14. 決意
「やめんか!!」
ラウンジの入口にぱっと見堅気に見えない雰囲気を纏った初老の男が立っていた。
男はユニオンを結成したプロダクションの一つの社長、須藤重吾だった。
「さわがしいと思ったら、何をやっている!」
須藤は赤染達の怪我と崇一の刀を見て崇一に質問をした。
崇一は赤染達以外は傷つける気がなかったし、再度の中断と大人が出てきた事で少し落ち着きを取り戻し、一旦須藤の方に向き直った。
「あんたは?」
「私は、ユニオンの理事の1人だ」
「そうか」
「理事、そいつが、九条がいきなり赤染さんたちに切りかかったんです」
「そいつ赤染さん達に助けられたのに」
「そうだ、今日イグがでてそいつが特攻したのを赤染さんたちが助けたんです」
崇一と須藤が話をし始めると、直ぐに周囲が勝手に状況の説明を始めた。
須藤は自分のプロダクションの者を傷つけられている事もあり、周囲からの説明を聞いて鵜呑みにした。
「すぐにその剣をしまって、部屋に戻ってろ。追って連絡する」
「わかった…」
崇一は須藤の様子からこれ以上ここで暴れても仕方ないと思い剣をしまった。
崇一が剣をしまうのを見ると周囲もホッと息を吐き緊張を解いた。
周囲が弛緩した瞬間に崇一は風を操って4人の首に軽く斬りつけた。
「ぐっ」
「いて」
「な!? まだやる気か?」
周囲のプレイヤーも魔法を使って攻撃したことが分かり、再び緊張した。
「いや、これ以上はここではやらない。一旦納めてやる。ただし必ずやり返す。今のはその合図みたいなものだ。
お前らから仕掛けたんだ覚悟しておけ」
そういって、響子達のところに向かった。
「響子、帰るぞ」
「え、う、うん」
「ちょっとシュウ待って」
崇一が響子の手を引いてギルドを出ていくと、輝夜も慌てて後を追った。
「あいつまだ言ってやがる。状況が不利になったから逃げたんだ」
「負け犬の遠吠えだろ。なさけねぇ」
「ここで逃げるくらいなら最初からやるなってんだ」
崇一が出ていくと周囲のプレイヤー達が冷やかし始めた。
「そうだ、赤染さんたちを治さないと…
あれ? 輝夜ちゃんは?」
最初は冷やかしに参加していたが、鈴木たち取り巻き連中が慌てて輝夜を探したがすでにギルドから居なくなっていた。
「輝夜ちゃんならさっき崇一を追って出て行ったいったぞ」
「え? じゃぁ赤染さんたちの腕は?」
「落ち着け、輝夜ちゃんも混乱してるんだよ。
とりあえず出血等は無くなってるんだ。死ぬことはない。
輝夜ちゃんも落ち着けば明日にでも治してくれるさ」
「…そんなぁ」
輝夜が不在で慌てて探し始めた取り巻きをみて啓太は一旦落ち着くように声をかけた。
「お前たちも部屋に戻って休んでろ。
加藤くん、至急理事を呼び出してくれ」
「わかりました」
崇一達が居なくなったあと須藤は、赤染達にも部屋に戻るように伝え、カウンターに居た加藤に理事招集の指示を出した。
「ところでさっきの少年は?」
「九条君ですね。
九条崇一、Aランクで1ケ月ほど前に登録をしたプレイヤーです」
「Aランクか、分かった、その九条はギルドの登録を取り消しだ。明日中には出ていくように伝えてくれ」
「…わかりました」
状況を見るため残っていた守と美香は理事の言葉を聞いて慌てて啓太たちのところに向かった。
「啓太さん、どうしましょう?」
「どうしようと言われてもな、理事の決定だし覆すのは難しいぞ。特にあの須藤さんは頑固だしな」
「そんな…。じゃあ崇一君はここには居られないですか?」
「除名になったんだからそうなるだろうな」
美香が啓太に相談しているところに守が落ち着いた声で割り込んできた。
「美香さん、自分がどうするかだけは決めておいた方がいいよ。
俺は両親には悪いけど崇一と一緒に出ていくつもりだけど。
あと、啓太さんたちもある程度決めておいた方がいいですよ。崇一のやつ相当切れてたので、除名になった程度であいつらへやり返すことを止めるとは思えないので」
「でも、下手するとギルドごと相手にする羽目になるぞ」
「さっきの様子からすると輝夜ちゃんも崇一側に着く可能性がありますけどね」
「げっ、ってことはSSを2人それも片方は回復魔法持ちとやり合う形になるのかぁ…最悪だな…。
わかった、俺も啓次や詩織と話しておく」
啓太が啓次たちと話し合うためその場を離れると、考え込んでいた美香が守を見ていた。
「分かった。守君、私も崇一君と一緒に行く」
「そう。じゃぁ荷物の準備だけはしておいた方がいいよ」
「うん」
守達がラウンジの片隅で話し合っていたときも、取り消し処分を聞いたプレイヤー達は当然だと話し合っていたが、当事者たちが居なくなったこともあり、次第にラウンジから出て行った。
崇一達がマンションの部屋に戻ると、輝夜が崇一の横に座り心配げに見つめてきた。
「シュウ大丈夫?」
「ああ、もう落ち着いたから」
「うん。で何があったか詳しく教えて」
輝夜が質問すると、響子も一緒に頷いていた。
「といっても、さっき言った通りだよ。
イグの出現場所に一緒に行くことになって、俺だけが初顔合わせだから先頭にたって戦い方を見てもらうって話になったんだ。それで出発しようとしたら後ろから両手を切り落とされ、膝を砕かれた。
何とか魔法を使おうとしたところで、響子を襲う手はずがあるから下手に動くなって。流石に見えないところにいる響子を守って戦うなんて出来ないから反撃できなかった。そのあとは目を潰されたり刺されたりして最後に雷を食らったところまでは覚えてる。そのあとは気が付いたら救護室にいた」
「わかった。しばらくは念のため私が響子ちゃんと一緒にいるからシュウは安心して。でも何でシュウを襲ったんだろ?」
「あ~、なんだ、輝夜のそばにいるなって言ってたな…」
「そんな理由で? ゆるせない!」
「ですね。ふざけてます」
崇一に非がない事で責められた判明し、輝夜と響子も怒りをあらわにした。
「ああ、やられた分はきっちり返すつもりだ…。
……
考えたら輝夜には辛いよなギルドが出来たときからの仲間だろ。無理して響子の傍にいなくてもいいぞ。あいつ等だけが相手なら不意さえ突かれなければ何とかなるから。ただ、出来れば邪魔だけはしないで欲しいな…」
「シュウは気にしなくていいよ。あんな奴らは仲間じゃないから。大体そういう事ならシュウの方が断然付き合いがながいじゃない」
「そっか…。ありがとう」
「うん。何ならあいつらにやり返すの私も手伝おうか?」
「いや輝夜は念のため響子と居てくれ、何があるか分からないから」
「…分かった」
輝夜も崇一を襲った奴らにやり返したかったが、崇一の言い分もわかりしぶしぶ納得した。
ピンポーン
その時玄関のチャイムが鳴った。
崇一は誰が来たのかのぞき穴から確認したところ、加藤が立っていた。
なぜ加藤が来たのか分からなかったが、特に問題ないと思い玄関を開けた。
「加藤さんどうしました?」
「はい。申し訳ないんですがギルドから通知がありまして…」
「通知?」
「はい。本日をもって九条さんを除名すると、そのため明日中にはギルドもこのマンションも出ていくようにと…」
「そうですか。わかりました」
「加藤さん、それって理事会からの通知ですか?」
後ろで聞いていた輝夜が慌てて加藤に問いただした。
「はい、須藤理事が決定しました」
「母は知ってるの?」
「月城理事にはこれから理事会に参加されるのでそこで知らされるかと」
「理事会への参加は何時伝えたの?」
「今さっきです。同じマンションなので…」
現状携帯を筆頭に電話は軍事や一部政府と地方行政間のみに使われており民間では使用できなくなっていた。
そのため理事会などのような招集があるときは、直接伝えられる形になっていた。
「わかった。シュウ、ごめんちょっと母のところに行ってくる」
「ああ、気にするな」
輝夜は直ぐに両親が住む部屋に向かった。
普段はギルド上のワンルームに住んでいたので、こちらには来てなかったが引っ越しのときに行ったので部屋は分かっている。
「ママ、ちょっといい?」
輝夜が部屋に着くと、ちょうど理事会に向かおうと自身のプロダクション社長でもある元モデルの松永瑠璃、本名月城瑠璃が出てきたところだった。瑠璃は北欧系のハーフで、輝夜の目の色などは母親側の遺伝の影響であった。
「なに? 今から理事会があるから急いでるんだけど」
「その理事会に関係することなの。ちょっと部屋に戻って」
「分かった」
娘が真剣な表情だったので、瑠璃も部屋に戻った。
部屋の中では父親の月城政樹がコーヒーを飲んでいた。
「あれ、瑠璃理事会にいったんじゃ?」
「ええ、輝夜が理事会の事で話したい事があるって」
「そうか」
輝夜は2人がソファに座ると、今日合ったことを話して先ほど崇一が除名処分になったことを伝えた。
「それで、輝夜はどうしたいの?」
瑠璃は輝夜が今回の件でどうしたいのかを聞いた。
「まずシュウが辞めるなら、私も辞める。
そのあとどうなるか分からないけど、シュウと一緒に行くから」
「ふ~ん。その崇一って子確か一ヶ月前に入ったAランクの子よね? どういう知り合い?」
「シュウについては以前言った事あったでしょ、ゲームの仲間で一緒に戦ってるって」
「ああ、あのシュウくんなのね。 じゃぁ何? やっと好きな人に直接会えたのね。よかったわね。
近くにいるアイドルの男の子なんて気にせず、直接会ったことない文通相手を好きになるような事してて、それも本人に会うんだといってもなかなか行動に移してなかったから心配してたのよ」
「今はそれは置いておいて」
瑠璃が急に喜んで話がそれたので、輝夜は顔を赤くしながらも話題を戻した。
「だから、シュウが辞めるなら私も辞めるからって事を伝えに来たの。
それとシュウは私と同じSSランクだから」
「へ? ってことは何、須藤さんこのご時世でSSランクを除名したの」
「えっと、シュウはさっきママが言った通りAランクとして登録はしてたから…」
「ああ、隠してたのね。まぁそれはいいんだけど、するとうちはSSランクが2名もいなくなるの?」
「そうなる。あと問題が一つあってシュウは赤染達に完全にやり返す気だからギルドにいると危ないかもしれない。
だからパパとママにも少しの間ギルドから離れていてもらいたいんだけど…」
輝夜が言いにくそうに避難をお願いすると、瑠璃は政樹の方を見た。
「あなた。どうしよう?」
「どうしようも元々ギルドの立ち上げに参加したのは輝夜を守ためだったのに、その輝夜が抜けるんじゃ意味がない。
ましてやSSランクと事を構えるんだろう? いっそのことギルドを抜けるってのも考えた方がいいだろうな」
「そうよね…。
ところで輝夜ちゃん。もし除名処分が取り消しになっても崇一君はギルドに残ってくれそう?」
「分からない。ただ現状シュウが助けた人を攻撃したことになっててみんなが責めてるから、厳しいと思ってるけど。
一応その辺はシュウに確認してみる」
「そうね。出来れば直ぐに確認してきてもらえる?
それによって輝夜ちゃんの行動も変わるんでしょ?」
「うん。分かった」
輝夜は返事をすると直ぐに部屋を出て行った。
「さて、あなた状況を聞いてる限りやっぱりギルドをうちのプロダクションごと抜けた方がいいかしら?」
「そうだな。輝夜が抜けるなら私たちも抜けるしかないだろう。秀樹が亡くなって、輝夜まで失う訳にはいかない。それにSSランクが2名いる方についた方が他の子たちも安全だろ」
「一応輝夜ちゃんに崇一君をあきらめさせるってのも手の一つだとは思うけど?」
「無理だろ。 輝夜はこうと決めたら引かないからなぁ」
政樹は苦笑いで返答しながら、大崩壊以前の食卓でよく輝夜がゲームで一緒に活動しているシュウの話を嬉しそうに話していたことを思い出した。
小学校のころから好きな相手をあきらめろといっても、急に感情が変わるとは思えなかった。
「わかったわ。じゃぁ多少遅れても理事会に行く前にプロダクションの脱会の手続きとうちのタレントに連絡を入れるわ」
「そうしてくれ。私も準備をする」
しばらくして輝夜が戻ってきた。
「除名処分が解除されてもやっぱり出ていくって」
「そうか」
「わかったわ。じゃぁプロダクションごと抜けるから輝夜もそのつもりでいて。
まぁ、所属の子には選択してもらうから全員一緒とはいかないかもしれないけど」
「え? プロダクションごと抜けるの? 大丈夫?」
「あなたはそんなことは心配しないでいいから、準備を始めなさい」
「うん」
輝夜は出る準備を、瑠璃は脱会手続きと理事会に向けて動き出した。
ギルドの建物に来た瑠璃はカウンターに行き、脱会に必要な書類を準備してまずプロダクションのメンバーをラウンジに呼び出した。
プロダクションメンバーとの話し合いは10分も取れなかったが、全員ついて来てくれる事になったので、気になっていたことが一つ解決した安堵の表情で会議室へ向かった。
「ごめんなさい。急な呼び出しだったので時間がかかってしまいました」
瑠璃が会議室にはいると、すでに瑠璃以外の7人の理事=各プロダクションの社長が既にあつまっていた。
その中でも最大手のプロダクションの社長である須藤が返事をしてきた。
「いや、こちらこそ急な呼び出しで申し訳ない。ただ他のメンツも来たのはつい5分程まえだ気にしないでいい」
「ありがとうございます」
「さて、今日集まってもらったのは、ギルド内で私闘があってな、その1人を除名処分にしたことの許可を頂きたい」
須藤が会議を始めると、別の初老の女が手を挙げた。
「その私闘の内容をと処分理由を教えてもらっても?」
「ああ、私闘はうちの所属の赤染たちと加藤さんのところの園田くんに1人の少年が斬りかかったことだ。
現場で話を聞くと、またイグが出たらしいのだがその時Aランクの問題の少年が特攻したらい。それを赤染達が助けたのだが、目が覚めた少年が赤染達に斬りかかってきたという事だった。
血気盛んな若者の事だ、何か言い争い等があり赤染達が悪い可能性も捨てきれないが、ギルドとしては今回の件に処分をしなければ示しがつかないうえ、SランクとAランクでは、今後の事を考えAランクを切り捨てるしかあるまい」
「そういうことですか…」
「ああ、で簡単ではあるが他に質問は? なければ許可をだす理事は手を上げてほしい」
須藤がさっさと話をすすめているが、色々忙しいのはお互い様なので他の理事は何も言わなかった。
理事たちも自分たちの身を守るため、より強いプレイヤーは手元に置いておきたかったで、瑠璃以外は何も言わず手を挙げた。
「松永さんだけがあげてないが、7名の了承を得たので除名処分とする。
一応、理由を聞いてもいいかな?」
瑠璃は理事全員がこちらを意識していることを確認し、一呼吸おいてから発言した。
「うちのプロダクションはこのギルドを抜けます。
先ほどすべての社員に残留の意思を確認してきましたが、全員辞める形になりました。
社員分の退会書類はこちらになります。受理をお願いします」
「急な話ですな。『プロダクションは』と言ってましたが、プレイヤーだけでなく職員として働いていた関係者も辞めるとの事でいいですか?」
「はい、うちのプロダクション所属のものはすべて辞めます」
「ちょっと待ってくれ、すべてということは輝夜も辞めるのか?」
静観していた別の理事がいきなり立ち上がった。
「はい。当然輝夜は私の娘ですから、このようなご時世ですやはり家族は一緒に居たいので」
「そんなの許可出来る訳ないだろ」
「別に許可頂けないなら、明日に全員勝手に出ていくだけですが?」
「ふざけるな! プロダクションが抜けるというなら輝夜だけは置いていけ」
「本人が許可すればいいですよ」
「本当だな? では明日にでも本人にこちらで確認するからな」
「どうぞご自由に、ただ…」
「ただ何だ? 輝夜が残るっていったらプロダクションごと残るのか?」
「いいえ。辞めるのは決まっているですけど、もともとプロダクションが辞める事になった理由が、輝夜がここを辞めると言い出したからで、親の私の説得も聞かないで決めたことなので、他人が言っても聞かないだろうなと。
ようするにうちの娘が辞めるので、私たちが輝夜についていく形なんですよ。
とりあえず、そちらの許可があるなしに関わらず明日には出ていきますので、幸い引き継ぎが必要な仕事はないので会議への参加もこれで終了させて頂きます」
輝夜が辞めると言い出したときき、絶句していたメンバーを見ながら、瑠璃は席を立ち扉に向かった。
「ちょっと待て、辞めるのは分かった。
どうせ今更止めても聞かないだろう。ただ、理由を聞かせてくれ」
須藤が慌てて瑠璃を止めた。
「確かに理由ぐらい説明するべきですね。分かりました」
瑠璃は苦笑いを受べて答えた。
「簡単にいうとこのギルドに残るのが怖いんですよ」
「怖い? 何を言ってるんだ?」
須藤は訳が分からず困惑した。他の理事たちも同様に困惑した顔をしており状況を把握できていない事が分かった。
「何って怖いって言ったんですよ。
これは私の娘から聞いた情報なんですが、本日赤染君達数人が九条君をAランク以上しか入れない場所に共闘を持ちかけて討伐に行きました」
「そこでその九条って子が無謀にもイグに特攻したんだろう。さっき須藤さんが言ってたじゃないか」
先ほど輝夜を置いていけと言った理事が嘲笑を浮かべて言った。
「はい。そこからが情報が違うんですよ。
九条君はうちの輝夜とゲーム時代に同じギルドに所属して一緒に活動していたそうです。
まぁ、死んだ息子も同じギルドに居たので、九条君の話はよく食事の場とかでも出てました。
私が把握している九条君は輝夜と同じSSランクなんですよね。
だからイグ程度なら輝夜と同じく1人で特攻したところで倒してしまうはずなんですよ」
「え、SS…」
「他の人と勘違いしてるんじゃないのか?」
理事たちはざわめきだしたなかで、情報を確認しようと理事の中で一番の若手の人が質問をしてきた。
「娘に確認したところ、ゲーム中で話した内容も一致するし、オリジナルの武器も違わなかったと。
さらに、何度か一緒に討伐してゲームで実施していた連携がとれたので間違いはないかと」
「そうですか…」
「他に何かありますか?」
「いや」
「そうですか、では続けます。
SSランクの彼がイグにやられるのはおかしいので、状況を本人に聞いたところ、どうやら輝夜に近づくなと赤染君達に暴行をうけたらしいですね」
「須藤さん、話が違うぞ、どういうことだ?」
「私も知らん。ラウンジに集まっていたプレイヤーから話を聞いただけだ」
瑠璃からの情報を聞き、理事たちが須藤に問い詰めた。
瑠璃の情報が正しいなら、ギルド内で私刑が発生、それも看板の芸能人プレイヤーが一般プレイヤーに攻撃した事になるだけでなく、SSランクのプレイヤーを除名にしたことになる。
ここにいる理事の半分以上が、暴走したプレイヤーからの芸能人の保護という名目で自分を守るためプレイヤーを集めた者たちなので、当然ギルドの戦力が落ちることを避け、さらに戦力が集まるように芸能人プレイヤーを表に出してプレイヤーを集めていたのだから当然の反応だった。
「待ってくれ、第一に松永理事が言った情報が正しいとは分からんだろ!」
青ざめた須藤が問い詰められている状況を瑠璃に向けようと大声をだした。
それでも何人かは須藤に詰め寄っていたが、瑠璃の方にも理事たちが集まってきた。
「松永さん、さっきの話は間違いないのかね?」
「どうなんだ?」
「どうと言われても、私は娘を信じているのでそちら側の情報が正しいと判断しただけですが?」
「何か証拠とかはないのか?」
「ないみたいですね。あったら既にそれを出してるはずですし」
「じゃぁ分からないじゃないか」
「ですから、私は娘の情報を信じただけです。証拠等探す必要があるならそちらでやってください」
一旦集まった理事から一歩距離をあけて話を続けた。
「とりあえずこちらに入っている情報は先ほど言った通りです。
この状況で昔からの友人を傷つけられた娘が怒って、除名になった九条君と一緒に出ていくと言ってきたのでプロダクションごと辞める形にしました。
で、私が最初に言った怖いとはもうお気づきかもしれませんが、赤染君達はSSランク2人を敵に回してしまっているということです」
「須藤さんどうするんだ?」
「そうだ、九条君の除名処分を取り消して、逆に赤染達を除名すれば」
「そうだ。そうするべきだ」
「結論を急ぐべきじゃない、さっき須藤さんが言ったとおり松永さんの情報が正しいと決まった訳じゃない」
「じゃぁ、一旦除名を保留にして調査をすればいいじゃないか」
除名、除名取り消し、保留など理事たちの意見も最初とは違い分かれて言い争いが発生した。
騒いでいる理事たち眺め、瑠璃は溜息をついた。
「はぁ…」
そんな大きくした訳でないが、なぜか全員がこちらを見ていた。
「申し訳ありませんが、もうどうしようもないと思いますよ」
「なぜだ? まだ除名だって決定したわけじゃない」
「それなんですが、須藤理事の指示で既に除名が九条君に伝えられてますよね」
「な、本当か須藤さん」
「あ、いや、そんな指示は…」
言い訳をしようとした須藤を瑠璃は止めた。
「須藤さん、既にカウンターの人間が指示を受け、九条君に伝えたそうですよ」
「ぐっ」
「娘からの情報ですが、九条君は除名処分を受け入れ準備を開始しています。また念のため取り消しになったら残るかと確認しましたが、残らないそうです。
なので、九条君が出ていくので娘が辞めるのも決まっていてるので私たちも脱会することにしたんです。
これでこちらが持っている情報はすべてです。それでは失礼します」
瑠璃が退室をしたあと、会議室内で怒鳴り合いが始まった。
「須藤さん勝手に動いてこの責任をどうとるつもりだ」
「SSランクのプレイヤーを除名しただけじゃなく、輝夜まで出ていくことになったんだぞ」
「…」
瑠璃は早足でマンションに戻っていた。
会議室から離れるにつて声が聞こえなくなったが、まだ荒れている気配が漂っていた。




