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3. 避難

 その後、崇一も着替えて、荷物を準備して2人を車に乗せて出発した。

 取りあえず、山側に向かって移動を開始したが、やはり主要道路は混雑しており、進みが悪かった。


 中には逆に海側に向かっていく車が何台もあった。

 ちらっと見えた1台には若い男女が5人のっていた。

 もしかしたら、例の生き物を面白半分で見に行ったのかもしれない。

 崇一もその後どのような状況になっているか気になったが、まずは妹と弟を無事な場所に届けることが優先と考え、気にしないようにした。



 しばらくして、県の山側に着いたが、これからどこに行くべきか決まってなかった。

 避難所に向かおうとおもったが普段行かない場所なのでどこに避難所があるか分らなかった。

 そのため、カーナビで一番近く役所を行ってみることになった。

 夜だがこの様な状況なら何か情報が入ると考えたのだ。


「取りあえず、テレビをつけてくれ。

 何か新しい情報が入るかもしれないから」


「うん」


 響子が、車載テレビをつけた。

 いつもならこの時間は様々なドラマやバラエティ番組がやっていたが、今日はどのチャンネルもニュースを流している。

 また、一部のチャンネルは砂嵐になってしまい確認できなかった。


「兄さん、なんかまた政府の発表がまたあるみたいだよ」


「分った。ちょっと止まるから」


 見ながらの運転だと危ないので、ハザードランプをつけて、左端に停止した。他の何台かも同じように停止したので、発表を見るのだろう。


 新しい発表は以下のような俄かに信じられない内容だった。


------------------------

 MWOの開発メーカ「神話研究社」は、数年前に神と接触し、神の特殊なエネルギーを受容する人材を育成するため、ゲームを開発した。

 この神とは神話や伝承の神、仏、悪魔、妖怪などの総称で、地球の防御反応のエネルギー体で、生物に侵食して発現する。

 遥か過去にも地球を攻めた生命体がおり、当時の神の力を得た生き物たちが退治・封印したのだが、復活してしまった。現在、海岸線沿いで人を襲っている生き物はその生命体である。 

 該当の生命体には、通常の攻撃は効かず、神による攻撃のみが有効のため、発見した際はすぐに避難するように。


 MWOのプレイヤーで発生している体調不良は神の受容によるもので、反応には個人差があるが、25歳以上だと耐えられない可能性が高い。体が耐えられなかった場合は死亡する。

 また、受容する神のランクによっても変化し、上位ランクの神になるほど強い耐性を求められる。神話研究社からの報告では、半数以上の方が亡くなる可能性がある。

 また、神の受容に耐えられたプレイヤーは、受容の影響で戦う方法が自然と分かるようになっているはずなので、協力を求めたい。

------------------------



「は?

 あのさ姉貴、この総理、正気だよな?」


「………」


 崇一もライトノベルの話かともおもったが、現実問題として奇妙な生き物を見たので何も言えなかった。


「崇司、言いたいことは分るけど、流石に公共電波で、しかも政府の公式発表で嘘とかは言わないと思うけど…」


「姉貴だって信じてないじゃないか」


「だって、ねぇ? 何か出来の悪いドッキリみていで」


「なぁ、兄貴、MWOのプレイヤーってことは、俺と兄貴もだよな?

 兄貴は死んでないし、何か分る?

 俺は何にもなかったから…」


「さぁ? でもMWOと同じっていうなら」


 崇一は、おもむろにゲームのチュートリアルで覚えられるストレージの呪文を唱えてみた。


「ストレージ」


 すると、目の前に光の輪が浮かび上がった。

 まじか?と内心でおもいつつ、恐る恐るその輪の中に手を入れると、輪の中に保管されているものの一覧が頭の中にイメージできた。

 その中で、いつも使用していた武器があったので、それを意識しながら手を抜くと、本物の剣を握っていた。


 剣はギルドの生産担当のセッタに作って貰ったオリジナル武器で、黒い刃の柳葉刀が双振りで刀身に金と銀の龍が彫られており双龍と名付けていた。


「嘘だろ…

 ほんとに取り出せた」


 それを見ていた響子と崇司も目を丸くしていた。

 響子は、崇一の左腕に模様が浮き上がっているのに気付いた。


「にっ兄さん、手どうしたの?」


「手? 何だ」


「左手のその模様」


「左手?」


 響子が質問してきたので、左手を見ると手から腕にかけて刺青みたいな模様が描かれていた。


「なんだこれ?」


「兄さんもわからないの?」


「いや、ちょっと待って…

 …もしかしたら、MWOであった吸収した神の模様だと思う。

 ゲーム内のキャラクターの模様と同じだから」


「そう」


 崇一は双龍をストレージに収納した。 


「兄貴、その模様見せてよ」


「大したもんじゃないぞ。ほら」


 崇司が兄の左腕を見たが、模様は消えていた。


「あれ何もないけど。姉貴の錯覚だったとか?」


「いや俺もみたから響子の錯覚じゃないと思う。

 もしかしたら力を使った時だけでるのかも。

 ちょっと待ってくれ」


「キュア」


 崇一はストレージが使えるならと思い、無属性回復魔法を唱えてみた。

 すると、体が光り、剥がれた爪や、腕等の怪我が治り、左腕に刺青が浮かんでいた。


「力を使ったときだけみたいだな」


「兄貴、怪我もなおせるの?」


「みたいだな。ゲームの通りなら他の魔法も使えるだろうな…」


「すげぇじゃん」


「崇司、お前何にもなかったっていうけど、一応ユーザ登録はしたんだよな?

 お前もできるんじゃないか?」


「兄貴みたいに体に異変があったわけじゃないしなぁ…

 …

 ストレージ!」


崇司の前にも光の輪が出てきた。

また、左手の甲にコインほどの刺青が浮き上がってきた。


「うぉ、でっ出来た…。でも何で俺には何も無かったんだろう?」


「さっき言っていたが、上位ユーザほど厳しいみたいだから、下位ならそんなんでもないのかもしれない。

 崇司、お前ランクなんだった?


「いや、登録してチュートリアルが終わって、直ぐめちゃったから初期のランクだと思う」


「じゃぁ、Eランクだな」


「でも兄貴みたいな刺青がないな」


「Eランクなら、ほら手の甲にあるだろ。上位ランクになるほど大きくなるんだ」


「そっか。じゃぁ兄貴のランクは?」


「SSランク。一番上だった。何年もやりこんでたから」


「それより兄さん、どうするの?

 テレビで言ってったこと本当みたいだし、戦うのを協力してくれって言ってけど…」


「現時点では、戦うつもりはない。

 お前たちを守らないと。お袋との約束だし。

 親父もお前たちのことを心配してた。

 それと、実際に相手がどの程度の強さか分らないし、ゲームと同じように戦えるかもまだ分らない。

 第一に自衛隊や警察でもない一般の高校生にいきなり戦えって無理だろ。

 取りあえずは当初の予定通り、避難所に行こう。

 後のことはそれから考える」


「分かった」


 崇一と響子は今後の予定を決め、車を進めた。








 役所について、臨時に集められていた職員に確認をしたところ近くにある小学校を指示された。

 臨時駐車場になっている小学校の校庭に車をとめ、体育館に入ると海岸沿いに住んでいる人と思われる避難者が他にも多数来ていた。

 幸い、この付近では問題の生き物が出ていないみたいだったが、あちこっちから怒鳴り声や泣き声が聞こえた。

 入口に近いところは大分混雑していたので、崇一達は奥にすすみ座れるスペースを見つけた。


「とりあえず、やっと一息入れられるな。

 何か食べておいたほうがいいか…

 響子、崇司お前たちは大丈夫か?」


「大丈夫」


「俺は少し食べる」


「そうか。ほら」


 崇一は、鞄から菓子パンを取り出し、崇司に渡した。


 パンを食べながら、周りをよく見渡したら、体育館の端に臨時で置かれているテレビを見つけた。

 他の人も情報を少しでも得ようと集まっているみたいだった。


 テレビでは自衛隊と謎の生き物の戦闘を映していたが、先の臨時放送のとおり、既存の銃や戦車砲、爆弾などは効果を与えていないみたいだった。一瞬止まったり、倒れたりするのだが、すぐに怪我等もなく起き上がってくるのが写っていた。

 他にテレビを見ている人達も効果がないのを見て、困惑していた。


 崇一はそんな様子を見ながら、強制ログアウト前にいっしょにいたギルドメンバが無事なのか気になった。

 しかし、お互い現実世界では最低限の連絡だけに留めていたため電話番号は知らなかった。メールだけは把握していたので、こんな状況なのできちんと届くとは限らないが何もしないよりいいかと思い、こちらの無事の旨を送っておいた。



 テレビでは、何社目かの番組が見ている途中で砂嵐に変化してしまい近くにいた人が慌ててチャンネルを変えていた。

 新しく映った画面では、自衛隊が戦っているところに槍を持った若者が乱入してくるのが写った。よく見ると左前腕まで刺青があったので、おそらくC~Bランクのプレイヤーだったのだろう。

 雷をまとった槍で、自衛隊が倒せなかった敵を倒し始めたのを見て、歓声があがった。

 テレビで中継していたレポーターも興奮してその若者を応援している。

 レポーターからの新しい情報では、どうやら他の場所でも何人かが同じ用に剣や斧などを持って戦っているとのことだった。

 崇一はそれをみて、あの敵はC~Bランクのプレイヤーでも対応可能であると判断した。

 しかし、ゲームと違い生身の体での戦闘となるため恐怖はあるが、SSランクの自分でもなんとかなるかも知れないと思った。

 何か思いつめたような崇一の様子を見て、響子が声をかけた。


「兄さん、どうしたの?何か気になることでもあった?」


「いや、ちょっと考えてたんだが、お前たちはここに残っててくれ。俺は親父とお袋を連れてくるから」


「大丈夫なの?」


「今テレビでみたレベルなら、なんとかなるかもしれない。可能な限り戦闘は回避するから大丈夫だよ」


「警察とかの対応を待ってからの方がいいんじゃない?」


「親父とお袋をあのままにしておくのは可哀そうだからな。可能なら早く連れてきたい」


「どうしても行くの?」


「ああ。行こうと思う」


「絶対無理はしないでね。危険だと思ったらすぐに戻ってきてよ」


「分かった」


「兄貴、俺も行くよ」


「いや、お前は残って響子の傍にいてくれ。

 こんな状況だし、何があるかわからない。

 それに、テレビで戦ってたやつらはC~BランクだったけどEランクだとどこまで通用するか分からないし…」


「…わかった…」


 崇一は、2人を置いて車で病院に向かった。

 幸い、病院までは何の問題もなくこれた。

 途中で道が封鎖されているかもと考えていたが、警察も封鎖などの手を回せない状態なのかもしれない。

 病院の駐車場で車から降りた崇一は、ストレージから双龍と防具を取出して、身に着けた。

 武器は気にしてなかったが、防具はゲームキャラエディットで細めの体型としていたから、現実の太り気味の体型では着れないかも思ったが、なぜか問題なく着ることができた。


 周囲に警戒しながら両親が倒れた場所に向かった。

 少し進むと両親の傍に、黒いタール状の生き物がいるのを見つけた。

 崇一はゆっくり進みながら、ゲームでの戦闘方法を思い出していた。

 MWOはバーチャルリアリティのゲームだったので、コントローラ等を使う訳ではなく自分が考えた通りに動くだけだったので、思い出したとしても体が同じように動くかが問題だった。


「やっぱり、まだいたか。

 大丈夫、出来るはずだ。他のプレイヤーも戦えている…

 別に続けて戦うわけじゃない、あいつだけ何とかできればいいんだ」


 崇一は、自分に言い聞かせるようにしながら進んだが、2歩ほど進んだところで足が震え進めなくなった。


「くっそ」


 一旦、隠れて仕切りなおそうと後退しようとした際、足を引きずり、ジャリッと音が鳴った。

 敵も音に気が付いたみたいで、こちら認識し進んできた。

 崇一はやけくそになり、敵に向かって走りだした。


「ああああああぁあああぁあぁ」


 叫び声をあげながら走る崇一に敵が触手を突き刺してきた。

 一瞬止まりかけたが敵が伸ばした触手の下を潜り、横を駆け抜けざまに体を切り裂いた。

 死んだか分からず、恐怖でそのまま振り向いて双剣で敵を刻んでいった。


 気が付いたら敵は動かなくなっており、徐々に消えていくのが見えた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 今更ながら両手が震えてまともに動かせなくなった。幸い、生き物?を殺したことに対する罪悪感は湧かなかった。


(ゲームと同じように戦える。体が覚えていて無意識に動いた感じだけど、これが臨時放送で「ユーザなら分る」と言っていたことか?)


 しばらくして呼吸が落ち着いたところで、ここにずっと立ってても仕方がないことに気が付いた。

 一度深呼吸をして崇一は他に敵がいないことを確認し、両親のもとに向かおうと方向を変えた時、ふと視界の隅で光の反射を受けた。

 何かと思い光った方をみたら、敵が消えたあたりに紫色で透明な石が転がっているのを見つけた。


「これは…

 もしかして、魔石か?」


(触っても大丈夫かな?ゲームと同じっぽいけど、使えるのか?

 一応持っていくか…)


 崇一は、念のため直接触らないようにハンカチで包んで仕舞った。


 両親の遺体のそばにつき、崇一は膝をついた。


「親父、お袋、安心してくれ響子と崇司は無事だったよ。

 こんなんで申し訳ないけど、このままよりはいいだろ」


 崇一はストレージに避難所で入れていた毛布を出し、2人を包んだ。


「今は2人と一緒に避難所にいる。この後どうなるか正直分からないけど、心配しないでくれ。

 迷惑ばかりかけてたけど、これからはちゃんとして2人は俺が守から」


 こぼれそうになる涙を堪え、崇一は2人を車に運んだ。

 そのまま避難所に戻ろうかと考えたが、遺体を持ったまま避難所に行くのも気が引けたので、両親は家に運んでベッドに寝かせた。

 避難所に戻ると、崇一が無事戻ったことを、響子は喜んでくれた。

 2人に、両親を家に戻したことを伝え、その日は他の避難者と一緒に体育館で休んだ。


 

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