加入したばかりの人だよ」


 1人の女子が崇一を知っていたらしく、怒鳴っていた男子に声をかけた。

 その間も崇一はしっぽやカギ爪の攻撃を剣と風の魔法で逸らしていた。

 咥えられている男子の出血が思った以上に酷いようなので、崇一も焦り6人に怒鳴った。


「邪魔なんだよ。お前らがいると本気で動けない。それともあいつをミスミスこのまま殺したいのか? うだうだ言ってないで直ぐに離れろ!」


「「「なっ」」」


 崇一の怒声に3人の男子が反論しようと動きかけたのを残りの3人の女子が止めに入った。


「芳樹、武久たけひさ義正よしまさ。やめて、この人確かAランクの人だよ。

 任せてみようよ。私たちじゃどうしようもなかったのに、一人で攻撃を防いでくれてるんだよ」


「だからって、全部任せるのか? こうしてる間にも渡辺が!」


「だからっ! 今私たちがわがまま言っても仕方ないでしょ」


「くそっ」


 ちょうどそこに遅れて啓太が走ってきた。守と美香は遅れているらしかった。


「おい、お前たち直ぐ下がれ!」


「「「「啓太さん」」」」


 6人は面識があるAランクの啓太が来た事に安堵し、啓太の方に走って行った。


「渡辺を」


「お願いします。渡辺が…」


郁夫いくお君を助けてください」


「助けてください」


「正もやられたんです」


「お願いします」


「落ち着け、今お前らをかまう暇がない。お前たちは離れて回復しろ。お前たちだって怪我してるだろ。

 直ぐに守と美香っていうB、Cランクのやつらが来る。奴らが魔石を持ってるから直してもらえ。

 で、渡辺は俺たちに任せて離れてろ。いいな!」


 口々に助けを求める6人が怪我だらけなのをみて、啓太は避難を指示しすぐにイグに向かった。



 崇一は、啓太が来て6人が離れたのを見ると、風属性魔法で体に風を纏いスピードの強化を、雷属性魔法を体内に流し神経伝達速度の上昇と思考スピードの上昇を図った。まず咥えられているプレイヤーを助けるため、イグの顔に向け時速300㎞もの速さで跳躍し片側の顎を切り裂いて頭上に抜けた。そこで風で足場を作り今度は地面に向け跳躍しつつもう一方の顎を切り裂いて地面に叩きつけられるように着地した。

 数秒もしないで同じ場所に戻ってくると今度は先ほどより抑えたスピードで跳躍し、開いた口に引っかかっている男子を掴み、イグの顔を蹴って離れた。イグもそのまま渡すつもりが無いらしくしっぽで叩き落とそうとしてくるが、右手の剣で払い軌道を変えた。払った反動で想定していた場所より離れた場所に着地してしまったが、ちょうど走ってきた啓太に預けた。


「啓太さん、お願いします。

 あと、啓太さんも離れてください」


「なんつう動きをするんだお前は…」


 啓太は崇一のスピードとアクロバティックな動きに驚きあっけに取られつつ、崇一から男子を預かった。


「それはいいから、直ぐ離れてください」


「何言ってんだ、前回だって輝夜ちゃんがいたから倒せたんだぞ、Aランクには無理だ」


「このまま放置も出来ないでしょ。この付近にまだギルドの仲間だっているんだ。

 俺なら大丈夫ですから、絶対近づかないでください」


 啓太が離れるまで大きな魔法が使えないため、崇一は直ぐにきびすを返しイグに向かって駆け出した。

 崇一が走って駆け寄ってくると、イグがしっぽで薙ぎ払ってきた。

 崇一は跳躍してかわすと、両手の剣に水属性魔法で冷気を纏わせ、先ほどと同じ風による足場で跳躍するとイグに切りかかった。

 先ほどは人を助けるため口周りを切っただけだったが、今度は跳躍した先々に足場を作り、イグの周りを跳躍のたびにスピードを上げながら切り裂いていった。また切り裂いた切り口は剣の冷気により氷結し、さらに体内にも氷の棘を伸ばした。


 ザザーッ


 崇一が15回程跳躍、切り付けた後、砂埃をあげながら急停止したときには、全身のあちこちから氷の棘をはやしたイグがいた。

 啓太が十分離れたのを確認し、氷に囲まれ思うように身動きが出来ないイグに魔法を放った。


「これで…終わりだ」


 イグを囲むように発生した竜巻は、雷も纏って周囲に放電と突風を巻き起こした。

 避難してきた啓太と守と美香に魔法石で治療を受けていた7人も飛んでくる小石などを避けつつ、その光景に目を丸くした。


 2分以上経過し、竜巻の中でイグが細切れになったことを確認した崇一は魔法を解除した。


「ふぅ」


 崇一は溜息をつきつつ、イグが居たあたりに歩み寄り落ちていた魔石を回収した。

 振り返り守達の様子をみて冷や汗をかいた。


(仕方がないとはいえやっちまったか? もうAランクってのは通用しない…よなぁ)


 崇一が固まっていると、守と美香が走り寄ってきた。


「崇一、大丈夫だったか?」


「九条くん、怪我はない? 魔石あるよ?」


「ああ…大丈夫。怪我はないから心配いらない」


「うん? どうした? なんか歯切れ悪いな?」


「1ヶ月もしないでSランクと戦う事になるなんて思ってなかった。これじゃぁAランクじゃないって確実にばれたなって…」


「仕方ないよ。でも九条くんは見捨てる気は無かったんでしょ?」


「まぁそうだけど…」


「じゃぁ、気にしても仕方ないよ」


「そうだな。あきらめろ崇一」


 2人に慰められつつ啓太たちのところに戻ると先ほどの7人が待っていた。


「「「「「「ありがとうございました」」」」」」


 いきなり揃って頭を下げられたので崇一も戸惑った。


「いや、少し遅れた。もっと早く来れればもう1人も助けられたかもしれない」


「いえ、渡辺も助けてもらいましたし。あなたが来なかったら全員死んでました。ありがとうございました」


 先ほど一番食って掛かってきた男子が再度お礼を言ってきた。


「えっと俺は、和田わだ芳樹っていいます。中3でこっちの男子だけのパーティのリーダーをやってます。

 で、こっちの盾持ちが木村武久、杖を持ってるのが佐々木義正、でまだちょっと起きれないですけどあそこで寝てるのが渡辺郁夫です」


 芳樹の紹介に合わせて、男子たちが頭を下げてきた。


「あと、先ほどはわがままをいってすいませんでした」


 紹介が終わると芳樹は先ほど崇一に食って掛かって事を誤ってきた。


「いや、仲間が心配だったんだろ。いきなり現れた人をすんなり信じるよりはいいと思うよ。

 まぁ俺も焦ってたから怒鳴って悪かった」


「いえ謝らないでください、俺たちを助けようとしてでのことですから」


「すいません。私たちも紹介させてください」


 男子たちの後ろにいた女子3人が前に出てきた。


平井ひらい真理まりです。私たち全員芳樹たちと同じクラスでした。たまに今日みたいに男子と一緒に行動するんですが、普段は女子だけのパーティです。

 こっちの杖持ちが田久保たくぼ綾子あやこで、ハルバードを持ってる子が吾妻あずま桃花ももかです。ありがとうございました」


「気にしないで。

 俺は九条崇一。こいつが吉岡守で、そっちにいるのが佐伯美香さん。全員高3で、クラスメートだった。

 少し前にギルドに参加したばかりで、ランクがA、B、Cになる。これからよろしく」


 お互いの紹介が終わると綾子が一歩前に出てきた。


「あの、間違ってたらすいませんが、もしかして臥龍鳳雛のシュウさんですか?」


「え?」


 崇一が固まっていると綾子に真理が詰め寄っていた。


「え、綾子知り合いなの?」


「え、みんな覚えてない? ほらゲームで3年くらい前バルザの山でトラップにはまってモンスターに囲まれたとき助けてくれた双剣使いの人だよ」


「ああ、あの時の。綾子、よく覚えてたね」


「うん。ほら私生産担当だし、参考にするため良く武器を見てたんだけど、シュウさんの剣かっこよかったから」


 どうやらゲームの中であったことがあるらしいが、そのバルザ山の件も崇一は覚えていなかった。

 時々メンバーが集まらないとき、適当にふらついて初心者などを助けていたときの事だと見当はつくが、まったく思い出せなかった。


「えっとごめん。覚えてない。

 たぶんいろいろふらついていた時に合ったんだと思うけど、その時にこの剣を見たのかな?」


「そうです」


「そっか。ってことは俺のランクは?」


「SSですよね。たしか…」


「ああ」


 崇一はやっぱりばれたと、思わず頭を落とした。


「え? 何か問題がありましたか?」


 いきなりうなだれた崇一をみて綾子たちが慌てた。


「いや、自己紹介でAって言ったばかりで速攻でばれたなって」


「そういえばAランク言ってましたね」


「ああ」


 啓太が急にうなだれる崇一の肩に寄りかかってきた。


「やっぱりランクを誤魔化してたな?

 登録時にもCって言って、俺にばれてAランクにして、で本当はSSだったと」


「…です…

 ただ全員にお願いが、騒がれたくないのでSSってことは広めないでください。

 あと、イグは啓太さんと2人で倒したとしておいてもらえると助かります」


「まぁ、俺は別にいいけど、ただギルドにはイグが出た事は報告するぞ?」


「あ、はいそれは問題ないです。ただ俺が騒がれたくないってだけなので」


「わかった。お前たちは大丈夫か?」


 啓太は、芳樹や真理たちの方を見て確認した。


「もちろんです」


「はい。大丈夫です。

 助けてもらったのに本人が嫌がる事はしませんよ」


 芳樹たちにも了承を貰え、いつかはばれるだろうが、来たばかりであまり目立ちたくなかったので崇一は安心した。


 しばらくして啓太の撤収の合図で全員がギルドに向かって歩き出した。

 魔石が足らず、軽度の怪我が残っている事、仲間の死体も持って帰る事などもあり足取りは重かった。



 ギルドに戻ると啓太がカウンターに状況の報告とギルドに居る生属性持ちの招集を依頼した。

 輝夜は啓次、詩織たちと仕事に出ているらしく居なかった。

 少し残念に感じながらラウンジのソファーに守達と座っていると、カウンターのまとめ役の加藤と啓太がやってきた。


「九条、ちょっといいか? 加藤さんに今日の説明をするから」


「わかりました」


 全員が座ると、さっそく加藤が質問をしてきた。


「確認ですが、またイグが出たんですね?」


「俺は前回のを見てないですが、情報と一致してるのでおそらく」


「まちがいない俺も確認した」


「そうですか。あの付近の出入りはランクで制限した方がいいかもしれませんね」


「そうですね。お願いします」


「分かりました理事会に報告しておきます」


 加藤が去ったあと、真理たちが美香のところにやってきた。


「あの佐伯さん。ちょっといいですか?」


「美香でいいよ」


「あ、はい、じゃあ美香さん。今日の夜って空いてますか?」


「え? 夜?」


「はい」


「空いてるけど…」


「じゃぁ、女子会に参加しません?」


「女子会?」


「はい。ギルドの女子プレイヤーって男子に比べて少ないんでお互いの情報共有と理解のために1か月に1度、仕事のない女子で集まるんですよ。

 自由参加なんですけど、美香さんは来たばかりだから一緒に参加しません?」


「どんな話をするの?」


「えっと雑談ですね。特に決まった内容はないので、気軽に参加してください」


「でも、ほんとに今日? 大丈夫?」


「とういか今日だからってのもあります。知人が無くなったのは今回が初めてじゃないし、湿っぽくされるのは見送られる方もいやかなって。だからぱっとやるというか…」


「じゃぁ参加させてもらうね。で何時?」


「8時に上の女子フロアの広間ですね」


 ギルドの上部はワンルームのプレイヤーの住まいになっているが、下5フロアが男子、上3フロアが女子用になっており、それぞれのフロアの上下2か所に簡単な広間があり、プレイヤー同士の交流の場になっているのである。


「了解。何か準備するものとかある?」


「何もありません。飲み物とかつまむものは用意してあるので」


「わかった」


 美香と真理たちが話しているのを聞いて、守が啓太に質問した。


「啓太さん、男子には女子会みたいなのは無いんですか?」


「ない。だいたいこのラウンジか、広間で勝手に集まってるからな。ただ俺を含めて二十歳越えの数少ないプレイヤー同士だけは週一で飲み会があるが、お前たちは参加できないだろ?」


「ええ。ノンアルコールで参加は?」


「だめ。まずは一杯飲んで、そのあとは自由だけどな」


「なんだってまたそんな事になってるんですか? いいじゃないですかノンアルコールの参加でも」


「主催している22歳のプレイヤーが、酒の飲めない奴の参加は不可と宣言しててな」


「ひどいですね」


「まぁ、殆どのプレイヤーが未成年だから仕方ないさ。曰く大人の義務なんだってさ。隠れて飲んでるやつなんてたくさんいるのになぁ。

 悪い人じゃないけど固いんだよその人は。

 吉岡は親と一緒にマンションだったよな。まぁ話したいなら上の広間に夜に行けば誰かしらはいるからいつでも来い」


「分かりました」


 その日はそのまま解散となった。


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