7. ユニオンへの参加
次の日のお昼頃になって崇一達は目を覚ました。
避難所のほかの人達はすでに起きておりそれぞれ分担の作業に従事していた。
幸い既に崇一達のことは連絡され深夜に来たことが分かっていたらしく、そっとされていた。
起きてからしばらくすると美香と守達がやってきた。
「さて、全員そろったし今後のことを決めるか?」
「崇一、そのことだけど父さんと母さんはこの地域の空き家を借りて活動することにしたって。
俺もそこを拠点にしてユニオンに登録して活動しようと思ってる」
「そうか。一応日本防衛隊とかブリュナークとかもあるぞ?」
「いや、積極的に戦闘に行くつもりがないから、ユニオンの方が向いてる」
「じゃあ、埼玉とか長野とかもっと山側にいくっていう手もあるぞ」
「いや、そしたら俺たちもバラバラになっちゃうだろ? こんな状況なんだ出来るだけ友人たちと一緒に居たいんだけど?
お前は俺に居なくなって欲しいのか?」
「そんな訳ないだろ。一応確認というか。念のためというか」
「分かってるよ」
「一応、俺と崇司もユニオンに登録しようと思ってるけど、佐伯さんはどうする?」
「私も同じかな」
美香も昨日のうちに考えていたんだろうすんなり回答をしてきた。
これで、全員同じ場所って形がきまり、崇一は次の問題に取り掛かることにした。
「そうか。じゃあプレイヤーメンバは一緒に登録ってことで。後は住む場所だよなぁ。
俺たちもそうだけど、響子が安全に暮らせる場所を確保しないとな。ずっと避難所ってのもな」
「ねぇ、九条君、そのあたりはギルドの人に聞いてみたら? もしかしたらいい情報があるかもしれないし。
聞いてから探しても問題ないでしょ」
「そうだな。じゃぁ、その方針でみんないいか?」
「ああ」
「兄さんに任せる」
「問題ないよ」
「えっと兄貴、俺はブリュナークに登録する」
「え?」
てっきり全員から了承を貰えると思っていた崇一は、崇司が別のところに登録すると聞いて驚いた。
響子も同様で、あわてて崇司に詰め寄っていた。
「崇司、なんでブリュナークなの?」
「俺、強くなりたい。ゲームじゃないんだから体だって鍛えれば強くなるし、もしかしたらランクを上げる何か方法があるかもしれないし」
「何言ってんの。あなたEランクなんでしょ。兄さんとは違うんだから。そんなところに行って死んだらどうするの?」
「死ぬときまった訳じゃないし、Eランクをいきなり最前線には送らないだろ。とりあえずユニオンに居ても強くなれそうにないし、かといって軍隊みたいなのは性に合わないし」
「ユニオンに兄さんと一緒に入って、鍛えてもらえばいいじゃない」
「兄貴に頼りっぱなしになるのが嫌なんだよ!」
「なんで兄弟でしょ?」
「逆になんで姉貴は普通に出来るんだよ。あの引き篭もりだった兄貴だぞ。今まで俺たちにも迷惑をかけてきてたんだぞ。今更兄貴風吹かれてもイラつくんだよ」
「今日まで普通に接してたじゃない」
「状況が状況だからわがまま言えないだろ。でもここで落ち着くって決めて姉貴の生活も困らないなら、別に兄貴と一緒じゃなくたっていいだろ」
響子と崇司の問答を崇一は黙って聞いて、今後の件を含めどうすればよいか考えた。
「…崇司、ずっと考えてたのか?」
「ああ、姉貴の件が落ち着いたら別行動しようと思ってた」
「そうか。分かった。無理は言わない。ただ、2点だけ約束してくれ」
「何言ってるの兄さん」
「なんだよ」
「定期的に響子には連絡をいれて、安心させてやってくれ。もう一つ、絶対に無理をするな。何か問題があったら俺に連絡をくれ。
俺を頼るんじゃない、利用するってだけだ。俺は親父たちに頼まれただけだお前が変に気にする必要はないから」
「そんな事にはならないと思うけど、分かった。じゃぁ、俺はもう行くから。住む場所と落ち着いたら連絡するから」
崇司は直ぐに荷物を持って出て行った。
「兄さん、どうして」
「前から考えてたって言うなら崇司なりによく考えた結果だろ。それをここで無理に残しても崇司が納得しないだろうし、後で決定的関係が壊れてしまうかもしれない。大丈夫、崇司も馬鹿じゃない無謀なことはしないよ」
「でも」
「俺が家では部屋に籠ってたのは確かだし、崇司の言った通りだよ。
たしかに、もし俺が崇司の立場だったら今までお荷物だった人にいきなり上に立たれたくないと思うよ。
まぁ、落ち着いたら戻ってくるかもしれないし、しばらく様子を見よう。
幸い、遠方に行くわけじゃない近場だから様子を見ようと思えば直ぐに見れるから」
「うん…」
「守、佐伯さん、ごめん、変なところ見せちゃって」
「いや、気にしなくていい。けど、崇一はこれで本当にいいのか?」
「ああ、しかたがないこうなったのは俺が悪いんだし、さっき言ったよう
に後で決定的に壊れて連絡がつかなくなるよりは、まだ連絡を定期的にとってもらえるようにした方がいい」
「そうか。ならいいけどな」
「ありがと。
さて、じゃあ俺たちはさっそくユニオンに登録に行こうか。
響子はどうする? ここに居てもいいし、ついて来ても大丈夫だよ思うけど」
「一緒に行く、場合によっては住む場所についても聞くんでしょ?」
「分かった。じゃぁ行こう」
崇一達は、ユニオンの本部にやってきた。
10階建てほどのビルで1Fに受付などのカウンターが用意されていた。
「へぇ、もっと事務的なところかと思ってたけど…」
美香が驚いて周囲を見渡した。
崇一達も想像と違いきょろきょろと周りをみていた。
本部受付は、喫茶店のような雰囲気で、両開きのドアを開けると正面にカウンターがあり、入口右側は椅子やテーブルが用意されており、一人の人が他の集団と相談していたり、出動前なのかのんびりしている人がいたりとくつろいだ空間になっていた。
「とりあえず、受付に登録の事を聞いてみよう」
崇一がカウンターに進むと、受付の人が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。今日は護衛のご依頼ですか?」
「いや、プレイヤーなんですけど登録って出来ますか?」
「はい、大丈夫ですよ。登録はお1人様ですか?」
「3名です」
「はい、ランクを伺ってもよろしいですか?」
「B1人、C2人です」
「分かりました。それではカウンター右手にある扉から中に入り、一番手前の部屋にてお待ちください」
崇一達が、部屋にあったソファで待っていると、先ほどの受付に居た女性と防具を着た男が入ってきた。
「失礼します。これから登録の手続きと説明をさせて頂きます」
「あれ? 啓太さん?」
「ああ、登録に来たのって九条君達だったんだ」
「はい、これからお世話になります」
一緒に来た男は昨日合った倉永 啓太だった。
「啓太さんって受付もやってるんですか?」
「いや、違うよ立ち合い」
「立ち合い?」
「そう、どんな人が来るか分からないからね、対応出来るランクの人が一応同席する形になってるんだよ。手続きや説明はこっちの加藤 真理子さんがやってくれるから。で、一ついいかな?」
「はい」
「昨日聞いた話の感じだと九条君って上位プレイヤーのような気がしたんだけど? 一応C、Bランクが3名って聞いたんだけど?」
「あ、え~と。
…すいません。仕事の割り当てがあるって聞いてたんで、強いと遠くに行かされる事があるかなぁって、両親との約束で妹たちの様子をそばで見てたかったので」
「いいよ。事情は人それぞれだし、現在登録しているメンバーでもランクを公開していない人もいるから。ただ、チームに入れてもらったりする場合は公開していない人は拒否されるから気を付けて、まぁ、命を預ける訳だからね。その辺さえ理解していればいいよ」
「わかりました」
頭を下げる崇一に、啓太はヒラヒラと手を振りながら説明した。
「それでは、先ほど倉永が言ったように私、加藤が説明させて頂きます。
まず、こちらの用紙に必要事項を記入ください。★マークがあるものは必須で、ないものは任意です。
ただこちらに記入頂いたものはギルド内で公開されますので先ほどの話のとおり出来るだけ記入して頂くのが今後のことを考え望ましいです」
崇一達が記入をしていると、啓太が声をかけてきた。
「ああ、書きながらでいいんだけど、結局九条君ってランクは、よければ教えて」
「Aランクです」
「俺と同じかぁ。加藤さん、この人達なら大丈夫だと思うけど、規則だしね。別のやつを呼んでくるよ」
「分かりました」
「じゃぁ俺は出るから。もしよかったら登録後話そう。ラウンジにいるから声をかけて。
別の人が来るけど気にしないで、単にルールってだけだから」
「はい、ところでラウンジってどこですか?」
「ああ、ごめん。カウンターの横の待合だよ」
「わかりました」
しばらく記入をしていると、今度は輝夜が入ってきた。
「こんにちは。九条くんたち来てくれたんですね。
…あれ? 1人足りなくないですか?」
「松永さん、こんにちは。
えっと、崇司はブリュナークの方に登録に行きました」
「そっか、聞いても大丈夫ですか?」
「はい、大したことないですよ。ちょっとした兄弟げんかで同じところは嫌だって」
「そう。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。定期的に連絡はもらえる形になってるんで、拒絶しているわけじゃなく、一旦お互いが好きなことをやろうってだけですから」
崇一達が話をしている間に、2人も記入が終わったらしく加藤さんが次の説明のため待っていた。
「えっと、輝夜ちゃん。こっちの話を進めてもいいかな?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
「この後、ギルドタグをお渡ししますので、必ず首に下げておいてください。
まぁ、軍隊でいうIDタグと同じものです。ギルドの登録番号と名前などが記載されています。ギルド内での身分証も兼ねてますので無くさないでください。
ではギルドの説明を簡単にですがします。詳しい事や気になることはカウンターで随時確認してください」
説明を受けた内容は、昨日輝夜たちに聞いた内容に細かな点が追加されたのみだった。
まとめると、以下のようになった。
主にギルドと契約をした個人、集団、地域の護衛、パトロールをギルドメンバーで交代で実施する。
この仕事は1週間のうち2件以上実施する必要がある。
仕事によっては3名以上等指定があるのでカウンター横の仕事票で、空いている日と要件、報酬金額を確認して、各自で必要なメンバーを集め参加を申告する。
仕事の件数が規定に満たない場合は罰則があるが、逆に件数に上限はないので積極的な参加を推奨していること。
仕事の報酬とは別に、仕事中に獲得した魔石が報酬になること。
また、仕事以外に個別に討伐を実施し賞金を稼ぐ事も出来る。
魔石はギルドで換金出来るが、2割を上納金として引かれる。
個別討伐を実施するのは個人の自由だが、ギルド規定として最低2名で行動することが決まっている。
一通りの説明が終わった後、加藤が確認をしてきた。
「何か気になったこととかはありますか?」
「えっと、仕事の罰則ってなんですか?」
「こちらで強制的に仕事を指定します。もしそれを拒否されたり、参加されなかった場合はギルド登録を抹消します」
「今更ですけど、ギルドに参加してる利点って?」
「えっと、すでにご存じかと思いますが、ギルドに登録している場合、一定時間帰還がない場合、救助隊を派遣します。なので討伐に行かれる際はカウンターに報告をお願いします。
また、怪我などで重傷になった際もギルドで所持している魔石による回復等を受けられます。いわゆる保険だと思っていただければと思います。
ただし、個人で一人だけで討伐に行かれた場合はギルドの補助は受けられません。
他に何かありますか?」
「とりあえず、週2件は仕事をする。1人では討伐に行かない。魔石の換金の際2割が上納金になるですよね?」
「はい、そうです」
「じゃぁ、とりあえず大丈夫です。後でも聞けるんですよね?」
「はい、カウンターで聞いてください」
「分かりました。守、佐伯さんは何かある?」
「いや、ない」
「私も大丈夫」
「じゃあ、大丈夫です」
「分かりました。今ギルドタグをお持ちしますので少々お待ちください」
2分程待つと、加藤さんが戻ってきた。
「こちらがギルドタグになります。
では、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
「「お願いします」」
崇一達の登録が終わったのをみると、輝夜が声をかけてきた。
「ねぇ、ちょっとラウンジで話しませんか?」
「いいですよ。啓太さんにも誘われてるので一緒でいいですか?」
「大丈夫ですよ」
崇一達がラウンジに出てくると、啓太が声をかけてきた。
「おおい、こっちこっち。
飲み物は何がいい? 今日はおごるから」
「でも」
「いいからいいから」
「ありがとうございます」
「啓太さん私もいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
崇一達がそれぞれがの飲み物を注文してから雑談が始まった。
しばらくして、崇一は住む場所についてまだ確認していないことを思い出した。
「そういえば、皆さんはどこに住んでるんですか?」
「大体はこのビルか、ギルド裏のマンションね。どうかしました?」
「いや、まだ住む場所が決まってなかったので、ギルドで紹介してもらえるなら助かるなぁと」
「そういことですか。では1人ならこの上のワンルーム、家族と一緒ならマンションを紹介できますよ。
どちらもまだ空きはあるから大丈夫ですよ」
崇一の質問に輝夜が答えた。
「えっとギルドは大丈夫として、マンションも警備は大丈夫ですか?」
「はい、ギルドの直ぐ裏ですし、マンションはギルド関係者しかいないので、ギルドと一緒に常に警備員が巡回してます」
「じゃあ、お願いします。響子も一緒に住むんで、マンションで」
「分かりました。佐伯さんと吉岡君は?」
「私は、ワンルームでお願いします」
「俺は、親に念のため確認してからお願いします」
「了解、九条君がマンションで、佐伯さんは私と同じでワンルーム、吉岡君は後でと。
あ、そうだマンションも3つほどタイプがあるけどどうします?」
「3名分個室が取れる部屋でお願いします」
「ああ、弟さんの分もね。了解。
ねぇ、加藤さん、ワンルームとマンションの手続きをお願い」
輝夜は直ぐに席を立ち、カウンターにいた加藤さんに手続きを依頼して戻ってきた。
「はい、これでOK。後で加藤さんに詳しい話は聞いて」
「ありがとうございます」
「気にしないで、そういえば全員のランクを聞いてもいい? 私が呼ばれたってことはAランク以上がいるってことだけど」
「はい、俺がAランク、守がBランク、佐伯さんがCランクです」
「そっか、九条君てAランクだったんだ…」
崇一は、自分のランクを聞いて、輝夜が少し落ち込んだように見えたので聞いてみた。
「え? なんで?」
「ちょっと探してた人がいたんだけど、名前からもしかしたらって思ったんだけ違ったみたい」
「なんか変に期待させちゃってすいません」
「いいて、勝手にもしかして思っただけだから」
崇一に謝られ、輝夜はあわてて手を振って気にしないでと伝えた。
「えっと輝夜ちゃん、その探している人ってもしかして恋人?」
輝夜の話を聞いて、ピンと来たのか急に美香が食いついてきた。
「違いますよ。友達なんです。ゲームの中でのギルドの仲間で、ずっと一緒にプレイしてたんで」
「へぇ、リアルでの名前や連絡先は知らないの?」
「携帯のアドレスだけです。名前はプレイヤー名だけで呼び合ってたので本名は知りせん」
「そっか、今携帯は使えなくなっちゃったからね」
「はい。なので連絡が取れなくて、崇一さんの名前がプレイヤー名に似てたんでもしかしてと思って。
すいません。変な空気にしてしまいましたね。忘れてください」
「大丈夫。気にしないで」
全員が自分を心配げに見ていることに気付いて、輝夜は慌てて話を打ち切った。
その後も、雑談を交えギルドについてあれこれ聞いていたが、気が付いたらお昼を回っていた。
崇一が時計に気付き、全員に声をかけた。
「えっと、そろそろ一旦解散にする?」
「もうちょっと話をしたいんだけど?」
美香が解散に否定的な様子で答えてきた。
「まぁ、今日から同じギルドで働くんだからまた話す機会もあるから。
お昼も取りたいし、荷物の移動や響子の仕事も探さないと…」
「そっか。分かった」
その様子をみた輝夜が響子に質問した。
「えっと、響子ちゃん働くんですか?」
「はい、この状況じゃ学校は無理だし、兄さんだけ働かせるのも気が引けるので、出来ることを探そうかと」
「そうですか。じゃぁうちで働くのはどうですか? カウンター作業や諸手続きの事務作業がメインになりますけど」
「いいんですか?」
「はい。うちも人手は募集中ですから。それにここで働いていれば九条君も安心でしょうし」
崇一も聞いていて確かに下手なところで働くより安全そうだと感じたので、響子にすすめた。
「響子、お前さえよければここで働かせてもらえばどうだ?」
「うん。そうする。輝夜さんお願いできますか?」
「じゃぁ、加藤さんに言って、手続きしてもらってください」
「はい。じゃぁ兄さん行ってくる」
「ちょっとまって下さい。今しなくてもいいんですから、先にお昼にしませんか?
隣のレストランがあるからみんなで食べに行きましょう?」
輝夜の提案で全員で食事をした後、響子の手続きをするためギルドに戻るとギルド内がざわついていた。
輝夜が直ぐにカウンターに向かい、状況を確認した。
「えっと、加藤さん、何かありました?」
「あ、輝夜ちゃん、ちょうどよかった。
さっき調布の避難所の護衛に行ったパーティの1人が怪我をして戻ってきたの」
「で、何がありました?」
「どうやら強い敵が現れたみたいで、今まで見たことないタイプだって」
「護衛に行っていたメンバーのランクは?」
「Aが1人、Bが3人、Cが1人」
「じゃぁ最低でもA以上が向かった方がいいですね。私が行きます。
あと赤染さんはいますか?」
「いま呼んでもらってます」
「分かりました。倉永さんはちょっと付き合って。
九条君たちは待っててください」
「いいよ」
「大丈夫ですよ」
「気を付けてね」
「分かった」
赤染が到着すると輝夜たちはギルドが用意してくれた軽トラックの荷台にのり現場に向かった。
崇一達はラウンジで輝夜たちの帰りをまっていた。
ラウンジにいる他の人たちも無言で、重苦しい雰囲気に満ちていた。
「輝夜ちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫だって、SSランクは伊達じゃないって」
響子が心配になり誰にというわけでもなく口にしたのを聞いて、崇一は笑って返した。
「でもAランクの人が居たパーティだったんだよね?」
「SSとSランクが動いてるんだから心配ないって、ほらクッキーでも食べて落ち着けって」
崇一はテーブルの上にあるクッキーを響子の前に寄せた。
「うん。ありがとう」
そんなことをしているうちに、外から車の音が聞こえてきて、ラウンジに居た人達が立ち上がった。
崇一も立ち上がり入口を見ていたら、輝夜たちが入ってきた。
「な、無事だったろ」
「うん」
全員が無事戻ってきたのをみて、崇一も安心した。
輝夜たちは、ギルドの仲間に囲まれ質問攻めにあっていた。
「輝夜ちゃん。大丈夫だった? 怪我とかない?」
「大丈夫。ありがとう」
真っ先に輝夜に走り寄ったのは、先日一緒にトラックにのった詩織だった。
体のあっちこっちをぺたぺた触りながら、心配する詩織に輝夜は笑顔で答えていた。
そこへ加藤さんが筆記用具をもって近づいて行った。
「ごくろうさま、で、どんな敵だった?
出来るだけ詳しく教えて、ほかのギルドなんかにも通知をださないといけないから」
「分かりました。
えっと、赤染さん、倉永さんはおかしなところとか、何かあったら補足をお願い」
「了解」
「OK」
輝夜達はラウンジの一角のテーブルに場所を移し話を続けた。
「えっと今回でたのは、一言で言うと鈍器でつぶされた人面蛇です」
「人面蛇?」
「はい、体は太さは2mほどあり、長さは100mを超えていて、表面は鱗ではなく粘膜みたいなものでうなぎみたいな感じでした。
で、頭が蛇ではなく人と蛇のの顔を混ぜたような顔でなんですけど、一部鈍器で殴ったかのように凹んでいるというか歪んでいたというか」
「大きいわね」
「はい、今までの敵と比べても大きかったです」
「魔石は出てきた?」
「はい、これです」
周囲で見守っていた人達も輝夜が出した魔石の色を見て驚いた。
「オレンジ色!」
「ってことはSランクの敵だったのか」
「なぁ、今までSランクって出たことないよな」
「ああ」
周囲のざわめきを他所に、加藤が話を続けた。
「えっとこの魔石はどうする? 換金する?100万にはなると思うけど?」
「赤染さん、倉永さんどうします?」
「輝夜ちゃんが決めれば、殆ど輝夜ちゃんが単独で倒したみたいなもんだし」
「そうそう、俺たちのことは気にしないで」
「でも…」
「気にしないでいいから。輝夜ちゃんが使いたいように使えばいいよ」
赤染も啓太も今回は自分に権利はないからと断ってきた。
「じゃぁ、お言葉に甘えます。
加藤さん、今回は換金しません。ここまでの魔石だといつ手に入るか分からないので、魔法を込めて使おうかと」
「わかったわ。ただ写真だけは撮らせて、記録しておかないといけないから」
「わかりました」
加藤との話が終わったところでまたギルドの仲間が質問攻めを再開していた。
「えっとこれじゃぁ、今日はもう話せないかな?」
「だろうな。俺たちは戻ろう。新しい部屋も決まったし、荷物の移動をしないといけないしな」
「そうだね」
美香も話をしたそうだったが、新入りのためなかなか奥に行けず直ぐに戻ってきた。
それをみて崇一達は部屋に戻って荷物の片づけをすることにした。