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8. 指導と共闘

 ギルドに登録して2週間が経過した。


 なお、崇司からは登録の翌日にはブリュナークに登録し、ギルドの寮に住むことになったと報告にきた。

 崇一は自分と守、美香がユニオンに登録し、響子はカウンターで働く事になったこと、響子と一緒にマンションを借りたので、いつでもいいから偶には顔を出すように伝えていた。


 弟も無事組織に入って活動を始めたので、その後は安心して崇一は守と美香の3人とパーティを組んで仕事と討伐を実施していた。 

 その日も2週間前にに輝夜たちが討伐したSランクのイグが出現した付近で敵の捜索を実施していた。

 この付近ではよくクトーニアンと呼ばれる、短い脚を持つ烏賊みたいな形状で、地中を移動しておりいきなり出てきて尖って固い頭で体当たりを仕掛けてくる敵が出現する。ランクはCで青色の魔石を残す。

 崇一はクトーニアンが地面から飛び出しそのままこちらに突っ込んでくるのを体を回すだけで避け、その回転を生かして斬りつけて討伐していると、美香から声がかかった。


「ねぇ、九条くんこの辺って何かあるのかな?」


「なんで?」


「だって他の地域はショゴスとかE、Dランクが多いのに、ここはクトーニアンが多いでしょ?」


「そうだね」


「だから、何かあるのかなぁって」


「なんでだろうね。俺も分からないなぁ」


「そっかぁ。アイスカノン」


 そんな会話をしながらも、美香は先端に透明な水色の丸い宝玉を付けた青い杖を構えあっちこっちから飛び出してくるクトーニアンに20cmほどの氷の塊を打ち出す魔法を放っていた。

 美香はCランクなので属性は水(氷)の一つのみだが魔法を主体として戦っていた。


 確かに美香の言うとおりここの地域は他のところと比べるとランクが上の敵が多い事は崇一も感じてはいた。

 2週間前にはSランクのイグが現れたし、ここ数日の間にAランクの敵も現れていた。

 他のギルドの仲間も同様に感じており、危険を避けるため今日もこの地域で討伐を実施するパーティが崇一達以外いなかった。

 そのため、敵数が多く稼ぐにはもってこいの場所にはなっていて、崇一達はここ最近、新人にしては稼ぐとして有名になっていた。


 次々と現れる敵を倒しながら早足のペースで進んでいると後ろから守に止められた。

 守も左手に若干大き目の盾を構え、右手の短槍で敵を突いていた。


「二人ともちょっと飛ばしすぎじゃない? ちょっとペースを落とそう」


「ごめん、ちょっときつかったか?」


 崇一は、思っていた以上に早かったかと思い守に謝った。


「いや、きつくはないんだけど。2人も気づいているようにここは他とは違うみたいだから念のため良く周囲を見ながら進んだ方がいいと思うんだ」


「たしかにな。ありがとう」


「気にするな自分の安全のためでもあるしな」


「いや、言われないと気付かないでそのまま進んでたからな」


 崇一もゲームではないと分かっていても、ゲーム中で慣れたこのレベルの敵ならこの程度のスピードで大丈夫との感覚が抜けきってなかった。

 自分が突出してしまうと、2人を守れないとあらためて自分に言い聞かせた。


「なぁ崇一、Aランク以上の人を1人か2人パーティに入ってもらえるように勧誘しないか?」


 崇一の様子を見ていた守も自分たちが崇一の足を引っ張っている事には気づいていた。しかし自分たちのレベルでは崇一のサポートが出来ない事もわかっていたので、せめて崇一をサポートできる人をパーティに入れられないかとここ数日特に考えていた。


「なんで、大丈夫だよ。

 それにギルドのほかの人たちにも話した感じいい人は結構いるけど、まだしっかり話したわけではないし。俺たちに合うかも分からないしな。無理に増員する必要はないと思うけど」


「そうだよ。どうしたの吉岡くん」


「いや、ちょっと前から3人じゃなくて4、5人の方がいいのかもって考えてたから」


「確かに人が増えれば増強されるけど、合わない人がいるとパーティそのものが瓦解するぞ?」


「そうなんだよなぁ。

 まぁだから相談をしたわけだが…おい、来たぞ」


「ああ、分かってる」


 崇一たちが話していると少し離れた場所にあった小さな林から1匹の敵が羽ばたいたところだった。


 ギギギギギィギィィィッ


 敵は黒板をひっかくような鳴声をあげながらこちらに向かってきた。

 シャンタク鳥と呼ばれるAランクの敵で、大人のアフリカゾウほどの大きさで鱗に覆われた大きな体と馬のような顔、キラキラとしたガラスみたいなものに覆われた翼を持つ鳥状の敵で、ここ数日のうちにも1度遭遇していた。

 その際は、崇一が魔法を使い直ぐに倒してしまったのだが、今回は様子を見ることになっている。


「じゃ、守、佐伯さん、前回言ったように俺は問題があるまでは手を出さないから2人でやってみて」


「わかった」


「うん。いざってときは助けてね」


「分かってる。2人ともがんばって」


 崇一は数歩下がって2人の邪魔にならない場所に移動した。

 状況を観察していると、美香が先に魔法で先制をかけた。


「アイスカノン」


 氷塊はまっすぐシャンタク鳥に向かったが、敵の回避で左足に掠るだけでダメージを与えられなかった。

 敵は美香に標的を定めたようで右足のカギ爪を広げ向かってきた。

 守は直ぐに美香の前に移動し、腰を落とし左手の盾を両手で構えた。


「ぐっ」


 カギ爪を受けた瞬間、踏ん張った足を滑らせながらも盾を右に傾け攻撃を右に逸らした。

 守の後ろで待機していた美香は、後ろに飛んで行ったシャンタク鳥にむけ魔法を放った。


「アイススプレッド」


 先ほどは氷塊が避けられたので、今度は小さな氷塊を複数放つ魔法に切り替えた。

 散弾のように広がった氷弾はシャンタク鳥を後ろから襲い、背面の全体的に小さな傷を作った。


 ギギギギギイイイィィィィ


 痛みで悲鳴を上げながらシャンタク鳥の高度が下がったところに、守が走り寄り短槍を突きだした。

 短槍は右足の付け根に刺さったが、それほど深くは入らなかった。

 上昇を始めた敵に引っ張られ浮き上がった守は直ぐに短槍を抜いたが、着地に失敗し尻もちをついてしまった。


「くそ」


 シャンタク鳥もそれを見逃さず守に向かって口から火の玉を吐き出した。


「吉岡君、アイスシェル!」


 美香が守の周囲に半球上の氷の壁を作り出したが、火の玉は壁に接触した瞬間に爆発し守ごと吹き飛ばした。


「わぁあぁぁぁ」


「吉岡君!」


 美香が守を助けようと駆け出したが、それよりも前にシャンタク鳥がカギ爪で守に襲いかかった。


「ここまでか」


 崇一は風を操り守と美香の防壁を作るとともに、シャンタク鳥を竜巻で包み込んだ。


 ギィィィイイイイィィィ…


 シャンタク鳥は竜巻の中で体を切り裂かれ、徐々に悲鳴も聞こえなくなった。

 完全に敵が死んだ事を確認し、崇一は守達に近づいて行った。


「大丈夫だったか?」


「ああ、ちょっと着地に失敗して足を痛めただけだ」


「魔石はあるか?」


「大丈夫、私が持ってる」


 崇一が状況を確認すると、美香が直ぐに魔石を取り出し守の患部に当てた。

 魔石が光ったあと、痛みが無くなり守は直ぐに立ち上がった。

 自分の軽い怪我なら自分の無属性魔法で治す事も出来るが、いつ敵と遭遇するか分からない上、ゲームと違いそれが自分の命に直結するので魔石がある時は魔石を使い魔力を温存するのが今の主流となっていた。


「佐伯さんありがとう」


「大丈夫? まだ痛まない?」


「全然」


「よかった」


 守の怪我が治ったのをみて崇一は話を続けた。


「佐伯さんの対応に問題はなかったけど、もう少し判断を早くできればいいかな」


「わかった」


「で、守は2点問題があったな」


「どこだ?」


「自分でも分かっただろうけど、まず1つあの巨体の突進は受けちゃだめだな。今回はうまく逸らせたけど、次回もうまくいくかは分からない。

 ああゆうときは避けるべきだな。佐伯さんを庇うなら、佐伯さんに体当たりをするぐらいのつもりで一緒に避けた方がいい。

 2つめは、槍は直ぐに抜くか、槍にそのまま魔法を付与して体内を攻撃した方がよかったな。たしか守は火属性と地属性だったよな?」


「ああ」


「なら、槍に炎を纏わすこともできるだろ。最初から纏わすのもいいし、刺した直後に穂先を中心に魔法を発動させるのでもいい。せっかくの攻撃を次の攻撃に生かせるようにした方がいいと思うぞ」


「わかった。ありがとう」


「でもAランク相手に良く戦えたと思うよ俺は」


 崇一はシャンタク鳥が落とした黄色の魔石を拾いポケットにしまった。


「さて、これで黄色1個、青が11個、紫1個で…158000円、2割の上納金を引いても126400円で1人頭約42000円っと。

 今日はこんなもんかな。2人とも今日はもう上がろう」


「だな」


「うん」


 崇一達は1時を少し回ったところだが思ったより大物がいて稼げたので今日は早めに戻る事にした。





 ユニオンに戻ってくると、入口から少し離れたところに人だかりが出来ていた。


「あれ? 何かあったのかな?」


 美香が最初に人だかりに気付き声を上げた。


「さぁ? でも慌ただしさや緊張しているような雰囲気はないから大した事じゃないでしょ」


「あそこ、テレビの車が止まってるから取材か何かの撮影なんじゃないの?」


 崇一が変な雰囲気がないので気にしてなかったが、守がテレビ局のロゴが入った車とマイクロバスを見つけ何か撮っているんだろうと言った。


「へぇ、撮影してるところって初めて。ちょっと寄って行っていい?」


「寄って行くもギルドの入口近くなんだから、見てくれば換金はこっちでやっておくから」


「九条君は気にならないの?」


「別に撮影されているなら後で放送されたりするだろ。その時にでも見るよ」


「まあまあ、ちょっとだけだから九条君も吉岡君も付き合ってよ。長居はしないから」


「崇一別に換金はいつでも出来るんだから、ちょっとぐらい大丈夫だろ」


「まぁな」


「じゃ、いこ2人とも」


 美香が先頭に立ち人ごみの方に向かった。

 人だかりから覗き込むと、輝夜たちが取材を受けているようだった。

 参加しているのは、輝夜、赤染をはじめ、赤染と同じグループの工藤くどうとおる大野おおののぞむ水沢みずさわ太一たいち

 それと若手女優の桜庭さくらば美鈴みれいとアクション俳優の園田そのだ卓巳たくみの7人だった。


「わぁうちのギルドの代表達ばっかりだね」


「だね。個別に取材や撮影しているのは何度か見たけど全員っての初めてだね」


 ユニオンには芸能人が多いがその中でも有名な7人だったが、個別に討伐に行く事が多くそろっているのは初めてだったので美香は嬉しそうにみていた。

 守と美香が話し始めたので、取材を受けているメンバーを見て目的は果たした崇一は少し距離を空けて人ごみを抜けていった。


「おーい、そこに座ってるから」


「わかった」


 崇一は守に声をかけ邪魔にならない場所にあった縁石に腰をかけ2人を待った。

 少しして2人が人ごみから出てきた。


「九条君も見たらよかったのに、全員で武器を構えたりしてかっこよかったよ」


「へぇ、武器を出したんだ。じゃぁ見てみればよかったかな?」


「今もまだ出してると思うよ」


「いいや、人ごみにまで入ってみたいとは思えないし」


「そう?」


 プレイヤー達は普段邪魔になるので武器はストレージにしまっているので、戦闘などで一緒に行動しなければあまり見る機会がない。崇一は輝夜と美鈴がどんな武器だったか見てみたかったが次の機会でいいかと考えた。


「同じギルドだから後でも見る機会はあるよ。

 さて、換金に行こうか」


「そうだね」




 建物に入りラウンジの前を通ったところで、啓太と啓次から声をかけられた。



「よお、最近調子がいいみたいじゃないか? 大分稼いでるって聞いたぞ?」


「今日は早いんだな」


「啓太さん、啓次さん、小川さんお疲れです。

そんなことないですよ。Aランクならこのぐらい問題ないでしょ。

啓太さんたちの稼ぎも大分いいって聞いてますよ?」


「そりゃ、俺たちのパーティはAが2人いるし、詩織がいるから輝夜ちゃんもよく参加してくれるしな」


「そうなんですか? うらやましい。詩織さんと輝夜ちゃんって仲いいんですか?」


「ああ、だから頻繁に輝夜ちゃんが参加するから、よく他のパーティからもやっかみを言われるよ」


「しかたないですよ」


「でもどこで戦ってるんだ? 他の連中に聞いても見かけたって情報を聞かないぞ」


「カウンターには報告してありますが、イグが出たあたりですね」


 崇一は特に隠しているわけではないので、素直に今行っている場所を話した。


「一応お互いの礼儀というかカウンターには聞かないって暗黙のルールみたいなのがあるんだよ。ほら稼げる場所は自分たちでってやっぱり思うだろ。直接本人なら言いたくなければそう言えばいいんだからな。

 でも大丈夫か? みんなあそこは避けてるぞ?」


「えっと、でもここのところずっとそこで稼いでますよ。それにSランクになるとそう頻繁には出ないでしょう」


「まぁ確かにあのレベルが早々出られても困るけどよ。安全策をとるに越したことはないぞ? 死んでも生き返るか分からないからな」


 ゲーム中で生属性のSSランクが使えた蘇生魔法は現実の世界でも発動はするみたいだが、まだ成功した例の報告がなかった。

 輝夜が死んだ兄や知人に試したらしいが、成功はしなかったらしい。ゲーム中でも死亡後1分以内に魔法をかけないと蘇生されず、セーブポイントに戻されてしまっていたので、現実でも死んでからの時間制限があると想定されている。

 しかし、絶対蘇生するか分からないテストで死ぬことも出来ないし、そもそも輝夜が同行したパーティでは死ぬ前に輝夜が回復をしてくれていたので、今だ死後すぐに魔法をかけた事例がないのである。

 また世界のどこかには輝夜以外にも生属性のSSランクがいるかもしれないがまだそちらの発見・蘇生報告例も届いていない。


「分かってます。ただ他の討伐パーティがいないので、ある意味やり放題とういうか。稼ぐには持っていなんですよ」


「そうか…。ところで、2週間たったけどずっと3人で仕事をしてるよな?」


座って顔だけ向けて話していた啓太がいきなり向きを変え体を乗り出してきた。


「はい。そうですけど何か?」


「いや、悪いわけじゃないんだけどな、ギルドとして何時どう動くか分からないから、そろそろ他のギルドの仲間とも一緒に行動することになれておいた方がいいぞ」


「はぁ、そうですか」


 いきなり真剣な顔で話だして、その内容が他の連中と一緒に戦えだったので、崇一は戸惑った。

 なぜ慣れない人と一緒に行動しなければいけないのかと思い、あいまいに返事をした。


「ああ、仕事によっては強制で参加しなければいけないのもあるしな。一度一緒に行動してるのと、まるっきり初めてじゃ、いざってときの対応に差がでてくるからな」


 啓太が補足説明をしてくれたことで何を言いたいのか理解出来た。確かに武器も戦い方も知らない人と一緒に行動すればいざってときに迷ってしまう事が出てくるだろう。その迷いの所為で致命的な状況になることも考えられる。


「たしかに。ってことは個々人で別のパーティに参加させてもらうようにした方がいいですか?」


「まぁ出来るならな。ただいきなりは厳しいから、今のパーティに何名か参加してもらう形から始めればいいだろ」


「わかりました。ありがとうございます」


「ってことで、さっそく俺なんかどうだ?」


「啓太さんとですか?」


「おお。お前たちの戦い方も知りたいしな」


「いいですよ。仕事ですか?それとも討伐の方で?」


「討伐だな」


「分かりました。守も佐伯さんもいいかな?」


「俺はいいよ」


「私も」


2人からも了承を得られたので、崇一は啓太にお願いすることにした。


「じゃぁ、啓太さんお願いします」


「おうよ。いつがいい? 俺はいつでも大丈夫だぞ」


「じゃぁ明日も討伐の予定だったのでそこで」


「分かった。あと啓次や詩織は次回以降に組んでみてくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


啓太の参加が決まると啓次が声をかけてきた。


「気をつけろ。兄はハンマーをつかって突っ込むスタイルだから巻き込まれないような」


「ハンマーですか? あまり使い手がいない武器でしたよね」


「おう、威力もあるし下手に刃筋や突くポイントなど考えずにぶん回せばいいからな。分かりやすいだろ」


「そういう考え方ですか…」


「と、言う訳だ。下手に範囲にいると一緒に吹っ飛ばされるぞ。

戦闘が始まったら、必ず一定の距離を空けておけ」


「分かりました」


若干、啓太との戦闘に不安を覚えつつ崇一達はカウンターに換金に向かった。




翌日、カウンターで回復の魔石を購入してからギルド前の停留所に向かった。

停留所には数台の軽トラックが止まっており、お金を払えば乗せてもらえるのだが、行先が同じ方向のパーティと割り勘する方が安上がりなので朝には係留所でお互いの行先を確認しあうパーティが多かった。

係留所に着くとすでに啓太が待っていた。


「おはよう。今日は頼むな」


「こちらこそ」


「啓太さんよろしくお願いします」


「お願いします」


挨拶が済むと啓太が今日の予定を聞いてきた。


「で、今日はどこに向かうんだ?」


「えっと今日もイグが出たあたりに行ってみようかと」


「やっぱりか…」


「ええ、どうしたんですか?」


「昨日ラウンジでそこで稼いでるって言っただろ?」


「はぁ隠してないですし」


「で、お前たちが数日いて大丈夫ならって、今日はどうやら3つほどのパーティがそこに向かうみたいだぞ。

 まぁ、平均して1人一日2万の稼ぎがあれば上等なのに、お前たちは4万以上だからな。他の奴らも狙ってたんだろ。

 で今日はどうする?」


「まぁ、数は少なくなるでしょうけど、魔石のランクが他のところよりいいので、今日もそこで」


「分かった」


現場に向かう軽トラックを探そうと崇一が動きだすと、啓太が肩を掴んだ。


「おい、同じ場所に行く奴らに話はつけてある。割り勘で行くぞ」


「なんだ、啓太さんも行く気だったんじゃないですか」


「そういうなって。ただ今日は狭いぞ。何せ計4パーティが一緒にいくから、2台あるとはいえ10人づつだからのんびりはいけないな」


「そうですか…」


 崇一は思わず別の場所に行かないか守と美香に相談したが、周囲で他のパーティが戦っている状況も慣れたいとのことで変更はなかった。


 いつもよりゆっくり進んだため1時間ほどかけて現場に到着した。

 啓太が真っ先に下りて崇一たちに聞いてきた。


「さて、で到着したが、これからどうするんだ?」


「特に何も、歩いて移動しながら見つけ次第対処って感じですよ」


「そうか、楽でいいな」


「ただ、シャンタク鳥が出たらまず守と佐伯さんだけで戦って様子を見ます。危なくなったら俺たちが対応って感じですかね。

 ついでにどこが良かった、悪かったって注意も」


「なんでまたそんなことしてるんだ?」


「2人からも頼まれてて戦闘をしっかりと経験したいって。それに生き残るために経験しておくに越したことはないですから」


「そうか。いいなそういうのも他のやつにも教えるか。別にいいよな?」


 大崩壊後から始まった今回の環境ではみんなが一斉に戦い始めたので、上位プレイヤーと下位プレイヤーが共闘することはあっても指導・経験させるという形はみられなかったのだ。啓太は崇一達が行っている訓練をギルド内で増やせば生存率がより上がるのではないかと考えた。


「いいですよ。というか、なぜそんな事聞くんですか? ゲーム内ではみんなやってたし今更でしょ?」


「いいや、現実になってから他者の指導まで気を回すやつはいなかったな」


「そうですか。まぁ今までは自分が生き残るのに必死だったからで、落ち着いてきたら他にも出てきたと思いますよ」


「かもな」


「じゃ、準備をしていきましょう。ちょっと遅れてしまってるみたいなので」


 崇一達が武器などの準備をし始めたころには他のパーティはすでにそれぞれ別方向に歩き出していた。


「啓太さんのハンマーはそれですか?」


「おお、いいだろ?」


「大きすぎません? それに金ぴか…」


 美香が啓太のハンマーを見て声を出した。


「俺の属性は雷と火だからな、金が栄えるんだよ」


「はぁ」


「そういう美香ちゃんだって、青い杖ってことは水属性だろ?」


「はい、そうですけど」


「な、そんなもんだよやっぱり見栄えで選択する奴が多かったからな。

 ゲームの中ではよかったけど、現実になって中二病くさくて嫌だってやつは多くなったなのは確かだな」


「ですよね。ゲームのキャラに合わせてたから現実だと…」


「ま、あきらめるしかないな。そういえば崇一は…紺に黒か。どっちもオリジナルか」


 啓太は横で準備をしていた崇一を見た。

 崇一は紺色の防具に黒い刀を持っていた。


「はい、ギルドの生産担当が作ってくれました」


「真っ黒の刀身に金と銀の龍の双振りか。それって青竜刀か?」


「はい、生産者は柳葉刀りゅうようとうってタイプだって言ってました。名は双龍ってわかりやすい名前ですけど」


 3人がお互いの武器の話をしていると、守が紙切れを持ってきた。


「崇一、一応場所が決まってるみたいだぞ」


「場所?」


「お互いの狩場が重ならないようにだろ、俺たちはこの赤丸のところだな」


「なんだ端っこか。でもいつ決めたんだ?」


「俺も知らん。さっき最後に出ていったパーティのやつがこれが決まった場所だからって置いて行った」


 崇一と守が簡易地図を覗きながら話していると啓太が説明してくれた。


「まぁ早いもの勝ちだからな。今回はあきらめろ」


 今まで崇一達は狩場が重なってなかったので、このような事は無かったがギルドでは狩場が重なったときは区分けを実施することを推奨している。

 ある程度お互いがここにいると分かっていれば、攻撃しあうなどの状況が避けられるからである。

 同じ場所に移動する際に簡単な地図を用意して、お互いに○を入れるのだが、これは早いもの勝ちとなるため、優先的の取りたければ率先して各パーティの調整役になって地図の準備やリーダ達との交渉を実施する必要がある。大体のパーティは面倒がり、いつも同じような人が地図を準備し、残りのパーティは準備されると我先にと希望を書き込む事が多いのだが。

 今回は崇一達が参加しなかったので、調整役の人が開いている場所に○をつけて知らせてくれたのである。


「そんなんがあったんですね」


「まぁ、誤爆を防ぐためだな。互いの位置がある程度分かれば、大きな魔法などそっちに向けて放たないだろ」


「ですね」



 全員の準備が完了したのを確認して、崇一達は出発した。



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