第三話
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「アイク、俺だ。入るぞ。」
「ん?どちら様?」
「どちら様?じゃねぇよ。」
「痛っ、しばかなくても…。冗談だろ、冗談。」
「しょうもない事をいちいちすんな。」
相変わらずエルダは真面目すぎてつまらない。
「もう…エルダはお固すぎるぞ…。」
「てめぇはもう少ししっかりしろ。」
「はーい…。」
「で、俺はそんな話をしに来たんじゃねぇんだよ。」
「あの子の話だろ?…カイ・リュディガーくん。」
「あぁ、アイツまさかとは思うが…。」
「エルダの察しの通り、カイルさんの息子さんみたいだよ。」
「アイク、言われていた資料だ。」
「あ、ちょうど良かった。ありがとう、麗。」
「じゃあ、失礼するよ。」
「なんだ、その資料は。……【世界樹の記憶】?随分古い書物だな。」
それは太古の文字で書かれたのか、または特殊な文字で書かれているようだ。
「あぁ、これは歴代亜人騎士団の団長のみ知る方法で世界樹の記憶を記録していくって言う書物なんだ。」
「だからお前が持ってるってわけか。」
「正式にはとある場所に保管してて、管理して記録してるんだけどね。」
「…この【世界樹の記憶】とカイに何か関係があるのか?」
「確かかどうかは全く分からないけど…、この記録の中に一つ、引っかかる事が書いてあるんだ…。」
「どれだ…?これか?………これってまさか…。」
「多分、俺たちが探しているあの鍵と関係があるって事だよ。」
「だからってわけか。」
「カイルさんは俺たちに『全てはあの本と息子で分かる。』って言い残したのと合わせれば…。」
「納得はいくな。」
「それにあの鍵だけは渡しちゃいけない、魔軍には絶対にだ。」
渡せば世界は終わる。
誰にも救えないんだ。
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「……。」
目が覚めた。ここはどこだ…?
気が付けば俺は、一面真っ白の世界だ。あぁ、きっと夢の中なんだろう。
「おーい、誰か居ないのかー?」
返事はない。当たり前だ、俺の中の夢だから。…のはずだった。
「カイ……起きろ…。時は…動き出した…。もはや……誰にも…トメラレナイ…。」
「誰なんだよ!誰か居るのか!?居るなら返事しろよ!」
何言ってんだよ…。何の話なんだ?
時?動き出した?
「カイ…お前にしかデキナイ…。」
誰も居ない、見回しても。
「ちょっと待てよ!何言ってんだよ!おい!」
「カイ…!」
「んん…、アルド?」
「カイ!!起きて!!寝ぼけてないで…ほら、式に遅れるよ!」
「…え!?そんな時間か!?」
「カイ、昨日すぐに寝てから起きて来なかったもんね…。」
「そっか…。」
「とりあえず急ごう!」
「あぁ…。」
さっき俺は誰かに呼ばれた。アルドの声だったのかもしれないが…。少しそれも違う気がする…。何か、胸に引っかかる。
「何その寝起きの顔、シャキッとしなさいよ…。」
「今からカイの待ちに待った完了式だよ?」
「……。」
「夢で何見たかは知らないけど、アンタ今までそんな事よくあったじゃない。気にしなくても、夢なんだから。」
「正夢に…ならなきゃいいけど。」
この夢はただの夢じゃない。
そう思うのは、勘。
だけど、そうじゃないのが感覚的にわかる気がするから、怖いんだ。
鍵を守る者よ…。時は来た。
あなたの運命は変えられない。
少年よ、光を守りたまえ。
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