元攻略対象の現捕獲対象
ネタだったけどプロットが完成しなかったもの。乙女ゲー転生モノだけど舞台は学園じゃない上に攻略対象も主人公も大人。
年下男子に迫られる(身体年齢も精神年齢も)年上な主人公が書きたいという願望。
「――好きだ、好美。俺様のモノになれ」
卒業式の送辞を読み始めるかと思いきや、いきなり告白をした我らが生徒会長、飯塚 一葉。生徒ばかりか教職員や保護者を含めた全員が固まっている中で、告白を受けた張本人、咲良 好美は怖じ気付くことなく言い返す。
「一葉。告白ならもう少しムードのある所でしなさい。強気に言う所は貴方らしくて好感が持てるけど、あいにく私は貴方みたいに度胸は据わってないの」
卒業式の真っ直中で告白されたにも関わらず堂々と振る彼女は間違いなく度胸が据わっているだろう。しかし振られた本人はそんな彼女を面白そうに見、そして万人が見惚れるような笑顔で言う。
「それでこそ俺様が選んだ女だ。待っていろ。世界中のどんな告白よりも感動的なのをしてやるよ」
「期待しないでおくわ」
二人はお互いに見合って口の端を上げる。そしてようやく答辞を読み始めた会長を見て、他の生徒会役員や生徒も意識を戻す。
「フフフ。これで逆ハーエンドね。長かったわ。これで私はお姫様よ!!」
――そんな呟きを耳にしたのは好美の隣に座っていた女子生徒、颯海 凜。彼女は人知れず溜め息を溢しながら思う。
「(いや本当に長かった。ようやく面倒臭い二年間が終わった。でもここからどうなるかは分かんないんだよね……。|ゲームはここで終わりだった《・・・・・・・・・・・・・》し)」
咲良好美と颯海凜。彼女達は一度死んで、この世界に生まれ変わった。この乙女ゲーム、『春夏秋冬巡りの恋模様』の世界に。
――春夏秋冬巡りの恋模様。攻略対象やヒロイン、お助けキャラやライバルキャラなど、全員に植物や自然に関係のある名前が付けられており、その季節ごとにキャラ設定がされている。『朗らかで暖かい春に咲くサクラ』をモチーフにしたヒロインや、『肌寒い中に暑さが残る秋』をイメージされた会長など。同じ季節にも時期によって特徴が違うため、様々な性格の攻略対象たちが存在する。
このゲームは、ヒロイン、つまり主人公が高校二年生になった年の入学式からスタートする。入学式で生徒会長として挨拶するヒロインに、入学してきたり、新任となった攻略対象たちが一目惚れする、というストーリーなのだ。つまり、攻略対象たちのほとんどが年下なので、一部のコアなお姉さま方には莫大な人気を誇ったのだ。
加えてこのゲームには、ルートが無数に存在する。その中のEndの一つ、【逆ハーレムエンド】は特別で、複数ある選択肢の中からたった一つずつある正しいルートを選ばなければ、逆ハーはおろか誰ともルートを作れなくなるのだ。
そして卒業式の今日。ヒロインから会長職を引き継いだ飯塚の告白を先ほど彼女が言ったセリフで振ることにより、逆ハーレムEndを迎える。つまり、ゲームは終わりなのだ。
――しかし、これからどうなるのかは、誰にもわからない。
◇ ◇ ◇
「凜さん。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様ー」
卒業式から四年後、凜は声優になっていた。"前世の記憶"により、公式や歴史が違わない限り引き継ぐことができる。高校や専門学校ではその知識を優に活用し、成績は上位をキープし続けた。
彼女は前世の最終学歴・高卒から学び、今生では一切の努力を惜しまなかった。産まれた時から意識はあったので、若干一歳にして自分の人生プランを決定したのだ。
――前世では諦めた声優になる。
高校卒業後専門学校に入り、今では立派に声優として働いている。そして今は、アニメ化されたゲームの男性役を努めた。
「いやー。にしても本っ当に声渋いですよね」
「同じ女性として惚れ惚れしちゃいますよ。《大丈夫か。俺の家で休んでいくといい》なんて言われた時思わず『はい、喜んで!』って言っちゃう所だったんですからね』!?」
「いや台本通りに読まないとね」
興奮気味に言われた言葉に思わず返すと笑いが広まったが、笑いごとではない。《いえ…、大丈夫です》と言う所を《はい、喜んで!》などと言ってしまっては、全く違う展開になってしまう。
そこまで考えて、凜はふと思った。
「(……あれ? 面白いかも)」
台本が変わるのはよく在ることだし、少しアリだと考えてすぐにその考えを頭を振って払う。
【激しい雨の中、朦朧とした意識で歩いている少女】がいきなり元気になって返事をしたらおかしいだろう。気を失って運ばれる方がシチュエーション的に合っている。……結局、『俺の家で休んでいく』ことにはなるのだが。
「あれ。凛さんもう帰っちゃうんですか? 一緒に食事行きましょうよ! 今日は奢りです! ……悠李さんの」
「俺かよ!?」
スタジオを出ようとしたら呼び止められた。魅力的なお誘いではあるが、生憎今日は都合が悪い。
「ゴメン。この後まだ仕事入ってるの。って訳でお先ー」
「「「お疲れ様でーす!」」」
「お疲れ様ー!」
彼女が出ていった扉を見ていた、『激しい雨の中、朦朧とした意識で歩いている少女』役の鈴木 仁は振り返って声をかける。
「残念でしたねー。悠李さん」
「っ! べ、別に残念な訳じゃ……」
「え゛、ツンデレですか? 男がやってもキモいだけですよ」
「ちげーよ! って言うか今キモいって言った!?」
「言いましたけど。それが何か?」
「……何この子ヒドイ」
話をふられた禊 悠李は戸惑いながらも頬を赤く染めたが弄られていることに気付き肩を落とす。彼が凛に惚れているのは周知の事実だったりする。知らぬは本人ばかりなり。
そんな話をしているとは露知らず。凛は虹産テレビのスタジオに来ていた。
「今日からよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
挨拶を済ませて近くの椅子に座る。今日は顔合わせと役の発表だ。
「全員揃ったので始めたいと思う。ディレクターの湯曲 翔だ。よろしく」
軽く礼をすると、パラパラと拍手が溢れた。
「では呼ばれた順に前に来てくれ。颯海凛」
「はい」
前に行って台本を受けとる。表紙にデカデカとタイトルが書かれているのを見て口許を弛めた。
「次に――潮越 陽」
「はい」
え、と音にならない声が洩れる。幸いにして周りには聞こえなかったようだが、内心はたまったものではない。
潮越陽。忘れもしないその名前は、この世界、『春夏秋冬巡りの恋模様』の攻略キャラなのだ。
そしてこの出会いはもとより、終わったはずの乙女ゲームからずっと続いていたなんて、まだ凛は知る由もなかった。
乙女ゲームに転生、はよくあるけど逆ハー主を虐げるのが殆ど。傍観していても絶対に巻き込まれる。それに納得出来なかったがためにこの作品を書きました。凛ちゃんは逆ハーにはなりません、悪しからず。
以下、人物設定。
*颯海 凛
乙女ゲーム、『春夏秋冬巡りの恋模様』の世界に転生した主人公。前世はごくごく普通のキャリアウーマン。三十六歳で銀行強盗に巻き込まれて死亡、転生を果たした。乙女ゲー世界では所謂「モブキャラ」。赤茶がかった黒い髪と目で、美人よりの可愛い女の子。モブでも乙女ゲ世界なので前世よりは格段に可愛い。転生して達観したせいか周りより一歩離れた目線で物事を見ていた。そのせいかよく友達やクラスメートから相談を受ける。
前世も今世もアニメやマンガ好きの微オタクで、そのせいで声優に憧れた。転生トリップ特典として声の音域が前世と比べて格段に広がった。自称《神声類》。
(※神声類・・・男女どちらの声も出せる(両声類)+音を発声出来る(多音類)が合わさった作者の造語です)
他人の心の機微には鋭く、在学中は何組ものカップルを成立させた猛者。自分への感情にも気付いているが、それが愛情なのか友情なのかは区別がつけられない。
名前の由来は「砂糖 味醂」→「さとうみりん」→「さとうみ りん」→「颯海 凛」。
*咲良 好美
同じく転生した女の子。前世は中学三年生で人生の幕を閉じた子。よくある逆ハー女のように、攻略対象たちを「キャラ」として見てはおらず「人」として見ている分常識はある。それでも乙女ゲームに転生して興奮して暴走することもしばしば。人生二回目だが前世が若いので優秀ではない。トリップ特典は「ヒロインの地位」。ピンクががった髪と目。一葉の前の生徒会会長だった。
名前の由来は「桜 好み・木の実」→「咲良 好美」。
*飯塚 一葉
乙女ゲームの攻略対象の一人。典型的な俺様会長。黄金ががった髪と目をしている。入学式で会長として壇上に立つ好美に惹き付けられた。この後どんなプロポーズをしたかは不明。
名前の由来は「銀杏」→「いちょう」→「いちよう」→「一葉」。名字は適当。
*鈴木 仁
アニメのヒロイン役を務めた女性。名前も性格も男っぽい。凛を尊敬している。
名前の由来は「酢 ズッキーニ」→「すずきいに」→「すずき イニ」→「鈴木 仁」。仁にしなかった理由はありきたりだから。
*禊 悠李
アニメのキャラの声優の一人。凛に惚れている。若干ツンデレ気味。
名前の由来は「味噌 胡瓜」→「みそきゅうり」→「みそきゆうり」→「みそき ゆうり」→「みそぎ ゆうり」→「禊 悠李」。名字が恐ろしいことに(笑)。
*湯曲 翔
虹産テレビのディレクターの一人。髭面の熊っぽいオッサンをイメージ。
名前の由来は「醤油 マーガリン」→「しょうゆまあがりんしょうゆまあがりんしょうゆ……」→「ゆまあがりんしょう」→「ゆまがり しょう」→「湯曲 翔」。
*潮越 陽
乙女ゲームの隠し攻略対象の一人。バスケットボール部所属のスポーツマン……が何をどう間違ったのか声優業に。暗い青色の髪と明るい橙色の目。攻略対象中、髪と目の色が違うのが隠しキャラで、彼を含め三人いる。彼等には個別ルートしかなく、逆ハーEndでの逆ハー要員にはいない、という設定。ちなみに腹黒。凛に一目惚れし、ずっと一途に思い続けている。
名前の由来は「塩 胡椒」→「しおこしょう」→「しおこしよう」→「しおこし よう」→「潮越 陽」。
……設定長っ!
長文失礼しました。