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11. 改めての自己紹介

 翌日、崇一がラウンジに来るといつものように出発前にくつろいでいるプレイヤーが複数いた。

 部屋の隅の席に守と美香を見つけた。いつもは上の階から降りてくるだけの美香が最後に来るのだが、なぜか今日はすでに席にすわり守と話していた。

 崇一は何人かのプレイヤーに挨拶をしながら、2人の方に歩いていき対面にある手前の椅子にそのまま座った。


「おはよう。2人とも。

 佐伯さん。何かあった? 今日はやけに早いけど?」


「うん。ちょっと昨日の女子会であったことを吉岡君にも報告しておこうと思って」


「へぇ、何があったの?」


「うん。九条君には教えられないんだ」


「え? おい守お前はもう聞いたのか?」


「ああ、聞いたよ。まぁ、お前に関係することだから直ぐにわかるよ」


「へ? 俺の話が女子会で出てたの?」


「うん」


「なんで? 怖いとか、キモいとか、暗いとか?」



 高校に行ってた女子から言われた言葉を思い出し、またあんな目で見られるのかと崇一は一瞬焦った。


「ああ、そんなんじゃないから安心して。ちょっと九条君がいたギルド、臥龍鳳雛?だっけ。

 それの話がでてね。その時にどんなプレイヤーだったとかだけだから」


「そっか。よかった。

 で、それだけ? 何かさっき直ぐわかるような事言ってたけど?」


「うん。そっちは私からは言えないんだ。たぶん本人が言ってくるから」


「本人? 誰かくるの?」


「たぶん…」


「たぶんって…。

 教えてっていっても答えてはくれないんだよね?」


「うん」


「守は?」


「俺も教えない」


「けっ、使えない友達だなそういう時はこっそり教えるもんじゃないか。

 はぁ、そのうち分かるんだよな?」


「うん。それは間違いないよ」


「そっか。じゃぁひとまず置いておいて、今日はどうする?

 昨日イグが出たけど、同じ場所に行く?」


「崇一、その件だけど昨日の理事会で該当地域にはBランク以下は入らないってことになったらしい」


「ってことは行くとしたら俺一人になっちゃうのか…。おいしい稼ぎ場所だったんだけどなぁ」



 問題はひとまず横において今日の予定を決めようと話をすすめていると、上の階からラウンジに入る扉の方が少しにぎやかになった。


「おはよう」


「おはよう。輝夜ちゃん。今日は討伐でるの? うちらのパーティに今日は入らない?」


「おはよう。ねぇ今日は私たちと一緒に行こう?」


「おはよう。ごめんね。今日はちょっと予定があるんだ」


「ええ~残念」


「じゃぁ、今度ね?」


「ごめんね」


 ふと見ると、どうやら輝夜が下りてきたので待っていたパーティが勧誘をしていた。

 崇一は元々3人で出るつもりだったので、直ぐに守達の方に向き直った。


「えっと、でどうする?」


「行くとしたらイグの所以外になるけど。今日は討伐はいいかなぁって」


「昨日の件? 何か気になる事でもあった?」


 いつもなら経験を積みたいからって自分から率先して討伐に行く美香が言葉を濁したので、崇一は昨日のイグとの戦いで何か思うことでもあったのかと思った。


「いや昨日の戦闘の件は関係ないんだけど…」


「シュウ! おはよう」


 とりあえず話を聞こうと身を乗り出したところに、いきなり首に腕を回され後ろから抱きつかれた。


「え?」


 びっくりして後ろを向こうとすると、肩に抱き着いたまま輝夜が崇一の顔をのぞいてきた。

 同じギルドになり直接挨拶することが多くなったので普通に接する事ができていたが、いきなり吐息がかかりそうなほどまじかに輝夜が顔をだしたので崇一は硬直し、言葉が出なくなった。

 近距離でびっくりするほど整った顔とエメラルドのような瞳をみて、崇一は意識を吸い込まれるような感じがした。

 周囲の人たちもいきなり輝夜が男に抱き着いたのでびっくりして崇一達を凝視していた。


 固まったまま何も言わない崇一に輝夜は微笑みながらもう一度挨拶をした。


「おはよう」


 改めて声をかけられた事で、崇一は輝夜に見とれて停止していた思考が動きだし、震える声で聞き返した。


「なんで松永さんがここに?」


「なんでって、おはようって言ったよ。挨拶だよ挨拶」


「…え、え~とアイサツはわかったけど、ナンデだきついてるの?」


 崇一が片言で質問してきたので、輝夜はもう一度にっこり笑って言った。


「なんでって、以前も挨拶ついでに抱き着いて首をロックしたり、張り倒したりしてたけど?

 こうやって」


 輝夜は崇一の喉をしめるように軽く力を入れた。

 輝夜が崇一の頭を抱えるようにしているため後頭部感じる柔らかさを意識し、崇一は真っ赤になり動けなくなった。


「い、いぜんって、な、なに?  っていうかはなして!」


 本当に首がしめられているわけではないのに、慌てて声を絞り出し離れるように言った。


「うん。十分反応は楽しめたし、今はこれぐらいでいいや」


 そういって、輝夜は崇一から離れて、隣の椅子に座った。

 輝夜が離れた瞬間、崇一は多少残念な気もしたがホッとして全身の力が抜け、椅子に寄りかかった。


 輝夜がにこにこ笑ってこっちを見てるので、からかわれている事は分かったがなぜ輝夜が少し前に知り合ったばかりの自分にこんな事をするのかが分からなかった。混乱しがちな頭で考えたのはもしかしてテレビ用のどっきりか何かかと思った。そう思うと少し落ち着いて、それとなく体を起こしなおして、一息入れてから輝夜に質問した。


「えっと松永さん? なんでこんな事するの? 一般人にどっきりでもしかけるテレビか何か?」


「違うよ。単純に挨拶をしただけ。ちょっとからかったけど。

 それと、松永さんはやめて。松永は芸名だから。月城輝夜ってのが本名。輝夜って呼んで」


「え? なんで?」


「シュウにさん付けで呼ばれると違和感がすごいし、私がそう呼ばれたいから」


「だから何で? それに何で俺をシュウって呼ぶの?」


 昨日の女子会で崇一が自分と同じギルドだったシュウと分かっている輝夜は、崇一が状況を分かっていない事は理解していたがそのまま続けた。


「だってシュウでしょ。崇一だし」


「そうだけど…。いきなり松永さんにシュウってよばれる理由が分からない」


「だから輝夜!」


「へ?」


「だからか・ぐ・や」


「えっと」


 崇一は助けを守に求めようと視線を向けたが、守は笑っているだけで動こうとしなかった。

 他に助けはないかと周囲にも目を向けたが、興味しんしんな様子でこちらを見ているだけで、助けてくれそうな人はいなかった。


「ほら、かぐや」


「か、輝夜さん?」


「違う!輝夜」


「いわなきゃだめですか?」


「うん。ダメ」


「えっと、かぐや」


「うん」


 崇一がやっと自分の名前を呼ぶと輝夜は嬉しそうに笑った。

 その顔をみて崇一はまた顔が真っ赤になった。


 崇一がまた固まり動かなくなったのをみて、輝夜は姿勢を正した。


「さてと、これ以上いじると後が怖いしね。

 で、シュウちょといい? ほらしっかりして」


 輝夜は崇一の肩に手を置いて軽くゆすった。


「あ、ああ」


「じゃぁ、自己紹介といこうか」


「え? 何で自己紹介? 前にしたよね。ここはこんなことしたかを教えてくれる流れじゃないの?」


「うん。だから自己紹介」


 崇一はなぜ自己紹介なのかがさっぱりだったが、このままでは話がすすまないのであきらめて先を促した。


「あぁ、うん。わかったとりあえず進めて」


「うん。じゃぁ、これを見てもらった方が早いかな?」


 輝夜はそういうとストレージの中から自分の偃月刀を出してテーブルの上に置いた。


「え? この偃月刀って」


 出された赤い柄に双龍と同じ黒い刃に朱色の鳳凰が彫られている偃月刀を見て崇一は目を見張った。それはギルド仲間だったヤーグが使っていたもので、崇一の双龍と同じくセッタが作ったオリジナルの品だった。


「わかる?」


「わかるもなにも、これはヤーグの鳳月だ」


「そうだね………で、分かった?」


「分かった?って何が…」


 崇一は最初輝夜が何を分かったっと聞いたのか分からなかった。

 輝夜がヤーグと合った事があり偃月刀を譲り受けたたとも考えたが、だったらこんなことをしなくても貰ったと言えばいいだけだからだ。

 しかし、笑って自分を見たままの輝夜をみて、自分をシュウと呼ぶ事、輝夜のストレージから出された鳳月と今起こったことを整理して1つの結論にたどり着いた。


「え~と、もしかして松永さんがヤーグ?」


「そ、あらためて久しぶりシュウ。でもって松永じゃなくて輝夜ね」


「あ、ああ久しぶり…」


 崇一が自分の事を認識したことを理解したので、輝夜は守と美香の方に向き直って話した。


「じゃぁ、2人にも改めて松永は芸名なので、月城輝夜です。

 ゲームの中でここにいるシュウ、崇一と同じギルドでヤーグって名前で一緒に前衛をしてました。

 ランクはSS、属性は火、生、風の3つで、得物はこの偃月刀です。

 まぁネナベで、ゲーム中は男として活動してたんでシュウも混乱してるわけなんですけど、とりあえず今後ともよろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


 目の前で起こった一連の流れに周囲と一緒に驚いてはいたが、一応事前に知っていた美香と、美香から話を聞いていた守は落ち着いて返事を返した。

 3人が話しているのを呆然と眺めていた崇一は、輝夜と合ったとき兄が無くなっていると話していた事を思い出した。


「えっとまつな」


「かぐや」


 崇一は輝夜に話しかけた瞬間に呼び名を訂正され、相手がアイドルではなく小学校から一緒にゲームをやっていたヤーグだと言い聞かせた。


「はい…、で、輝夜、最初に合ったとき兄が無くなってるって言ってたよな?」


「うん。兄さん…シュウには兄貴っていった方がいいかな?」


「いや、言いやすい方でいいよ。兄貴ってのもゲーム中だけだったんだろ?」


「うん。ありがとう。

 兄さん…アスボンは侵食に耐えられなかった。で後から兄さんの彼女だったミオも助からなかったって聞いた」


「そうか。アスボンもミオも死んだのか…」


「うん」


「でも2人が恋人って知らなかったぞ?」


「ゲームの中ではそういうのは無しって決めてたみたい」


 2人が情報の交換をしていると守が言いにくそうに声をかけてきた。


「えっと、2人ともちょっといいかな」


「なんだ守?」


「うん。たぶん簡単にでいいから周りの人に説明をしてあげたほうがいいんじゃないかなぁって」


「説明?」


 崇一と輝夜は言われて、周囲を見るといつもは出発している時間なのに全員が座ったり、立って壁によりかかってこっちを見ていた。


「えっと。みんなごめんね。

 ちょっと騒がしかったよね。


 えーと簡単に言うと私がゲームの中で所属していたギルドの仲間が見つかったんでちょっとからかったっというか…。情報を交換というか…」


「はいはい。みんな解散!

 仲間が見つかったってはっちゃけてるだけだから気にしないの。

 ほら討伐に行った。行った」


 輝夜が慌てて周囲に説明をすると、詩織が手を叩いて注意を引いてから全員に解散を宣言した。

 ぶーぶー文句を言う人もいたが、詩織が背中を押してラウンジから追い出していった。


「ありがとう詩織さん」


「いいって。後でしっかり話は聞くから」


「…はい」


「とりあえず情報交換を進めたら、お互い知っとかないといけない事もあるでしょ。

 ここじゃなんだし、奥の面接用の個室でも借りたら?」


「そうだね」


 輝夜は直ぐにカウンターにいる加藤に許可をとり、崇一達をつれて個室へ移動した。

 なぜか詩織も一緒について来たが。


 部屋に入ると輝夜は直ぐに詩織に向き直った。


「詩織さんはなぜいるんですか?」


「え? 後で聞くなら今でもいいかなぁって」


 しれっと言い切る詩織に輝夜は抵抗をあきらめた。


「はぁ、シュウはいい?」


「別にかまわないよ」


「ありがとう。 じゃあ情報交換といこうか。

 まず私が聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「なんだ?」


「何でAランクなんて隠してたの? 最初からSSランクって教えてくれてればもっと早くわかったのに」


「いや、面倒そうっだったから…」


「何が?」


「ほらランクが上だと何かあったとき呼ばれそうじゃないか」


「まぁ、確かに。私も強い敵が出ると呼ばれるしね」


「だろ?」


 輝夜は、何か納得が出来そうで納得が出来なかったが、何も進まないのでとりあえずこの件は流す事にした。


「じゃぁ、ほかに何かある人は?」


 輝夜が全員に声をかけると、守が手を挙げた。


「はい、吉岡さん」


「輝夜ちゃんは、今後どうするの? 今まで1人で行動してて討伐はその都度ほかのパーティに参加って聞いてたけど?」


「シュウが問題なければ、今後はシュウと行動するつもりだったけど?」


 輝夜が崇一をちらっとみると、


「ヤーグだろ? なら歓迎だ。連携も取りやすいしな」


「うん。ありがとう。吉岡さんと佐伯さんはいいですか?」


「歓迎だよ」


「輝夜ちゃんってSSでしょ。女同士だし歓迎するよ」


「ありがとう。で失礼でなければ守さんと美香さんって呼んでもいいすか?」


「OK」


「うん、いいよ」


「じゃぁ、そういことでお願いします」


 そのあと、主に崇一と輝夜が大崩壊の日に強制ログアウトされてからどうしたとか情報交換をした。


 情報交換がひと段落したところで、それまで静観していた詩織が声をかけてきた。


「で、まったく話が出て来ないから確認するけど。

 結局輝夜は崇一君とどう接したいの?

 たぶん、このままだと崇一君が接し方に困ると思うけど? 今まで男同士だと思ってたんだし」


 詩織が輝夜にした質問を聞いて、崇一もどうしたらいいか聞きたかった。


「……私としては変に他人行儀よりかは、ゲームの中のように気兼ねなく接することが出来るようになりたいと思ってる。

 こっちでは男言葉づかいはしてないけど、付き合い方まで変わると違和感があるし…

 ただ、こっちは前からシュウが男だって知ってたから大丈夫だけど、シュウから見たらいきなり女でしただもんね。でも出来れば依然と同じように接してくれるとうれしいかな」


「だって、崇一君」


「ああ、うん。分かった。

 とりあえずヤーグとして接すればいいんだろ?」


 崇一は頭の中では無理だと思いながらも一応そう返答した。


「そういうこと。まぁそっから先はお互いで決めて頂戴」


 崇一の苦笑い気味の返答で、本心は分かったものの詩織は笑いながら2人の肩を叩いた。



 話し合いは昼ちょっとすぎぐらいに終了したため、お互いの武器などを見るため詩織を抜いたメンバーが近場で討伐をすることになった。





 お互いに確認しながらの討伐だったので実質2時間ほどしか討伐の時間はなかったが、夕方になりギルドに戻ることになった。


「SSが2人もいて好きにさせると…私たちじゃぁ何もすることがない…」


「…美香さん。しかたないよ。今日は主に2人の連携を見るためのようなものだから…」


 守も美香を慰めつつ、暇疲れで嘆息した。

 また、戦闘の合間の話し合いで輝夜が守と美香を名前で呼ぶようになったのでお互い名前で呼ぶように決まったため、まだ慣れず呼びかけがぎこちなかった。

 そんな2人を他所に崇一と輝夜は、連携して戦闘したことでゲーム中のようにお互いの呼吸の間隔を掴めるようになった。また、そのおかげで崇一も輝夜がヤーグだと実感でき、戦い初めのころにあったぎこちなさが無くなり、輝夜が近づきすぎると固さが出るが、表面上は会話だけならヤーグに以前接していた頃に近い感じで出来るようになった。


「…本当にヤーグだったんだな」


「何? 信じてなかった?」


「そりゃアイドルがいきなり君の友人ですって現れたらそんなもんだろ? 普通はどっきりだと思うぞ」


「まぁ言いたいことは分かるよ。でも信じてくれたんでしょ」


「確かに顔も声も違うけど、戦闘時のクセや会話のリズムがまんまだからな。

 …もし、ヤーグ達にあうことがあれば普通に喫茶店とかを想像してたんだけどなぁ」


「そうだね。私もそう思ってた」


「念のため確認なんだけど、ゲームの中と同じような感じで本当にいいのか?

 行き成り叩いたり、場合によっては蹴っ飛ばすみたいな結構雑な扱いだったと思うんだが…」


「それで、とういうよりそれがいいかな。今さらでしょ」


「了解。ま、これからよろしく頼むわ。相棒」


「うん。こっちこそよろしく」


 崇一が拳を握り片手を胸の高さに上げたのをみて、ゲームでやっていた挨拶とわかり輝夜はうれしそうに自分の拳を崇一の拳にぶつけた。



 ギルドの建物に近づいたとき、輝夜が声を上げた。


「あ」


「どうした?」


「シュウ、ちょっと先に戻って換金とかお願いしていい?」


「ああ、そりゃ構わないけど、何かあったか?」


「うん。大丈夫大したことないからほら行った行った」


「え? ああ分かった金額は等分でいいよな?」


「それでいいから、ほらほら」


 なぜ急かされるか分からないまま崇一は守達とギルドの建物に入って行った。

 すると、急にラウンジから人が出てきて通路をふさがれた。 

 道をふさいだ面々は知らない人もいたが、殆どはラウンジで挨拶や何度か話した事あるやつらだった。


「なんだ? いきなり」


 崇一が疑問の声を上げると、目の前にいた筒井兄妹が答えた。

 術師兼生産担当の兄の清優きよまさと槍使いの妹の優羽ゆうのコンビで、どちらもBランクよくラウンジで会うので軽い会話をする程度の知り合いだった。


「九条、聞きたい事がある。少し時間をくれ」


「ちなみに拒否権はないから」


 そういうと、腕を掴まれラウンジの方に引っ張って行かれた。


「ちょっとまて、魔石の換金をさせてくれ」


「そんなのは後回し、今は私たちの用事が先」


 輝夜たちと賞金を分けるため、換金だけでも済ませようとする崇一を無視して優羽が引っ張る力を強めた。

 周りの集団も一緒に移動しているため、腕をほどいても逃げられそうになかった。

 直ぐにソファの真ん中に座らせられた。  

 周りの全員が崇一を見るというよりにらんでいる状況でとっさに防御できるように魔法の準備を始めた。


「何なんだよ」


「簡単な質問があるだけだ?」


 固くなった崇一が声をだすと、目の前に座った清優が代表して答えた。


「質問?」


「ああ、そう固くならなくていい別に攻撃したりはしないから」


「そういわれても、ものすっごい圧迫感が…」


 助けを求めようと人の隙間からカウンターの方を見ると、守と美香がこっちを見ているのが見えた。

 そこに、輝夜が静かにギルド内に入ってきて、2人の肩を叩いて奥を指していた。

 その後、崇一の方を見てヒラヒラと笑顔で手を振ったのをみて、状況が理解できた。


「輝夜のやつ、盾に使いやがった」


 崇一が悪態をつくと、清優がバンッとテーブルを叩いた。


「その輝夜ちゃんの件だよ」


「ああ、今分かった」


「じゃぁ、輝夜ちゃんとどういう関係なのか洗いざらい吐いてもらおうか?」


「あのさ、もしかしてこの面子全員同じ要件?」


「当たり前だろ、ほかに何がある」


「はぁ、お前たち兄妹が輝夜のファンってのは聞いてたけど、やっぱり他にもいるんだな」


「当然」


「…わかった…。

 まずどんな関係ってゲームでのギルドの仲間ってだけだよ」


「ギルドの仲間だっただけで、いきなり輝夜ちゃんを呼び捨てって、お前だって昨日まで松永さんとか輝夜ちゃんって言ってただろ」


「輝夜から頼まれたんだよ!」


 清優が両手をついて顔を寄せて怒鳴ってきたので、崇一も怒鳴り返していた。


「それだけじゃないだろ。何度かあったことがあるのか? どんな関係なんだ? なぜ抱き着く? 感触はよかったか? 俺も友達として紹介してくれ」


「兄貴はどいて、話が続かない」


 熱くなり変な方向に進んでいた兄を殴ってどかしてから優羽が席に座った。


「えっと、ゲーム中ではどんな関係だったの?」


「あ、あああ、親友かな?」


 倒れたまま動かない兄を他所にしれっと会話を続ける優羽に若干おびえつつ崇一は答えた。


「親友だったの? 九条さんは女の人と親友になれるようなタイプじゃないと思ったけど?」


「ゲームの中では男だったんだよ。ネナベだな、今日初めて聞いたけど…」


「へぇ、でも抱き着きとか男同士ならないでしょ?」


「ああ、ゲーム中ではどちらかといえば首絞めやプロレス技の応酬だったな」


「それを現実でもされたと」


「そうなる」


「ふ~ん。で、名前は何で呼び捨て?」


「だから輝夜から頼まれたんだよ。俺に敬称つきで呼ばれると違和感があるからダメだって」


「ふ~ん。ほんとにそれだけ? 同じ女としてはゲーム中の知り合いとはいえ、初対面に近い人に抱き着くとかないと思うんだけど」


「そこは個々人の感性の問題じゃないのか? 詳しくは輝夜に聞いてくれ」


「じゃぁ、ゲーム中でのギルドの仲間で再会して、挨拶がてら首しめられたと。

 でもって名前は本人から呼び捨てにするように言われたと。

 そういうこと?」


「ああ」


「恋人ってわけじゃないのね?」


「ああ、友人だ」


「分かった。で、大事な事なんだけど今後輝夜ちゃんと一緒に活動するの? それとも輝夜ちゃんは今まで通り1人で複数のグループを回るの?」


「一応、俺たちのパーティに入るとは言ってたな」


「そっか。じゃぁ輝夜ちゃんと組める機会が更になくなるのか…」


「…すまんな」


 自分が悪いわけではないが、あまりに落ち込んでいる優羽をみて思わず誤ってしまった。

 優羽が落ち込んだままなので、崇一はこのまま帰ることにした。


「じゃぁ、もういいか? 俺は帰るぞ」


「あ、うん。いいよ」


 優羽が返事をすると周囲にいた人達もそれぞれ解散していったので、崇一もその日はカウンターに寄らず、部屋に帰った。





 翌日、崇一がラウンジに顔を出すと、何人かに軽く質問をされたが、昨日みたいに囲まれたりは無く、まだちらちら見られるが落ち着いたみたいなので安心した。

 椅子に座って輝夜たちを待っていると、まず輝夜がやってきた。

 ポンと肩を叩きながら挨拶して向かいの椅子に座った。


「おはよう。シュウ」


「…ああ、おはよう」


 崇一が眉を寄せて挨拶をすると、手を合わせて誤ってきた。


「ごめん。

 まぁ昨日の状況ならああなるかなぁって思ってはいたんだけど、想像通りだったね。大変だった?」


 輝夜が誤った直ぐ後に、にこにこと質問してきた。


「お前な全然謝罪する気ないだろ」


「まぁまぁ、男が過去の事をくよくよしない! お昼でもおごってあげるから」


「はぁ…。 じゃぁそれで手をうってやるから」


「ありがと」


 輝夜が笑ったのをみて崇一は顔を赤らめ、「守達遅いな」と言いながら慌てて視線をそらした。

 そんな崇一をみて輝夜はクスクスと笑った。


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