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天使と悪魔相談所

作者: りぶら

一応ジャンルを「ファンタジー」に設定しましたが、ファンタジー要素は天使と悪魔が出現する…ただそれだけです。そういうものを御所望の方の御期待には沿えない内容になっていますのであらかじめ御了承ください。

休憩時間の一コマをこの短編小説で埋める…そんな軽い気持ちで読んでいただければ光栄です。

 皆さん夢はお持ちでしょうか。

完全に「夢」と呼べるようなものでなくても構いません。

例えば「自分はこうありたい」とか「いま、こんなことがしてみたい」とか。誰しもそういう「願望という名の夢」というものは持ち合わせているものでしょう。

ここはそういった願望を叶えてくれる素敵な場所。

奇妙な点は、悪魔と天使が隣同士にいて両方ともニコニコしていることでしょうか。

自分の叶えたい願望をその2人に話すとそれぞれ違う方法でその願いを叶えてくれます。

対価はお察し。

大きな願望ならば大きな対価。

小さな願望ならば小さな対価。

しかし、願望の大きさを決めるのは願望を持つものではなく願望を聞いた天使と悪魔。

自分では小さな願望だと思ってもそれは大変に大きなものかもしれない。またその逆も然り。

さあ、今宵のお客様は一体どんな願望を持っているのでしょう。


 とある夜道を、サラリーマン風の男性がとぼとぼと歩いていた。

―まったく、やってらんないぜ―

男性は一人ぼやく。ぼやいたって仕方ないのは分かっているが、この日起こった不条理に関してはぼやかずにはいられないのだ。

男性がした事は何のことは無い企画の提出である。自分ではかなり良い案だと踏んでいたのだが、上司の意向にはそぐわなかったようだ。

上司のお眼鏡にかなったのは自分よりも若い入社2年かそこらの新入社員である。

―なんで、あいつの案が通るんだ…―

呪いのように呟く。

―あいつの案よりも俺の案のほうが―

いや、考えても仕方ない。こういう日には新しい店でも開拓して呑みまくるに限る。

男性は思考を切り替えどこで呑むかを考えていた。

「はて、こんなところに店なんかあったろうか」

男性は思わず声に出す。それは唐突に現れた。いや、視界に飛び込んできた…といった表現の方が正しいか。

―今日はここで呑もう―

そう思い男性は足を踏み入れた。

「ようこそおいでくださいました~。貴方の願望を叶えて差し上げます~。」

店内に入るなりのんびりとした声が聞こえてくる。今、彼女はなんと言っただろうか。

「迷える人へ人生の道標と成功を。天使と悪魔の酒場へようこそ!」

人生の成功。今度ははっきりと聞こえた。此処は居酒屋ではないのか。

「いえいえ~ここはざっくり言うと居酒屋です~」

「私達、こんな格好してるけど決して怪しい店じゃないよっ!」

「わたしたちは本物~本物の天使と悪魔なの~」

「……帰る。」

怪しさ満点である。のんびりとした口調の女の子は天使っぽいコスプレしてるし、ハキハキとボーイッシュな感じの女の子は悪魔っぽいコスプレをしている。こういうところで呑むと物凄い金額取られるのがオチだ。こういうのはさっさと出るに限る。

「あわわ~ちょっと待って下さい~!」

「おじさん!ここはそんな一杯何万もするようなお酒を提供するようないかがわしいお店じゃないよっ!なんだったらお酒の料金はALL300円でどうだい!」

「その言葉…本当か」

「本当だよ~原価と同じくらいで提供してもいいくらいだよ~」

どうやら本当らしいので今晩はここで呑むことにしよう。今日は思いっきり呑みたいのだ。これから思いっきり呑むのに細かい事を気にしてはいけない。それに、安いに越したことは無い。

「ありゃりゃ…おじさんだいぶ参っちゃってるね…まあとりあえず一本目は私が出すから一回呑んじゃいなよ。」

ありがたい。

「ところで、なんでこんなに客がいないんだ?」

酒を呑む前に聞きたいことは聞いておかなければ。呑み始めたら多分…忘れる。

「あ~それ?うち、マイナーだからさ。滅多に人が来ないのよ。」

「そうそう~だから、おじさんは~久々のお客さんなの~」

「そうなのか…こんなに安く酒を提供してくれるならもっと客が入ってもよさそうなんだが」

「うちって結構路地の奥のほうにあるからさ、一回来た人も二回目は来れなかったりするのよね。だから、常連さんもいないワケ。」

ということらしい。そんなに道は複雑だったろうか。だいぶ適当に歩いてきたのでよく覚えていないが。

「とりあえず…さ。呑んじゃいなよ。そんでさ、私達に悩み、聞かせてよ。」

状況こそ(天使と悪魔が仲良くやってる時点でいろいろ)おかしいが、俺は酒を呑みにきたのだ。お言葉に甘えさせてもらって、俺は呑んだ。


 おじさん。抱えてるねぇ。

あたし(悪魔)はちょっと頭を抱えた。

あたしと天使はホントは居酒屋なんかじゃない。この人が望むお店の店員みたいな感じで振舞ってるだけだ。あたしたちは最初のほうに言ったとおり、悩みを解決して、それで得られる報酬で生きているようなものだ。

天使と悪魔の違いといったらみんなが想像するのは「天使がいいやつ」「悪魔は悪いやつ」みたいなそんな感じだと思う。

まあ白と黒…どっちが清純そうかって聞かれたらまず「白」だもんね。その一般的見解は甘んじるよ。でも実際は違う。願いを叶えるという「結果」自体はあんまり変わらない。違うのは過程だ。

あたし達悪魔は…まあ自分で言っちゃうのもあれなんだけど、結構卑怯な手を使う。犯罪スレスレの事をさせる。それが、手っ取り早いと思うからだ。

でも、天使は努力を優先させる。

簡単にいうと「社長になりたい」という願いに対して色々と裏工作をして社長にさせるのが悪魔。スキルを磨かせ、実力で社長にさせるのが天使…といった具合だ。両方とも、対価は、それで得られた幸福をちょっと貰う。ただそれだけ。

そして、このおじさんの悩み(正直に話してもらうためにお酒を呑んでもらいました)は、

―自分の企画を通したい―

さて、これはどっちに頼むんだろうね。


「あ、起きましたか~?」

どうやら寝てしまったらしい。

「軽く寝ちゃってたね。水、飲む?」

「ああ、ありがたく頂くよ。」

コップ一杯の水を貰って俺は意識を回復する。

「さって、うちは居酒屋みたいなことやりながら悩み相談みたいなこともやってるんだけどさ、おじさん、なんか悩みとかある?」

そう悪魔の方が聞いてきた。悩みって言ってもなぁ…

「例えば…」

「例えばぁ?」

「彼女がいないのが辛いとか…?」

「おじさん…そういうんじゃなくて…っていうかそれあたし達じゃどうしようもなくない?」

あれ?悪魔の方がうなだれてる。まぁこういう店だ。こういう形でリピーターを増やさないとやっていけないのだろう。

「まあ…あるといえばあるんだが…あんた達に話しても仕方が無いしな。」

「いいから話してごらんよぉ。話すだけで楽になったり、悩み相談って解決することが目的じゃなくて聞いてもらうことが目的みたいなところがあると思うしさぁ」

天使がそういう隣で悪魔のほうはかなーり訝しげな目線を…しかしなんでこの二人はこんな正反対な格好をしているのだろう。

「ま、天使がいうことにも一理と思うよ」

ため息を吐きつつも天使の意見に賛同する悪魔。だからお前らの仲の良さはいったいなんなんだ。

「ん?あたし達がなんでこんなに仲が良いのか気になる?そんなに知りたいなら教えてあげてもいいけど、でもおじさんの悩みを聞かせてくれたらね。」

なんだその物凄く恩着せがましい言い方は……流石は悪魔といったところか。キャラ付けもしっかりなされている。

「まあいうだけならタダだしな。」

そうして俺は彼女達に今抱えている悩みを打ち明けた。


 「―というわけなんだ」

はい。知ってました。おじさんが寝てる間に全部見ちゃいましたし。

でも、こういうのはちゃんと手順を踏まないと私達に任せてくれることはあんまりないんですよねぇ。だって私達、占い師じゃないですし、いきなり『貴方は仕事関係で悩んでいるっ!』とかって言っても怪しさ満点じゃないですか。一応佇まい的には居酒屋ってなってるんですし。うちは占い屋敷じゃありません。でも、ここで天使と悪魔のささやきをしなきゃいけないんだよねぇ。

「なるほどねぇ。おじさんの悩みはよく分かったよぉ。で、その悩み、私達なら解決できるかもしれないけど、どうする?」

ここでおじさんが目を見開く。まぁそりゃそうだよね。でもまた俯いて

「はは…ありがたいよ。でも」

「『でもこれは俺がどうこう出来る問題じゃないし、ましてや君達じゃ何も出来ない』~って?おじさんなめてもらっちゃ困るよあたし達がコスプレとかそういうのでこういう格好してると思ってるの?…思ってるよね。うん。分かってる。分かってたよ…」

うわぁ…悪魔ちゃん自分で言って自分で自滅してるよ…

「論より証拠。百聞は一見にしかずってことで、まぁこういう感じで羽とか動かせちゃうんですね~」

と私が羽をパタパタさせてみる。

「…なんだったら素っ裸になってもいいよ。」

「なっ!?」

「悪魔ちゃん。それはダメだよ。色々と。うちは一応居酒屋だよ?」

「だってぇ!こうでもしないとみんな信じてくれないじゃないか!」

「いやまあ確かに信じてくれないけどさ…悪魔ちゃんは羽もあるし尻尾もあるじゃん。それをうねうね動かせば信じてもらえるんじゃないの?」

そこそこ真剣な口調で悪魔ちゃんを説得。このままの流れだと本当に素っ裸になりそうなので。そして巻き添えを食って私まで素っ裸にされそうなので。

「わ、わかった!信じる!信じるから落ち着け悪魔!」

ほら、おじさんもなだめにかかってるじゃん。これで表面上だけでも落ち着かなかったら一回殴ってやる。

「…うん。わかった。落ち着く。」

悪魔ちゃんのキャラが崩壊してるけど…とりあえずは落ち着いてくれたみたい。さて、これからの流れをどうにかしなきゃいけないんだけど…


ど、どうやら落ち着いてもらえたようだ。

「で、君達が解決してくれるって言ってもどうやって解決するつもりだ?」

そうしないと話が進まないような気がしたので俺はそう切り出した

「まーあれだね。おじさんはあたし達のアドバイスを聞く。そのアドバイスの通りに動けばおじさんの望むものが手に入るよ。」

どうにか落ち着いた悪魔がそう俺に説明してくれた。

「私でも悪魔ちゃんでも、どっちのアドバイスを実行してくれても結果はおんなじだよ。でもそこは天使と悪魔。それっぽいアドバイスが貰えると思ってよ。」

そう天使が補足説明をしてくれる。なるほど。道筋が違うというだけでどっちの道を採用したとしても結果は変わらないということか。

「もちろん悪魔というのだから対価とか必要なんだろ?」

「ま、悪魔的にも必要だし、もちろん天使ちゃんのアドバイスを採用したところで、対価は払わなきゃダメだよおじさん。」

「な…天使の意見を採用しても対価が必要なのか?」

「私達も無償でそういうことしてる訳じゃないからねぇ。ここを切り盛りできてるのもそういう対価を貰ってるからだし。」

「じゃあ対価っていうのは…」

「お金…とでも言うと思った?まあそういう俗物的なものでもいいんだけど、そうじゃなくて、あたし達が欲しいのは『幸せの感情』ってやつさ。」

「幸せの…感情?」

「そう。幸せの感情。まあ、そのときによって違うんだけど、よくあるのは達成感だね。達成感や充足感というのを私達はちょっとだけ貰う。それが対価だよ」

丁寧に説明してくれる天使。よく分からないがきっと事実だろう。

「もちろん、おじさんはあたし達のアドバイスを受け入れない…という選択肢もあるよ。あたし達が出すアドバイスに従わなきゃおじさんの目的が達成できないっていうわけじゃないんだから。でもね、これだけは頭に入れておいて欲しい。あたし達が出すアドバイスに従えば望む結果が得られるよ」

それは、まさに悪魔の囁きというべき言葉だった。

「君達のアドバイスを聞いてそのアドバイスを実行しない…ということも出来るのか?」

気が付いたら、そう尋ねていた。

「うん。できるよ~そこはおじさんの自由だね。なにも私達は強制するわけじゃないからね~。アドバイスはアドバイスとして捉えてくれていいよ~」

ニコッと笑いながら天使が答えてくれる。

「とりあえず、話だけ聞かせてくれ」

上手い話は不味い話という事をよく聞くがこういう上手い話には一応乗っかっておくものだ。

俺はそう彼女達に告げると彼女達は満面の笑みをたたえた。

「ありがとうおじさん!じゃあどっちの話を先に聞く?」

こうして、俺は天使と悪魔、両方のアドバイスを聞くことにした。


 さあ、今宵のお客様は素直にアドバイスを聞いてくれたようですね。いや~一時はどうなるかと思いました。でも、ちゃんと天使と悪魔は勤めを果たすことが出来たようですね。

果たして天使と悪魔がお客様にしたアドバイスとは一体何なのか。これをご覧になっている皆様は気になることと思いますが、わたくしめの勤めというのは天使と悪魔の監視。すなわち、どのようなアドバイスをしようとわたくしには関係がありませんし、興味も無いのです。申し訳ございません。

とはいうものの、このままでは皆様納得なさらないでしょう。ということでわたくしが勝手に推測します所によりますと、恐らく今宵のお客様は悪魔の話を実行しますでしょう。Time is moneyといいます。時間が掛かる天使のアドバイスよりもある程度手っ取り早い悪魔のアドバイスの方が後々色々好都合…ということです。

とはいいましても、そこは悪魔の囁き。ちょっと危ないような橋を渡ることになるやも知れません。いやいや、そんな犯罪じみた行為はやらせません。ただ、人間関係が昔と同じようにいくかと言ったらそれはどうでしょうかね?

もしも今宵のお客様が人間関係を大切にするお人だったならば、きっと天使のアドバイスを聞きますが、今宵のお客様は色々焦りがあった御様子。きっとそこまで頭が回らないでしょう。お仕事の悩みでしたら尚更です。

おっと、もうこのような時間ですか。随分と長い間話してしまいました。これにて、わたくしが見せられるショーは終幕でございます。皆様、機会があればまたお目にかかりましょう。

しかし、皆様の前に現れるのは天使と悪魔かも、しれませんが。

前書きの通り、ファンタジー要素皆無です。

今回は短編を書くと自分の中で決めてたのと、これ以上書くと自分の書きたかったこととずれそうだったのとで、こういう終わり方にさせてもらいました。

なんとなく最後思わせぶりな文章書いてますが、続ける気は全くありません。これっぽっちも。

では、またいつか、私の気が向いたときにでもお会いしましょう。

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