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16. 仮やど


「さて、これからまずどうしようか?」



 崇一は、歩きながらついて来た全員に相談した。

 荷物は朝の段階で既に持っていたので問題ないのだが、ただユニオンから距離をとるためだけに歩いていたので行くあてがないのである。



「シュウ。えっとうちの両親が新しいギルドを立てるってのは言ったよね?」


「ああ、でもそんな直ぐに場所だって決まらないだろ?」


「うん。そうなんだけど、ほらプロダクションの職員とかもいるからとりあえず今日中に全員が寝られる仮宿は決めるから、とりあえず元都庁の前で待っていてくれって言われてるんだけど」


「そっか。じゃぁまずは都庁に向かうか。あ、でも他のプロダクションの人たちってどこにいるんだ?」


「ああ、プレイヤー以外の人は後でプロダクションの車で一緒に別行動する形になってる。おそらく都庁に行くときにはもう着いてると思うけど」


「そうか。じゃぁ行くか」



 崇一は当てが決まったので歩き出そうとしたとき、響子が崇一の裾を掴んだ。



「兄さん、それも大事なんだけど、崇司にも連絡を入れないと…」


「あ、そうだったな」



 崇一がしまったと顔を一瞬ゆがめたのを響子は見逃さなかった。



「…兄さん、忘れてたでしょ」


「すまん。えっと都庁に行く前にブリュナークのギルドに顔を出してていいかな?」



 崇一は全員の方に向き直り確認をとったが、全員特に用事があるわけでもないので否定もなく、まずはブリュナークに向かう事になった。




 到着したブリュナークのギルドは廃校を拠点にしているらしく、様子もユニオンと違いデザイン性を排除した殺風景なところだった。



「ここであってるのか?」



 受付らしき場所もないので、生徒用の出入り口横にあった職員用と思われる小さな入口から崇一と響子だけが入ってみたが、ユニオンのギルドのイメージが強かった崇一はここいいのか不安になった。



「こんにちは。どのような要件でしょうか?」



 入口横にある小さな窓から中学生らしい女の子が声をかけてきた。



「えっと、ここがブリュナークのギルドで間違いないですか?」


「はい、そうです。当ギルドにどのような要件でしょうか?」



 崇一が恐る恐る聞いてみると、女の子はすんなり肯定し要件を聞いてきた。



「えっと家族、弟がここのギルドに登録してまして。ちょっと家を移動することになったので連絡しにきたんですが…」


「弟さんですか。名前を確認してもいいですか?」


「はい。九条崇司と言います。Eランクです」


「あなたは?」


「俺は九条崇一で崇司の兄です。あと姉の響子も一緒にいます」


「わかりました。ちょっとお待ちください……。

 外出はしてないみたいなので、呼んできます」



 おそらく外出の管理ノートなのだろう、女の子は手元のノートを確認して崇司を呼びに行った。

 しばらく待っていると崇司がやってきた。



「兄貴、何のようだよ?」


「ああ、すまない。ちょっと家を移す事になってな。その連絡をしに来た」


「はぁ? ユニオンで働いてるんだろ? わざわざギルドのマンションを移動する必要ないだろ?」



 崇一は、崇司の意見に苦笑いを浮かべた。



「おい、兄貴、何かやらかしたのか? また姉貴に迷惑かけたのかよ!」



 崇司は崇一の様子をみて胸倉を掴もうと手を伸ばしてきた。



「崇司、やめて。今回は兄さんの所為じゃないの」


「姉貴…」



 崇司は響子の制止を聞いて姉の方を見た。



「ギルドで兄さんを襲った人がいてね。その関係でギルドを出ることになったの」


「どうせ何かやらかしてその人を怒らせたんじゃないのか?」


「えっと、兄さんのゲームのときのギルドの仲間が見つかって、その人が兄さんのパーティに入ったの。

 それで、兄さんにその人から離れろって」


「ふ~ん。それでその人って誰? そんなの言ってくるってことは重要な人なの?」


「うん。輝夜ちゃん。SSランクで生属性持ちだから」


「へ? 輝夜ちゃんが兄貴の知り合いなの? 前そんなこと言ってなかったじゃん」


「あとから分かったんだよ。まぁ響子の言ったのが概要だな。それで俺たちは輝夜のプロダクションが作る新しいギルドへ移動することになったんだが、まだギルドの場所が決まってない。

 そんな訳で完全に移るまでに少々時間がかかるが、決まったらまた連絡するから待っていてくれ」



 崇一は、崇司が驚いている間に結論をまとめて言った。



「ああ、分かった。

 でもそうするとユニオンから輝夜ちゃんが居なくなるってことだよな」


「そうなるな」


「そうか、神宮寺さんにも伝えないと」


「神宮寺?」


「ブリュナークの代表の人だよ」


「そうか。その辺はそっちで判断してくれ。

 じゃぁ、輝夜のプロダクションの人たちを待たせてるからもう行くから。

 落ち着く場所が決まったら連絡に来るから」



 崇一が出て行こうとすると、崇司が響子の手を掴んだ。



「姉貴、うちにもプレイヤー以外の人もいるし、兄貴と一緒じゃなくてこっちに来れば?」


「ありがと崇司。でも今回は兄さんだけじゃなくて加藤さんとか仕事で仲良くなった人も一緒だから。

 そういうなら貴方がこっちに来れば?」


「いやだね。前に言ったように兄貴の世話にはならない」


「そう。とりあえず兄さんが言ったように落ち着いたらまた来るから」


「…わかった」



 崇一は扉からでると響子に声をかけた。



「こっちに残っても良かったんだぞ」


「さっき崇司にも言ったけど、加藤さんとか仲良くなった人も多いから」


「そうか」



 崇一は建物から少し離れたところで待っている輝夜たちのところに向かった。







 元都庁前に来ると、既に輝夜のプロダクションの人たちは全員そろっていた。

 輝夜は少し早足になり、集団の中にいた両親のところに近づいた。



「ごめん。待った?」


「いや、集合時間とかは決まってなかったし気にするな」



 輝夜が父親と会話をしている間に、瑠璃が崇一達の方にやってきた。



「はじめまして、君がシュウ君かしら?」



 崇一の前に立つと瑠璃はプレイヤー名で確認をしてきた。



「はい。九条崇一です。シュウの名前でプレイしてました」



 松永瑠璃はテレビで見たことがあったので、直ぐに輝夜の母親だと分かった。



「今回はすいませんでした。俺の暴れた所為でプロダクションごと巻き込んでしまったみたいで…」


「気にしないで、プロダクションが離脱した理由は貴方が理由ではなく輝夜の選択が理由だったし、輝夜を手放せなかったのは親のわがままだから」



 瑠璃は崇一が謝罪をすると、崇一の所為ではないと笑いながら言った。



「親のわがままですか?」


「そう。貴方は輝夜の兄の秀樹、えーとゲームではアスボンの事は知ってるでしょ?」


「はい」


「秀樹が大崩壊の日に亡くなってから、輝夜までいなくなるのが怖くてね。もともとうちのプロダクションがユニオンに参加したのも輝夜を守るために強い人が集まっている方がいいだろうとの判断だったから。

 そういう意味ではSSランクの君がいる方が輝夜も安心だし、プロダクション間のいざこざもあって丁度良かったのよ。

 まぁ、そんなわけでこっちも貴方を自分のわがままで利用しているようなものだから気にしないで」


「はい」


「じゃぁ、今後ともよろしくね」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」



 崇一は差し出された手を握り返した。



「まぁこっちは、貴方の事は輝夜と秀樹から食事のときなどに良く聞いていたから、初対面って感じがしないんだけどね」


「はぁ、どんな話を聞きましたか?」


「いや変な話じゃなくて、今日はどこに一緒に行ったとか、貴方が新しい武器を手に入れたとか、ゲームでの話だけよ。

 そんな心配そうな顔はしないで」



 輝夜たちの家での話で自分が出されていたと聞いて、思わずどんな失敗談や馬鹿な行動を話されたのかと不安そうな顔になった崇一に瑠璃は手をヒラヒラと振りながら心配するような内容ではないと言ってきた。

 実際には崇一が気にしている話も大分あるのだが、そこは大人の対応として瑠璃は伏せておいた。



「えーっと、後ろにいる人達が今回一緒に抜けてきたプレイヤー達ね」



 崇一がまだ若干不安そうにしていたが、瑠璃は無視して話を続けることにした。



「はい、そうです」


「じゃぁ、その子達以外にうちの子じゃないんだけど、一緒に来たプレイヤーがあっちにいるから挨拶しておいて」


「わかりました」



 崇一達は促された先に進むと、若手女優の桜庭美鈴と清優と優羽の筒井兄妹がいた。



「やっぱり来たんだな」


「当然! 僕(私)たちは輝夜ちゃんのファンだから(ね)」



 筒井兄弟を見て、来るかもと予想していた崇一がつぶやくと2人は胸を張って言い切った。



「まぁいいや、よろしくな」


「輝夜ちゃんを独り占めするお前と仲良くするつもりはない」


「うん。よろしくね」



 威嚇してくる兄と違い優羽の方はすんなり挨拶をしてきた。



「えっと桜庭さんですよね」


「ええ」


「プロダクションは良かったんですか?」


「まぁ今の状況で仕事って殆ど無くなっていたようなものだし、輝夜もこっちにいるからね」


「そうですか。よろしくお願いします」


「こちらこそ」



 その後、輝夜の両親が用意した大型バス3台に乗り、一時の宿になる埼玉の避難所に向かった。





「でも何で埼玉なんだ?」



 バスの中で崇一は隣に座っていた輝夜に聞いた。



「理由は2つあるって聞いたけど、1つは東京だとユニオンの顧客範囲と重なるんだって。あと1つはプレイヤー以外の人ができるだけ安全にって考えた時、内陸部の方がいいだろうって。プレイヤーは車とかで移動すれば討伐に行くのにも困んないしね。あと都内では難しかったけど埼玉の方なら畑とかも確保できるからって」


「たしかにその方がいいな」


「うん。あと理由というより念のためというか心配しすぎなのか、浦安だとか一部海抜が低いところが既に海に飲まれてるでしょ。もしかしたらまだ水面が上昇するかもしれないからって、5~7mも上昇すると埼玉の南部あたりまで海がくるから、念のためそれも見越してとは言ってたけど」


「東京はどうなるんだ?」


「東京全部が水没するわけじゃないって、ただ低い場所が埼玉の方まであってそこに食い込んでくるような感じになるみたい」


「へぇ、そんなのも調べたのか、すごいな」


「今回調べたんじゃなくて、大崩壊後少しずつ調べてたみたい」



 そんな話をしているうちに避難所に到着した。



「こっちの避難所は人が少ないな」



 避難所に入ったとき、神奈川や東京の避難所は結構人が居たのだが、この避難所は人が少ないことに気が付いた。



「やっぱり海から離れている分、被害が少ないらしくて自宅で過ごしている人が多いみたいね」



 崇一のつぶやきが聞こえたのか、瑠璃が教えてくれた。



「まぁ今後のため防護壁の作成だとかは進めているみたいだけどね。

 とりあえず、ここの避難所に2~3日ほど御厄介になっている間に拠点を決めてしまおうと考えてるから」


「わかりました。よろしくお願いします」



 説明が済むと瑠璃は直ぐに政樹と一緒に避難所の受付の方に向かっていった。



「確か体育館を使えるんだよな?」


「うん。そう聞いている」



 瑠璃と政樹が居なくなった後、崇一達も指定された寝床に向かった。

 とっても体育館なので全員で雑魚寝との形になるが、バスの椅子に座ったままよりましなので気にしなかった。

 片隅に大量に積まれていた布団を各自で運び、各々好きな場所にひいて休憩していると、瑠璃達が戻ってきた。



「はい、全員ちょっといい?」



 瑠璃が全員の注目を集めると避難所での注意点を話し始めた。



「まずここの電気は冷蔵庫等優先する機材に使われるため5時で消灯になります。

 なので、水道は生きているのでトイレは問題ありませんが、夜行くなら懐中電灯を入口脇に置いておくからそれを使ってください」



 大崩壊後、最大の問題がライフラインの確保だったが、水道は内陸側から供給され、かつ地下に通っていることが多いので確保されている地域が多かった。

 またもとから日本には地下水源が豊富にあったので井戸からも水を取るようになっていた。


 ガスなどについてはプロパンガスのボンベが備蓄されているようなところでは使用されているみたいだが、いつ無くなるか分からないので、電気式のものか、かまどを作って対応しているところが増えている。


 しかし最大の問題の電気は沿岸部に大型発電施設が集中していたこともあり、沿岸部の近隣にしか供給されなくなっていた。

 ただ政府が進めていたソーラーパネルや蓄電池の推進のおかげで内陸部でも電気を使える場所が多かったが、蓄電池の容量などの問題で冷蔵庫等優先する設備に電気を回すため消灯が早くなる場所は多かった。

 避難所以外の場所では地域で集まり使用者が無くなったソーラーパネルや蓄電池を集めメガソーラーもどきを作り、無駄遣いは出来ないが以前と同じような生活をしているところもある。

 この避難所は、避難者が少ないこともありそこまでの容量の大きい蓄電池等が回ってこなかったのだろうと崇一達もわかった。



「え~。ほんとですか?」


「夜どうするの?」



 理解は出来ているが、東京にあったギルドでは電気が供給されていたので以前と同じように生活出来ていこともあり不満の声が一部から上がった。



「はい。文句を言わない。仕方ないでしょ。

 新しいギルドでは出来るだけ大きな蓄電池とソーラーパネルを用意するから。今は我慢して。

 ただ、こっちは東京より野菜とか食材の種類が多くて安いから食事面では前より充実するわよ」



 瑠璃から食事面の改善が伝えられるとさっき不満を言っていた人達も歓声を上げた。

 東京の方でも以前と比較的同じような食事が出来たが、サラダの野菜の種類が少なかったり、値段の割に量が少なかったりしていたので、特に育ちざかりの多いプレイヤー達には物足りないところがあったのだ。



「とりあえず備蓄の食糧を分けて貰えたらか、食事を作るわよ。

 料理が出来る人はあつまって」



 瑠璃の合図で主に女子が体育館の外にあるかまど等が作られている場所に向かっていった。



「私手伝ってくる」


「シュウ、ちょっと私も行ってくるから」


「ああ」



 響子が立って移動をすると、輝夜も一緒に出て行った。



「さて、守、ちょっと暇になるからこの周囲でも見てくるつもりだけど一緒にいくか?」


「わかった」



 暇になった崇一達は念のため避難所の周囲の地理と安全の確認をしておくことにした。

 周囲を探索していると、結構な人達が同じ方向に歩いたり、自転車で進んでいたので守が近寄って聞いてみた。



「あの、すいません。ちょっといいですか?」


「はい。何ですか?」


「みなさんは何処に行くんですか?」


「君たちこの辺は初めて?」


「はい、今日避難所に来たばかりで」


「そうか。俺たちは川沿いの防護壁を作ってたんだよ。あっちに大きな川があってね。

 今日はもう帰るところだよ」


「そうですか。じゃぁあっちの方は夜は近づかない方がいいんですね?」


「そうなるな」


「分かりました。ありがとうございました」



 守は返答してくれた人にお礼を言って崇一のところに戻ってきた。



「どうだった?」


「ああ、防護壁の作成の帰りらしい。あっちに大きな川があるから気をつけろってさ」


「そうか。みんなにも伝えておいた方がいいな。まぁ大体の地形は分かったから戻るか」


「だね」



 崇一達が戻ると既にみんな食事を始めていたので、輝夜たちが確保していてくれた席について食事を始めた。



「で、シュウ。どこ行ってたの?」


「ああ、ちょっとこの周りの確認だよ」


「何かあった?」


「特に。ただ、こっちは沿岸部に比べると本当に安全なんだな」


「なんで?」


「ノンプレイヤーの人たちが結構ぞろぞろ外を歩いてたから、東京と神奈川の方でも出歩く人はいたけど、あんなのんびりしてなかったからなぁ」


「へぇ、確かにプレイヤー以外の死者は沿岸部が圧倒的に多かったからね。で、その人達は何してたの?」


「ああ、後で輝夜の両親にも伝えるけど、あっちの方向に大きな川があるらしくて防護壁を作ってるって。夜は近づかない方がいいって教えてくれた」



 崇一は、行儀悪いなと思いながらも分かりやすいだろうと思って箸で方向を示した。



「そっか。気を付けるに越したことはないよね」


「ああ」



 そう言って崇一は味噌汁に口を付けた。

 輝夜が何も言わずこっちを見ている事に気付いた崇一は目で促した。



「その味噌汁どう?」


「どうって普通に味噌汁だけど?」


「そうじゃなくて、おいしい?」


「うん? いやまずくはないけど…」


「兄さん」



 輝夜と反対側に座っていた響子が崇一を肘で突いてきた。



「何するんだよ。食事中だぞ。こぼしたらどうする?」


「じゃなくて、その味噌汁輝夜ちゃんが作ったのっ」


「悪い輝夜、おいしいぞ」


「もういい。最初においしいって出ないってことは普通ってことでしょ。まぁまずいって言われなくて良かったけど」



 輝夜がむくれた顔して言ってきた。



「悪かったって。でもみんなで作ったんだろ?」


「兄さん、避難所にあったナベとか大きさが少したりなくて、一部個別に作ったりしたの。

 でこの付近の味噌汁は輝夜ちゃんが全部1人で作ったから」


「そういうことか」



 崇一は気まずくなり後は無言で食事に集中した。




 食事が終了すると、直ぐにプレイヤー達が政樹のところに集められた。



「プレイヤーの諸君には悪いんだけど、やはり夜に敵が活発になるので交代でこの付近の見回りをしてもらいたい」



 崇一を含め全員既に想定していたので反対意見は出なかった。



「といっても、ユニオンのときのように周囲の地域ごとって訳ではなく、この学校の柵の周りを回ってもらえればいいと思ってる。とりあえずグループで巡回する形になるとおもうけど、どの順で行くか話し合って決めておいてくれ。

 その他なにか気になる事があったらいつでもいいので聞きにきてくれ」


「「「「「「はい」」」」」」



 プレイヤー達が集まったがグループ分けは問題なかった。元々、プロダクションに所属していた芸能人プレイヤーも啓太達ついてきたプレイヤーも自分たちのグループがあったからだ。

 順番についても、SSランクの崇一と輝夜が夜半の敵が一番活性化する時間帯を担当することになったし、ほかの順番もすんなり決まった。



「崇一、ちょっといいか?」



 プレイヤー達が解散するとき、守が崇一に声をかけてきた。



「どうした?」


「ああ、ちょっと美香さん、啓太さんとかと話したんだけど」


「ああ」


「今まで俺と美香さんはお前とずっと一緒だったろ?」


「ああ、それが?」


「今後は基本的に啓太さんたちのグループに美香さんと一緒に入れてもらう形になったから」


「え? どうして?」


 崇一はずっと同じメンバーでやっていくつもりだったので慌てて聞き返した。


「そんな慌てるなって、基本的にはって言っただろ?

 今までと同じように時間があるときや問題がないときは、指導がてら一緒に行って貰うつもりだよ」


「だったら何で? 分ける必要ないだろ」


「いざって時、お前と輝夜ちゃんだけの方が動き易いだろ。

 だから、基本は俺と美香さんは啓太さんのところに入る。そしたら何かあったときはお前も気にしなくて済むだろ。

 ほら今までも、急に別行動するときとか『啓太さんのところに行く』とか連絡しあってただろ。

 それを無くそうってだけだよ」


「でも、俺はそんな気にした事はないぞ」


「分かってるよ。ただ、どうしても何か発生したときまず俺と美香さんの安全を確保してから動いていただろ。

 今後もどうなるか分からない。崇一と輝夜ちゃんが直ぐ動けた方がみんなが安全なんだ。

 そのため基本的に啓太さんたちと一緒だから俺たちの事は心配しなくても大丈夫って形にしたかったんだ」


「そういうことか…。分かった」



 崇一も守の説明でなんでそんな形にするのかを理解出来た。

 気にはしてなかったが、確かに2人の安全を確保してから動くようにしていたので『みんなの安全』と説明されては自分のわがままだけで否定が出来なかった。



「で、今日はどうする?」


「ああ、今日から啓太さんたちのパーティに入って見回りもしようって話になってる」


「そうか…」



 理解はしたが、友人と別行動になることに寂しさを感じていた崇一の肩を輝夜が叩いてきた。



「シュウ。別に離れるわけじゃないんだから、ただ同じ場所で別々に行動するってだけだから。

 それ以上落ち込むなら。私と一緒が嫌だと思ってるって判断するけど?」


「わかった。大丈夫だ」



 崇一は顔を上げると、輝夜と守達に片手をあげヒラヒラをアピールした。



「さて、じゃぁ輝夜。ちょっと川まで行こうか」



 意識を切り替え、今まで考えてなかった守達と別行動することで出来ることを考えた崇一は、まず川の様子を確認することにした。



「川?」


「ああ、俺たちのパトロールの番が来る前に川の様子を見ておこうかと思って。

 あとあわよくばこっちに来る前に少しでも討伐できたらいいかなって」


「了解」


「じゃぁちょっと行ってくるわ。順番までには戻るから他の人に言っておいてくれ」



 輝夜の了承を貰うと、崇一は守達に言伝を頼んですぐ出発した。





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