6. 初顔合わせ
20分程歩いて、駅前に到着した。
「兄さん、駅に来てどうするの?
電車なんか動いてないよ。もっと山側じゃないと…」
「そうだよ。九条君。どうするの?」
崇一たち家族に、守の家族、それと美香も一緒に移動していた。
全員が、崇一の方を見ていた。
「いや、さすがに電車で移動は考えてないよ。
ただ、ずっと歩くってのも問題だから、その辺に放置されている自転車を拝借しようかなぁと」
「でも崇一、盗難だぞ?」
「つってもな守。この状況なんだから、1か月以上放置されている自転車を拝借したって大丈夫だろ?」
「そ、そうか、仕方ないか…」
守は直ぐに納得出来なかったが、こんなことで揉めてもしかたがないので仕方ないものだって自分に言い聞かせた。
「まぁ、九条君の言うとおり、ずっと放置だもんねぇ」
「そういうわけだ。 お前たちだってずっと歩くのは嫌だろ?」
「まぁな。ただまだ行先を聞いてないんだが?」
「そうだよ、兄さん。どこに行く気なの?」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「うん」
「ああ」
「聞いてない」
「言ってない」
崇一はずっと色々考えていたので、もう話した気になっていたが、響子をはじめ崇司、守、美香たちに否定された。
「そっか、とりあえず新宿の方に向かおうと思ってるけど…
守と佐伯達も一緒に行くってことでいいのか? どっか行きたい場所とかは?」
「俺たちは問題ない。父さんとも話したけど、どこに行っても同じだろうからって俺に任せてくれた。
で、俺はお前についていくって決めたから」
「私は一人だし、吉岡君と同じで九条君と一緒に行こうと思ったから」
「そっか。
一応、東京に行ってギルドに入ろうと考えてる。新しい避難場所に行っても同じような問題にあたるかもしれないから。だったら最初からプレイヤーが居て問題ない場所にいこうかと思って。それと食うためには働かないといけないしな。いいかな?」
「わかった」
「そうだよね。いいよ」
「じゃぁ、さっそく向かおうか、一応、一旦山側に行って海から離れて東京に向かおう」
夕方になり、崇一達は山道を自転車を押して歩いていた。
「兄貴…、山側に来ないでもそのまま東京の向かってもよかったんじゃない?」
「夜の方が奴らが活発だから少しでも海から離れたかったんだよ」
「兄さん、そしたら自転車要らなかったんじゃ?」
「途中までは早かっただろ。それに下りになれば楽になるから。そしたら結果的には自転車の方が歩きだけより早いから」
「ねぇ、九条君。ここらで一旦休まない? 道路のところにいれば周囲はひらけてるし」
「だな。崇一休むぞ」
「ああ」
美香と守の提案で一旦自転車を止めて全員アスファルトの上に腰を下ろした。
高台に来ていたので、町が一望出来た。
「こんなことで町を離れることになるとは思わなかったなぁ」
響子が町を眺めながらつぶやいた。
「そうだな。高校を出て、大学行って、就職してずっと町に居るとおもってたなぁ」
「うん」
しんみりした雰囲気の中、崇司が声を上げた。
「兄貴、あそこって学校だったよな?」
「へ?」
「あそこ、火が出てるだろ?」
「あ、九条君、ほんとだ学校だよ」
「何があったんだ?」
「奴らに襲われたんじゃぁ」
「おい崇一、調べられるか?」
SSランクの崇一なら何か調べる魔法があるかもと考え、守は崇一に確認をした。
「場所は見えてるから、風で音は拾えるかも…」
しばらくすると、銃声、敵の唸り声、悲鳴と怒号が聞こえた。
最初何の音か分からなかったが、理解した瞬間、崇一は音を届けるのを解除した。
「やっぱり、襲われたんだな」
「ばっかじゃねぇの。防壁があるか大丈夫とか抜かしてたよな?」
「崇司、やめて」
「姉貴、だってあいつらが自分で選択した結果だろ? 戦えないのに当然だよ」
「でも…兄さん助けることは出来ない? 兄さんなら出来るんじゃない? 声もここまで届けたし…」
「出来ない。視認できないところで細かな調整が出来ない。あの一帯をさら地になら出来るけど…。
ただ、俺も崇司と同じで自業自得だと思ってるから。あいつらは何もしてないプレイヤーを射殺してるし」
「そんな…」
「しかたない。ここから何かすることは出来ない。
かといってお前たちを置いて救助に向かう事も出来ない。
…もう移動しよう」
嫌なシコリを感じたまま全員無言で移動を開始した。
崇一達は、アーケードになっている商店街を通過していた。
ここは幸いまだ電気も問題無く来ているみたいで明るく、少し前まで暗い山道を進んでいたためほっとした。
時間が時間なので、人通りがなく少しさびしい感じがしたが、こんなご時世なので何かあった時のため照明をつけたままにしているのかもしれなかった。
「一旦ここで、休憩しようか?」
崇一は、全員に声をかけ自転車を止め、休憩した。
しばらく腰を落ち着けていたら、前方から軽トラックが2台やってきた。
邪魔にならないように道の端に自転車を寄せたのだが、崇一達の少し前で軽トラックが止まった。
荷台にはそれぞれ3人ほど乗り込んでいるが見えた。
そのうちの1台め荷台から人が下りてきた。
「こんなところで、何してるんですか? ここは危ないですよ?」
崇一は、声をかけてきた美少女が見覚えのある人物でびっくりした。
「え、松永輝夜?」
ポニーテールにした腰まであるミルクティのような淡い茶色の長い髪、北欧系のハーフだった母親ゆずりのグリーンで意志が強そうな瞳とすっと通った鼻筋、淡いピンク色の唇でかわいいというよりきれいな顔、グラビアでも映えていたしっかりと主張しているが大きすぎない胸と細い腰、何度見てもテレビや雑誌で見たことがある松永輝夜だった。
「はい、そうですけど、あなたはここで何をしてるんですか?」
「…」
テレビや写真でなく初めて直接本人を目の前にして緊張で無言となった崇一に代わり、美香達が輝夜のそばに寄って行った。
「わぁ、松永輝夜だ。きれい~、うわ、ほんと足がながーい、腰の位置も高い」
「本物だ、すげー」
「おい、崇一ものほんが目の前にいるぞ」
「輝夜ちゃん。どうしたの?」
「きゃー、赤染くん」
緊張で固まって返事をしない崇一、美香、崇司と守が直接会えた芸能人にはしゃいでいると、2台目の荷台からもう一人下りてきた。
その人物を見て美香が再び黄色い悲鳴を上げた。
黒髪をショートにした新しく表れた人物も芸能人で、某○ニーズ所属の男性ユニットの一人赤染渉だった。
「えっと、この人たちがここで座り込んでたので、声をかけたんですけど…」
「こんな時間に?」
「そうなんです。だからどうしたのかなって声をかけてみたんですけど」
他のメンバがあてにならないので、響子が輝夜の質問に答えた。
「すいません。避難先が無くなってしまい移動していた途中なんです。
こっちの兄が、一応まとめ役というか。
兄さん、ちょっとしっかりして」
「ああ、すまない。えっと、九条崇一です。
いま、移動の途中で…」
「それは言ったから」
「えっと…」
慌ててしまい言葉が出なくなった崇一を見かねて輝夜から状況の確認を始めた。
「九条さんですね。こんばんは。
避難先がなくなったってことですけど、どこに行くか決まってるんですか?」
「いや、とりあえずギルドに登録しようと思って、東京の方に行こうとしか…」
「ギルドに登録ということは、あなた方もプレイヤーですか?」
「はい」
「ギルドは今、東京に3つありますけど、どこにするか決まってますか?」
「いや、まったく。東京についてから情報収集しようと思っていて」
「そうですか。もしかしたらテレビで知ってるかもしれないですけど、私もギルド所属なんですよ。
もしよかったら一緒に行きますか? 赤染さんもいいですよね?」
「ああ」
「えっと、ちょっと待ってください。なぁ、響子いいかな?」
「いいと思うよ。どうせ決まってないんだし」
「そっか。じゃぁ、いいですか?」
それから、自転車を乗せると人が乗り切らなかったので自転車を商店街の駐輪場に置いて、荷物だけもって軽トラックの荷台に乗せてもらった。
1台めに崇一、響子、崇司、美香が乗り、2台めに守と家族が乗った。
移動を再開したところで、崇一が輝夜に声をかけた。
「えっと、あの握手してもらっていいですか? ファンだったんで」
「あ、俺も」
「私もお願いします」
全員握手をしてから自己紹介をする形となった。
「あの、ありがとうございました。
改めて俺は九条崇一といいます。プレイヤーです。
こいつが妹の響子でノンプレイヤー、そっちが弟の崇司でプレイヤーです」
「私は、佐伯美香っていいます。Cランクです」
「はい、よろしくお願いします。
うん? プレイヤーでしゅういち…」
「私は小川詩織です。大変でしたね」
「俺は倉永啓太、こっちは弟の啓次、よろしく。
あと、後ろの車に居るのが赤染渉と、大内隆弘、鈴木陽奈子、鈴木直樹の4人。ちなみにこの鈴木2人は他人同士だから下手に兄妹ですか?とか聞かないように。ギルドでもよく聞かれるので最近は怒るから。全員同じユニオンってギルドに所属してる」
「どうしました?」
「あ、何でもないです」
挨拶をしたあと、急に首を傾げ考えこんだ輝夜を見て、響子が声をかけた。つぶやきだったたため、車の音もあり聞こえなかったが、何か疑問に感じたらしく一瞬眉を寄せていたが、すぐに笑顔になったので気にしなかった。
「ところで赤染君って彼女っているんですか?」
「いいえ、特定の誰かと付き合ってるって話は聞いたことがないけど」
「そうですか。たしか輝夜さんのギルドって芸能人も結構いましたよね? その中で付き合っている人とか何かありますか?」
「う~ん。状況が最近落ち着いてきたばっかりだから…、まだそんな話は出たことがないなぁ」
美香からの質問で、女子側は恋バナに花をさかせはじめた。
男子側はそっちには混じれなかったので、自然と男子同士で話をする形になり、啓太が崇一に質問をしていた。
「そういえば、九条君たちはどこから来たんだ?」
「神奈川からですね。さっき言った通りちょっと避難場所が奴らに襲撃されて無くなってしまったので…」
崇一は、避難所内でプレイヤーと一般人の間でもめ事があって追い出された事は伏せておくことにした。
「そうですか。他の人たちは?」
「バラバラに移動を開始したので、分かりません。
中には山や近隣の親族がいるところに向かった人たちも多かったみたいですけど、私たちは特に宛がなかったので今後の生活も考えギルドに入ろうかと。
あ、そういえばみなさんはどうしてあそこを通ったんですか? もしかしてどこかに行くの邪魔しちゃいました?」
「いや、大丈夫だよ。
目的があって移動していたんじゃなくて、パトロール兼獲物探しみたいなものだから」
「よかった。みなさんはパーティを組んでるんですか? 松永輝夜が一緒なんてうらやましいですよ」
「今回は一緒だったけど、固定ではないよ」
「そうなんですか」
「基本は一緒に活動したい人とするんだけど、うちのギルドでは安全のため最低2名以上で行動って規則があって、1人の人は出るときはギルドの広間で受け入れてくれるパーティを探して一緒にいくんだよ。まぁそんなんで大体いつも同じようなメンバーになるんだけどね。
輝夜ちゃんは1人でいつも募集をかけてるんだよ。アイドルだからね人気があっていつも取り合いになってるよ。まぁ、男だけのパーティには入ってもらえないから俺たちみたいに、一人でも女子がいないとだめなんだよ」
「やっぱり人気があるんですね」
「そりゃそうだよ。美人なのはもちろん。日本で24人しかいないSSランクで生属性持ちだかね」
「え、24人ってSSランクは24人しかいないですか?」
崇一は啓太が何気なくいったSSランクが24人しかいないという情報を聞いて驚いた。
前の情報からランクが上がると生き残りにくいとは聞いていたが、ゲーム時代にはSSランクはそれなりに長くやってたりすると普通にそのランクまで行く事ができたので珍しくなく5000人以上のプレイヤーがいたので、30人を切るような状況になっているとは思わなかったのだ。
「うん? あれ?知らなかった? こないだ日本防衛隊から情報があったんだけど…。公式発表はされてなかったけ?
まぁ、日本防衛隊の調査に特化したプレイヤーと神話研究社の調査の結果、国内で生存しているランク別プレイヤー数だけは判明したんだよ。
誰がどのランクなどは分からなかったらしいけど」
「へぇ」
「細かな数字は忘れたけどプレイヤーは全体で約10万人いて、3万人ほどがEとD、6万人ほどがB、Cランクの中堅プレイヤーで、上位プレイヤーのAランクは4千人程、Sランクは325人、SSランクになると24人だけってわかったんだよ」
「そんだけなんですか、確かMWOって500万ユーザほどいましたよね?」
「そうだね」
「ってことは、50人に1人しか生き残ってないんでか。それも上位プレイヤーは全滅に近いと…」
「そういうことになるね。最後の方の情報ではSSランクは5000人以上は居たはずだからね」
念のため再確認をしたがやはり上位プレイヤーが全滅に近いと判明し崇一は言葉が出なくなった。
崇一自体がSSランクの初期からの古参プレイヤーで、ゲーム内での知り合いも上位ランクの人が多かったため、知人たちがほとんど亡くなったと言われているのと同じため当然であった。
急に黙り込んでしまった崇一をみて、啓太が確認してきた。
「えっと、崇司くん、お兄さん大丈夫? 何か気に障ること言ったかな?」
「ああ、気にしないでください。兄は長くプレイしていたので、上位プレイヤーに知人が多かったみたいで…」
「そうなんだ。ごめん」
「気にしないで下さい。ところで啓太さん。さっき聖属性がっていってましたけど、その属性ってなんでしたっけ?」
崇司は兄を放っておくことにし先ほどの話で気になったことを質問した。
「え、君もプレイヤーだよね?」
「はい、プレイヤーなんですけど、ほとんどチュートリアルしかやらずに止めてしまったので…」
「ああ、そういうこと。じゃぁ、Eランクなんだ?」
「はい、で聖属性ってあったかなぁと?」
「お兄さんには聞かなかったの?」
「どたばたしてまして落ち着いてゲームのことを色々聞くタイミングがなくて」
「そっか。まだ1ヶ月ほどしかたってないからなぁ。
じゃぁ、簡単にまず属性は、吸収した神によって変化するのは知ってる?」
啓太は、崇司が全くの初心者であることを前提に説明することにした。
「はい。今じゃあ何の神を吸収したかより、どの属性を持ってるかってだけになってますよね」
「そう。で、ランクによってもてる属性の数が変わってくる。
全員が持っているのが無属性、体の強化や弱い回復・解毒が出来る。Eランクは全員が無属性のみになる。
D、Cランクになると無属性プラス1属性、B、Aランクで無属性プラス2属性、S、SSランクで無属性プラス3属性ってなる」
「じゃあ、俺ももう一つ上まで行ってれば火の魔法とか使えてたのかぁ」
「そうなるかな。まぁ無属性でも筋力強化とか使えるから生存率は上がるし、一番の基本となる力だからそれを持ってるだけでも良かったと思うよ。それにEランクは侵食の問題がほぼ無かったみたいだから苦しまないで済んだみたいだし」
「はい」
啓太も男なので崇司が火の魔法などに憧れるのは分かったが、現状どうしようもないのでEランクのいい点を強調し慰めた。
「で続けるけど、Dランク以上からもてる無属性以外には普通属性とよばれる火、水、風、雷、土、金と、稀属性と言われる木、生、毒、物がある。
普通属性の金以外は、分かりやすいと思う。さっき言ったように火の魔法とかを使う属性になる。
で、金は攻撃だとかの属性じゃない。生産に使う属性になる。MWOでは現実と同じ方法による金属加工もできて鍛冶をやっていた人もいたけど、ほとんどが金属性の金属を加工・制御する魔法で武器や防具を作ってた。こっちの方が現実ではありえなかった合金を作ることが出来たから」
「じゃあ、オリハルコンとかヒヒロイカネってのもあるんですか?」
「あるよ。輝夜ちゃんが使ってる武具にも使われてる」
「でもSランク以上ってことは、今の日本で作れる人ってどのくらいいるんでしょうね」
「さぁ、分からない。
で、普通属性は分かったと思う。本題の稀属性だけど、木ってのは植物を操る魔法、生は主に他者の回復魔法になる。
あとは、毒と物だけど、毒はそのまま毒と病気を操る魔法、物は物体操作、いわゆるテレキネシスと同じようなものだな」
「聖っていうと浄化だとか闇とか対するものだと思ったんですけど、回復がメインなんですね」
「へ? なんで?」
「だから聖ってきいて、そう思ったんですけど?」
「あはははははははは」
「ははははは」
崇司の答えを聞いて、啓太と啓次もどう勘違いしたのかわかり笑い出した。
「え、どうして笑うんですか?」
「ははははは、ああ、ごめん。えっと『せい』っていても聖なるではなく、生命の生だから…」
「あ、そうですか」
顔を赤くして下を見てしまった崇司に啓太はなぐさめるように肩を叩いた。
「ごめん、ごめん、分かりにくかったよな」
「いや、もういいですから…」
しばらくして落ち着いてから崇司が話を続けた。
「ところで稀って、どのくらい稀なんですか」
「数値としては公開されてなかったけど、50~100回に1回あたるかって言われてたね。だから、稀属性を持っている人の中にはわざと上位ランクへならなかった人もいたらしい」
「でもそのくらいなら500万人もいたらそれなりに居たんじゃ?」
「ゲーム内ではいたな。ただ大崩壊の際、プレイヤー自体が減ったし、さらに上位プレイヤーとなると極端に少なくなったから。特に生属性の場合は、上位プレイヤーはこんな状況だと貴重なんだ」
「なんで?」
「無属性でも回復魔法が使えるのは知ってるだろ? でもあれは自分の持ってる自然回復力を促進するものなんだよ。
だから他者には使えないし、時間をかければ自然回復で治る怪我しか治せない。よくある重傷の怪我を治すのは生属性の魔法になる」
「回復職が少ないってよくクレームになりませんでしたね?」
「他の物語とかでも僧侶とかヒーラーを確保するのが難しいとかあるだろ? あれと同じだと思ってたし。
ゲームによっては職種によって回復魔法なんて使えないのもザラだったしな。
町の教会で料金を払えば治せたし、魔石で準備も出来たから問題なかったんだよ」
「でも現実になって、困ったことになったわけだ」
「それでも10万人もプレイヤーがいたら大丈夫なんじゃ?」
「生属性持ちが全員上位プレイヤーじゃないからな。
ゲーム中でもC、Bランク出直せたのは中程度の怪我まで、重傷を治せたのはAランクからだった。
さらに腕がないなどの部位欠損に対応した回復魔法はSランクからだったし、蘇生魔法はSSランクだけだった。
ゲームみたいに教会や魔石の販売店があればまだ良かったけど、現実にはそんなものはない。
回復魔法はプレイヤーのみだし、回復の魔石が欲しかったら魔石をとってきて、更に生属性のプレイヤーに頼むしかない」
「そんな…」
「だから、だいたいどこのギルドでも単独行動を禁止してるし、生属性のプレイヤー確保に躍起になってる。
そんな状況で輝夜ちゃんはSSランクの生属性で、かつすっごい美少女ってわけだ、そりゃ引っ張りだこになるだろ
一部じゃ女神様ってよばれてるぞ」
「えっと、啓太さん。その辺でやめてね。状況を把握してもらうため止めなかったけど、変な情報までつけないで」
「わかったよ」
女子だけで話していた輝夜がいつの間にかこちらを向いていた。
「で、九条君のお兄さんはどうしたの? ずっと下を向いてるけど…」
「ああ、兄貴は上位プレイヤーに知人が多いみたいで、その上位プレイヤーが殆ど亡くなってるって聞いて…」
「そっか。私も一緒にゲームをしてた兄と兄の恋人も亡くしたし…」
「お兄さんもプレイヤーだったんですか?」
「そうです。兄も兄の恋人も同じギルドでプレイしてました…」
崇一も輝夜と崇司の話を聞いて、とりあえず今落ち込んでるだけはどうしようもないと顔を上げた。
「ごめん、松永さん。俺だけじゃないよな。上位プレイヤーはみんな同じような境遇だもんな」
「気にしないでください」
崇一は崇司に丁寧に説明をしてくれた啓太たちにも謝罪した。
「倉永さんもすいませんでした。本当は俺が説明しておけばよかったんですけど」
「気にするな。たまたま状況がこうなっただけだ。それと倉永はやめてくれ、啓太って呼んでくれ。
倉永だと弟と区別がつかないだろ?」
「はい、啓太さん」
「おう」
「それで、九条さんたちはこれからどうするんですか?」
輝夜が崇一に質問をした。
「えっと、とりあえずさっき言った通り東京にある3つのギルドの情報を集めて、それからどこに行こうか決めようかと」
「どの程度ギルドの情報はあるんですか?」
「いや、まったく。ギルドっていうプレイヤーの互助会みたいなのがあるとしか」
「そうですか。じゃぁ、良ければ簡単に説明しましょうか?」
「お願いします」
「はい。
では、ギルドは日本各地にありますけど、基本的にはプレイヤーをまとめ、サポートする組織です。主に敵を倒して魔石を換金して収入をえることを目的にしてます。ただ、組織の理念によってそれ以外の行動が大きく変わります。
まず一番多いのは各地域ごとにあるギルドで、賞金を稼ぐのと並行してその地域の守護・生活のサポートや魔法を駆使した農工業を実施しています。民間ギルドもありますが、主に県や市が主体となっていることが多いみたいです。
で、東京にあるのは、2つの民間ギルドと政府ギルドの3つですね。
政府ギルドは、国が運営しているギルドで日本防衛隊と言われています。主に自衛隊や警察との連携、国土の防衛を主目的にしています。またその目的から賞金稼ぎというより自衛隊以外のもう一つの軍ですね。個々人で勝手に動くこもと許されてないみたいです。また各地域のギルドとの違いは、特定の場所を守る組織ではないので、必要におうじて切り捨てる地域があります。
民間ギルドの一つがブリュナーク、SSランクの2名で立ち上げたギルドで戦闘・賞金を稼ぐことを主目的に活動しています。
で、最後の民間ギルドが私たちが所属しているユニオンです。
芸能プロダクションが複数連合して立ち上げたギルドで、主に討伐と契約による地域の護衛をしています。地域の住民からの依頼が多く、他のギルドから依頼を受けることもあります。今日もその護衛活動によるパトロール中だったんですよ。
所属すると今日の私たちのように仕事を割り当てられます。その仕事に影響がなければ、賞金を稼ぐ事も問題ありません。
ただ、護衛が仕事なので、その仕事中に嫌でも戦うことになりますが。
あと、芸能プロダクション所属だったプレイヤーはCMや撮影が入る事がありますが、たまにプロダクション所属でないプレイヤーにも依頼がある場合があります。」
「質問をいいですか?」
「はい、なんですか?」
「聞いた感じだと日本防衛隊とブリュナークはどちらも敵の駆除を積極的におこなってるんですよね?」
「そうですね」
「なんで一緒に活動してないんでしょうか?」
「さっき言った通り、時に連携はしているみたいですが、日本防衛隊は軍隊に近く上下関係や訓練が厳しいみたいです。それと駆除目的が国の防衛と賞金稼ぎと大きく違いますし、どちらかというとブリュナークのメンバーは軍隊気質が嫌で抜け出した人たちがまとまったような感じの組織です。戦っている様子も日本防衛隊みたいに統括された動きではなく、各々バラバラに動くような感じですね。そんな感じなのでそりが合わないのだと思います」
「そうですか」
「まぁ、東京ではこの3つのどれかか、個人で活動する形になるかと思います。
個人でも行政の窓口に魔石を持っていけば換金してもらえますよ。
また、選択肢はそれだけじゃなく、東京以外に行ってそちらのギルドに参加するのもあると思います。
個人的には一緒にがんばれればうれしいですけど」
「ですね。ありがとうございます」
「いえいえ。
さて、そろそろ私たちの本拠地ですね」
「うちに所属する、しないは別として、区の管理している避難所があるのでまずはそちらに行かれた方がいいと思いますよ。
徒歩で5分ほどなので直ぐですよ」
「わかりました。わざわざありがとうございました」
ユニオンの本拠地手前で降ろしてもらい、崇一達は直ぐに避難所に向かった。
幸いこんな状況なので窓口は夜でも開いていたので、入る手続きをしてもらい割り当ての部屋に向かった。
もう夜明けが近い状態だったので、まずは寝ることにして解散した。
崇一達を下ろしたあと、輝夜たちも集まって話をしていた。
「輝夜ちゃん、啓太、そっちはどうだった?」
「状況やギルドの説明かな。赤染君たちの方はどうでした?」
「こっちは、近くの避難所の状況や、避難所以外の地域の様子や生活状況を聞かれたよ。
父親と母親はノンプレイヤーだし、今後の生活をどうするのかってのが気になったんだろ。
そっちは、ギルドの話をしたらしいけど感触は?」
「感触って言っても特にありませんよ。
一応各ギルドの特徴の説明をして、一緒にがんばれたらいいですね程度しか言ってませんし。
まぁ、話した感じだとあのまとめ役をしてた九条君が上位プレイヤーみたいだから来てくれたらうれしいですけどね」
「ランクは確認してないの?」
「いきなりは聞けなですよ。中には隠している人もいるからいきなり聞いて場を悪くしても悪いですし」
「そっか」
「ただ、ちょっと気になることがあったので、機会があったら話をしてみたいと思いますけど」
「気になること?」
「いや、以前から探してる人がいて、もしかしたらって。
違う可能性が高いけですけどね」
否定しつつも若干嬉しそうな輝夜の様子を見て、赤染は顔をしかめた。
すでに建物に向かい歩き出していた輝夜たち他のメンバーはそれには気が付かなかった。