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12. 罠

 1週間ほどたち、輝夜が崇一達と一緒にいるのは当たり前になっていた。

 言っていたとおり、あの日以降輝夜は仕事も討伐も崇一達と組んで実施しており、何度か啓太にからかわれたりもしたが、ギルドの仲間はたまに輝夜に一緒に組まないと声をかけるだけで特に問題もなかった。


 また、輝夜が一緒に行動するようになったほかに、啓太や芳樹達中学生男子グループや真理達女子グループとも何度か討伐をするようになっていた。

 特に、芳樹や真理達はB、Cランクで守達と同じなので一緒に戦い方の指導なども行っていた。



 その日もラウンジで討伐に出る前に崇一達は集まっていた。


「おはよう。シュウ」


 輝夜は挨拶と同時に肩を組んできた。


「な、輝夜離れろ!」


「まぁまぁ、今更でしょ。こんなのしょっちゅうやってたんだから」



 輝夜は会話は問題なくなったが、接触すると崇一が赤くなり慌てるのでここ数日わざと接触をしたりして崇一をからかっていた。

 崇一は、確かにゲーム中ではヤーグと肩を組んだりなんてザラだったけど、現実で輝夜に接触されるのは違うだろと言いたかったが、にこにこしている輝夜を見ると言えなくなった。

 そこに赤染と園田がやってきた。


「輝夜ちゃん、ちょっといいかな」


「なんですか?」


 輝夜は崇一から離れ2人に向き直った。


「ギルドからの依頼で、確認してきてほしいところがあるって」


「ああ、調査ですね」


 以前から、輝夜にはギルドから強い敵が出たと噂される地域や、初めて向かう場所などの調査をギルドから依頼されていた。

 今まではギルドの上位メンバー、SSの輝夜、Sの赤染と園田、崇一達が初めて会った際に居たAランクの弓使いの鈴木陽奈子と啓太と啓次で実施されていた。最初は輝夜がリーダとなり、メンバを選抜していたが、上位メンバーが変わる事がないので、最近ではギルドからの依頼があると選抜なしであつまるのが多くなっていた。


「ああ、それで出来れば今日中には初めて欲しいって事なんだけど」


「わかりました。ではその件は私が預かります」


「預かるって? いつものメンバーじゃないの?」


「はい。今日はメンバーを変えようと思ってるので」


「俺たちはいいの?」


 赤染は、いつもどおりSランクの自分と園田も行くものだと思っていたので驚いた。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます」


「最近パーティに入ったみたいだけど、もしかしてその連中といくの?」


「はい。ゲームのときの事もあり連携が取りやすいので」


「でもランクが低いよ。それにギルドからの依頼だし俺たちも行かないと」


「大丈夫ですよ。連携がきちんと取れる方が私が動きやすいので、それとギルドからの依頼は私に選抜は任されてるので」


「そう。じゃぁ気を付けて」


 赤染たちが去ると、輝夜は崇一達に声をかけた。


「ってことで、ちょっとギルドからの依頼が出来たので今日はそっちでいい?

 それと、今日は私とシュウだけで行きたいんだけどいいかな?

 聞いてたと思うけど、ギルドの依頼は今まで行ったことないところか、強い敵が出る可能性がある場所だから連携が取れる人と行きたいんだけど?」


「俺たちはいいよ」


「うん」


 輝夜が崇一と2人で行きたいという要望に、2人がSSで何かあったとき自分たちが足でまといになりかねないと知っている守と美香は了承してくれた。


「じゃぁ、シュウ行こう。カウンターで情報をもらって直ぐに出るから」


「分かった」


「崇一、輝夜ちゃん気を付けて」


「私たちは啓太さんのパーティにでも入れてもらって討伐にいくから、心配しないで」


「分かった。そっちも気を付けて」


 崇一と輝夜は直ぐにカウンターに向かい、調査に出発した。



 崇一達が出て行ったあとのラウンジで、赤染がアイドルユニットの仲間である工藤に声をかけた。


「なあ、今輝夜と出て行ったあいつって誰だ?」


「あれ? 渉の方が知ってるんじゃないのか?」


「は?」


「いや、確か以前輝夜ちゃん、啓太、啓次たちとパトロールしたときに保護した奴だろ」


「ああ、あの時の、で?」


「で? て何?」


「何で輝夜はあいつと行動してるんだ? 確かAランクだろ?」


「お前知らなかったのか? 1週間ほどまえから輝夜ちゃんはあいつのパーティに入ってるぞ?」


「パーティに入ったのは聞いてる。だけどあいつと2人で行くなんてどうしてだ?」


「えっと確か、噂では輝夜ちゃんがゲーム中に所属していたギルドの同じ前衛職のやつで、ゲームでも連携して活動してたらしい。だから、あいつとだと連携が取りやすいって聞いてるけど」


「だからって危険かもしれないところに弱い奴と行くか? そもそも輝夜のあいつかもってのは勘違いじゃなかったのか?」


「さぁ詳しくは何があったか知らないけど、どうやら探してた人って後で分かったみたいだし、まぁ誰と行くかは輝夜ちゃんの自由だしな」


「気に食わないな」


「落ち着けって、ここで話してても仕方ないし、朝飯でも食べにいこうぜ」


 いらつく赤染をなだめ、工藤達は朝食を食べにいった。




 調査に向かった崇一と輝夜は、近場まで車で送ってもらった後、2人とも風を操り飛行していた。


「やっぱり、風の操作はシュウには劣るなぁ」


「俺は主属性だからな」


 複数の属性を持つ場合、順位があり威力・操作性が変わってくるゲーム中ではランクにより最大無属性を含め4つまで属性を持つことが出来た。基本属性となる無属性、そのほかに第一~第三まで順位があり、同じランクで同じ属性を使った場合に差が出てくる。

 戦い方や属性の使い方など様々な要因があり一概には決定できないが、例えばSSランク同士で、第一に水属性を持つものと 第三に水属性を持つものが、同じ魔法を同じエネルギー量で使った場合、第一に水属性を持つもの方が威力が強い形になる。

 だから新たな神を取り込むときも敵の神がどの属性を主につかっているか調査して、自分が使い慣れている属性と同じ神を討伐吸収することが多かった。

 崇一はゲーム開始当初からずっと風属性をメインに持っている敵だけを狙っていたので現在は第一が風、第二が雷、第三が水で、輝夜は第一が火、第二が生、第三が風となっている。

 敵の属性を気にせず討伐して属性を変化させる者もいたが、崇一や輝夜のように主にしている属性を主属性と言っていた。


「ちょっと近づくよ」


「ああ、どうした?」


「っと」


 輝夜は崇一に近づくと、背後から抱き着き、崇一の首に手を回した。


「うわ、離れろ。なんでくっついてくる?」


「じゃぁ、このまま進んで」


「人の話を聞け」


「この方が速いし、安定するから、ね?」


「はぁ…わかった」


 輝夜が離す気がないのが分かったので、そのまま飛行し目的に向かった。

 崇一はここ数日本当にゲームの中のように気楽に接してくる輝夜の行動から、俺の事を異性だと認識してないんじゃないかと疑い始めたが、考え続けても悲しくなるので意識を切り替えた。


「で? 今回の調査って何を調べればいいんだ?」


「えっと大崩壊後、うちのギルドが初めて向かう場所なんだけど、他のギルドにも特に情報がなかったらしくて、一応ざっと見て回って問題がないか確認する形かな」


「ざっとってどの程度?」


「う~ん。貰った地図の範囲に大物がいないか見て回る感じ。だからこのまま飛んでざっと見れば完了!」


「そんなんでいいのか?」


「大丈夫。以前は徒歩で回ってたから時間がかかったけど、私とシュウだけなら直ぐ終わるって。

 そういうわけで、この範囲をちょっと飛び回ってみて」


 輝夜はポーチから地図をだし、後ろから崇一が見えるように地図を広げた。


「了解」





 しばらく輝夜を背負ったまま飛行を続けていたが、崇一は輝夜が気になり最低限の返答だけで、主に輝夜が話しかけていた。



「そういえばさぁ、大崩壊の日の事覚えてる?」


「ああ」


「あの日、シュウが私の胸を触ってみたいって言ってたけど、触ってみる?」


「なっ」



 崇一は背後に居る輝夜が笑みを浮かべている事には気づかず、突然変な事を言い出したので真っ赤に飛行制御に失敗した。


 当然ながら急にガクッと落ちて地面に向かって墜落を始めた。



「わ、わ、ちょっとシュウ落ち着いて、冗談! 冗談だって」



 輝夜は慌てて崇一の肩をバシバシ叩き、正気に戻らせつつ慌てて自分も風の制御を開始した。


 幸い地面2mほどのところで制御をとりもどし墜落することは避けられた。



「ちょっと下りるぞ」



 崇一はそう言うと直ぐに地面に下りた。



「はぁ~、焦った~。ちょっとシュウしっかりしてよ」


「あのなぁ、お前が変な事を急に言うからだろうが!」


「変な事って、以前シュウが自分で言ってたことだけど?」


「分かってるから、これ以上言うな、掘り返すな、思い出すな。まさか本人にそんな話をしてるなんて思ってなかったんだから…」



 崇一はそのほかにヤーグと会話した内容を思い出しつつ、地面に座り頭を抱えた。


 輝夜は崇一の横に座りのんびりと足を伸ばした。



「まぁまぁ、シュウは知らなかったんだから気にしなければいいじゃん」


「そう言ったって、お前には男の繊細な心は分からんだろ」


「ゲーム中ではある程度話は合わせてから表面的には分かるけど、こればっかりは本質的には分からないね。

 まぁ今までの付き合いもあるからシュウがどんなこと言ったって大丈夫。それこそ今更でしょ」


「……」



 崇一が無言でいると、輝夜は笑って続けた。



「そうだ、その時裏切りものって言われたけど、もう分かってるだろうけど自分のを触っただけだからシュウは悔しがらなくて大丈夫だよ」


「まだ続ける気か?」


「ごめん、ごめん。もう言わないから。

 さて、ここで座ってても仕方ないし、調査を続けようか」



 崇一が半目でにらんできたので、輝夜はやりすぎたかと思い、直ぐに立ち上がって歩き出した。



「シュウ、ほら立って歩く、じゃないとおいてくよ」


「はぁ」



 崇一は溜息をついて輝夜のあとをついて行った。






 その後も主に飛行しながら調査をしたが大物もいなく、暇つぶしにD、Cランクの敵を10体ほど討伐しながら見回った。

 前回までは何回かに分けて調査し数日かかっていたのが、5時間ほどで終了した。


「やっぱりシュウと2人だと早く終わるね」


「これで早く終わったのか? 前まではどのくらいかかってたんだ?」


「このぐらいの広さなら3~5日ぐらいかけて、何回か来て見て回ってたかな」


「そんなにかかってたのか」


「仕方ないよ、全員で歩き回るしかなかったんだから」


「そうか」


「それにしてもシュウと二人っきりってのは初めてだね」


「あ、そうなるか」


「うん。私は楽しかったけどシュウは?」


「輝夜相手の会話だと気を遣わなくていいからな、ただ接触してくるのと昔を掘り返すのをやめてくれ」


「そこは、楽しかったよってリップサービスぐらいあってもいいんじゃない?」


「そんな対応を望んでいるわけじゃないだろ?」


「まぁ、そうだけど…。

 でも、今後もたまにでいいからこう2人だけで行動できるといいよね」


「うん。まぁそうだな」


 崇一は自分も楽しかったが出来るだけ表に出さないようにしながら無難な回答をしておいた。

 ギルドに戻り輝夜が問題ないことを報告し、終了となったが、いつもより早い調査結果に本当に問題がなかったか再確認され、風属性持ち2名だけだったので飛んでみて回ったと言ったら呆れた顔をされたが、納得はしてもらえた。








 ある日の夜の男子フロアの広間で赤染、工藤、大野、水沢のユニットのメンバーと園田の芸能人組と赤染達とよく一緒に行動する鈴木、大内が集まっていた。

 軽く飲んでいるようでビールの空き缶が何本か転がっていた。

 談笑の合間、大野がふとつぶやいた。


「なぁ、最近輝夜ちゃんと組むことが無くなったな」


「ああ、確かに。パーティに入ってからまったくだな。渉、卓巳お前たちSランクも最近組んでないんだろ?」


 工藤が赤染と園田に質問した。


「ああ」


「全くない。ったく、もう少し距離を縮めたら大丈夫って思った矢先に横から変な奴がきやがった…」


 園田は特に気にしていないらしく素のまま、赤染はいらだちで顔を少しゆがめながら回答をした。

 そんな赤染の様子を見て、鈴木が声を潜めながら提案をしてきた。


「赤染さん、相手ってAランクなんですよね。一度自分の立場ってのを分からせてやった方がいいじゃないですか?」


「確かにな。でも出来るならすでにやってるよ。

 最近輝夜が一緒だから、下手に手を出すと逆に返り討ちにあうからな」


 ソファの端でビールを飲んでいた大内が赤染に近づいた。


「赤染さん、だったらちょうどいい方法がありますよ」


「なんだ?」


「明後日なんですけど、輝夜ちゃんは詩織さん達数人の女子で、女子指名の依頼に行くらしいんですよ」


「それで」


「ですから、その日にあいつを討伐に誘うですよ。

 あのパーティは、以前啓太さんに言われたらしく他のパーティから誘いがあると基本断らないで1度は一緒に活動をしているみたいなんですよ。

 そこで、Aランク以上の立ち入りが禁止になったイグ出現地域に誘えばいいじゃないですか? そうすればあいつ1人だけになりますよ」


「でも何て言って誘う?」


 赤染と同じユニットで最年少の水沢が口を挟んできた。


「俺は行けないけど、SランクとAランクだとギルドの依頼で手を組む仕事があるから、ためしに一緒に行こうとでもいえばいいんじゃない? それにあそこは討伐する人が少なくなったから定期的行かないと大変だとか言って」


「確かにギルドの依頼である可能性はあるな。

 よし、ちょっとお前たちは輝夜が明後日詩織たちと出るか、あと九条達に明後日の予定がないか調べてくれ」


「「了解」」


「頼む。まぁあいつを排除して輝夜が手に入ったらお前たちにもいい思いをさせてやるから」


「へへ、よろしくお願いします」


「頼むぜ、渉」




 2日後、崇一達はラウンジにいた。


「ほら、さっさと行って来い。詩織さんたちが待ってるだろ」


 崇一は輝夜の背中を軽く叩き送り出した。


「うん。じゃぁ行ってくる。シュウ無茶だけはしないようにね」


「お互い様だ」


 輝夜は崇一に注意だけして直ぐに詩織たちのところに向かった。

 輝夜が入口を出たのを見送った崇一は、椅子に座り守達と向き合った。


「さて、じゃぁ今日は3人だけどどうする?

 ここの所千葉よりの町を探索することが多かったから、逆方向にでも行ってみるか?」


「そうだね。それもいいけど、昨日も行った町のもっと海よりの方を探索しない?」


「守がいいなら俺はどこでも大丈夫だぞ。美香さんは?」


「私はどこでもいいから。でも千葉の海側を回ってみたいかなぁ。特に行ったことが無いから」


「そうか。じゃあ今日はその方向で行こうか」


 崇一が立ち上がろうとしたところで、赤染が声をかけてきた。


「九条くん。ちょっといいかな?」


「はい。なんですか?」


「うん。ちょっと一緒に討伐に行って貰えないかなって思ってね」


「いいですけど、いつですか?」


「出来れば今日がいいんだけど」


「でも、今日はもう予定が…」


「ああ、こっちの都合で悪いんだけどギルドの仕事以外にもテレビ関係の仕事もあってなかなか空かないんだ。

 で、九条くんってAランクだったよね?」


「はい。それが何ですか?」


「ああ、啓太から聞いてるかもしれないけどギルドからの依頼がある場合があるんだ。

 その時、Sランクの僕たちと一緒になる可能性がある。そこで、一度一緒に討伐をやってもらって、どんな戦い方をするのか見させてもらえればと思ったんだけど、さっき言った通り空いている日が限られてね」


「えっと、崇一俺たちはいつでも大丈夫だから、今日は赤染さんと一緒でいいぞ?」


「うん。赤染さん、私たちは気にしないで下さい」


 赤染の話を聞いて、守と美香は自分たちの予定をキャンセルしてきた。


「えっと2人がこう言ってくれてるけど。九条君はいいかな?」


「はぁ、2人がいいなら…。

 じゃぁ、2人も行こう」


 崇一が2人に声をかけると赤染が止めてきた。


「あ、ごめん。崇一君今日はイグの出現地域に行く予定なんだ。

 だからAランクじゃない彼らは行けないんだ」


「だったら、別の場所でもいいんじゃ」


「うん。何もなければね。

 ただ、Aランク以上の侵入が禁止されてからイグの出現地域に討伐に行くパーティがいなくてね。

 そろそろ討伐をしておいて欲しいって、さっきカウンターで言われたんで、九条君はAランクだしこっちのメンバーもSとAだけだからちょうどいいかと」


「そういうことですか」


「ああ、そう言う訳だから吉岡君、佐伯さん、九条君を借りて行っていいかな?」


「どうぞ」


「いいですよ」


「ありがとう。じゃぁ九条君行こうか?」


「はい。おい、守今日はあまり海に近づくなよ」


「わかってるよ」


 崇一は守に注意を促してから、赤染達についていった。



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