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1. 浸食と神の復活

 詳しい説明もないまま強制的にログアウトが実施され、崇一しゅういちは分けもわからないままVRMMORPGから現実に戻ってきた。


 それまでは、いつも通りログインをしてギルドメンバとクエストに行こうとしていただけだった。

 特に事前にメンテナンスや新たなミッション等の情報はなかったが、急に運営側より強制ログアウトのアナウンスがあった。何か意味不明なことを言っていたがそれを理解しようとする前にログアウトされてしまった。

 グチを言いながらもヘルメットを外し、ベッドの上で体を起こした。


「くそっ、何なんだよ。

これからクエストだったのに…

ヤーグとアスボンはどうしただろ?

…メールしておくか…」


 直前まで同行していたギルドメンバにメールで連絡しようと思いベッドから降りようとした瞬間、部屋全体が写真のフラッシュのように光った。


「うぉ、なんだ」


 ヘルメットを被っていて部屋も暗かったので崇一は思わず目を閉じた。

 閉じる瞬間、マンガ等で見たことがある魔方陣のようなものが足元に見えた気がした。

 直ぐ目を開いたが既に光はなく、元の常夜灯だけの薄暗い部屋だった。

 崇一はしばらくキョロキョロと周囲を見ていたが、何もおかしなところがないのでさっきの光も気のせいだったのかと思った。

 何もないので携帯を取りに机に移動を再開しようとしたとき、ガツンッと頭を殴られたような急な頭痛が起きて倒れた。


「ぐっ、ああああぁぁぁ

 な、なにがっぐっ」


 宗一はあまりの痛さに倒れたまま頭を抱え耐えていたが、痛みが強すぎて吐き気がして我慢できず吐き出した。


「うげぇぇぇぇ」


 痛みと吐き気の中で頭を起こそうと体を動かすと体中にも痛みを感じた。

 頭を起こそうとついた手をみると腕から出血しているのか血で真っ赤になっていた。

 崇一は体中の痛み、皮膚の下に何かがはい回るような違和感が徐々に強くなり、まともに考えることがでずただ耐えるため声をあげるしかなかった。


「ああああああああ」


 崇一が苦痛に耐えていると、ガチャッと扉が開き、人が入ってきた。


「ちょっと、何やっての兄さん、うるさぃ

って、どうしたの?」


「ああああああああ」


 急に隣の兄の部屋からバタンッという大きな音と悲鳴が聞こえてきたので、兄が何かやらかしたのかと文句を言いに、妹の響子きょうこがやってきた。

 迷惑をかけるなとしかめていた顔は、扉を開けて血と吐しゃ物にまみれて倒れている崇一をみて、驚きに変わった。

 響子は慌てて駆け寄ったが、崇一はうずくまったまま、返答しなかった。この時崇一は、頭痛と吐き気、痛みで妹が来たことも分っていなかった。


「お父さん、お母さん、崇司たかしすぐ来て! 兄さんが大変!!」


 響子は何が何だか分からないが、自分だけではどうしようもないと考え、家族に助けを求めた。


「響子、どうしたんだ?」


 父親の盛崇もりたか、母親の京子けいこは、娘の慌てた声で自分たちを呼ぶので急いでやってきた。


「兄貴がまた何かやらかした?」


 しかし、弟の崇司は学校にも出席に数が足りるだけしか行かず、家にいても部屋に引き篭もって何かと家族に心配をかけさせる兄が好きではなかったので、どうせまた馬鹿やってるだけだろうとのんびりと自分の部屋から出てきた。


「兄さんが怪我して倒れてるの」


 盛崇と京子が崇一の部屋に来ると、響子は盛崇に駆け寄り崇一が怪我をして倒れていることを伝えた。

 盛崇は響子の背後で崇一が倒れて呻いているのをみて、崇一のそばに駆け寄った。


「崇一! 大丈夫か?」


「ぐ、ううう」


 軽く崇一の肩をゆすり声をかけるが、苦痛に耐えるだけでまともな反応がないことから直ぐに普通の状態でないと判断し救急車の手配をすることにした。


「母さん、直ぐ救急車を呼んでくれ、それと保険証とか準備も頼む」


「はい」


「崇司は、洗面器にお湯とタオルを持ってきてくれ」


「ああ」


 崇司も扉の外から血を流して兄が倒れているのをみて、流石に状況がいつもと違う事に気が付き、父親の指示に素直に従った。


「響子、お前が来たときの崇一の様子は?」


「もう倒れていて、相当辛いみたいで返事もなかった。吐き気もひどいみたいで私が来てから2度ほど吐いている」


「何があったか分かるか? 血が出ているが何かぶつかったのか?」


「知らない。たぶん、兄さんのことだからいつものように部屋に籠ってゲームをやってたんだと思うけど…。

 血は私が来たときには出てたけど、この部屋のものでぶつけてこんなに血が出るようなものってないよ」


「はい。お湯とタオル」


 会話の途中だったが崇司がタオルを持ってきたので、盛崇と響子はとりあえず崇一の顔を拭いたり、暴れてぶつけないよう周りの片づけを始めた。


「何もないのにいきなり出血はしないだろう。何かの病気か?響子、崇司、体の調子はどうだ? おかしなところはないか?」


「私はないよ。父さんは?」


「ああ、大丈夫だ」


「俺もなんともないよ」


「そうか…。念のためお前たちは部屋から出てなさい」


「分かった。何かあったら声かけて」


「じゃあ、俺はすぐ案内できるように救急車が来たか表を見てくるよ」


 父親から退室を促され、響子と崇司は部屋の外に出て行った。


 しばらくして、崇一は少し痛みが軽減してきたのか周りの様子が分るようになってきた。

 取りあえず倒れたままでいるのが息苦しかったので、体を起こそうとしたが力が入らなかった。そのためそばにいた父親にが体を起こす手伝いを頼むことにした。


「親父、ちょっと体を起こすのを手伝って…」


「大丈夫なのか?」


「…体中…熱くて、まだいた…むけど…少しだけど治まった…から…」


「寝てた方が楽じゃないか?」


「いや、体を…起こしたい」


「分かった」


「うっ、くぅぅっ、ふうぅぅ」


 父親に体を支えてもらいながら上体を起こすと、崇一は大きなため息をついた。

 崇一が辛そうながら正常な応答を返すようになったので、盛崇も表情を少し緩めた。


「崇一、何があったんだ?」


「…わからない。ゲームが…終わって…起きたら……急に痛みと吐き気が出て…」


「何か、変な物を食べたとか? 変な場所に行ったとか? 覚えはないか?」


「…ない。……学校から…戻ってすぐに…ゲームを始めた…」


「そうか…」


「救急車はまだ来ないみたい。兄貴、起きて大丈夫なのか?」


「…ああ…」


 丁度表を見てたが全く救急車が来ないので一旦父親に報告しに戻ってきた崇司が入ってきた。

 崇一はまだ痛みは続いているが、心配させたくなくて返事をした。

 その時、ジリリリリリリリッと電話がなり、1階で準備をしていた京子が出た。


「えっ、どういうことですか?

 なんで来れないんですか?息子が血を出して倒れてるんです。お願いします。

 …

 …

 はい … はい … でも … 普通の状態じゃないんです。

 ですから…もう結構です!」


 ガチャッと電話が壊れたかと思うような音がした。

 2階からだったので、全部聞こえなかったが何か問題があったみたいだと盛崇は判断し、京子に確認しにいった。


「どうした?」


「消防署からの連絡で、崇一のように急に倒れた人が大勢いて救急車が直ぐ来れないみたい。

 動かせるようなら車かタクシー等で最寄りの緊急病院に行ってほしいって…」


 連絡内容に盛崇も驚いたがこのままでも仕方がないので、車を出すことを決心した。

 本来であれば、状態が分らないので専門家に任せたいが、いつくるか分らないものを待っているわけにもいかない。


「しかたない。

 響子、崇司、これから母さんと車で崇一を連れて行くからお前達は残っててくれ」


「ここから近い緊急病院だと、港中央病院だよね」


「ああ、そこに行こうと思ってる。もし何かあったら母さんの携帯に連絡をくれ」


「わかった」


 響子の疑問に答えつつ準備をして、直ぐに家を出た。




 盛崇達が病院まで来る途中に2台ほど車が道路から外れて建物に突っ込んでいたり、対向車線で正面衝突しているのを見かけた。

 先ほど救急車が来れないとの連絡があったとき、崇一と同じように突然倒れた人が多数いるとはいっていたが、もしかしたら車の運転中に同じ状態になり事故を起こした人が居るのかもしれなかった。


 車から降りて盛崇が崇一を背負って病院の受付につれていくと、同じように体のあっちこっちから出血したり、吐いたりしている人を連れた人がたくさんいて受付は混雑していた。

 既に着いていた人たちは、戦争時の病院みたいに、優先順位の札をつけていた。殆どの人が崇一と同じような症状らしい。中には倒れたまま、吐血して動かない人もいるので、まだ意識がある崇一は後回しになることになった。


 到着から30分程たったが、最初の受付以後ずっとロビーで待たされる状態が続いていた。

 盛崇は待たされている間も新たに似た症状の人達が運び込まれてきていた。周りの様子をみていたら一部崇一のように症状が落ち着いてきている人も見かけられたが、大多数は症状がどんどん悪くなっており、亡くなってしまった人も複数人見かけた。

 ロビーのテレビで放送されていた緊急ニュースからするとこの付近だけでなく、同じように急に倒れた人たちが全国におり、中には先ほどの車のように運転中だった人もいるみたいで街中、高速道路等多数の場所で運転手が倒れ暴走した車が事故を起こし大きな被害になっていた。

 

 待っている間にも崇一の症状はまた少し落着き、まだ自由に動けないが会話するには問題ないくらいになっていた。


「いったい何が起きたんだろうな?何かの病気か?ウィルスでも広まっているのか?」


「もしかしたらゲームが関係してるかも…」


「何でゲームなんだ? ゲームで実際に体が傷ついたりしないだろ」


 盛崇の疑問に、崇一は考えていた事を告げた。

 しかし、たかがゲームで体に影響があるとは思えなかった盛崇は直ぐに否定した。


「たしかに、でも頭痛や体の痛みが出る前にやってたのってゲームだけだし…」


「たぶん、こんなに大勢がなっているんだウィルスか何かだと思うけどな…

 心配するな。症状は落ち着いてきているみたいだし。大丈夫だ」


 無言でいると不安なため、適当に会話をしながら待っていたが、その間も意識がない人が優先して奥に連れて行かれ処置が続けられていた。到着した段階で亡くなっている人も多数いて、蘇生治療を求める人と回復出来そうな人を優先した医師との間でもめ事も起きていた。


「本当に戦場の病院みたいだな…」


 盛崇は、今目の前にある風景がテレビでしか見たことが無かった戦場のように見えて、自分が日本にいるのか分からなくなりそうだった。

 症状が重く、かつ回復出来そうな人を優先する病院側の行動は理性では理解できたが、少しでも早く息子を見てもらいたいという思いとこんな場所を少しでも早く離れたくて、他の家族のように医師に詰め寄ろうかとも考えた。


「大丈夫だよ。親父。俺の痛みは落ち着いて来てるみたいだから」


 崇一は、こちらには心配するなと言いながら、あちこっちを見たり医師が通るたびに立ち上がりそうになる父親の手を安心させたくて掴んだ。



 それまでも救急車の音や新たにきた患者を連れてきた人の声などで騒がしかった病院の入口の外から悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと崇一たちを含め受付にいた人達がそちらを見たが、人影に隠れて入口は見えなかった。

 次の瞬間、入口のガラスが割れる音とともに、付近にいた人が倒れ、何かがいるのが見えた。 

 悲鳴があがり、無事な人達が入口から奥に向かって逃げ出した。


 割れた入口から、その『何か』が飛び込んできた。

 緑色の人型をした生き物だが、ギョロ目でカエルのような顔をしており、全身が鱗に覆われていた。二足歩行をしているが、歩くというより飛び跳ねるように移動していた。キョロキョロと周りを見渡し、外に向かって唸るよう声を出した。声を出したあと手に持っていた棒状のものを振りかざし近くにいる人に襲い掛かっていった。

 先ほどの唸り声に呼ばれたのだろうか、さらに巨大なタールの塊みたいな生き物もあらわれた。

 頭部と思われる場所から触手が複数生えているが、泡立った体はドロドロで明確な形がなく滑るように移動していた。タールの塊は、入ってきて入口の所で倒れていた人の足を触手で突き刺した。

 刺された人は悲鳴を上げ、逃げようとしたが、触手が刺さったままなので逃げられずに追加で触手をさされ絶命した。それまで建物の奥側にいた人達は何が起きたのかと茫然と見ていたが、人が殺されるところを見て悲鳴を上げ、避難を始めた。


「娘を離せ!」


 タールの塊から伸びた触手に捕まった少女を助けようと中年の男性が傍にあった点滴スタンドをタールの塊に叩きつけたが特に痛がる様子もなく、逆にその中年に触手でからめまるで蛇のように締め上げた。


「ぎゃあああああああ」


 男性の悲鳴があがったが直ぐに聞こえなくなり、グチュッという音とともに触手の隙間から血が噴き出した。



「母さん、逃げるぞ」


「はい、ほら崇一も…」


 盛崇は直ぐに京子に声をかけ、崇一の腕を取った。崇一は、まだ上手く動けずにいたため、盛崇と京子に両脇を抱えられながら奥へ逃げた。

 崇一と同じよな症状で運ばれてきた人達も同様に付き添いの人達と逃げていたが、上手く動けないため逃げるのが遅く、触手に掴まったり、カエル顔の棒に刺されたりした。一部の看護師も動けない人を運ぼうをしていたが、被害が増える結果になってしまっていた。


 崇一達は、他の逃げる人達に紛れ、病院の奥に向かって逃げたが、まだ入り口の方で悲鳴が続いているので、逃げ遅れてあの生き物に掴まっている人達がいるのだろう。

 逃げている途中で盛崇は携帯を出しどこかに連絡を取っていたが、どうやら繋がらなかったようで、苛立たしげに携帯を睨んだ後ポケットにしまった。


「お父さん、どこに向かってるの?」


「非常口があるはずだから、そこから出て、駐車場に向かう」


「外に出て大丈夫かしら」


「分からない。でもここにいても大丈夫とも言えない」


「でも、崇一はどうするの?先生に診てもらわないと…」


「分かっている!

 でも、さっき電話をかけてみたが混線しているらしく繋がらない。

 家が大丈夫か確認が出来ない。響子と崇司の無事も確認しないと」


「そうよね。この状態で見てくれるお医者様もいないだろうし…」


「家に行って、響子と崇司も連れて、別の病院に行こう」


「そうね」


 崇一の状態は当初よりは落ち着いていると判断したのだろう。

 とりあえず家族の安否を確認を優先する事にしたらしい。


「崇一、もうしばらく我慢できるか?」


「ああ、大丈夫…だから、早く家に行こう」


「すまん」


 崇一たちは、病院の裏の非常口から駐車場に向かった。

 病院の建物を右に進めばすぐに駐車場というところで、崇一は急に悪寒を感じた。


「…親父、お袋、止まってくれ」


 崇一が急に移動を止めたので、崇一を両隣で抱えていた盛崇と京子もペースを落とした。後から来ている人たちが崇一達の横を我先にと走って行くので、盛崇も焦って崇一に怒鳴った。


「何言ってるんだ。痛みが酷いのか? あと少しで車だから少し我慢してくれ」


「…そうじゃない。何か嫌な予感がする」


「お前は気にしなくても大丈夫だ。

 他の人達もいるから安心しろ」


 盛崇は、息子が先ほどの化け物を見て怖がっていると考え、怒鳴ってしまったこともあり出来るだけ優しく声をかけた。

 崇一達が曲がり角に来たとき、建物の陰から悲鳴があがり、先に曲がった人達が慌てて戻ってきた。

 すぐに先ほどみた黒い塊みたいな生き物が角からあらわれた。大きさは先ほど奴より2回りも大きく、動きも早いみたいだった。


「まずい」


「にげろ!」


「キャーーー」


 周りの人達も直ぐに気づき、慌てて反対側に向かったが、黒い塊から触手がのばされ、捕まったり貫かれる方が早かった。

 盛崇は、自分たちの方に触手が伸びてくるのを見て、息子と妻を守るように2人に覆いかぶさった。


「がっ」


 盛崇は、背中とお腹の2か所を触手に貫かれた。

 崇一も左足を貫かれたが、父親が庇ってくれたので致命傷を負わずにすんだ。


「ごっふ、に、にげろ…」


「親父っっ」


 崇一は父親が吐血するのを見て声をかけたが、すでに返事がなかった。

 慌てて体を揺すったが開いたままの目は虚空をみており崇一を見ることは無かった。


「親父、親父っ、お袋親父が…」


 隣の母親に声をかけたが、母親もお腹を貫かれており、起き上がれない状態だった。


「お袋、今助けるから」


「崇一、逃げなさい」


「何言ってんだよ。親父もお袋も直ぐに医者に診てもらうから」


 その間も黒い塊は、次の獲物に向かって触手を伸ばしていた。

 ケガした人や倒れている人より逃げている人を優先して攻撃しているみたいだった。

 他の人達も直ぐに貫かれたり、触手に絡め取られ潰されていた。

 崇一は何とか無事な人に助けを求めようと周りを見たが、すでに近くには無事な人はいなくなっており、崇一たちより遅れて後ろについて来ていた人達も逃げて見えなくなっていた。


「いいから早く逃げなさい。お父さんと私の事はいいから、はやく!」


「でも…」


「はやく、行きなさい。響子と崇司をお願いね」


「何言ってんだよ。あきらめるなよ」


「いいから! あんたはお兄ちゃんなんだから2人を助けに行って」


 母親を助けようと崇一が立ち上ろうとしたとき、触手が足に絡み付いてきた。


「くそっ」


「崇一っ」


 崇一はすぐに足を抜こうとしたが、しっかりと絡み付いておりほどけなかった。

 足を引っ張られ、ズルズルと体が黒い塊に向かっていく。


「うわぁ。っああああ」


 何とか抵抗しようとアスファルトに指を立てるが、爪がはがれてしまった。

 それでも何とか体を引かれないよう抵抗していたら、もう1本の触手が伸びてきた。

 刺さるっと思って、目を閉じた。その時、崇一と黒い塊の間に小さい竜巻が発生し、そのまま黒い塊に向かって進んでいった。

 通常の風であれば切り裂くということはないが、この竜巻は近くのものをその凄まじい渦の中で切り裂いて、黒い塊も渦の中に取り込んで切り刻んだ。


 崇一は来ると思った痛みが来ないうえ、足に絡み付いていた触手の力が緩むのを感じたのでおそるおそる目を開けた。足元を見ると触手が煙のように消えていく所だった。触手を追ってみると黒い塊がズタズタに切り裂かれ、全体から煙を発していた。何が起こったか分らなかったが、取りあえず助かったのだろうと判断し、すぐに両親の元に戻った。


 両親に刺さっていた触手はすでになかったが、二人の周りは血の海になっていた。


「親父、お袋、大丈夫? 直ぐに医者を呼ぶから」


 二人に声をかけながら体を揺すったが二人とも何の反応もなかった。


「なんで…

 何なんだよ、くそっ

 …

 …

 そうだ、響子、崇司!」


 しばらく呆然としていたが、最後に母親から頼まれたことを思い出した。直ぐに携帯電話で家に連絡をしたが、混雑しており繋がらなかった。

 両親をこのままおいていく事に抵抗があったが、それよりも妹と弟の無事を確認しない事の方が両親も辛いだろうと思い、崇一はまずは家に戻るべきと考えた。幸い、いつの間にか頭痛、吐き気、体の痛みは全く無くなっており、家に向かうのに問題はなかった。


「親父、お袋……。

 ごめん。後で必ず迎えにくるから。

 まずは響子と崇司の無事を確認しにいってくる…」


 崇一は、触手に貫かれた足を引きづりながら、車へと向かった。幸い免許は18才になったとき直ぐに取りにいったので、運転は問題なかった。触手に貫かれた足や、爪の剥がれた指など体の怪我も興奮のためかあまり気にならなかった。

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