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20. 勧誘

 闘技大会の最初の通知から4日たったある日、ギルドの受付へ初老の小柄と中背で太り気味の男性2人と中年の女性1人がやってきた。



「すいません。こちらがルナガードの受付でよろしいでしょうか?」


「はい。そうです。当ギルドにどのようなご用件でしょうか?」



 小柄な方の男性が進みでて質問をしてきたので、受付に居た響子が対応に出た。



「わたくしどもは埼玉県の県議を務めていたもので、今回県からの依頼があって来ました。

 ギルドの代表の方と松永輝夜さんはいらっしゃいますか?」


「県の方ですね。確認してきますので、あちらの応接室でお掛けになってお待ちください」


「分かりました」



 3人が応接室に向かうと、響子は政樹を呼びに行った。

 響子から話を聞くと政樹は部屋から降りてくるときに輝夜を呼び一緒に応接室に向かった。



「お待たせしました。私がルナガードの代表の月城政樹です。

 こっちは娘の輝夜です。

 ああ、そのままでいいですよ」



 挨拶をした政樹に立ち上がろうとした3人を制止して、政樹と輝夜も向かいの椅子に座った。



「初めまして、私は熊田くまだ義光よしみつと言います。埼玉県議をしております、今は議会がないも同然ですが。

 こっちの男が、犬塚いぬづか正志まさし私と同じ議員です。で、そっちの女性が白鳥しらとり久子ひさこ、私の秘書です。

 今日は急に伺ったのにご対応いただきありがとうございます」



 小柄な初老の男の挨拶と紹介に合わせて犬塚と白鳥も頭を下げた。



「いえ、で今日はどのようなご用件で?

 なにやら輝夜を指名してのようですが?」


「はい。以前から御嬢さんがSSランクだというのはテレビの情報で知っていたのですが、今回ユニオンを抜けてこちらにいらしているとの情報がありまして。そこで御嬢さんに依頼を受けて頂けないかと伺った次第です」


「どのような依頼ですか?

 依頼の内容によってはお受けできない事もありますので」


「はい。御嬢さんに埼玉の代表として闘技大会に出て頂きたいのです」


「埼玉の代表ですか?

 でも確か代表はサブリーグで決定されるのでは?」


「その通りです。ですからまずはサブリーグに出て頂きたいのです」


「出場に際しては命の危険もありますよね」


「もちろん、県として可能な限りのサポート体制は取らせていただきます」


「そうですか。依頼はサブリーグに出場して勝ち抜き、メインリーグに埼玉の代表として参加して欲しいということですか」


「はい。そうです」


「でも、なぜわざわざ出場の依頼なんてしてくるんですか? 金額が大きいので依頼が無くても参加するプレイヤーは大勢いると思うのですが?」


「それはですね、大崩壊後初の全国規模の催し物となりますし、県としても盛り上がるよう最大限のサポートをしようと有望な選手に依頼をしている次第でして」



 政樹は熊田が一瞬目を泳がせたのを見て、何か隠している事に気が付いたがとりあえずそのまま話を続ける事にした。



「そうですね、大崩壊後初めてですね、ここまでの大きな催しものは」


「はい。ですから県としていいアピールにもなりますし、強いプレイヤーが居るところに人も集まりやすいですから」


「分かりました。依頼としてそちらはどのぐらいの金額を想定されてますか?」


「はい。県としてはまず前金で200万、サブリーグへ参加したら勝敗に関らず500万、サブリーグの優勝とメインリーグへの参加でさらに1000万と考えています。もちろんメインリーグで優勝した場合は、別途1億と考えています」


「輝夜、参加するのはお前だ。どうだ?」



 金額の話を聞いて、政樹は隣に座る輝夜に金額の過不足について確認した。



「金額とかの判断はパパに任せる」


「そうか」


「金額は、このご時世です十分だと思います」


「では、受けて頂けますか!」



 政樹の答えを聞いて、熊田は腰を浮かせ体を乗り出してきた。



「いいや、お受けできません。申し訳ありませんがお帰りください」



 熊田達は受けてもらえると喜んだ矢先だったので政樹の冷たい態度に戸惑った。



「な、なぜ? 金額も問題ないのでしょう」


「はい、金額は問題ないと思いますが、どうやらそちらは何か隠しているようなので。

 そちらから何か話すかと思い待っていましたが、それを話さず契約にすすめようとしているみたいなので信頼が出来ません」


「なっ、そ、そんなことは…」


「熊田さん、やっぱり話すべきですよ」



 政樹の答えをきき、そんなことは無いと言おうとした熊田に犬塚が声をかけた。



「犬塚さん。でもこれは…」


「仕方ないでしょう。プレイヤーは命がかかった試合に出るんです。当然自分たちがなぜ戦うのかを知りたいと思うでしょう」


「そうだな」



 熊田と犬塚はお互いに目を合わせ頷いた後、熊田が話を続けた。



「すいませんでした。確かに隠し事をしている相手は信用できないでしょうな。

 ただ、これからの話はオフレコで、もし内部の話し合いが必要な場合も最低限の信頼できる人だけにお願いしたい。

 よろしいですか?」


「わかりました。当ギルドからこの後の情報を漏らさないと約束します」



 政樹の答えを聞くと、熊田は軽く頭を下げた後、話を続けた。



「ありがとうございます。

 先ほど県として盛り上がるようにサポートするといったのは建前でして。今回の大会には別の目的があります」


「別の目的ですか」


「はい。

 少し話がそれますが正直な話、国の予算も大崩壊後十分とは言えません。そのためすべての都道府県に平等に分配などは出来ない状況なのです。


 また、現在は自衛隊、警察も敵の駆除と国民の保護を主体に動いています。そのため、皆さんもご存じのとおり殺人、窃盗、放火、暴行などの犯罪行為を取り締まることが出来ておらず、残念ながら法治国家とは言えなくなってきています。そのため国や県への批判は日に日に強くなっています。

 それでも生きるためには最低限の安全、ライフラインや食料、生産業は確保しなければいけません。そのために国、都道府県が民衆の敵になってはいけないのです。


 でも今のままでは、日本全体がゆるやかに崩壊するか、国民の反乱で滅びるかのどちらかです。

 そこで、国と地方自治体の集まりで決まったのが、厳しいようですか優先して保護する県を決めるということでした。

 また、現在国民にある不満を解消する必要もあります。


 そのため闘技大会を開いて、娯楽の提供と国民に活気を取り戻すこと。国が娯楽を提供することで、少しでも批判を解消することになりました。

 そして、その大会で各都道府県に優先順位を決め、それに従い予算等の分配率が決定されることになりました」


「ということは、メインリーグは都道府県の予算の奪い合いということですか」


「はい。そうなります。また上位の都道府県には優先的に自衛隊なども派遣される予定です」


「でもそれだと、負けた県はどうなるんですか?」


「ヒドイと思わるかもしれませんが、先ほど言ったようにお金も人も有限で現在どちらも不足しているんです。

 大崩壊前であればもっと予算も人もいたので何とかなっていましたが、今の状況ではすべてに平等にとういのはお互いに首を絞めるだけで共倒れしてしまう状態です。まだ分かりませんが状況がこれ以上悪化したら、最悪の場合、最下位などになれば切り捨てられるかもしれません。なので県としては是が非でもメイン大会での優勝もしくは上位の位置を勝ち取りたいと考えています」


「何で闘技大会なんですか? 直ぐには難しいかもしれませんが国民投票や県の代表者による話し合いなどもあるとおもうのですが?」


「ご意見はごもっともです。ですがどの県もやはり自分のところを優先してほしいと思っていますし、県民達も同じだと思います。なので話し合いでは決着は着かないだろうと。また投票は現状では実施が難しいので最初の段階で棄却されています。

 ただ闘技大会が決まった話し合いでの意見としては、強いプレイヤーが居る県の方が今後生き残れる可能性が高く、より可能性が高い方にお金をかけて保護した方が良いとのことでした」


「それでSSランクと知っていた輝夜のところに来たと」


「はい。特に現在埼玉に拠点を置いているのであれば、影響はみなさんも受けるはずです。ですので是非参加して頂きたい」


「県としては他のプレイヤーにも声をかけているのですか?」


「もちろん。闘技大会は相手を死亡させれば失格となりますが、その危険は自分にもあります。無理やり連れて行って参加させてもよい成績なんか望めませんし、そもそも上位プレイヤーを無理やりってのが難しいです。なので断られてもいいように県内はもちろん。他県から移ってくれそうな人のところにも依頼を出しにいっています」


「そうですか。

 正直にお話頂けたのでこちらも参加する意味が分かりました。

 ただ申し訳ありませんが、検討したいのでお時間を頂けますか」


「はい。よいご返事をお待ちしています。

 こちらに連絡を頂ける際は、この市の代表のところに連絡をとってください」


「わかりました」



 熊田達が帰ったあと、政樹は机に突っ伏した。



「思ったより大事だな。ここに拠点を構えている以上無関係とはいかないしな。

 輝夜はどう思う?」


「確かに自分たちの環境を少しでも良くってのは当然みんなが思うし、私も分かる。

 そうだとすると、絶対SSランクが出た方がいい。SSランク同士でも属性の習熟度や武器の慣れや経験などで差があるんだから、SやAだともっと厳しい状況になるのが目に見えてる」


「そうだな。とりあえず後で主要メンバーを集めて相談しよう」


「分かった」




 その日の夜、政樹の部屋に瑠璃と、SSランクの崇一と輝夜と泰介、プレイヤーの代表として啓太、事務の代表として加藤が集められた。

 全員がそろったところで、政樹が昼間来た県の担当者からの話を全員にした。



「…と言う訳で、皆の意見を聞きたい」



 話を終えると、全員を見まわして政樹が全員に意見を促した。



「意見っていってもそれ勝たないと埼玉が辛くなるんですよね」



 全員が難しい顔で黙ってしまっているなかで、まず地元の泰介が声をあげた。



「そうなるね。出来ればせっかく安定した場所を得られたんだからまた移動ってのは避けたいとは思ってる。

 ただ、泰介君にはつらいかもしれないけど最悪移動すれば済むだけの話でもある。だからそれだけで君たちに命を懸けろとは言えないと思ってる」


「ちょっといいですか?

 もしそれが沖縄とかが優勝したらみんながそこに行くってのは厳しいですよね?」



 啓太は手を挙げたのをみて政樹が頷いたのを確認してから話し出した。



「その件は、その担当者から聞いた訳ではないので私の想像だが、沖縄が勝つのは厳しいかもしれない」


「なんでですか?」


「単純な人口の問題だよ。人口が多い密集している県の方が、プレイヤーも生き残りの人も多い。そして海からの距離の問題もあって、日本の場合は土地が小さいイコール海からの距離が近いってことになる。そうなると大きい島、本州や北海道とかの方が助かった人も多い事になる。

 単純な確率の問題なら生き残った人達が多いほど、そこにいるプレイヤーの数が多くなる。そしてプレイヤーが多ければSSなどの上位プレイヤーも多くなるはずだ。

 それが一概に試合の結果につながるとは限らないけど、勝つ確率は多い方が有利になるってことかな」


「そうですか」



 啓太を含め、崇一達未成年組が話を聞いて暗い顔をしたので政樹は慌てて、補足の意見を言った。



「そんなくらい顔しなくても、国民を切り捨てるとは思えないから、沖縄とか離島の土地は切り捨てても生き残りの住民を本州とかに移動させることも国は考えてるかもしれない」



 崇一達が少しほっとした顔したのを確認して政樹も安堵した。



「とりあえず、そんなわけで契約するかを決めなければいけないんだが、これはSSランクの3人の個々の判断に任せようと思う。さっき言ったように強制ではないし、断ったからといっても君たちが悪いわけじゃないし、気にする必要もない。今直ぐに答えを聞きたいってわけでもないから、4、5日ほど考えてみてくれ。

 相談はいつでも受けるから、ただこの場にいる以外のメンバーには相談しないでくれ、闘技大会の目的などを広める訳にはいかないので、このメンバー以外には話さないように」



 全員が頷いたのを確認し、その日は解散となった。




 翌朝、崇一が目覚めてしばらくベッドで昨日のことを考えていると、輝夜と泰介が部屋にやってきた。






「おはよう。2人してどうした?」


「おはよう。シュウちょっといいかな? 泰介君が話がしたいって」


「ああ、中に入って」




 崇一は2人を案内するとテーブルを挟んで座った。

 全員が座ると泰介が話始めた。




「昨日の件、シュウ達は考えた?」


「闘技大会に参加するかだよな?」


「うん。2人はどうする?」


「さっきも考えてたんだが、俺はまだ決めてない。出て優勝できるかは分らないけど今後のことを考えるなら拠点があるここが有利になった方がいいとは思ってる。ただ、どの程度のメンバーが参加するかも未知数ってのもあるから踏ん切りがついていないような状態かなぁ。まぁ政樹さんの決めた期限までには決めるよ」


「私は基本参加は考えてないよ」


「そっか。俺は地元ってのもあるし参加してもいいかなって思ってる。ただ、戦闘に慣れてないからもし出ることになったら2人に戦い方などのレクチャーを頼みたいんだけどいいかな?」


「そりゃ、別に構わないぞ」


「うん。いいよ」


「ありがとう。今日は取りあえず俺の意見を伝えるのと確認だけだら、2人は俺のことは気にしないで判断して。

 じゃぁ、今日は海斗さん達と討伐に行くことになっててもう集まっているはずだから」



 泰介が立ち上がって先に部屋を出た後、崇一達もギルドの受付に向かった。



「今日はどうしようか?」


「何か乗り気じゃなさそう。いいんじゃない無理に討伐をしなくても。

 ただ、何もせずに考えるよりは、体を動かしてる方がいいとは思うけど?」


「じゃぁ、今日は指導じゃなくて魔石集めでもするか」


「OK」



 指導の場合は自分たちが動くと練習にならないので見るだけの事が多いので、久々に徹底的に戦うだけに出ようとの崇一の提案に輝夜は嬉しそうに返事をした。




 その日は、車で遠出をしてイグが出る付近まで出かけて討伐を実施したが、イグは出なかったがC~Aランクの魔石が多数手に入りここ最近の中では一番の稼ぎとなった。


 ホクホク顔で崇一達が戻ってくると、ちょうど上の階から政樹が降りてきたところだった。



「おお、いいタイミングだな。輝夜、別のギルドからお客さんが来ているんだ。悪いがお前に用があるらしくてな一緒に来てくれ」


「別のギルド?」


「私もさっき聞いたばかりで、どうやら長野から来たみたいだ。何か依頼があるとのことだが、詳しくはこれから確認するんだ」


「ふ~ん。分かった。シュウちょっと行ってくるから先に受付の方に行ってて」


「分かった」




 崇一と別れて輝夜が政樹と一緒に応接室に入ると、何か甘いにおいが室内にこもっていた。

 輝夜は嗅ぎ慣れない匂い一瞬眉を潜めたが、客人の前ということもあり直ぐに営業スマイルを浮かべた。


 輝夜達が室内に入ってくると、座っていた男2人が立ち上がり頭を下げてきた。



「はじめまして、私は諏訪に拠点を置いているギルド『御神渡り』の芦屋あしや統志郎とうしろうと言います。本日はお忙しいところありがとうございます」



 少し痩せており、180cmを越えるだろう長身と相まってヒョロとしたイメージのある男がまず挨拶をしてきた。



「この者は当ギルドの仲間で、くすのき稔太ねんたと言います」



 芦屋の紹介に合わせ、中肉中背でスキンヘッドにした男が頭を下げた。



「はじめまして、私がギルド代表の月城政樹で、こっちが娘の輝夜です。

 で、今日はわざわざ長野からどのようなご用件でいらしたのですか?」



 政樹が挨拶をしながら、手で着座を進めたことに合わせて全員着席した。

 それに合わせて、加藤が入口から入ってきて全員の前にお茶を置いて退出していった。



「既に闘技大会の事はご存じだとおもいますが、現在長野ではSSランクのプレイヤーが見つかっておりません。大崩壊直後には居たのですが2か月前に亡くなりました。そこで、地元の議員だった方との相談の結果、SSランクのプレイヤーを探す事になりました。こちらの輝夜さんは先日ギルドを抜けて独立されたばかりだと聞いて、お話をさせて頂ければと今日は来ました」


「そうですか。失礼ながら確認させて頂きたいのですが、SSランクのプレイヤーがなぜ亡くなったのですか? 長野だと海からも遠いので比較的強い敵は出ないと思っていたのですが?」



 政樹は芦屋の話の中で気になった点を質問したが、芦屋は少し暗い表情を浮かべ、少し戸惑ったあと返答してきた。



「…その方は当ギルドの先代の代表だったのですが、大崩壊後の衛生面や環境の変化が悪かったのか病気になってしまい、ギルドでも手は尽くしたのですが…」


「戦闘ではなく病気でしたか…。失礼しました」


「いえ、お気になさらず。SSランクが倒されるような強い敵が長野に出たのを懸念されたのですよね。私でもSSランクが亡くなったと聞いたらまずそこが気になりますから。

 あ、お茶頂きますね」


「どうぞ」



 政樹の謝罪に芦屋は笑って流したあとお茶を飲んで一呼吸おいてから話を続けた。



「で、もうお分かり頂けたと思いますが、闘技大会の参加を長野からして頂きたいのですよ。既に埼玉から話があったとは思いますが、ご検討いただけませんか? もちろん相応のバックアップ体制、報酬をお約束します」


「お話は分かりましたが、申し訳ありませんがお受けできません。まだ当ギルドとしては参加は決定していないのですが、今のメンバーの関連もありますしので、もし参加するなら埼玉からになると思っていますので」


「そこを何とかお願いできませんか。報酬は埼玉の倍用意します! 他に何かご希望があれば言って頂ければ…」


「申し訳ありませんがお引き取り頂けませんか。いくら頼まれても当ギルドとしてはお受けできませんので、他の方を探していただいた方がいいかと思いますよ」



 政樹が再度断り入れると、芦屋は急に立ち上がり、椅子の横で土下座を始めた。



「何とか、ご一考をお願いします」


「私からもお願いします」



 芦屋に続き、座っていただけだった楠も一緒に芦屋の横で頭を下げ始めた。



「芦屋さん。困ります。そんなことされてもお受けできませんから」



政樹が芦屋を止めようと立ち上がろうとすると、膝の力が急に抜けて転倒してしまった。



「ぐっ、力が…」


「パパ、大丈夫?」



 政樹が倒れたのを見て輝夜も慌てて立ち上がろうとしたが、椅子から立ち上がれずトスッと又座ってしまった。



「何で? 力が 入らな い」



 輝夜も政樹と同様に足に力を入れられず驚いた。

 最初は足だけだったが、徐々に上に上ってくるような感じで最終的には体が動かせなくなった。

 2人が何とか体を動かそうと試していると芦屋がゆっくり立ち上がった。



「ふぅ、やっと効いてきましたか。思っていたより遅かったですね。部屋の広さの問題でしょうか?」



 芦屋は2人が動けない事からやっと自分が散布していた毒の効果が出てきた事を感じた。以前自分のギルドで試した際はもっと早く効果が出ていたような気がしたので、効果が出るのが遅くなった理由を考えていると、楠から声がかかった。



「統志郎さん。もういいんですか?」


「ああ、いいですよ」



 芦屋が立ったのをみて、楠も土下座を止めて動き始めた。



「いやぁ、土下座なんて初めてやりましたよ」


「仕方ないでしょう。時間を稼ぐ必要があったんです」



 政樹も2人の会話を聞いて、この状態を引き起こしたのが2人だとは分かったが何をしたのか見当が付かなく、なんとか動かせる口で質問をした。



「な、なにを した」



 政樹の質問を聞いて、芦屋が政樹の前にドサッと座り込んだ。



「今、何をしたと聞きましたか? 毒ですよ。私はSランクの毒属性持ちでね。ちょっと動けなくなって貰ったわけです。

 安心してください命を奪うような毒じゃありません」


「なん…で」



 政樹が理由を問おうとすると芦屋はワザとらしく片耳に手をあてて聞いた。



「ああ、何でこんなことをしたのか? と聞きたい訳ですか?」



 ウンウンと政樹が何を言いたいのかを察し、先ほどまで浮かべていた表情を消して嫌らしい笑みを浮かべて言った。



「ちょっと戦力補強のためにねSSランクとか、生属性持ちとか色々探していたんですが、ちょうど輝夜ちゃんがギルドを抜けたって情報を聞きましてね。輝夜ちゃんなら両方叶うので一石二鳥でしょう。おまけにこんなにきれいでスタイルもいいんです。色々楽しめる事を考えると一石三鳥でしょう。

 幸い集められた情報ではSSランクの輝夜ちゃん以外は、Sランクはユニオンに残ったみたいで、A以下のランクしかいないみたいですしね。輝夜ちゃんさえ、こんな風に抑えられればこのギルドも相手じゃないと判断しまして」



 政樹と芦屋の会話を聞いて、輝夜は無属性の解毒魔法を自分に使い始めたが、なぜか魔法が発動しなかった。


 ゲーム中では毒属性は稀属性の一つではあったが、ハズレ属性と言われていた。その理由は、無属性魔法の中に解毒があり毒状態になっても解毒することが出来たこと、ランクが上の毒属性が相手の場合は無属性では解毒出来ない事もあったが解毒用の魔石が販売されていたこと、最後に毒の性質上毒状態になってもすぐに効果が出ることが無くじわじわ効いてくるので、視界の隅に写る毒状態を示すアイコンが点滅した段階で直ぐに解毒すれば影響がなかったことなどがある。

 また直接相手に触れて強い毒を流し込む方法もあったが、まず相手に触れるか武器で傷つける必要があるので戦闘中では力の差があると難しいということと、強い毒でも一瞬で体に回るわけではないので、ゲームだから現実の体ではないというのと、ゲーム中では痛みが制限されていたため。躊躇なく手足など毒を流し込まれた場所を切り落とすとの方法をとる者も多かったのである。

 ゲーム中でも何でこんな使えない属性が用意されていたのかはゲームの中の七不思議の1つにもされていた。

 輝夜はランクがSSのため、無属性の解毒魔法も強くゲーム中で対戦相手が毒属性持ちでも困ったことは一度もなく、今回まですっかり忘れていた。



「い つから どく を?」



 何とか情報を得ようと輝夜が質問をすると、芦屋が嬉しそうに答えた。



「最初部屋に入った時甘い匂いがしませんでした? 空気中に毒を散布し続けてたんですよ。お茶を運んできた人みたいに直ぐに部屋の外に出れば影響はありませんが、しばらくこの空気中にいると毒状態になるんですよ。ゲーム中では使えない属性でしたが、現実になると視界にアイコンなんて便利なものはありませんからね。使い方さえ間違えなければこのとおり便利につかえるんですよ。

 ゲーム中では直ぐに解毒されてたのであまり知られていませんでしたが、効果が表れる前なら自分の解毒魔法で解毒出来るんですが、効果が表れると魔法が抑制されて自分では解毒出来ないんですよ。

 どうせ解毒魔法を使おうとしてるとは思いますが、出来ないでしょう?

 稔太、輝夜ちゃんを運んでください」


「了解」


「いや、離して」



 輝夜は楠が近づいてきたとき火を放とうとしたが、解毒魔法同様は発動することが出来ず、体も動かないため抵抗出来なかった。

 楠は、動けない輝夜を肩に担ぐと芦屋の元に近づいた。



「統志郎さん、まだ多少は動けるみたいですよ」


「そうですか。やっぱりランクが高いと効くまでに時間がかかりますね」



 芦屋はそういうと、輝夜の手を掴み毒を直接体に流し込んだ。



「うっ」



 直接毒を流し込まれたため、輝夜はさっきまでより更に動けなくなった。

 輝夜が動かなくなったことを確認すると、楠はストレージからキャリーバックを取り出し輝夜を詰めた。



「さて、ここから逃げますよ。

 後ろの窓から出るので、出たあとは出来るだけ自然に歩いて車まで行ってください。いいですか、下手にキョロキョロしないように」


「了解」


「ま て…」



 政樹は何とか止めようと腕を伸ばしたが、ゆっくりとしか動かせず芦屋にあっさり避けられた。



「じゃぁ、これで失礼しますよ。

 安心してください。30分から1時間ほどすれば毒は消えるので…。

 ただ、追ってだとかは考えない方がいいですよ。このギルドのメンバーではSランクの私達の相手は厳しいでしょうから。

 1人だけあきらめれば済むんですから簡単でしょ」



 芦屋と楠は裏手にある窓から出て行った。


 今の時世は以前のような情報の伝達が簡単ではなくなっていたため、幸い芦屋達はギルドにSSランクが輝夜のほかに2名いることを知らなかったのを政樹は感謝した。

 政樹は直ぐに崇一や泰介に輝夜の救助を頼むため、必至になって体を動かした。ナメクジがはい回るよりゆっくりとしたスピードだったが出口に向かって這って行った。



申し訳ないです。

予約投稿にミスりました。


1時に投稿するはずでしたが遅くなってしまいました。

次の話は明日には投稿する予定です。

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