19. 闘技大会の通知
海斗達と模擬戦闘をした翌日の昼、政樹と瑠璃の2人が戻ってきて新しいギルドの建物の契約が決まったと報告があり、元々荷物も広げていなかったのでその日のうちに移動を開始した。
新しい場所は泰介が教えてくれた場所の一つだった。市街地の防護壁の外側にあり住む人が居なくなった団地で3棟ある建物がコの字型になっており一階部分が商店街みたいになっているマンションだった。部屋数も十分にあり、一階にあった軽食店をギルドの受付に改造することになった。その他の一階部分は食堂、倉庫や休憩室、救護室など共用部分とし、2階以上を居住区とした。また、安全面から2階から5階はプレイヤーの部屋とされ、また出来るだけ広くカバーするため基本は1人一部屋とされ、希望があれば同室も出来る形になった。ノンプレイヤーは6階から最上階の10階までが割り当てられた。
3~4日ほどで、最低限生活が出来る環境と受付の体裁が整ったのでギルド・ムーンガードを発足することが出来た。
発足はしたが自分たち用の防護壁の作成や、安定した電気を得るためのソーラーパネルの設置、生活費を得るための魔石集め、畑などの作成などやることがたくさんあった。そのため当初の避難所と同じようにE~Cランクが防護壁や畑の作成、任意のC~SSランクが討伐で魔石を集めることを実施していた。
出来たばかりのギルドに護衛依頼など直ぐにあるわけもなく、ここ1ヶ月ほど崇一達は討伐ばかりしていた。
その日も出発前にギルドの受付にある軽食店だったころのテーブル席でくつろいでいると、輝夜が慌てて入ってきた。
「シュウ! 朝パパから聞いたんだけど日本でも国主体でプレイヤー同士の大会が開かれるって」
「本当か?」
「輝夜ちゃんマジ?」
「やったー」
輝夜の情報を聞いて崇一以外にもその場にいたプレイヤー達が騒ぎ出した。
最初はアメリカで始まったとの情報があるが、現在世界中の国でプレイヤー同士の戦いを見世物、賭け事とした娯楽が広まっていた。
崇一も以前みたいなネットワーク等が無くなり噂だとかのレベルでしかなかったがどうやら大分人気のある大会になっているらしいとの情報があった。
しばらくしてそのうち日本でもあるんじゃないか囁かれはじめ、パチンコや競馬などの公営ギャンブルを含め、遊園地などのアトラクション施設などの娯楽がほぼ無くなっている現在では、一部で個々人の間の賭け事としてやっているとの噂が既にあるような状態だった。
今回輝夜が持ってきたものはそれが正式に決まったとの情報だった。
「なぁ、輝夜それどこから政樹さんは聞いたんだ? まだテレビ等では言ってないぞ」
「うん。先日ギルドとしての登録申請をだしてあったんだけど、どうやらプレイヤーが関係するためギルド登録しているところにまず情報が送られたみたいで、昨日情報が届いたって今朝連絡があったの」
「正式なやつなのか?」
「うん。今日の午後にはテレビを通じて発表があるって。
で、どうするシュウ参加する?」
「分からん。しばらく情報を集めてからだけど、参加しなくてもいいかなぁとは思ってる」
ゲーム中のプレイヤー同士の大会にも積極的に参加していなかった崇一としては、興味があったが別に自分が参加したいとの思いはあまりなかった。
周りにいたプレイヤー達はお互いに参加の有無やどんな大会になるかなどの話を始めていた。
「おはよう。さっそく話してるな」
しばらくすると政樹が受付にやってきた。
「既に聞いていると思うがプレイヤー同士の大会が開かれる事になった。
ギルド宛に届いた情報を伝えるから、この場にいない人にも伝えてやってくれ。
一応要点をまとめたものは掲示板に張っておくから詳細はそっちをみてくれ」
政樹が話した内容をまとめると以下になる。
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闘技大会は国が主催するメインリーグと各都道府県主催のサブリーグがあり、サブリーグの勝者がメインリーグに参加することが出来る。
出場条件はBランク以上、参加選手は1人のみで武器、魔法の制限はない。ただしセコンドとして1人登録可能となっている。
相手を死亡させた場合は失格となるが、大会としては生命の保障は出来ない、そのため参加条件として免責事項を理解の上、契約書へのサインが必要となる。大会としても回復用の要員・魔石は確保しておくが、各選手でも用意しておくことが望ましい。
参加費が10万円だが、サブリーグ優勝者には1億円、メインリーグでは1位10億、2位5億、3位2億が用意される。
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「とりあえず、現在入ってきている情報はこんなところだな。
期日等は決まり次第通知がくることになっている」
政樹が話終えると聞いていたプレイヤー達がまた騒ぎ出した。
「すげぇぇ、10億だってさ」
「でもBランク以上なんでしょ。そもそも参加資格がない…」
「命の保証がないってのも怖いね」
「Bランク以上といってもSSとかSランクが集まるだろうなぁ」
「なんで参加費が10万もするんだよ」
「優勝じゃなくても3位までに入れば、サブと合わせて3億…」
しばらくの間、各々が好き勝手に言い合っていたが落ち着いてくると全員が崇一と輝夜、泰介の方を見てきた。
「お前たちは出るのか?」
全員の気持ちを代表して啓太が崇一達に聞いてきた。
「いや、出る気はないよ。お金が出るだけでしょ。特に何かあるってわけでもないし」
「私は出ないよ。もし参加するとしてもシュウのセコンドとしてかなぁ」
「俺は生産に特化したタイプだから戦闘はだめだなぁ」
「なんだよ。つまらねぇな」
3人とも出ないとの答えだったので啓太は肩を落とした。
「そういうなら。啓太さんだってAランクなんだから参加条件は満たしてるよ」
「ばかやろう。S以上が出てくるようなところに行けるか! 大体サブリーグで速攻で終わるわ!」
「でも俺たちみたいに出ないって選択するプレイヤーもいるんだから必ずS以上と当たるとは限らないと思うけど?」
「そういう考え方もあるが、高位のプレイヤーはゲーマーが多いからなぁ、参加する奴の方が多そうだけどなぁ」
「ゲームと現実は違うって、ゲームなら何度死んでも大丈夫だったけど、こっちでは死んだら終わりだから俺みたいなのも多いと思うよ」
「そこなんだよなぁ。ファンタジーだと非殺結界とかなんとかで死なないフィールドとかあるんだけどなぁ」
「そんなのは現実にはないよ。S以上の属性操作でもし可能だとしたら生属性だけど、相当細かなコントロールが要求されると思われるから厳しいだろうね」
「まぁ、とりあえず情報は来次第また連絡するから、各自で参加の有無は判断してくれ。
ギルドとしては参加するなら出来る限りのサポートはするから」
啓太と崇一が話していると、政樹はそういって席を立ち去って行った。
「ま、どうせ今日明日に参加を決めなきゃいけないわけでもないし、魔石でも集めに行こう」
政樹が去ったことで一区切り出来たので崇一は啓太の肩をポンと叩くと、輝夜達を促して討伐に出て行った。
最近の討伐は守達、芳樹達中学男子組、真理達女子組、海斗達のチームと交代で出て、指導をすることが多かった。
この日は真理達と一緒に来ていた。
崇一達は少し離れたところ真理達の様子を見ていた。
「このレベルの敵なら全く問題がないなぁ、もう少し上のレベルを経験できるといいんだけど…」
「この付近には居ないからね。車を手配して遠出でもする?」
「それも考えておいた方がいいかな。
あとそろそろ、一回大物狙いで稼がないときついと思うけど、輝夜の方は?」
「そうだね。みんなこの辺の敵では落ち着いて対処できるし、一旦指導をやめて稼ぎにいこうか」
「だな」
その後、崇一がしばらく考えにふけっていると、輝夜が声をかけてきた。
「ねぇ、もし大会にでたら赤染達って出てくるのかなぁ?」
「輝夜はやっぱり気になる?」
崇一は輝夜があのまま放置してきた赤染達が気になっているのだと思い逆に質問した。
崇一が心配そうに見てくるので輝夜は慌てて手を振った。
「ああ、あいつらが心配とかじゃなくて、出てきたらどうとっちめてやろうかと…。
それだったら私もでてもいいかなぁって」
「そっちね。
でもそれはちょっと無理かな」
「え? なんで?」
「数日前、行商に来た人から聞いたんだけど」
現在の日本では大型店舗を構えてのスーパーみないなのは運営が厳しいので小店舗や、気軽に出歩けないため各集団を回るトラック等で行商をする商人が増えていた。
またその商人たちがテレビ・ラジオでは紹介されない情報等や各集団ごとの郵便や配達なども担うようになっていた。
行商から聞いたとのことからテレビ等でおおやけにされてない情報だと輝夜も分かり先を促した。
「どんな情報?」
「ユニオン内部で暴行があって、赤染達は死んだって」
「そっか。確かにそれじゃあ無理だね」
「ああ、あの件は俺が勝手にやった事だから輝夜達が気にすることはないよ」
崇一自身は、赤染達の自業自得だと思っているので気にしてなかったが、赤染達が死んだと聞いて気にするかと思い輝夜に気にするなと声をかけた。
「大丈夫。前言った通りシュウがやってなかったら私がやってた。あんな奴ら気にする必要もないでしょ」
「ならいいんだけど。
さ、こんな話をしてても仕方ないし。
真理達も今日はここまでにして帰ろう。食事の当番だし早めに帰らないと」
「そうだね。
おーい。真理ちゃん、彩子ちゃん、桃花ちゃん帰ろう!」
輝夜が真理達に声をかけて撤収することになった。
ギルドでは各個人の部屋でも調理が出来たが、殆ど全員が一階の食堂に集まって食事をしていた。そのため交代で食事の当番が割り当てられており、今日は崇一と輝夜と真理達が担当することになっていたのである。
真理達が合流すると崇一達は献立について話し合いながらギルドへ戻って行った。
「今日の夕食はどうしようか?」
「昨日は和食系でしたよね。だったら洋食か中華系にしてみるのもいいですよね」
輝夜が真理達に相談すると、彩子が方向性を変えようと言ってきた。
「洋食系なら確か在庫に牛肉があったからビーフシチューとかってのもいいかと思うけど、中華系ってどんなの考えてる?」
「そうですね。回鍋肉とか青椒肉絲とかですかね。本来は豚ですけど牛でもできますし、筍だとか無いのは別ので代替え何とかなりそうと思うんですけど」
彩子以外もあれやこれや案を出すが、なかなかコレと決まらなかった。
「以前だったら食材の種類も調理器具もたくさんあったから色々たのしめたけど、今はある材料で回すのが大変だね」
「「「ですねぇ」」」
輝夜がつぶやいた事に彩子たちも同意した。
「そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないか?」
崇一が肩を落としている輝夜達に声をかけると輝夜が食って掛かってきた。
「シュウ! そういうけどね。同じ食事ばかり続くと嫌でしょ。やっぱり食事はおいしく食べたいでしょ」
「お、おう」
「そのためには手を変え、品を変えていかないといけないの! 大体男子はいつもメニューを考えてないでしょ」
「すまん。でも俺だけに言わなくても…」
「なに?」
半目の輝夜の視線に崇一は逆らってはいけないと思い直ぐに両手を挙げて謝罪と感謝の言葉を言った。
「いや、悪かった。何でもないです。いつもおいしいメニューを考えて頂いてありがとうございます」
「はぁ、まぁいいけど。
ところでシュウは何か食べたいものとかってある?」
「うん? 俺は何でもいいぞ」
「それが一番困るんだけど…」
「そうか…。そうだなぁ、そういえば最近ラーメンは食べてないなぁ」
「ラーメンは直ぐには無理。在庫がない。他には?」
「そうだ、お好み焼きとかどうだ。あれなら小麦と適当に野菜を混ぜればなんとか出来ないか?」
「材料は何とかなるけど、調味料があったけ?」
崇一の提案に輝夜が考えていると、彩子が声をかけてきた。
「ソースは在庫がありますし、確かマヨネーズは前回卵を買ったとき作ったのがありますよ」
「鉄板やヘラは泰介君に言えば何とでもなるし…。出来るかな」
「じゃぁ、今日はお好み焼きでいきましょう」
「具は、チーズもあったよね……」
「なんか既にお好み焼きに決定しちゃってるね」
「確かに、私たちは置いてかれちゃったね。
まぁ、仕方ないんじゃない。輝夜ちゃんと彩子がいる時点で、崇一さんが食べたいって言ったのがあるならそれになるでしょ」
輝夜と彩子がお好み焼きに何を入れるかなど話を進めているのを見て真理がつぶやいた事に桃花は苦笑いでフォローを入れた。
ギルドに戻った後は、急きょ鉄板やヘラを泰介が作らされたり、土属性持ちがあつまりマンションの中央にある広場で鉄板を乗せるかまどを作ったりとあったが、皆、お好み焼きを自分たちで焼きながら食べるのが久々だったこともあり好評だった。
申し訳ありませんが、次話以降は週に1回ほどの投稿となります。
可能であれば2~3回投稿出来るように頑張ります。
お待ちいただ形となりますが、宜しくお願い致します。




