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5. 力への恐怖と隔離

3日後、崇一が講堂でテレビをみていると後ろから声をかけられた。


「はよ」


「あん、ああまもるか、おはよう」


 声をかけてきた吉岡よしおか守は、数少ない崇一の友人で同じオタク仲間でもあり、崇一がSSランクであることも知っていた。

 守はスポーツ刈りで小柄な割にはしっかりした体格をしており、崇一と同じオタク趣味をもちながらも中学からやっている卓球で県大会までいくほど部活にも打ち込んでいた。アニメに主体を置いているためゲームを積極的にしないため、崇一にすすめられて始めたが MWOではBランクまでしか達してなかった。



「崇一、お前何かしってるか?」


「ああ? 何が?」


「何がって昨日から、美細津父が騒いでるじゃん」


「へぇ、何で?」


「どうやら、3日前のパトロールから美細津達が戻らないみたいなんだよ」


「ふ~ん。でも俺その日パトロール行ってないしな」


「でも、魔石集めはどうせやったんだろ?」


「まぁな。まぁ、次の日にも戻ってないなら戦闘なったんじゃないか?」


「そうだよな。で、美細津父は救助しろって騒いでるわけだ」


 崇一は危うくひきつりそうになる顔を抑え、あくまで初めて聞いたとのスタンスをとった。

 美細津の父親は、市議をつとめており大人たちのまとめ役みたいになっていた。

 また、息子がAランクでこの集団のトップだったため、周りの大人たちにも横暴に振る舞っていて周囲は辟易していた。

 現在、美細津達が行方不明になっているが、ほとんどの人は正直助かったとしか思っていなかった。

 そんなわけで、美細津の父親が救助に行けと命令しているが、積極的に動く人がいなかった。


「まぁ、自業自得だよな(だな)」


 崇一はもちろん、守も美細津達の安否は気にしていなかった。





 しばらく守と雑談をしていたら、10人ぐらいの集団がやってきた。

 市の職員、教員や、近所に住んでいたご夫婦など大人たちのまとめ役の人たちだった。

 この学校で教員もしていた藤崎ふじさきが話しかけてきた。


「ちょっといいかな、君たち?」


「はい、どうしたんですか?」


「ちょっと来てほしいんだけど、いいかな?」


「はい、2人ともですか?」


「ああ」


「おい、守行こう」


「おお」


 藤崎は、1年担当の新人だったため直接崇一達は接触したことが無かったが、いつもにこにこしていて、1年生からは人気があった先生だった。

 その先生が暗い表情で話しかけてきたので、何か問題でもあったのかと思い、ついていく事にした。


「で、どこに行けばいいですか? 何か作業が?」


「大したことじゃない。ちょっとついて来てくれ」


「わかりました」


 しばらくついていくと部室棟に着いた。

 元ラグビー部の部室の前に来たとき、部室の前に居た人が扉を開いた。


「ラグビー部の部室ですか? ここで何か?」


「ああ、ちょっとここに居てほしいだけだよ? いいかな?」


「はぁ、奴らが入り込んだとかではないんですね?」


「ああ、それは大丈夫だよ。防護壁がほぼ完成して、学校内に入る場所は限られるし、そこには見張りもいるから」


「そうですか。じゃぁ何で?」


「いいから、ここで待っていてくれないか。あとで話すから」


「…わかりました」


 崇一と守が室内に入ると、ほかに2人ほどプレイヤーがいた。

 一人は佐伯 美香で、もう一人は確か隣町の高校に行っていた1年生だった。


「あ、九条くんも来たんだ。吉岡君も?」


「まぁ、先生に言われてね」


「佐伯さんは何か聞いてる?」


「特に何も、ここで待っていてくれって」


「そうか」


 先日の件以降、美香から崇一に話かけることが多くなったため、左程意識せずに会話をすることが出来た。


「あれ、崇一。お前いつから佐伯さんと話すようになったの?」


「まぁ、このような状況だし、情報交換のためにな」


「そうか。佐伯さん、こんにちは」


「こんにちは」


 とりあえず、部室内にあった長椅子を並べて座った。


「えっと、君はたしか港東高校の1年生だったよね。俺は、ここの3年だった吉岡守。こっちは同じく九条崇一。君は?」


中尾なかお誠治せいじです。よろしく」


「中尾くん、君は何か知ってる?」


「いえ、何も、俺も同じようにここに居てくれって」


「そうか」


 初対面の人に自分からは話しかるようなタイプではない崇一にかわり守が情報交換を行ったが特に新しい情報もなくただ座って待っていると、ほかの部屋の扉の開閉音が何度か聞こえてきた。崇一達と同じように他の部室にも人が待たされているみたいだった。


「いったいどうしたんだろうね。九条君は何か思い当たる?」


「いいや」


「そっか。何にしても早くしてほしいよ。ここは臭いがきつい…。洗濯してるのかなぁ」


「まぁ、運動部だし仕方ないんじゃない。まぁ俺は部活動はしてなかったから想像だけど…」


「女子の部室はそんなことなかったよ。きちんと洗濯と掃除をしてれば大丈夫なのに」


「まぁまぁ、しばらくの辛抱だよ」



 無言になったり、たまに思いついたように雑談したりして時間をつぶしているうちに1時間も経過していた。

 何度ももう少し待とうと思っていたが、崇一達も限界だった。


「ねぇ。いつまで待てばいいの?」


「ふざけんな、いつまで待たせるんだ?」


 耐えかねたように美香が立ち上がった時、別の部屋の扉が開く音と怒鳴り声が聞こえた。


「え?」


「ああ、ほかの奴も限界だったみたいだね」


 驚いて固まる美香に、守が笑いかけた。


「当たり前よ。1時間も待たせるなんて」


 パンッ


「いてぇぇえええ」


 乾いた音が響いたあと、悲鳴が聞こえた。


「な、何があったの?」


「ちょっとまって、俺が確認する」


 崇一は、あわててドアを開けて何があったか確認しようとする美香の肩を引き下がらせ、自分で扉を開けた。

 ちょうど他の部室のドアも開きはじめ何人かが顔を出したところだった。


「おい、何があったか分かるか?」


 隣のドアから出てきた人に声をかけらた。


「いや」


 パン、パン、パン、パン


 分からないと答えようとしたところで、先ほどの音が乱発し、声をかけてきた男の頭が一部弾けたと同時に崇一も肩に衝撃を受けて部室内に転んだ。

 周囲から悲鳴と怒号が聞こえてきた。


「な、撃たれた?

 守、扉を閉めろ」


「ああ」


 守が扉を閉めると、美香が崇一に駆け寄ってきた。

 他の部室もドアを閉めたみたいだった。


「ねぇ、大丈夫?」


「ああ、びっくりしただけだ。

 ただ、ほかの人は出ない方いいと思う」


「おい、崇一怪我は?」


「大丈夫、たぶんアザにもなってない。プレイヤーだったことを感謝だな」


 崇一は念のため、撃たれた場所の服をずらしてみたが、少し赤くなっているだけで特になんにもなかった。

 それを見た中尾が疑問の声をあげた。


「撃たれたんですよね。なんで怪我してないんですか?

 Cランクじゃないんですか?」


 中尾が疑問に思ったのも仕方がない。大崩壊のあと、一部プレイヤーが暴徒と化したことがあったが、警察、自衛隊の銃火器により鎮圧された。その時、Aランクから上位のプレイヤーになると防御能力が高く、銃が効かないことが判明している。しかし、この集団では知られているAランクは美細津と下瀬の現在行方不明扱いになっている二名だけっだったので、中尾も崇一が事前に知っていたCランクだと疑っていなかったのである。


「まぁ、ちょっとそれは置いておいてくれ、今は状況を確認しないと」


 崇一はそういいながら、起き上がり再度ドアに近づいた。


「守達は下がってて、もう一ど確認する」


 崇一が少しだけドアを開けて手を出すと、また発砲音がしてドアや壁に銃弾が当たった。

 崇一は直ぐに手を戻して、扉を閉めた。


「やっぱり、ここから出したくないみたいだな」


「なんで? 私たちが閉じ込められなきゃいけないの?」


 崇一のつぶやきを聞き、美香が声をかけてきた。


「俺にも分からない。でも出ようとすると銃で撃ってくるし、意図は明確だよな。

 ただ、銃って何でこんなところにあるんだ? ここは日本だぞ」


「はぁ~、崇一、情報は集めておけよ。

 大崩壊の際、倒せなくても多少の足止めみたいなことは銃で出来ただろ?

 警察、自衛隊も人数が少なくなっているし、貯蔵するだけよりはってことで緊急時のために各地の集団に一部配布されただろう?」


 銃について疑問に思って言って言葉を聞いて、守は溜息とともに友人の情報収集能力に不安を覚えたが、一応説明を行った。


「そうだっけ? 佐伯さん知ってた?」


「知ってた。ここでも職員室にいくつか保管されてたはずだけど…」


「あとBランク以下のプレイヤーにも効果があるから、暴徒抑制用としてな」


「そっかでも日本に配るほど銃があったのか?」


「あるところにはあるらしいよ。米軍の基地とか…。まぁすべての避難所にはないみたいだけど、ここは美細津父がコネをつかって…」


「そういうことか…」


 崇一は銃の疑問は解決したので、響子と崇司の無事を確認するためにもこの部屋を出る必要があると考えた。

 崇一は扉以外に出る場所がないか室内を見渡したが特に出られそうな場所はなかった。

 建物の周りにはおそらく見張りがいると思わるので、外に出る訳にはいかないが、ここに居ても何も情報が集まらないのでまず隣の部室に行ってみることにした。



「おい守、そこの棚をずらすから手をかしてくれ」


「この棚か?」


「ああ、ちょっと隣につなげる」


「そういうことか。分かった」


 棚の移動が終わると、現れた壁を崇一は叩きながら声を上げた。


「おーい、今からここの壁壊すから離れてろよ」


 崇一はインベントリから双龍を取り出し、壁を切り裂いた。

 壁はバターみたいにすんなり切れ、いくつかのブロックになって落ちた。


「ごめん。ぶつからなかったか?」


 空いた壁から顔を入れ、崇一は隣の部室を覗いた。

 先ほど頭を打たれたやつが部屋の真ん中に寝かされていた。


「…さっき撃たれたやつだよな?」


「ああ」


「回復の魔石があるけど…」


 崇一はゲームの中でヤーグに作ってもらった魔石を出そうとした。


「いや、もう死んでる…」


「そうか…。

 なぁ、ちょっとこっちの部室に来ないか?

 俺たちも情報が無くてな。

 よければお互いの情報を交換したいんだけど」


「わかった。九条の方に怪我人とかいるのか?」


「いや、いないよ。なんで?」


「正直に言えば死体と一緒に居たくない。

 もしそっちにもいたらと思ってな。

 よし、みんな行こう」


 隣の部室で残りの2人をまとめていた奴が返答してきた。その際崇一の名前を知っているようだったが、崇一には覚えがなかった。


「なぁ、あんた俺のこと知ってるのか?」


「知ってるもなにも、隣のクラスだったろう」


「え、そっかごめん。名前を聞いてもいいか?」


守里もりさと圭吾けいごだ」


「ああ、よろしく」


 崇一達が居た部室であつまり話あったが、やはり守里達も何も知らされず部室に連れてこられたらしい。


「結局、なんで隔離されたかは分からないだよな。

 じゃぁ、聞いた方が早くないか」


「どうやって?」


 崇一が理由を聞くことを提案すると、美香が疑問を呈してきた。

 当然の疑問で、今外に出ると相手は有無を言わずに発砲してくるのである。


「いや、ドアを開けて表にでて話しかける。

 発砲してくるってことは必ず見ている人がいるだろ?」


「そうだけど…。危険じゃない」


「Bランク以下なら命の危険があるけど、俺ならないから」


「でも…。

 そうだ、全員で一斉に出ていけば?」


「それでも撃たれる奴が出てくるだろ。運がいいか悪いかの違いだけで」


「そっか」 


「大丈夫だって。それにのんびりも出来ないから。

 プレイヤーは隔離されてるとして、ほかの家族は?」


「それは分からない」


「だろ、だから出来るだけ急いで状況を把握したい。それに全員で動いて家族に何かあっても嫌だし。

 だらか最短でわかって、穏便に話が聞けると思われる方法をとる。

 って、わけで守、佐伯さんとか他のメンバーを守っててもらえる? 俺は念のため隣の部室から出ていくから」


「わかった」


「ついでに、崇司がいると思うから探してくる」


「気をつけろよ」


「ああ」




 崇一は、先ほど開けた穴から隣の部室に移動し、ドアを開けて外に出た。


「おーい、聞きたいことがあるだけだ。攻撃しないでくれ」


 両手を挙げて、攻撃意識がないことを示して声を上げたが、直ぐに部室棟と校庭の間にある並木の陰から発砲された。

 撃たれることを予想していたのでイラつきも衝撃も問題なく耐えることが出来た。


「なぁ、見ての通り俺には効かないぞ。

 こっちも攻撃したいわけじゃない。話をしたいだけだ、頼むから代表者を呼んでくれ」


「だまれ、化け物が」


「そうって俺たちを攻撃する気だろ」


「化け物って…」


 銃を持って罵声をあびせてきたのは、白髪が混じり始めた初老の男性だった。

 もう1人は30歳手前の青年で、こちらもおびえた顔をしながら銃を構えていた。

 崇一は、いきなり化け物呼ばわりされて驚いたが、なんとなく今回の原因がわかったような気がした。

 でも、このままじゃ埒が明かないので、移動することにした。


「それじゃ、こっちから代表者に会いに行くよ。ああ、攻撃をする気はないから」


「ふざけるな。そこから動くな」


「動いたら?」


「撃つにきまってる」


「でも俺には効かないよ。さっきも見ただろ?」


 崇一の言葉に、青年の方が悲鳴まじりに初老の男性に声をかけた。


「なあ、Aランクはもういないんじゃなかったのか?」


「そのはずだ。美細津と下瀬は帰ってきていない」


「じゃあ、あいつは何なんだよ」


「俺がわかるわけないだろ」


「あのさぁ。とりあえず見たまんまを代表者に伝えて、呼んできてくれない?

 俺は、ちょっと確認したいことがあるから、部室棟から離れないから」


「おい、誰か読んで来い」


 初老の男性が、こちらに銃口を向けながら青年に指示を出した。

 崇一は、そちらを気にせず、部室棟に向かって声をかけた。


「おーい、崇司いるか? もしいるならドアを叩いてくれ。絶対ドアを開けるなよ」


 二呼吸ほどおいたところで、2階の右端のドアから音がした。

 崇一は、そのドアに向かった。ドアには鍵がかかっており、開かなかった。


「崇司、俺だ。鍵を開けてくれ。直ぐに中に入ってドアは閉めるから」


 鍵が開いた音を聞いて、崇一は中に入った。

 中には崇司以外に5人の男女がいた。


「崇司、ほかの子は?」


「俺と同じEランクとDランクで壁づくりを一緒にしてた奴ら」


「そうか。はじめまして、崇司の兄で崇一っていう。そう緊張しないで」


 崇司以外のメンバーは、崇司の反応を見て問題ないと思ったのだろう肩を落としていた。


「崇司、念のため聞くけど、響子はどこにいるか知ってるか?」


「いや、姉貴は知らない」


「そうか。あと、お前たちもとりあえずここに居てくれって言われて来たくちか?」


「ああ、兄貴も?」


「そうだ。とりあえず俺が代表者と話をしてくるからお前たちはここから出ないようにな」


 それだけ確認して、直ぐにドアを開けて出て行った。




 崇一が出て行ったあと、ほかのメンバーが崇司に声をかけてきた。


「ねぇ、お兄さん大丈夫なの? 外でると撃たれるんだよ?」


「しゃくだけど兄貴は大丈夫。撃たれたぐらいじゃしなない。SSランクだから」


「え。SSって本当? 聞いたことないけど?」


「大げさにしたくないって言って、隠してた」


 声をかけてきた少女以外のメンバーも驚いて目を丸くしていた。




 ドアの外にいた崇一にも中の会話は聞こえていた。


(たくっ、隠しておけって言ったのに。

 まぁ、撃たれて問題がない時点でAランク以上ってのはばれてるけどなぁ)


 苦笑いをしながら階段を下りていると、校舎から数人が走ってくるのが見えた。

 崇一はその先頭に藤崎が見えたので、少し安心した。

 まったくの顔もしらない人と話すことに緊張していたのだ。


「九条君、話がしたいと聞いたけど?」


「話しがしたいっていうより、説明して欲しいんですけど? 何にも聞かされず閉じ込められるし、出れば撃たれるし。死者も出てるんだ当然でしょ。好き好んで人を攻撃したいわけじゃないけど、このまま何も説明しませんって言うんなら、相応の対応はしますよ」


「何言ってるんだ、化け物を隔離するのは当然だろ!」


「そっちこそいきなり撃つなんて何を考えてるんですか?」


「クマを見たら撃つだろ。同じだよ」


「俺たちはクマじゃないし、別に何もなく人に襲いかかったりしませんよ。話せばいいでしょ」


「そんな悠長なことが出来るか」


 藤崎の後ろにいた先ほどの青年が怒鳴ってきた。

 見ると、藤崎以外は全員おびえた表情か怒りの表情をしていた。

 藤崎だけは困惑した顔だった。


「ところで九条君は銃が効かないみたいだけど、Cランクじゃなかった?」


「面倒だったので隠してました」


「そうか。でこれからどうするのかな?」


「さっき言ったとおり、特に何か攻撃しようとかは考えてません。今は…

 まず、なぜこんなことをしているのかを聞かせてください。あと、おそらくプレイヤーが全員集められているとは思うんですが、プレイヤーの家族はどうしてますか?」


「プレイヤー以外の人は講堂に集まってもらっている。特に怪我をさせたりはしてないよ」


「そうですか」


 現時点で最大の懸念点が判明し、崇一は安堵した。

 とりあえず響子は無事と判断して大丈夫だろうと思い、続いてこの状況をどうするかを会話をしながら検討を始めた。


「Aランクの美細津君、下瀬君がいなくなった後、一部のBランクのプレイヤーが配給品を奪って逃走したんだ。その時、配給を運んでいた人達が怪我をした。それがきっかけで、以前からあったプレイヤーへの恐怖でプレイヤーが身内に居ない人たちが団結したんだ」


「その結果、こうなったと?」


「そうだ。一部皆殺しにしろとの意見もあったけど、僕のように生徒とかなんらかの形でプレイヤーと接していた人もいてね。殺すのにはためらいがあって、監禁する形になった。幸い、Bランクまでなら銃で対抗できるからと」


「でも敵との戦闘は、いままでプレイヤーが交代でパトロールして駆除してましたけど…」


「防壁が完成したから問題ないと判断したんだよ」


「で、説明なしで閉じ込めて、出ようとしたら直ぐに発砲っておかしいじゃないですか」


「お前らみたいな化け物相手にまともに対応出来るか」


 また、先ほどの青年が怒鳴ってきた。


「化け物って、さっき言ったように話が出来るんだから、まず普通は話し合いでしょう?」


「知るか。化け物と話す気なんかない」


「話にならない…。

 藤崎先生、このままずっと閉じ込めておく気ですか?」 


「分からない…」


 崇一は、藤崎が目を一瞬そらしたのを見た。

 このまま監禁を解いて、もとに戻るとは思えない。もしかしたら、このままプレイヤーの殺害が検討されているのかもしれないと考えた。


「そうですか。

 確認ですが、俺たちがこの集団に居なければ問題ないんですね?

 ようは一緒に居たくないんですよね?」


「そうなる。現状、プレイヤーと共存に疑問を持ってしまっているだけだからね」


「わかりました。じゃぁ、半日だけください。他のプレイヤー、家族に声をかけて直ぐに出ていくように言います。それでいいでしょ」


 現在も避難生活なので荷物も少ないので離れることは簡単だった。

 ただ、安全な寝床が無くなるのは困るが、ここにいてロクなことがないし、最悪、寝てる間に襲われる可能性よりマシであると判断した。


「わかった」


 藤崎が了承したら、後ろについて来ていた数人が藤崎に詰め寄った。


「な、藤崎さん何言ってんだ。こいつらに勝手させたら何されるか分からないぞ」


「そうだ。勝手に決めるな」


「じゃあどうしろと?」


「閉じ込めておけばいい」


「こいつらの荷物なんか知るか、出すんなら半日と言わず直ぐに出てけばいい」


「化け物なんだ殺してしまえば、後腐れない」


「みなさん落ち着いて、ここで言い争っても決まらないでしょ、どうしますか?」


「ほかの人を置いて勝手に決めるわけにはいかない。とりあえず自由にさせるのはなしだ」


「そうだ」


「そうだ」


 言い争いが続いているが、その中でも銃口をこちらに向けたまま構えている人もいた。

 効かないと分かっていても、銃に対する恐怖があり崇一もストレスが溜まっていた。

 家族や他のプレイヤーがどうなるか分からなかったので出来るだけ冷静に対処を試みていたが、目の前で醜悪な言い争いを聞かされ、限界だった。


「いいかげんにしろ!」


 崇一が急に怒鳴ったので、銃を構えていた初老の男が発砲し、崇一の胸に当たったが耐えた。

 同時にビクッと言い争いをしていた人たちが一斉にこちらをみた。


「こっちはすでに撃たれて死んだ奴だっているんだ。ただこれ以上事を大きくしたくないからこっちだって譲歩してんだ。

 それが何だ? 殺しておけばよかった? 荷物なんてしらないだとかふざけるなよ? 人をなんだと思ってるやがる」


 集まっていた人たちも目の前で崇一が撃たれたのに平然としていることから、本当に銃が効かないのだと分かったのだろう。

 怒鳴っている崇一を怯えた瞳で見ていた。

 一旦崇一の怒声が止まった時、先ほどの青年が声を荒げた。


「おい、勝手に動くな。お前は黙ってろ。

 何かしたら講堂にいる奴らがどうなっても知らないぞ」


「な、講堂の人達はプレイヤーじゃないんだぞ」


「関係ない、奴らはお前らの関係者だからな」


「…」


 崇一が怒りで声が出ないでいると、青年が一歩前へ出てきた。


「そうやっておとなしくしてればいいんだよ」


 青年も銃を持ってこちらに向けてはいたが、崇一は気にせず風で青年の頬を軽く切り裂いた。

 いきなり頬に痛みを感じ、青年は驚いて銃を手放した。

 そして落ちた銃が地面に着く前に、風でバラバラに銃も切り裂いた。

 全員がバラバラになった銃に目を向け固まっていた。


「おい、講堂の人たちに怪我の一つでもさせてみろ。

 生きてることを後悔させるぞ」


 青年を含めその場に集まっていた人達は、崇一が直ぐにでも自分たちを殺せることが分かり、講堂の人たちが人質ではなく、自分たちの命綱だと理解させられた。


「こっちは何もしなければここを出ていくって言ってるんだから、おとなしく出て行かせてくれ」


「わかった。半日の間に出てくれればいい。

 ただ…」


「ただ?」


「校舎にプレイヤーは近づかないようにしてくれ」


「じゃあ、荷物はどうしたらいい?」


「一度中のものをこちらで校庭に運ぶ。そこから自分のものを持って行ってくれ」


「それでいい。直ぐに行動をおこしてもいいか?」


「校舎にいる仲間に話をする。30分だけ待ってくれ」


「わかった。こっちも部室棟の連中に話をする。それとこの後にも講堂にいる人達に手を出したら容赦しないからな」


「わかっている。こっちもこれ以上問題をおこしたくない」


 集まっていた人たちは藤崎に促され、全員校舎に戻っていった。

 何人かは腰が抜けており、仲間に抱えられていた。


「はぁ、なんで俺がこんなことを…」


 崇一は全員が去ったのを確認した後、溜息を吐いた。

 その様子を部室棟からみていた人たちが、様子をうかがいながら出てきた。

 中には、そのまま校舎に向かっていこうとする人がいたので、崇一が止めた。


「まってくれ」


「なんで? このまま黙ってるのかよ」


「頼むから、聞こえてたんだろ。

 30分後からここを出ていく準備をして、ここを離れる。

 プレイヤーはここには残れないと思ってくれ、残ったらあとで何をされるか分からない」


「向こうから手を出してきたんだぞ?」


「木村が殺されたんだぞ?」


「銃だってそれほど数があるわけじゃないだろ?」


 何人かが文句を言ってきて、そのまま走り出そうとしたので、崇一は周囲を囲むように風で壁を作り出した。


「じゃあ、講堂にいる家族はどうする? 俺たちみたいに戦う力もないんだぞ?

 俺たちがここで暴れたら、間違いなく講堂にいる家族が先に襲われるぞ。無傷で守れるのか?」


「だけど…」


「気持ちは分かる。やり返したいのはやまやまだけど、向こうには銃もあるしこちらだって俺以外無傷じゃすまない。

 さらに死ぬやつだってでるかもしれない。それと家族の安全も確保しないと…。

 頼む…」


「わかった…」


「でも出た後でどうするんだよ?」


「別の避難所に向かうしかないだろうな。

 もし、知人や親族がいるならそこに向かうのもありだし、何度かテレビでも紹介されてたように、集団に身を寄せず個別に生活するのもありだと思う。

 とりあえず、朝から急展開すぎて、ここに行けばいいって案は、はっきりいってない。

 勝手に出ていくと決めていて申し訳ないが、行先は各自の判断に任せる形になるだろうな。向かいたい場所も違うだろうし」


「わかった」


「おいそれはひどすぎないか?」


 すんなり理解してくれる人もいれば、やはり文句を言って連中もいた。


「だから、すまないって言っただろう。じゃぁお前たちはここで監禁されたまま死にたかったのか?」


「そうは言わないけど…」


「とりあえず話し合うなら各自でやってくれ」


 とりあえずプレイヤー全員がここで待機する形となり、お互いに今後のことを話し合いだした。

 崇一はその集団から抜けて、地面に腰を下ろした。


「崇一、ごくろう」


「ああ、慣れない事はやるもんじゃないな。次は守がやってくれ」


「いやだよ、撃たれたら即終わりだから」


「出来れば代表みたいなのはもうやりたくないんだけどな…」


「そういうな、今回は能力的にお前以外は無理だったんだから」


「わかってるよ」


 崇一が休んでいると守がやってきて労をねぎらわれた。

 少しして崇司もやってきて崇一に声をかけてきた。


「兄貴、ほんとに撃たれても大丈夫なんだな」


「ああ、Aランク以上なら同じだぞ」


「あ~あぁ、俺も強くなれないかな?

 引きこもりだった兄貴に負けるとは…」


「ゲームの影響がなければお前に勝てなかったもんな。

 でも仕方ないだろ、俺だってこんなことになるとは思ってなかった。

 それに、あれは最悪だぞ、痛いってもんじゃないし、気持ち悪し、死ぬかもしれないし…」


 崇一は、大崩壊の日に体験させられた侵食のことを思い出し、身震いした。


「だよな。兄貴は運がよかったよな。SSランクだと結構死んだみたいだし」


「だな。ギルドのメンバーや、中で知り合ったプレイヤーもどうなったか分からないしな。

 どこかで、無事ならいいんだけどな…」



 しばらくすると、藤崎と数名がこちらに向かってきた。

 お互いに話し合うことなど既になかったので、連絡を受けてプレイヤー達も移動を開始した。

 崇一達も家族と合流し、最低限の荷物を持って学校から出て行った。


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